ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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中層進出前

アルゴノゥト。

一つのお伽噺に出てくる英雄の名前。

英雄になりたいと夢を持つただの青年が、牛人によって迷宮へ連れ攫われた、とある国の王女を救い向かう物語。

時に人に騙され。

時には王に利用され。

多くの者達の思惑に振り回される、滑稽な男の物語。

友人の知恵を借り。

精霊から武器を授かって。

なし崩しに王女を助け出してしまう、滑稽な英雄。

 

「・・・・・ベルと似ているな」

 

その童話を読んだ桜の最初の感想はそれだった。

いつもならベル達と一緒にダンジョンに潜っている時間帯に桜は一人で購入したアルゴノゥトの童話を読んでいた。

リリの下宿先のノームが倒れてリリが看病するために今日のダンジョン探索は中止となった。桜は中層に備えてベルとヴェルフで対策でも練ろうと考えたが、その前にヴェルフが桜に耳打ちする。

 

『悪い、ちょっとベルを試させてくれ』

 

ベルが魔剣を欲しがるのか。それが気になっているヴェルフの心情を察してヴェルフはベルを連れて工房へと連れて行った。

唐突に暇ができた桜は昨夜のベルのスキル【英雄願望(アルゴノゥト)】について調べていた。主神であるヘスティア曰く『英雄の一撃』。

その凄さを目の当たりにした桜はオラリオの書店を巡ってようやく見つけたアルゴノゥトの童話を読み終えていた。

英雄に憧れ、お人好しで、人を疑わず、それとなく誰かを救ってしまう。

このお伽噺に出てくる英雄とベルは非常によく似ている。と桜は思った。

 

「英雄か・・・・・」

 

ぼやく桜は背筋を伸ばす。

ベルには英雄としての器があると桜は推測していた。

だけど、推測するだけでそれ以上は考えなかった。

ベルに英雄としての器があろうとなかろうとそれをどうするのかはベル自身が決めなければならないとわかっているからだ。

 

「ん~~、たまには一日ゆっくりするとしよう」

 

もう一度背を伸ばしながらどこに行こうかと悩む。

武器屋に行って装備を整えるのもいい。

喫茶店へ行ってゆっくりと過ごすのもいい。

本拠(ホーム)に帰ってゴロゴロするのもいい。

街を散歩するのもいい。

 

「桜たん!見-つけた!」

 

どうしようかと悩んでいると桜に抱き着いてくる人物、いや、神がいた。

 

「神ロキ。何の用でしょうか?」

 

「なんや、用事があらへんと声かけちゃあかんの?偶然、桜たんがおったさかい抱き着いただけや」

 

カラカラと笑いながらスキンシップもといセクハラをするロキに桜は溜息をつく。

 

「暇なのですね」

 

【ロキ・ファミリア】は今は『遠征』に行っている為に【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)に人が少なくて暇をしているだろうと桜は察した。

 

「そうや、アイズたんもおらへんし暇なさかいブラブラしてたら桜たんを見つけてな、なー、ちょっとうちと付き合ってや」

 

未だにセクハラを止めずに誘うロキ。

桜は仕方がないと思いながらロキの誘いを了承した。

 

「ほな、行こうか」

 

ロキにつられてついて行く桜。

しばらくしてロキが桜に言う。

 

「そうや、桜たん。二つ名気に入ってくれた?色々案も出てきたけど、うちが決めたんやで?アイズたんに合わせて【舞姫】って具合にな」

 

「・・・・ちなみに他にはどんなものが?」

 

「んー、色々出てきたで?不死姫(アンデットプリンセス)氷女王(アイスクイーン)冰華剣聖(アイスパーチソードマスター)後は・・・」

 

「いえ、もういいです」

 

指を折りながら痛恨の名を教えるロキに桜はそれ以上聞きたくなかった。

というか今聞いたものだけでも物騒で痛々しい上にまだ会ったのかと思うと頭が痛くなり桜は頭を押さえる。

 

「神々でも桜たんの噂で持ち切りやで?謎のモンスターを倒した美少女冒険者って」

 

その話は既にリリから聞いている為に特には気にはしなかったが前の時のような男神からの変な勧誘をされないように周囲は警戒していた。

 

「さて、着いたで。桜たん」

 

「ここは・・・」

 

ロキに連れてこられた場所は【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)である『黄昏の館』だった。

もう四度目になる【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)

他派閥である桜がこう気軽に入っていいわけではないのだけど、その主神がかまわへんと手招きされている以上何も言えず、桜は『黄昏の館』に入る。

ロキに招かれて奥へ奥へと向かって行くロキにつられて桜にロキについて行く。

到着したのか一室の部屋の前に止まってドアを開けるロキ。

 

「ほら、桜たんもおいで」

 

ロキに言われて入っていく桜。

 

「ここはうちの部屋なさかい、ゆっくりしてええよ」

 

ドアを閉めてベットへと座るロキに桜は息を吐く。

 

「もうそんな芝居はいいですよ、神ロキ」

 

呆れるように息を吐きながら言う桜にロキの動きが一瞬固まった。

 

「私を見つけたのも偶然じゃなくて意図的。初めからここに連れてこさせるつもりだったのでしょう?神ロキ」

 

「・・・・・どないしてそう思うんや?」

 

「普通では考えられない速さで【ランクアップ】した私とベルを『神会(デナトゥス)』で私の主神ヘスティアに凄みを利かせていたと愚痴を聞きました。だから貴女は接触したことある私からそれとなくその秘密を暴こうと考えていたのではないですか?」

 

「・・・・・・」

 

ロキは細い目をすっと開き無言になる。

桜の言う通り、ロキは『神会(デナトゥス)』が終えた日から街中をうろつき桜を探していた。見つからなければそれはそれで仕方がないと思っていたが見つけたら聞きたいことがあったが二つあった。

一つは桜の言っている通りに【ランクアップ】に至ったまでの経緯などをそれとなく聞こうと考えていた。

もう一つは冒険者通りで暴れていた食人花(ヴィオラス)のことについて情報が欲しかった。

上手く誤魔化しながら聞き出そうと思っていたロキの企みを桜はほぼ初見で見破っていたことにロキは何も言えなかった。

 

いったいどういう頭をしてんねん、桜たんは・・・・。

 

ロキは誘導尋問にはそれなりの自信がある。

だけどこうもあっさりと見破られるとは予想すらしていなかった。

どう誤魔化そうかと思考を働かせるロキに桜が溜息をつきながら言った。

 

「いいですよ、別に。そんなに気になるのでしたら私の【ステイタス】をお見せします」

 

「ほえ?」

 

まさかの提案にロキは口を大きく開けた。

【ファミリア】の内部事情の干渉、団員の【ステイタス】は禁制(タブー)。それを他派閥である桜が自身の【ステイタス】を見せてもいいと言ってきた。

明らかな禁制(タブー)行為にロキの思考は一瞬停止するがすぐに言葉を返した。

 

「・・・桜たんは何が欲しんや?」

 

貴重な【ステイタス】をタダで見せるわけがない。

何らかの条件が存在しているとロキは踏んだ。

 

「一つ、これからお見せする【ステイタス】を公表しない。二つ、ベル・クラネルの詮索はしない。三つ私の【ファミリア】の後ろ盾になって欲しい。この三つを約束できるのなら私の【ステイタス】をお見せします」

 

「ちょい待ち。三つ目の後ろ盾とは具体的にはどないすればええんや?」

 

一つ目と二つ目はまだわかる。

一ヶ月未満で【ランクアップ】した秘密の塊と言える【ステイタス】を公表でもしたら桜は神々の玩具にされるのが目に見えている。

ロキもそれは予想していたし、するつもりもなかった。

面白いものを他に教えるなんて勿体ないことをする気はさらさらないからだ。

二つ目は同じ【ファミリア】の仲間を守る為だろう。

だけど、三つ目に関してはどういうことかわからなかった。

 

「特にこれをしてほしいというわけではないんです。ただ、厄介事になったときに【ロキ・ファミリア】の関係者ということを承認してほしいのです」

 

「・・・・・フレイヤか」

 

ロキは桜とベルがフレイヤに狙われていることは知っていた。

ハッタリとして自分の【ファミリア】の名を使わせてほしいという桜の懇願だとも理解できた。二大派閥の一角であるロキの【ファミリア】の名を出せば大抵の荒事からも回避する為にその承認が桜には必要だった。

 

「・・・・まぁ、ええわ。桜たんならそうほいほい使わへんやろうし」

 

「ありがとうございます」

 

頭を下げて礼を言う桜は上を脱いで上半身裸になって背中に刻まれている【神聖文字(ヒエログリフ)】をロキに見せた。

 

柳田桜

 

Lv.2

 

力:F341

耐久:H193

器用:G290

敏捷:G260

魔力:F360

魔導:I

 

《魔法》

 

【氷結造形】

・想像した氷属性のみ創造。

・魔力量により効果増減。

・詠唱式『凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界』

 

【舞闘桜】

・全アビリティ・魔法・スキル・武器の強化。

・察知能力上昇。

・体力・精神力消費増加。

・詠唱式『瞬く間に散り舞う美しき華。夜空の下で幻想にて妖艶に舞う。暖かい光の下で可憐に穏やかに舞う。一刻の時間の中で汝は我に魅了する。散り舞う華に我は身も心も委ねる。舞う。華の名は桜』

 

《スキル》

 

【不死回数】

・カウント3。

・24時間毎にリセットされる。

・一度死ぬたびに全回復する。

 

【目的追及】

・早熟する。

・目的を追求するほど効果持続。

・目的を果たせばこのスキルは消滅。

 

連撃烈火(コンボレイジング)

・連続攻撃により攻撃力上昇。

・『力』の超高補正。

 

「・・・・・・・・」

 

驚くべき【ステイタス】にロキは何も言えなかった。

Lv.2になってまだ十日足らずで既に『力』と『魔力』のアビリティ評価はF。

通常だったらありえない成長だけど『魔法』と『スキル』に視線を向けてロキは凍った。

 

なんやねん、このレア魔法とレアスキルは・・・・ッ!?

 

見たことのない魔法とスキル。

それを五つも発現させている桜の本質に驚く一方。

唯一普通に見えるのが発展アビリティの『魔導』だけだった。

 

こりゃ、言えへんわ。特にこの二つのスキルは・・・・。

 

全てが無視できないレアばかりだが、その中で特に見逃せない二つのスキル。

【不死回数】と【目的追及】。

命のストックが三つもあってリセットある。

ほぼ反則級のスキルだけどもう一つのスキルの方がもっと酷い。

 

成長を促進させるスキルなんてどういうことやねん・・・・。

 

目的を追えば追う程成長するスキル。

目的を見つけるまで走り続ける。それに合わせて成長する。

 

「・・・・・・・」

 

狼狽しそうになる気持ちを抑えてロキは納得した。

これが桜の異常なまでの成長速度だと。

 

「もういいですか?」

 

「あ、ああ、ええで・・・・」

 

戸惑いながらも返事をするロキに桜は服を着て立ち上がる。

 

「それではくれぐれも約束は守ってください、神ロキ」

 

それだけを告げて桜はロキの部屋から出て行った。

桜が部屋から出て行って数分が経ちロキは部屋に置いてある酒をグラスに注いで飲みながら先ほどの桜のスキルのことについて考えていた。

 

「なんやねん、あのスキル・・・・あんなんもう呪いと一緒やんけ」

 

貪欲にまで強さを求めるアイズにロキは常々こう言っている。

 

『つんのめりながら走っていればいつか絶対転ぶ』

 

そうロキはアイズに言っているが桜の場合だとそれが変わってしまう。

目的を見つけるまで死んでも走り続けろと言っているようなものだった。

もう呪いと言ってもいい二つのスキルにロキは嫌気がさした。

 

「・・・・これはあかんな。あのままやと桜が壊れてしまう」

 

桜は他派閥だが、ロキは真剣に桜を心配する。

正直に言えばロキは桜が欲しい、いや、いつか手に入れてみせると考えている。

【ファミリア】としてもロキ個人としてでも桜が欲しい。

逸材という意味もあるがロキは保護的な意味も考えている。

桜の成長速度は危険だ。あのままだと体も心もいずれかはついてこれなくなり崩壊する。

 

「少し考えなあかんな・・・・」

 

ロキはどうすれば桜を改宗(コンバージョン)出来るか考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しやりすぎたか?」

 

『黄昏の館』を出て【ステイタス】まで見せたことにやりすぎたと少し反省していた。

だけど、後悔はしていない。

二大派閥である【ロキ・ファミリア】の後ろ盾は大きい力となる。

それが吉となるか凶となるかまではわからない。

主神であるヘスティアは嫌がるだろうなと苦笑しながら桜はギルドへ向かった。

 

「中層のことについてエイナさんからもう少し聞いておくとしよう」

 

中層の情報を集める為に桜はギルドへ向かった。

 

 

 

 

 

「では、最後の打ち合わせをします」

 

中層である13階層へ向かう為の最後の打ち合わせをベル達は行っていた。

ベル、桜、ヴェルフ、リリの全員は『サラマンダー・ウール』を身に纏い、それぞれの個々の準備も怠らずに今日の為に準備していた。

 

「中層からは定石通り、隊列を組みます。まず、前衛はヴェルフ様」

 

「俺でいいのか?」

 

「むしろここ以外、ヴェルフ様の務まる場所はありません」

 

そして、ベルは最も負担のかかる中衛。

 

「最後にリリと桜様が後衛です」

 

弓矢を持つ桜。

火力不足を補うためにサポーターであるリリと唯一後衛も可能な桜が今回は前衛ではなく後衛となっていた。

 

「桜様は不慣れかもしれませんがいざというときは魔法で対応してください。それと、状況に応じて前衛へと変わるかもしれませんが判断は桜様に任せます」

 

「了解」

 

アビリティで『魔導』を獲得している桜の魔法でなら後衛ができるかもしれないというリリの案に桜を含めて全員が同意した。

これから行くのはまだ知らない未開の地である中層。

ここにいる全員は不安と期待でいっぱいだった。

 

「それでは、準備はよろしいですか?」

 

「ああ、問題ない。行こうぜ」

 

「うんっ」

 

「大丈夫」

 

ベル達は未だ見る中層へと進出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻。

 

「やっと見つけたで、ドチビ」

 

「な!?ロキ!いったい何をしに来たんだ!?」

 

ベル達を心配しながらもジャガ丸くんを売っているヘスティアにロキは真剣な顔で言う。

 

「ちょい顔かしや。桜たんのことについて話があるんや」

 

「桜君?」

 

一人の少女の為に神同士も動き出していた。

 

 

 


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