インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
―――SYSTEM CHECK START
→HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK
→CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK
→ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK
→LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK
→R ARM UNIT :G
→L ARM UNIT :G
→R BACK UNIT :RD
→L BACK UNIT :RD
→SHOULDER UNIT :
→R HANGER UNIT :-
→L HANGER UNIT :-
―――STABILIZER
→CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK
→LEGS BACK :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK
→LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK
→LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
→LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK
―――
→コジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモード
―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR
路地裏に入りISを展開した俺は、PIC制御とブースターを併用し垂直上昇。
するとすぐに、松明のように燃えている高層ビルが見えた。
「あれか。行くぞ」
遅れずに上がってきたセシリアと鈴が無言で頷くと、進む俺の両サイドにポジショニング。
そこへシャル、ラウラ、一夏、箒さんが合流。
NEXTを中央として自然と、両翼3機ずつの編隊飛行の形が出来上がった。
ここで俺は指示を出しながら、目標の高層ビルをスキャン。
狙撃戦すらこなせるヘッドパーツ、063AN02の性能が存分に発揮される。
『シャル、管轄の消防に俺達が行く事を伝えてくれ。ラウラ、同様の話を学校にも』
―――スキャン完了。
脳内を無機質なメッセージが流れ、ビルのスキャンデータが視界内の半透明ウィンドウに表示される。
―――全40階。
―――炎上領域32~35階。
―――32~35階、外周部生命反応8。
―――32~35階、内部状況不明。
―――炎上領域拡大中。
―――36~40階。生命反応62。
何とも面倒な場所が火事になっているな。
もっと下なら消防車の放水が届いただろうし、もっと上なら取り残された人達も、ヘリで救出出来る程度の人数で済んだだろう。
だが今そんな事を言っても、何にもならない。
如何に助けるかを考えるべきだろう。
数瞬の思考。
『――――――誰か
『僕が持ってるよ』
駄目もとで聞いてみたのだが、意外な事に持っていたらしい。
だがシャルなら納得だ。
専用機中最大の
『タイプは?』
『君が
『流石だ。ではチームを分けるぞ。ラウラ・一夏・鈴をAチーム、俺・箒をBチーム。シャルとセシリアをCチームとする。まずAチームはラウラ指揮の下、32階から突入。取り残された人達を救助しつつ上に向かえ。Bチームは35階から突入。取り残された人達を救助しつつ下に向かう。Cチームは特殊装備で31階外周部にセーフティネットの設置。炎と煙に耐えかねて飛び降りられでもしたら、目も当てられないからな。設置後は、炎で窓際に追い詰められた人達の救助。但しビル内部までは入らなくて良い。あくまで外周部から見える人達だけだ。中の方はA・Bチームに任せろ。――――――何か質問は?』
俺はさも当然であるかのように指示を出したが、不安が無い訳じゃなかった。
だってそうだろう?
極端な話、トリガーを引けば終わりの破壊・殲滅ミッションと違って、こういうミッションは色々と繊細なんだ。
不安が無い方がおかしい。
だが表に出す訳にはいかなかった。
NEXTが揺らげば、今俺を信用してくれているこいつ等も揺らいでしまう。
だから、表に出しちゃいけない。
そう思った時だった。
シャルとセシリアから短いテキストメッセージが送信されてきたのは。
―――この面子なら大丈夫だよ。 By シャル
―――頼りなくて不安なのは分かりますけど、少しは信用して下さいな。 By セシリア
こいつら・・・・・全く。
不安を表に出したつもりは無いんだがな。
だが気が楽になったのも事実。
―――ありがとう。
とだけ返信しておく。
そしてミッション開始前に、箒さんに声をかけておいた。
『記念すべきファーストミッションだ。俺が一番初めに教えた事を覚えているか?』
『「周囲に気を配れ」でした』
『そうだ。いつもの訓練とは少々勝手が違うが、難しい事は何も無い。周囲に気を配って、人を見つけて、安全なところまで運ぶ。それだけだ。シンプルだろう?』
『はい!!』
『良い返事だ。―――ではこれより、ミッションを開始する。全員、抜かるなよ!!』
こうして編隊飛行していた俺達はチームごとに別れ、それぞれの仕事に取り掛かるのだった――――――。
◇
時間は少し遡る。
火災が発生したフロアの2つ上、34階フロアに入っているIS委員会日本支部では、織斑千冬が居並ぶお偉方を相手に熱弁を振るっていた。
「――――――以上が、彼のレポートです」
「・・・・・流石はあの天才の護衛。粗野では無かったか」
居並ぶ面々の前に置かれた資料のタイトルは、『局地領域でのIS戦闘』。
以前
確かに内容は、本人が言っていた通り実に初歩的な物だ。
局地領域での戦闘で攻める時、守る時にどのようにすれば良いのかを、初心者にも分かり易いように丁寧に書かれている。
だが見る者が見れば分かる。
その内容の恐ろしさに。
一見しただけでは、何処のどんな教本にも書かれている“如何にISという兵器の優位性を確保して戦うか”、という事が書かれているのだが、逆を言えばその優位性を封じてしまえば、“ISを通常兵器で撃破出来る”という内容だ。
リンクスやレイヴンにとっては極々普通の事。
伝説のレイヴンだってネクストに敗れるし、そのネクストだって
何も不思議な事じゃない。
が、ISの世界では違う。
白騎士事件以降、絶対的な性能で兵器体系の頂点に君臨しているISが、通常兵器で撃破出来るなど誰が考えるだろうか?
いや、もしかしたら考えた人間はいたかもしれない。
だが余りにも荒唐無稽な話だから、誰も真面目に考えなかっただけ。
しかしこのレポートは、厳しい条件はあるがやれると言ってしまっている。
極論的な言い方をしてしまえば、シールドを抜ける兵器があるなら、後は如何に当てられる状況を作り上げるかという事。
そしてISという兵器が人によって動かされる以上、付け入る隙は幾らでもある。
「・・・・・詳しい方法は書かれていないが、これだけ書けているという事は、彼の頭の中にはあるのだろうな。通常兵器でISを撃破する手段が」
「恐らくは、確実に」
「是非とも詳しい話を聞きたい。呼べるかね、ミス織斑」
「難しいでしょう。彼はこういう一面において、私よりも遥かにシビアです。こちらが話させるに足るだけの“何か”を示さなければ、決して話さないでしょう」
「ただ話を聞くだけなのにかね?」
「・・・・・例えばの話をしましょう。倫理も法も関係無く、もしもあなたがIS委員会が持っている情報を自由に出来たとする。タダで他人に渡しますか?」
「なるほど。分かりやすい例えだ。が、その例えだと適正価格を付ければ、問題無いという風にも聞こえるな」
「付けられれば、です。彼は
「だが委員会としては、是非とも聞いておかねばならない。もしも本当にISを通常兵器で打倒出来るのだとしたら、世界に軍拡競争が起きかねない」
「・・・・・・・・・・」
千冬が返事を返さずにいると、上座に座る者は更に続けた。
「いや、最悪軍拡だけなら良いだろう。だが本当に通常兵器でISが墜とされれば、ISは抑止力足りえなくなる。そうなったら、世界中の不満が噴き出すぞ。その先がどうなるかは、言わなくても分かるだろう? ミス織斑」
確かにその通りだ。
だが心配し過ぎでは無いだろうか?
IS登場以来、何度と無くISを通常兵器で撃破出来るかという事が論じられてきたが、その答えは常に不可能だった。
理由は簡単だ。
戦闘機以上の速度、戦闘ヘリ以上の機動力、主力戦車以上の防御力、そして重火砲を凌ぐ攻撃力。
こんなものをどうやって通常兵器で攻略するのだ?
だがこのレポートはやれると言っている。
他の誰でもない。あの天才の護衛が、そして自身もISを駆るあの男が。
なら確証があるはずだ。
そこまで考えた時、千冬はある会話を思い出した。
生徒と教師の何でもない日常の一ページ。
あの時奴は、何と言った?
『・・・・・IS、か』
『意味深な物言いだな。何か思うところでもあるのか?』
『いや別に。ただ、ISを余りに絶対視してる奴が多いと思って』
『ISに勝てるのはISだけだ。木偶の坊みたく突っ立ってるのならまだしも、現実にそんな事は無いだろう』
『コストと労力を度外視すれば、方法はあるんですよ。多分、いずれ必ず作られるでしょう。ISを最強の座から引き摺り下ろす為に、多数の代替可能な人間によって動かされる巨大兵器が。質を量で圧殺する兵器が、必ず』
『ISを凌ぐ巨大兵器? どんな馬鹿げた代物だ』
『作られない事を願ってますよ。その行き着く先は、果て無き軍拡と経済戦争ですから』
そうだ。
確かこんな会話だった。
だがISを凌ぐ巨大兵器?
そんな馬鹿な。
どれだけのコストと労力がかかると思っている?
想像する事は出来る。
しかし実際にやるとなれば・・・・・。
「どうしたのかね? ミス織斑」
静まり返っていた会議室に響いた声が、思考の海に沈んでいた千冬を現実に引き戻した。
「いえ、何でもありません」
「そうは見えない。随分深刻な顔をしていた。何か思うところがあるなら、言ってみると良い」
この時織斑千冬は、生涯最大の失態を犯した。
とは言え、この世界の住人ならば仕方の無い事だったかもしれない。
話してしまったのだ。
薙原晶が言っていた「質を量で圧殺する兵器」という言葉を、AC世界でネクストという最強の個体を凌ぐ為に開発された巨大兵器、
この時の不幸な要因は2つあった。
まず織斑千冬本人が、優秀なISパイロットであった事。
一度は世界最強の座についた人間故に、ISの戦闘能力というものを熟知していた。
だから、通常兵器での撃破など不可能だと思っていた。
しかし彼女は知らない。
ネクストという最強の個体すら圧殺する本当の物量というものを。
この世界の誰に想像できるだろうか?
出来るはずが無い。
だから、仕方が無かったのかもしれない。
そしてもう1つの要因は火事。
原因事体は謀略も陰謀も何も無い、只の火の不始末だった。
しかし専用機持ちが救助に向かった事、IS委員会日本支部に来ていた織斑千冬が巻き込まれた事、これらが重なった結果、この火事は大きく世間の注目を集めてしまう。
そして無自覚で無責任な一般市民は想像する。
織斑千冬が被害に遭い、専用機持ちが助けに行った。そして火災が発生した場所はIS委員会。
何か陰謀があるのではないか、と。
そしてマスコミが興味本位に調べだした時、委員の1人が迂闊にも口を開いてしまった。
『巨大兵器』という一言を。
『質を量で圧殺する兵器』という概念を。
何より“あの”NEXTが危惧していたという事実を。
勿論すぐに報道管制が敷かれ、大騒ぎになる事は無かった。
しかし深く静かに、その言葉は広がっていく。
この世界に、
◇
そして時間は火災発生後に戻る。
燃え盛る高層ビルに突入した専用機持ち達は、各々の仕事を順調にこなしていた。
一夏と鈴はラウラ指揮の下よく動いていたし、箒も多少硬いところはあったが、いざという時はサポートがあるという安心感からか、焦る事なく着実に助けていく。
シャルとセシリアに至っては、抜群のコンビネーションを見せていた。
そんな中、35階から突入したBチームから全員に連絡が入る。
『
『え!?』
一夏の声が聞こえてくるが、今取り合っている暇は無い。
『避難誘導の最中にはぐれた子供を捜しに行ったらしい。あの人らしいと言えばあの人らしいが・・・・・全く』
『なんで、こんなところに子供が? なんで!?』
『奥さんが旦那の忘れ物を届けるついでに、職場を見せてやろうと一緒に連れて来たんだとさ』
『早く、助けないと!!』
唯一の肉親が火災に巻き込まれれば、誰しも平常心でいるのは難しいだろう。
それは理解する。
だがこんな時だからこそ教えなきゃいけない。
『焦るな一夏。お前が焦れば焦るだけ、織斑先生の命を削るぞ』
『何を言ってるんだよ!! 最後に見たのは何処なんだ? 教えてくれ!!』
『ハイパーセンサーは何の為にある? 仲間は何の為にいる? 焦って叫ぶだけでは何にもならないぞ。本当に助けたいと思うなら、今出来る事を考えろ。ここにいるのはお前1人じゃないんだ』
『!? 悪い・・・・・』
『分かってくれれば良い。――――――全員、配置を変更するぞ。ラウラ・鈴はそのまま32階で救出続行。一夏は33階へ上がれ。俺は34階へ下りる。シャルは箒と合流して35階の救出活動に加わってくれ。セシリアは33階へ、一夏のサポートを頼む』
こうして全員に指示を出し、俺自身も階段で34階へ下りようとした時、階下に人影が見えた。
炎で進めなくて、立ち往生しているように見える。
まさか!?
階段を飛び降り炎を突っ切って進むと、そこにいたのは思った通り織斑先生だった。
大分消耗しているように見えるし色々と汚れてもいるが、センサーでバイタルデータを拾う限り、背中に背負っている子供共々命に別状は無さそうだった。
「先生、御無事でしたか」
「なぜ、NEXTがここに?」
「俺だけじゃないですよ。1年生の専用機持ち全員です」
「なっ!?」
そりゃまぁ、驚くよな。
こんな豪勢な救出チームなんて、どこの国でも組織でも出来っこない。
「成り行き任せの偶然ですけどね。だけどどうしてもお礼がしたいというなら、一夏に言って下さい」
「なに?」
「この火事を見つけた時、あいつは何も迷う事なく助けに行こうと言った。だから全員揃ってここにいる。それだけです。――――――行きましょう」
そうして俺は織斑先生を右腕で、子供を左腕で抱き抱えながら、全員へ通信を送った。
『
『千冬姉!! 無事だったのか!!』
『ああ、無事だった。だから後は、ちゃんとやってる姿を見せてやれ。それが一番の姉孝行だろう?』
『分かった!!』
この後、俺達はさしたる障害も無く無事に、救出・消火活動を終える事が出来た。
出来たのだが・・・・・その結果、俺と一夏に少々面倒な事が起きた。
それは何か?
どうやら目立ち過ぎたらしい。
後日IS学園を通して、日本政府から連絡あった。
俺と一夏の報道規制を解除するんだとさ。面倒だなぁ・・・・・。
第46話に続く