「アスフィさんまじすみませんでした反省していますなのでなんとか機嫌を直してくださいもう耳元でずっと説教を聞かせないでくださいお願いします今でも説教が流れてくるんです幻聴が途切れないんですホント調子乗って申し訳ありませんでしたあばばっばばばっばばっばっば」
「………………アスフィ。君は一体ダンジョンで何したんだ」
「……ちょっと説教をしただけです」
ちょっとの説教で廃人が出来上がるわけがないだろう。普段飄々とした態度を崩さないヘルメスは内心でそう突っ込みつつアスフィの底力に心底戦慄していた。何をやらかしたのかはまったく分からないが、自分も何かをやらかしたらそうなるといういい見本になった。彼の犠牲は無駄にはしないと、うずくまる仁慈に黙祷をささげた。
「で?彼は一体何をやらかして君を怒らせたんだい?着替えでも覗いたか?」
「ヘルメス様じゃないんですからそんなことされてませんよ。…………彼、ダンジョンで猛者と戦いました」
「へぇー……猛者と戦ったねぇー……は?」
見事な二度見を決めるヘルメス。その表情は珍しく、本気で驚いているような感じであった。
それに対するアスフィの返答は、肯定。
「なるほど、フレイヤはこれが目的だったのか……」
「彼と猛者をぶつけることが目的だと?」
「そう。彼女は気に入った人……正確には魂だろうけど、それを見つけたとき、自分に相応しい実力を備えさせようとすることがあるんだ。今も、気に入ったベル君にちょっかい掛けているようだしね。ところで、仁慈君と猛者オッタルの勝負はどうだった?見込みありのライン超えちゃってたと思うかい?」
ヘルメスの問いかけにアスフィは全力で視線を逸らしたくなった。
……彼女のステイタス上、完全に戦闘内容を把握することこそ叶わなかったが、オッタルが言った言葉は彼女も聞き届けていた。
―――仁慈は、オッタルと互角以上。
これは本人も認めていたことである。
出なければ、今度は本気でなどと再戦を申し出るようなことはしないだろう。
面倒ごとが加速すると分かっていても、神に嘘は吐けない。アスフィはヘルメスに自分の見たこと、聞いたことを全て話した。
言葉を聞くたびに、ヘルメスの表情が引きつっていくのが分かる。
全て話し終わる頃には溜息を付いていた。
「これは完全に興味をもたれたね。まさか、猛者と引き分けるとは……」
フレイヤが仁慈のダンジョン入りに関与した時点で何かをたくらんでいるのは分かっていた。それを大して問題ないと考えていた。
大間違いだ。ヘルメスは何より、仁慈のことを完全に読み違えていた。最低でもレベル5?間違えてはいなかった。いなかったが……ヘルメスは正直、レベル6がせいぜいかと思っていた。恩恵なしならそのくらいが限度、むしろそのレベルにまで到達したこそことが異常。
そう、考えていた。それ自体が間違いだった。
仁慈は異世界の人間である。それをこの世界の定規で測っても、正しい結果が出るはずがない。まして、神として全人類の信仰を受けて、かなりの神格を有しているであろうアラガミなる存在を常日頃からバッタバッタぶっ殺している連中だ。最も神に近い男といわれるオッタルとも互角の勝負を繰り広げられるはずである。
何はどうあれ、神々を相手にしてきた存在なのだから。
ぶつぶつぶつと未だに呟いている仁慈に視線を送り、ヘルメスは彼の扱いを十分に考えてることにした。
――――――――――――――――――
「はぁああああああ!!??仁慈があの猛者と引き分けた!?」
「声がでかい!」
「オブゥ!?」
ロキファミリアの主神の部屋。
そこに居たロキとヘルメスの会話の一部である。
彼らがダンジョンの中でオッタルと引き分けた翌日。ヘルメスはロキに昨日アスフィから聞いたことをロキに報告しに行っていた。理由はもちろん、彼女も巻き込むためである。こんな案件ヘルメス1人で抱えきれないので道連れにしに来たとも言う。
「んで、そのことを態々ウチに言ってどないするん?自分のところで抱えきれなくなったから仁慈をウチのファミリアに移籍させてくれるとか?」
「残念ながら違うよ。…………道連れに来ただけさ」
「なんやて?」
「こんな案件俺1人で抱えきれるわけないだろう?」
「舐めとんのかボケ。今すぐ天界に送り返してやろうか」
「冗談、冗談。真面目な話、どうすればいいのやらまったくわからないんだ。だから、とりあえず相談しに来た。もし、この一件の隠蔽等に協力してくれたら、君達の遠征に仁慈が行くよう本人に進言してあげるよ」
「猛者と引き分けるくらいのやつが来てくれたらそら嬉しいけど……大丈夫なんか?本人の意思とか?」
「心配ないよ。彼なら行ってくれるさ」
「そうか?それならええんやけど………いやいや、今はそんなことより、仁慈が猛者とひきわけたっちゅうことや。もしこれが本当だったら、仁慈排除の話は遠ざかると思うで。何せ対抗できるやつが限られとるし、その対抗できるやつを抱え込んどる
「そうなんだけど、余計な勧誘や挑戦が後を絶たなくなると思うんだよね。君のところの大切断のときも本人が肯定するまでは荒れたから」
「今回の場合は噂の真偽が確かめようが無い。この町に居る連中は猛者と引き分けるやつなんて居ないと考えとる。正直広まったら、挑戦者というかやっかみを受けることは確実やな。最悪、複数からの闇討ちもありうる」
「負けることは無いと思うけど、誰かがうっかり彼の神機に触れてしまったら……」
「彼を生み出すような化け物がこの町に誕生することになる。この前の怪物祭の騒ぎなんて目じゃないくらいの問題が起こるで」
「………」
「………」
「是非とも内密に済ませようじゃないか」
「せやな」
こうして2人の神の会合は終わった。しかし、このときこの2人の会話を偶然にも耳にしてしまった人物がいたことをこの神たちはまだ知らない。
―――――――――――――――――
「………な、なんかすごいこと聞いちゃったね、アイズ……アイズ?」
「……………」
ヘルメスとロキの会話を聞いていたのはロキファミリアに所属する一級冒険者のティオネ・ヒリュテとアイズ・ヴァレンシュタインである。
彼女たちは自身のステイタス更新のためにロキの部屋を訪れていた。しかし、中には既に先客が降り、時間を改めようとした瞬間にロキのあの叫び声が聞こえたのだ。
だから、彼女達が部屋の外でちょっと話を盗み聞きしてしまってもしょうがないのである。
ティオナは今聞いた話の衝撃を共に話を聞いていたアイズと共有するために彼女に話しかけるが、アイズは反応を返さずすぐにその場を離れてしまった。猛ダッシュで。
「あー……これは、もしや」
ティオナはアイズが何をしにいったのか検討が付いているらしく、頭を抱える。しかし、頭で考えるのは彼女の得意とすることではないのですぐに考えを散らせると、面白そうだとアイズについていくことにした。
アイズ・ヴァレンシュタインは強さに並ならない執着を持っている。そんな彼女に、自分を簡単に一蹴できるであろうほどの猛者と肩を並べるものが近くにいるという報告を受けたらどうなるだろうか?
当然、会いに行って戦うか教えを乞うに決まっている。
「と、言うわけでベルの特訓は中止してもいい?」
「何がどういうわけなのかさっぱりなんですけど……というか、もしかして特訓しても限界が見え始めたから止めるとかそういうことなんですか!?」
「……違う。ベルはしっかり強くなってる。でも、私も一緒に強くしてくれそうな人を見つけたから、その人に会いに行こうかと」
「そういうのは本人に許可とってから言ったほうがいいと思うなぁー……」
「うわぁ!?て、ティオナさん!?」
「やっほーアルゴノゥト君。ごめんねーウチのアイズが……なんか久しぶりにスイッチ入っちゃってね」
「は、はぁ……?それはいいですけど、その人は誰なんですか?」
「最近噂の樫原仁慈君だよ」
「えっ」
その人物の名前を聞いたとき、ベルは驚愕と共に深く納得したという。
こうして、三人の仁慈捜索が始まったのである。
――――一方その頃
「オッタル。行ってくるわね」
「行ってらっしゃいませ」
ローブを被り、自身の姿を隠したフレイヤも仁慈を自分のものとするために行動を開始した。
――――――――――――――――――
「おう、お前。あの大切断に勝ったことがあるらしいな。てことは、お前を倒したら―――――」
「別にティオナさんより強いことにはならないと思いますよ」
「ガァ!?」
最近、絡んでくる冒険者が多い。
このオラリオに来て(不本意)からしばらく経ったため、ある程度町の中を1人で歩けるようになった。そのためダンジョンに潜らない日はたまに町の様子を見て廻ったりしているのだが………先ほど行ったようによく絡まれるようになった。前に絡まれたときも思ったけど冒険者というよりチンピラやゴロツキの間違いじゃないのかな。
「てめェ!なにしやガッ!?」
「逆切れはダメでしょう」
襲ってくる連中を適当にあしらいながら町を歩くと、突然嫌な予感がした。アラガミと戦っているときに稀に感じる嫌な予感だ。
この勘は大体あたるので、進路を変更して別の場所を見て歩くことにした。
「しゃーおらー」
「はいはい、つよいつよい」
おかしいな別の道を進んでいるはずなのに、やっていることがさっきと変わってないぞ。街角の死角から不意打ち気味に殴りかかってきた冒険者の腕を掴んで投げ飛ばして地面に叩きつけて、顔面を踏みつける。二、三回踏んで静かになったら再び歩き出す。
……周囲の人が若干引いているが気にしてはいけない。
何故なら、こうでもしないと何度でも絡んでくるからだ。圧倒的な力の差を見せ付けないとこの手のやからは集団になってさらに絡んでくる。このオラリオに来てから学んだことである。
………よし、元の世界に帰ってロミオ先輩やジュリウスが絡んできたら同じようなことをしてやろう。
「それにしても、ステイタスっていうのは本当に便利だよなぁ」
三人目の冒険者とかいてチンピラと読む人物を地面に沈めながら、そんな事を考える。
ファミリアに入ることがまぁまぁ難しいだけで、神の恩恵を受けてから冒険者となるのは物凄く容易だ。だからこそ、その力に溺れて勘違いをし、堕落する人間も多く沸くのだと思う。
世紀末な世界観の極東より治安が悪いとかどうなってんだよ本当に。ギルドとかその辺は取り締まったりしないのだろうか……。
今日も、疑問が尽きない一日でした(小並感)
――――――――――――――――
「…………」(ずーん)
「(すっごい落ち込んでる……)」
「(目に見えて落ち込んでる)」
仁慈を捜し歩いていたアイズたち。
しかし、結局本人を見つけることは叶わなかった。彼が滞在しているヘルメスファミリアのホームに行ってみても、出かけたといわれ、町の中を探してみてもそれらしい人物は見当たらなかったのである。
銀髪赤眼と目立つことこの上ない外見をしているのに見つけられなかったため、ベルはともかくレベル5の2人は地味に傷ついていた。
現在はアイズが大好きなじゃがまる君を三人でパクついている。
「今日はもう諦めて、明日早くにホームを訪ねればいるんじゃないかな?」
ティオナの言葉とじゃがまる君の効果で元気を取り戻したアイズは頷いて、お詫びとしてベルと少し特訓をした後、自身のホームへと帰宅した。
ちなみにベルはなんだかんだデートっぽかったので、思ったより楽しんでいたという。
―――――――――一方
こちらは仁慈に魅了を掛けて自身のファミリアに引き入れようとしたフレイヤ。
彼女は今日一日ローブで姿を隠しながら仁慈と遭遇できるように彼の行く先に待ち構えていたのだが、彼の謎勘で結局遭遇することは叶わなかった。
「………会えなかったわ」
「……今度は、確実に会えるように拘束でもしておきましょう」
その日の夜。
若干涙目のフレイヤにオッタルがどう反応していいのかわからず動揺していたらしい。
ジュリウス「よし、来い」
ロミオ「馬鹿やめろ」