ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「どうだい、今日からここにボク達が住むんだぜ?」
元【アポロン・ファミリア】の
これが私達の新しい家か・・・・。
教会の隠し部屋から一転して豪邸に住めるようになったことに嬉しくもあり前の家がちょっと恋しくなる。
それでもここから新しく始まるんだ。
変わらないのは借金返済ぐらいか・・・・・。
内心で苦笑いしていると【ゴブニュ・ファミリア】がぞろぞろと帰って行く。
「【舞姫】!いつでもうちに来てくれよ!」
「お前なら
手を振って帰って行く【ゴブニュ・ファミリア】の皆に私も手を振って返す。
「ありがとうございました!」
礼を言う私に【ゴブニュ・ファミリア】の皆はニヒルに笑みを浮かばせていた。
さて、では私も自分の部屋を見に行くか・・・・・。
「うん、いい感じだな・・・・」
私の注文通りにしてくれている【ゴブニュ・ファミリア】の皆には感謝しないと。
と、言ってもそこまでの要望は出してはいないけど。
質素と言える程の部屋だけど私が主に頼んだのは隣の部屋だ。
部屋の中にはもう一つドアがあり、そこを開けると書店のようにずらりと本が並んでいる。【アポロン・ファミリア】が所有していた本を全てこの部屋に集めて私専用の書庫にした。
私はまだこの世界のことをわかっていないことの方が多い。
その意味と趣味を兼ねてこの部屋を作るように要望しておいた。
「さて、さっさと終わらせて一息入れる時にまた来るか・・・」
私は荷物を運んで引っ越しを終わらせるとそろそろ【ヘスティア・ファミリア】の入団希望者が集まる時間帯だと気づいて先にどんな奴が来るのか見に行くことにした。
二十、いや、三十人は集まるかな?
出来れば常識を持っている奴が来てくれるとまだ助かるのだが、そこは私と神ヘスティアで見極めよう。
「あ、桜様。もう片付けを終わらせたのですか?」
「いや、そろそろ入団希望者が集まる時間帯だから先に見ておこうと思ってな」
歩いていると間取り図を持っているリリと出くわした。
私も簡単に見たが流石に少人数である私には広過ぎる。
「桜様、一つご相談があるのですが、
「・・・・いや、まだいいだろう。少なくとも私達自身がこの
「う~ん、それもそうですね」
私の言葉に合意するリリに誤魔化せたことを安堵する。
確かに私達だけじゃ広いから掃除も大変だろうけど、
「それにもしかしたらベルに好意を寄せて」
「ええ、桜様の提案通りにしましょう。そうしましょう」
決断したリリは屋敷の調査を続行する。
隠し通すのも楽じゃないな・・・・。
そう思いながら私は入団希望者が集まる屋敷前の庭まで顔を出すとまだ時間が来ていないにも関わらず正門前にはすでに数十人もの様々な種族の
速いな・・・・もうこんなに集まったのか。
ざっと見て五十人。だけど、時間までまだあると考えてまだ集まるだろう。
予想以上に集まっているが多くても入団させるのはこの中で十人位でいいだろう。
一気に増えると色々面倒だし、内輪揉めになる可能性もある。
まずはそれぐらいで少しずつ増やしていくのが理想かな?
入団希望者を眺めているとその中には
おい、何でお前がいる?お前は私の安寧と貞操の為に絶対に入団させないからな。
睨む私に
時間が経ち、正門が開かれて入団希望者は庭へと集まる。
「あ、桜!凄いね!?夢じゃないよね!?」
「ああ、現実だから安心しろ」
嬉しそうにはしゃいでいるベルを落ち着かせる。
「現実さ!、ベル君!ここにいる子達は、みんなボク等の【ファミリア】を選んでくれたんだ!!」
「
入団希望の理由を解説するリリが申し訳なさそうに私に言ってきた。
「さ、桜様目当てで入ってこられる方も大勢入られるかと・・・リリは思います」
「やめてくれ・・・・」
私に声をかけてくる男達は碌なもんじゃなかった。
そう、
それこそ種族問わずだ。
詩人のように語り掛けてくるエルフ。
堂々と正面から告白してくるドワーフ。
私に声をかける為に作戦を考えてまでくる
セクハラしてくる
それ以外にも街中や『豊穣の女主人』でも
軽く男性恐怖症になりそう・・・・・。
これもそれも全部あの
あいつがキッカケになったに違いない。
本当に嫌になる・・・・。
女性中心に入団させてみせよう。
「つ、ついに零細【ファミリア】脱出・・・・!!神様っ、やりましたね!?」
「ああ!【ファミリア】を発足してから苦節三ヶ月ッ・・・・・短いようで長かった!!」
私が落ち込んでいる横でベルと神ヘスティアは手を取り合って喜んでいた。
というより、普通に考えて三ヶ月は短いだろう・・・・。
「随分集まっているな」
「まあな」
屋敷からヴェルフが出てきたヴェルフはベルの様子を見て苦笑していた。
「嬉しそうだな、ベルは」
「今は放っておいてあげてくれ。時間が来たら一人一人私と神ヘスティアで面接する」
「ああ、桜とヘスティア様が面接した奴なら大丈夫だろう。俺も文句を言うつもりはないぜ」
「それじゃあ、そろそろ面接を開始するかな!」
意気揚々と言う神ヘスティアと一緒に
「へ、ヘスティア様ぁー!?」
命が叫び声を上げながら屋敷から飛び出してきた。
その手には見覚えのある用紙を持って。
「どうしたんだい、命君?」
「に、に、荷物の中からっ・・・・・・!!」
「まっ!?」
止めようとしたがそれより早く命が私達の前に用紙を突き出して叫んだ。
「借金二億ヴァリスの契約書がぁ――――――――――――――――――――!?」
瞬間、時は止まった。
「ぶうっ!?」
噴き出した神ヘスティア。それと二億という言葉に私と神ヘスティア以外、入団希望者達含めて目が点になった。
はぁ・・・・よりにもよってこんなところで・・・・・。
頭を押さえる私。石像のように固まる神ヘスティア。
そして、凍結するベルは二億という言葉に意識を手放した。
「ふ、ぁ――――」
「べ、ベル様ぁー!?」
「おい、嘘だろ・・・・・・?」
阿鼻叫喚の中、波のように入団希望者は去って行った。
「はぁ~」
私の口からは溜息が出た。
リリ達がベルの看病と神ヘスティアを問い詰めている間、私は後始末をしていた。
ギルドや街中で貼って行った入団希望者の広告紙を剥がす為に。
剥がしながら冒険者達に借金漬けの爆弾【ファミリア】と後ろ指を指されている。
ギルドからの徴収される分も引いて残った金で【ファミリア】の為にあちこち動いて必要な物を買ったり、これからのことも考えて貯金もした。
色々考えて行動してやっと頑張って一億二千万ヴァリス返済したんだぞ・・・・。
三億二千万という借金を必死に返済していき、漸くそこから一億二千万を返済し終えた私の努力はいったいなんだったんだろうか・・・・・?
はぁ、本気で【ロキ・ファミリア】に行きたくなった・・・・。
「凄い噂が広まっていますね、桜」
嘆いている私の後ろからリューが声をかけて来てくれた。
「まぁ、事実だから仕方がないけど・・・・ん?」
振り返ると昨日の銀髪のエルフの女の子がリューの後ろに隠れながらこちらを窺っていた。
「ティア。この人が貴女を助けてくれた桜だ」
リューの言葉に頷くティアは恐る恐ると私に近づいて頭を下げる。
「・・・・あ、ありがとう、ございま、す・・」
途切れながら礼を言ってくるティアに目線を合わせて頭を撫でる。
「どういたしまして。怪我はもういいか?」
頭に手を置くと一瞬驚いたようにビクッとなったが撫でたおかげか表情が緩和していた。
「は、はい。あの、その、えっと・・・」
何か言いたげになるティアにリューが嘆息しながら代わりに答えた。
「ティアは桜の【ファミリア】に入りたいようです」
「そうなのか?」
確認するとコクリと小さく頷くティア。
「助けてくれたお礼がしたいとティアはそう言っていました」
リューの言葉に何度も頷くティアに私は少し考える。
ティアは見た感じまだ10歳も超えていない。
いや、でも冒険者に年齢は関係ないのか・・・・。
流石に入団数ゼロは私も嫌だし、ここで礼がしたいというティアの好意を断るのも気が引ける。
私はティアに手を差し伸ばす。
「それじゃ、私の主神のところに行こうか」
私の言葉にティアは嬉しそうに私の手を掴む。
その嬉しそうな笑顔が私の心を浄化してくれているように眩しかった。
「それでは私は買い出しの途中ですので、これで」
「わかった。じゃ、また」
そこで私とリューは別れて私はティアと手を握り、新
名前はティア・ユースティ。
盗賊に襲われてとある貴族に売られたティアはその貴族に虐待を受けていた。だが、何とか隙を見て商人の荷物に紛れてこのオラリオに流れ着いた。
しばらく街中を放浪していると力尽きて倒れたらしい。
災難だったな、と思いながら私は全員がいる
「ただいま」
「あ、桜!?どうして今まで黙っていたの!?桜は知っていたんだよね!?」
「お前が二億のナイフを使っていると知ったらそれに恐れて使わないようになると思ったからだよ。それより朗報だ。入団希望者を連れてきたぞ、ティア」
『え?』
私の後ろに隠れているティアの姿を見たベル達は目を見開いているなかでティアは恥ずかしそうに俯きながら私の後ろから出てきて頭を下げる。
「ティ・・・ティア・・・ユースティ・・・・です・・・」
大勢の前で喋るのが恥ずかしいのかすぐにまた私の後ろに隠れる。
そして、突然の入団希望者に呆然としているベル達は―――――歓喜した。
「やったっ!やったよ!?ついに一人目の入団者が来てくれた!?」
「うん、うん、そうだね、ベル君!ボクも嬉しいよ!ティア君!ボクが主神のヘスティアさ!君を歓迎しよう!」
「よっしゃ!もうダメかと思っていたぜ!」
「リリも歓迎します!ええ、歓迎しますとも!桜様!グッジョブです!ティア様ならリリも安心です!」
「自分も感激です・・・・」
ティアの登場に歓喜するベル達にティアは嬉し恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。
全く喜びすぎだろう。
まぁ、気持ちはわからなくともないけど。
入団希望者がゼロだと思われていた矢先にティアの登場だ。
必要以上に喜ぶのも頷ける。
というより、リリ。お前の言う安心はベルを狙わないという意味で言ったろ?
「よし!そうと決まればティア君の歓迎会を開こうじゃないか!?」
「ええ、しましょう!盛大にしましょう!」
「僕、食材を買ってきます!」
「ベル殿!自分も手伝います!」
「なら、俺は酒の準備でもしてくるか」
喜びがいつの間にヒートアップしてティアの歓迎会を行おうとするベル達。
いや、待て。歓迎会をするのは賛成だがこの調子だとまずい。
「お前ら少しは落ち着いて―――」
落ち着かせようとしたがすでにヒートアップしているベル達の耳には私の声は届かなかった。あっという間にティアの歓迎会は開かれて皆でティアを歓迎した。
歓迎会終了後、私と落ち着きを取り戻したリリはかかった費用に頭を悩まされた。
今度から【ファミリア】の金銭管理は私がしよう。
そう強く決意した。
そして、ティア・ユースティは私達の【ファミリア】の一員となった。
ティア・ユースティ
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【シルワトゥス】
・治癒魔法。
・対象者の傷を癒す。
・詠唱式『森林の恵みよ、この者に妖精達の加護を』
【アミュレ・リュミエール】
・障壁魔法。
・物理、魔法攻撃を防ぐ。
・詠唱式『鉄壁の守り、堅牢の盾。邪悪な力を跳ね返す森光の障壁よ。我を守護せよ』
《スキル》
【
・心に勇気を持つ。
・行動により低確率で奇跡が起きる。
「これがティア君の【ステイタス】だよ・・・」
歓迎会終了後で神ヘスティアを起こしてティアに『恩恵』を与えた。
皆が
「魔導士タイプだな・・・・」
治癒と障壁の魔法。流石は魔法に秀でているエルフ。
私達が喉から手が出る程欲しい人材だ。
だけど、気になるのはこのスキルだ。
私の太股を枕に寝ているティアに視線を向ける。
【
奴隷が逃げたらどうなるかはだいたいの想像がつく。
でもそれでもティアは逃げ出してこのオラリオに来て、私と出会った。
勇気を持って逃げ出して、奇跡的に私と出会った。
それは偶然か、必然か、もしくは奇跡か。
苦笑しながら私はティアの髪を撫でる。
「まぁ、でもまだダンジョンにはつれては行けないか」
見ていてわかった。
ティアは人に恐怖心を抱いている。
奴隷として生活をしていたのだから当然と言ったら当然か。
まずは人に慣れさせてからダンジョンに行かせないと・・・・。
「神ヘスティア・・・・寝ていやがる」
「ヴァレン何某君・・・・それはボクの・・・ジャガ丸君だ・・・・」
寝言を言いながら気持ちよさそうに寝ている神ヘスティアに呆れながら私はグラスに注がれている酒を一口飲む。
「まぁ、これが私達らしいと言えばらしいか・・・・」
ティアには明日から神ヘスティアと一緒にジャガ丸くんの売り子を手伝って貰うとして私もちょっと動くとしよう。
最近、頼りすぎて少し申し訳ないけどあの人以上に知っている人はいないだろうし。
ティアの歓迎会から翌日の朝。
「朝から申し訳ありません、リヴェリアさん」
私は【ロキ・ファミリア】の
【ロキ・ファミリア】の
「構わんさ、それより
「ありがとうございます。早速で悪いのですが一つ相談が」
「ほう、また無茶ことでも言うつもりか?」
微笑みながらからかってくるリヴェリアさんに私は首を横に振って否定する。
「違いますよ。実は私達の【ファミリア】にエルフの女の子が入団してくれまして、どこかに魔導士専用の店はあるでしょうか?」
「なるほど。入団祝いにその子に何かしてあげたいということか」
納得するように頷くリヴェリアさんの表情はまるで子供の成長に喜ぶ母親のように感じたのは私の気のせいか?
それからリヴェリアさんから魔導士専門店である『魔女の隠れ家』の場所を教えてもらった。
「ありがとうございました」
「もう行くのか?せっかくなんだ、アイズに会って行くといい。きっと喜ぶ」
「いえ、実はまだ引っ越しの作業も残っていますので早く帰らないと行けないんです」
「そうか。それなら仕方がないか。それでは桜。また来てくれ」
「失礼します」
用事を終わらせて私は【ロキ・ファミリア】の
門番の人達からも「またな~」って声をかけられるし、本当に友達感覚になっているな。
まぁ、さっさとリヴェリアさんが教えてくれた『魔女の隠れ家』に行って、帰ったら私も引っ越しの作業を終わらせないと。
そして、早速そこを見つけた私はレノアという魔女の店から百万ヴァリスする杖を購入した。
問題は喜んでくれるといいんだが・・・・。
そんな不安を抱えながら