ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
今日もオラリオは平和が続いているなかで私はティアを連れて買い出しに来ていた。
ティアと手を繋ぎながら歩いていると周囲の物陰に隠れている
『【舞姫】とエルフ娘の仲睦まじい姿は親子だな』
『【舞姫】は母親……いや、新妻だ!』
『エルフ娘の新妻【舞姫】………いい』
『俺が父親だッ!!』
『『『『それはない』』』』
そんな神々のどうでもいい話を聞き流しながら私はそんなに老けて見えるものかと不意に思ってしまう自分もいてならない。
いや、中身はもう成人した大人だがそれでも……何というか嫌なものだ。
「よぉ、桜にティア。こんなところで奇遇だな、買い出しか?」
「神タケミカヅチ。ええ、今日の夕飯の食材の買い出しに」
道のりを歩いていると後ろから神タケミカヅチに声をかけられて私とティアは神タケミカヅチに軽く頭を下げて挨拶する。
「神タケミカヅチはバイト上がりですか?」
「ああ、今日は上がりだ」
金がない貧しい家計を支える為に神ヘスティアと同様にバイトをしている神タケミカヅチは私の隣にくると荷物を半分持ってくれた。
「半分持とう。一人じゃ抱えきれないだろう」
「ありがとうございます、助かりました」
『
「……にしても凄い量だな」
「今度店に新作を出そうと思いましてその分も含めていますから」
「ああ、そういえば桜は店も経営してるんだったな。今度食いに行ってもいいか?」
「もちろん構いません。友人価格にしておきますよ」
「助かる…」
お互い金がないから苦労するものだ……。
主に私達は神ヘスティアが作った借金のせいでだが、それも少しずつ解消していかないとまだまだあるからな。
借金に悩まされている私の口から小さく溜息が出た。
「桜、お前って大人びれてるよな」
「……いきなりどうしました?それとその発言は私が老けていると言いたいので?」
唐突の神タケミカヅチの言葉に苛立ちが滲み出ると神タケミカヅチは冷や汗を掻きながらそれを否定する。
「い、いやそうじゃない!だから落ち着け!……お前はしっかりしているし気立てもいい上に面倒見もいい。店を経営するほど自立している」
まぁ、色々経験してきたからな……。
「だけど所詮は大人びれているだけの子供だ。
「………私の【ファミリア】にこれ以上子供が増えたらいったい誰が面倒を見るんですか?」
主に神ヘスティアの。
溜息を漏らす私の頭を神タケミカヅチは撫でる。
「俺に言えばいいさ。お前の我儘ぐらい聞いてやる………金以外ならな」
「最後の言葉で台無しですよ」
言いたいことはわかりますが、そこは最後まで恰好つけましょうよ。
呆れるように息を吐くと私は告げる。
「では時々で構いませんので私に武術を教えてください」
「ああ、任せろ。だが俺の教えは優しくはないぞ?」
「それぐらい上等ですよ」
互いに笑みを浮かばせ合うと命が何かを持って私達、いや、神タケミカヅチに近づく。
「命?」
神タケミカヅチの前で停止する命は無言でばかっと変形した容器を開けるとそこにケーキが入っていた。
何かの祝い物と思われる物を命は手を振り上げる。
「――――――タケミカヅチ様の」
顔を上げる命の顔はよく知っている嫉妬に燃える女の顔を見て全てを察した私は急いで神タケミカヅチが持っている荷物を奪取する。
「――――――タケミカヅチ様のっ、天然ジゴロォ!?」
「ブボアァッ!?」
神タケミカヅチの顔面にホールケーキが炸裂して命は勢いよく離脱した。
そんな命をベルとヴェルフが追いかける中で私は命の奇行に納得した。
私と神タケミカヅチが話している所を見て嫉妬してその怒りを本人にぶつけたというところだろう。
恋する乙女は盲目というが……少しは落ち着けよ、命。
「……神タケミカヅチ、大丈夫ですか?」
取りあえず私は崩れ落ちている神タケミカヅチに声をかけてハンカチでクリームだらけの神タケミカヅチの顔を拭いていく。
「………どうして命は怒っていたんだ?」
クリームだらけの顔で真剣に悩む神タケミカヅチに私だけでなくティアも呆れるように息を吐いた。
命の言う通り天然ジゴロなのだろう。
命も命で苦労してるんだなとしみじみ思ってしまう。
「神タケミカヅチ。どうして命が怒っていたのかわからないのでしたらどうして怒らせてしまったのかを考えてあげてください。そうでないと命が報われない」
「………うむ」
「乙女心は複雑です。特に神ヘスティアのように恋をしている女性には。ではここで」
ヒントだけを告げて神タケミカヅチから離れていく私達。
あれだけわかりやすいヒントを与えたら流石に何かは気付くだろう。
はぁ、これでは恋のキューピットだ。
自分の行動に呆れながら私は帰宅すると命が何か言いたそうな顔で私を見ていた。
「何を考えているかは大体察しが付くが………違うからな。たまたま買い出し中に神タケミカヅチと会っただけだ」
「……本当ですか?」
「ああ、だからちゃんと神タケミカヅチに謝ってこい」
疑い深く聞き返してくる命に嘆息交じりで返答して謝罪するように促すと命は表情を俯かせて私に言った。
「……自分は桜殿が羨ましいです。美しく聡明で誰からも頼りにされている桜殿が自分は妬ましいと思っています」
「それで?」
「どうすれば自分も桜殿のようになれるのでしょう……?」
嫉妬故の憧れ。
その人に嫉妬しているけどだけどそれ以上にその人が凄いと認めて憧れている。
命にとって私はそれだけ凄いと思われているのだろう。
だけどな、一つだけ愚痴を言わせてくれ、命。
たまたま会っただけで嫉妬するな、面倒臭い。
心の中で愚痴を告げて私は命に告げる。
「命、お前はお前だ。お前は私になれない、私もお前になれない、絶対にな。だから同じ女として言わせてもらう。自分に向いて貰えるように自分を磨け。自分の力で惚れさせてみせろ」
私はそう言って命の襟首を掴んで調理場へ向かう。
「和風のケーキの作り方を教えてやる。それを持って神タケミカヅチに謝ってこい」
「……はい!」
顔を上げて返事をする命と一緒にケーキを作る私達。
命は何度も失敗を繰り返して、その度にベルとヴェルフに食べさせて処分してを繰り返しながらも命は調理に意識を集中させている。
「妹ってこんな感じなのかな……?」
「どうされました?」
「いや、何でもない」
一生懸命に好きな
妹の恋を応援する姉………はぁ、私は何を考えているやら。
アイズ・ヴァレンシュタイン――――姉さんも私のことをこういう気持で見ていたのかな?
うやむやな気持ちを追い払って私は命と共にケーキの完成を急ぐ。
「で、できました……」
「よし、持って行ってしっかり謝ってこい」
「はい!ヤマト・命!行って参ります!」
ケーキを持って謝罪に向かう命を見送って私は失敗作のケーキを食べ過ぎで苦しんでいる二人の介抱をする。
「全く、恋する乙女は本当に面倒だ……」
自分も恋をすればそんな風になるのだろうかと疑問を抱きながら取りあえずは二人の介抱を行う。