ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
【ヘスティア・ファミリア】はいつものように変わらない日常を満喫していた。
ダンジョンに潜ってモンスターを倒したり、店を開いたりなどしていつもと変わらない毎日を過ごしていた。
今日も
「はい、僕の勝ちです。神様」
「ぐぬぬ……もう一度だ!ベル君!」
「いい加減諦めたらどうですか?ヘスティア様」
「それでしたら私はお茶でも」
「春姫殿。次は自分が淹れます」
カードで遊ぶ者もいれば進んで給仕をする者。
「ふぁ~」
また何もせずぐうだらと過ごす者。
「ねぇ、次は桜とティアも……」
ソファでティアと一緒に読書している桜達に声をかけるベルだが桜を見て声をかけるのを止めた。
「どうしたんだい?ベル君。ああ……」
「いかがなさいましたか?」
気になって全員が桜達に視線を向けると桜とティアがソファでうたた寝していた。
本が開いている所を見て読んでいる最中に眠気に襲われたのだろうと思いながら春姫は毛布を持っていてそっと桜とティアに毛布をかけた。
「お疲れですね、桜様」
うたた寝している桜を見てリリがそう言うとベル達も同意するように頷いた。
「桜は僕達のことをしっかり考えてくれるから」
「自分で店を開いて【ファミリア】の為に一番動いてくれるからね」
【ヘスティア・ファミリア】の中で一番付き合いの長いヘスティアとベルは日頃からしっかりと考えて行動してサポートまでしてくれる桜に頭が上がらなかった。
「リリもよく桜様を頼って相談などしています」
【ファミリア】のことについてとベルのことについてなどリリはよく桜に相談している。
「俺もだ。なんだかんだで桜を頼ってるな」
ヴェルフも頼りになる桜になんだかんだで頼み事をしていた。
「自分もよく稽古に付き合ってくださいます」
団員の中でひた向きに鍛錬をする命もよく桜と稽古していた。
「私も掃除や洗濯を手伝ってくださいます」
給仕をしている春姫も思い当たることが多く合った。
「「「「「「……………」」」」」」
全員が無言になって改めて思った。
桜に頼りすぎてはいないかと。
【ファミリア】の副団長として団長であるベルをサポートしたり、団員の手助け、主神であるヘスティアの愚痴を聞いたり、自身で店を開いて【ファミリア】に貢献している。
思い返せば思い返すほど皆が皆、桜を頼っていた。
「どうしよう……ボク達、桜君に頭が上がらなくなっていたぞ……」
桜に頼りすぎていたことにヘスティアはとうとう桜に上げる頭が無くなってきていた。
誰よりも桜に頼っていると自覚がヘスティアには会った。
神友であるヘファイストスに対しても愚痴が主だが、それ以外にも自分の我儘で何度も桜を頼っては土下座でお願いをしていた。
だが、そう思っていたのはヘスティアだけではなかった。
「………」
ベルもだった。
団長であるはずのベルだが、副団長である桜を頼って団長の分の仕事をさせていたかもしれないと心当たりがあった。
それだけじゃなく、桜が入団した時から何度迷惑をかけたか数え切れなかった。
「………桜に休みを取ってもらおうと思うんだけど」
「「「「「賛成」」」」」
桜に休みを与えようと思ったベルの言葉に全員が即答で応じた。
「これからは桜様に極力に頼らずに頑張って行きましょう」
リリの言葉に全員が頷いて応えた。
気がついたら頼ってしまう桜に対して全員が反省して今後は自力で何とかしようと反省した。
「あ、あの……」
反省しているなかで春姫がおどおどと挙手して言った。
「思ったのですが、桜様はどこの国の出身なのでございましょうか?」
「……言われてみればリリも桜様と出会う前のことは知りませんでした。ベル様とヘスティア様はご存じですよね?」
団員の中で一番付き合いの長いベルとヘスティアに聞くリリだがベル達も首を傾げていた。
「そういえば、聞いたことなかったような……」
「ボクも聞いたことなかったよ」
誰も出会う前の桜を知らなかった。
何事もそつなくこなす桜の過去を知る者は誰もいなかった。
「名前から察するに命や春姫と同じ東洋じゃねえのか?」
「でも、見た目はアイズさんに似ているし違うと思うけど」
謎に包まれた桜の正体に誰もが疑問を抱く中で桜は目を覚ました。
「あれ?私……寝てた?って、何で皆私を見てるんだ?私の寝顔なんて面白くもなんともないぞ」
目を覚ました桜は全員の視線に気づいて素っ気なくそう言う。
ヘスティアは桜君の過去については触れないようにと桜と寝ているティア以外全員にアイコンタクトした。
それに気づいたベル達は桜には人には言えない深い事情があるのだろうと察して頷いて応じた。
「さて、そろそろ買い出しにでも行こうか」
夕飯の買い出しに行こうと立ち上がる桜だが、ベルが声をかけて止めた。
「ま、待って桜!きょ、今日は僕が買い出しに行ってくるよ!」
「どうした急に?それに何で挙動不審なんだ?」
慌ただしいベルの様子に訝しむ桜はベルの肩に手を置いて言った。
「悪いことしたのならちゃんと言え。軽い説教で済ませてやるから」
「違うよ!」
悪いことをしたと思われたベルは心から否定した。
「僕にだってたまには買い出ししたい時があるんだよ!」
「それはいいが、ベルが行くと高値で買わされそうだからな」
「リリもついて行きますのでご安心を」
お人好しで騙されやすいベルの買い出しに不安が生じる桜にリリも買い出しに行くと言ってきた。
「あ、ずるいぞ!ボクだってベル君と二人っきりで買い出しに行きたいんだぞ!」
「ヘスティア様が買い出しに言ったら余計な物まで買いそうですので駄目に決まっています!」
ぎゃーぎゃーといつものベル争奪戦を開始するヘスティアとリリ。
「で、では、ベル様と私が……」
「「抜け駆けは駄目だぞ(です)!!」」
そっと抜け駆けをしようとする春姫に声を荒げるヘスティアとリリ。
それを見た桜はやっぱり自分が行こうと
「命。買い出しにいけないんだけど」
「えっと、その……か、買い出ししなくてもまだ食材が残っているのでは」
「今日の夕飯の分ぐらいはあるけど補充はしたほうがいいだろ?」
必死に考えた命の案を一蹴する桜に命は冷や汗を流しながら次の手を考える。
「?」
いつもとどこか様子が違う桜は首を傾げていると突然命が桜に抱き着いて来た。
「ちょっ!命!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
唐突かつ予想外の命の抱き着きに桜は困惑しながら命を離そうとしたが命は謝罪しながら力を入れて抱き着くばかりで目はぐるぐると回っていることに気付いた。
後ろでは誰がベルと買い出しに行こうと未だに騒ぎ立ててそれを止めようとヴェルフが動いているが止まらず、命は命で大変なことになっていた。
「ああもう!!全員正座ァ――――――――――――――ッッ!!」
我慢の限界が来た桜は思わず
「まったくそれであの騒ぎを起こすぐらいならまだ頼られた方がマシだ」
「はい……ごめんなさい」
怒る桜にベルは謝罪する。
「だけど、ベル達の気持ちはわかった。これからはベル達の頼み事は聞かないようにするとしよう。どうしてもの時以外は私も手を貸さない」
「ボ、ボクの愚痴は……」
「神ヘスティア?」
「いえ、何でもありません」
桜の微笑みにヘスティアは即座に土下座した。
その微笑みにベル達も怯えながら桜を怒らせないようにと決めた。
「わかったら皆動く。リリと私は買い出しに行くから、命と春姫は残った食材で今日の夕飯を作って貰おうか。ヴェルフとベルは食器を出す。ティアはベル達が食器を割らないように注意してくれ。神ヘスティアは私達が帰ってくるまで正座。返事は?」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
完全に主導権を握られている桜に全員は返事をして言われたとおりに動くしかなかった。
全員が桜の指示通りに動いているなか、桜は疲れるように息を吐きながらも笑みを浮かべていることに誰も気づかなかった。