ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「桜君はベル君のことをどう思っているんだい?」
「何ですか急に?しかもリリ達まで」
何の事件も起きずにいつもの日常の中で私は
「今はティアは勉強中ですので後にしてください」
「そういう訳にはいかないのだよ!?ベル君がいない今でなければ聞けないじゃないか!?」
ベルは今はヴェルフや命と一緒に中庭で訓練中。
静かなこの時間帯に私はティアに勉強を教えている。
「桜様とベル様の距離が気になってこうしてリリ達は尋ねているのです!?」
「距離?ああ、男女の」
リリの言う距離に納得した私は質問の意図に気付いて神ヘスティア達が何を言いたいのかも理解出来た。
「ベルは弟ぐらいにしか見ていない。話は終わり」
バッサリと言い切って私はティアの勉強の方に意識を向けようとしたが、ここで終わることは神ヘスティア達が許してはくれなかった。
「そんなわけはないだろう!?こないだだって!?」
神ヘスティアが語る疑惑の目撃談、その一。
ボク達はいつものように皆でご飯を食べている時。
『ティア。口が汚れているぞ。ほら』
桜君は口元が汚れているティア君の口をハンカチでふき取る。
その光景をボクは微笑ましく見ていた。
しっかり者で面倒見のいい桜君とティア君が親子の様に見ているとボクはベル君の口が汚れていることに気付いた。
気付いた僕は桜君を見習ってベル君の口元を拭こうと動こうとした時。
『ベル。お前も汚れているぞ。ほら、動くな』
『い、いいよ。桜。一人でもできるから』
『子供じゃないんだから口を汚さず食べろよ』
恥ずかしそうに口元を拭かれているベル君に親し気にベル君の顔を押さえて拭く桜君。
ボクは手に持ったハンカチを目から出てくる涙を拭くに使ったよ。
「それで?」
「ボクはベル君の口が汚れていることにすぐに気付いたさ!それでも速く気づくことが出来た桜君はずっとベル君を見ていた証拠だ!?」
「………」
神ヘスティアの話は覚えがある。
だけど、あの時はティアの汚れに気付いてたまたまベルの口も汚れていることに気付いただけのはずだったが。
それが面倒なことに神ヘスティアよりも速く気づいてしまったか。
「それだけではありません!この前のダンジョン探索の時もです!」
リリルカ・アーデが語る疑惑の目撃談、その二。
あれは三日前の15階層のダンジョン探索の時でした。
リリ達はいつものようにモンスターの討伐を終えて帰還しようとした際。
『ベル。ちょっと止まれ』
『何?痛ッ!?』
帰還しようとした際に桜様は急にベル様の腕を掴むとベル様は痛みを訴えてました。
何事かと思ってリリは振り返るとベル様の右腕が少し腫れていることに気付きました。
『やっぱりミノタウロスの攻撃を受けた時に負っていたか』
桜様の言葉に見覚えがありました。
モンスターを倒している時に不意に現れましたミノタウロスにベル様は虚を突かれて一撃を受けてしまったことに。
すぐに桜様がフォローに入り、その後もベル様は何事もないように動かれていましたのでリリも気づきませんでした。
『折れてはないようだけど、少しヒビが入っているな。ティア、治してあげてくれ』
ティア様の魔法で治すように促す桜様でしたがベル様は申し訳なさそうに。
『いいよ、これぐらいはポーションを飲めばすぐに治るから』
『バカベル。そのこれぐらいでいちいち遠慮するな。いちいち遠慮されると距離を取られている感じがして私は嫌だぞ』
『ご、ごめん』
『わかればよろしい』
その時、ベル様の顔が赤くなっていたのをリリは覚えています。
「僅かな傷も見逃さずにベル様を心配していました。これをどう説明なさると言うのですか!?」
いや、あの時はミノタウロスの攻撃を受けているのを覚えていたから負傷しているかもと思っただけなんだがな。
頬を掻きながら今まで黙っていた春姫に視線を向ける。
「春姫も何かあるのか?」
「は、はい。実は」
サンジョウノ・春姫が語る疑惑の目撃談、その三。
私はいつものように皆様のお部屋を掃除に回っている時でした。
ベル様のお部屋を掃除に参ろうとした時、桜様がベル様の部屋から出て行くのを見てしまったのです。
『桜様。ベル様のお部屋で何を?』
疑問に思った私はベル様のお部屋を開けますと綺麗に掃除されているのを見てしまいました。
「ご自分のお時間を減らしてまでベル様のお部屋の掃除をなされた桜様に私はいてもたってもいられずに」
「神ヘスティア達と一緒に来たと?」
頷いて返答する春姫に私は内心で息を吐いた。
恐らく昨日のことだろう。
私は次の探索に向けて陣形や隊列の話し合いをしようとベルの部屋に行ったがベルはおらずにその時に散らかっている部屋を見て思わず片付けて、春姫の負担を減らそうとついでに掃除をして部屋から出て行った時だろう。
思わぬ擦れ違いで変な誤解を生んでしまったか。
額に手を当てて疲れるように息を吐く。
「さぁ、どうなんだい!?証人は三人もいるんだぞ!?」
「嘘偽りなく答えてください!桜様!」
「お願い致します!」
問い詰めてくる神ヘスティア達。
どう言おうと悩んでいると私は良い案を思い浮かんだ。
「仮に私がベルの事が好きだったとしたらどうします?」
「「「えっ」」」
驚く三人に私は挑発的な笑みを浮かべて言う。
「私はどこかの神と違って我儘もそこまで言いませんし、例えベルが他の女性と一緒にいてもしつこく問い詰めたりもしません。寛容のある方がベルも喜ぶでしょう」
「うっ」
「どこかの
「むっ」
「大胆さも時には必要だよな。ベルは奥手だから案外引っ張って行く女性が好みなのかもしれないな。ベルと同じ奥手の
「うぅ」
「ベルが他の【ファミリア】のどこかの女性冒険者に振られて私の事を好きになっても案外私はすんなりと受け入れてしまうかも」
目を見開き、驚く三人。
「我儘で頑固なところもあるけど、ベルは基本的に素直で優しいし、男らしさもいいけど、弱弱しいところも母性がくすぐられて可愛いから私もころっとベルの事が好きになるかも」
「「「ダメだ(です)!!」」」
否定の声を上げるが私は続ける。
「神ヘスティア達が否定してもそうなったら決めるのは私とベルだ。自分の事を褒めるのもなんだけど、私は容姿も悪くないし、スタイルもいい方だ。掃除、洗濯、炊事、家事全般ちゃんとできるし、実力もベルと釣り合っている」
挑発的な笑みから余裕たっぷりの笑みに変えて三人に告げる。
「自分に振り向いて貰えるように精々女子力でも磨くことですね。最も無駄だとは思いますけど」
「ふが――――――――ッ!!言わせておけばなんだい!?スタイルならボクだって負けちゃいないぞ!?」
「リリだって負けていません!桜様よりリリの方がベル様の隣に相応しい証明してみせます!!」
「わ、私も負けてはいません!」
予想通りの反論をする神ヘスティア達に内心でほくそ笑む。
これで少しは危機感を持って自分を磨こうと努力するだろう。
それにしてもベルを餌にするだけでこうもあっさりといくとはちょろすぎて張り合いもないな。
「ああ、そういえばそろそろベル達の訓練も終わる頃だし、飲み物でも持っていくとしよう」
「ボクが行くよ!こういう時こそ主神であるボクが動いて懐の広さを見せないと!」
「今更何を言っているのですか!?ヘスティア様!リリが行きます!」
「わ、私が行って参ります!」
三人が三人とも飲み物を持ってベル達が訓練している中庭へと走って行った。
一人一つずつしか持って行かなかったけど、ヴェルフと命もいるから数的にはちょうどいいか。
「さて、静かになったことだし、勉強を再開しようか」
再開するように促すとティアも頷いて返答する。
数分後に中庭からベルの悲鳴のようなものが聞こえたけど、気にしないでおこう。