トメィト量産工場   作:トメィト

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どうも、嘘を吐くことに定評のある私です。
今回、こちらの不手際でこの世界の片隅でを更新停止にしてしまい申し訳ありません。
つきましては、お詫びと、向こうの意欲回復のためにGE仁慈が召喚されたグランドオーダーを簡単に書いていきたいと思います。


人類最新のキチガイが往くgrand order
特異点が往く特異点F


 

 

 

 

目の前には死が迫っている。

巨大な体躯を持ちながら、視界に収めることが叶わないほどで動く黒いナニカ。

まるで斧のような物を振り下ろし、ここまで自分のことを守ってくれていたマシュを吹き飛ばした人ならざるもの。

 

もう、展開が早すぎて理解が追いつかない。

半ば拉致のようにしてやってきたカルデア。奇跡も魔法もあるんだよ!と言われてなりゆきで戦ったシュミレーション。しりあいになった女の子。全てを吹き飛ばす爆発。そして……今居る燃える街への転移。

全部が全部、生まれてから20も経っていない僕では処理できないようなものばかり。さらに言ってしまえば、燃える街で歩く動く骨とかも出てくる。

 

極め付けには目の前に迫っている絶体絶命の状況ときた。途中で拾った所長もブルブル震えているだけだしもうどうしようもない。

 

―――――けれど、

 

『立香君!今すぐ撤退してくれ!流石に無茶だ!』

 

 僕が強制的に引き連れられてきたカルデアという組織の中でもまともに接してくれた男の人、Dr.ことロマ二・アーキマンがそう訴えてくれる。確かに、僕は生まれてこのかた喧嘩だって数えるくらいしかしたことがない。ましてやこんな化け物相手に戦えるほどの技量も度胸もない。

 

 でも、今ここで僕が引いたらここまで僕のことを守ってくれたマシュはどうなる?ヒステリックでちょっとうるさいけど、それでも色々教えてくれた所長はどうなる?……想像なんてしなくてもわかる。

 ……そういう結末なら否定しなくちゃいけない。”どんな時でも進み続けること”それが家の家訓であり、僕のお父さんの信条。僕の唯一無二の誇りなんだから。

 

 この燃える街、冬木に来た時に拾った虹色に輝く石を4つ握りしめ、気絶してしまったマシュが落とした盾を地面に刺す。ロマ二が言っていた。この盾が召喚サークルというものを作り出し、人類史に刻まれた偉人……英雄を呼び出すことができるって。

 

『ちょ!立香君、そこは特異点Fの中でも一段と空間が安定していない所だよ!?そんなところで英霊の召喚なんて……ほぼ不可能だ!』

 

 可能性があるなら大丈夫。

 どうせこのままいけばあの化け物に殺されるんだ。なら、可能性に向かって進むしかない!

 

 僕は祈るように、自分の中にある全てを込めるように4つの石を投げる。すると盾を起点とした魔法陣じみたものから強烈な光が溢れ出して来た。それはやがて3つの輪っかを作り素人の僕でもわかるほどのエネルギーを発生させる。

 

 あの化け物もこちらに気づいたのか、恐ろしいほどの勢いを伴って僕の方へと疾駆する。よし、マシュの方に行かないならやった甲斐があった。ある程度片付けたらマスターである僕に対して襲い掛かってくると思っていたんだ。

 そうしている間にも召喚サークルは起動し続け、やがて金色のカードが姿を現した。何かが描かれているのかは分かったけれど詳しい内容まではわからない。ただ、そのカードに向かって今まで無造作に放出されるだけだったエネルギーが集まっていく。

 エネルギーはやがて形を作った。それはよく見慣れた形、けれどこの特異点Fと呼ばれる街では一向に見なかった形。

 

『■■■■■―――――!』

 

 化け物が斧のような武器を今度は僕に振り下ろす。僕自身にそれを防ぐすべはない。このままいけばあっさりとあの攻撃を喰らい、自身の中身をぶちまけるに違いない。でも、そうはならなかった。化け物の振り下ろしたもの。その軌道を遮るように、横から一閃が刻まれたのだから。

 

「折角休めると思ったのに、気がついて見れば何処もかしこも燃え上がる世紀末世界。アラガミの姿は見せずとも、黒い靄のような人型が一体。休みをもらった直後に毛色の違う化け物の相手をさせるとか世界って鬼畜ぅ……」

 

 声が聞こえる。

 死が溢れるこの場に全く相応しくない緊張感に欠けた声。けれど、何処か安心する不思議な声音。僕はその声の主に視線を向ける。

 

 

 

 

 

――――――彼はマシュの盾を起点として作り上げた召喚サークルに立っていた。

 

 

 

 

 その第一印象は、若い。年齢は僕と変わらないくらいだろうか、10代前半のように思える。そのある程度整った顔立ちからも大人になりきれていない幼さが見て取れた。

 服装は僕自身が想像していたものとは大きくかけ離れたものだった。人類史に刻まれた英雄。そのワードから昔の人が出てくるのかと思っていた。しかし、目の前の彼は鎧というようなものはつけていない。服装は白い上着に動きやすい素材でできているであろうズボン。現代に混ざっていても違和感のない服装だった。特徴的ということで強いて挙げるなら、上着の背中にある狼の紋章だけ。ぱっと見た感じ街で見かける若者にしか見えない。けれど、彼が持っている武器が一般人ではないかという懸念を否定している。

 

「いや、今はそれどころじゃないか。……後ろの君がオレのことを呼び出した、ってことでいいのかな?」

「えっ、あ、はい」

 

 唐突に話しかけられたことで驚いきつつ答える。すると、僕が呼び出した英雄と思いし彼は一度こちらに笑顔を見せるとそのまま化け物に向き直った。

 

「よし。サーヴァント、バーサーカー。真名は……まぁ、今はいいか。取り敢えず、マスターは気絶している彼女と震えているだけの彼女を連れて少し離れといて。ここはこっちが受け持つから」

 

 まるで気負いしていない風に彼――――バーサーカーは言った。僕は一目散にマシュに駆け寄り、彼女を背負いこむ。意識のない人が重いっていのは聞いたことあるけどこれは予想以上だ。なんて思いながら僕は所長のところへと向かっていく。

 

「あっ…えっ、えっ……?」

「所長、ここから離れましょう!」

 

 放心気味だからか所長は素直に動いた。

 正直ここでヒステリックになられても困ったのでとても助かったと思った。

 

 

✖️✖️✖️✖️

 

 

「すごい……本当に英霊を呼び出した……」

 

 一方、犯人が誰だかわからないテロに晒されたカルデアの管制室で一人、立香やマシュ、オルガマリーの存在証明を行っている医療チームの代表であるロマ二・アーキマンは立香を通して現在彼らが置かれている状況を確認していた。

 映像に映るのは立香が呼び出した英霊。だが、ロマ二にとってあれが本当に英霊なのかと言うことが判断できなかった。

 それは彼の外見が原因だ。しかし、それは若い見た目が原因ではない。英霊をことサーヴァントは生前の全盛期の形で現界するため、若い見た目で出てくるのは当然だ。だが、彼の持っている武器。あれが彼の頭を悩ませている原因である。見た目は人の身長ほどありそうな刀なのだが、持ち手のところには円形のシールドと思わしき物体が付いていた。

 それだけに留まらず、銃身のようなものまで顔を出しているとすればいよいよ持ってお手上げである。人類史に刻まれた英雄の中に、刀身、シールド、銃身を全て兼ね備えたマルチ武装を使った存在なんていないのだ。そもそも、あんな現代的な武器を使うような英雄、ロマニ処か数多くの人が知らない。

 

「唯一の救いは立香君に協力的なことだけど……」

 

 そのような事を考えながら、ロマ二は立香が召喚したサーヴァントのステータスを確認する。強さの基準となるそれを確認しておかなくてはいざという時の為になると知っているからだ。

 

「って……えぇ!?ぜ、全ステータス平均Dだって……!?」

 

 ロマ二は立香が呼び出したサーヴァントのステータスに絶句する。平均値Dというステータスは決して高い方ではない。いやむしろ下の方から数えた方が早いレベルの値だ。

 

「これは大変だぞ…!」

 

 はっきりとロマニは分かった。

 ステータスから考えれば、デミ・サーヴァントになってしまったマシュよりも低いかもしれない。どれほどの技量を持ち、偉業を成したのかはわからないが、希望的観測よりも絶望の方が大きかった。

 

「あぁ、くそっ」

 

 しかし、そこまで考えたとしても今の彼にできることは何もない。実際にレイシフトしたわけではない彼にはここで見守ることしかできないのだ。ロマニはその悔しさから思わずいらだちを口に出してしまった。

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

『―――■■■■!!!』

「おぉ!?早い!重い!ついでにこの身体動き難い!?一体何がどうなっているんディスカ!?」

 

 召喚された現代風の英霊、バーサーカーによって後方へと下がった立香とオルガマリー。自分達の命運を先程知り合ったばかりの人物にかけなければならないということから真剣に事の成り行きを見守っていた彼らだったが、少しだけ、本当に彼に任せていいのだろうかという懸念を抱き始めていた。

 

『■■■■■■!!』

「うぐっ!?」

 

 空を裂きながら振るわれた斧にも似た大剣にバーサーカーは吹き飛ばされる。人智を越えた力を受けた彼はその身体を宙に躍らせ、そのまま廃ビルの壁の中へと突っ込んでいった。

 

「ちょっとぉ!やられているじゃないのよ!!」

「所長、落ち着いてください……!」

 

 頼みの綱であるバーサーカーがあっさりと吹き飛ばされた為に元々肝の据わっていないオルガマリーは錯乱し、召喚者である立香に文句をぶちまける。立香も立香で自身が全力で呼んだサーヴァントがあっさりと吹き飛ばされて内心焦っていた。

 しかし、黒い靄を纏った巨大な何かは一向に立香達を襲おうとはしてこなかった。只バーサーカーが吹き飛んでいった廃ビルに対して身体を向けるだけ。

 様子がおかしいこと気づいた二人だったが、その疑問は直に解けることになる。

 

 廃ビルの残骸が弾けると同時にそこから超高速で人型の何かが飛んでいく。そして、そのまま自身の身長程ある大剣を振り下ろした。

 

『■■■■!!』

「―――――っ!」

 

 黒い靄の化け物は軽くバーサーカーの斬撃を受け止める。体格から見て分かる通り、筋力差には天と地ほどの差が存在しているのだろう。

 

「――――フッ……!」

 

 筋力差が分かってもなお、バーサーカーは武器を引かせることはなかった。むしろそのまま自身の刃を突き立てんとどんどん力を入れて、黒い靄の化け物を切り裂こうとする。

 

『■■……■■■■――――!!!』

 

 変化は直に訪れた。

 先程まで余裕で対応しているように見えた黒い靄が、苦しそうに声を上げたのである。立香とオルガマリーがよく見てみれば、バーサーカーが構えている武器から黒いナニカが相手の身体に絡みつき、その肉体を貪っている光景が目に映った。オルガマリーは速攻で目を逸らす。

 

「あんた、《《神様》》の系列……もしくはかなりの信仰を受けていたと思う。それは凄いことなんだろうけど……残念、それが敗因だ」

 

 鍔迫り合いをしているバーサーカーの武器。その刀身がだんだんとその姿を変えていく。刀身たる大剣の部分が消えて、それを覆い尽くすように黒い口が出現する。見る者全ての恐怖心を刺激しそうな口は、徐々に大きく開いていき―――――

 

 

『■■■■……』

 

 

 

―――黒い化け物を一口に飲み込んだ。

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

「改めて、バーサーカー。ステータスは……うん、色々残念なことになってるけど誠心誠意頑張らせていただきます」

「態度が180度変わったわね……」

 

 所長がバーサーカーの態度に対してツッコミを入れているけど、確かにそうかもしれない。さっきまでは普通にため口で話してくれていたのに急に敬語使いだした。……一体何があったのだろうか。

 

「ん?あぁ。先程は色々と切羽詰まっていたので素が出ましたけど、基本的にはこんな感じですよ」

「えーっと……別に無理して敬語を使わなくてもいいですよ?」

「そう?ならそうしようかな。マスターとサーヴァント?っていうやつの関係は信頼第一って貰った知識に在るし」

「あ、あの……初めまして。この度はマスターを救っていただき本当にありがとうございました!」

「サーヴァントなんだからマスターの為に戦うのは当たり前でしょ(聖杯の知識では)だから気にしなくても無問題」

 

 まだ疑問は多々ある上に所長がしっかりと真名を聞いておいてと言っているけれども、今僕達がするべきことはこの特異点Fの捜索である。ということを話すと所長も渋々だけど納得してくれた。尤もバーサーカーが怖いのか僕とマシュを挟んで歩いているけど。

 

 

 

 黒い靄の化け物と戦ったという経験のお陰が、マシュはこの後出て来た黒い靄を纏ったサーヴァント達とも危なげなく戦っていた。一応、僕もマスターらしく礼装やら何やらで戦いをサポートする。

 一方バーサーカーは英霊として呼び出されるだけあり、戦いは慣れているらしい。”キリエライトさんの方についていてあげて”とこちらを気遣ってくれた。

 

 

 

 

 その後元々この特異点Fで聖杯戦争をしていたというキャスターに遭遇し、この特異点Fからの帰還方法と思わしきことを聞いた。それはここで行われている聖杯戦争を終わらせること。キャスター曰く、今残っているのはセイバーと目の前にいるキャスターのみ。他はセイバーに倒されて今まで戦ってきた黒い人型みたいになってしまったという。

 このように向こうは聖杯を手に入れるためにキャスターを狙ってくることは間違いないらしい。彼はこの聖杯戦争を終わらせたい。僕達もこの空間に在る異常を無くしてカルデアに還りたい。利益は一致している為に一時的に契約を交わすことになった。

 

「んで、今までそっちで会ったサーヴァントはなんだ?」

「多分だけど、ランサー、アサシン、ライダー……そしてバーサーカーよ」

「はぁ?あのセイバーですら手こずり、ついでに引き込んだとしても放置するしかなかった野郎をあんたらがやったっていうのか?」

「僕らがやったというか……バーサーカーが一人でやったという方が正しい、かな?」

 

 キャスターは僕の言葉を聞いて視線をバーサーカーに向けた。彼はキャスターというけれども、どちらかと言えば僕は戦士のように見える。なんというか、カルデアに居る魔術師みたいに《《いかにも》》という雰囲気を感じないのだ。どちらかと言えば、戦場に出て戦いと思ってそうだ。

 

「へぇ……あのバーサーカーをね。いやぁ、惜しい。もしランサーの姿で現界していたら是非とも一戦交えてみたいもんだ」

「勘弁してくださいよ……あの戦いだって結構ギリギリだったんですから。たまたま相性が良かっただけです。じゃんけんみたいなもんですよ」

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

 キャスターに連れられて天然の洞窟のような所を歩く。

 途中、セイバーに倒されて今までの英霊と同じく黒化していたアーチャーに遭遇したのだが、キャスターが自分の力をみせるデモンストレーションとして戦い、接戦を制して勝っていた。

 

「あの野郎……露骨に手を抜きやがったな……。チッ、まあいい。もうそろそろ大聖杯、この冬木市で行われている聖杯戦争の元と今回の親玉セイバーが待ってる。途中でやっぱやめたってのは当然なしだ。……覚悟はいいか?」

「……うん。問題ないよ。何時でもどうぞ」

「私も、大丈夫です」

「その反応の速さはいいね。新米マスターにしては上出来だ……そこのヒステリック入っている姉ちゃんは大丈夫か」

「大丈夫なわけないじゃない……。でも、行かなきゃいけないのよ……。それに、立香が行くのに私だけ引けるわけないじゃない。責任的な意味で」

 

 オルガマリーの反応に立香とマシュは苦笑を溢した。キャスターは不敵に笑い、バーサーカーも小さく肩を震わせている。戦いの前に弛緩した空気が漂うもののそれを咎めることはしない。

 キャスターも地元でなければ戦場に慣れないモノ達を気遣うこともあるし、バーサーカーもそれは同じだ。英霊に押し上げられるほどの者達なのだから。

 

 

 

 

「これが聖杯……?これ、超抜級の魔術炉心じゃない。何でこんなものが極東の島国になるのよ?」

『こと、物作り……特に改良で言えば極東は超弩級の変態国家ですよ。尤も作ったのは魔術教会に属さないアインツベルンという錬金術の一族のようですけど』

「悪いがおしゃべりはここまでだ。奴さんこっちに気づきやがった」

 

 キャスターが忠告を促したことで全員が警戒態勢に入り、ロマニがモニターからサーヴァントの反応を探し出す。

 

『いますね。大聖杯の前に。霊核は……変質していますが確かにアーサー王のものです』

「油断すんなよ。相手は魔力放出でカッ飛ぶ化け物だ。お前らが遭遇したバーサーカー。あれと対峙するつもりで行け」

 

 全員が自分の武器を構え、アーサー王ことセイバーに警戒する中、只当の本人は面白いものを見つけたとばかりに少しだけ口角を緩める。

 

「―――面白いサーヴァントがいるな」

 

 続けてセイバーは語る。

 マシュが持つその宝具は面白いと。己の剣で試すだけの価値があると。

 

「構えよ名も知らぬ小娘。その守りが真実かどうか、私の剣で確かめてやろう」

「――――マスター!」

「ああ、負けるものか!」

 

 

 セイバーが自身の代名詞。約束された勝利の剣を構え、自分の魔力を巡回させる。それに合わせるかのようにマシュも後ろに存在する自分の仲間を、マスターを護るために魔力を回した。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め―――――」

「宝具―――展開します……!」

 

 

 人智を越えたサーヴァント達が繰り出す己の全て。

 アーサー王のそれはまさに大災害そのものだった。線上にあるものは例外ないく薙ぎ払い、衝撃波だけでも肌が焼けるような熱量を立香は感じた。普通の人間がいていい場所ではない。それは魔術にかかわりがなくたって、常日頃から戦場に身を置いていなくても理解できることだ。正直、恐ろしいと思っている。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

「――――――っ、あぁぁぁぁあああああ!」

 

 けれど自分よりもそれを感じている子がいる。

 今も尚、震える体に力を入れて全てを薙ぎ払う魔力の塊に立ち向かっている子がいる。立香は理解していた。だからこそ、恐ろしくても態度には出さず、彼女に尤も近い所でその魔力の塊と対峙する。

 

「――――つぅ……!」

 

 が、一朝一夕で技術が身につかないように。たった数時間前にサーヴァントとなったばかりのマシュにアーサー王の宝具を受け止めることは困難だ。

 

「令呪を以て命ずる」

 

 マシュだけでは難しい。それはあの場に居た誰もが言っていたこと。ならばどうするか?単純な話だ。一人でやらなければいい。彼女一人で難しいのであれば自分も力を貸せばいい。都合のいいことに立香の右手にはそれを可能にするものが在るのだから。

 

「―――シールダー!全力で防いで!!」

「―――はぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

 

 立香の右腕から三画ある令呪が全て消え、彼の身体からごっそりと力が抜ける。初めて感じる喪失感に膝を付きそうになるが、寸でのところで足腰に力を入れなおして歯を食いしばる。

 未だなおマシュが宝具を受け止めているのだから自分が先に潰れるわけにはいかない。

 

 

 永遠にも思える時間が過ぎ、何とか彼らはアーサー王が放った宝具を凌ぎ切った。しかし二人はもう既に限界。マシュは盾を使って自分の身体を支え、立香は立っているのがやっとの状況だった。

 

「凌ぎ切ったか。だが、一度で満足されては困るぞ。小娘」

 

 対してアーサー王は未だ健在。

 防ぎ切られたことに対して驚きをみせることはなく、淡々と第二陣を用意していた。黒く染まった聖剣に再び魔力が集まっていく。

 

 そして魔力がたまっていくにつれてマシュと立香の顔に絶望の色が濃くなっていった。

 

「お替りだ。卑王鉄槌。極光は――――」

「―――――――」

「無粋な」

 

 しかし、英霊と呼ばれる者達はそのくらい慣れている。二段構えなどは当たり前、追い打ちなど対策をしていない方が悪いのだ。

 

 マシュが防ぎ切ったと同時に地面を蹴り、今の自分にできる全力で疾駆していたバーサーカーの凶刃がセイバーへと襲い掛かる。セイバーはバーサーカーの斬撃を見切り軽く剣で弾いた後に、そのまま魔力放出で加速させた斬撃をバーサーカーの腹に叩き込もうとした。

 

「アンサズ!」

「小癪」

「ちっ、平気な顔して切り裂きやがって」

 

 キャスターが作り出した僅かな隙を利用してバーサーカーは距離を取る――――など、することはなく逆にそのまま懐に潜り込んだ。彼が扱っている武器は自身の身長もある大きなもの。その分小回りなどは聞かず、間合いも自然と開けてしまうものだ。

 

「自ら優位な距離を捨てるか」

「――――スゥ……!」

 

 戦いに身を置く物であれば下策と罵るだろう。嘲笑うだろう。それもそのはず、どちらかと言えば彼は化け物退治で名を上げた英雄であり、対人戦は専門外。処理として人を殺したことはあれど、戦いの中で殺しをしたなんてことはないのだ。ないのだが……彼はあることで有名だった。

 

「―――ッ!?何……!?」

 

 腹に感じる衝撃を受けてアーサー王は初めて動揺を表に出した。素早く自身の身体を確認してみれば、少々へこんでいる鎧と、自分の腹と接触している銃身が目に入った。聖杯の知識から銃という武器は知っている。銃に刃物を取り付けた銃剣という武器も知っている。

 

 だが、完全に銃と剣を分別し、尚且つ変形可能な武器などそんなものはなかった。

 

「貴様……()()()()

「―――――」

 

 バーサーカーは質問に答えることはない。彼が返すことは言葉ではなく攻撃。銃に変化させた武器を再び剣に変形させて下から振り上げる。セイバーは聖剣で斬撃を逸らしてそのままバーサーカーの腹に蹴りを放った。

 華奢な身体からは想像もできない威力を受けたバーサーカーだったが、一番初めに対峙した冬木のバーサーカーとの戦いから、己の武器を地面に突き立てて後ろに抜けていく衝撃を無理矢理受け止めた。

 

「おいおい、戦い方がなってないぞアンタ」

「対人戦はまるで経験がなくて……」

「えぇぇ……」

 

 キャスターも呆れ顔だが、一方でセイバーはバーサーカーのことを警戒し始めた。彼女にはもはや未来予知といってもいいほどの直感がある。霊基が反転しスキルが降格したとしても高いランクを保持している。その精度は本来の霊基と謙遜ない。

 

「(……謎のサーヴァントと人類最後のマスター、そしてあの盾を持つ小娘……か。面白い)」

 

 セイバーは彼らのことを考えて、もしかしたらと思い始めていた。

 彼らであれば、完璧とも言える偉業を成し遂げたモノと対応できるかもしれない。どの歴史にも存在しない英霊と、不完全な英霊。そして一般人のマスター。継ぎ接ぎだらけの張りぼてもいいところだが、だからこそ完全な一と対立できるかもしれないと、そんな夢物語を思い描いてしまった。

 

 彼女が見据える先には、体勢を立て直した素人丸出しの主従と、戦い方を教えるキャスターに教わるバーサーカー。正直何が何だかわからない光景だ。でも、だからこそ……。

 

「……フッ」

「あん?どうしたんだお前」

「なに、戦場で漫才を始めた貴様らが滑稽で仕方なかっただけだ」

 

 言って鼻を鳴らす。

 その間に立香とマシュが合流する。未だ息が上がっているがそれでも戦えるようになったようだ。

 

「漫才の礼として休息は取らせた。これ以上無様な戦いを披露してくれるな」

「ハン。のんびりしてくれる時間をくれるなんてお優しくなったじゃねえか。どうした、長らくボッチで居たから友達でも欲しくなったのか?」

「これは余裕というものだ。……改めて聞こう。諦める気は?」

『ありません』

 

 

 

 

 

「……そうか。ならばもう一度全力で挑むがいい。抗えなければ死ぬだけだぞ」

 

 

 

 

✖✖✖✖

 

 

 

「…………」

 

 レイシフト、という転移を終えてカルデアという場所へと帰って来たマスターとキリエライトさん。そしてオルガマリーさん。彼らは特異点Fのことを踏まえてこれからのことを考えていくらしい。

 

 

 それはいい。こっちだって考える時間が必要だ。

 

 

 サーヴァントとして割り当てられた部屋のベットに寝ころびながら自分の状況を整理する。

 まずこの世界にはアラガミは存在していない。まぁ、それは年号を考えれば自然なことなんだけど、それ以外にもこの組織みたいに魔術という奇跡も魔法もありそうな概念や聖杯と言った万能の願望機もあったりするらしい。うん、どう考えても別世界だ。そんなものがあれば極東支部があそこまで修羅の国になるわけがないし。

 

 

「これからどうなるだろうか」

 

 

 きっと彼らはこれから焼却された人類史を救うために戦うことを選ぶだろう。俺だって呼ばれたからにはそれ相応の仕事はするさ。社畜なめんなって話だ。けど気になることがいくつかある。

 

 俺の持っている武器がロングブレードのこと。

 動きが少々悪いこと。

 俺の眼が金色に戻っている事。

 

 この辺のこともこれから分かってくるのかね。

 

 

「まぁ、何とかなるだろう」

 

 

 ……一先ず対人戦の訓練したほうがいいかもしれない。

 ()()()()()()()()()妙に焦らない気持ちを不思議に思いつつ、今後の立ち回りについての考えを巡らせるのだった。

 




特異点Fのバーサーカー  真名■■■■  クラス:バーサーカー 星5

HP15300  ATK12000

【キャラクター詳細】

歴史に名を刻まれたものが召喚されるシステムで召喚されたはずなのに、人類史に刻まれていない者。この世界の誰もが知らない、けれど、別世界では誰もがしっている。
人類に仇なす者達よ、彼の者を恐れよ。この者、汝らの天敵也。

――――まぁ、その実態はただの社畜だけどね。

【パラメーター】

筋力D    耐久C+
敏捷C+   魔力E-
幸運E    宝具EX


―――以降のマテリアルはまだ解放されていません。




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