インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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原作とは随分違う感じになってきました。
さてはて、どうなる事やら。


第74話 学園祭・当日-1

 

 IS学園学園祭。

 このイベントは、知名度・規模・動員数・話題性の全てにおいて、他の学校の学園祭とは一線を画していた。

 何せ世界最強の兵器を自在に操る、ISパイロットを育てる学校だ。普段は機密というヴェールに覆われ、一般人の立ち入りが制限されている場所に、学園祭の間はチケットがあれば入ることが出来るのだ。加えて学園の中にいるのは、そのへんのアイドルなど歯牙にもかけない美少女ばかり、これだけでも十分に興味を引くだろう。

 なのに今年は、その他にもとびっきりの目玉が幾つもあった。

 1つは、学園祭に束博士が出現するという噂があるのだ。専属ボディガードが在籍しているだけに、噂の信憑性は非常に高かった。

 1つは、IS学園にのみ配備されているパワードスーツ、TYPE-00(武御雷)が一般公開されるのだ。量産型であるF-4(撃震)ですら革新的な性能だと言うのに、専用配備機ともなれば、その性能は注目の的であった。

 1つは、美少女達がメイド喫茶をして、「ご主人様」と呼んでくれるらしいのだ。

 これらの話は、一般人の他に3種類の人間を強烈に引き付けた。研究者や技術者、軍関係者やミリタリーヲタク、美少女に「ご主人様」と呼ばれたい野郎共だ。そしてどういう化学反応が起こったのか、IS学園のスポンサー(国や企業)や世間一般から、一致団結した強烈かつ巧みな連携で学園上層部に、「発行チケットを増やせ!!」という圧力が掛かり、抵抗しきれなかった学園側は生徒1人につき1枚までとしていた招待券を、2枚へと増やしてしまったのだ。

 そしてチケットの発行枚数が倍増した結果、1年1組はその煽りをモロに受ける事となった。

 座席稼働率は常に100%。休む暇も無ければ、息をつく暇もない。

 だが1年1組の面々は、そんな中でも抜群のコンビネーションを発揮し、上手く店を回していた。

 しかし現状はもうギリギリで、何かトラブルがあれば、収拾がつかなくなるのは目に見えている。

 そんな時だった、1人の美女が店を訪れたのは。

 

「いらっしゃいませ。お………奥様」

 

 恐らく今日この日、1番のMVPは1番初めに対応したシャルロットだろう。

 サングラスで気持ち程度に顔を隠し、髪をアップにした美女が誰かという事に気付いて、とっさに奥様と呼んだのだ。

 普段のウサミミアリスの姿が印象的なだけに、今の姿は受ける印象が全く異なっていた。

 ベージュのワンピースに白いレースのカーディガン。胸元を飾るシルバーチェーンのネックレスと小さなハンドバッグ。

 余り自己主張の無いシンプルな出で立ちだが、それ故に素材の良さが際立っていた。

 束本人とは分からずとも、周囲の注目を集めてしまっている。

 

「ふぅ~ん。流石は自称愛人1号。立場は分かってるようじゃないか」

奥様()旦那様()のお陰で、全てを取り戻せたのですから当然の事です」

 

 本当は楯無も手伝っていたのだが、ここで恋敵を持ち上げる必要はないだろう。

 

「物分りの良い子は好きだよ。さっ、案内して」

「はい。ではこちらへどうぞ、奥様」

 

 シャルロットの対応に機嫌を良くした束は、素直に座席へと案内される。そうして下がったメイド(シャル)の代わりに、執事()がメニューを持ってきて、恭しく一礼する。

 

「いらっしゃいませ奥様。こちらがメニューになります」

 

 あくまで執事として接する晶だが、その裏ではコアネットワークを使い、慌てて通信を繋いでいた。

 

(何でここに!?)

(決まってるじゃないか。君がどんな事してるのかなぁ~って思って)

(一言言ってくれれば迎えに行ったのに)

(君の驚く顔が見たかったんだ。なのにポーカーフェーイスでつまんなーーーい)

 

 内心のニヤニヤとした笑みが聞こえてきそうな返答に、晶は頭を抱えたくなった。

 せっかく外に出て来てくれたのだから一緒にいたいし、色々案内してあげたいのだが、全く何も準備していないのだ。

 自分の男のそんな心情が手に取るように分かる束は、彼が大手を振って動けるようにする為―――――――――というのは建前で本音はデートしたいが為、天災の二つ名に相応しい台詞を口にした。勿論、他人への迷惑なぞ欠片も考えていない。

 

「ねぇ、いつもみたいに名前で呼んでよ」

 

 少しだけ下ろしたサングラスの隙間から、上目遣いで迫る束。

 いつのまにか教室が静まり返っていた。

 もう殆どバレてるようなものだが、此処で名前を呼んだら大混乱確定だろう。だが呼ばなければ、彼女の機嫌は垂直降下間違いなしだ。

 晶としては何とか、この場を混乱させず、2人だけでコッソリ抜け出したいところだった。

 そんな時、シャルからコアネットワークで通信が入る。

 

(晶はこれから2時間休憩ね)

(なに?)

(束博士がクラスに居たままだと、お店が大混乱しちゃうからね。早いところ奥様(天災)を連れ出してくれると助かるなぁって)

(忙しい時にすまない)

(いいよいいよ。クラスのみんなには言っておくから、早く行った方がいいよ。奥様が待ってるから)

(すまない。この埋め合わせはするから。クラスの皆にも言っといてくれ)

(三割くらい盛って話しておくね)

(うぐ………お手柔らかに頼む)

 

 こうしてシャルの機転で抜け出せる事になった晶は、束に応えた。

 

「来るまで大丈夫だったか、束。変なヤツに絡まれなかったか?」

「流石に学園の中でそんな事は無いよ。――――――それよりも、これから色々案内してくれるんでしょう?」

 

 そういいながら彼女は、髪をまとめていたバレッタを外した。纏められていた髪がフワリと広がり、長く綺麗な髪が降ろされる。

 周囲がザワリとざわつく中、次いでサングラスが外され、彼女の素顔が現わになる。

 

「勿論だ。何処から行きたい?」

「お任せコースで、と言いたいところだけど、ここから普通に出るのは大変そうだね」

 

 周囲をグルリと見渡しながらそんな事を言った彼女は、指をパチンと鳴らす。すると窓の外から、何かの作動音が聞こえてきた。

 

「だから、普通じゃない出方をしようか」

 

 悪戯っ子のように無邪気に笑った束は、晶の手を引いて窓際へと歩いていく。

 すると外には、何処かで見たことのあるような飛行ユニット(小型Ver イクリプス)が浮かんでいた。

 ISを展開しなくて良いように、という束の配慮だろう。

 こうして窓から飛び出し、無事教室から抜け出した2人は学園の裏庭で着替え(変装し)、学園祭を堪能するのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 一方その頃、何故か大量に増えていた書類(束の悪戯)の山をどうにか片付けた楯無は、生徒会長室で絶叫していた。

 

「あんの引きこもり()ぃぃぃぃ!!」

 

 増えていた書類についてはいい。

 彼女()が仕掛けたにしては極々軽い部類の悪戯だ。この程度で目くじらを立てていたらやっていけない。

 だがあの女、よりによって学園祭真っ最中の教室で素顔を晒したあげく、晶と仲良く手を繋いで窓から脱出なんて真似をしてくれたのだ。束博士本人が出現したという噂は瞬く間に広がり、学園内では彼女にコンタクトを取りたい招待客が、一斉に動き始めていた。無論警備側への負担は甚大で、迷惑極まりない。

 しかしこれも、侵入した工作員を釣る為の囮と考えれば、そう悪い手ではない。

 楯無が激怒しているのは、引きこもり()の、その後の行動だ。

 

(アイツ、これ見よがしに!!!)

 

 教室を脱出した2人は変装して学園祭を満喫していたのだが、束は楯無に見せ付けるかのように、監視カメラから一番良く見えるルートばかりを歩いていた。腕を組んで体を摺り寄せて、出店で買った食べ物を「あーん」してもらって……………。

 握っていたペンが「バキッ」とへし折れる。

 

「フフ、フフフフフフ…………いーじゃない。そっちがその気なら、こっちはキッチリ利用させてもらうわ」

「あ、あの、お嬢様。何をなさるおつもりですか?」

 

 不気味な笑みに、思わず引いてしまった虚が尋ねる。

 

「囮役がやりたいようだから、やらせてあげるのよ」

 

 楯無は部下達に通信を繋ぎ、命令を下す。

 

「2人の護衛チームは現時刻をもって、紛れ込んでいる工作員の排除と確保へ任務を変更する。繰り返すわよ。工作員の排除と確保へ任務を変更する。2人は一切護らなくていい」

 

 一見すると冷静さを失った非道な指示だが、それを言えるのは2人の事をよく知らない人間だけだろう。

 束本人が自衛手段を持っていないなどありえない上に、直衛にNEXTがついているのだ、並大抵の事はどうとでもなる。

 護衛を貼り付けていたのは、晶と束の手を煩わせない以上の意味はない。

 故に楯無は、ノコノコと表に出てきた束を思いっきり使ってやる事にした。

 

「宜しいのですか?」

 

 虚が心配そうに尋ねてくるが、楯無にしてみれば要らぬ心配だ。

 

「あの引きこもり()が出てきたっていう事は、自衛手段があるって事よ。じゃなきゃ出てくるはずがないわ。だから工作員を見つける為の囮になってもらう」

 

 ISという超兵器を扱っている以上、第三者を敷地内に入れる学園祭の警備は厳しいものにならざるをえない。

 そして今までは、生徒1人につき1枚という厳しい招待制限。更識による影ながらの警備。島という地形的な優位性、その他諸々の涙ぐましい努力によって安全が確保されていた。

 しかし今年は学園上層部が、いきなり招待チケットの発行枚数を倍増してくれたおかげで至る所に綻びが見られていた。

 並の工作員程度なら防げても、それ以上のレベルになると、侵入そのものは防げないだろう。加えて言えば、束博士のいる場所に送り込まれる工作員だ。どこの誰が送り込むにせよ、最低限1流レベルなのは間違いない。

 

(全く、頭の痛い問題よね)

 

 内心で頭を抱えながらも、彼女は考え続ける。

 晶と束を囮にして排除出来る工作員はまだ可愛い方で、問題はあの2人を初めからターゲットにしていない者達だ。

 今現在、IS学園における優先度の高い護衛目標は幾つかある。

 その筆頭は篠ノ之姉妹と織斑姉弟だが、その他にも非専用ISやパワードスーツがある格納庫。各種兵器の稼動データが収められているサーバールーム。様々な企業から試作品として提供されている実験兵器の現物。いずれもその業界に関わる者なら、喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 

(さて、もし私が敵だったら、今の学園をどうやって攻略するかしら…………)

 

 ここでふと、楯無の脳裏に過ぎるものがあった。

 攻略する側からしてみれば、束は最大の目標であると同時に最大の障害だ。しかもNEXTという護衛が張り付いている。

 これをどうにかしなければ、如何なる策も上手くいかないだろう。

 

(私ならどうする? 引きこもり(束博士)は狙わない? いえ違う。狙うわね。彼女を狙えば、必然的にNEXTはその場に釘付け。他の目標を狙い易くなる。となれば問題は何で狙うかよね)

 

 物理的な手段で狙うのはどうだろうか? 例えば狙撃や近距離からの直接攻撃。

 誰でも思い浮かぶ手段だが、全く効果的ではないだろう。

 ISの生みの親が、エネルギーシールド(対物理の備え)を装備していないはずがない。加えて言えば、確定でNEXTの反撃がくる。成功率が余りに低いと言わざるをえない。

 では周囲の人間を人質に、要求を通すというのはどうだろうか?

 最悪の悪手と言わざるをえない。あの2人が敵に対して躊躇するとは思えないし、騒ぎが大きいだけで旨みがない。

 

(………まさか、電子戦?)

 

 ありえない。

 そんな思考が脳裏を過ぎる。あの引きこもり()に電子戦を挑むなど、勇気を通り越して無謀の領域だ。

 

(だけど、足止めが目的なら………)

 

 閃きが、楯無の中で形となる。

 

「虚。学園見取り図と電力供給図を出して」

「え、あ、はい」

 

 突然の呼び掛けに戸惑いながら、虚は楯無の正面に空間ウインドウを展開。指示された情報を表示させる。

 

(学園のコンピューターを踏み台にして引きこもり()の自宅にアタック。反撃は停電による強制シャットダウンか、物理的にコンピューターを破壊する事で回避。別の工作員がそれを陽動として行動開始というのはどうかしら?)

 

 学園への電力供給は元々あった正・副・予備の3系統に加え、束の発電衛星試作1号機からも供給を受けている。

 一見すると万全の電源対策が施されているように見えるが、内情を知る人間からすればそうでもない。

 正規の電源が、送電線を用いた普通の供給方法なのはいい。だが副電源は、学園の中枢機能を維持するのに必要最小限の出力しかない。これはISという超兵器を有する学園が、自前で必要十分な電源を持つ事を各国が恐れた為だ。そして予備電源とは各施設に備え付けられている大容量バッテリーの事だが、こちらも施設機能を維持するのに必要最小限の出力しかない。

 そして発電衛星試作1号機からの供給は、束が自宅で使用した分を差し引いた余剰電力だ。万一の時の保険以上に考えるのは危険だろう。

 

(となれば有象無象の工作員が狙うのは電源設備とコンピューター本体。正規の供給ルートは学園の外側でどうとでも出来るから、こちらに対するのは多分防げない。副電源は初めから私の部下を配置してある。でも送電ルートまで含めると完全なガードは難しい。隙を見せて、ある程度なら誘導出来るだろうけど………)

 

 悩む楯無。

 この時彼女は、これから起きる事をほぼ正確に読み切っていた。だが幾つかの不確定要素から、敵対工作を完全に防げない事も分かっていた。故に彼女が考えるのは次善策。発生した問題を如何にして片付けるかだ。

 

(反撃の糸口は引きこもり()が掴んでくれるだろうから、こちらがすべきは、引きこもり()のカウンターハックを成功させること。つまり、踏み台となったコンピューターを守りきること。その為には――――――)

 

 そうして考えた彼女は通信を繋いだ。

 工作員を排除し、学園祭を成功させる為に。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 晶と束が教室から脱出した少し後のこと。

 山田先生にはISに搭乗しての待機命令が下されていた。

 使用機体は汎用性の高いラファール・リヴァイブ。模擬弾ではなく実弾装備の純然たる戦闘仕様で、楯無から事の可能性を知らされた織斑先生が、万一の備えとして待機させたのだ。

 

『でも織斑先生。本当に来ると思いますか?』

『あいつはこういう事に鼻が効く。十中八九は来るだろうな。そして私も来ると思っているよ。今の学園は、色々な意味で宝庫だからな』

 

 眼前の空間ウインドウに映る織斑先生の表情は硬い。警備責任者でもある彼女の責任は、楯無のそれよりも重いのだ。

 極端な話、表に出ない非合法な部分だけを気にすればよい楯無と、生徒1人1人の安全にまで気を配らなければいけない差とも言える。

 

『せっかくの学園祭なんですから、来ないで欲しいですね』

『全くだ。が、そもそも空気を読めるようなら、学園祭に押し入ろうとは思わんさ』

『それもそうですね』

 

 教師2人が他愛のないやりとりをしている中、予想されていたそれは起きた。

 監視カメラに映る束が空間ウインドウを展開し、何やら不機嫌な表情になっている。

 そして拾われた晶との会話は、楯無の予測を裏付けるものだった。

 

『どうしたんだ、束?』

『私の家に直接ハックを仕掛けてきた奴がいる』

『命知らずな。威力偵察か?』

『どうかな。構成ロジックの異なる18桁のパスワード3つをクリアしてるんだ。それなりに本腰を入れてると思うよ』

『ファイアーウォールは?』

『現在作動中だけど………小癪な真似を』

『何か問題でも?』

『ファイアーウォールの迎撃ロジックを解析してるみたい。そんなに簡単に出来るようには作ってないんだけどね。まぁ表層部までならA級ハッカーをダース単位で揃えて、後はスパコンがあれば出来なくもないかな』

『どうするんだ? このままファイアーウォールに任せるのか?』

『でもいいけど、このまま解析させてあげる必要もないかな。――――――少し時間貰っても良いかな』

『勿論』

 

 そうして2人が人気の無い、監視カメラの死角に移動した後、織斑先生の携帯がコールされた。

 発信者は束だ。

 

『ねぇちーちゃん。1つお願いがあるんだけど』

『お前が頼み事とは珍しいな。一体何だ?』

『確かちーちゃんの部下に、山田真耶っていたよね。IS付きで貸してくれないかな』

『唐突だな。何故だ?』

『学園内のコンピューターを踏み台にして、私の家にハックを仕掛けてきた奴がいるの。学園のセキュリティはそんなに甘くないはずだから、物理的に細工をした奴がいるはずさ。そいつを捜すのに使いたいんだよね』

『それならISは必要無いし、山田先生である必要も無いと思うが?』

『ううん。必要。多分だけど、細工をしたのは侵入工作に特化したISだと思う。学園のシステムって、凡人が正攻法で攻略するには結構大変だし、ISなら必要機材も持ち込み易いからね。加えて言えば、ちーちゃんがいなければ日本代表だった彼女なら、腕の方もそれなりにあるでしょ』

『なるほど。なら晶や楯無を使わないのは?』

『ここを狙うくらいだから、陽動の陽動の陽動くらいは考えてるはず。いきなりその2人は出せないよ』

 

 この時、織斑先生は数瞬考えた。

 確かに束の言う事にも一理ある。晶や楯無は所謂ジョーカー。動かしてしまうよりも、いつでも動かせるという状態の方が、工作員に対してはプレッシャーになるだろう。

 

『分かった。山田先生、束に協力してやってくれ』

『はい。では束博士、何処から行きましょうか?』

 

 すると山田先生のラファールに、学園の見取り図が送られてきた。幾つかの赤い光点が印されている。

 

『怪しいのはそこ。監視カメラの映像がダミーにすり代わってる』

『了解しました。直ちに向かいます』

 

 こうして山田先生は格納庫から出撃し、学園に侵入したであろう、特殊作戦機の捜索へと赴くのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 山田先生が出撃する少し前。学園に侵入した亡国機業の特殊作戦チーム“ファントム”は、当初の予定通り、学園のネットワークに細工を施し、ダミー映像とハッキングの準備を整えていた。

 

『ファントムリーダーから各機へ。状況知らせ』

『ファントム1、問題なし』

『ファントム2、準備完了』

『ファントム3、オールクリア』

『ファントムリーダー了解。作戦プランに変更なし』

 

 亡国機業のトップエージェントと言えば、その筆頭にスコールの名が上がる。だがIS持ちのエージェントが、彼女しかいないという訳ではない。

 特殊作戦チーム“ファントム”は、侵入工作に特化したISチームだった。

 ISとしての機動力はそのままに、侵入工作に必要な通信・電子戦能力を向上させ、量子変換機能を用いて、歩兵は元よりパワードスーツですら使用不可能な各種ツールを、敵の懐で駆使する。

 ある意味、純粋な暴力よりも厄介な存在だった。

 

『………しかし解せないな』

『何がだ、ファントム2』

 

 チームメンバーの呟きに、ファントムリーダーが反応した。

 

『スコールが学園祭を我々に譲った理由ですよ。一体どういうつもりなんでしょうね?』

『私も初めは罠を疑ったが、あいつが我々に何かを仕掛けた形跡は無かった。まぁあいつの部下、オータムは治療中だからな。もう1人の部下と2人だけでは、あそこの攻略は不可能と判断したんだろう』

 

 尤もらしい意見で筋も通っている。

 そして仮に本人に真意を問いただしたところで、本心を言う事など無いであろうし、罠を仕掛けられた形跡が無いのなら、他に判断のしようもない。

 

『だと良いんですが…………』

 

 ファントム2の胸騒ぎを他所に、作戦開始のカウントダウンが進んでいく。

 

 ――――――3

 

 ファントム各機、全ステータス最終チェック。

 

 ――――――2

 

 全ステータス、オールクリア。

 

 ――――――1

 

 安全装置解除。

 オールウェポンフリー。

 

 ――――――0

 

『ファントムリーダーより全機へ。状況開始。これより目標を強奪する』

 

 こうして華やかな学園祭の裏側で、人知れず、戦いの幕が切って落とされたのだった。

 

 

 

 第75話に続く

 

 

 




作者的に戦場を蹂躙するような戦いも好きですが、侵入ミッションというのも大好きです。
もっと言ってしまうと、ヘルシングの少佐とか大好きで、あの演説は最高です。

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