トメィト量産工場   作:トメィト

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今回は短めです。
というより、あまり書くことが……。


そして伝説へ……

 

 

 

 

 

アポロンファミリアとヘスティアファミリアの戦争遊戯の勝者は、自分たちの不利な状況をあの手この手でひっくり返したヘスティアファミリアだった。

団長であるベルがアポロンファミリアの団長と一対一で戦い、レベルの壁を超えて掴んだ勝利である。弱者が強者を倒す英雄譚が好きな大衆、そして神々はこの結果に湧かざるをえなかった。変なキグルミこそ居たものの、実際に勝利を掴んだのは、レベルの差を覆したベルだ。文句などでるはずもなかった。

まぁ、圧倒的有利な状況で敗北したアポロンは周囲の神々から尋常じゃないくらいに煽られていたが。

 

そんな中、独自に動き出そうとしていたものたちが居た。それは勿論キグルミの戦闘能力に目を付けた神々だった。あれほどの力を持つとんでもなく面白い存在を神々が放っておくはずがなかったのだ。しかし、彼らがキグルミの元へと向かった時には既に、彼の姿はなかったという。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「あっはっは!予想以上だったね!実に笑わせて貰ったよ。くっく……」

 

「少々笑いすぎではありませんか?ヘルメス様」

 

「これが笑わずに居られると思うのかい?この見た目であの動き、あの無双っぷりだよ。特にあの時のアポロンの顔なんて本当に面白かった。あっ、やばい。思い出しただけでも腹が……ぶっ、wwwwwwww」

 

「はぁ……」

 

ヘルメスさん笑いすぎィ!

確かにキグルミで戦うなんてのは常識では考えられないことだろうけれども。耳が生えている人が最強名乗っているんだし、キグルミが強くてもいいと思うんだけどなぁ。実際に、俺のいた世界のキグルミは滅茶苦茶強かったし。

 

ーーー場所は俺がお世話になっているヘルメスファミリアのホーム。そこでこのファミリアの主人であり、アスフィさんの苦労の元凶たるヘルメスさんは、先程俺が乱入した戦争遊戯でのことを思い出して大爆笑をしていた。幾ら何でも笑いすぎである。アスフィさんが嗜めるものの一向に収まる気配はない。まぁ、この人はどうせ後でアスフィさんからの折檻を食らうことになるのだろう。南無。

 

俺はそんなヘルメスさんから視線を逸らし、先程まで自分がその身にまとっていた継ぎ接ぎだらけのうさぎを見やる。どこらからどう見ても俺がいた世界に存在していたキグルミそのものである。正直、これがどうやって作られたのか、かなり気になる。素材もそうだが、何よりどうしてこんなデザインにしたのだろうか。もっとマシな外見があったと思うのだけれど………。

 

と、割りかしどうでもいいことに思考を割いていると、唐突にヘルメスさんが口を開いた。

 

「そうだ仁慈君、折角だし、後もう少しの間だけその格好で過ごさないかい?」

 

「何でですかね」

 

別に構わないけれども。これを着ていれば少なくとも、自分が上だと信じて疑わない冒険者(チンピラ)から絡まれにくくなりそうだ。その分、普通の人からの接触も激減しそうだけれども。

 

それに、ヘルメスさんは愉快犯の気がある。何かしらの理由があるわけではなく、面白そうだからでやらせることも十分に考えられる事であると睨んでいた。

 

「いや、別に俺が楽しみたいとか、そんな理由じゃない。ごめん、嘘言った。7割くらいはそうだ」

 

「殆どじゃないですか。いい加減、恩を盾に仁慈さんで遊ぶのは止めて下さい」

 

「自分の主神にそこまで言うかなあ、普通。っと、そうじゃなくて。君にはそのキグルミを餌としてちょっとばかしタチの悪いファミリアを発見して欲しいんだ」

 

飄々とした雰囲気を一転、真面目な雰囲気を醸し出したヘルメスさんは言葉続ける。

 

「今日のアポロン達もそうだけどね。最近、あんな感じで行われる強引な勧誘や、冒険者でない人への被害が急増してきてね。ギルドでも手を焼くレベルなのさ。こういったことが繰り返されると、冒険者全員の信用にも関わってくる。かといって、 こんな事態で動く冒険者達は……今はなくてね。戦争遊戯で知名度をあげた。キグルミに、この役目をやって貰いたい」

 

なるほどね。やっぱり勘違いしている冒険者は多いのか。ま、今までとは比較にならないくらいの力を急にポンと手に入れたら大半の人間はそうなるだろう。だからと言ってやっていい事にはならないけれど。

本来ならこういったことは部外者の俺がやるべきことではないのかもしれないが、俺自身もこの街の治安には思うことがある。こういったことは早め早めに対応しておいたほうがいいだろう。後の火種とさせないためにも。

 

「別に構いませんよ」

 

「ありがとう」

こうしてキグルミ(俺)の街取り締まり的な何かが始まったのであった。

 

 

 

 

 

その後、オラリオではある噂が立つようになった。

 

曰く、それは正義の味方。

曰く、それは地獄からの使者。

曰く、プラカードを携えた継ぎ接ぎだらけのマスコット。

 

呼び名は多々あれど、共通していることは、その者が悪質な冒険者を始めとする悪人達を取り締まっているということだ。その噂の広がりようは尋常ではない速度で浸透していき、瞬く間にオラリオ中に知れ渡った。

 

その強さはまさに無双。言葉の書かれた白いボードを振り回し、悪質なもの達を突き上げ、虐げられるものを助ける姿はまさに弱き者を助ける英雄だった。

故に、何年か後、このキグルミが町中の誰もが知っている存在となった時、子どもに聞かせる言葉としてこんなものが語り継がれるようになった。

 

ーーー悪い子にはキグルミがやってきて成敗されてしまうのよ、と。

 

 

キグルミ。アラガミが闊歩する未来の地球においても一際謎の存在は、樫原仁慈という人間のせいで、異世界において、ナマハゲもどきのヒーローと成ってしまったのであった。


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