ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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愚神のおかげで

「きょ、今日は早めに就寝させてもらいまーす」

 

夕食が終えた後で挙動不審の命が居室(リビング)から出て行った。

そして、ベル達は命の尾行に行った。

私とティアだけが本拠(ホーム)『竈火の館』に残り、私達は夕食の後片付けを行う。

流石に全員で行くわけにもいかないからな・・・・。

神ヘスティアはまだ帰ってきていないし、子供であるティアを一人にするわけにもいかず私とティアは後片付けをしている。

私が食器を洗っている間にティアはテーブルを拭いてくれている。

本来なら私一人でもすぐに終わるけど、元々奴隷だったティアに何もさせない方が酷だろうと思い手伝って貰っている。

 

「お、終わり・・・ました・・・」

 

「ご苦労様。それじゃ、食器を拭いてくれるか?」

 

私の言葉にティアは頷いて食器を拭いて行く。

片づけが終わると私は買っておいた杖をティアの前に持ってくる。

 

「私からの入団祝いだ。受け取ってくれ」

 

「え・・・あ、あの・・・・」

 

突然渡された杖にティアは戸惑うが私が半分無理矢理持たせた。

 

「これは入団祝いと私個人からの気持ちだ。嫌だったか?」

 

そう尋ねる私にティアは涙を流しながら何度も首を横に振った。

 

「あ、ありが・・・・どう・・・ございまず・・・・」

 

顔を涙でグシャグシャにしながら礼を言って杖を大事そうに抱えているティアに私はハンカチで涙を拭いて抱きしめるとティアは私の胸元で更に泣いた。

優しくされるのが久しぶりだったのだろう。今までの奴隷生活だと優しくされるなんてことはないだろうからな。

その後、泣き疲れたティアをベットまで運ぶがティアは眠りながらも杖を離すことはなかった。大事そうに寝たまま抱きしめていた。

私的にも喜んでくれて何よりだった。

 

「ただいま~~、桜君~、ご飯をおくれ~」

 

借金返済に燃えていた神ヘスティアは夜になってやっと帰ってきた。

 

「少し待っていてください。すぐに作りますから」

 

すぐに神ヘスティアの分を作って神ヘスティアに命とベル達のことを話しておく。

 

「ふ~ん、命君がね。まぁ、詳しい話は命君が帰ってから聞こうじゃないか。それより、ティア君はもう寝ているのかい?」

 

「はい、杖を抱えたままぐっすりと」

 

「杖?」

 

「魔導士が使う杖ですよ。私が買ってティアにあげました」

 

「ち、ちなみにどれぐらいしたんだい?」

 

「百万ヴァリス」

 

「ぶふっ!?」

 

「汚いですよ、神ヘスティア」

 

せっかく作ったご飯を飛ばさないで下さいよ。勿体ないし、汚い。

 

「さ、桜君!?君は借金を増やすつもりか!?」

 

「あれは私の懐から出したものですから【ファミリア】の金は一切使っていませんよ。戦争遊戯(ウォーゲーム)の時に全額賭けておいたおかげでまだ多少なり余裕がありますからね」

 

「君はあの状況下でお金を賭けていたのかい!?」

 

先程から驚愕するたびに米粒を飛ばしてくる神ヘスティアに私はティアの素性を話した。

 

「ティアは奴隷だったのです。万が一に連れ戻そうとする輩が来るかもしれません。護身用も兼ねて買ったんですよ。自分の身を守る為に」

 

「そ、そうだったのか・・・・。どうりで時々怯えた眼をしていたはずだ・・・・」

 

心当たりがある神ヘスティアも私の考えに納得してくれた。

 

「それでもティア君はもうボクの大切な子だ。何があってもティア君を守ってみせるよ」

 

慈愛の笑みを浮かばせる神ヘスティアに私も笑みを浮かばせる。

やはり、この神は女神なんだな・・・・。

そう思いながらあるものを神ヘスティアに見せた。

 

「それから明日からティアにはこれを着てもらおうと思います」

 

「ぶぅぅッ!?」

 

また噴き出す神ヘスティア。

 

「こ、こ、これは修道(シスター)服じゃないか!?」

 

私が取り出したのは杖を買った帰りに見つけた修道(シスター)服。背中には【ヘスティア・ファミリア】のエンブレムを縫っておいた。

この世界は信仰の象徴である神が多いからどこの神に仕えているかはハッキリさせた方がいいかと思ったからだ。

 

「ええ、これなら身を隠すこともできるし、日中出歩いても問題ないでしょう?」

 

「そ、それはそうかもだけど・・・・」

 

言葉を濁らす神ヘスティアに私は続けて言う。

 

「それにこれなら服の下に杖を隠しているのかわからないでしょう?似合うと思いますし問題はないはずです」

 

「うん、まぁ、そうだね・・・」

 

遠い目をする神ヘスティアに訝しむがとりあえずは主神である神ヘスティアの許可も取ったことだし大丈夫か。

 

「それと、そろそろ私もダンジョンに行かせてくださいよ。もう店員で働くの嫌なんですけど」

 

変態(ヒュアキントス)のせいで余計に疲れるから。

 

「う~ん、そうだな・・・・・わかったよ、但しまた無茶をしたらダンジョンに行くのは禁止にするからね」

 

「はいはい、気をつけます」

 

やっと神ヘスティアからダンジョンに行っていい許可を貰った。

その時、ヴェルフ達が勢いよく帰ってきた。

 

「ど、どうしたんだい!?それと、ベル君はどこだい!?」

 

あまりの慌てぶりに神ヘスティアも慌ただしく問いかける。

確かにベルの姿が見えないな・・・・・。

 

「・・・・ヘスティア様、実は・・・・」

 

ベルがいないことも含めてリリが説明してくれた。

命が向かったのは南東区画にある歓楽街。そこに命の知人かもしれない情報を確かめる為に行ったがそこで気が付いたらベルが行方不明となって探していたが、『兔』を見失ったアマゾネスが撤収するのを確認後、目を付けられないように引き上げてきたらしい。

 

「命。その知人は珍しい種族って言うけど何の種族なんだ?」

 

狐人(ルナール)と種族で名前は春姫と言います。ですが、高貴な身分の方ですので・・・」

 

「歓楽街にいるとは思えずにいてもたってもいられず確認に行った。ということか」

 

「・・・・はい」

 

命の言葉に私は顎に手を当てる。

それだけ珍しい種族ならいる可能性が高いだろう。

歓楽街にいるのなら身分など関係ないしな、それより気になるのはアマゾネスの方だ。

確か第三区画は上位派閥の【イシュタル・ファミリア】の本拠地があったはず。

それに【イシュタル・ファミリア】の団員はアマゾネスが多い。

それに追われている『兔』・・・・・・。

頭の中で肉食獣(アマゾネス)に襲われている(ベル)を想像してしまった。

私は悟ったように両手を合わせて黙祷する。

 

「ベル。お前は優しい奴だったよ」

 

「縁起でもないことを言わないでおくれ!?」

 

「そうですよ!?まだベル様が食べられたと決まったわけではないのですから!?」

 

怒鳴る神ヘスティアとリリ。

まぁ、ベルの事なら大丈夫だろう。兔と呼ばれているだけあって足は速いし、逃げきれているだろう。

取りあえず私もそろそろ寝るとしよう・・・・。

欠伸をしながら自室に行きながら明日のことを考えていた。

ベルの事だからまた問題を抱えてくる可能性もあるし、エイナに【イシュタル・ファミリア】のことでも教えてもらおう。

そう考えながら私は就寝した。

次の日の朝、体中から香水の匂いをつけて朝帰りしてきたベルは神ヘスティアの尋問を受けていた。

その時、面白いことにベルが精力剤など持っていたがそんなものをベルに渡す人なんて一人だけ・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

これはきな臭くなってきたぞ・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【イシュタル・ファミリア】の情報ね・・・・」

 

ギルドのボックスで私はエイナから【イシュタル・ファミリア】の情報を聞いていた。

 

「いきなりきて他派閥のことを聞くなんてどうしたの?」

 

「少々気になることがありまして。調べているんですよ」

 

ベルが歓楽街に行ったことは伏せて私はエイナから【イシュタル・ファミリア】の情報を聞いた。

まず、【イシュタル・ファミリア】の団長、二つ名【男殺し(アンドロクトロス)】のフリュネ・ジャミール。Lv.5の第一級冒険者。

それ以外にもアマゾネスの冒険者、『戦闘娼婦(バーベラ)』と呼ばれる戦闘員は何名かのLv.3が存在している。

代表的なのはアイシャ・ベルガ。二つ名【女傑(アンティアネイラ)】の戦闘娼婦(バーベラ)。Lv.3の戦闘娼婦(バーベラ)の中で最上位の実力者。

流石は上位派閥と思いながら狐人(ルナール)の春姫のことを聞いたが団員リストには載っていないとエイナは言った。

人身売買を明るみに出さない為に隠しているのか?

考えられる情報を整理しているとエイナの口から気になることを聞いた。

【イシュタル・ファミリア】は実力を偽っているのではないかと。

 

「当時【イシュタル・ファミリア】と敵対していた複数の派閥が糾弾してね、ギルドに報告されている公式のLv.より、遥かに団員達の力が上回っている、って」

 

そこでギルドは【イシュタル・ファミリア】の調査に向かったが結果は白だった。

薄気味悪いな・・・・・。

もし、偽っているのなら調べられた時点にハッキリしている。

だけど、調べてもギルドの報告通りで結果は白。

その敵対している派閥が言いがかりをつけたとしたとしてもいくら何でもLv.の差はわかるはずだ。それなのにギルドの報告通りだった。

【イシュタル・ファミリア】は何かを隠している?

少なくともなんらかの秘密はありそうだな・・・・・。

 

「ありがとうございました。エイナさん」

 

立ち上がってボックスから出て行こうとする私にエイナは言った。

 

「桜ちゃん。くれぐれも気を付けてね。私は・・・【イシュタル・ファミリア】は凄い怖い派閥だと思うから」

 

「わかりました」

 

ボックスから出た私は【ヘルメス・ファミリア】の主神である神ヘルメスを探し始める。

と言っても自由奔放と聞いているあの神がこのオラリオにいるかどうかもわからないが。

 

「ア―ニャちゃんっ、至急ミアを呼んでくれッ」

 

「にゃあ~、またヘルメス様ニャ?」

 

わりとあっさり見つけてしまった。

それに慌ただしい、いや、なりふり構っていられない様子だった。

ちょうどいいや・・・・・。

 

「神ヘルメス」

 

「おおっ!桜ちゃん!よかった!実は桜ちゃんにも話があるんだ!?」

 

「奇遇ですね。私もあります。せっかくですので中で話しましょう」

 

そう言って奥のテーブルで座る私と神ヘルメス。

神ヘルメスが口を開く前に私はポケットから小瓶を取り出す。

 

「貴方ですよね?ベルにこれを渡したのは」

 

「え、ベル君、もしかして喋っちゃった?」

 

「歓楽街でベルにこんなものを渡すのは神ヘルメスだけです。まぁ、これは別にいいんです。取りあえずお返しします」

 

精力剤を神ヘルメスに返して私は本題に入る。

 

「それで神イシュタルと何を話していたんですか?」

 

「何でそう思うんだい?」

 

「貴方は普段は飄々としていますが何の理由もなしに歓楽街に行くとは考えにくい。それに貴方のような神は自分はなるべく動かずに、他人を動かしてどれだけ状況を面白くできるか・・・・それを楽しむタイプです。違いますか?」

 

「ハハハ、よくわかってるね」

 

実際にそうだった。

リヴィラの街でこの神はモルドに魔道具(マジックアイテム)を渡して、ベルと戦わせた。それをこの神は遠くから見ていた。

 

「これは私の推測ですけど、貴方は神イシュタルに密談、もしくは取引をするために神イシュタルに会いに行った。いや、何かの依頼を貴方が受けていたという線もありますがどうでしょう?」

 

「うん、凄いね。でもオレが普通に遊びに行っていたとは思わなかったのかい?」

 

「ええ。思いませんでした」

 

神ヘルメスの言葉を私は即答する。

 

「遊ぶだけならわざわざ他派閥である【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)がある第三区画に行かなくてもいい。神とはいえ、派閥問題を起こしてしまう可能性も十分にありますから」

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)に友人感覚で行くような私のような奴を除いて。

 

「・・・・やれやれ、本当に鋭い女の子だな、桜ちゃんは。桜ちゃんの言う通りオレはあの日、イシュタルと会っていた」

 

観念したかのように喋り出す神ヘルメスはその時のことを話した。

 

「オレは運び屋の依頼を受けてイシュタルにある物を届けた」

 

「ある物?」

 

訊き返す私に神ヘルメスは告げた。

 

「オレが届けたのは、『殺生石』という道具(アイテム)だ」

 

殺生石?

聞き覚えのないその道具(アイテム)に訝しげになる私。

前の世界では殺生石と聞いたら白面金毛九尾と結びつく。

狐人(ルナール)と殺生石。この共通点はただの偶然か?

そんな疑問を取りあえずは頭の端にやりながら私は神イシュタルのことについて聞いた。

 

「イシュタルはフレイヤ様と同じ美の女神でもある。だからイシュタルは自分より上にいるフレイヤ様に妬んでいるのさ」

 

「女の嫉妬、いえ、女神の嫉妬ですか・・・」

 

それは想像しただけでも恐ろしい。

ただでさえ、女の嫉妬は怖いのは同じ女である私もよく知っている。

神イシュタルが神フレイヤを妬んでいることと、何かを企んでいることを教えてくれる神ヘルメス。だけど、いったい何を企んでいるのか、何のために『殺生石』を神ヘルメスに依頼したのかまではわからなかった。

一番気になるのは王を気取るあの女神が地を這い蹲るということだ。

神イシュタルは革命でも起こそうというのか?

それだとしても【イシュタル・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】とでは実力差がありすぎる。何より【フレイヤ・ファミリア】には【猛者】、オッタルがいる。

オッタルの実力が本物なのは実際に戦った私自身がよくわかる。

そんな相手を倒す切り札でもあるのか?

神イシュタルの企みについて考えていると神ヘルメスが申し訳なさそうに言った。

 

「・・・それと悪いけどイシュタルに君達のことを話してしまったんだ」

 

「・・・・・・・・・・死にましたね、神ヘルメス」

 

それだけを告げて去ろうとする私の腕を神ヘルメスが掴んできた。

 

「頼む!どうか助けてくれ!あれは不可抗力だったんだ!?」

 

泣きつく神ヘルメスに私は優しく微笑む。

 

「神フレイヤから死刑宣告があると思いますがどうか残り短い下界の生活を楽しんでください」

 

「助けて!?本当にオレの神生最初で最後のお願いだから!?」

 

「どうせ、美の女神の魅力に当てられてうっかり言ってしまったんでしょう?それは不可抗力ではなくて自業自得といいます。貴方が黙っていれば余計な争いに私とベルが巻き込まれることもなかったのに」

 

「そうだけど、その通りだけど!?謝るから助けてくれ!オレにまだすべきことがあるんだ!だから見捨てないでくれ!桜ちゃんならフレイヤ様に言ってくれれば何とかなるだろう!?」

 

ほら、やっぱり。

嫌だけど私とベルは神フレイヤに気に入られている。

そのことが神イシュタルにバレたらほぼ間違いなく私やベルを捕まえて神フレイヤに嫌がらせをするだろう。

それで自分の優越感を味わうために私とベルは犠牲になる。

この愚神のおかげで私やベルまでも巻き込まれたということは嫌という程わかった。

私は手を振り払って巻き込まれないように何か備えでもしておこうと考えていると神ヘルメスが私の前まで来て土下座してきた。

 

「この通りだ!オレはまだ死にたくない!」

 

土下座って流行っているのか?まぁ、とりあえずは無視だな・・・・。

土下座している神ヘルメスの横を通り過ぎようとすると今度は私の脚にしがみついてきた。

 

「おかしいぞ!タケミカヅチと話が違う!?」

 

「いい加減にしてください!セクハラで訴えますよ!?」

 

「それでもいいから助けてくれ!」

 

いいのか!と思ったその時。

 

「いい加減にしな」

 

「あうっ!?」

 

「あたっ!?」

 

ミア母さんから拳骨を貰って私と神ヘルメスは頭を押さえながら悶える。

 

「店の中でそんな大声を出すんじゃないよ。次にしたらわかってるね?」

 

「「は、はい・・・」」

 

ミア母さんの気迫に私と神ヘルメスは負けた。

私は頭を押さえながら神ヘルメスに話しかけた。

 

「神ヘルメス。条件付きでなら何とかしてみましょう」

 

私は神ヘルメスに言った。

 

「神フレイヤと会わせてください」

 

もうこうなったら直接神フレイヤと交渉してやる。


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