トメィト量産工場   作:トメィト

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久しぶりの投稿です。
なんとなく気が乗ったので更新しました。しかし、不定期ですのでこれを楽しみにしている方には申し訳ないのですが気長にお待ちください。


バレなきゃ問題ないんですよ

 

 

 

 

 

 「えっ、クラネル君がほかのファミリアとボヤ騒ぎを起こしたって?」

 

 「そう。面白いだろ?」

 

 ある日、森の中ではなく俺がお世話になっているヘルメスファミリアの中。今日も今日とて真面目すぎるがゆえに苦労と精神負荷を抱え込んでいる可哀想なアスフィさんの手伝いをしていると、急に仕事場にやって来たヘルメスさんが俺にそのようなことを報告してきた。

 あの、よっぽどのことがない限りは自分から戦うどころか争うことすらしなさそうなクラネル君がボヤ騒ぎ、しかも暴力沙汰とはとても信じられないものだった。ここ最近は彼の訓練的なものをヴァレンシュタインさんとティオナさん付きて行っているので人柄とかも正確に把握できている自信がある。まぁ、だからこそ驚いているのだけど。

 

 「で、それを話した真意は?」

 

 「そのベル君が喧嘩をしたところがね。アポロンファミリアなんだ」

 

 「だから何ですか。ここに来て間もないので、ファミリアの名前で言われても困るんですけど」

 

 「実はアポロンは自分の気に入った奴は多少強引な手段を使っても自分のもとに引き入れようとするやつでね。ベル君はレベル2までのランクアップが世界で最も早かったレコードホルダーなんだ。つまり……」

 

 「今回のことを出汁に、クラネル君の引き抜きを行うかもしれないと……そういうことですか?」

 

 俺の言葉にヘルメスさんは頷くなどと言ったわかりやすい肯定はしなかったが、浮かべていた笑みをさらに深くした。相変わらず質の悪い神である。これが敵だったら情け容赦なく斬れるくらいだ。

 

 「今物騒なこと考えてなかった?」

 

 「いえ、ただあなたが敵だと容赦なく斬り捨てられそうで助かるな、と」

 

 「(敵対しなくて本当によかった……ッ!)」

 

 ヘルメスさんがとんでもなくほっとしたような表情をしていた。どうしたのだろうか。

 

 

 

 

 

―――――――この時、仁慈は不思議に思っているがヘルメスがほっとするのも仕方のないことである。彼ら神だって、自身にある色々な柵を無視することができれば冒険者や人間を屠ることなど容易いことだ。何故なら、モンスターとダンジョンで正面切って戦う冒険者は彼らの力のおかげで成り立っているからである。だが、ヘルメスの前にいる仁慈はもはや神殺しという概念が人の形を得たものと言っても過言ではない存在となっている。そのため、どれほど力が強かろうと、神である段階で仁慈にはかなわないのだ。それが分かっているからこそヘルメスは仁慈を味方に引き込んでおいて正解だったと安心した。

 

 閑話休題

 

 

 「おっと、話がそれたね。実はこれだけで話は終わらないんだ。これ、なーんだ」

 

 そういってヘルメスさんが懐から一通の手紙を出す。

 無駄に装飾が入っている手紙で、差出人の少しでも自分の見栄えをよくしようとする欲が透けて見えるかのような手紙だった。

 しかし、これは何だと聞かれれば、今の話の流れから答えは一つしかない。

 

 「件のアポロンファミリアからの招待状と言ったところですか」

 

 「そう、正解。なんでも今度アポロン主催で宴を開くらしくってね。こっちにも招待状が回って来たのさ。しかも、眷属を一名同伴させることができるという事項まで書いてある」

 

 手紙の内容を聞いて俺は明らかにクラネル君をはめるためということが確認できた。確か、彼らのホームは二人だけで、眷属同伴ということ残るは無人のホームとなる。ここで誰もいないホームをぶっ壊したりすれば精神的なダメージを負わせ、さらに優しいクラネル君がヘスティアさんのことを気遣って自分のもとに来させることも可能だとパッと思い浮かんだがすぐにその可能性をうちけした。

 ぶっちゃけ、そうまでして手に入れた人材が素直にアポロンファミリアのために働くのはどう考えても無理だからだ。

 頭を振って今しがた思い浮かんだ愚かな考えを忘れようとするが、ヘルメスさんはそんな俺の考えを見透かしたように言った。

 

 「多分、当たってると思うよ。その考え」

 

 「え゛っ」

 

 「アポロンはね。そこまで思考を巡らせるのが得意じゃないんだ。もっと言うと馬鹿で短絡的なんだ。ちょっとのことですぐ切れることもあってね」

 

 「うわぁ……」

 

 ほんと神様って碌な奴がいないなぁ。

 

 目の前にいるヘルメスさんと話を聞いた限りのアポロンという神のことを聞いて思わずそういう感想を抱いてしまう。

 それと同時に、どうしてヘルメスさんがここまで面白がっているのかが理解できた。つまるところ、彼はこの一連の騒動を楽しんでいるのだろう。どこかクラネル君のことを気にかけているところもあるヘルメスさんだ。彼がさらなる厄介事……いや、成長の機会と言い換えた方がいいか。そういったことに遭遇し、どう乗り越えていくかを楽しみにしている風に感じることができる。

 

 「で、貴方がそのことを質悪く楽しみにしていることはわかりましたけど、どうしてそれを俺に報告するんですか」

 

 「いやなに、自分の抱いている感情を共感してもらうために話をするのはよくあることだろ?」

 

 「それを行うのは基本的に女性に多いみたいですよ。あと、俺はあなたの楽しいという気持ちに全く共感できません」

 

 「あっはっは。そうかそうか」

 

 ヘルメスさんは最後にひとしきり笑っていくと部屋を出ていった。本当に何しに来たんだあの人。

 ヘルメスさんの所為で止まっていた作業を再開すると、先程まで離れた場所で仕事をしていたアスフィさんが俺に近づき小声で言った。

 

 「多分、仁慈さんにあのことを話したのは巻き込む気満々だからですよ」

 

 「まじか」

 

 これはまた……どうにも面倒なことになりそうだと俺はため息を吐きつつ作業を再開した。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 「ということがあったんだ」

 

 「………」

 

 目の前には楽しそうな笑顔を浮かべるヘルメスさん。そしてアスフィさんの手伝い中の俺。数日前と同じような状況だが、話の内容はかなり違っていた。

 

 クラネル君を狙っているアポロンという神が開いた宴でアポロンはヘスティアさんにクラネル君を景品とした戦争遊戯というものを仕掛けたらしい。その戦争遊戯というのは神の代理戦争で、いわゆる眷属同士が戦うというもの。勝った方は相手のファミリアからなんでも得ることができるらしい。それをクラネル君が欲しいためにヘスティアファミリアに吹っ掛けたという話をされた。どう反応しろと。

 

 「でもさ。ヘスティアの眷属はベル君だけだろ?戦争遊戯の内容も攻城戦で、一人ではどうしても無理な内容だ。だから、僕らをはじめとする神が公平を期すために助っ人制度を設けたんだ」

 

 「それは聞きました。確か、助っ人にするならこのオラリオ外のファミリアから一名でしたっけ?」

 

 「そうだよ。アポロンもなかなかせこいよねぇ……」

 

 「どうでもいいですけど。それが何か?」

 

 「でもさ。これはファミリアから助っ人を選ぶ場合で、ファミリアに所属していない人物に助っ人を頼むときは、別にこの街からでもいいんだよ」

 

 「……………」

 

 話が読めたぞ。

 つまりヘルメスさんはこういいたいわけだ。俺にクラネル君の助っ人をしに行って来いと。別にそれ自体はかまわない。武器だって誰の手にも触れさせないことを条件とするならば、ここに置いて行って無手で戦ってもいいから問題ない。

 けど、俺が何よりも気になるのは彼の心情なのだ。彼はクラネル君の成長を心から楽しみにしている節があった。今回のことも彼にとってプラスになると感じているからこそ楽しみにしていたに違いない。しかし、そこに俺が助っ人に入るとどうなるのだろうか。自惚れるつもりはないけれど、ぶっちゃけ俺はそこらの冒険者に束になってかかってこれれても普通に倒す自信がある。この前戦ったオッタルレベルの奴が複数人出てきたらかなりやばいけど、あいつはこの街の冒険者の頂点らしいしそれはない。まぁ、俺も万能じゃないからかなりの準備をして臨むけれども……。

 

 「いいんですか?やるからには手を抜きませんけど」

 

 一応、助っ人の範疇を出ないくらいの活躍にとどめるけど、負けないように最大限努力するつもりだ。今まで通りの成長は見込めない可能性があるんだけれど。

 

 「かまわないよ。アポロンのところに彼が行ってしまったらどちらにせよこれ以上の成長は見込めないだろうから」

 

 だから――――とここで言葉を切ったヘルメスさんは真っ直ぐに、珍しく真面目な瞳を俺に向けてきて、言った。

 

 「ヘスティアにはもう話を通してある。彼女も手段は問わないらしく快く受け入れてくれたよ。あれは相当キてるね。………だから、彼らの戦争遊戯に助っ人として参加してくれ」

 

 「別にかまいませんけど……俺の顔、割れてるんじゃないんですか?」

 

 「大丈夫だ。この世界にはね。色々便利な変装道具があるんだよ」

 

 この街にはないけどね、とヘルメスさんは言葉の最後にそう付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかんだで、この時、俺の戦争遊戯の参戦が決定した。

 

 




アポロンファミリア終了のお知らせ。

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