ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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私たちは走る

『おい、どこの命知らずだよ。【ロキ・ファミリア】に喧嘩売った奴』

 

『ほら、あそこにいる新人(ルーキー)だよ』

 

『一級冒険者に喧嘩を挑むとか。死んだな、あの嬢ちゃん』

 

豊穣の女主人の店前で私とワンちゃんが向かい合うなか、他の冒険者が好き勝手に騒いでいる。まぁ、そう思われても仕方がない。昨日冒険者になりたての私と最強に名高いロキ・ファミリアの団員、それも第一級冒険者。命知らずと言われても当然か。

 

「こらー!ベート!ちゃんと手加減しなさいよ!」

 

「そうよ!何かあったらあんたが責任取りなさいよ!」

 

「うるせえぞ!クソ姉妹(アマゾネス)共!向こうから売ってきた喧嘩だ!このままで終われるか!?」

 

アマゾネス姉妹の言葉を一蹴するワンちゃん。そして、アマゾネス姉妹の横で静かにこちらに視線を向けてくる小人族(パルゥム)、エルフ、ドワーフ。そして、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「ほんじゃまぁ、お互いに準備はええか?」

 

「少しお待ちください、神ロキ」

 

審判役をかってでた神ロキに呼び止めるとワンちゃんがゲス顔をしてきた。

 

「なんだ?今更になって怖気づいたのかよ?」

 

「はいはい、後で構ってあげるから後にして」

 

「・・・・この(アマ)ッ」

 

素っ気なく返したのか気に入らなかったワンちゃんは怒りで歯を食いしばる。

 

「なんや?心配せんでもベートにはハンデをつけるで?」

 

「躾にそんなものはいりません。それより賭けをしませんか?」

 

「賭け?ゆうてみ?」

 

神ロキの了承を得て私は賭けの内容を説明する。

 

「簡単です。負けた方は勝った方の言うことを何でも一つきく。それだけです」

 

内容を説明すると更に騒めく観客達。それに対して神ロキは怪訝そうに言った。

 

「ええんか?どう考えても嬢ちゃんほうが」

 

「ああ、ご心配には及びません」

 

神ロキの言葉を遮るように私は告げる。

 

「勝つのは私ですから」

 

勝利宣言を。

 

「・・・・・わかった。ベートもそれでええか?」

 

「かまわねえ!ささっと始めやがれ!」

 

グルルルとうなり声を上げている姿は本当に餌を野良犬のようだな。と、思いながら私とワンちゃん向かい合い、そして。

 

「ほんなら、始め!」

 

決闘が始まった。

 

「一発で終わらせてやら!」

 

開始直後、一瞬で間合いを詰めてきたワンちゃんの初撃を私はかろうじて躱すことに成功。

流石は第一級冒険者まるで消えたかのように動く上に攻撃が残像すら見えない。

まぁ、見えないのは攻撃だけだけど。

 

「オラッ!」

 

続けて前蹴りをしてくるワンちゃんの蹴りを私はまたもギリギリで躱して、次の攻撃を予測するためにワンちゃんの全身を見る。目の動き、呼吸、重心、肩の動き、その全てを見る。

次は左腕でのストレートかな?

 

「そらっ!」

 

私の予想通りにワンちゃんは左のストレート。私はそれも躱す。だけど、またもギリギリだ。二歩先まで読んで動いてはいるが、まだダメか。三歩先まで、読みを深くしないと。

 

「ハッ!避けるだけで精一杯か!?達者なのは口だけかよ!?」

 

挑発するように笑うワンちゃんの言葉に私は笑みを浮かべる。

 

「なら、そろそろ反撃するとしよう」

 

私はワンちゃんの攻撃躱してその腕を掴んでワンちゃんを地面へと叩きつけた。

 

「は・・・・?」

 

自分が地面に倒れていることにワンちゃんの顔から驚きが隠せないでいた。

 

「どうした?躾は始まったばかりだぞ?」

 

「ナメんじゃねぇ!!」

 

すぐに起き上がりまた突貫してくるワンちゃん。だけど、またしてもワンちゃんは地面へと寝ころんだ。

 

「クソがっ!」

 

起き上がり、攻撃して、また地面へと寝ころぶワンちゃん。

 

「テメェ、何をしやがった?」

 

起き上がりながらそう問いかけてくるワンちゃんに私は答えた。

 

「これでも女だからね。飢えた狼に対処出来る心得はある」

 

私がしているのは合気道。ダンまちの世界へ来る前に私は合気道を身に着けていた。その技をワンちゃんにかけているだけ。だけど、このままだと私は確実に負ける。

何故なら、決定打がない。

それに体力や精神の疲労はこちらのほうが多い。いずれ私のほうが疲れて負けてしまう。

それにベルのことも気になる。そろそろ終わらせてもらうとしよう。

 

「死ねッ!」

 

またしても突貫するかのように蹴りを放つワンちゃんの攻撃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあえて避けず直撃して私の首はとんだ。

 

「は?」

 

「きゃああああああああああああああああああああああッ!!」

 

間抜けな声を出すワンちゃんと悲鳴を上げるシル。それ以外のこの場にいる誰もが空いている口を閉じることができなかった。

だけど、私はその決定的な隙を見逃さなかった。

 

「なっ!?」

 

「はい、極まった」

 

スキルにより元に戻った私は呆けているワンちゃんにアキレス腱固めを極める。

 

「テメェ、なんで!?」

 

「生きているのか?そんなことは今はどうでもいい」

 

力を入れると苦痛を上げるワンちゃんは脱出しようともがく。

 

「諦めたほうがいい。いくら力を入れようと完璧に極まっている以上外すことはできないよ」

 

「クソ・・・クソが・・・」

 

さてと、と、一呼吸おいて私はワンちゃんに言う。

 

「さて、ワンちゃん。素直に負けを認めて『僕が悪かったです。貴女様の仲間様を馬鹿にしてごめんなさい』って言ったら離してあげる。だけど、言わなかったら」

 

アキレス腱を破壊する二歩手前まで力を入れる。それによりワンちゃんの顔は苦痛に歪む。

 

「ぐ・・・・う・・・・・だ、誰が認めるかよ・・・」

 

「そう」

 

苦痛で顔を歪ませながらも負けを認めないワンちゃんに敬意を表してアキレス腱を破壊しようとした時。

 

「そこまでや。この勝負ベートの負けや」

 

神ロキが勝敗の宣言を上げた。その宣言と共に私はワンちゃんを解放するとワンちゃんは神ロキにくってかかる。

 

「ふざけんな!何勝手に終わらせやがる!ロキ!」

 

「認めい、ベート。誰がどう見ても完全のこの子勝ちや。それに主神としてベートを失うわけにもいかへん」

 

自身の主神である言葉にワンちゃんは何も言わず黙っていた。私は店主の前まで行き食べた分代金を支払う。

 

「お騒がせして申し訳ありません」

 

「まったくだよ。大丈夫なのかい?」

 

「はい、ご心配ありがとうございます」

 

一礼してその場から去ってベルのところに向かおうとしたした時。

 

「ちょっと待ってくれへん?」

 

神ロキが話しかけてきた。

 

「自分、レベルはいくつや?」

 

「Lv1です。先日冒険者になったばかりですよ」

 

「Lv1がLv5のベートに勝てるとは思えへん。けど、嘘はついてへんな。それに首がとんで生きとるなんて普通はありえへん。今のはスキルかいな?」

 

「さぁ?ご想像にお任せします」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

何も言わず黙り合う私と神ロキ。だけど、少しして神ロキは諦めたかのように息を吐く。

 

「はぁ~、まぁええわ。そや、せっかくやしどこに所属しとるかと名前を教えてくれへん?」

 

「ヘスティア・ファミリア所属、柳田桜。以後お見知りおきを、神ロキ」

 

「ドチビのとこか!なんでドチビのところにこんな可愛くて優秀なのがいんねん!?なぁ、桜たん、ウチのところに来んへん?」

 

「申し訳ございませんが、それに応じる訳にはいきません」

 

「チッ。ドチビを見返すチャンスやったのに」

 

断りを入れる私に神ロキが舌打ちをするけど、それ以上の勧誘はしてこない辺り思いやりのある神なのだろう。

そう思っていると神ロキより前に小人族(パルゥム)が出てきた。

 

「僕はロキ・ファミリアの団長を務めているフィン・ディムナ。先ほどは君の仲間を侮辱したことについて正式に謝罪をしたい。後日、僕たちの本拠(ホーム)に来てはくれないだろうか?」

 

「わかりました。それでは明日にでもお伺いします。それでは仲間が心配ですのでこれで」

 

豊穣の女主人から離れながら先ほどのロキ・ファミリアの団長の言葉を考える。恐らく謝罪だけで終わることはないだろう。

 

「――ッ!」

 

突然、誰かの視線を感じて辺りを見渡すが周囲には誰もいない。視線をすぐに消えた。

 

「・・・面倒なことにならないといいのだけど」

 

本来の目的は一級冒険者の実力を知ることと、ロキ・ファミリアと関りを持つのが目的だったけどこれは・・・・・いや、今はそのことについて考えなくてもいいか。

私は自分の本拠(ホーム)へ戻るとそこにはベットで不貞寝している神ヘスティアがいた。

 

「何不貞寝しているのですか?神ヘスティア」

 

「あれ?桜君だけかい?ベル君は?」

 

「やっぱり戻ってきてないんですね」

 

息を吐く私は店先で起きたことを一通り神ヘスティアに報告すると、神ヘスティアは大量の冷や汗を流す。

 

「そんな・・・それじゃあ、ベル君はどこに?まさか!?」

 

「恐らくダンジョンに行っているのでしょうね。装備がここにあるということは碌に防具を身に着けずに」

 

ベルの腰には短刀があったはず、武器はそれだけだろう。

 

「桜君!今すぐベル君のところに行ってくれ!」

 

「わかってますよ。その為にいったん帰って来たんですから」

 

装備を整えて私もダンジョンへと向かおうとした時、突然神ヘスティアに止められた。

 

「ちょっと待っておくれ。君にも言っておかなければならないことがあるんだ」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた」

 

「さ・・・・桜」

 

ダンジョンの6階層にてベルを発見。

 

「神ヘスティアが心配してたぞ」

 

「・・・・・・ごめん」

 

私の一言に申し訳なさそうに謝罪するベルに私は溜息を出す。

 

「謝るのは私ではなく神ヘスティアにだ。ほら、帰るぞ」

 

「・・・・・・・」

 

帰るように促すが、ベルはそこから一歩も動くことはしなかった。いや、したくないのだろう。好きな女性の前であれだけ馬鹿にされたんだ。悔しくないわけないか。

理解してしまった私の口からまた溜息が出る。

 

「ベル。付き合ってあげるから朝には帰るぞ」

 

「え・・・桜?」

 

「今のベルには何を言っても無駄だからな。それに私は神ヘスティアからベルを連れて帰るように言われている。なら、こうするしかないだろう。それに」

 

ビキリ、ビキリとダンジョンの壁から新たなモンスターが産まれ、それ以外のモンスターに私とベルは囲まれている。

 

「まずはこの状況をなんとかしないと帰れそうにないしな」

 

「・・・うん」

 

短刀を構えなおすベル。私はすでにボロボロになっている剣をしまい、魔法の詠唱を始める。

 

「【凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界】」

 

素早く魔法の詠唱を終わらせ、私の両手には氷で出来た剣を握りしめる。

 

「【アイス・ソード】」

 

神ヘスティアの助言通り私は技名も唱える。私の魔法は詠唱は存在するが最後に発動させる技名というものがない。神ヘスティアは念のために嘘でもいいから技名も唱えておくように先ほど助言された。恐らく私はスキルだけでなく魔法もレアの類に入るのだろう。

 

「背中は任せろ。ベル」

 

「うん。なら僕も桜の背中を守ってみせる」

 

「期待してる」

 

それだけ言葉を交わして私とベルは正面にいるモンスターめがけて突進した。

 

そして、朝には二人で神ヘスティアよりお怒りを受けた。

 

 

 

 

 

 

柳田桜

 

Lv.1

 

力:I50→H104

耐久:I22→H123

器用:I34→I98

敏捷:I66→H104

魔力:I44→H101

 

《魔法》

 

【氷結造形】

 

・想像した氷属性のみ創造。

・魔力量により効果増減。

・詠唱『凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界』

 

《スキル》

 

【不死回数】

 

・カウント2。

・24時間毎にリセットされる。

・一度死ぬたびに全回復する。

 

【目的追及】

・早熟する。

・目的を追求するほど効果持続。

・目的を果たせばこのスキルは消滅。

 

 

 


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