ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
私はいつものようにヴェルフと一緒にダンジョンに行き、
「ベル、ベル」
声をかけても揺すってもただ気持ちよさそうに寝息をたてるベル。
一応触診してみたがどこも異常はなかったため、疲れて寝ているのだろうと思いそのまま放置することにした。
食事の準備でもするか・・・。
寝ているベルを放置して私は食事の準備に取り掛かるのだが、頭の片隅で何かの違和感を感じていた。
何かを忘れているかのような・・・・まあいいか。
特に気にせず私は食事の準備を進めていると神ヘスティアが帰ってきた。
「たくっ・・・へファイストスめ・・・これでもボクは一応は神だぞ・・・あそこまでコキ使うことないじゃないか・・・」
「はいはい。仕事の愚痴は食事が出来てから聞きますからベルを起こしてください」
ブツブツ愚痴を言いながら帰って来た神ヘスティアを流しながらベルを起こしてもらう声をかける。何度か声をかけてベルはようやく目を覚ました。
「はは、可愛いね。ベル君のお茶目な姿を見れて、おかげでボクの仕事疲れも吹っ飛んだよ」
「そうですか。なら手伝ってもらいましょうか」
「すまない、桜君・・・やっぱりすごく疲れているんだ・・」
ベルをからかう神ヘスティアに食事の準備でもさせようと思ったが駄々こねる子供のように動かなくなった。
私は内心で息を吐きながら食事の準備を終わらせて三人で食事をする。
食後ステイタスの更新を行う。ベルが先に更新して私はベルが更新している間に後片付けを行っていると。
「ええええええええええええええっ!?」
「へぶにゅ!?」
突然のベルの叫びと神ヘスティアの奇声に思わず驚き皿を落としてしまった。
振り返ると神ヘスティアがベットの下で面白い態勢になっており、ベルはベルで神ヘスティアの胸を見ていた。
まぁ、男の子だからな。時々私も見られているし。その辺は仕方にだろう。
そう思いながらしばらくしてベルに魔法が発現したことを知った。
「ファイアボルトか・・・」
炎と雷の二つの属性が混ざった魔法。だけど、驚くのはベルの魔法には詠唱がない。
「いいかい?魔法っていうのはどれも『詠唱』を経てから発動させるものなんだ。桜君の魔法だって詠唱がある」
「でも、ベルの魔法には詠唱がない。ということはファイアボルトと言っただけで魔法を発動してしまう可能性がある」
速攻魔法。まさにその通りだ。私の魔法【氷結造形】や【舞闘桜】も詠唱が必要だ。短文詠唱ならともかく長文詠唱が必要とする魔法相手ならベルのファイアボルトの方が怖い。モンスターより対人には強力な魔法になるだろう。
ベルの魔法は後日ダンジョンで試すという結論に至り、次に私のステイタスの更新だ。
柳田桜
Lv1
力:F342→E488
耐久:E406→D532
器用:F378→D510
敏捷:F392→E498
魔力:E442→D590
《魔法》
【氷結造形】
・想像した氷属性のみ創造。
・魔力量により効果増減。
・詠唱『凍てつく白き厳冬 顕現するは氷結の世界』
【舞闘桜】
・全アビリティ・魔法・スキル・武器の強化。
・察知能力上昇
・体力・精神力消費増加。
・詠唱『瞬く間に散り舞う美しき華。夜空の下で幻想にて妖艶に舞う。暖かい光の下で可憐に穏やかに舞う。一刻の時間の中で汝は我に魅了する。散り舞う華に我は身も心も委ねる。舞う。華の名は桜』
《スキル》
【不死回数】
・カウント3
・24時間毎にリセットされる。
・一度死ぬたび全回復する。
【目的追及】
・早熟する。
・目的を追求するほど効果持続。
・目的を果たせばこのスキルは消滅。
上昇値トータル600オーバー。流石に前回の1400オーバーを見てこの数字は普通に感じ始めている自分がいるがこの600オーバーも普通ではありえない上昇値だ。
冒険者を始めてだいたい十日ぐらいで既にDが三つ。
「まったくベル君もそうだけど桜君も桜君だ。本来なら君ぐらいになるまで何年という月日を経たなきゃ出来ないんだぜ?」
「今更でもありますがね」
私とベルだけとはいえもう慣れ始めてきた異常なアビリティの上昇。無茶して10階層に潜っていたかいがあったものだ。
納得して欠伸をする私の肩を神ヘスティアが掴んできた。
「桜君。実は君に頼みたいことがあるんだ」
「お断りします」
笑みを浮かべながらお願いをしようとしてくる神ヘスティアの頼みを一蹴して寝ようとベットへ転がろうとしたが神ヘスティアが私の腰に抱き着いてきた。
「お願いだよ桜君!断らないでおくれ!ボクは!ボクは気になって仕方ないんだ!ベル君と一緒にいるサポーター君が気になって仕事もはかどらないんだよ!」
「そうですか。なら、考えなければいいでしょう。それではお休みなさい、神ヘスティア」
「寝かせないぞ!お願いをきいてくれるまで離さないからな!」
「いい加減にしないと私だって怒りますよ?何で私が神ヘスティアの嫉妬を解消するために動かないと行けないんですか?例えそのサポーターとベルに何かあってもそれは当人同士の問題でしょう?神様らしく子を見守ったらどうですか?」
「何を言っているんだい!?桜君!見守ってボクのベル君がどこかへ行ったらどうするんだい!?奪われる前にどうにかしないとベル君が危ない!」
「一応言いますがベルは貴女のものでも誰のものでもありませんよ」
それから最終的に私に土下座してくる神ヘスティアに私が折れた。
子に土下座する神って・・・・・・。
次の日。私はヴェルフに今日はダンジョンに潜れないと謝罪して冒険者通りを歩いていた。昨日神ヘスティアに頼まれたリリのことについて調べるために。
とは言っても知っているんだけどな。小説では早い段階で出てきたからヴェルフより諸事情は知っている。でも、まぁ、一応調べておこう。
それとベルが魔法を発現出来たわけについても思い出した。
神フレイヤが仕掛けた
改めて思えばベルの魔法の発現の為に数千万もする
狙われているのは私もなんだよな・・・・。
そう思うと自然に溜息が出てしまう。
「あれ?桜ちゃん」
不意に声をかけられた。というか私をちゃん付けで呼ぶのは一人しかいない。
「エイナさん。それにリヴェリアさんも」
私とベルのアドバイザーとロキ・ファミリアの幹部のリヴェリアさん。
また珍しい組み合わせだな。
「桜か。君もアイテムの補充か?」
「いえ、私の主神の指示で【ソーマ・ファミリア】のことについて調べているところです」
「桜ちゃんも?あ、苦労してるんだね・・・」
私とベルの主神を知っているエイナは同情の眼差しで私の頭を撫でてきた。
ありがとう、わかってくれて・・・・。
「桜もか。なら、桜も私達のホームに付いてくるといい。精通している人物に心当たりがある」
そうして私とエイナは【ロキ・ファミリア】の
もうそこに行くの三回目になるな・・・・。
感慨深くもならず黄昏の館の入る私達。応接間に向かう途中に椅子の上で丸くなっていた姉さんの姿が。というか落ち込んでいる?
「桜・・・・」
私に気付いたのか、こっちに来て私に抱き着いてきた。
「お姉ちゃん・・・・また逃げられちゃった・・・・」
「はい?」
意味がわからないことを言う姉さん。横目でリヴェリアさんが笑みを漏らしていた。
「桜。すまないがアイズを慰めてやってくれ。前から気になっていた男に逃げられたらしくてな」
その言葉で私は納得した。ベル、お前また逃げたのか・・・・・。
溜息を吐きながらとりあえず私は姉さんの頭を撫でることにした。
それにしても少々身長差があるから少し撫でにくいな・・・・。
「姉さん。今度機会を作っておくようベルには私から言っておくから」
「うん・・・・」
「私はこれからリヴェリアさんと話があるんだけど」
「うん・・・・」
「あの、いい加減に離れてくれない?」
「やだ・・・・」
レベル差もあり、剥がすことも出来ず姉さんが満足するまで私は動けずにいた。
こんな甘えん坊だったっけ?アイズ・ヴァレンシュタインって・・・・。
「妹を好きなだけ抱き着けれるのはお姉ちゃんの特権」
何ちょっとドヤ顔で言ってるんだ、この姉は・・・。
仕方なく抱き着いて離れない姉を引きずりながら私はリヴェリアさん達がいる応接間へ向かうとそこにはもうリヴェリアさんとエイナだけではなく神ロキまでいた。
神ロキは私と姉が抱き着いているところを見てグラスを落とした。
「姉妹ハグ来たァァ――――――!!ウチも交ぜてえな―――――――!!」
「ロキ、うるさい」
「へぶっ!」
跳んできた神ロキを姉さんは蹴り飛ばした。
いや、一応神なのにいいのか?あんな雑に扱って?
「桜に抱き着いていいのは私だけ」
後ろから抱き着いてくる姉さん。そんな私たちをリヴェリアさんとエイナは微笑ましそうに見ていた。微笑ましくない・・・・。
「あたた・・・ところで桜たんもどうしたんや?アイズたんに会いに来てくれたん?」
「桜もエイナと同じ要件だ。落ち込んでいるアイズを慰めてくれていた」
「おー、そりゃ、おおきにな」
蹴られたはずなのに平然としている神ロキ。蹴られ慣れているのだろうか?
思わずそう思ってしまった。
「しっかし、桜たんまでソーマのことについて調べているとなると桜たんのファミリアがソーマと関わっとるんかいな?」
「・・・・正直に言えばそうですね。私の仲間が【ソーマ・ファミリア】のサポーターと一緒にいるんですよ。それが気になった主神は調べてこいと言われまして」
「ドチビめ。いったい子になにさせてんねん」
苛立つように頭を掻く神ロキ。
しかし、神ロキは頭もキレるんだな。私がソーマのことについて聞きに来ただけでだいたいの内容を把握してしまうとは。うちの主神もこの半分ぐらいでいいから賢くなってほしいものだ。
それから神ロキの口からソーマのことについて教えてもらう。やはり、原作通りだった。
「そな、アイズたん。いつまで桜たんに抱き着いてないで【ステイタス】の更新しよ?帰ってからまだやっとらへんやろ?な?」
「・・・・・・・・・・・・・わかりました」
今もの凄い間があったな。そんなに名残惜しいのか?
「桜。またね」
それだけを言って神ロキと共に去って行った。
やっと離れてくれた。さて、それじゃ私的用事も済ませておくとしよう。
「リヴェリアさん。貴女に一つ聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ん?それは構わんがファミリアに関することは教えられんぞ」
「そんなこと聞いても何もできませんよ。私が聞きたいのは魔法のことです」
「ほお。言ってみるといい」
興味深そうにこちらに視線を向けるリヴェリアさんに私は訊いた。
「並行詠唱のコツを教えてください」
並行詠唱。本来魔法の発動の失敗や魔力の暴発を防ぐためにも停止して行わなければならない。だけど、並行詠唱を身に着ければ移動しながらも詠唱を行い、魔法を発動することが出来る。
並行詠唱を身に着ければ【舞闘桜】を発動するまでの無防備な状態をどうにかできる。
「ふむ」
顎に手を当て考えるリヴェリアさん。少ししてその口が開いた。
「並行詠唱は魔導士でも辿り着けれるのは僅かだ。今の桜にはまだ早すぎる」
その返答に私は何とか教えてもらおうとしたがリヴェリアさんは首を縦には振ってくれなかった。
「桜。今の君は昔のアイズに酷く似ている。がむしゃらに強さを求めている頃のアイズに。並行詠唱は魔法の発動までの無防備な状態を補える。だが、魔力という難物を扱うには相応の技術が必要になる。まだレベル1の桜には無用の技術だ」
「無用と決めるのは貴女ではなく私です」
「ちょっ!?桜ちゃん、落ち着いて・・・」
「エイナさんは少し黙っていてください」
慌てながら宥めようとするエイナに私は一蹴する。
「身の程を弁えないことだということは十分に理解しています。それでも私には強くなりたいんです。その先に行くためにも力がいるんです」
強くはなっている。だけど、今ではまだ足りない。力も技術も何もかもそれを一つでも埋めなければならない。ファミリアの為にも私の為にも。
「・・・・・今日はもう帰るんだ」
それだけを言って私は門の外へと追い出された。
駄目だったか・・・・・。
仕方がないと息を吐きながら自分のホームへと帰ることにした。