ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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特訓

「そうか、鍛冶の方に集中したいのなら仕方ないか」

 

「悪いな、我儘言っちまって」

 

ヴェルフの工房前でヴェルフからしばらくはダンジョンに潜らずに鍛冶の方に集中したいと申し出があった。

まぁ、金も素材も充分に集まっているし、ヴェルフの本業は鍛冶だから仕方がない。

しばらくはベルと一緒にダンジョンに潜るとしよう。

 

「いや、ヴェルフの意志を尊重するよ。でも、契約は守ってくれよ」

 

「当然だ。一度結んだ契約を破る鍛冶師(スミス)はいねえ」

 

「なら、安心だ。いい装備が完成できるのを祈ってるよ」

 

「応ッ」

 

踵を返してとりあえず本拠(ホーム)に帰ろうしたけど、引き返してヴェルフにある物を借りる。

 

「ヴェルフ。ロープを貸して」

 

ヴェルフからロープを借りた私は本拠(ホーム)へ帰る途中に運よくベルを発見した。

 

「ベル。ちょうどよかった」

 

「桜」

 

「リリはどうなった?一緒に行動できるようになった?」

 

「うん。神様はパーティの加入を許可してくれたよ」

 

まるで自分のように嬉しく語るベル。

だけど、その後ひと騒動あったのだろうと容易に想像できてしまった。

まぁ、それはいいだろう。リリがパーティに加入してくれるということは原作に特に変化もないみたいだし、深くは追求しないほうがいいな。

さて、それそれとして・・・・。

 

「・・・・桜、どうしてロープを持って僕に近づくの?」

 

ロープを持って近づく私にベルは後ろに下がる。

私はベルの質問に答える。

 

「ベルを逃がさないようにするため」

 

逃げようとするベルに私は瞬時にロープでベルをグルグル巻きにして引きずりながらギルドへと向かう。

エイナと一緒に姉さんも一緒にいた。

 

「あ、桜ちゃん、ってベル君!?」

 

「桜」

 

引きずられているベルに驚くエイナと特に気にしていないの姉さん。

すると、急に引っ張られるような感覚が私を襲う。

それはベルが姉さんから逃げようともがいていたからだ。

 

「ほら、ベル。逃げない」

 

「さ、桜・・・・」

 

姉さんを見て耳まで顔を真っ赤にするベルに姉さんは首を傾げる。

それを見て私は溜息が出る。

私はベルを姉さんの前に突き出す。

 

「約束通り。連れてきたよ、姉さん」

 

「うん、ありがとう。桜」

 

ベルを受け取る姉さんにベルは今にでも噴火しそうな火山のように顔を赤く染めていた。

 

「後は二人で話して」

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、驚いちゃったよ。桜ちゃんがベル君を引きずってくるんだもん」

 

ベルと姉さんが話し合っているなかを遠くから見守る私とエイナ。

 

「ああでもしないとベルが逃げますから」

 

「実際逃げようとしていたしね」

 

苦笑気味で話すエイナに私も頷いて答える。

ベルはどんだけ純情なのやら。

 

「そういえば前から気になっていたんだけど、桜ちゃんとヴァレンシュタイン氏は姉妹なの?」

 

「違いますよ。向こうがお姉ちゃんと呼んでって駄々こねてきたので姉さんと呼んでいるだけです」

 

「ふ~ん」

 

意味深に返事をするエイナに私は眉根を寄せる。

 

「その割にはそんなに嫌そうには見えなかったんだけどな~」

 

「本当に嫌なら呼びませんよ」

 

「なら、私のこともお姉ちゃんと呼んで貰おうかな?」

 

「手のかかる姉は一人で十分です。エイナさんは今のままでいてください」

 

いくらベルがエイナの弟分と呼ばれているけど私はエイナの妹分になるつもりはない。

 

「それは私も手のかかるって言いたいのかな?」

 

エイナの腕が私の首に巻き着いて首を締めつけられる。

いや、そこまでは言わないけど。

 

「ギブです。ごめんなさい」

 

「ダメー。許しません」

 

からかう口調で尚締め付けてくるエイナにいい加減私は脱出した。

 

「あ、逃げられた」

 

「そりゃ、いい加減逃げますよ。というかエイナさんには立派な弟分がいるじゃないですか?あそこに」

 

ベルを指す私にエイナはんーと考える。

 

「ベル君もいいけど私的には妹も欲しかったのよね」

 

だから私なのか?遠回しに私の妹になれとでも言いたいのか?この人は。

 

「ダメ」

 

すると、急に私の背後から姉さんが私に抱き着いてきた。

 

「桜は私の妹。誰にもあげない」

 

奪われてたまるかと言いたげに強く抱き着いてくる姉さん。

それを見たエイナは諦めるように息を吐いた。

 

「流石にヴァレンシュタイン氏には敵わないかな。コホン、話は終えましたか?ヴァレンシュタイン氏」

 

「はい」

 

営業スマイルで対応するエイナに姉さんも返答する。

というかいい加減に離れて姉さん。

ベルの顔が凄いことになってるから。

 

「桜。明日の朝、市壁の上に来て」

 

それだけを告げて姉さんは離れてギルドから出て行った。

市壁の上?

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝に私とベルは市壁の上にへとやってきた。

その理由はベルの特訓らしい。

後、姉さん的には私とベルの成長だろう。それを知る為に私とベルを呼んだのはだいたい理解できる。ベルは全く気付いていないだろうけど。

 

「準備は、大丈夫?」

 

「大丈夫」

 

「あ、は、はいっ!」

 

うん、ベルは少しは落ち着こうか。

 

「それで姉さん、どんな訓練をする予定。筋トレ?素振り?模擬戦?」

 

「・・・・何を、しようか」

 

必死に考え込む姉さんに私は呆れるように息が出た。

やっぱり姉さんは天然だ。

 

「とりあえず、ベルの素振りを見てあげたら?」

 

「・・・そうだね」

 

「よ、よろしくお願いします。ヴァレンシュタインさん」

 

「アイズ、でいいよ」

 

ナイフを取り出して二度、三度とナイフを振るう。

その姿を姉さんは凝視するように観察していた。

 

「君は、ナイフだけしか使わないの?」

 

「え・・・?」

 

「私が知っているナイフを使う人は、蹴りや、体術も使うから」

 

まぁ、ナイフなどの刃が短い武器の特徴の一つでもあるからな。

剣や刀と違って小回りが効く分、体術も使いやすい。

だけどベルは体術は使わず、ナイフのみで攻撃している。

師事を受けたことないから仕方がないと言えば仕方がないけど。

 

「貸して」

 

ベルからナイフを受け取った姉さん。

 

「・・・・こう」

 

右手でナイフを坂手持ちにして、左膝を軽く真上に上げる。

上げたまま首を傾げる。

足を下ろして、もう一度上げてまた首を傾げる。

それを見て私は内心で溜息が出た。

天然の姉さんに師事をするということ自体向いていないのかもしれない。

だけど、次の瞬間。

 

「―――――へ?」

 

「あ」

 

姉さんの回し蹴りがベルに直撃してベルが吹っ飛んだ。

そして、動かなくなった。

一応、ベルの容態を確かめるけど気絶だけで終わっていた。

だけど、今のは完全に姉さんが悪いな。

 

「姉さん」

 

「・・・・ごめんなさい」

 

叱られた子供のように落ち込む姉さんに私はまた溜息が出た。

これ以上は私からは何も言わないでおこう。

 

「さて、今度は私だけど・・・」

 

いったい何を教えるつもりなんだ?

そんな疑問を抱いていると姉さんは首を横に振った。

 

「ううん。桜は私と戦ってほしい」

 

「姉さんの相手にならないと思うけど?」

 

Lv1とLv6じゃ明らかにレベル差がありすぎて話にもならないと思うんだけどな。

 

「・・・・・・・」

 

無言で鞘を構える姉さんを見て察した。

これは嫌と言おうが戦わなければいけないのか。

私は息を吐いて武器を抜かずに構える。

 

「刀は使わないの?」

 

「必要になったら使う」

 

互いに闘気を纏わせて構え合いながら私は姉さんを見て感嘆する。

隙が少なく、どう攻めてもカウンターを受けるビジョンしか浮かばない。

オッタルと向かい合った時は威圧感が凄かったけど、姉さんからは静かにだけど荒々しい闘気を感じる。

こちらから攻めたら確実に負けだな。

 

「行くよ」

 

最初に動いたのは姉さん。

一回の跳躍で姉さんは自分の間合いに私を入れてきた。

振るう鞘に私はしゃがんで躱して姉さんと更に距離を詰める。

 

「っ!?」

 

ほぼゼロ距離の間合いに入った私に姉さんは距離を取ろうと下がろうとしたが私が姉さんの足を踏んで動きを封じる。

顎に掌打を繰り出す私に姉さんは体を後ろに曲げて躱す。

その隙に私は足払いして姉さんのバランスを崩す。

 

「ここ!」

 

バランスを崩した姉さんの腹に一撃を入れた。と思ったが鞘を持っていない方の手で防御した。鞘を振って私はそれを躱す間に姉さんは距離を取って私から離れた。

 

「・・・・桜は本当にLv1なの?」

 

「Lv1だよ。ただ対人戦闘には慣れているだけ」

 

この世界に来る前にほぼ実戦的な稽古を受けてきたからな。

感覚が鈍っていなくてよかった。

 

「・・・・どうすれば桜のように強くなれるの?」

 

「姉さんが言うと皮肉にしか聞こえないよ」

 

Lv6の冒険者が何を言っているのやら。

 

「で、続ける?」

 

「ううん、そろそろ目を覚ましそうだし、終わろうか」

 

ベルに視線を向けながら闘気を鎮める姉さんに私も同じように闘気を鎮める。

まぁ、本来の目的はベルの特訓だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様・・・・どうしてこの頃、ダンジョンにもぐる前からボロボロなんですか?」

 

「は、ははっ・・・・ちょっとね」

 

「気にするな、リリ」

 

姉さんとの訓練が始まり二日後にはベルはダンジョンに潜る前からすでに満身創痍になっていた。達人(アイズ)素人(ベル)だったらそうなるのも仕方がないけど。

私もあれから姉さんと模擬戦をしている。

今のところ全敗。やっぱり剣の腕は姉さんの方が一日の長がある。何回かは当てることはできたけど完全に勝つのは難しいな。

私もまだまだ反省点が多い。精進しないと。

 

「ところで桜様に一つお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

「何?」

 

手招きするリリに私は耳を近づける。

 

「さ、桜様はベル様のことをどう思われているのですか?」

 

ああ、そのことか。

 

「私はベルを弟ぐらいにしか見ていない。神ヘスティアやリリと違ってそういう対象として見ていないから安心しろ」

 

「そうですか・・・」

 

ほっと胸を撫でおろすリリに私は非常に残念かつ可哀相に思う。ついでに神ヘスティアも。ベルには既に姉さんという想いを寄せている相手がいる。

結果的にはどうなるかはわからないけど、私なりにリリやついでに神ヘスティアを応援してあげるとしよう。

 

「さて、10階層到着」

 

10階層に到着した私たちに早速インプ達が襲いかかって来た。

 

『ヒィャアアア!』

 

「ギイイイイ!』

 

相変わらずの甲高い鳴き声を喚かるインプに私は夜桜と紅桜で切り裂く。

 

「私は右を!ベルは左を!リリはベルの援護を!」

 

「わかった!」

 

「はい!」

 

左右に距離を取りながら目の前にいるインプと対峙する。

鋭い指爪で襲いかかってくるインプに私は腕を斬り落としてからインプの胴を切断して灰にする。

チラリとベルの方を見てみると蹴りなど体術も使ってインプ達を倒している。

特訓の成果が出ているみたいだな。

 

『ギィャアアア!』

 

背後から襲いかかってくるインプに私は夜桜を逆手持ちにしてそのまま背後にいるインプを突き刺す。

 

「生憎と強くなっているのはベルだけじゃないからな」

 

増えているインプに向かって突進と同時に瞬時にインプを切り裂く。

姉さんの真似をしてみたけど案外上手くいくな。

速さもまだまだ姉さんにはおよばないけどこの程度なら特に問題はないか。

 

「・・・・!ベル様、桜様、少々すごいのが来ました!」

 

「!」

 

ルームを揺らす地響きですぐに気付いた。

 

オーク、インプ、バッドバットが集団でやってきた。

歓迎されているな・・・・・。

私は内心で苦笑しながらそう思った。

 

「ちょっと、多いね・・・」

 

「いや、いいぐらいだろ?私達には」

 

「桜様は前向きですね。どうしますか、オークだけでもリリが引き付けましょうか?」

 

「いや、必要ない。ベル、私に合わせて魔法を」

 

「うん」

 

魔法の詠唱に入る。

 

「【凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界】」

 

魔法の詠唱を終え、私はベルに声をかける。

 

「ベル!」

 

「【ファイアボルト】!」

 

炎雷の速攻魔法を発動させるベルと同時魔法で創造した氷の槍を発射させる私。

炎の雷と氷でモンスターはすぐに全滅した。

 

 

 

 

 

「ねぇリリ、桜。僕、魔法に依存しちゃってるかな?」

 

10階層の安全地帯で休憩している私たちにベルが突然そんなことを言ってきた。

シルが作ってくれたサンドイッチまずいと思いながら噛み締めて飲み込む。

 

「別に気にする必要はないと思うけど?」

 

「う~ん、リリも桜様と同じ意見です。確かにベル様の魔法は使いやすい節もありますし・・・・・」

 

「ベルの魔法は私のと違って無詠唱の速攻性が高い魔法。依存しすぎなければ問題ないだろうと私は思うぞ」

 

私の【氷結造形】はともかく【舞闘桜】なんか詠唱が長いから並行詠唱を身につけたいのだけどこの前リヴェリアさんに追い出されて聞けなかったからな。

 

「ベル様の魔法は効率性に富んだ分、本来の魔法としての意味が薄れているということになりますね」

 

「必殺か」

 

「はい」

 

私の言葉にリリは肯定する。

 

「『魔法』とは本来切り札です。奥の手と言い換えてもいいかもしれません。強力なものならLv.の高低を無視して、格上の相手を撃退することも十二分にありえるのですから。ベル様の魔法は使い勝手が非常によろしい分、その必殺としての一面が見劣りするかもしれません」

 

そういう意味では【舞闘桜】は必殺に入る類になるのか。

 

「長文詠唱型の魔法は時間をかける分、効果も高いわけですから、大きな局面に波紋を投じることも可能とします。まさしく起死回生の一手ですね」

 

起死回生の一手か。

私の魔法もあまり優れているとも言えないからその辺は追々考えて行こう。

【ステイタス】が上がれば魔法の威力も上がるだろうし、今は自分自身の強化に力を入れるとしようか。

 

「蒸し返しますが、魔法に依存しているのではないかという件。あれも魔法の成長を促すのなら、それこそしょうがないことです。魔法に頼りすぎても白兵戦の技術がおろそかになるので、難しい問題ではありますが・・・・リリは、ベル様は今のままでいいと思います」

 

「私もリリの考えに賛成。今は今のままでいいと私も思うぞ」

 

「ベル様の魔法の属性は単純で、威力も平凡かもしれませんが、成長性はきっとピカ一です。自信を持ってください」

 

微笑みかけるリリにベルの表情に自信がついたように見えた。

どうやら問題はなさそうだな。

リリもリリでしっかりとベルをサポートしている。

ベルも多少ネガティブではあるけど特に問題はない。

一応、神ヘスティアに報告しておくとして午後からも頑張るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の朝も姉さんとの特訓。今日は昼寝の訓練というものにつき合わせれた。

私も少しは眠気があったから寝たけど・・・・。

今は都市に出かけている。

ベルがお腹を空かせている為に。

 

「ア、アイズさん、やっぱりいいですよ。あ、あれは事故みたいなもので・・・」

 

「大丈夫、私もお腹が空いたから」

 

恥ずかしいのだろうとベルの気持ちを察しながら私はベルがお腹を鳴らすということには触れずに姉さんとベルについてきた。

 

「姉さん。今はどこに向かっているの?」

 

「北のメインストリート。ジャガ丸くんのお店があるって、ティオナに教えてもらったから」

 

ティオナ・・・・あの胸がないほうのアマゾネスか・・・・ん?ジャガ丸くん?

 

なんだか面倒な予感を感じながらジャガ丸くんが売っている露店へと立つ。

 

「いらっしゃいまぁ・・・・・せ、ぇ?」

 

露店で店員をしている主神、ヘスティアが目を丸くしていた。

私の後ろではベルが顔を真っ青にしながら凍り付いていた。

 

「ジャガ丸くんの小豆クリーム味、三つください」

 

淡々と注文する姉さんに放心しながらもジャガ丸くんを売る神ヘスティアは次第に能面のような顔になって私たちの眼前にやってきた。

 

「―――何をやっているんだ君達はぁああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「ごごごごごごごごごごめんなさいぃっっっ!?」

 

噴火する神ヘスティアの背後に回って抑えながらやっぱりと思いながら私は溜息が出た。

 

「?」

 

唯一この状況を理解できていない姉さんはおいしそうにジャガ丸くんを口にしながら首を傾げていた。

神ロキと神ヘスティアは犬猿の仲だというのもあるけどこの駄神の場合は嫉妬も入っているからな。

 

「よりにもよって【剣姫】と一緒にいるなんて、一体どうことだベル君!?」

 

「そ、それがっ、これには深いわけがあって・・・・っ!?」

 

「ご託はいい、早く説明するんだ!というか桜君もいい加減離しておくれよ!?」

 

「離したら暴れるでしょうが・・・・」

 

「君はボクのことをどう思っているんだい!?」

 

駄神と喉まで出かけたが何とか呑み込めれた。流石に言わない方がいいだろう。

抑えているにも関わらず神ヘスティアのツインテールはベルを叩く。

神の髪は意志でも持っているのか?

しばらくして疲れた神ヘスティアはぜーぜーと息を吐きながらやっと落ち着いたのを確認して私も手を放した。

人気のない細道で私たちは軽い輪になった。

 

「・・・ふぅ。まずは詳しい話を聞こうか」

 

冷静になった神ヘスティアに私が説明した。すると神ヘスティアは。

 

「・・・うん、話はわかった。それじゃあ、三人とも、もう縁を切るんだ」

 

「はいっ!?」

 

「駄目、ですか・・・・?」

 

「ああ、ヴァレン何某君、ボクのベル君と桜君にもう関わらないでおくれ。君にだって立場が「神ヘスティア」・・・ん?なんだい、桜君」

 

神ヘスティアの話を遮り私は神ヘスティアに詰め寄る。

 

「一つ、私とベルは神ヘスティアの眷属ではありますが神ヘスティアのではありません。二つ、今の言葉は自分の心情を抜いた言葉ですか?まさか、嫉妬交じりで言ってはいませんよね?」

 

私の言葉に大量の汗を流す神ヘスティア。

 

「あ、当たり前じゃないか?ボクは神だぜ」

 

「ええ、貴女は私とベルの主神です。まさか、子の成長を妨げになるようなことは言いませんよね?」

 

「い、いや、でも、【ファミリア】として・・・」

 

「他の【ファミリア】と信頼関係を築くことの何が悪いんですか?他の【ファミリア】とは関りを持ってはいけないとおっしゃるのでしたら【ミアハ・ファミリア】との関りも切らないといけませんね。まさか、自分にとって都合のいい者しか関わるな、という心狭いことを私が信頼している神ヘスティアはおっしゃいませんよね?」

 

「と、当然じゃないか!ヴァレン何某君!ベル君たちを頼むぜ!」

 

汗を流しながら姉さんに親指を立てる神ヘスティア。

姉さんとベルが引きつった顔をしていたが文句は言わせないぞ?

 

「まぁ、姉さんは三日後に『遠征』を控えていますからあと二日だけの特訓です。神ヘスティアも見学しますか?」

 

「行く!」

 

即答で喰いつく神ヘスティア。

全くベルのことが好きなのはわかるけど嫉妬深いのも考えものだと思うぞ、私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神ヘスティアの見学を含めながら私達は夜が更けるまで特訓をしていた。

 

「なぁ、ベル君。桜君はまだしも君はボコボコにされているじゃないか。もう止めてしまおうぜ、きっとヴァレン何某君にとって君は体のいいサンドバック代わりなんだよ」

 

「か、神様・・・」

 

ある意味否定できない神ヘスティアの言葉。私は辛うじてついてこれているけどベルは神ヘスティアの言う通りサンドバックのようにされている。

 

「もう、着きます・・・」

 

小型の魔石灯を持って先頭にいる姉さんは私達にそう告げる。

そこで私は気付いた。複数人が私達を見ていることに。

姉さんも静かに周囲を警戒していた。

薄暗い裏通り。不気味なまでの静かさ。そして、ポール式の魔石街灯が壊されていた。

 

「―――」

 

「――――」

 

「っ!」

 

「うわ!?」

 

姉さんと私は立ち止まる。

先ほどまで隠していた気配が突然複数現れた。これはもう隠れる必要性がないということか。そう思っていると建物と建物の細い間隙から誰かが歩み出てきた。

暗色の防具に顔を隠している獣人のキャットピープル。

歩みを止めない獣人は約二〇Mの距離を残して一瞬でベルの目の前に現れた。

 

「ベル!?」

 

目で追えなかったあまりの『敏捷』の能力。だけど、姉さんがベルを守ってくれた。

だけど、これで終わりではなかった。

私の前に同じく顔を隠した四人の小人族(パルゥム)が音もなく現れた。

剣、槌、槍、斧。

それぞれの得物を持った小人族(パルゥム)が私に襲いかかって来た。

 

 


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