インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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本編にはあまり関係ないのですが、捕らえられた元ISパイロット達、首輪付きのお話です。
名前がついたので色々考えていたら、妄想が色々と………。


番外編 第03話 とあるPMCのその後

 

 民間軍事会社(PMC)“カラード”。

 設立されたばかりでありながら強力な装備を有するこの会社は、先日フランスで起きたテロ事件の際、NEXTの手足として大いに活躍した。

 その際、相当数の人間が、カラードのロゴマークを見ている。

 あれだけの大事件で活躍したのだから、これからは大口の依頼が沢山入ってくるはず――――――が、現実はそう甘くなかった。

 

「ねぇ、もっと実入りの良い仕事が来ても良いと思わない?」

 

 プリントアウトされた依頼リストを見ながら、傍らの同僚に声をかけたのは、ユーリア・フランソワ。

 IS学園襲撃に失敗して捕らえられた元ISパイロットで、現在のコードネームはハウンド2。

 腰まである燃えるような赤髪と、勝気な瞳が印象的な女性だ。

 性格は外見通り高飛車で、男は自分に貢ぐ為に存在すると思っている女王様。事実恵まれた容姿と均整の取れた肢体、そしてISパイロットという地位は、今まで彼女に多くのものをもたらした。

 だが今はISを剥奪され、一介のパワードスーツパイロットでしかない。

 

「私は別に、今のままでも良いわね」

 

 同僚の言葉をバッサリと切って捨てたのは、ネージュ・フリーウェイ。

 ユーリアと同じく、IS学園襲撃に失敗して捕らえられた元ISパイロットだ。現在のコードネームはハウンド3。

 腰まであるクセの無い金髪に蒼い瞳。整った、清楚とも言える顔立ち。

 白を中心とした落ち着いた服のコーディネイトもあり、外見だけなら淑女と言えるだろう。

 だが実際は、戦闘とハッキングの2つを高レベルでこなすマルチプレイヤーだ。

 

「何でよ。ここの仕事って、災害救助に治安の悪い地域での護衛、手間隙かかって面倒なものばかりじゃない。しかも護衛はお金持ち相手じゃなくて、ギリギリの依頼料しか払えないような貧乏人よ。泥臭くて、私達には相応しくないわ」

「お金持ち相手なんてロクな事ないもの。こっちのことジロジロ見て、ベタベタ触ってきて、下半身でしか物事考えない低脳。そしてお金と権力持ってるだけに性質が悪い」

「別に見られるくらい良いじゃない。お触りは………そうね、顔が良くてお金持ちで、私の言う事に従順なら考えてあげなくもないわ」

「そんな依頼主いると思う?」

「デュノアの社長とかどうかしら?」

「自前の警備部門持ってるわよ。しかも私達に依頼するなんて有り得ないから」

「ものの例えよ。それくらいの相手じゃなきゃ嫌だってこと。――――――ところで、エリザ(ハウンド1)はどうしたの?」

社長()とお話中よ。何か直談判してくるって言ってたけど」

「え、社長()来てるの?」

「貴女が来るちょっと前に」

「そっか。ならエリザの用が終わったら、一戦殺ってくるね」

「いい加減諦めたら?」

 

 意気込むユーリアに、ネージュはため息をつきながら答えた。

 これまでに2人の模擬戦は何度か観戦したが、はっきり言って大人と子供の喧嘩だ。まるで勝負になっていない。

 使ってるパワードスーツの性能は同じなので、原因は腕の差としか良いようが無かった。

 

「イヤよ。どうにかしてアイツに「まいりました」って言わせてやらないと気がすまないもの」

「そ、頑張ってね」

 

 そうして2人はエリザの用が済むまで、他愛の無いお喋りを続けたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃、カラード社長室。

 必要最低限の備品しかない殺風景な部屋で、1人の女性が社長()に詰め寄っていた。

 彼女の名はエリザ・エクレール。現在のコードネームはハウンド1。

 ハウンド2やハウンド3と同じく、IS学園を襲撃して捕らえられた者の1人だ。

 そして元ISパイロットだけあり、容姿にも恵まれていた。

 肩口で切り揃えられた銀髪に整った鼻梁。そして頬から顎先にかけての絶妙なライン。街で見かけたなら、多くの人が振り返るだろう。だが同時に、切れ長の瞳がどこか冷たい印象を与えていた。

 尤もそんな印象とは裏腹に、捕らえられた3人の中では、ストッパー役になる事が多い苦労人だった。几帳面で真面目(?)な奴が苦労するのは、表の世界でも裏の世界でも変わらないらしい。

 

「ですから、断った理由を聞いているのです」

「どうしても、説明が必要か?」

「ええ。貴方は私達を社会の役に立て、更正させるという名目でここに置いている。大口の依頼というのは、それだけ社会の役に立つという事でしょう? なのに、何故断るのですか?」

 

 彼女が社長()に詰め寄っている理由は、彼が大口の依頼を断っている、という話を事務員達がしていたからだ。

 事務員達を問い詰めたところ、事の発端は、フランステロ事件の直後にまで遡る。

 あの事件で活躍したカラードには、実を言うと多くの大口依頼が舞い込んでいたのだ。

 だが社長()は、それらを全て断っていた。

 何故なら――――――。

 

「それだと報酬額だけが、役立ってるかどうかの基準になるな」

「全てではありませんが、第一基準ではないのですか?」

「なるほど。だが自分も信じていない台詞を吐くなら、もう少し演技力を身につけた方がいいな。口元が笑ってるぞ」

「その言葉、そっくりお返しします。あんな建前、誰が信じるのですか? 大口の依頼を断った本当の理由を教えて下さい」

「その前に聞きたいんだが、何故そんなに大口の依頼にこだわる?」

 

 エリザは少し迷った後、本心を口にした。

 恐らく、社長()に幾ら建前を言ったところで通じないだろう。

 

「今の私達はとても弱い。だからここを大きくして、自分達を守れるだけの力を手に入れる。その為ですよ。それとも貴方は、私達を捨て駒として使うつもりですか?」

「いいや。人材を使い捨てるのは、装備を使い捨てる以上の損失だ。真っ当に働いてくれる限り、そんな事はしないよ」

「なら安心です。――――――では、大口の依頼を断った理由を教えて下さい」

「単純に、始めからターゲットがお前達だったからだ」

 

 そう言いながら社長()は、エリザの眼前に空間ウインドウを展開した。

 画面には大きく、「依頼調査書」と書かれている。

 

「………これは?」

「まず読んでみろ」

 

 エリザが画面をスクロールさせて読んでいくと、顔色が変わり始めた。

 

「これは………」

「分かってくれたか?」

 

 この会社の設立経緯は、そこそこ情報網のある奴なら知っている。

 そして極々単純な話だ。

 今まで彼女達は裏社会で、ISという超兵器を使って好き勝手してきた。

 当然、多くの恨みを買っていただろう。

 だがそれでも今までは問題なかった。ISという絶対的な力が、身の安全を保証していたからだ。

 しかし、その力が無くなればどうなるか? 復讐し放題だ。

 一応“首輪”という抑止力はあるが、依頼中の“不幸な出来事”までは防げない。

 大口依頼の殆どは、巧妙に偽装された“騙して悪いが”だったのだ。

 加えて言えばそれらの中には、18歳未満お断りな、少々刺激的な事をしようとしている輩もいた。

 

「でも社長。どうやってここまで調べたのですか? ここまで深い情報だと、そう簡単には……いいえ、愚問でした。更識ですね?」

「情報ソースはノーコメント。ただ確度の高い情報だから断った。これで納得してくれるか」

「そういう事であれば仕方ありません。でも真っ当な大口依頼が来たら、ちゃんとまわして下さいね」

「分かった」

 

 こうして用件を終えたエリザは社長室から出て行こうしたのだが、背後から声を掛けられた。

 

「ああ。ちょっと待て。俺の用事が済んでない」

「何でしょうか?」

「今使ってるパワードスーツで、何か気になる事は無いか? 如月重工が、実戦してどうだったかを知りたがってる」

「ISを使っていた私達からすると、反応速度が鈍すぎます。もっと早い方が良いですね。後の細かい所は、2人に聞いてから改めてで良いでしょうか」

「構わない」

 

 この後カラードに、如月重工から試作パワードスーツのテスト依頼が来るのだが、それはまた別の話であった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうして時間と場所は変わり、カラード訓練施設。

 社長()との模擬戦を終えたユーリアが、強化服のまま、格納庫の片隅に座り込んでいた。

 今日も全戦全敗。同じパワードスーツ(激震)を使っているにも関わらず、一方的にやられたのだ。

 機体はペイント弾で撃たれ過ぎて、元のカラーが真紅と見間違うほどに真っ赤だった。

 

「なに落ち込んでるのよ。らしくもない」

 

 そんな事を言いながらネージュは、ユーリアに持ってきたスポーツドリンクとタオルを手渡した。

 

「ありがと。ほんっと、アイツ化け物だわ」

「分かってた事でしょ。――――――ところで、聞いてもいいかしら?」

「なに?」

「何でそんなに突っかかるの? 別に社長()の味方をするつもりはないけど、ここ、待遇的には悪くないわよ」

「だって悔しいじゃない。男のクセに、アイツは私達を歯牙にもかけてない。認めさせてやりたいのよ」

「だから挑んでるの?」

「そうよ。悪い?」

「悪くはないけど………今のままだとちょっと逆効果かしら」

「どういうこと?」

「相手の立場に立って考えてみるといいわ。会社に来る度に挑んでくる格下の相手なんて、自分がやられたらどう? 面倒と思わない?」

「………う、………そ、そうね」

「そんな事を繰り返しても、社長()は機械的に貴女を叩きのめすだけ。認めさせるなんて夢のまた夢よ。そして何より、世界最強の単体戦力(NEXT)に、武力で張り合ってどうするの。私達にISは無いのよ」

「ならどうすればいいのよ」

 

 ユーリアの問いに、ネージュは小さな笑みを浮かべた。

 

「簡単よ。このチームが最強である事を示すの。そうすれば、絶対軽々しくなんて扱われないわ」

「何でそう思うの? 私達が強かろうが、重用される理由にはならないわ。だって並大抵の事は、社長()が動けば片付いてしまうもの。それにバックには更識がいる。仮に実行部隊が必要になったとしても、最精鋭が幾らでも借りられるはずよ」

「私もそう思っていたけど、多分それは間違い」

「なんで?」

「いい、更識の本質は対暗部用暗部。必然的にそのミッションは秘匿性が高い。でも逆を言えば、秘匿性が保たれ辛いミッションは行い辛いの。無論手段は幾らでもあるだろうけど、手間なのは間違いない。でもPMCならどう? 秘匿性? そんなの関係無いわ。PMCが動くあらゆる理由は、“依頼”の二文字で事足りるもの。そして何より、更識は今急拡大中で人的余裕が無い。最精鋭は本当の重要ミッションにしか投入したくないはず。それに貴女、大事な事を忘れているわよ」

 

 首を捻るユーリアに、ネージュは言った。

 

社長()はもう自由に動ける身じゃないってこと。でも束博士や更識の邪魔をする者は沢山いる。歯痒く思っているはずよ。自分が動ければ、ってね」

「………なるほど。博士や更識の役に立つなら、あの男は決して軽く扱わない。そういう事ね」

「正解。ついでに言うと、大きい顔も出来るようになるわね」

「誰に?」

「沢山の人達に。社長()の手足として動けるようになれば、沢山の人が、勝手に頭下げながら近寄ってくるわ。で、私達は上から見下ろしてやるの。面白そうと思わない? こんな事、前いた組織じゃ絶対出来ないわよ」

「………いつも思うけど、貴女って本当に外見と中身が合ってないわね。顔はこんなに清楚でお嬢様なのに、中身真っ黒じゃない」

「あら、自分の欲望に正直なだけよ。だって、負け組にはなりたくないもの」

「確かにそうね。分かったわ。無闇に挑むのは止めて、そっち方面で認めさせるようにする」

「ええ、その方が良いと思うわ」

 

 この後ユーリアは宣言通り、チームとしての成果を優先するようになっていった。

 その結果は、言い出したネージュの予想を大幅に超えていた。

 元々彼女の戦闘技能は、3人の中でも随一である。そんな彼女が、周囲をサポートしながら戦う、という事を覚えたのだ。

 必然的に他の2人も戦いやすくなり、受ける損害は少なくなっていく。

 そうして生み出された高い依頼達成率は、カラードの確かな信用となっていくのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なお彼女達が有名になるにつれて、密かに頭を抱えている男が1人いた。

 民間軍事会社(PMC)カラード社長、薙原晶である。

 依頼の大小を問わず確実に成果を出すハウンドチームは、確かに有能だった。ネージュの読み通り、NEXT()や更識の人間を投入するほどではないが、邪魔な事というのは多いのだ。

 そんな時に動かせる民間軍事会社(PMC)カラードは、束・晶・楯無にとって非常に都合が良かった。

 あくまで表側なので色々と制約はあったが、無理に秘匿性を保つ必要が無いため、とても動かしやすいのだ。

 加えて言えばこの会社は、設立当初から国際IS委員会の監視下にある。

 高い依頼達成率はすぐに委員会の知るところとなり、時折委員会からも依頼が舞い込むようになっていった。

 

 ………ここまでなら、何も問題は無かった。

 

 問題は、彼女達ハウンドチームの言動だった。

 引き抜きや専属契約の話が来る度に、彼女達は首輪を指差しながら、「私達、社長の部下ですから」とうっとりとした声で言うのだ。

 そして美人+首輪という組み合わせは、色々と妄想を加速させるのに十分な素材だった。

 話を断られた者達は、やっかみ混じりに言うのだ。「あれは社長のお気に入りで、首輪は調教済みの証。宝石とドレスの代わりに最新鋭装備を与えられた愛人部隊」だと。

 加えて彼女達自身、幾ら言われても否定も肯定もしなかった。ただ、うっすらと笑みを浮かべるだけだ。

 それが尚のこと、周囲の誤解を加速させていく。

 ある時、社長()は彼女達に尋ねてみた。

 

「お前達、いつからそんなに忠実な部下になったんだ?」

「あら、私達は初めから社長の忠実な部下ですよ。何せ首輪付きですから」

 

 笑いながら答えたのはエリザだ。

 自身の首輪をトントンと指差している。

 

「嬉しい台詞をありがとう。――――――で、何を企んでいるんだ?」

「分かりませんか? 女が必死に、貴方の部下ですってアピールしてるんですよ」

 

 次いで答えたのはネージュだ。

 相変わらず外見は清楚で淑女で、争いとは無縁のように見えるが、中身が真っ黒なのは既に気づいていた。

 だから普通なら色々期待してしまう台詞だったが、言葉通りには受け取れない。

 

「随分分かりやすいハニートラップだな」

「誰もそんな事してないわ。自惚れないで」

 

 最後に口を開いたのはユーリアだ。

 いつも通りのツンツンした態度なので、晶は全く気にせず、最近思っていた事を言った。

 

「そう言えばユーリア、最近随分と上手くなったじゃないか。幾つかの戦闘ログを見せてもらったが、前衛なのにチーム全体の事を良く見ている。やるじゃないか」

「えっ!?」

 

 まさかの褒め言葉に、3人が固まる。

 言われた当人など一瞬何を言われたのか分からず、随分惚けた表情を晒していた。

 だがすぐに再起動し、胸元で腕を組みながら尊大に答える。

 

「あ、当たり前じゃない。この私にかかれば、この程度簡単よ。私を部下に持てた事を光栄に思いなさい」

「ああ。確かに思わぬ拾い物だったかもしれない。――――――そうだな、久しぶりに一戦やるか?」

「え!? えっと、冗談じゃなくて?」

「ああ。どうする?」

「やるに決まってるじゃない!!」

 

 結果は以前と変わらなかったが、模擬戦を終えた彼女の表情は、以前と違い晴れやかだった。

 そしてこの後、ユーリアのツンツンした態度は、徐々に見られなくなっていったという――――――。

 

 

 

 続く?

 

 

 




次回からはまた本編に戻る予定です。

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