ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
私は人生で初めて最悪な目覚めをした。
「あらあら、そんなに睨まないでちょうだい」
うふふと笑いながら私に膝枕をしながら私の髪を撫でる神フレイヤはとてつもなく上機嫌だ。
何故こうなった・・・・・。
一か八かの並行詠唱を成功させて
さらに言えば私の体が指一本動かせなかった。
いったいどうしてこうなったのか?
どういう経緯で神フレイヤに膝枕をされているか?
私はまるでわからなかった。
「それにしてもやっと目を覚ましたのね。貴女、丸二日間は眠っていたのよ」
髪を撫でながらそう言ってくる神フレイヤに私は驚いた。
そんなにも眠っていたのか・・・・。
「その間に貴女の寝顔をしっかりと堪能させてもらったわ」
微笑みながら告げる神フレイヤに私の背筋が凍った。
「・・・・・・どうして私はここにいるのですか?」
「あら、やっと喋ってくれたわね」
私が喋ったのが嬉しいのか微笑みながら私の質問に答えてくれた。
「偶然あの場に私の子達がいたから連れてきてもらったのよ。それにしても残念だわ。貴女の輝きを見ることができなくて」
本当に残念そうにしょぼくれる神フレイヤの姿がまるで拗ねている子供のようだった。
そんな子供じみた反応さえも美しいと思える。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
今の神フレイヤから聞き捨てならないことを言っていた。
「・・・・ベルに何かしたんですか?」
この女神は毎日のように私やベルを見ている。
そんな女神が私を見ることができなかったということは他の何かに夢中になっていたということ。私以外に神フレイヤが夢中になるものといえば一人だけ。
「本当に賢いのね。ええ、あの子はとっても輝いていたわ。ミノタウロスを倒すほどに」
ベルがミノタウロスを倒した。
その言葉に私は驚いたが、ベルが生きていることを知った安堵感の方が強かった。
「安心した?ふふ、冷たそうに見えて暖かいのね、貴女は」
私の心を見透かしているように言う神フレイヤ。
「ちょっと妬けちゃうわね。貴女にそこまで心配されるあの子に」
「仲間を心配してはいけませんか?」
「いいえ、それは素晴らしいことよ」
そう言いながら私の頬を撫でる。
「・・・・いい加減に開放させてくれませんか?」
私の体は指一本動かない。神フレイヤが何かしているとしか思えない。
「ダーメ。せっかく貴女と二人きっりなのだからもう少し楽しませてちょうだい」
可愛らしく拒否られた私の髪を今度はいじり出す神フレイヤ。
こら、編むな。
そんなことを思いながら神フレイヤに好き放題されている。
「フレイヤ様。そろそろお時間です」
いつの間にか現れたオッタルが神フレイヤにそう告げる。
「あら、もうそんな時間。残念ね」
残念と言いながらも懲りずに私の髪を弄る神フレイヤは指を鳴らすと私の体が自由に動かせるようになった。
「残念だけどもうお終いね。また会いましょう。桜」
起き上がった私の耳元に神フレイヤは最後にこう言った。
「愛しているわ」
「っ!?」
突然の神フレイヤからの告白に驚く私の姿に満足したのか楽しそうにオッタルの傍に行くと振り返った。
「それ、解いちゃダメよ」
神フレイヤが指すところに髪を小さく三つ編みされていた。
耳前の片方だけに三つ編みにしながらオッタルと一緒に去っていく神フレイヤ。
解かないでおこう・・・・・。
そう思いながら私は立ち上がって部屋を出た。
どこかの高級ホテルのような部屋から出た私は真っ先に自分の
ドアの前で恐る恐るドアを開ける私。
ドアを開けるとそこには笑顔だけど明らかに怒っています雰囲気を出している神ヘスティアと心配そうに尚且つ神ヘスティアを怖がっている様子のベル。
それを見て私は全てを察した。
「やぁ、桜君。聞いたよ?とっても活躍したそうじゃないか。ボクも誇らしいよ」
「どうも・・・」
ワザとらしく私を讃える神ヘスティア。
「でもね。相当無茶をしたらしいね。ううん、そのこと自体を責めている訳じゃないんだ。君が生きていてくれてボクも嬉しいさ」
「・・・・・心配かけてごめんなさい」
私は素直に頭を下げた。
神ヘスティアにベルに私は心配をかけた。
そのことは素直に謝らなければならなかった。
「うん、許す。と、言うと思ったのかァああああああああああ!!」
「か、神様!?」
跳びかかってくる神ヘスティアに私は押し倒される。
「・・・・あまり、心配をかけさせないでおくれよ」
「・・・・・はい」
この女神は本当に心から私やベルのことを心配していたのだろう。
無茶は続けるだろうが、私は素直に謝らないといけない。
「ただいま帰りました・・・・神ヘスティア、ベル」
「「お帰り」」
怒っていたけど笑顔で二人は私を迎えてくれた。
そして、【ステイタス】を見て貰ったら私はLv.2になっていた。
こうして私は冒険者を始めて一ヶ月未満でLv.2になったことをエイナに報告したら笑顔のまま気を失ったことは見なかったことにした。
「これが私のLv.2になって発現した発展アビリティ・・・」
私が発現した発展アビリティは全部で三つ。
『狩人』
『耐異常』
『魔導』
この三つが私が選べる発展アビリティ。
「よかったよ。君まで変わったアビリティが発現しなくてボクも一安心だよ」
うんうんと頷く神ヘスティアに私は苦笑した。
ベルは『幸運』という過去に例がないアビリティを発現していた。
ここで私までそんなアビリティが発現していたら神ヘスティアの心労は大変なものだろう。
「それで?桜君はどれにするんだい?」
催促してくる神ヘスティアに私は顎に手を当てて考える。
堅実に行くなら『狩人』がいいだろう。
だけど、やっぱり私に必要なのはこれかな・・・・・。
「私は『魔導』を選びます」
威力強化、効果範囲拡大、精神力効率化などの魔法の補助をもたらすアビリティ。
魔法を酷使したために発現したのだろう。
それだけ私の魔法、【舞闘桜】は酷く使い勝手が悪い。
なら、それを補うことができるこのアビリティは私にとって助かる。
「そっか。なら早速やろうか君の【ランクアップ】を。ベル君は外で待っていてくれ」
「わかりました」
既に【ランクアップ】が終えているベルは外に出て行くのを確認した私は服を脱いでベットへとうつ伏せになり私の上に神ヘスティアがまたがる。
「君までもLv.2かぁ・・・・まぁ、君はベル君以上に無茶をするからボクはこの先も心配だよ・・・・」
「・・・・すみません」
【ステイタス】の更新をしながら愚痴る神ヘスティアに私は謝罪する。
よくよく考えたら確かにそうだ。
初日で6階層まで下りたり、猛者と戦ったり、10階層まで行ったり、姉さんと特訓やら第一級冒険者の襲撃を受けて最後は
普通の冒険者なら数十回は死んでいてもおかしくはない。
というより、何度か死んだんだ私は・・・・・・。
だけど、その成果もしっかりと出ている。
強くなれているんだな・・・・。
「終わったよ」
自分でも珍しく感傷的になっている間に【ランクアップ】が終わった。
特にこれといった変化はないけどこれで正真正銘のLv.2になったのか。
「おーい、ベル君!もういいぞ!」
神ヘスティアの声に外で待っていたベルが戻って来たのを確認した神ヘスティアは嬉しそうに微笑みながら私とベルに言った。
「朗報だぜ、ベル君?桜君?」
朗報と言う神ヘスティアは私とベルが尋ねる前に種明かしをした。
「スキル、さ」
「へっ?」
「へぇ」
「君達にスキルが発現したんだよ」
ベルに二つ目、私に三つ目のスキルが発現していた。
柳田桜
Lv.2
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
魔導:I
《魔法》
【氷結造形】
・想像した氷属性のみ創造。
・魔力量により効果増減。
・詠唱式『凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界』
【舞闘桜】
・全アビリティ・魔法・スキル・武器の強化。
・察知能力上昇。
・体力・精神力消費増加。
・詠唱式『瞬く間に散り舞う美しき華。夜空の下で幻想にて妖艶に舞う。暖かい光の下で可憐に穏やかに舞う。一刻の時間の中で汝は我に魅了する。散り舞う華に我は身も心も委ねる。舞う。華の名は桜』
《スキル》
【不死回数】
・カウント3。
・24時間毎にリセットされる。
・一度死ぬたびに全回復する。
【目的追及】
・早熟する。
・目的を追求するほど効果持続。
・目的を果たせばこのスキルは消滅。
【
・連続攻撃により攻撃力上昇。
・『力』の超高補正。
これが私の新しいスキル、
【ステイタス】に表れる『スキル』や『魔法』は、【
強者と戦い続けて、強くなることに渇望して、力を欲して
「――――――う、うぁああああああああああああああああああ!?」
新しいスキルのことについて考えていると突然のベルの絶叫に驚いた私は両手で耳を塞いでしゃがみ込むベル。宙にあったベルの【ステイタス】が記されている用紙を掴んで見るとベルのスキルの所に【
英雄願望・・・・ああ、そういうことか。
いい年して未だに英雄になりたいと願っていることに神ヘスティアに知られて恥ずかしいのか。道理で神ヘスティアが微笑ましい顔をしているわけだ。
「ベルくん」
びくっと体を震わせるベルに神ヘスティアは慈愛に満ちた笑みを浮かばせながら優しい声でベルにトドメをさした。
「――――可愛いね」
「うわァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ベルは部屋全体を震わせるほどの絶叫を上げた。
「うぅぅ・・・」
「おいおい、いつまでそうしているつもりだい?」
部屋の角で両膝を抱えて呻きながら涙を流すベルに私は息を吐く。
ベルも年頃だから仕方がないとはいえ、恥ずかしいだろう。
「ベル。そろそろ立ち直せ。別に英雄に憧れるぐらい恥ずかしくないぞ?」
「・・・・桜も顔がにやけているよ」
励ますつもりがどうやら私も神ヘスティア同様ににやついていた。
コホンと咳払いしながら神ヘスティアと一緒に何とかベルを立ち直させた。
それからベルのスキルのことについて全員で考察したが、情報が少なすぎる為に詳細をしることができなかった。
ベルが何らかの行動をすることでチャージすることができるとしても何をどうチャージするのか?まったくわからなかった。
私の新しいスキルと違ってベルのは特殊なのか?
「ごめん、ベル君、桜君。ボクはそろそろ出かけるよ」
「仕事ですか?」
「今日はね、三ヶ月に一度開かれる『
『
「わっ、わっ、わっ!それじゃあ、僕も、アイズさんみたいな通り名を頂けるんですよね!?」
ベルは偉くノリノリだったけど私は神ヘスティアの話を聞いてうんざりとしていた。
この世界に来て様々な二つ名を耳にしたがどれも中二病負け劣らずのクソ恥ずかしい称号を持つことになる。
神は娯楽に飢えている。
娯楽を満たすためにどんな二つ名を押し付けてくるのかと思うと頭が痛くなる。
だけど、私たち【ヘスティア・ファミリア】にはそれ以外にも大変なことがある。
「神ヘスティア。くれぐれも・・・」
「・・・・わかっているよ。ヘマはしないつもりだ」
深刻な顔で頷く神ヘスティア。
ベルは一ヶ月半、私は一ヶ月未満でLv.2になった。
過去最速でLv.2になった姉さん、アイズ・ヴァレンシュタインを大きく上回る速さで到達した私とベルを疑う者、いや、神もいるはずだ。
万が一にも私とベルのスキルのことがバレたら間違いなく私とベルは神の玩具にされる。
「じゃあ、行ってくるね」
「は、はいっ」
「気を付けてください」
決意を決めた顔で神ヘスティアはホームを出た。
『
せめて、マシな二つ名になることを祈ろう。
私は
もしかしたらもの凄い中二病名がくるかもしれない。
頼みますよ、神ヘスティア・・・・・。
最後の綱の神ヘスティアに私は託した。
「さて、ベル、さっきから気になっていたけどそれはドロップアイテム?」
ベルは大事そうにモンスターの角を持っている。
「うん、ミノタウロスの角なんだ」
本当に中層のミノタウロスを倒したんだな。
感心しながら私はある提案をベルに告げる。
「ベル。それを武器にするなら私が契約している
「え!?桜ってもう
「まぁ、成り行きでな。で、どうする?」
「もちろん。お願いするよ」
即答するベルに私は内心で苦笑した。
どの道、ベルとヴェルフは会うけど一応言っておいても問題はないだろう。
私も新しい防具を新調しないといけないな。
まぁ、二つ名も防具も後回しでいいだろう。
それよりせっかくの【ランクアップ】だ。お祝いでもするとしよう。
十万ヴァリスは貯まっている私の貯金を少し使っていつもよりは多少豪華な食事もいいだろう。
「ベル。買い物に付き合ってくれ」
「うん」
私とベルは買い物をするために外へと出た。
メインストリートの方まで行くといくつかの視線が私とベルに突き刺さる。
こちらを見ながら騒めく人や神までもいた。
「ね、ねぇ、桜。何だから僕達見られていない?」
「気にせず行くぞ」
ベルの言う通り私たちは見られている。
だけど、それもそのはずだ。それだけ今の私やベルは注目している。
こういうのは気にした方が負けだ。
『―――見っけぇえええええええええええ!!』
「うわっ!?」
気にしたら負け。そう思っている矢先にベルを突き飛ばして男神たちが私を囲んだ。
「見つけたよ!マイハニー!俺の【ファミリア】に入らなーい!?」
「抜け駆けするなよ!モンスターとの戦い見せてもらっったよ!俺の踊り子になって」
「テメエこそ引っ込んでろ!この子は俺のだ!」
ギャーギャーと喚き散らすこの男神たちはどうやら
ベルに声をかけていない所を見ると私の力しか知られていないということか。
少なくとも魔法はもう知れ渡っていると思った方がいいな。
さて、どう切り抜けようか・・・・・。
「ご、ごめんなさい!!」
どうしようかと考えているとベルが私の手を握って私とベルは男神たちから逃亡を開始した。
「あ、逃げたぞ!」
「追え―――――!!」
追いかけてくる男神たちと私とベルの逃亡は三十分ぐらい続いてようやく終わった。
次からは多少は変装したほうがいいか・・・・。
二つ名が決まったらこれ以上のことが続くと想定してしばらくは変装をすることを心がけて私とベルは神たちに見つからないように買い物を済ませると私はふと思った。
せっかく【ランクアップ】したんだからベルに何かプレゼントでも買ってやるか。
そう思ったが何をあげたらいいのか悩んでしまう。
短剣や防具はヴェルフが作るだろうし、食べ物でもベルは普通に喜びそうだけど何がいいかなと悩んでいると
「これならいいかもしれないな・・・・・」
値段は三〇〇〇〇ヴァリスするがこれから中層にも行くとしたらベルには必要になるだろう。
私はそのブレスレットを値切って購入した。
さて、買い物も終わったし、プレゼントも買ったことだしベルを連れて帰るとしよう。
「桜」
タイミングよく駆け寄ってくるベルに私は早速プレゼントを渡そうと思った。
「えっと・・・桜、これを」
プレゼントを渡そうと思った時にベルが私に箱を差し出した。
何だろうと思いながら蓋を開けると中には白色のカチューシャが入っていた。
「えっと・・・その、桜も【ランクアップ】したから、なんというか・・・」
「私にプレゼント?」
そう言うとベルは顔を真っ赤にしながら頷くのを見て思わず笑ってしまった。
「ぷ・・・・くく・・・」
「さ、桜・・・・」
「いや、ごめん・・・・」
吹き出してしまった私に顔を真っ赤にしながら睨むベルに謝る。
考えることは同じだったか・・・・。
だけどこういうのは神ヘスティアやリリにしてあげろよ。
呆れながら私もベルにブレスレットを渡す。
「【ランクアップ】おめでとう、ベル。これは私からだ」
「うん!ありがとう、桜!」
嬉しそうに受け取ってくれるベルに私も自然と頬を緩ませてしまう。
「さぁ、帰って神ヘスティアと一緒にお祝いしようか」
「楽しみだね!僕達の二つ名!」
ごめん、ベル。それは少し賛同できない。
内心で謝りながら適当に合わせて頷く私たちは自分達の
そして、『