ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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秘密と空腹

「………前から気になっていたのですが、桜様はどうして男口調なのですか?」

 

「今更だな……」

 

オラリオの外は戦争中にも関わらずオラリオ内はいつもと変わらず平和。

私達は何時ものように居室(リビング)に集まって寛いでいる中でリリが今更すぎる事を言ってきた。

 

「ボクも興味があるな、桜君は自分の事を話さないしね」

 

「話すようなことでもないと思いますけど?」

 

ごく普通のありふれた一般人だった私の過去などどうでもいいだろうに。

ただ普通の人より才能があって色々なことに挑戦した、ただそれだけの話。

 

「僕も知りたいかな……」

 

ベル、お前もか………。

リリの言葉に神ヘスティアが弁上してベル達の視線が私に集中するなかで私は嘆息して答える。

 

「私には弟がいたから口調が移ったんだ。女の子ぽくなくて悪かったな」

 

「そ、そんなことはありません!桜殿は素晴らしいお方です」

 

「そ、そうでございます!桜様を見習うことは多くございます」

 

「だ、そうですよ、神ヘスティア」

 

「ど、どうしてボクに振るんだい!?」

 

この中で内面的に女の子ぽくないのが貴女だからですよ。

外見、特に一部は立派な女ですが………。

 

「男的には外見よりも内面を重視するって聞くけどどうなんだ?ベル」

 

「え!?ど、どうして僕に聞くの!?」

 

「どうなんだい!?ベル君!」

 

「ベル様にとってリリはどうですか!?」

 

「あの……ベル様、私は……?」

 

私の言葉をキッカケにベルに喰らいつく神ヘスティア達を無視して私は再び本の続きを読むことにする。

私の膝を枕替わりで昼寝しているティアもこの騒ぎで起きない所を見ると逞しくなったものだ。

 

「ハッ!?いつものように流されてたまるものか!」

 

しかし、今日はいつもと違って神ヘスティアが恋する女神からいつもの駄女神に戻ってしまった。

 

「おや、珍しく正気に戻りましたね、神ヘスティア」

 

「それはボクはいつもは正気じゃないと言いたいのかい!?」

 

「散財癖、堕落性格、勝手に多額な借金を作る、嫉妬深い、凶暴、子供っぽい。これらを含めた女神のどこが正気と言えばよいのでしょう?」

 

「なんだと――――――!?言ってはいけないことを言ったね!」

 

「か、神様!落ち着いて下さい!」

 

「離せ!離すんだ、ベル君!ボクは桜君にボクという存在を確かめさせる必要があるんだ!!」

 

ベルに羽交い締めされながら神ヘスティアはツインテールを伸ばして私に攻撃してこようとするが届かない。

 

「桜、あまりヘスティア様を苛めてやるな」

 

「ごめん、ヴェルフ。無理」

 

日頃から散々ストレスを与える元凶にこれぐらいの小言は聞いて貰わないと気が済まない。

 

「それに大丈夫、後で好物でもちらつかせれば気分良くして忘れる程単純だから」

 

「聞こえてるぞ―――――――!!」

 

吠える神ヘスティアに羽交い締めをするベル。

その光景にヴェルフは苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、俺も少しはお前の事を知っておきたいな」

 

「私を口説く為に?」

 

「からかうな。専属鍛冶師(スミス)として仲間としてだ」

 

「残念、ヴェルフなら付き合ってもよかったのに」

 

「ならちっとは残念そうにしやがれ。おもっきり笑っているぞ」

 

冗談を言い合う私とヴェルフに私は咳払いをして話す。

 

「それで、何が知りたいんだ?」

 

「はい!」

 

「はい、命」

 

勢いよく挙手する命を指名する。

 

「桜殿はどこで剣術を?自分と同じ東洋の武術も身に着けているようですが」

 

「武術は一度習うことが出来てな、剣術は独学」

 

流石に別の世界から来たとは言えないから当たり障りのない答えで十分だろう。

 

「あの、家事はどのように?お母様から教わったのでございますか?」

 

「いや、家事ぐらい普通に生活していたら身に付くだろう?料理もそれなりにすぐできるようになったぞ」

 

「ぐはっ!」

 

「神様!!」

 

私の言葉に精神的ダメージを受けた神ヘスティアを見て息を吐く。

作るより食べる専門だからな、神ヘスティアは……。

それでも作れるように努力はしたほうがいいと私は思うのだが。

 

「では次はリリが、先ほど桜様には弟様がおられると仰っていましたが」

 

「ああ、小生意気で私の言うことを碌に聞かない我儘な弟だよ、ベルの方がまだ扱いやすい」

 

「ご実家に戻られなくてもよろしいのですか?」

 

「基本的に放任主義だから別に問題ない」

 

というより帰れないのが正しいが別にあの家族が私の心配などしてないだろう。

両親にとって私は恐怖の対象でしかなかったからな。

 

「………弟様はベル様と似ておられますか?」

 

「いや、全然」

 

私の言葉に安堵する恋する乙女たち。

だから私は別にベルを狙っていない。

 

「桜の出身国はどこなんだ?」

 

「生まれは東洋、後にここに来た」

 

正確には寝て起きたらここに来たが正しいが別に嘘は言ってないからいいだろう。

本当にどうして私はこの世界にやってきたのやら………。

 

「桜君、ボクから質問はヴァレン何某との血縁関係――」

 

「ありません」

 

まだそれを言うか、神ヘスティア。

確かに容姿は非常に似ているけど私は姉さんとは血縁関係ではないのは私自身が良く知っている。

というより、いくらベルの惚れている相手だからと言って警戒しすぎそれに嫉妬しすぎ。

お気に入りの玩具を取られないようにする子供みたいな反応されると私も困るぞ。

最後に残ったベルに視線を向けるがベルは目線を何度も泳がしていた。

 

「ないのなら無理して言う必要はないぞ?」

 

「う、うん。あ、でも一つだけ……桜は家族と離れて寂しくなのかなって」

 

「別にさっきも言ったけど放任主義だからな」

 

「で、でも、家族だったら」

 

「ベル。家族だから仲が良いというわけじゃない。私の家族のように放任主義の家族もいれば仲の悪い家族だっている」

 

ベルにとって家族は掛け替えのないものなんだろう。

純白なベルなら考えそうなことだ。

 

「それに今はここにいる仲間が家族のようなものだ。寂しいよりも苦労が多くてそんなことを感じる暇はない」

 

私の言葉にティア以外の全員が言葉を詰まらせる。

迷惑をかけていると思うのなら少しは考えて行動しろ。

寝ているティアの頭を撫でながら全員を見渡して他に質問はないことを確認する。

 

「他にはもうないか?」

 

その時だった。

キューと居室(リビング)に腹の虫がなった。

誰の腹からとは言わなくてもわかってしまうほど顔が真っ赤になっていた。

 

「はいはい、そんなに自己主張しなくてもそろそろ昼ですから昼御飯を作りますよ」

 

「ま、待つんだ、桜君!い、今のは……!」

 

「言わなくても大丈夫ですから」

 

「や、止めておくれ!そんな慈愛に満ちた目でボクを見ないでおくれ!!」

 

騒ぐ神ヘスティアだがそれは無理な話だ。

既にベル達も私と同じように慈愛に満ちた目で見ているのだから。

誰かと言わないのは皆が優しいからだろう。

だから恥ずかしがらなくても誰も神ヘスティアのお腹が鳴ったとは思っていませんよ。

 

「好物を入れておきますから」

 

「それは嬉しいけど!そうじゃないんだ!」

 

どうして涙目になっているのか私にはわからない。

きっとお腹が減って悲しいのだろう。

今日の昼は奮発して多めに作って上げるとしよう。

 

「命、春姫。手伝ってくれ。ティアもそろそろ起きて」

 

「「はい」」

 

多めに作る為に料理ができる二人に手伝って貰いながら私達はキッチンに向かう。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおッ!!ち、違うんだ、ベル君!ボクは決してはしたなくはないぞ!」

 

「は、はい!」

 

悶える神ヘスティアはどうやら相当お腹が減っているようだ。

これは大変だー頑張って作らないとー。

棒読みしながら私達は料理を作り始める。

結局、神ヘスティアは自分の好物を食べていつもの調子に戻った。

やっぱり単純………。


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