ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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お母さん

竈火の小さな料理店を開店させた私は初日で予想以上の稼ぎを手に入れることができた。

それの殆どは借金返済に当てるが稼いだ4割は自分の懐に入れている。

開店して初日から数日は客の数は多かったけど、今は大分落ち着きを取り戻して私やベル達は居室(リビング)でダンジョン探索の会議を行っていた。

 

「それじゃ、私とヴェルフが前衛、ベルと命が中衛、最後にリリとティアが後衛で問題ないな?」

 

「リリは問題ないと思います」

 

「俺もだ」

 

「自分も問題はないかと」

 

リリ、ヴェルフ、命、ティアは問題と頷くなかで全員が団長であるベルへと視線を向けた。

最後に決めるのは団長であるベルに決定権がある。

ベルがちゃんとした理由で否定するのならそれを取り入れた上で隊列を変えるし、何かあるのであればそれも取り入れる。

 

「ぼ、僕もこれでいいと思う」

 

自信なさげに返答するベルに私は問いかける。

 

「ベル。本当にいいのか?何か不安や不満があるのなら遠慮くなく言え。団長であるベルの言葉には皆ちゃんと聞くぞ」

 

確認を取るようにヴェルフ達を見るとヴェルフ達も頷いて応えた。

 

「だ、大丈夫!本当に何もないから!桜が考えてくれた隊列に問題はないと僕も思ったから」

 

問題ないと答えるベルに私は少々不安を抱いた。

今回の隊列は私が考えた案でベルや他の皆が考えたものではない。

皆がそれを了承してくれているのならそれはそれでいいのだが、ベルは私に頼りすぎているというか、信じすぎているような気がする。

頼りにしてくれて、信じてくれるのは嬉しいけどこのままではこれからが大変だな。

あくまで私は副団長でベルは団長。

このままだとベルは自分に自信を無くすんじゃないのではないかと思ってしまう。

 

「それじゃ、今日の目標は15階層まで行くとしよう」

 

取りあえずは会議を終わらせてそのことを追々考えていくことにした私はベル達と一緒にダンジョンへと向かい、15階層まで到着すると早速ヘルハウンドやアルミラージが私達に襲いかかってくる。

前衛である私とヴェルフがヘルハウンドやアルミラージを倒す。

横から来たモンスターにはベルと命が対応してくれる。

 

「―――――前方からヘルハウンドの大群が来ます!」

 

探知系のスキルを持つ命がモンスターの接近を教えてくれると前方から約十匹のヘルハウンドがやってくるのを確認したが、まだ目の前のモンスターを倒しきれていない為、今来たヘルハウンドを相手するまで時間が必要の為、ティアに向かって叫んだ。

 

「ティア!障壁魔法!」

 

「【鉄壁の守り、堅牢の盾。邪悪な力を跳ね返す森光の障壁よ。我を守護せよ】」

 

私の声にティアはすぐさま魔法の詠唱を唱える。

 

「【アミュレ・リュミエール】」

 

杖を向けた方向に銀色の円型の障壁が出現してヘルハウンドの行き先を遮った。

ティアの障壁魔法は防御に特化した魔法であらゆる物理、魔法攻撃を防ぐことができる。

その魔法のおかげで目の前のモンスターを倒し終えた私はヘルハウンドへと向かっていく。

今のティアの魔法は中層でもある程度は通用する。

だけど、ミノタウロスなどの『力』などに特化しているモンスターにはまだ弱い。

全く防げれないという訳ではないが、少なくとも前に試した時に私の連続攻撃を20回は防ぐことができたから後は本人の成長に期待するとしよう。

今は前衛や中衛である私達が対応に間に合うように時間を稼いでくれるだけでも十分に助かっている。

モンスターを倒し終えた私達は今日のダンジョン探索を終了した。

 

「【森林の恵みよ。この者に癒しを】」

 

治癒魔法を唱えるティア。

 

「【シルワトゥス】」

 

「サンキューな」

 

怪我を負ったヴェルフの傷を治すティアにヴェルフは礼を言うとティアは恥ずかしそうに俯く。

 

「やっぱり魔導士がいるだけで違いますね」

 

「うん、ティアのおかげで大分楽ができるよ」

 

活躍したティアを褒めるリリとベルにティアは嬉しさと恥ずかしさのあまり私の後ろへと逃げてきた。

 

「ティアに頼るのもいいけど、頼りすぎるなよ。ティアの精神力(マインド)だって無限にあるわけじゃない」

 

一応油断しないように釘を刺しておくとベル達は苦笑で返した。

どうやら少しはそう思っていたみたいだな……。

色々言いたいことはあるが今は言わないでおこう。

私もベル達と同じようにティアには助かっていると思っているから注意しないと。

それと今の調子なら今度は春姫を連れてきてもいいかもしれないな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン探索が終えた私は新作を作っていた。

ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブランからロールケーキ、和食のデザートに和菓子までも作ってみた。

作る手順に違いはあったが味は間違いなく本物。

材料もよく探せば見つけることもできたし、機材も一工夫したり、どうしても必要な物はヴェルフと一緒に何とか作れた。

作ろうと思えばできるものだなと、感慨深く頷いてしまった。

 

「まぁ、取りあえずはベル達に試食(どくみ)させてみるとしよう」

 

居室(リビング)にいるベル達に持っていくと早速試食(どくみ)してもらった。

 

「おいしい!おいしいよ、桜君!」

 

「うん!すっごく甘くて美味しい!」

 

神ヘスティアとベルには凄く好評だった。

 

「桜様は本当に何でもできますね、美味しいです」

 

「自分も桜殿を見習わなければ」

 

「とても美味しいです!桜様!」

 

「……美味しい」

 

「俺には少し甘すぎるな……」

 

同じく好評だったリリ達に対してヴェルフには少し甘かったらしい。

なるほど。と納得して少し砂糖の量を減らして作ってみようと改善点を纏める。

『豊穣の女主人』でもケーキを作っていたし、世話にもなっているから改善したら調理法(レシピ)でも教えておこうか。

よくよく思えばこの世界でも私がいた世界と意外に共通点が多いところがあるな。

 

「って、こら」

 

「あうっ!」

 

残っていたケーキに手を伸ばす神ヘスティアの手を叩く。

 

「もう寝る時間に近いんですからこれ以上甘いもの食べたら虫歯にもなりますし、太りますよ?」

 

「ボ、ボクは神だぞ!虫歯にも太ったりもしないさ!だからもう一つだけでも……」

 

「神以前に女でしょう?それに前に酒を飲みすぎて二日酔いになった女神様はどの女神様ですか?」

 

「うぅ……ボクです……」

 

神ミアハと一緒に酒を飲んで酔い潰れている貴女を誰が連れて帰ったと思っているのやら。

 

「これは明日、近隣の子供達にも食べさせる予定ですからこれ以上はいけません。いいですね?神ヘスティア」

 

「はい…」

 

落ち込みながら返事をする神ヘスティアを見てまた作ってあげるとしようと思った。

すると、楽しそうに笑みを浮かべているベルに私は尋ねた。

 

「どうした?ベル」

 

「ううん、ただ桜は僕達の事をよく考えてくれるからまるでお母さんみたいだなって思って」

 

その言葉に私の体は固まったかのように一瞬動けなくなった。

 

「お……お母さん……?」

 

そこは姉じゃなくてか?ベル……。

 

そう思っていると皆が納得するかのように頷いていた。

 

「確かに飯は上手いし、俺達の好みもよく把握しているからな」

 

「買い出しの時も値切りが上手でしたし」

 

「細かい気配りもできています」

 

「掃除も洗濯も私と一緒によくしてくださいます」

 

「子供であるティア君の面倒もよく見ているからね」

 

ヴェルフ、リリ、命、春姫、神ヘスティアはそれぞれの思いつくことを告げる。

いや、ちょっと待って……!

 

「そこは姉とかじゃダメなのか?私はそこまで歳を取っていないぞ」

 

見た目はベルと同じで精神年齢は22歳だが、子供を持つ歳でもないし、そういう経験すらないんだぞ、こっちは。

それを姉を通り越して母親か!?色々ツッコミたいところがあるぞ!?

内心で叫ぶ私に神ヘスティアは私の肩に手を置いた。

 

「これからもよろしく頼むよ、お母さん」

 

憎たらしいほどのいい笑みを浮かべてそう言ってきた。

 

「誰がお母さんだ!?」

 

思わず私は叫んでしまった。


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