インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回のジャック君はこ~~っそり行動してます。


第67話 ジャック君のスニーキングミッション(前編)

 

 更識楯無から篠ノ之束に連絡があった2日後。

 ジャック君は予定通り、秘密裏に更識簪を護衛していた。

 とは言っても学園内にいる限り、そうそう危険な事などない。

 何せ元々IS学園の警備レベルは高かったのだが、今年からは篠ノ之束が学園内に住んでいるという事もあり、警備レベルが更に跳ね上がっている。

 外部の人間がこれを突破して何かをしようというのなら、相当に訓練された特殊部隊か、内部からの手引きが必要になるだろう。

 なのでジャック君は、戦闘用ボディを拡張領域(パススロット)からコールする事もなく、1年4組の教室が見える茂みに1人(?)隠れていた。

 ちなみに擬態のつもりなのか、頭の上に鉢巻で、折られた木の枝が何本か括り付けられている。

 そうして依頼内容の通り、更識簪の周囲に目を光らせていると、集音マイクが少々無視出来ない台詞を拾い上げた。

 

「ねぇ簪ちゃん。今度の日曜日、みんなで映画見に行くんだけど一緒にどう?」

「次の? ごめんなさい。その日は倉持技研に呼ばれてるの。遅れてた専用武装が形になったから見て欲しいって」

「そうなんだ。じゃぁ仕方ないけど―――――――――1人で行くの?」

 

 数少ない仲の良い友人が、ススッと近付き、耳元で囁いた。

 

「え? う、うん。そうだけど、どうしたの?」

「本当に1人? もう1人いるんじゃないの?」

「いないって」

「ホントに本当? 薙原さんと一緒なんじゃないの?」

「技研に行って武装を見るだけだから、一緒に行く必要なんてないよ。それに、日曜日は用事があるって言ってたし」

「最近ずーーーーーーーーーーとハンガーで一緒だったんでしょ? なんにも無かったの?」

「なにかって………なに?」

 

 首を傾げる簪。

 打鉄弐式の開発に全力を注ぐ彼女にとって、恋愛感情など、意識の片隅にも無かった。

 

「男の人と2人っきりだよ? 有名人だよ? イケメンだよ? 甘酸っぱい恋バナの1つや2つ無かったの!?」

 

 再度首を傾げて、彼が手伝いに来てからの事を思い出す簪。

 話が面白い。アイデア沢山。力仕事をしてくれる。単純作業だけど手間がかかる面倒な仕事をしてくれる。私物のパワードスーツ(武御雷)を壊して黄昏ている―――――――――少しだけクスッと笑ってしまってから、友人に答えた。

 

「うん。無かった」

「簪ちゃん。それ勿体無いよ」

「そう? 一緒に作ってるの、楽しいよ」

 

 ここまで聞いたジャック君は、その量子コンピューターで、街中での護衛をシミュレーションしていた。

 だがどれほど繰り返そうと、結果は失敗。

 原因は明らかだった。

 街中で対象を護衛しようとする限り、各種ステルス装備を駆使しても、“姿を見せてはいけない”という創造主(篠ノ之束)からの最優先命令を満たせないからだ。

 よって現状の装備では任務遂行不可能と判断。創造主(篠ノ之束)へ指示を仰いだところ、「日曜日までに新装備を作るので、それまで現在のお仕事を続けること」という返事が返ってきた。

 なのでジャック君は、雨の日も風の日も、野良猫に引っかかれても犬に追いかけられてもカラスに突っつかれても、黙々とお仕事を続けたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして日曜日、新装備を受け取ったジャック君は、雲1つない大空を飛んでいた。

 とは言っても、戦闘用ボディを呼び出してISとしての機能を使っている訳ではない。

 仮にMEST-MX/CROW(ステルス)(※1)や熱光学迷彩などのステルス装備を駆使すれば、ある程度は発見されずに行動可能かもしれないが、IBISのようなワンオフの超高性能機でもない限り、発見される可能性を0には出来ない。そして発見されれば大変な事になるだろう。

 なので篠ノ之束は新装備を、“絶対に発見されない”ではなく“発見されても騒がれない”という方向性で作り上げた。

 結果出来上がったのは、ラジコンサイズの飛行機。これなら見られたところで、誰も疑う者はいないだろう。

 尤も外見が現存する無人偵察機“RQ-4 グローバルホーク”で、機首にジャック君が備え付けられているという少々歪な格好の為、軍事マニアが見たら多少興味を引くかもしれないが…………まぁ仮に撮影されたところで、分かる事など何も無い。

 また機体下部に本物には存在しない、砲身のようなものが見えるが、まさか本物だと思う人間もいないだろう。

 そんなジャック君が空中から追跡している中、更識簪はモノレールに乗り、一路IS学園から倉持技研へと向かい出発して行った。

 

 ―――10:00 ミッション開始

 

 ラジコンサイズとは言え、かの篠ノ之束が偵察用に作ったオプションパーツ(グローバルホーク)は、本家本元と同等レベルの性能を備えていた。すなわち約2万メートル程の上空から、ゴルフボールほどの物体を識別出来る能力だ。その性能をもってすれば、小娘1人の追跡など造作もない。そして建物の中に入られても、搭載されているセンサーの性能なら、携帯の電波を拾って位置を特定出来る。よって追跡は、何事も問題無く実行されていた。

 

 ―――10:15 モノレール下車

  周囲に危険物無し。

  脅威ユニットの存在無し。

 

 グローバルホークによって撮影される光景を、もし楯無が見ていたのなら、おそらくとても喜んだだろう。

 何故なら簪が歩いた後、周囲の男共は皆、後を追うように振り返っていたからだ。

 とは言っても、何も不思議な事ではない。

 美人で何でも出来る姉を筆頭に、周囲にいる人間が皆美人だから自覚出来ていないだけで、更識簪も十二分に美人なのだ。

 服装こそIS学園の制服という飾り気の無いものだったが、“女性優位”な世の中になってからは絶滅危惧種にも等しい、大和撫子を彷彿とさせるその雰囲気は、勝気な女性に嫌気のさしている世間一般の男共にとって、余りにも眩しかった。

 

 ―――10:20 男性3名接近

  警戒レベル上昇。

  接近者のサーチ開始。

  

 そんな彼女が1人で歩いていて、声を掛けられないはずが無い。

 如何にも遊び慣れていそうな3人組が、簪の進路を塞ぎ声を掛け――――――られなかった。

 いつの間にかスルリと脇を通り抜けられ、声を掛けるタイミングを逸したのだ。

 そして男共が首を捻る間に、簪は進んでいく。

 だがその後も次々と声を掛けようという輩が近付いてくるが、そのいずれもがスルリスルリと抜けられていく。

 一見すると特殊な武術、或いは超能力のように見えなくもないが、本人にとっては極々自然な振る舞いだった。

 というのも常に姉と比較され続けてきた簪にとって、“嫌な感じのする人には近付かない”という技能は、自身の心の安定を保つ為に必須だったのだ。その結果、知らず知らずのうちに磨かれたのが観察能力。戦闘に応用出来るほどのものでは無いが、“嫌な感じのする人”を避けるという一点において、その精度は素晴らしいものがあった。

 尤も“人を避ける”という後向きな行動の結果磨かれた技能である為、本人が誇る事は皆無であったが………。

 

 ―――10:25 タクシー乗車

  道路状況問題無し。

  予想ルート上に危険物無し。

  脅威ユニットの存在無し。

 

 簪を乗せたタクシーは、一路郊外にある倉持技研へと向かい走り始めた。

 運転しているドライバーは安全運転を心がけているようで、その動きは危なげなく安全そのもの。

 そんな時、ジャック君のセンサーが護衛対象とは全く、これっっっぽっちも、全然関係無い出来事を捉えた。

 ビルの合間。薄暗い路地裏で、美少年が強面のお兄さん方に苛められていたのである。

 この時ジャック君は機械的に、ミッションには関係無い事なので無視をしようとした。

 しかしメモリーされているとある記憶が、それを押し留める。

 

「困っている人を助けるのに、理由なんていらないんですよ」

 

 現在の持ち主、山田真耶の言葉だ。

 どうするべきだろうか? 見捨ててもいいのだが、不確定パラメーター(得体の知れない感情)が激しく、「助けるべき」という解を出力している。しかし不用意な行動はミッションに影響が出てしまう。

 量子コンピューターで数秒という膨大な時間を悩んだ末、ジャック君は間接的に美少年を助ける事にした。

 方法は警察への、匿名の通報である。

 治安の良いこの地域で、「か弱い一般人を数人で囲んでナイフで脅している」と連絡すれば、警察はすぐに動いてくれるだろう。

 この行動をモニターしていた束博士は、ジャック君を上手く育てているという事で、山田真耶の評価をちょっとだけ上げたのだった。

 

 ―――10:55 倉持技研到着

  敷地外に危険物無し。

  脅威ユニットの存在無し。

 

 護衛対象の目的地到着を確認したジャック君は、離れた場所で旋回飛行をしつつ、簪が出てくるのを待つ事にした。

 技研上空だと、技研内でテストしているISのセンサーに、引っ掛かってしまわないとも限らないからだ。

 そうして何事も無く、平穏無事に時間が過ぎていく一方で――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――――――同時刻、ドス黒い意志が動き始めていた。

 

「目標は倉持技研に到着した」

「了解。手筈は?」

「問題無い。仕込みは終わっている」

 

 妹に護衛を付けた楯無の予感は当たっていた。

 全ての人間が理性的であるのなら、裏社会など存在しない。

 いつの世も、何処にでも、金次第で汚れ事を請け負う者はいるのだ。

 例えその相手が、対暗部の一面を持つ更識家であろうと関係は無い。

 むしろ裏社会の人間からしてみれば、更識という看板に、泥を塗りたいと思っている輩は多い。

 

「そうか。楽しみだな。あんな可愛い子を好きにしていいんだろ?」

「クライアントの意向は『なるべく長くいたぶれ』だ。更識家当主様が考えを変えるくらいにな。壊さなければ、好きに扱って良いそうだ。後、記録も残しておけと言ってたな」

「クライアントも好きものだな」

「金があるだけで、俺達と同じ穴の(ムジナ)だよ」

「違いない」

 

 とあるホテルの一室で、卑下た笑みを浮かべる男共。彼らを雇ったクライアントの意図は明白だった。

 現更識家当主(楯無)唯一のウィークポイント、簪を交渉材料に、握っている各種利権を吐き出させる―――――― NEXTのバックアップを受ける楯無に対する行動としては、一見すると無謀極まりないものだ。

 だが、本当にそうであろうか?

 確かにNEXTの力は強大だ。束博士の守護者。世界最強の単体戦力というのは伊達ではない。

 しかし如何に強大な力であろうと、敵が何処にいるのかが分からなければ、どうしようもない。

 となれば敵対者を探す為の諜報活動が必要になるのだが、ここで更識家の規模がネックとなる。

 現在急速に勢力を拡大している最中だが、世界的なレベルで見れば、まだ日本有数の組織というレベルでしかないのだ。NEXTと組んで以降は欧州にも進出しているが、それも“進出している”というだけで、日本国内程の影響力がある訳でもない。

 つまり海外に高飛びされた時点で、簪を発見・奪還の見込みはほぼ無くなり、実行犯や黒幕の特定も困難になる。

 そして勿論、高飛びの方法(脱出ルート)はダミーも含め幾つも用意されていた。

 更識を相手にする為に、綿密に練られた計画だ。隙は無い。

 だが2つの予期せぬイレギュラーが、彼らの計画を破綻させる。

 1つは簪を秘密裏に護るジャック君の存在。

 妹を心配する楯無が、恋敵に頼んでまで護衛を付けた判断は、決して間違っていなかった。

 1つは、薙原晶の存在。

 彼は今日、「用事がある」と言って更識簪とは別行動をしていた。

 そしてIS学園にもいなかった。

 束博士を護るべき人間が、その任を放り出してまで外出していたのだ。

 その用事とは――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――――――11:00 成田空港

 

 今日この日、この時間、この空港に居た航空機ファンは幸運であった。

 普段であれば、まずお目にかかれないであろう世界最大の航空機、An-225“ムリーヤ”を目撃出来たからだ。

 全幅88.74m、全長84.0m、 全高18.1m、エンジンを6機装備し、最大離陸重量600tというモンスターマシン。

 そんな化け物に積まれていた巨大なコンテナがゆっくりと下ろされ、軍服を着た12人の女性達によって格納庫に運ばれていく。その近くで、一組の若い男女が話をしていた。

 

「それにしても意外だな。まさか受け渡しに特殊部隊(黒ウサギ隊)と、IS搭乗者を寄越すとは思っていなかった」

「仮にも欧州宇宙開発技術の結晶だ。奪われでもしたら大変だからな。後は、お前に顔を売っておけという事だろう」

「前者はともかく、後者は本人の前で言う言葉じゃないと思うが?」

「言ったところで、気にするような性格でもないだろう」

「確かに。そんなの一々気にしてたらキリが無い」

 

 話をしながら肩をすくめた男は薙原晶。いつもの制服姿ではなく、黒を基調としたビジネススーツだ。妙に似合っているあたり、着慣れているのだろうか? 対する女の方は、ドイツIS配備特殊部隊(黒ウサギ隊)所属のクラリッサ・ハルフォーフ大尉。こちらは軍服姿だった。

 IS搭乗者という国防の要でもある彼女は、本来なら気軽に日本に来れるような立場ではない。だがそれでも派遣された理由は、晶が以前ドイツで受けたミッションの報酬の1つ、試作有人宇宙往還機(エルメス)の護衛と引き渡しの為だった。

 任務の内容自体は、特殊部隊を、ましてISを動かす程のものではない。

 しかしそれでも、これほどの護衛を付けたという事そのものが、ドイツが今回の契約をどれほど重んじているのかを現していた。

 尤も当人達は、そんな上の意図など気にした様子もなく、気軽に話を進めていたが。

 

「だろう。こちらも腹の探りあいなどする気は無い。初めからそういうものだと思っていてくれれば助かる。――――――では、引き渡し前に現物の確認をしてくれ」

「了解した」

 

 今回に限って言えば、ドイツが晶達を騙す理由は無い。

 恐らく運ばれてきた物は、真っ当な代物だろう。

 だがそれでも確認をするのは、それがお互いの為でもあるからだった。

 現時点で問題が無い事を確認しておけば、仮にこの後問題が発生しても、責任の所在が明確になる。

 よって面倒ではあるが、これは必要な手続きであった。

 しかし宇宙船のような科学技術の結晶を、受け取ったその場でチェックするというのは大変な作業だ。実際にやるとなれば、人も時間も掛かってしまう。

 なので今回は先に設計図だけを送って貰い、束がそれを元に検査用プログラムを作成。ドラム缶型作業用ロボ(テックボット)50機にインストールし、短時間で高精度の検査が出来るよう、事前準備が行われていた。

 晶が手元の端末を操作すると、事前に運び込まれていた大型コンテナが開き、中からワラワラとテックボットが出て来た。宇宙船に取り付きセンサーで状態を調べ、コネクタを接続し確認用プログラムを流し込み、更にドアを開けて中に入り、内部からも細かく検査をしていく。

 

「…………便利そうだな。どれくらいで終わるんだ?」

「束が言うには、ざっと半日ってところかな」

「凄いな。フルチェックを人の手でやれば3日は掛かる。我が国にも売ってくれないか?」

「残念ながら、売り物じゃないんだ」

「そうか。残念だ。――――――ところで、隊長はお元気ですか?」

 

 彼女も本当に売ってくれるとは思っていなかったのだろう。軽く肩をすくめただけで、アッサリと別の話題に切り替えた。

 

「ん? ああ。元気にやってるよ。最近は友達も出来たみたいだしな」

「隊長に?」

 

 少し意外そうな顔をしてしまったクラリッサだが、ラウラの過去を知るだけに、悪気があっての事では無かった。

 

「ああ。シャルと仲良くなったみたいでな。一緒に買い物にも行ってるみたいだ。確かメールに写真が――――――」

 

 そう言いながら携帯を取り出した晶は、2人が買い物の時に写した写真を、画面に表示させてから手渡した。

 

「こ、これは!?」

 

 するとクラリッサは、背後に雷光やら竜虎やらが見えそうなくらい驚き、食い入るように見つめていた。

 写し出されているラウラの姿は、何とも可愛いらしいものだった。

 フォーマルにドレスアップされた姿、メイド姿、黒いビキニという水着姿、バニー姿、着ぐるみ姿、他にも色々だ。しかもどの写真でも恥ずかしがっていて、普段の冷徹・冷静といった雰囲気が全く感じられない。写っているのが“ドイツの冷氷”などと言われても、別人としか思えないような可愛いさだった。

 なので思わず、クラリッサは言ってしまった。

 

「この写真、くれないか?」

「え?」

 

 突然の申し出に、一瞬キョトンとしてしまう晶。

 数瞬、視線が絡み合う。彼女の目は本気(マジ)だった。

 

「いや勿論タダでとは言わない。それなりの額を払おう。ダメか?」

 

 ズズッと近付いてくるクラリッサ。

 何故かは知らないが、妙な圧力に押されて一歩後ずさる晶。

 更に詰め寄るクラリッサ。

 

「なぁ、ダメか」

「い、いや。別にそんな事は無い。アドレスを教えてくれれば送るよ」

「いいのか!? 後から金を払えなどとは言わないだろうな?」

「言わないって」

「そうか!! なら早速――――――」

 

 こうしてラウラの写真を渡した晶だったが、後日それが当人に知られてしまったおかげで、学園際の時にコスプレをする羽目になるとは思ってもいなかった。というのもラウラが、恥ずかしい写真を部下に見せられた仕返しに、恥ずかしい写真を撮り返してやると意気込みコスプレ喫茶を提案。しかも特殊部隊隊長という仕事で身に付けた人心掌握術でクラスを扇動。圧倒的多数で可決させたのだ。だがそれはまだ先の話。今の晶には知り得ぬ事であった。

 そうして写真を貰ったクラリッサは、ふと思い出したかのように、世間話でもするかのような気軽さで口を開いた。

 

「ところで、1ついいですか?」

「何だ?」

「束博士が計画している発電衛星計画に、我がドイツも1枚噛ませて欲しい」

 

 しかしその内容は、世間話で済ませられるようなものではなかった。

 

「…………一介の軍人の台詞じゃないな。誰の意図だ?」

「現首相の、です」

「なるほど。投資をしてくれるというなら大歓迎だ」

 

 相手の意図を図りかねた晶は、意図的に「1枚噛ませて欲しい」の意味を曲解して答えた。

 そうして相手に答えさせる事で、不用意に情報を与えないためだ。

 

「束博士の発表以降、順調に資金が集まっているのは知っている。そして我が国も、窓口を通して既に資金は出している。だからこの申し出は、別の部分についてだ」

「それは?」

「集めている額からすると、必要な物資の量は膨大なのだろう? そしてモノがモノだけに、妨害工作も考えられる。だから物資の運搬・護衛を我々にさせてくれないか、というものだ。下手なPMCよりも、余程役に立てると思うぞ」

「我々とは?」

 

 ここでクラリッサは、自身の胸に片手を当てながら答えた。

 

「我々とは、我が隊(黒ウサギ隊)の事さ。ドイツは我が隊を篠ノ之束・薙原晶の両名の元に派遣する用意がある」

「…………それはお前(IS)を含んで、という事か?」

「勿論。どうだろうか?」

 

 IS配備特殊部隊(黒ウサギ隊)を好きに使えるというのなら、一見すると破格の好条件と言えなくもない。

 しかしこれを認めた場合、間違いなく他の国や企業からも同様の申し出があるだろう。

 全てを平等に扱わなければならない理由などないが、それでも少々面倒な事態になるのは間違いない。

 なので色々考える必要がある。そう考えた晶は、回答を保留する事とした。

 

「即答できるような話じゃない。一度束と相談させてもらおう」

「出来れば、良い返事を貰いたいものだな」

「あまり期待はしない方が良い」

 

 こうしたやり取りが行われる中、宇宙船(報酬)の確認作業は進んでいく――――――簪に迫る魔の手に気付かぬままに。

 

 

 

 第68話に続く

 

  ※1:MEST-MX/CROW

  使用するとレーダー及び自機へロックを無効化する。但し目視は可能。

 

 

 




ジャック君は犬猫に追いかけられ、引っ掛かれながらも健気にお仕事。
そしてやっぱり狙われていた簪ちゃん。
更に、晶の元に持ち込まれた提案。

さてはて、今後どうなる事やら…………。

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