ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
【アポロン・ファミリア】の連中に会って姉さん達に慰められてからしばらく経った頃。
私と同じ日にベル達も【アポロン・ファミリア】の連中に絡まれていた。
ただし、そこには【アポロン・ファミリア】の団長である【
「ふ~ん、なるほどね、喧嘩かー」
ヒュアキントスにボコボコにされたベルとヴェルフの治療しながら神ヘスティアは間の抜けた声を出す。
それにしてもまさかワンちゃんがいたのが幸いだったな。
運よく『焔蜂亭』にいたワンちゃんのおかげで何とかなったが万が一神ロキ達と一緒に『豊穣の女主人』に来ていたらベル達が危なかったな。
今度ドックフードでも持っていてあげよう。
「ベル君が思ったよりやんちゃで、ボクは嬉しいような、悲しいような・・・」
「まぁ、ベルも男ですから喧嘩の一つぐらいしてもおかしくはないでしょう」
「きっとヴェルフ様と桜様の影響です!お二人に会ってからベル様はどんどん
「おいおい、それは言いがかりだろう」
「全くだ・・・・・」
だけど、厄介事になったのは間違いないな。
私とベルのところに【アポロン・ファミリア】が来ていたということはこれは偶然ではなく必然の出来事。
更にどちらも私達を罵倒していた。
私は手は出してはいないがベル達が手を出しているとなれば何かを吹っ掛けてくる可能性はあると踏んでいいだろう。
「でも、やっぱり喧嘩はよくないぜ?サポーター君の言う通り、しっかり怪我までしているじゃないか」
「だって、あの人達っ、神様を馬鹿にしたんですよ!?」
初めて見たかもしれないベルが神ヘスティアに反抗したの。
でも、私はそれに関して何とも言えない。
神ヘスティアが馬鹿にされても私は反論出来なかった。
事実だったからな・・・・・・・・。
「君がボクのために怒ってくれるのはとても嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭ってしまう方が、ボクはずっと悲しいな」
「・・・・・・」
その言葉にベルは何も言い返せなかった。
まぁ、立場が逆だったとしても同じ結果だろうけどそれでも神ヘスティアの言葉は正しいだろう。
「まぁ、ベルも次は我慢しろよ」
神ヘスティアに慰められているベルに私は簡潔にそれだけ告げる。
「それじゃあ桜君のところにも来ていたんだね。アポロンのところの子は」
「はい。手口はベル達と全く同じでした」
ベルがギルドに行ったのを見計らって私と神ヘスティアで私達に絡んできた【アポロン・ファミリア】のことについて話し合っていた。
「まったく、アポロンの奴いったい何が目的でベル君と桜君を・・・・ッ!」
怒る神ヘスティアに私は自分の推測を話した。
「恐らくですけど【アポロン・ファミリア】は、いえ、ここは神アポロンとしましょう。神アポロンは私達にちょっかいをかけて何かを企んでいると思います。そうでなければあんな三文芝居なんてしなかったでしょうし」
「だろうね・・・・。問題は何を企んでいるかだ」
そう、問題はそこだ。
神アポロンは何が狙いで私達にちょっかいを出してきたのか。
こんな零細ファミリアで価値があるものとしたら私かベルぐらいだが。
まぁ、向こうから仕掛けてきたのだから近い内に何かあるはずだ。
そう思案する私に神ヘスティアは頭を撫でてきた。
「桜君はよく耐えてくれたね・・・・怪我がなくてよかったよ」
慈愛の女神のような優しい笑みを浮かばせる神ヘスティア。
ごめんなさい、全然耐えても、我慢もしていません・・・・・。
あの後も妙に優しい皆から励まされながら仕事をしていたからそんなこと言えなかったんだよな・・・・・。
今だって普段は見ることができない女神らしい神ヘスティアの笑みを直視できなかった。
この事は一生黙っておくとしよう。うん、それがいい。
そう決意しているとベルが帰って来た手紙を持ちながら。
「神様、桜・・・・【アポロン・ファミリア】から招待状を貰ったんだけど」
神アポロンは動き出していた。
【アポロン・ファミリア】が開催する『神の宴』に私達は来ていた。
本来なら神だけの宴だが、趣向を凝らしているのか眷属を数名引き連れていいことになっていた。間違いなくこの宴で何かしてくるだろうと睨んでいる私と神ヘスティアは取りあえずは警戒をしている。
「似合っているぜ、ベル君、桜君。恥ずかしがらなくても大丈夫さ」
そわそわと切ないベルに神ヘスティアは褒める。
「そ、そうですか?僕なんかより桜の方が様になっているような・・・」
「そうか?」
私は着ているドレスを見渡す。
純白で覆われたドレスに胸元と背中が大胆にも空いている為か少し寒い。
「英雄譚に出てくるお姫様みたいだよ」
「それは褒めすぎだ、ベル」
私が姫なんてあるわけがない。いや、確かに二つ名に姫はついているけど私より姫に相応しい人がいるだろうが。
「すまぬな、ヘスティア、ベル、桜。服から何まで、色々なものを世話になって」
私達より後の馬車から降りてくる神ミアハとその眷属である
広間に着くとそれぞれの【ファミリア】とその眷属達を引き連れている。
眷属自慢する神達も入れば退屈そうにする神や眷属もいる。
「あら、来たわね」
「ミアハもいるとは意外だな」
「ヘファイストス、タケ!」
神ヘファイストスと神タケミカヅチが声をかけて来てくれた。
神タケミカヅチの隣ではガチガチに緊張している命の姿も。
命と少し話そうと思っていたがあそこまで緊張していると今は無理か。
私は先に神ヘファイストスと神タケミカヅチへと挨拶した。
「お初にお目にかかります。主神ヘスティア様の眷属、柳田桜と申します。以後お見知りおきを」
会釈する私に神ヘファイストスと神タケミカヅチは笑みを浮かばせながら挨拶してくれた。
「初めまして、貴女が桜ね。貴女のことはそこの馬鹿から聞いているわ。よろしくね」
「はい。いつもうちの主神がお世話になっております」
「・・・・そうね。しっかり教育してあげてちょうだい」
「ボクは君の子供か!?桜君!」
養われているからある意味そうだろう。
「それと刀。ありがとうございます。大切に使わさせていただいております」
「・・・・そう、それはよかった。大切に使ってね」
「はい」
嬉しそうに目を細めながら言う神ヘファイストス。
「俺がタケミカヅチだ。この間はすまなかったな」
「いえ、命さんには助けられました。それに桜花さんには体を張ってうちの団長であるベルを守っていただきました。お互いまだまだ未熟な身同士仲良くして行きたいと思っております」
「・・・・そうか、ありがとう。これからもうちの子達と仲良くしてあげてくれ。命」
「ひゃ、ひゃい!」
緊張しすぎで声がおかしくなっている命だがガチガチになりながらも手を差しだしてきた。
「よ、よろしくお願い致します、桜殿」
「こちらこそ」
握手し合う私と命。命もどうやら少しは緊張が解けたようだし、もう大丈夫かな。
「桜君・・・・・何故君はそんなに手慣れているんだい!?もしかしてどこかの貴族だったりするのかい!?」
「そんなわけないでしょう」
この程度なんか前の世界で身につけなければならない必須スキルなんだから身に着けていて当たり前だったからな。
「―――――やぁやぁ、集まっているようだね!オレも混ぜてくれよ!」
「あ、ヘルメス」
大きな声で振り返るとそこには神ヘルメスとアスフィさんがいた。
私達の前で人当たりのいい笑み浮かべながら一人ずつ褒める。
「やぁ、桜ちゃん。君は美しいを体現したように見えるよ!」
「どうも」
褒める神ヘルメスに私は素っ気なく返すが神ヘルメスは気にも止めなかった。
『―――――――諸君、今日はよく足を運んでくれた!』
と、高らかな声が響き渡った。
大広間の奥に人柱の男神、アポロンが姿を現した。
口上を述べる神アポロンに乗りのいい神達は喝采を送っていると不意に神アポロンの視線がこちらに向いた。
私達が来て狙い通りって顔だったな・・・・・。
その狙いが何なのかは定かではないが警戒は強めた方がいいかな。
『今日の夜は長い。上質な酒も、食も振る舞おう。ぜひ、楽しんでいってくれ!』
神アポロンの挨拶が終わり大広間が騒がしくなる。
さて、どうしようか?せっかくだし、何か食べておこうか。
そう思って早速料理に手を付けようと思った時。
「やぁ、【舞姫】。とても素敵なドレスだね」
どこかの【ファミリア】であろうエルフが私に話しかけてきた。
「はぁ、どうも」
「だけど、そのドレスの美しさを引き出しているのは君自身から溢れる魅力かな?」
ウザい、と心底思った。
そういえば私が知っているエルフって女性しか知らなかったな。男のエルフはこんな感じなのか?いや、それは偏見だな。
「おい、そこのエルフ」
私とエルフに割り込むように今度は男性の
「胡散臭い言葉述べてんじゃねえよ。【舞姫】が戸惑ってんじゃねえか」
「何を言う。私は正直な気持ちを述べたまで。犬は外で待機でもしておきたまえ」
敵意がぶつかり合うエルフと
なにこれ?
どうして私の目の前でこんな修羅場みたいなことが起きてんだ。
こういうのはベルの役目だろう。
取りあえず料理は諦めてここを去るとしよう。
どこの【ファミリア】かまでは知らないけど面倒事はゴメンだ。
「【舞姫】!この後俺と一曲どうだ!?」
「いいや、僕と踊ってくれ!」
「こんな奴らより、ぜひ私と」
去ろうとした瞬間、我こそはと私に押し寄せてきた。
いや、本当になにこれ?
「ごめんなさい!」
取りあえず頭を下げてその場を去って神ヘスティアのところに来るとニヤニヤ顔の神ヘスティアがそこにいた。
「いや~、モテるね。桜君。ボクも鼻が高いよ~」
「・・・・・こっちは迷惑ですよ」
踊る為にこんなところに来たわけじゃないんだから。
その時、私は感じた。
嘗め回すような視線に。
この感じは・・・・。
私は視線を感じる方向には神フレイヤが歩いて来ていた。
「フレイヤを見るんじゃない、ベル君!!」
「へあっ!?」
ベルに体当たりするようにベルの視線をベルに向かせないようにしていた。
神フレイヤはオッタルを引き連れて私達のところまで来た。
「来ていたのね、ヘスティア。それにヘファイストスも。
「っ・・・・・やぁフレイヤ、何しに来たんだい?」
威嚇するなよ、神ヘスティア。
動物のように神フレイヤに威嚇する神ヘスティア。
今にもグルル・・・って唸りそう。
「別に挨拶をしに来ただけよ?珍しい顔ぶれが揃っているものだから、足を向けてしまったの」
蠱惑的な視線に男神達はデレデレとしていたが、自分の子に足を踏まれて悲鳴が飛んだ。
流石は美の女神というところか・・・・。
そんな神フレイヤはベルの頬を撫でる。
「―――――今夜、私に夢を見させてくれないかしら?」
「――――見せるかァ!!」
神フレイヤが尋ねると同時に神ヘスティアが吠えた。
もう完全に猛犬のような反応ですよ、神ヘスティア。
すると、神フレイヤは私の方へとやってきて結んでいる三つ編みに触れると小さな声で言ってきた。
「ちゃんと守っていてくれて嬉しいわ」
神フレイヤに結ばれてから毎日ここだけは小さく三つ編みにしている。
「こらっ!桜君にも近づくんじゃない!フレイヤ!」
また吠える神ヘスティアに神フレイヤは楽しそうに微笑む。
「ヘスティアの機嫌を損ねてしまったようだし、もう行くわ。それじゃあ」
オッタルと一緒に離れていく神フレイヤを見て私は息を吐く。
味見しにきたのと、確認をしにきたってところか・・・・。
「―――――早速、あの色ボケにちょっかい出されたなぁ」
聞き覚えのある声に振り返るとそこには何故か男性用の正装をした神ロキとドレスを着た姉さんの姿が。
姉さんのドレス姿に言わずともベルは赤面する。
「姉さん。似合ってるよ」
「ありがとう。桜も可愛いよ」
薄い緑のドレスを着こなす姉さん。うん、やっぱり私より姉さんのほうが姫だろう。
「おおっ!?桜たんのドレス姿や!ごっつい可愛いで!」
興奮気味に親指を立てて褒めてくれる神ロキ。
「ありがとうございます、神ロキ。ですが、私は貴女のドレス姿が見れなくて少々残念です」
「ふん!何を言っているんだい桜君!こんな絶壁にドレスなんて似合うわけないじゃないか!?」
「なんやとこのドチビィィ!?」
喧嘩を始める神ヘスティアと神ロキ。
ドレス傷つけないでくださいよ、借り物なんだから。
とりあえず姉さんと一緒に喧嘩を止めさせると神ロキがベルの方に視線を向けた。
「ふーん、その少年がドチビのもう一人の眷属か・・・・」
無遠慮にベルを見た神ロキの感想は。
「何だかぱっと冴えんなぁ。桜たんとアイズたんとは天地の差や!」
とても冷たい感想にベルは落ち込んだ。
それを聞いた神ヘスティアの頬が痙攣しているがこれ以上もめ事が起こっても面倒なので代わりに私が神ロキに言い返した。
「神ロキ。ベルの素晴らしさは何も見た目だけではありませんよ。先ほどの言葉は早計かと私は思います」
「ぬぅ、桜たんがそこまで言うんかい・・・・」
ベルをフォローする私に神ロキが呻く。
「そうだそうだ!そっちのヴァレン何某よりボクのベル君の方がよっぽど可愛いね!兔みたいで愛嬌がある!!」
「笑わすなボケェ!うちのアイズたんの方が実力もかっこよさも百万倍上や!?」
結局のところ眷属自慢を始める神ヘスティアと神ロキ。
まったく余計なことを言わないで下さいよ、神ヘスティア。
結局のところまた私と姉さんで主神を止めて離れて行った。
「桜・・・・またね」
「うん、また」
ご立腹の主神たちを無視して私と姉さんは挨拶して離れる。
「つ・・・疲れた・・・」
会場の端で私は壁に背を預けて休む。
動きづらいドレスに言い寄ってくる神やその眷属達に流石に疲れた。
何で姉さんじゃなくて私に言い寄ってくるんだよ。いくら姉さんは二大派閥の一角の【ファミリア】で私は零細ファミリアだとしてもそこは度胸で姉さんにも向かって行けよ。
愚痴を言う私は葡萄酒を一口飲んで落ち着きながら神アポロンに視線を向ける。
今のところ特にこれということはしていない。ただ神同士で話をしているだけ。
だけど、何を言ってくるかわからない以上色々対策は考えていた方がいいか。
幸いにも後ろ盾になってくれている神ロキがいる。
いざとなればハッタリでもかまして何とかしてみよう。
そう考えていると曲が流れ始めた。
何人かの人達は手を取り合って踊り始める。
あー、ダンスが始まったか・・・・。
曲が流れて踊り始める人達を見て私はあることを考えた。
だけど、正直なところはしたくはないのだが、保険はかけておくとしよう。
私は男神達に囲まれている神フレイヤのところに歩み寄る。
「おおっ!【舞姫】ちゃん!俺と一曲どう!?なんなら【ファミリア】に来てもいいよ!?」
「よっしゃリベンジだ!【舞姫】!俺とぜひ!」
手を差しだしてくる男神達に私は頭を下げて断る。
「申し訳ございません。私の相手はもう決めていますから」
私は神フレイヤに手を差しだす。
「私と一曲願いますか?女神フレイヤ」
「ええ、喜んで」
微笑みながら手を握ってくる神フレイヤと私は踊り始める。
『うおおおっ!【舞姫】にフレイヤ様を取られた!』
『一発OKだと!?【舞姫】何者なんだ!?』
『【舞姫】、いや、【百合姫】・・・・いいかも』
騒ぐ男神達を無視して私と神フレイヤは曲に合わせて踊る。
『うおおおおおおおおおっ!?桜たん!何でフレイヤと踊っとんねん!?』
『なぬっ!?フレイヤめ!ベル君だけじゃなく桜君まで食べるつもりか!?』
驚く主神を無視して踊っていると神フレイヤが私に話しかけてきた。
「ふふ、貴女から誘ってくれるとは思ってもみなかったわ」
「私も誘う気も踊る気もありませんでしたよ。でも保険をかけておこうと思いまして」
微笑する神フレイヤに私は正直に話す。
「私達は神アポロンに狙われている可能性があります。その為の保険を作っておこうと思いましてね」
「正直なのね。それで私は何をすればいいのかしら?」
「今のところはまだ決まっていませんがいざという時僅かでいいので貴女のお力をお借りしたい」
「それなら私を楽しませてちょうだい」
微笑みながら告げる神フレイヤに私も微笑みながら応えた。
しばらくして神フレイヤは満足そうにオッタルのところへ戻って行った。
どうやら保険は何とかなりそうだな・・・・・。
「桜たん!何でフレイヤと踊るん!?うちとも踊ってな!?」
少しだけ安堵していると今度は神ロキが私のところに来た。
まぁ、後ろ盾になってくれているしそれぐらいは応じよう。
「それでは神ロキ。私と」
「もちろんや!!」
最後まで聞かずに私の手を握り締める神ロキ。
『おおっ!【舞姫】、今度はロキと!?』
『無乳神と【舞姫】!?』
『何で【剣姫】とじゃねえんだ!?』
私と神ロキは踊りながら私は神ロキから神アポロンの情報を聞いた。
「神ロキ。神アポロンとはどのような神なのでしょうか?」
「・・・・・桜たん、アポロンには気をつけたほうがええよ。あの神は正真正銘の変態や。執念深く、求愛し続ける神なさかい気を付けたほうがええ」
執念深く求愛を続ける変態の神か・・・。
神アポロンの情報を神ロキより聞いていると不意に視界に姉さんとベルが一緒に踊っている姿が視界に入る。
「ん?どないしたん?」
「いえ、踊りましょうか」
ベルよ。こっちの神様は何とかしてやるからしっかりと姉さんと踊るといい。
既にうちの主神は気付いているがアスフィさんが押さえられているところを見ると神ヘルメスがベルにそう仕向けたのだろう。
ほんの少しだけ神ヘルメスに感謝しておこう。
神ロキとの踊りもベルと姉さんの踊りも無事に終わって神ヘルメスを処刑して戻って来た神ヘスティアがベルと踊ろうした時。
「―――――――諸君、宴は楽しんでいるかな?」
とうとう警戒すべき神アポロンから私達に接触してきた。
「盛り上がっているようなら何より、こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」
適当な言葉を並べた後、神アポロンは神ヘスティアに視線を向けた。
「遅くなったが・・・・ヘスティア。先日は私の眷属が世話になった」
「・・・・ああ、ボクの方こそ」
「私の子は君の子に重傷を負わされた。代償をもらい受けたい」
「言いがかりだ!?ボクのベル君だって怪我をしたんだ、一方的に見返りを要求される謂われはないぞ!」
「だが私の愛しいルアンは、あの日、目を背けたくなるような姿で帰ってきた・・・・私の心は悲しみで砕け散ってしまいそうだった!」
演劇じみた態度を取る神アポロンに私達に歩み寄ってくる全身を包帯で巻いているルアンという
明らかに嘘っぱちな三文芝居だ。脚色しすぎだろう。
更に神アポロンはベル達がいたであろう『焔蜂亭』の客達を連れて神アポロンの言葉を肯定している。
やっぱり全ては仕込んだうえで私達をここに招き寄せたのか。
「待ちなさい、アポロン。貴方の団員に最初に手を出したのはうちの子よ?ヘスティアだけを責めるのは筋じゃないでしょう?」
「ああ、ヘファイストス、美しい友情だ。だが無理はしなくていい、ヘスティアの子が君の子をけしかけていただろうことは、火を見るより明らかだ」
証人とこの場での発言力が一番強い神アポロン。
下手に言ってもこちらの立場がまずくなる一方だ。
「団員を傷付けられた以上、大人しく引き下がるわけにはいかない。【ファミリア】の面子にも関わる・・・・ヘスティア、どうあっても罪は認めないつもりか?」
「くどい!そんなものは認めるものか!」
その言葉を聞いた神アポロンは醜悪な笑みを浮かばせた。
「ならば仕方ない。ヘスティア―――――――君に『
それを申し込ませるためにここまで手の込んだ三文芝居を考えていたのか。
娯楽好きな神達も神アポロンの言葉に面白おかしく騒めきだす。
「我々が勝ったら・・・・柳田桜をもらう」
・・・・・・なるほど、全ては
神ロキといい、神フレイヤといい、何で私を欲しがるんだよ。
「――――駄目じゃないかぁ、ヘスティア~?こんな可愛い子を独り占めしちゃあ~」
欲望まみれの醜悪な顔で笑う神アポロンに悪寒を感じた。
侮蔑を込めた眼で見ても神アポロンは効果はなかった。
今、流れは神アポロンにある。
そして、向こうは嘘っぱちとはいえ証人がいる上にルアンという証拠もある。
私も姉さんと神ロキという証人がいるが口裏を合わせていると言われたらそれでお終いだ。物的証拠を出さない限りこの流れは切ることはできない。
でも、乱すことはできる。
私は視線を神ロキに向けると神ロキも私の考えに気付いたのか頷く。
「ちょい待ち、アポロン。その
私に近寄り神アポロンに声をかける神ロキ。
「それはどういう意味だ?ロキ。今回、君の【ファミリア】とは何の関係もないはずだが?これは私とヘスティアの【ファミリア】同士の問題だ。部外者である君が割り込んでいいものではないぞ」
「ところがどっこい関係あるんや」
神ロキは私の肩に手を置いて神アポロンに告げる。
「うちはこの子、桜たんと取引でドチビの【ファミリア】と契約しとる。気には喰わへんがドチビ、桜たん達に手を出すつーことはうちらも敵に回すってことやで?」
「なに!?」
「なっ!?」
「えっ!?」
神ロキの言葉に周囲は一驚するが神ヘスティアとベルはポーカーフェイスぐらいしろ。
驚く神アポロンだがすぐに冷静に言い返した。
「冗談はよしてもらおう、ロキ。君ほどの派閥が零細であるヘスティアの子とまともな取引ができるわけがない」
「そんなことあらへんで。桜たんからはこれ以上ないぐらいものを貰っとる。少なくとも対価に見合うものほどにな」
「ほう、それはいったいなんだというんだ?」
「それを教えたら取引の意味がないやろ?それとも自分は取引の材料を他に教えてるんか?それやったら信用を無くすで?アポロン」
「・・・・・・・・・」
神ロキの言葉に黙る神アポロン。
神ロキの言葉で何とか流れを乱すことはできたが所詮これはハッタリ。
最初に神アポロンが言っていたようにこれは【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の問題。それを主張されたら終わりだ。
一応はそれ以外も手は打ってはいるがまだ確定ではないからな。
「それに桜たんはうちのお気に入りや。いずれはドチビのところから引き抜くつもりを横から引き抜こうゆーなら戦争や、アポロン」
「・・・・・・今日はこれでお開きとしよう」
それだけを告げて神アポロンは従者をつれて去って行った。
「ふぅ、助かりました。神ロキ」
「いいねん、桜たんがあんな変態の手に渡るゆーなら本気でアポロン潰そうと思ったし」
マジで言っているな、この神。
「というかどういうことだい!?桜君、君はいったいいつの間にロキと取引をしたんだい!?」
「ドチビよりうちの方が信用されとる証拠や。諦めて桜たんのうちによこせや」
「誰があげるものか!?桜君はボクのだぞ!?」
言い争いを始める神ロキと神ヘスティア。
神ロキのおかげでこの場は何とかなったが、これで終わったとは思えない。
―――――アポロンは執念深い。
もし、その通りならまだ諦めていないはずだ。念の為に【タケミカヅチ・ファミリア】と協力を要請しておくとしよう。少なくとも私かベルと行動を共にしてくれるはずだ。
そうして【アポロン・ファミリア】が開催した『神の宴』は終わりを告げた。