インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第45話 救出ミッション

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :GAN01-SS-WD(ドーザー)・・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :GAN01-SS-WD(ドーザー)・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :RD03-PANDORA(レーダー)・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :RD03-PANDORA(レーダー)・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :FSS-53(ショックロケット) ・・・・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――PIC(慣性制御)

    →コジマ粒子による擬似慣性制御エミュレートモード

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 路地裏に入りISを展開した俺は、PIC制御とブースターを併用し垂直上昇。

 するとすぐに、松明のように燃えている高層ビルが見えた。

 

「あれか。行くぞ」

 

 遅れずに上がってきたセシリアと鈴が無言で頷くと、進む俺の両サイドにポジショニング。

 そこへシャル、ラウラ、一夏、箒さんが合流。

 NEXTを中央として自然と、両翼3機ずつの編隊飛行の形が出来上がった。

 ここで俺は指示を出しながら、目標の高層ビルをスキャン。

 狙撃戦すらこなせるヘッドパーツ、063AN02の性能が存分に発揮される。

 

『シャル、管轄の消防に俺達が行く事を伝えてくれ。ラウラ、同様の話を学校にも』

 

 ―――スキャン完了。

 

 脳内を無機質なメッセージが流れ、ビルのスキャンデータが視界内の半透明ウィンドウに表示される。

 

 ―――全40階。

 

 ―――炎上領域32~35階。

 

 ―――32~35階、外周部生命反応8。

 

 ―――32~35階、内部状況不明。

 

 ―――炎上領域拡大中。

 

 ―――36~40階。生命反応62。

 

 何とも面倒な場所が火事になっているな。

 もっと下なら消防車の放水が届いただろうし、もっと上なら取り残された人達も、ヘリで救出出来る程度の人数で済んだだろう。

 だが今そんな事を言っても、何にもならない。

 如何に助けるかを考えるべきだろう。

 数瞬の思考。

 

『――――――誰か拡張領域(パススロット)に、工兵用の特殊装備を入れている奴はいるか?』

『僕が持ってるよ』

 

 駄目もとで聞いてみたのだが、意外な事に持っていたらしい。

 だがシャルなら納得だ。

 専用機中最大の拡張領域(パススロット)を持つラファールなら、色々と積んでいてもおかしく無い。

 

『タイプは?』

『君が超音速旅客機(SST)暴走事件で使ったのと同じタイプ。特殊鋼性のロープやネット。後は固定用のバンカー』

『流石だ。ではチームを分けるぞ。ラウラ・一夏・鈴をAチーム、俺・箒をBチーム。シャルとセシリアをCチームとする。まずAチームはラウラ指揮の下、32階から突入。取り残された人達を救助しつつ上に向かえ。Bチームは35階から突入。取り残された人達を救助しつつ下に向かう。Cチームは特殊装備で31階外周部にセーフティネットの設置。炎と煙に耐えかねて飛び降りられでもしたら、目も当てられないからな。設置後は、炎で窓際に追い詰められた人達の救助。但しビル内部までは入らなくて良い。あくまで外周部から見える人達だけだ。中の方はA・Bチームに任せろ。――――――何か質問は?』

 

 俺はさも当然であるかのように指示を出したが、不安が無い訳じゃなかった。

 だってそうだろう?

 極端な話、トリガーを引けば終わりの破壊・殲滅ミッションと違って、こういうミッションは色々と繊細なんだ。

 不安が無い方がおかしい。

 だが表に出す訳にはいかなかった。

 NEXTが揺らげば、今俺を信用してくれているこいつ等も揺らいでしまう。

 だから、表に出しちゃいけない。

 そう思った時だった。

 シャルとセシリアから短いテキストメッセージが送信されてきたのは。

 

 ―――この面子なら大丈夫だよ。 By シャル

 

 ―――頼りなくて不安なのは分かりますけど、少しは信用して下さいな。 By セシリア

 

 こいつら・・・・・全く。

 不安を表に出したつもりは無いんだがな。

 だが気が楽になったのも事実。

 

 ―――ありがとう。

 

 とだけ返信しておく。

 そしてミッション開始前に、箒さんに声をかけておいた。

 

『記念すべきファーストミッションだ。俺が一番初めに教えた事を覚えているか?』

『「周囲に気を配れ」でした』

『そうだ。いつもの訓練とは少々勝手が違うが、難しい事は何も無い。周囲に気を配って、人を見つけて、安全なところまで運ぶ。それだけだ。シンプルだろう?』

『はい!!』

『良い返事だ。―――ではこれより、ミッションを開始する。全員、抜かるなよ!!』

 

 こうして編隊飛行していた俺達はチームごとに別れ、それぞれの仕事に取り掛かるのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は少し遡る。

 火災が発生したフロアの2つ上、34階フロアに入っているIS委員会日本支部では、織斑千冬が居並ぶお偉方を相手に熱弁を振るっていた。

 

「――――――以上が、彼のレポートです」

「・・・・・流石はあの天才の護衛。粗野では無かったか」

 

 居並ぶ面々の前に置かれた資料のタイトルは、『局地領域でのIS戦闘』。

 以前薙原晶(NEXT)が授業で提出したレポートだが、その内容は織斑千冬をして衝撃的な内容だった。

 確かに内容は、本人が言っていた通り実に初歩的な物だ。

 局地領域での戦闘で攻める時、守る時にどのようにすれば良いのかを、初心者にも分かり易いように丁寧に書かれている。

 だが見る者が見れば分かる。

 その内容の恐ろしさに。

 一見しただけでは、何処のどんな教本にも書かれている“如何にISという兵器の優位性を確保して戦うか”、という事が書かれているのだが、逆を言えばその優位性を封じてしまえば、“ISを通常兵器で撃破出来る”という内容だ。

 リンクスやレイヴンにとっては極々普通の事。

 伝説のレイヴンだってネクストに敗れるし、そのネクストだってアームズフォート(AF)に敗れる事がある。

 何も不思議な事じゃない。

 が、ISの世界では違う。

 白騎士事件以降、絶対的な性能で兵器体系の頂点に君臨しているISが、通常兵器で撃破出来るなど誰が考えるだろうか?

 いや、もしかしたら考えた人間はいたかもしれない。

 だが余りにも荒唐無稽な話だから、誰も真面目に考えなかっただけ。

 しかしこのレポートは、厳しい条件はあるがやれると言ってしまっている。

 極論的な言い方をしてしまえば、シールドを抜ける兵器があるなら、後は如何に当てられる状況を作り上げるかという事。

 そしてISという兵器が人によって動かされる以上、付け入る隙は幾らでもある。

 

「・・・・・詳しい方法は書かれていないが、これだけ書けているという事は、彼の頭の中にはあるのだろうな。通常兵器でISを撃破する手段が」

「恐らくは、確実に」

「是非とも詳しい話を聞きたい。呼べるかね、ミス織斑」

「難しいでしょう。彼はこういう一面において、私よりも遥かにシビアです。こちらが話させるに足るだけの“何か”を示さなければ、決して話さないでしょう」

「ただ話を聞くだけなのにかね?」

「・・・・・例えばの話をしましょう。倫理も法も関係無く、もしもあなたがIS委員会が持っている情報を自由に出来たとする。タダで他人に渡しますか?」

「なるほど。分かりやすい例えだ。が、その例えだと適正価格を付ければ、問題無いという風にも聞こえるな」

「付けられれば、です。彼は超音速旅客機(SST)の一件で、何の迷いも無く、条件次第では乗客を見捨てるという趣旨の発言をしています。そんな人間が、自身の生存率に直結する情報を話すと思いますか?」

「だが委員会としては、是非とも聞いておかねばならない。もしも本当にISを通常兵器で打倒出来るのだとしたら、世界に軍拡競争が起きかねない」

「・・・・・・・・・・」

 

 千冬が返事を返さずにいると、上座に座る者は更に続けた。

 

「いや、最悪軍拡だけなら良いだろう。だが本当に通常兵器でISが墜とされれば、ISは抑止力足りえなくなる。そうなったら、世界中の不満が噴き出すぞ。その先がどうなるかは、言わなくても分かるだろう? ミス織斑」

 

 確かにその通りだ。

 だが心配し過ぎでは無いだろうか?

 IS登場以来、何度と無くISを通常兵器で撃破出来るかという事が論じられてきたが、その答えは常に不可能だった。

 理由は簡単だ。

 戦闘機以上の速度、戦闘ヘリ以上の機動力、主力戦車以上の防御力、そして重火砲を凌ぐ攻撃力。

 こんなものをどうやって通常兵器で攻略するのだ?

 だがこのレポートはやれると言っている。

 他の誰でもない。あの天才の護衛が、そして自身もISを駆るあの男が。

 なら確証があるはずだ。

 そこまで考えた時、千冬はある会話を思い出した。

 生徒と教師の何でもない日常の一ページ。

 あの時奴は、何と言った?

 

『・・・・・IS、か』

『意味深な物言いだな。何か思うところでもあるのか?』

『いや別に。ただ、ISを余りに絶対視してる奴が多いと思って』

『ISに勝てるのはISだけだ。木偶の坊みたく突っ立ってるのならまだしも、現実にそんな事は無いだろう』

『コストと労力を度外視すれば、方法はあるんですよ。多分、いずれ必ず作られるでしょう。ISを最強の座から引き摺り下ろす為に、多数の代替可能な人間によって動かされる巨大兵器が。質を量で圧殺する兵器が、必ず』

『ISを凌ぐ巨大兵器? どんな馬鹿げた代物だ』

『作られない事を願ってますよ。その行き着く先は、果て無き軍拡と経済戦争ですから』

 

 そうだ。

 確かこんな会話だった。

 だがISを凌ぐ巨大兵器?

 そんな馬鹿な。

 どれだけのコストと労力がかかると思っている?

 想像する事は出来る。

 しかし実際にやるとなれば・・・・・。

 

「どうしたのかね? ミス織斑」

 

 静まり返っていた会議室に響いた声が、思考の海に沈んでいた千冬を現実に引き戻した。

 

「いえ、何でもありません」

「そうは見えない。随分深刻な顔をしていた。何か思うところがあるなら、言ってみると良い」

 

 この時織斑千冬は、生涯最大の失態を犯した。

 とは言え、この世界の住人ならば仕方の無い事だったかもしれない。

 話してしまったのだ。

 薙原晶が言っていた「質を量で圧殺する兵器」という言葉を、AC世界でネクストという最強の個体を凌ぐ為に開発された巨大兵器、アームズフォート(AF)の雛形となる発想を。

 この時の不幸な要因は2つあった。

 まず織斑千冬本人が、優秀なISパイロットであった事。

 一度は世界最強の座についた人間故に、ISの戦闘能力というものを熟知していた。

 だから、通常兵器での撃破など不可能だと思っていた。

 しかし彼女は知らない。

 ネクストという最強の個体すら圧殺する本当の物量というものを。

 この世界の誰に想像できるだろうか?

 スピリット()オブ()マザーウィル()の大口径超々長距離狙撃砲や、数百というミサイルが常に降り注ぐ光景を。

 グレートウォール(GW)の圧倒的装甲と積載量に裏打ちされた弾幕の嵐を。

 出来るはずが無い。

 だから、仕方が無かったのかもしれない。

 そしてもう1つの要因は火事。

 原因事体は謀略も陰謀も何も無い、只の火の不始末だった。

 しかし専用機持ちが救助に向かった事、IS委員会日本支部に来ていた織斑千冬が巻き込まれた事、これらが重なった結果、この火事は大きく世間の注目を集めてしまう。

 そして無自覚で無責任な一般市民は想像する。

 織斑千冬が被害に遭い、専用機持ちが助けに行った。そして火災が発生した場所はIS委員会。

 何か陰謀があるのではないか、と。

 そしてマスコミが興味本位に調べだした時、委員の1人が迂闊にも口を開いてしまった。

 『巨大兵器』という一言を。

 『質を量で圧殺する兵器』という概念を。

 何より“あの”NEXTが危惧していたという事実を。

 勿論すぐに報道管制が敷かれ、大騒ぎになる事は無かった。

 しかし深く静かに、その言葉は広がっていく。

 この世界に、アームズフォート(AF)という概念が誕生した瞬間だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして時間は火災発生後に戻る。

 燃え盛る高層ビルに突入した専用機持ち達は、各々の仕事を順調にこなしていた。

 一夏と鈴はラウラ指揮の下よく動いていたし、箒も多少硬いところはあったが、いざという時はサポートがあるという安心感からか、焦る事なく着実に助けていく。

 シャルとセシリアに至っては、抜群のコンビネーションを見せていた。

 そんな中、35階から突入したBチームから全員に連絡が入る。

 

B1()より各員へ。緊急事態だ。たった今救助者から得た情報によると、此処に織斑先生がいる』

『え!?』

 

 一夏の声が聞こえてくるが、今取り合っている暇は無い。

 

『避難誘導の最中にはぐれた子供を捜しに行ったらしい。あの人らしいと言えばあの人らしいが・・・・・全く』

『なんで、こんなところに子供が? なんで!?』

『奥さんが旦那の忘れ物を届けるついでに、職場を見せてやろうと一緒に連れて来たんだとさ』

『早く、助けないと!!』

 

 唯一の肉親が火災に巻き込まれれば、誰しも平常心でいるのは難しいだろう。

 それは理解する。

 だがこんな時だからこそ教えなきゃいけない。

 

『焦るな一夏。お前が焦れば焦るだけ、織斑先生の命を削るぞ』

『何を言ってるんだよ!! 最後に見たのは何処なんだ? 教えてくれ!!』

『ハイパーセンサーは何の為にある? 仲間は何の為にいる? 焦って叫ぶだけでは何にもならないぞ。本当に助けたいと思うなら、今出来る事を考えろ。ここにいるのはお前1人じゃないんだ』

『!? 悪い・・・・・』

『分かってくれれば良い。――――――全員、配置を変更するぞ。ラウラ・鈴はそのまま32階で救出続行。一夏は33階へ上がれ。俺は34階へ下りる。シャルは箒と合流して35階の救出活動に加わってくれ。セシリアは33階へ、一夏のサポートを頼む』

 

 こうして全員に指示を出し、俺自身も階段で34階へ下りようとした時、階下に人影が見えた。

 炎で進めなくて、立ち往生しているように見える。

 まさか!?

 階段を飛び降り炎を突っ切って進むと、そこにいたのは思った通り織斑先生だった。

 大分消耗しているように見えるし色々と汚れてもいるが、センサーでバイタルデータを拾う限り、背中に背負っている子供共々命に別状は無さそうだった。

 

「先生、御無事でしたか」

「なぜ、NEXTがここに?」

「俺だけじゃないですよ。1年生の専用機持ち全員です」

「なっ!?」

 

 そりゃまぁ、驚くよな。

 こんな豪勢な救出チームなんて、どこの国でも組織でも出来っこない。

 

「成り行き任せの偶然ですけどね。だけどどうしてもお礼がしたいというなら、一夏に言って下さい」

「なに?」

「この火事を見つけた時、あいつは何も迷う事なく助けに行こうと言った。だから全員揃ってここにいる。それだけです。――――――行きましょう」

 

 そうして俺は織斑先生を右腕で、子供を左腕で抱き抱えながら、全員へ通信を送った。

 

B1()より各員へ。織斑先生は自力で脱出してきた。多少消耗しているが、命に別状は無い。子供も無事だ』

『千冬姉!! 無事だったのか!!』

『ああ、無事だった。だから後は、ちゃんとやってる姿を見せてやれ。それが一番の姉孝行だろう?』

『分かった!!』

 

 この後、俺達はさしたる障害も無く無事に、救出・消火活動を終える事が出来た。

 出来たのだが・・・・・その結果、俺と一夏に少々面倒な事が起きた。

 それは何か?

 どうやら目立ち過ぎたらしい。

 後日IS学園を通して、日本政府から連絡あった。

 俺と一夏の報道規制を解除するんだとさ。面倒だなぁ・・・・・。

 

 

 

 第46話に続く

 

 

 


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