インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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4月から生活が激変して暫く投稿出来なさそうなので、HDDに眠っていたものをサルベージして投稿しました。時系列的にはVTシステムの一件の直後あたりです。



番外編 第01話 とある日のジャック君

 

 ―――AM 06:25

 

 内部アプリケーションのメッセージに従い、スリープモードから起動。

 自己診断プログラムロード。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →制御プログラム:通常モード

 

 ―――パーツ構成

    →BODY:H07-CRICKET……………………OK

        HEAD機能内蔵型。

    →ARMS:BLUE-TANUKI(青狸)/ARMS……………OK

        非戦闘時作業用。

    →LEGS:BLUE-TANUKI(青狸)/LEGS……………OK

        非戦闘時移動用。

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 ブゥゥンと目がほのかに光ると、青いバケツ状のボディに短い手足という、某ドラ○もんを彷彿とさせる特徴的な身体が動き出す。

 まず一番初めの行動は、短い両手を上に向けて「う~ん。良く寝た」と言わんばかりの、妙に人間臭い背伸び。

 次いで、身体の後ろから伸びる充電用ケーブルをコンセントから引き抜き、掃除機のソレと同じように、キュルキュルと巻き取りボディに格納。

 後、テクテクと歩き出しお仕事開始。

 事前入力されていたマスター(山田真耶)の命令に従い、各部屋のカーテンを開けてまわりながらWebアクセス。

 天気予報サイトから、本日の気象情報をダウンロード。

 

 ―――終日快晴。

 

 ―――最高気温25℃。

 

 ―――最低気温20℃

 

 ―――南西の風。微風。

 

 カーテンを開けた窓から、爽やかな日差しが家の中に入ってくる。

 どうやら天気予報に間違いは無いようだ。

 そんな事を確認して、最後に到着したのがマスター(山田真耶)の寝室前。

 扉を開ける前にメモリー検索。

 

 ――― 昨 日:足元から起そうとしたら蹴られた。

 

 ――― 一昨日:頭側から起そうとしたら抱き抱えられた。

 

 ――― 以下略:…………………………。

 

 どうやったら普通に起きてくれるだろうか?

 マスター(山田真耶)からの命令なのに、マスター自身が命令遂行を妨げるという矛盾に対し、思考ルーチンが高速回転を開始。

 特徴的な青いバケツボディが徐々に赤くなっていく。

 

 ―――オーバーヒート。

 

 ―――強制冷却開始。

 

 ―――冷却。冷却。冷却。冷却。冷却。冷却。

 

 ―――冷たさ?

 

 ジャック君。何かを閃いたかのように両手をポンッと合わせる。

 扉を開けて侵入。

 何故か足音を立てないようにそーーーーーーっと歩き、(マスター同意の元)予め用意してあった踏み台に乗って、ベッドで眠る山田真耶の頭側に立つ。

 そしてラジエーターの稼動効率を上昇、某青狸のようなマルッこい手を過冷却。

 

 ―――表面温度-1℃

 

 十分に冷えたところで、手を首筋にそっと這わせる。

 

「ひゃぁぁぁぁ!!!!!!! な、何!? つ、つめたっ!!」

 

 飛び起きるマスター。

 反動で踏み台から転げ落ちるジャック君。

 倒れたバケツのようにゴロゴロ転がり、部屋の隅っこの壁にぶつかってようやくストップ。

 イタタタタタ。

 とばかりにぶつかった箇所をさすりながら立ち上がると、何故か正面に仁王立ちしているマスターの姿が。

 

「じゃ~~~~~~っく君。君はどういう起こし方をしてくれたのかな?」

 

 声の調子が何時もと違ったので、対人用心理プログラムを起動。

 幾つかのサンプルデータの中から、類似パターンを推測。

 

 ―――結論。けっこう怒っている。

 

 しかし製作者に似たのか、“謝る”という思考ルーチンの優先順位が極めて低いジャック君は必死に逃げ道を探す。

 が、生憎とここは部屋の角。

 正面にはパジャマ姿で仁王立ちするマスター。

 思わず一歩後ろに下がってしまうが、壁があり、それ以上後ろには下がれない。

 仕方ないので正面からの強行突破………………と思考ルーチンが決定しかけたところで、マスターは視線を合わせるかのようにしゃがみ込んだ。

 

「………全く、優秀だけどこういうところはロボットよね。いいですかジャック君。人様に迷惑をかけるような、不快にするような行動はしたらダメですよ。物事を効率だけで判断すると、人の中では活動出来ませんからね。分かりましたか?」

 

 製作者のマスタープログラムと命令内容がコンフリクト(競合)

 しかしこの状況下では、“とりあえず”頷いておいた方が効率的と判断。

 バケツボディを前に傾ける。

 

「よろしい。じゃぁ、シャワー浴びてくるから、朝ごはんお願いね」

 

 再度バケツボディを前に傾けると、マスターはそんな事を言いながら、部屋から出て行った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ―――AM 07:10

 

 事前に入力されていた命令に従い、カリッと焼いたトースト二枚とイチゴジャム。

 そして牛乳を用意したジャック君が居間で待機していると、シャワーを終えたマスターが出てきた。

 

 ―――外部からの最優先コード入力を確認。

 

 ―――命令受託。

 

 ―――マスターの詳細スキャン開始。

    →着用物:白いバスローブ一着のみ。

    →BWH:92・56・86

 

 ―――スキャン終了。

 

 ―――情報転送中………終了。

 

 第三者がじーーーーーーーっと見つめている事など知りもしない山田真耶は、そのままイスに座り、リモコンでTVのスイッチオン。

 社会人らしくニュースを見ながら朝食を取り始める。

 

『次のニュースです。先日、IS学園所属のISが、太平洋上で演習を行っている最中に暴走した事件について、IS委員会より発表がありました。――――――発表によれば暴走したISは、国際条約で禁止されているValkyrie(ヴァルキリー) Trase(トレース) System(システム)というものを搭載しており、これがシステムに干渉、暴走したとの見解が発表されました。又、当事件を受けてIS委員会はドイツ軍への強制査察を決定。徹底的に事実関係を究明する姿勢を見せています』

 

 そんなニュースが流れる中、ジャック君は次の仕事、洗濯に取り掛かった。

 と言っても大した仕事量では無い。

 最近の洗濯機は優秀なので、適当に放り込んで洗剤と柔軟剤を入れてスイッチオン。

 後は待つだけ。

 勿論、別洗いが必要なものは分けてある。

 そして待っている間に、今度は風呂掃除。

 以前、お湯を抜いている最中の浴槽に落ちて大変な事になったので、慎重に洗っていく。

 すると居間の方からマスターの声が。

 

「ジャックく~~ん。行ってくるから戸締りお願いね~~」

 

 風呂洗いを一時中断し、玄関で手を振って見送るジャック君。

 扉が閉まると、言われた通りに鍵をかける。

 ここまでは持ち主(山田真耶)の教育もあって、製作者(篠ノ之束)ですら驚く程忠実なお手伝いロボットぶりだ。

 

 …………しかし、“あの”製作者が、“お遊び”で作ったものが、真っ当なものであるだろうか?

 

 答えは勿論否である。

 否であるのだが……………“人工知能が人の中で暮らす”というのは、製作者ですら想像していなかった方向性をプログラムに与えていた。

 鍵をかけ、何故かチェーンロックまでしたジャック君はレーダー起動。

 敷地内に生体反応無し。

 目撃される可能性が無い事を確認すると、今までの3倍速で行動開始。

 あっという間に風呂掃除も洗濯も干し物も全て終わらせ、内部アプリケーションで時刻を確認。

 

 ―――AM 07:55

 

 間に合った事に、内心で安堵(?)したジャック君はテクテクと歩き、居間のソファにボスッと座りTVのスイッチオン。

 暫くCMが流れた後、始まったのは外国の“男子”プロバスケットボール。

 スポーツ選手特有の鍛え抜かれたしなやかな筋肉がズームアップされる度に、食い入るように前のめりに。

 そして試合が終わるとチャンネルを替えて、今度は“男子”プロレスに。

 鍛え抜かれたマッチョな筋肉が躍動する度に、引き寄せられる様にTVの前へ。

 そして番組が終わるとTVのHDDに録画していた番組(勿論最高画質)を、データ欠損が無いように有線ケーブルで本体へ転送。

 後、HDD側のデータを消去して証拠隠滅。

 こうしてジャック君が一仕事(?)終えた時、家庭用お手伝いロボットでは決して有り得ない高性能レーダーが、生体反応を捉えた。

 

 ―――数:1。

 

 ―――場所:裏庭。

 

 ―――集音マイク起動。

 

『ニャ~~』

 

 猫だった。

 どうする?

 思考ルーチンに上がってきた選択肢。

 

 1.見に行く。

 2.無視。

 

 勿論2を選択。

 あの製作者(束博士)に作られたジャック君が、必要無いものに興味を抱くはずが…………。

 

『ニャ~~ニャ~~ニャ~』

 

 はずが無いのだが…………。

 

『ニャ~~ニャ~~ニャ~~~ニャ~~ニャ~~ニャ~~』

 

 何故か足は鳴き声の方へ向かい、近くの窓から外を見るジャック君。

 すると、みすぼらしくガリガリに痩せた黒い子猫が必死に鳴いていた。

 ここで人間なら“可哀想”等と思って次の行動を起こすところだが、生憎彼はロボット。

 そんな感情は持ち合わせていない。

 が、ロボットらしい思考が結果として人と同じような行動を取らせた。

 

 ―――推論:ここで生命活動を停止される→衛生上良くない。

 

 ―――推論:解決策→餌を与えて立ち去らせる。

 

 この時ジャック君は、野良猫に餌を与えたらまた来るという極々普通の一般常識を知らなかった。

 なので冷蔵庫にあった残り物を取り出し、子猫の前に置いてやる。

 

「ニャ?」

 

 食え。とばかりに差し出す。

 そして家の中に戻っていくジャック君。

 

「ニャァ~♪」

 

 一心不乱に食べる子猫。

 こうして自覚なく猫を餌付けしてしまったジャック君のおかげで、山田先生の家にはよく黒猫が現れるようになったという――――――。

 

 

 

 続く?

 

 

 




HDDに眠っていたものですが、お楽しみ頂けたなら幸いです。
そして次の投稿がいつ出来るか分かりませんが、なるべく早く次の話を投稿できたらと思っています。

それでは、失礼致します。

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