ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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酒場で

都市はざわめいていた。

冒険者達はギルド本部巨大掲示板に貼り出された、とある羊皮紙を唖然と見上げる。

 

――――――所要期間、半月。

 

――――――柳田桜、Lv.3到達。

 

その情報は都市中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。お客様二名はいりまーす!」

 

リヴィラの街で起きた異常事態(イレギュラー)の黒いゴライアスを倒した私達は無事に地上へと帰還した。

何故あのような事態が起きたのかは未だに解明されていないが全員が無事で帰還できたことに喜ぶとしよう。

 

「お待たせしました」

 

ギルドからは『神災』として神達が原因であると断定されて、激しい警告とともに罰則(ペナルティ)として【ファミリア】の資産の半分を払わなければならなかった。

 

「お一人様ですか?カウンターでもよろしいでしょうか?」

 

まぁ、幸いなことに【ロキ・ファミリア】が預かってくれているゴライアスの魔石とドロップアイテムは無事だった。

ドロップアイテムも商業系【ファミリア】に高く売ることができたし、これで多少なりは神ヘスティアが作ってくれた借金は返すことができた。

 

「桜ー、何現実逃避してるニャー。キリキリ働くニャー」

 

「わかってるよ・・・・・」

 

アーニャに声をかけられて私は料理を運ぶ。

リヴィラの街から帰還した私は【ランクアップ】してLv.3へと到達した。

ここ数日は治療に専念していたが、リヴィラの街で無茶な戦闘を行って皆に心配かけた罰として私は『豊穣の女主人』でアルバイトをしている。

 

「桜にはいい薬だ。しばらくはここで働いた方がいい」

 

同じリヴィラの街で戦ったリューは嘆息しながらそう言ってくる。

 

『桜君は一度ダンジョンから離れてここで働くんだ!』

 

神ヘスティアからそう言われてミア母さんの許可を得て今はウェイトレスとして働いている。

 

『おい、あれ【舞姫】じゃないか?』

 

『ああ、最速でLv.3へ到達した』

 

『ウェイトレス姿の【舞姫】・・・・いい』

 

少なからず私のことが知られ渡っているせいか噂話と視線が多い。

それ以外にも私のことを一目見ようと店に来る客も大勢いるらしい。

 

「桜さん、有名人ですからお客さんも多く入ってきて儲かっているとミア母さん喜んでいましたよ」

 

シルが耳元で私にそう言ってくる。

私は客寄せのマスコットか・・・・・・。

はぁと溜息が出ながら私はせっせと働く。

客を席へ案内したり、注文を取ったり、料理を運んだり、片付けたり、一休憩すると今度は買い出しと料理の仕込みとやることが多い。

人気のある『豊穣の女主人』だから忙しいけど前の世界でアルバイトしていた時のことを思い出していた。

ベル達は今頃、『焔蜂亭』で楽しんでいるだろうな・・・・・。

ここでは違う酒場でベル達はヴェルフの【ランクアップ】のお祝いをしている。

私も行きたかったが私がここで働きだしてから客足も増えて忙しく休ませてくれなかった。私も【ランクアップ】したのにな。

そう思いふけっていると店の入り口から足音が聞こえて笑顔を作って挨拶する。

 

「いらっしゃいませ」

 

「桜たんや!?」

 

瞬時、私は凍った。

店に来たのは神ロキと姉さん、それにディムナさん達。

 

「なんや!?ドチビのところを辞めてここで働いてるん!?それならうちのところにくればへぶっ!?」

 

「ロキ。うるさい」

 

神ロキの頭を叩く姉さんは微笑しながら私に近寄る。

 

「似合ってるよ。桜、可愛い」

 

若干頬を赤くしながらそう言ってくる姉さん。でも嬉しくない。

 

「桜!可愛いね!」

 

「そうね、似合ってるわよ」

 

アマゾネス姉妹も私のウェイトレス姿を褒めてくれるけど今の私には羞恥を顔に出さないように振る舞うので精一杯だった。

 

「【ランクアップ】おめでとう。まさかこんなにも速くLv.3になるなんてね」

 

「ありがとうございます」

 

私の【ランクアップ】を素直に褒めてくれるディムナさん。

 

「これならうちに来ても即戦力になりそうだ」

 

だけど、まだ勧誘は諦めていなかった・・・・。

 

「・・・・・・席へご案内致します」

 

もう耐え切れずにお得意様である神ロキ達を席へ案内する。

 

「ハン!どうやら噂は本当だったみてえだな!?」

 

神ロキ達を席へ案内していると突然大声を出す者がいた。

声がした方へ見ると数人組の冒険者が杯を持って叫んでいる。

 

「【舞姫】は【ロキ・ファミリア】の腰巾着つーのは本当だったとはな!それでいいように言われて羨ましいぜ!」

 

一人の人間(ヒューマン)が周りに聞こえるように大声で喚きだした。

 

「まったく同じ冒険者として恥ずかしいぜ!そんなこすい真似して喜ぶ気がしれねえ!?俺なら恥ずかしくて表にも出れねえ!」

 

私を罵倒する人間(ヒューマン)が座っているテーブルの奴らは同じ金の弓矢に輝く太陽のエンブレムが刻まれていた。

【アポロン・ファミリア】の連中か・・・・・。

見覚えのあるエンブレムに正体がわかった私は息を吐きながら構わず神ロキ達を案内するとそれが気に障ったのか、もしくは私の態度が変わらなかったことに虫唾が走ったのか盛大に舌打ちをしていた。

 

「桜・・・・気にしたらダメ」

 

「そうだよ!いったい何なのよ、あいつら」

 

「放っておきなさい」

 

姉さん達が私を宥めるようにそう言ってくる。

神ロキも含めて侮蔑の視線を【アポロン・ファミリア】の連中に向ける。

まぁ、私も手を出す気なんかないけど。

どう見てもあれは計略だろう。芝居かがってる。

私に手を出させて何らかの因縁でも吹っ掛けられたら後々面倒だ。

 

「まぁ、仕方ねえわな!あんなチビで威厳もねえ女神の眷属してるんだ!少しでもいい【ファミリア】に入りたくて媚売っても仕方ねえわな!」

 

「・・・・・はぁ」

 

今度は私の主神を馬鹿にしてくる【アポロン・ファミリア】の連中に私は溜息が出た。

反論できないことに・・・・。

チビで威厳も尊厳もなくて金遣いが荒くてだらけ者で子供のような女神なのだから反論さえできなかった。

すると別方向からドン!と何かが壊れる音が聞こえた。

ミア母さんがテーブルを破壊した音だった。

 

「酔ってるんならさっさと帰りな!飯がまずくなっちまう!」

 

【アポロン・ファミリア】の連中に向かって怒鳴るミア母さんに驚いて【アポロン・ファミリア】の連中は金を置いて逃げ出した。

強いな・・・・ミア母さん。

冒険者さえ逃げ出す腕っぷしを見て何で酒場の店長なんてやっているのだろうと疑問に思った。

 

「桜たん、よう我慢した」

 

「え?」

 

そう思っていると神ロキがあやす様に私の頭を撫でてきた。

 

「うん、よく耐えたね」

 

姉さんも慰めるように私に抱き着きながら背中を擦る。

店にいる皆が宥めるような、何というかよくわからない視線を私に向けてきた。

私・・・・別に何も我慢も耐えてもいないのだけど・・・。

それからの皆は何故か無性に優しかった。

 


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