トメィト量産工場   作:トメィト

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なんか楽しくなってしまった。ので三話目。
飽きているかもしれませんがよければお付き合いください。


もしも仁慈がだんまちの世界に行ったら そのさん!

 

 

 

 ここは豊饒の女主人。

 神々すらも恐れることなく接する最強の女主人が切り盛りする、冒険者になかなか人気の店である。従業員は皆女性で彼女達を目当てにかよう冒険者も少なからずいるであろう。唯、女性だけが働いているということがこの店の人気につながっているわけではない。女主人の料理もしっかりとその人気につながっていて、このオラリオの中でも最大の派閥といっていいロキ・ファミリアもよくよく訪れている。まぁ、あの主神の場合女性従業員目当てといわれても納得できるが。

 

 

 そんな店の中に注目を集めている2人組みの男女。女のほうは目立たないようなローブを着込みながらも水色の髪と眼鏡が知的な印象を持たせる美人、彼女はヘルメス・ファミリアの団長。万能者、アスフィ・アル・アンドロメダ。

 そして、男のほうは白に近い銀髪に血のように赤い目、隣においてある自分の背丈と変わらないであろう巨大な大鎌が特徴的な今神様の中で話題の異世界人、樫原仁慈である。

 

 

 彼の事やそのやらかしたとも表現するべき行動の数々は未だ大衆に知られていないものの、方や万能者、方や目立ちやすい髪の色に見たこともない武器を携えているという2人組みに視線が集まるのは必然的だったといえる。

 しかし、当の本人達は周りの視線などは一切気にすることなく、盛大に愚痴を溢し合っていた。特に、仁慈の監視を申し付けられたアスフィが。

 

 

 一言口を開いてみれば出るわ出るわ。その勢いは大雨が降った際の排水路から逆流した水並みの勢いで尽きることなく出てきていた。

 基本的に神も冒険者もわが道を行き、自分のわがままを通し、ガサツで、乱暴で、何より馬鹿と言った要素をふんだんに含んだ生き物である。むしろそれらの具現化といってもいいだろう。

 そんな環境の中にいれば、まとめ役である彼女の苦労も納得のものである。仁慈もそのことをなんとなく感じ取っているのか、彼女が全てを吐き出すまで黙って話を聞いていた。

 何を隠そうこの仁慈。取る行動の一つ一つのぶっ飛び加減から周囲に苦労をかける側の人間かと思われぎみだが、実はそういうわけでもない。

 

 

 彼がブラッド隊の隊長に就任してからはアラガミと実際に戦いながらも書類仕事に追われていた。それだけならまだいい。しかし、元隊長の金髪の暴れ具合によるクレーム、猫耳おでんパン娘の格好を何とかしてくれというクレーム、兄貴の速さについていけないので何とかしてくださいという要望、ニット帽とスク水がいちゃいちゃして砂糖吐きそうというクレームと言った本当にこれ俺がやる意味あるの?と疑問に思っても仕方がないことの対処もやらされていた。

 さらに言うなれば、上司に当たるダブルマッドからの無茶振りや実験等の相手もさせられていた。ぶっちゃけ、仁慈じゃなきゃ死んでるレベルの仕事量である。

 それらの修羅場とも言える場面を乗り切ってきた彼にはアスフィの苦労はよく分かっていたのだ。

 

 

 「はっ!………なんかすみません。色々愚痴を言いたい放題言ってしまって……。貴方だって知らない世界に飛ばされて大変だというのに……」

 

 

 一通り話し終えて落ち着いたのか、アスフィは今まで自分が何を話してきたのかを自覚して、顔を真っ赤にしながら仁慈に対して謝罪する。

 そんな彼女に仁慈は気にしないでくださいと返した。

 

 

 「いえ、似たような経験があるのでアスフィさんの気持ちは痛いほどわかります。たまにはこうして誰かにぶつける勢いで吐き出したほうがいいですよ。溜め込みすぎると体に悪いですから」

 

 

 仁慈も、我慢の限界に達したときは誰かに愚痴を溢した。その愚痴を溢した相手の名をキグルミという。継ぎ接ぎだらけのウサギのキグルミを着た謎の神機使いでどんなときにも言葉を発しず、中身を誰も見たことがないという極東の不思議名物でもある。

 仁慈は一度そんな彼(?)のことを利用し、愚痴をこぼしたことがあった。そのときキグルミは無言で一杯の飲み物を奢ってくれ罪悪感にさいなまれたのはいい思い出である……かどうかわからないが、記憶には刻まれている。

 

 

 「……ありがとうございます。本当に貴方のような人は他に居ません。あぁ、どうして貴方には神の恩恵(ファルナ)が効かないのでしょうか。効いてくれば、ヘルメス様がなんといおうとファミリアに入れるのに……」

 

 

 声がガチだった。

 この団長、仁慈が神の恩恵を受けることが出来るならば本気で自分達のファミリアに突っ込むつもりだとひしひし感じることが出来た。

 仁慈は冷や汗を流しつつも、口を開く。

 

 

 「そういえば、まだこの世界のことを何も知らないんですよね……よかったら話していただけませんか?」

 

 

 「もちろんです。……あ、待ってください。この世界のことを説明してあげるので貴方がゴライアスと戦った時に使った道具や、そちらの世界の話をしてくれませんか?」

 

 

 「いいですよ」

 

 

 そうして、追加で飲み物を頼みつつ、今度はお互いの世界のことを話し合った。このオラリオの話を聞いているときの仁慈は物凄く微妙な顔をしていた。それはレベルという概念である。この世界では2以上のレベルを持つものは上級冒険者と分類される。彼からしてみればレベルは100が限界だという固定概念があり、レベル2といえば、ポケ〇ン貰ったばかりの主人公がチュートリアルで捕まえるポ〇モンと同レベルである。なので彼はこの世界の冒険者のレベルを自分が思うレベルと捕らえることはせずランクとして捕らえることにした。

 

 

 一方のアスフィは仁慈の持つ道具や世界のことを聞いて、驚愕の色に染まったり、目をキラキラと輝かせたりしていた。

 世界観は、神々が降りてこないまま、世界中にダンジョンのモンスターが闊歩しているのだと考えるとその深刻さが分かった。どういう無理ゲーだと彼女は感じた。それと同時にそんな過酷な環境下で生きてきたからこその力なのだと納得した。きっと神機使いという生き物は皆、彼のように強いに違いないとも考えた。

 道具のほうは、素材自体はオラクル細胞の存在をよりどころとしているものが多いため複製は出来ないものの、道具のコンセプトに大変刺激を受けたようだった。

 スタングレネードと言った系統のものは特に感じるものがあったらしい。

 

 

 気が付けば、太陽は傾き空は茜色に染まり始めていた。彼らがこの店に立ち寄ったのは昼頃……単純に考えて三時間ほど時が過ぎていた。若干この店の女主人が仁慈たちを煩わしそうに見ているのに気付き、急いで勘定を済ませて外へ出る。

 

 

 「思ったより話し込んでしまいましたね」

 

 

 「そうですね」

 

 

 「所で俺は何処に寝泊りすればいいんでしょうか?」

 

 

 仁慈がこのオラリオに着てから既に一日が経過している。

 成り行きで黒いゴライアスをぶった押した仁慈は微妙に胡散臭い笑みを浮かべている金髪の男神ヘルメスのファミリアのホームで一晩を明かした。しかし、今日どのようにするのかは予定してなかった。

 一応、黒いゴライアスを討伐してくれたということで、ヘルメスから多少の金は貰っているものの一人で宿屋に泊まれるかといったら不明である。何故なら、話は通じるのに文字は分からないという意味不明な状況に陥っているからだ。このことが分かったとき彼は思わずなんでさと呟いたという。

 

 

 仁慈に指摘されてアスフィも初めて気が付いたようでハッとしていた。

 

 

 「どう……すればいいんでしょうか……」

 

 

 「頑張れば出来ると思うんですけど……先程からなんか視線を感じていまして……」

 

 

 仁慈の言うとおり、道行く人は仁慈に珍獣でも見るかのように視線を向けていた。先程までの大鎌を持っているからつい反射的に見てしまうものとはまったく違う。意識的に向けている視線が明らかに多かった。

 

 

 「おそらく、神会での報告が行き渡ったのでしょう」

 

 

 「納得です」

 

 

 異世界人、わけの分からん武器、神の恩恵が効かない……これだけの珍要素があれば注目されるのも致し方ないといえる。

 

 

 「………まぁ、ヘルメス様がしっかりと事実だけを伝えるかは分かりませんが」

 

 

 「一気に不安を煽るようなこと言わないでくださいよ」

 

 

 この視線、本当に大丈夫なんだろうか……。

 仁慈は若干不安になった。

 

 

 とりあえず、昨日も泊まったヘルメス・ファミリアのホームに戻ることにした。ヘルメスも仁慈のことを気に入っているし無碍にはしないだろうということだ。

 方針を決めていざ、向かおうとしたときに待ち行く人と肩がぶつかってしまった。仁慈は反射的に謝りそのまま去ろうとするが、不意に肩を掴まれる。

 この後、起こることがなんとなくわかった仁慈だが、ここで無視するのも感じが悪いと思い振り向いた。

 

 

 「おい、ぶつかっておいてそれだけで済むと思ってんのか?」

 

 

 相手のほうがよっぽど感じが悪かった。

 

 

 「本当に申し訳ない。少々他の事に気を取られていたものですから」

 

 

 そういって謝る仁慈だが、肩を掴む人物は一向に放す気配がない。というか、いつの間にか人数が増えていた。

 先程までは仁慈がぶつかってしまった男性とその隣に居るもう1人の男性だけであったはずなのに、今では五人ぐらいの人が囲っている。顔つきは完全にヤの付く人であった。

 

 

 「許して欲しいならそれなりの誠意ってやつを見せてもらわないとなぁ?」

 

 

 「あぁ、その武器。俺によこせ」

 

 

 言葉と共に手を差し出す男性。

 周囲に居る男達も逃げ場を無くすことと、プレッシャーをかけるために距離つめて仁慈を囲う。

 

 

 「それは流石に困ります。これは唯一の武器なので」

 

 

 「ふぅん。お前、レベルはいくつだよ」

 

 

 「俺は冒険者ではないので、レベルはありませんよ」

 

 

 そういうと、男達は一斉に笑い出す。

 

 

 「ぼ、冒険者でもねえのに武器を持ってんのか?」

 

 

 「ブッ、ハハハハハッ!笑わすなよ!そんなの、お前が持って無駄だ。冒険者様である俺達が有効活用してやるよ」

 

 

 「結構です」

 

 

 「………これはこれは、お前……自分の状況がまだわかってねえみたいだな」

 

 

 彼らが仁慈に対してここまで大きな態度を取れるのは冒険者であることが関係している。

 冒険者とは神の恩恵を受けた者。その効果は凄まじく、恩恵無しなら並みの達人だって手こずるモンスターに戦いのたの字も知らない素人が勝ててしまうほどの身体能力を与えるのだ。だからこそ、恩恵を受けていない人は冒険者に強く出ることが出来ない。ここまで粗暴なやからは滅多に居ないものの、遭遇してしまうと弱い者達は泣きを見るしかないのである。

 

 

 これは流石にまずいと、アスフィが止めに入ろうとする。

 しかし、それは止められてしまった。

 

 

 「―――っ!?誰です?」

 

 

 「手を出すのはちょっと待っといて」

 

 

 「―――――ロキ様!?」

 

 

 彼女を止めた人物とはいつの間にやらそこに居たロキであった。その後ろにはこのオラリオ最大派閥のロキファミリアの幹部達も居る。

 神に止められては彼女も引き下がるしかない。しかし、何が目的かは問うて置かなければならない。

 

 

 「―――無礼を承知で申し上げます。目的は何なのですか?」

 

 

 「別にたいしたことじゃあらへんよ。あのドちびとアンタんとこの主神が言ったことが本当か確かめたいだけや」

 

 

 神会でヘスティアとヘルメスが口にしたこと。

 

 

 

 ――――――――彼は恩恵無しでも最低レベル5くらいの戦闘力を持っている。

 

 

 

 彼らが嘘をついているとは思っていない。しかし、自分の目で見てみないと信じる気になれないのは確かだ。相手が小物というのはいささか不満だが……この状況は、絶好の機会でもある。

 ロキから仁慈のことを聞いていたであろうロキファミリアの幹部達も彼の行動に注目していた。

 そんな周囲には気にもとめず男達は言う。

 

 

 「これで最後だ。おとなしくそれを渡すのと、ボコボコにやられてから取り上げられんのと、どっちだ?」

 

 

 「……どちらもお断りです。というか、もし直接手を出すならこちらも受けた分はきっちりと返しますよ?」

 

 

 「やれるモンならやってみろよッ!これでも俺は上級冒険者様だぜェ!?」

 

 

 何故か上級冒険者ということをカミングアウトしながら殴りかかる男。それを皮切りに周りの男達も一斉に拳を振るい、仁慈を殴った。

 顔、腹、鳩尾、背骨、肩。

 これが唯の恩恵を受けていない一般人だったら最悪死に至るような攻撃。男達は内心で最後まで武器をおとなしく譲らなかった仁慈を見下しながら武器を奪おうとする。

 しかし、

 

 

 「全員、一発のお返し」

 

 

 その言葉が男の耳に聞こえた瞬間には、もう自分は地に立っていなかった。ふわりと体が宙に浮いている感覚と共に男の意識は途絶えた。

 何がおきたのか分からない周囲の男達。

 だが、仁慈は困惑の中にいる彼らを決して見逃したりはしなかった。肩と腹を殴った男を先程顔を殴った男と同じように瞬時に彼らの前に姿を現し、顎にアッパーを決めて空の旅に案内する。

 背骨と鳩尾という洒落にならない、明らかに殺す気で殴った二人には頭を掴み、全力で石畳の地面へと叩きつけ、その後追い討ちに足で踏みつけた。

 

 

 「い、いふぁふっふぇふぁふぁふぃふぁ?(一発って話じゃ?)

 

 

 「アレは嘘だ」

 

 

 そこまで言うと、最後にもう一度だけ踏みつけた。それをやり終えた仁慈はとてもさわやかな笑顔であった。

 異世界行きはやはりストレスが溜まるらしい。

 

 

 ごく普通に冒険者五人を返り討ちにした仁慈は普通にアスフィの元へと帰って来た。アスフィはというとただただ溜息を吐くだけである。黒いゴライアスと戦っているところを見たのだからこの結果は火を見るより明らかだと知っていたからだ。

 

 

 「お待たせしました」

 

 

 「やり過ぎでは?」

 

 

 「いい薬になったでしょう?あの手口大分やりなれているようでしたので、少々お灸をすえただけです」

 

 

 「ストレスの捌け口には?」

 

 

 「少ししました」

 

 

 「まぁ、いいでしょう」

 

 

 そんなやり取りをしつつ彼らは帰路に着く。

 だが、アスフィはそれがすんなりスムーズに行くとは思っていなかった。何故なら、

 

 

 「なぁ、そこのお前さん。ちょっとええか?」

 

 

 仁慈に興味津々と言ったロキファミリアの皆様が居るからである。

 アスフィは思った。仁慈は自らが望もうと望むまいと、面倒ごとに巻き込まれるたちなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロキ「会ってみたら確かに天敵っぽいけどそれを含めて面白い存在だと思った」
ヘルメス「わかるわ」
フレなんとかさん「………ジュルリ」


仁慈「――――っ?」(謎の寒気)

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