インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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殴る時はキッチリしっかり殴り飛ばす。
それがカラードの方針なのです。
あとスノーさんの個人情報をちょいと掘り下げ。


第199話 第3回外宇宙ミッション(前編)

  

 新しい友人であるスノー・テールから依頼を受けた束と晶は、早速とカラードを動かしていた。ただし始めから怪しいという予測が立っていたため、“騙して悪いが”が前提の動きだ。

 まず依頼を受託したが、何時出発したのかは一切連絡しない。仮に情報提供を求められても、建前上協働ミッションであったとしても、指定宙域に到着したらこちらから連絡するで押し通す。

 そして今回は、空間潜行艦アリコーン*1を2隻同時に投入する。潜行戦隊第1~第3戦隊のうち、第1と第3だ。

 尤も同時投入すると地球文明圏が手薄になってしまうので、一時的にハウンドチーム*2を投入してカバーしておく。

 こうして2日が経った頃、晶は一時的に第3戦隊の指揮を任せているラウラとコアネットワークで話していた。彼女の役職は戦闘部門長であって本来の役割とは違うのだが、今回の第3戦隊に求められる役割は物理的に殴る事ではない。なので特殊部隊の軍務経験がある彼女に指揮を任せたのだ。元々第3戦隊に配属されていた皆も、色々と学んでくれるだろう。

 

(準備はどうだ?)

(もうすぐ終わる。しかしお前、分かってはいたが悪辣というか悪党というか)

(そうか? だって始めから怪しいと分かってる依頼なんだ。なら相手の用意したテーブルに、馬鹿正直に乗ってやる必要なんてないだろう。まず盤面ごとひっくり返して、精々慌ててもらうさ)

 

 晶はクラスメイト達(元3年1組)に、依頼内容、提示された情報、予測される背景、全て話していた。その上で“騙して悪いが”が強く疑われるため、見知らぬ誰か(黒幕)が描いた全体像をブチ壊すところから始めようというのだ。

 

(慌てふためくでは済まないだろう。しかしこういう話をすると、お前と出会った時の事を思い出すな)

(俺もだ。でも今はこういう関係だもんなぁ)

(全くだ)

 

 ラウラは相槌を打ちながら、出会った時の事を思い出した。晶だけでなく束博士も怒らせたという最低な出会いだ。それなのに徐々に近い関係となり、進路に悩んでいた時に言ってくれた言葉を思い出す。身一つで来たって大丈夫。住む場所も用意する。専用機が無くてもこっちで用意する*3。殆どプロポーズだろう。1人の時に思い出して、何度ニヤニヤしてしまったか分からない。沢山の愛人がいる愛多き男だが、惚れた弱みだ。自分がこいつから離れる事はあるまい、と自然に思ってしまう。

 

 ―――閑話休題。

 

 横道に逸れた思考を元に戻したところで、第3戦隊の仲間(元3年1組)から連絡が入った。

 

(準備が出来たようだ)

(そうか。なら、任せた)

(任された。お前の希望通り、悪辣に掻き回して、ひっくり返して、私達を利用する対価がどれほどのものか教育してやろう。―――交信を終了する)

 

 ラウラはアリコーン3番艦のブリッジで、作戦開始を指示する前にもう一度現状の確認をした。

 現在いる宙域は、依頼で指定された宙域ではない。第2回外宇宙ミッションで訪れた有人惑星フィスフィリスのある星系だ。“獣の眷族”が入植している銀河辺境の星系だが、地球ほどド田舎という訳ではない。むしろ地球基準で見た場合、人類が想像する古き良きSFの世界とすら言えるだろう。気象コントロールにより豊かな自然環境が維持されている一方で、高度数千メートルに達する超巨大アーコロジー群が立ち並んでいる。これで辺境なのだ。主星系と言われる場所は、どれほど発展した場所なのかと思わずにはいられない。が、今は関係無い。いずれ目にする事もあるだろうが、今は作戦に集中しよう。

 ラウラは命令を下した。

 

「これよりミッションを開始する。通信用ユニットに起動信号を送れ」

 

 晶との会話にあった準備とは、この星系内にばら撒いた通信用ユニットが所定の位置に到達するのを待っていたのであった。なお、ばら撒かれた通信用ユニットはミッション開始前の露見を避けるため、船体上部にあるカタパルトで射出されていた。ロケットブースターのような動力源を持っておらず、完全に慣性のみで移動しているため、仮に“獣の眷族”が不審に思ったとしても、隕石か何かだと思ってくれるだろう。決定的に怪しいと思ったとしても、何ら信号を発していない物に一々対応するほど暇ではあるまい。

 

「了解。起動信号発信。――――――起動確認しました」

 

 仲間の言葉に、ラウラは次の命令を下した。

 

「空間潜行状態を維持したままワープドライブ起動。所定の位置に退避する」

 

 この星系にも隕石帯というのは存在するが、ラウラはそこを潜伏場所に選ばなかった。誰が見ても隠れやすそうな場所というのは、何かあった時に真っ先に疑われる場所でもあるのだ。また隕石が多いという事は物陰も多いということ。つまりセンサーの設置場所には困らない。地の利はこの星系に入植している“獣の眷族”にあると考えるのが妥当だろう。よってラウラは適当な、“何も無い”宙域を潜伏場所として選んでいた。その座標をピンポイントで疑われない限りアリコーンのステルス性なら大丈夫だろう、という晶の言葉を信じてのことだ。ランクA文明が相手なので安心は出来ないとも言っていたが、行動の指針にはなる。

 そうして空間潜行状態のままワープしたアリコーンは、3次元空間に情報収集用のアンテナだけを出して待機状態となった。後は待つのみ。高度な文明を築いている宇宙人が相手とは言え、知的生命体である以上は必ず効果があるはず。長いようで短い時間が過ぎていくと、仲間の1人が声を上げた。

 

「星系内の通信量が増大しています」

「翻訳出来るか?」

「勿論」

 

 受信した通信が翻訳機を通され、ブリッジ内に音声として出力される。

 

『なんだこれ?』

『ただのガセだろう?』

『でもこれ………本当ならヤバくないか?』

 

 先程起動させた通信用ユニットは、束博士と晶が秘密裏に行っていた海賊狩りで得た数々の情報を、垂れ流す為に用意された使い捨てユニットだ。

 もしかしたら、こんなものを垂れ流したところで意味は無い、と思う者もいるだろう。しかし人類の遥か先をいく宇宙文明と言えども、統一通貨(IK)という金の概念があり、知的生命体が集まり組織を作り、法があり、行政があり、警察機構があり、法の裏をかく犯罪があり、数多の思惑が渦巻くなら、反応しない訳がない。

 海賊船のワープ記録、通った航路、寄港した港、何を運び何を受け取ったか、通信記録、悪党共がバラされたくない手口の数々。そして悪党というのは、相手の弱みを握らなければ安心できない生き物だ。だから、あるのだ。賞金首の私的なメモリーには人名リストと取り引きの記録が。誰に、何を渡して、幾ら受け取ったのかという、他者を強請、脅し、思い通りに操る為のネタが。奴らはそのネタを使い、手足を増やして表の世界を浸食する。

 地球人類が嫌と言うほど繰り返してきた謀略や暗闘の歴史と何も変わらない。故に繋がりも予測できる。この手の輩は何処かで必ず表の権力者と繋がっている。

 そんな連中にとって、人名リストと取り引き記録が出回ったらどうなるか? 1件や2件程度なら幾らでも揉み消せるだろう。それが出来るから権力者なのだ。だが、1000件や10000件なら? その10倍や20倍なら? 星系全域どころかスターゲートを超えた先にまで拡がってしまったら? 情報操作というのは範囲が広がれば広がる程に、整合性を保つのも隠匿するのも違和感を抱かせないようにするのも難しくなっていくのだ。

 さぁ、我々を利用しようとした見知らぬ誰か(黒幕)よ。お手並み拝見といこうじゃないか。

 ラウラは全く別の宙域に展開している第1戦隊に、コアネットワークで連絡を入れるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 同時刻。ラウラからコアネットワーク通信でミッション開始の連絡を受けた第1戦隊は、宇宙海賊を思い切りぶん殴る為の準備に入った。

 何故か? 本ミッションの第1段階は、見知らぬ誰か(黒幕)が描いた全体像を徹底的にブチ壊す事を目的としているからだ。その為に第3戦隊は不都合な情報を垂れ流し、第1戦隊は見知らぬ誰か(黒幕)の手足となっている宇宙海賊を狩る。1隻や2隻ではない。10隻や20隻でもない。

 束博士と晶が秘密裏に行っていた海賊狩りで得た数々の情報の中には、当然のように秘密基地の情報もあるのだ。規模は様々で、古い大型船を空母代わりにしている小規模な勢力もあれば、直径十数~数十キロの隕石をくり抜いて基地化している中規模な勢力、もっと大きくなると無人惑星の地表や地下に基地―――規模的には都市と言うべきか―――を造っている大規模な勢力もある。流石宇宙。地球の海賊とはスケールが違う。

 そこを、順番に消し飛ばしていく。もしかしたら無関係の海賊かもしれないが、知った事ではない。どうせ海賊なのだ。恨むなら、宇宙海賊になどなった我が身を恨め。

 そして今回は消し飛ばすのが目的であって、内部制圧が目的ではない。よって選択された手段は極めて乱暴かつ、相手にとっては理不尽以外の何ものでもなかった。

 第1戦隊の指揮を取る鷹月静寐がブリッジで命令を下す。

 

「艦首無砲塔型荷電粒子砲、発射準備」

 

 潜行戦隊に配備されている空間潜行艦アリコーンに、超兵器と言われるような兵装は無い。アサルトアーマー、光学型CIWS、近接防御用ミサイル、多目的VLS、エネルギーキャノン、レールキャノン、艦首無砲塔型荷電粒子砲など、威力の大小や使われている技術の差異はあれど、地球人が理解可能な兵装ばかりだ。

 が、少し考えてみて欲しい。篠ノ之束の作品が、こんなに普通な物であるだろうか? 答えは誰もが同じだろう。否である。では束博士は何をしたのだろうか?

 ブリッジ内に仲間達の声が響く。

 

「了解。艦首無砲塔型荷電粒子砲、発射準備に入ります」

 

 アリコーン艦首部分の装甲板が左右に開き、巨大な砲口が露出する。次いで、その前方にある種の力場によって無色透明なエネルギーバレルが展開された。

 

「艦首装甲板及びエネルギーバレル展開完了」

「主機関出力上昇。70………80………90………100………フルドライブモードへ移行」

「冷却システム問題無し」

 

 束博士はアリコーンを造る時に考えた。超兵器を装備させるか否か。結果は否であった。あの時は早急に宇宙(そら)で使える船を準備する必要があったというのもあるが、超兵器というのは使う側にも一定の下地を求めるのだ。下地の無い者に与えたら自爆しかねない。晶のクラスメイトなら大丈夫だろうという思いもあったが、与える以上は万一の可能性も考慮しなければならなかった。が、それはそれとして晶の、そして自身の手足として使う潜行戦隊に配備するなら、なにか一撃必殺となるような兵装は欲しい。

 こう考えた束博士は、極々単純な答えに辿り着いた。単純に破壊力を追求するだけなら、重力兵器や空間破砕兵器のような超兵器である必要は無いだろう。エネルギー兵器の出力を上げてやれば良い。

                                

 ―――ただし、その出力上昇の程度が桁外れであった。

                                

 空間潜行艦アリコーンは、スターゲート機能を搭載している艦だ。つまり時空間を捻じ曲げ次元回廊を形成できるような、膨大な出力があるということ。その出力を、エネルギー兵器に転用したのだ。

 尤も一般的な戦闘で使われるであろうアサルトアーマー、光学型CIWS、エネルギーキャノン、レールキャノン等への恩恵は大きくない。威力や連射性能が大幅に向上しているのは事実だが、超出力を余すところなく使えるようにする為には内部機構の大型化が必須であり、実行した場合は船体の大型化を招き、結果としてステルス戦闘艦として非常に使い辛くなってしまうためだ。

 このため束博士は、超出力を余すことなく使える武装を艦首無砲塔型荷電粒子砲のみとした。1つに絞れば、専用化した内部機構を搭載可能なスペースを確保出来たからだ。

 その性能は――――――。

 

「ターゲットをシグネチャ(形状特性)にて認識。直径3300メートルの小惑星。距離10万キロ」

「船体位置微調整。………軸線に乗りました」

「収束開始」

 

 アリコーン前方にエネルギースフィアが形成される。始めは野球ボール程度だったものが瞬く間に船体の全高を超え、100メートル、200メートル、1000メートル、2000メートル、4000メートル、6000メートル。

 エネルギースフィアが小惑星を超えるサイズとなり、展開されているエネルギーバレルが軋みをあげ、周囲にプラズマ放射が巻き起こる。

 この時点で、小惑星を根城にしている宇宙海賊どもは行動を起こした。小惑星全体を覆うエネルギーシールドが展開されたのだ。が、津波に対して人間が盾を持ったとして、何が出来るだろうか?

 静寐が命令を下す。

 

「発射」

 

 直径6000メートルという極太の荷電粒子砲が10万キロという距離を瞬く間に駆け抜け、小惑星全体を包み込む。エネルギーシールドによる拮抗は一瞬ですらなかった。濡れた薄紙が引き裂かれるかのように破られ、圧倒的な熱量によって小惑星全体が溶解していく。光が消え去った後には、石ころの1つすら残っていなかった。

 余りの超威力に、ブリッジ内が静まり返る。だが、彼女達は素人ではなかった。暴力とはどういうものであるか、常に教えてくれる人が身近にいたのだ。“最強の単体戦力(NEXT)”が、暴力を行使した結果がどういうものであるかを、常に。

 だからだろう。ブリッジ内の静寂は長続きしなかった。

 静寐が口を開く。

 

「みんな、船内状況をチェック」

 

 ハッとなった仲間達が各部のチェックを開始する。問題無しという報告と共にブリッジサブモニターに映し出されている、幾つかのセクションに区分けされた船体概略図が次々と緑色になっていく。そうして最終的にオールグリーンとなったところで、静寐が再び口を開いた。

 

「作戦継続に問題は無さそうね。じゃあみんな、次の目標に向かいましょうか。――――――ワープドライブ起動。星系外へ離脱後、スターゲートで別の星系へと向かいます」*4

 

 こうして第1戦隊はこの宙域から消え、別の獲物を喰らいに行ったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 72時間後。“獣の眷族”本星。

 執務室にいたスノーは、最近聞こえてきている情報に、「まさか」という思いを抱いていた。

 辺境の有人惑星フィスフィリスで何者かが様々な情報を垂れ流し始めたのを皮切りに、たった72時間(3日間)で3つの星系に散らばる3つの海賊拠点、しかも勢力圏のほぼ反対側にあったものが消滅し、それに数倍する拠点であったであろう残骸が発見されているのだ。

 軍が言うには消滅したのはいずれも泳がせておいた拠点という話だが、消滅させた相手を捕捉出来ていないという点で各方面からの風当りが強くなっていた。至極当然な話だろう。海賊を叩いてくれているとは言え、正体不明の輩に自勢力内での自由な行動を許すなど、軍の存在意義に関わる話だ。またこれほど簡単に叩けるなら、なぜ泳がせるといった日和見な対応に終始していたのか、という話にもなる。

 このため軍は対応に追われ、違法組織の大規模拠点攻略作戦―――その前段階である情報収集も含めて―――は事実上棚上げ状態になっていた。

 軍に直接コネクションがある訳でもないスノーの耳にすら、これほどの話が聞こえてくるのだ。恐らく当事者達は大変な目にあっているだろう。

 先日話した地球の男、薙原晶の言葉を思い出す。

 

「ハッキリ言ってしまえば、末端の行動を暴いたところで意味はありません。すぐに対処されるだけです。やるなら盤面ごとひっくり返して、相手の行動を強制的に変えさせてやらないといけない」

 

 どこまでやるのかと思っていたら、まさかここまでやるとは。無論、確証はない。カラードに依頼の遂行状況を確認したところ、「指定宙域に到着したら連絡します」の一点張りなのだ。そしてここまでやる勢力と下手に繋がっていると思われたら、国家転覆の意図ありと疑われかねない。しかし、好機でもあった。今なら何かと口煩い官僚も軍の人間も、それぞれの対応に追われている。口を出される事も無いだろう。

 行動を起こす為に、アンティークな姿見で自身の装いを確認していく。途中、ふと先日話した束博士の事を思い出した。あちらは緋色、こちらは白と青が基調という違いはあれど、似たような作りの服だった*5。確か地球文明の日本という地方―――束博士の出身地―――では、着物と言っただろうか。また特使として赴く際に文化的な事を下調べしたが、日本の古代文明、平安時代と言ったか。その時代の建築様式がこの宮殿の建築様式と似ていたのには驚いた覚えがある。無論、技術的格差からくる性能差というのはあるが、全体的な雰囲気が非常に近いのだ。

 なお古い時代に似ているからと言って、“獣の眷族”が古くて遅れているという意味ではない。むしろ“獣の眷族”は過去、無駄を削ぎ落し効率性を追求していった事がある。だがその結果、感情がフラットになり心が渇きロボットのようになり、ストレスから犯罪件数が激増、種として逆に衰退してしまったのだ。復興の為にかかった永い年月は、反面教師として教育に取り入れられている。このため今は多少非効率的であったとしても、日常生活においては文化的な面が重視されていた。

 ふと思い出した初等教育を脳裏の片隅に追いやり、執務室を出て歩いていく。

 そしてスノーが廊下を歩くと、視界内にいた者達は皆一様に廊下の端に寄り、通り過ぎるまで頭を下げたまま微動だにしない。

 この場面だけを見れば、彼女の立ち位置は非常に高く見えるだろう。だが実際は決して高いものではなかった。何故なら“獣の眷族”の政治形態は王制であり、彼女はその血筋に連なる者なのだが………………傍系なのだ。しかも直系からはかなり遠い。

 であるにも関わらず敬意を払われている理由は、文明間外交における彼女自身の働きにあった。元々は多少生まれが良いだけの、外交関連の職業を選びはしたがあくまで裏方であり、外交の表舞台に立つような立場では無かったにも関わらずだ。そしてこれには処世術という意味合いもあった。世の中には良い人も沢山いるが、傍系が目立つ事を快く思わない者もいるのだ。なので目立ちたい人を目立たせて、自分は裏方で………というのが彼女の人生設計だった。過去形である。

 人生設計が狂った切っ掛けは悲劇でも何でもなく、アラライルとの出会いだった。彼が辺境議員になる前の話だ。種族的に近しい特性を持つ“首座の眷族”と“獣の眷族”はパーティを開く事があるのだが、その席で彼に話しかけられ外交についての意見を交わした事がある。以降、何かと正規のルート*6で連絡が入るようになり、“首座の眷族”とコネクションがあるという事で立場が上がり、気付けば表舞台に立つようになっていた。

 だがその時点では、今のように敬意を払われていた訳ではない。むしろ陰で様々な事を言われていた。そんな状況が変わったのは、押し付けられた文明間紛争の調停だった。長年続いていたランクC文明同士の紛争で、片方がプロトタイプながらワープ航法と重力兵器の開発に成功したため、もう片方が焦り、実戦配備される前に全面攻勢で決着をつけようとしていたのだ。当事者の立場に立てば、分からなくもない。戦争においてワープ航法の実用化はイコール本拠地直撃の強襲戦術の実用化であり、重力兵器の破壊力は核兵器を凌ぐ上に単純な物理装甲では防御できない。船や建物が無事でも、重力偏差で中身が潰れるからだ。

 どちらも態度を硬化させており、どう対処しようと多くの犠牲者が出るのは避けられない情勢だった。しかしスノーは、これを乗り越えた。予想よりも少ない被害で文明滅亡という結末を回避し、停戦交渉のテーブルにつかせる事に成功したのだ。これだけでも相当な功績だが、運良く近郊のアステロイドベルト帯で希少鉱石の大鉱脈が発見されたため、その収益をもって復興事業に取り組むという枠組みまで整えた。

 この外交手腕を持って彼女は、王制下で直系からかなり遠い傍系という不利な立場でありながら、本星宮殿内において敬意を払われていたのだった。

 

 ―――閑話休題。

 

 スノーが向かったのは王の執務室。

 高度に発達した文明でも、否、高度に発達した文明だからこそ、通信回線を介さない直接対話というのは廃れていなかった。盗聴や改竄対策という側面もあるが、会話する知性体が社会を構築して階級が存在する以上、直接会って、話して、何かを決定するというプロセスは無くならなかったのだ。

 長い長い廊下を歩き、幾つものセキュリティチェックを越えて、辿り着いた先にあった扉の左右には衛兵が1人ずつ立っている。

 もしこの場に日本人が居たなら、衛兵の服装は合気道で着られる袴のようだと思っただろう。宮殿という場所に合わせる為に多少装飾が施されているが、全体的なラインが良く似ているのだ。因みに、ランクA文明の衛兵が着ている服が、只の服である筈もない。単純な物理的防御力だけでアンチマテリアルライフルの衝撃を完璧に防ぎ、レーザーやビーム等の熱量兵器に対しても高い耐性を誇る。更に極めて進歩したナノテクノロジーにより、周辺の毒素を感知・無力化する環境耐性システムや小型シールドシステム等が内蔵されていた。要人警護に必要なほぼ全ての機能が、一着の服に収められているのだ。

 

「我らが王に地球文明圏への特使、スノー・テールが報告に参りました。取り次ぎをお願いします」

 

 犬耳の衛兵が直立不動のまま答える。

 

「分かりました。暫しお待ちを」

 

 返答と共に内部と幾つかのやり取りが行われ、扉が開かれた先には“獣の眷族”の王がいた。地球人的な感覚で言えば中年といった雰囲気だが、同時に百獣の王を連想させる程の威圧感がある。本人の性格を反映してか、身に着けている装飾品は少ない。部屋の雰囲気も質素と言えるだろう。執務用のテーブルには、必要最低限の物しか置かれていない。

 そんな部屋に入ったスノーは、一定の距離まで進んだ後、深々と頭を下げて言った。

 

「我らが王に――――――」

「前置きはいい。どうなっている?」

「“首座の眷族”の中央に最も近い辺境議員、アラライル・ディルニギットが格別の配慮をしている者達が動いています。病巣を取り除くなら、今かと」

「そこまでか?」

「はい。依頼の際にアラライル議員が言っていました。戦術や戦略、相手を仕留めるという闘争心においては特筆に値すると。アラライル議員は万事に万全を尽くす人なのでサブプランは用意しているでしょうが、あの者達が失敗する可能性はかなり低く見積もっているでしょう」

「確かにフィスフィリスの一件は見事であったし、お前の報告を疑う訳ではないが、聞けば聞く程に信じられん」

「秘匿回線を使った時の映像を再生致しますか?」

「それには及ばん。アレは儂も確認している。それだけに信じられん」

「では見送りますか?」

「いいや。負の財産を後世に残したくない。片付けられるなら片付けてしまおう。宇宙(そら)に出たばかりの者達の手を借りるというのは少々気に食わんが、儂の足を引っ張る輩を片付けられるなら、そちらの方が良い」

「分かりました。では」

「うむ。あの地球人、薙原と言ったか? そやつの提案に乗ってやろう。折角盤面をひっくり返して、色々と動き易くしてくれたようだしな。だがそれはそれとして、軍がこれだけ警戒網を敷いて、なおその上をいくか。味方であるなら良いが、敵となった時の対処方法は考えておかねばならんか」

「確かに驚異的なステルス性と打撃力ですが、古今東西あらゆる歴史において、少数精鋭が最も苦手とするのは物量戦です」

「攻める時はそれで良かろう。だがあのステルス性と打撃力で有人惑星を狙われたらどうする? もしかしたら万一という低い可能性なのかもしれん。しかしその万一を考え備えるのが儂の仕事だ」

「配慮の足りぬ発言でした。お許し下さい」

「許すも何も、お前は1つの案を言ったに過ぎん。謝罪の必要は無い。それに有り得る可能性に備えるのは儂の仕事だが、全てを疑い敵と考えてしまっては、行き着く先は孤独よ。何処かで折り合いをつけねばならん。――――――まぁ、対応は後々考えよう。お前は地球が、いやカラードが敵とならぬように、友好関係を保つがよい」

「仰せのままに」

 

 スノーが深々と一礼する。

 こうして潜行戦隊の行動は、見知らぬ誰か(黒幕)の描いた全体像を見事に上書きし始めた。

 だが“獣の眷族”は知らない。カラードは、否、篠ノ之束と薙原晶は、殴ると決めたらとことんまで殴る。その為の命令を出していたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は2日ほど遡る。

 潜行戦隊の第1戦隊は、見知らぬ誰かの手足をもぎ取りつつ(海賊を叩きつつ)、並行して情報収取も行っていた。

 とは言っても、やっている事は大差無い。

 海賊基地を襲撃、手当たり次第にデータを引っこ抜いて、コアネットワークで束博士に送り、その分析結果をもって次の獲物を狩るという、狙われた側にしてみれば迷惑極まりない作戦だ。

 静寐が命令を下す。

 

「アリコーン、空間潜行解除と同時にアサルトアーマー起動」

 

 直径10キロサイズの小惑星直近に、全長495メートルの漆黒の船体が現れると同時にアサルトアーマーが起動され、小惑星に擬装された外壁が砕け散り吹き飛んでいく。なお此処に来る前に襲撃した海賊基地は、アサルトアーマーが強過ぎて情報収集が不可能なレベルで木端微塵になってしまったため、あえて威力が抑えられていた。

 ブリッジに仲間の声が響く。

 

「外壁の破壊を確認。突入経路確保」

 

 静寐がコアネットワークで命令を下す。

 

(IS部隊、突入して下さい)

 

 船体上面のハッチが開き、3機のISが海賊基地に突入していく。

 1番機はシャルロット・デュノア。カラード宇宙開発部門長代理という立場にある彼女だが、対応力という点で右に出る者はいない。また愛機ラファール・フォーミュラのミッションパック*7も開発が進んだため、元々高かった対応能力が更に上がっていた。今なら近~超遠距離戦のいずれにも対応可能な上に、偵察、電子戦とほぼオールマイティにこなす事が出来る。パイロットにそれだけの能力を要求するという意味でもあるが、伊達にカラードランクNo.3ではない。あらゆる局面に対応できる万能性が彼女の持ち味なのだ。

 2番機は宮白(みやしろ)加奈(かな)。カラード戦闘部門機動特捜課に配属された彼女の仕事は、今後確実に起こる星間犯罪への対処ノウハウ(初動調査等)の蓄積だが、宇宙海賊を含む重犯罪者と戦闘する可能性は始めから言われていたため、学園卒業時に9位という上位の席次でありながら戦闘スキルを磨き続けていた。尤も他の者も自己研鑽を続けているので大きな変動がある訳ではないが、腕が上がっているのは間違いない。

 3番機は赤坂(あかさか)由香里(ゆかり)。学園卒業時に10位という席次だった彼女も、カラード戦闘部門機動特捜課に配属されていた。学園時代と変わらず宮白とはコンビで切磋琢磨している。

 そして宮白と赤坂は在学中に巻き込まれたとある事件により、「悪党はそれ以上の理不尽で叩き潰す」という考えを持つようになっていた。従って他者に理不尽を押し付ける宇宙海賊にかける情けなどありはしない。選択された武装が、それを如実に物語っていた。高出力レーザーライフルとレーザーブレード、大口径グレネード、マルチロックミサイル。ISなので拡張領域(バススロット)にその他の武装も搭載されているが、突入作戦で両手両背部に始めからこれらを装備している時点で、彼女らの心は分かるだろう。

 

 ―――閑話休題。

 

 余りにも痛すぎる先制攻撃に、海賊基地が非常態勢に移行する。内部隔壁が次々と降り始め、侵入者排除用の無人兵器群が動き出す。飛行型、多脚型などタイプは様々だが、いずれもエネルギーシールドを備え高い防御力を誇る上に、実弾・エネルギーと両方の攻撃手段を持っている。並大抵の侵入者が相手なら、瞬く間に返り討ちに出来ただろう。

 が、今回は相手が悪かった。

 如何に防御力や攻撃力が高いと言っても、所詮は人間よりも少々大きい程度でしかない。多少大型化したタイプも存在していたが、精々が地球の主力戦車(MBT)程度なのだ。ギガベース、L.L.L.、Type-D No.5といった巨大兵器の攻撃力や防御力を超えるものではない。

 従って、生み出された光景は必然だった。

 大口径グレネードによって無人兵器群は薙ぎ払われ、降りた隔壁はレーザーブレードで切り裂かれていく。

 そして海賊基地であるので当然のように地球人とは異なる生命体もいたが、シャルロットは迷わずトリガーを引いていた。元々代表候補生だったという教育的な下地があった事も関係しているが、戦場での躊躇が自身のみならず大事な仲間も危険に晒す、というのを十分に理解していたからだ。また宇宙開発部門長代理という立場は、自身の不始末は自身だけの被害では済まない、という事を強く理解させるに足る役職でもあった。

 宮白と赤坂に至っては「悪党はそれ以上の理不尽で叩き潰す」という理由があるため、躊躇などありはしない。

 結果として直径10キロサイズの小惑星を改造した海賊基地は、瞬く間に制圧されていった。巨大兵器を相手取れる個人兵器が突入してきたのだ。どれだけ厳重な警備システムであったとしても意味はない。

 そうして基地最奥に存在するメインコンピュータールームにまで辿り着いたシャルロットは、地球を出発する前に束博士から渡されたアイテムを拡張領域(バススロット)からコールした。緑の光が収束していき出現したのは、タブレットからケーブルが伸びているようなアイテムだった。次いでケーブルの先端を端末と思われる物に接触させて、アイテムを起動させる。

 すると画面に見た事も無い文字が表示され、猛烈な勢いでスクロールしていく。これは地球文明の記録媒体とは根本的に作りが違う宇宙文明の記録媒体から、データを吸いだす為のアイテムだった。NEXT(N-WGⅨ/IS)の浸食ほど強力ではないが、束と晶が秘密裏に行っていた海賊狩りで色々実験した結果作り出された品なので、ある程度のものには対応可能な一品だ。

 暫くして画面のスクロールが止まり、Completeと表示される。シャルロットはコアネットワークを繋いだ。

 

(博士。データの吸い出し完了しました。送ります)

(オッケー)

 

 次いで、仲間達に伝える。

 

(作戦目標クリア。撤収します)

 

 3人は離脱中に置き土産とばかりに、タイマーセットした爆薬を基地内にバラ撒いていく。欲を言えばドック内に停泊していた船―――アサルトアーマーで船体が折れている―――からもデータを抜きたいところだったが、いつ海賊が戻ってくるかも分からない。安全優先だ。

 そうして3人がアリコーンに戻り、ワープで宙域を離脱した直後、海賊基地は内部爆発によって崩壊していったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は現在に戻り、スノーと王が話したのとほぼ同時刻。

 潜行戦隊が集めた情報を分析した束は、分析結果を話す前に、とある映像を晶に見せていた。アレコレ細かい事を話すより、まずこれを見てどう思うかが、方針決定に重要だと思ったからだ。

 そして尋ねる。

 

「これ、どう思う?」

「アウトだろう。もし“首座の眷族”や“獣の眷族”の人達的に、これがアウトじゃないなら付き合い方を考える必要があるな」

 

 空間ウインドウに映し出されている映像は、一言で言えば相当に胸糞悪くなる内容だった。地球にも人身売買だったり人が人を人として扱わなかったりと負の面は色々とあるが、これは………。控え目に言って生き地獄だろう。人間の生体パーツ化が生温く思える程の所業だ。

 

「同じ思いで良かった。じゃあ、どうやって叩くかっていう方向だね」

「勿論だ。場所は?」

 

 空間ウインドウが消去され、居間の中央に銀河系の立体MAPが表示される。次いで“獣の眷族”とその周辺文明を含めた宙域が色分けされた後に拡大された。

 束が答える。

 

「怪しいのは“獣の眷族”の領域外で、隣接するランクB文明の最外縁部にある星系」

 

 この時点で晶は、上手いなと思った。

 ランクBとは幾つかの星系にまたがる星間国家が樹立していて、軍事力的にも十分な信頼性と実用性を持つ重力兵器や空間破砕兵器が実用化されているレベルだ。しかし武力と統治は別物で、ワープ航法が実用化されている宇宙文明と言えども、領域外縁部まで十全に統治されているとは限らない。むしろ宇宙(そら)という広大な空間は、法の目を潜り抜けたい者達の味方だ。

 それでもランクAなら相応に統治も行き届いているだろう。が、一段落ちるランクBなら適度に発達した交通網と適度に統治の行き届いていない領域があって、悪だくみをするのに都合が良いのだろう。

 因みに悪だくみという点ではランクC文明も候補になるが、ランクCの定義は母星のある星系の外縁部付近まで開発が進んでいる、イコール単一星系の文明なので、部外者が外から出入りすると発見され易いのだろう、という推測が立つ。

 更に言えばランクA文明の領域内に大規模拠点を作った場合、ランクA文明は自文明の領域内なのでその圧倒的な軍事力を躊躇無く行使できる。しかしランクBならどうだろうか? 弱いとは言わないが、ランクAより劣るのは間違いない。それでいて下手にランクA側から手を出せば文明間の政治案件と化すので直接的な武力で対処される危険性も減る。地球を例に上げるなら、麻薬流入に苦しむアメリカとメキシコの関係が近いだろうか。

 とある星系が拡大され、恒星にほど近い惑星がフォーカスされた後に束が続けた。

 

「この星自体は生命体の居住に適さない星なんだけど、地上には都市があって、それを可能にしているのが都市全域を覆っているエアシェルター。生命体が活動可能な大気組成を保つと同時に、宇宙から降り注ぐ有害な光線を防いでくれている。こういうのを海賊なんかが使えているあたり、やっぱり地球との差を感じちゃうね。――――――と、話が逸れたね。そして集まった情報を分析する限りこの都市に防衛設備は無いんだけど………無い理由が、恐らくコレ」

 

 新しい空間ウインドウが展開され、縦横4cm程度の菱形状のクリスタルが表示された。ただし完全な菱形の正八面体ではなく、横から見ると前後に分割されているような形の五面体だ。

 

「これは?」

「額に着けるだけで装着者を意のままに操る洗脳装置。これを着けられている人がざっと3万人くらい。種族は色々で、“首座”も“獣”も、多分亜種だろう羽が生えた人も角の生えた人も、完全に別種族だろう蟻っぽい人も、沢山いる。もしかしたらもっと多いかもしれない」

「なるほど。生半可な防衛設備なんていらないだろうな。下手に手を出して犠牲者を出せば、色々と拗れる。情報操作で取り繕えはするだろうが、感情は別だからな。むしろ叩いてくれた方が、その時に助けられなかった人を沢山生み出してやれば、何かを仕込む隙にできる」

「どうする?」

 

 晶は暫し考えた。やるやらないで迷っているのでは無い。決断はやるの一択だ。なので考えているのは、如何にしてやるかだ。

 

「よし。こういうのはどうだ?」

 

 晶は束に考えを話すのだった―――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 2日後。

 潜行戦隊による先行偵察で情報の真偽を確認した束と晶は、アラライルとスノーに秘匿回線を繋いでいた。

 いつも通り束が前で椅子に座り、晶はその斜め後方に立っている。

 

『数日ぶりですね。そして本来なら指定宙域に到着したとお伝えしたいところなのですが、少々見過ごせない情報を入手しまして。宇宙(そら)の倫理観として、これは許されるのか許されないのかを聞きたくて連絡しました。映像を送る前に言っておきますが、私としては非常に衝撃的で不愉快だった、と言っておきます』

『その前に、どういう経緯で入手した情報なのかね? 場合によっては幾つか問わなければいけなくなるのだが』

 

 尋ねたのはアラライルだ。

 

『指定宙域に向かう途中で宇宙海賊と交戦しまして、退けたついでに根城も叩いたのですが、その際に見つけたものです』

 

 答えた束は、昨日見た相当に胸糞悪くなる映像データを送信した。そして尋ねる。

 

『もう一度お聞きします。そちらの倫理観に当て嵌めて、これは許される行為ですか?』

 

 映像を見た2人の顔色が変わる。スノーに至っては口元を手で押さえていた。

 答えを言っているようなものだが、束はあえて言葉にさせた。

 

『どうでしょうか?』

『許される筈もない。極刑に値する。―――ただし、私は立場上これがフェイクである可能性を疑わなければならない』

『同じ意見です』

 

 アラライルの言葉にスノーが同意する。相手の立場を考えれば当然の返答だろう。感情のままに突き進んで、判断材料となったものがフェイクで騙されていました、ではすまない立場なのだ。だが束と、この会談を提案した晶にとっては今の返答で十分だった。

 

『分かりました。では、御二人は見ていて下さい。後はこちらで行いますので』

『何をする気なのかね?』

 

 束は笑いながら答えた。底冷えするような薄い笑みだ。

 

『勿論叩きます。こんな場所を放置しておいて良い事など何一つありませんから』

 

 今度はスノーが言った。

 

『待って下さい。この洗脳装置を取り付けられた人達は、外せれば元に戻るのでしょう!! ですが、武力介入なんてしたら』

『方法はお教え出来ませんが、こちらに考えがあります。そして今の反応を見るに、有効な解決方法はお持ちでないようですね。ならば手を借りたいとも言いません。当方単独であたらせてもらいます』

 

 アラライルは暫し考えた後に尋ねた。

 

『本当に出来るのかね?』

『ええ。ですが、叩いた後の対処はお願いします。流石に他文明の内部にまでは手を出せませんので。こちらの働きに見合うだけの事をしてくれる、と信じています』

 

 文明間の地力差を考えれば有り得ない暴言だろう。だが、もしも本当に行えるというなら、カラードはプロフェッショナルというだけではない。あらゆる局面に投入可能な最精鋭と判断できる。そしてこの“天才”が言い切ったのだ。ならば見せて貰おう。アラライルはそう判断した。

 これに対してスノーの方は、アラライルほど思い切った判断が出来た訳ではなかった。以前の外宇宙ミッションで実力があるのは理解していたが、以前と今回ではあらゆる意味で状況が違う。まして今回は洗脳装置を取り付けられた一般人が3万人もいるのだ。そしてこの手の情報の常として、救助対象がもっと多い可能性もある。しかも複数の種族だ。下手に被害を出せば、確実に多種多様な文明との関係が拗れる。宇宙(そら)に出たばかりの地球文明にとって、それは余りにもリスキーだ。誰にでも分かる簡単な理屈だろう。しかし束博士の言う通り、有効な解決策が無いのも事実であった。仮に束博士が調べた情報を全て開示してくれたとしても、あれだけの一般人を助ける方法など想像もつかない。故に消極的な返答だが、反対しなかったのである。

 こうしてカラードの外宇宙ミッションは、次なる局面を迎えるのであった。

 

 

 

 第200話に続く

 

 

 

*1
元ネタは空のACの超兵器アリコーン。本作中の性能については第180話にて。

*2
ハウンドチームにはアリコーンの0番艦、試験評価に使われたプロトタイプ艦がそのまま与えられていた。

*3
第155話にて。

*4
可能な限りアリコーンがスターゲート機能搭載艦という事が露見するのを避けるため、反応が検知され辛い星系外へ一度出ようという意図から。

*5
第196話にて。画面越しに話した時のこと。

*6
外交的にスパイを疑われない真っ当なルート

*7
ラファール・フォーミュラの元ネタはガンダムF90




勘の良い読者様方ならお気づきかもしれませんが、次回は彼女が出陣します。

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