インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

32 / 211
第32話 仲間? 部下? それとも・・・・・

 

 束の自宅兼研究所に戻り、随分な長時間シャワーを浴びてから始めたデブリーフィング。

 その中で(薙原晶)は、ずっと考えていた事を口にした。

 

「――――――今回の一件、ドイツへの対応は更識にやらせようと思う」

「理由は? 私が生半可な理由で賛成しないのは、分かってるでしょ」

 

 思っていた通り、束の表情が厳しくなる。

 しかし予想通りなので、構わず話し続けた。

 

「更識にやらせる理由なんて1つしかない。奴が交渉・裏工作のプロだからだよ」

「この後に及んで交渉事だけで済ませる気? 奴らを調子に乗らせるだけじゃないの?」

 

 ああ、なるほど。思わず納得してしまった。

 やっぱり彼女は科学者であって、権謀術数の人じゃない。

 交渉事が余り得意じゃない俺だが、それでも、その怖さは良く知っている。

 いや、得意じゃないからこそと言うべきか。

 

「相手を痛めつけるのに、武力が常に最善の方法とは限らない。もっと悪辣に、搾り取れるだけ搾り取ってやる。その為に、俺達には無いスキルを持っているアイツが必要だ」

「・・・・・どういう風に動かす気なの?」

「特別な事は何も。ただ今回得た情報を少し渡して、ドイツが痛がるものを毟り取れ、とだけ言うつもりだ。ついでに言えば、報酬は別途ドイツから毟り取れ、ともね」

「そんなんじゃ駄目じゃないか。もしあの泥棒猫(更識楯無)がちゃんと動かなかったら、裏切ったりしたらどうするつもりなの?」

 

 俺は何も気負う事無く、自然に答えていた。

 

「裏切りには“死”ってのが鉄則だけど、こっちは違うのか?」

「幾ら君の言う事でも信用出来ない。君って女性に甘いから、本当に出来るの?」

「なるほど。心配事はソコか。なら、それさえクリア出来れば賛成してくれる訳だな?」

「それなりの態度を見せてくれればね」

「なら簡単だ。更識の居場所を調べてくれ。後ついでに、学園内のセキュリティも掌握して欲しい」

「何をする気なの?」

「子猫の教育。通信は繋いでおくから、後はそれを聞いて判断してくれ」

 

 そう言いながら席を立ち、外へ向かおうとすると、背後から声をかけられた。

 

「ちょっと、晶? 本当に何をする気なの?」

「それなりの態度って言っただろう? だから、見せてやる」

 

 極々自然に、それこそ冗談でも言うかのような気軽さでISを起動。

 

 ―――SYSTEM CHECK START

    →HEAD:063AN02・・・・・・・・・・・・・・OK

    →CORE:EKHAZAR-CORE ・・・・・・OK

    →ARMS:AM-LANCEL・・・・・・・・・・OK

    →LEGS:WHITE-GLINT/LEGS ・・・OK

    

    →R ARM UNIT  :EB-R500(レーザーブレード)・・・・・・・・・・・・OK

    →L ARM UNIT  :XMG-A030(マシンガン)・・・・・・・・・・・OK

    →R BACK UNIT  :049ANSC(スナイパーキャノン)・・・・・・・・・・・OK

    →L BACK UNIT  :047ANR(レーダー)・・・・・・・・・・・・・OK

    →SHOULDER UNIT :051ANEM(ECM) ・・・・・・・・・OK

    →R HANGER UNIT :-

    →L HANGER UNIT :-

 

 ―――STABILIZER

    →CORE R LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →CORE L LOWER :03-AALIYAH/CLS1・・・・・OK

    →LEGS BACK  :HILBERT-G7-LBSA ・・・・・OK

    →LEGS R UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS L UPPER :04-ALICIA/LUS2 ・・・・・・・OK

    →LEGS R MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    →LEGS L MIDDLE:LG-HOGIRE-OPK01・・・・・OK

    

 ―――SYSTEM CHECK ALL CLEAR

 

 そうして外へ出た俺に、束から通信が入った。

 

『見つけたよ。生徒会長室に1人でいるみたい』

 

 時間を見れば、既に20時を回っている。

 ご苦労な事だ。

 もっとも、これからもっと苦労してもらうが。

 

『じゃぁ、後は見ててくれ』

 

 更識のアドレスをコール。

 

『――――――もしもし? 珍しいね、君からかけてくるなんて。私の事が恋しくなったのかな? それとも兎さんに飽きた? 君なら何時でも優しく迎えてあげるよ』

 

 相変わらずの口調。

 以前なら少なからず反応してしまったかもしれないが、目的が決まっている今、全く俺の心は動かなかった。

 だから余裕も出てくる。

 

『飽きるなんて事は無いが、稀に別のものが欲しくなる事はあるな』

『あれ、ちょっと意外な反応だね』

『そうか? 前からこんな感じだと思ったが? ――――――まぁいい。本題に入ろう。仕事を1つ依頼したい』

『このタイミングって事はドイツ絡みだと思うけど、君に、私を動かせるだけの依頼料が払えるのかな? この前の分もまだ貰ってないし』

『前の分は明日、直接届けに行く。安全を考えて回線には乗せたくない。そして今回の分だが――――――』

 

 実を言うと、一円足りとも払う気は無かった。

 自分で稼いでくれ。

 

『――――――報酬は成功報酬。どれだけ得られるのかは、お前の実力次第だ』

『へぇ、私に“実力次第”だなんて、言うじゃない。良いわ。内容だけ聞いてあげる』

『なに、至って簡単な話さ。何も難しくない。今回メディアに流れた俺とドイツ軍の共同作戦。その真相を教えてやるから、ドイツがこの上なく痛がる事をして欲しいというだけの話さ。そしてお前への報酬は、それ以外の全て。教えた情報を元に金を要求するも良し、何かを貰うのも良し、人脈を作るも良し、より取り見取りだろう? ―――ああ、そうだ。1つだけ注意点があって、ラウラ・ボーデヴィッヒには影響が無いようにして欲しい』

 

 更識みたいな人種にとって、こちらの方が単純な金よりも、余程魅力的な報酬だろう。

 もっとも、すぐに食いつくような真似は絶対にしないだろうがな。

 

『・・・・・ふぅ~ん。危なそうな匂いがプンプンするわね。遠慮しとこうかしら?』

『なら別に構わない。無理にとは言わないさ。誰だって自分の身が一番大事。危険な事には手を出さずに楽をしたい。そうだろ?』

『ええ、そうね』

 

 同意してくれたところで俺は、次の段階に話を進めた。

 

『でもそんな人間なら、NEXTの傍に置いておく意味なんて、無いと思わないか?』

『え?』

『だってそうだろう? この俺と束が関わる事に、危険じゃ無い事なんて無いんだ。この程度で尻込みするようなら、近くにいるだけ危険なんだ。なら遠ざけておくのが、人情ってものじゃないか。まぁ遠くにいる分、少し疎遠になるかもしれないけどな』

『ちょっと――――――』

 

 何かを言おうとする更識だが、言わせない。

 構わず話を続ける。

 

『ああ、勘違いしないで欲しいのは、何も“受けろ”と強制してる訳じゃないんだ。プロの判断さ。尊重するよ。ただ、安全を考える人間には、安全な場所に居てもらおうというだけの話。普通の話だろう?』

 

 ギリッ!!

 通信越しに歯軋りの音が聞こえた。

 怒っているのだろうか?

 だが関係無い。

 こちらが望む結果さえ出してくれれば。

 

『・・・・・1つ、前払いで欲しいものがあるのだけど』

『何だ?』

 

 しばしの沈黙。

 後、彼女は答えた。

 幾つか予想していた選択肢から、外れる事無く。

 

『・・・・・パートナー。いえ、後ろ盾になってちょうだい。この私の後ろには、地上最強の単体戦力たる貴方がいると、更識本家で言っても良いなら、その話受けるわ』

『条件がある』

『何かしら?』

『束と俺に迷惑を掛けない事は勿論、織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之箒とその友人達の安全。それが呑めるなら良いだろう』

『もし出来なかったら?』

『こうなる――――――』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 生徒会長室の窓際で携帯を片手に、暗くなった外を眺めながら話していた(更識楯無)は、何時もと違う(薙原晶)の雰囲気に戸惑っていた。

 何と言うか、妙に落ち着いていてやり辛いのだ。

 そしていつの間にか、この上なく不利な判断を迫られていた。

 

『ああ、勘違いしないで欲しいのは、何も“受けろ”と強制してる訳じゃないんだ。プロの判断さ。尊重するよ。ただ、安全を考える人間には、安全な場所に居てもらおうというだけの話。普通の話だろう?』

 

 ギリッ!!

 思わず歯軋りしてしまう。

 抵抗する間も無く、突きつけられた不可避の選択。

 雰囲気で分かる。

 彼はここで、味方になるか否かを選ばせる気だ。

 もし断れば、後は程々のお付き合い。

 もし受ければ、世界最強の単体戦力と世界最高の頭脳とのパイプを保持出来る。

 普通なら、考えるまでも無い。

 しかし相手の巨大さを思えば、考えざるを得なかった。

 でもこれが、交渉は苦手と言っていた男なの?

 

 “男子三日会わざれば刮目して見よ”

 

 とは言うけど、変わり過ぎでしょう!!

 この私が、ロクにものを言えず押し込まれるなんて!!

 だけど同時に、これはチャンスだと思っている自分がいた。

 こういう話を持って来たという事は、2人での活動に限界を感じたという証拠。

 今なら最高の頭脳と武力に、一番近いポジションを確保出来る。

 過去最高とも言える思考速度で、受けた場合のメリットとデメリットの計算を済ませた私は、その美味しいポジションを確実なものとするべく、1つだけ前払いでの報酬を求めた。

 それが手に入るなら、受ける価値は十分にある。

 

『・・・・・1つ、前払いで欲しいものがあるのだけど』

『何だ?』

 

 さぁ、貴方は何て答えてくれるのかしら?

 

『・・・・・パートナー。いえ、後ろ盾になってちょうだい。この私の後ろには、地上最強の単体戦力たる貴方がいると、更識本家で言っても良いなら、その話受けるわ』

『条件がある』

『何かしら?』

『束と俺に迷惑を掛けない事は勿論、織斑千冬、織斑一夏、篠ノ之箒とその友人達の安全。それが呑めるなら良いだろう』

『もし出来なかったら?』

『こうなる――――――』

 

 極自然に紡がれた(薙原晶)の言葉に、私の全身は総毛立った。

 どちらが先だったのかは分からない。

 直感に従いISを緊急展開したのか、それともロックオンを感知したISがオートで緊急展開したのか。

 しかし、出来たのはそこまでだった。

 直後、対IS用兵器ですら1~2発は耐えれる強化ガラスが木っ端微塵に砕け、突破してきた弾丸がエネルギーシールドを食い破り、絶対防御が発動。

 更に味わった事の無い桁外れの衝撃が身体を浮かせ、バランスコントロールをする間も無く、部屋の反対側へ弾き飛ばされる。

 

「グハッ!! な、何を・・・・・」

 

 痛みと驚きと衝撃で、言葉が続かない。

 撃ってきた!? 学園内で!? 何を考えているの!?

 そんな混乱の中、通信が入った。

 

『――――――俺はね、裏切りに対して労力を惜しむ気は無いんだ。でも自分の為に動いてくれる人間を、無下に扱う気も無い。分かり易いルールだろう?』

 

 重々しさを感じさせない軽い口調。

 こんな状況でも無ければ、トリガーを引いた人間とは思えないだろう。

 

『そうね。でも、撃つ必要は、無かったんじゃない?』

 

 ダメージの残る身体に、どうにかして言葉を搾り出させる。

 

『それは悪いと思っているけど、多分言葉で幾ら言っても信じなかっただろう? だから1発撃たせてもらった。そうすれば長々と語るより、すぐに理解してくれると思ったから』

 

 こいつ、絶対に悪いなんて思って無い。

 でもこれで分かった。

 彼は掛け値なしに本気だ。

 冗談でこんな事、出来るはずが無い。

 

『ええ、理解したわ。そしてちゃんと返答しておくわね。何処かで盗み聞きしている兎に、都合の良いように解釈されたくないから』

 

 一度目を閉じて深呼吸。

 何となくだけど、確信に近い予感があった。

 この契約は、私を更なる高みへ飛翔させてくれる。

 そんな予感が。

 

『薙原晶。その依頼、受託させてもらうわ。だから今後、貴方は私の後ろ盾となる。間違い無いわね?』

『ああ、間違い無い。これで契約成立だ』

『じゃぁ、これから宜しくね、薙原君。――――――ところで、1つ良いかしら?』

 

 こんな痛い思いをさせたのだから、少しくらいは弄らせてもらうわよ。

 

『何だ急に?』

『さっきのダメージが中々抜けなくて、起き上がれないの。部屋まで運んでくれないかしら?』

『ちょっと!! 何図々しい事言ってるのさ!!』

 

 思っていた通り、兎が割り込んできた。

 でもね、もう図々しい事じゃないのよ。

 

『あら、さっき彼はこう言ったわ。「自分の為に動いてくれる人間を、無下に扱う気も無い」って。これから“彼の為に”働こうとしている私が動けないと言っているのよ。それくらいの役と・・・・・フォローはあっても良いんじゃないかしら? 理解させる為に撃ったのは薙原君なんだし』

『晶!! こんな泥棒猫、放っておこうよ!!』

 

 束博士。分かり易い性格してるわね。

 取られたくないって言ってるのが丸分かりよ。

 そんな事を思っていると、薙原君から通信が返ってきた。

 

『・・・・あのな、部屋まで行ったらそのまま押し倒すぞ? 嫌なら自分で帰れ』

『あら、おねーさんは何時でもいいのよ』

 

 ふふん。こう言えば、免疫の無い男は大抵怯むのよね。

 私はそんなに安くないわよ。

 と思っていると、怯むどころか極自然に突っ込んできた。

 

『そうか。ルームメイトに見られながらのプレイが好みか。ハードだな』

『『え!?』』

 

 兎と私の声が重なる。

 

『これからゆっくりとそっちに行くから、着いた時にまだ居たらお持ち帰りな』

『『ちょっ、ちょっと!?』』

 

 また声が重なった。

 ほ、本気なの?

 

 ―――しかし送信されてきたNEXTの位置情報は、本当に近付いていた。

 

 えっと、本気の本気?

 

 ―――その歩みは遅い。

 

 本当にお持ち帰りする気?

 

 ―――でも確実に近付いて来る。

 

 ど、どうしよう?

 

 ――― 気付けば、もう道半ばまで近付かれていた。

 

 初めてをルームメイトに見られながら?

 そう思った瞬間、余りにもリアルに“その事”を想像してしまい、自分でも顔が真っ赤になるのが分かった。

 い、嫌よ!! 初めては、もっとこう・・・・・優しく!!

 私は慌てて通信を入れた。

 

『な、薙原君!! ちょっと待った!! 今動けるようになったから!! もう大丈夫。来なくてもいいから!!』

『ククッ、そうか。それは残念だ』

 

 堪えきれない笑いを含んだ、全く残念そうじゃない軽い口調。

 アレ? もしかして・・・・・踊らされた?

 この私が!?

 そして彼の言葉が、それを裏付ける。

 

『いや、面白いものを見せてもらった。意外とウブなんだな』

 

 コ、コイツーーーーーーーーー!!

 何時か絶対恥ずかしい目に遭わせてやるーーーーー!!

 こうしてこの日、(更識楯無)は契約により後ろ盾を得た。

 最強の剣(NEXT)という後ろ盾を。

 

 

 

  ちなみに全くの余談だがその夜、ドラム缶型作業用ロボ(テックボット)をラジコン操作して、生徒会長室を直しているNEXTの姿が在ったとか無かったとか・・・・・。

 

 

 

 第33話に続く

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。