インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
束博士のワープ実験公表は、世界に激震を与えた。特に宇宙開発技術を持つ先進国の反応は早かった。何せ宇宙という無限のフロンティアに手が届く、イコール資源という金の成る木に手が届くと分かったのだ。開発を躊躇する理由は無いだろう。他に多額の予算を要する案件―――
だが全人類が一致団結したかと問われれば、答えは否であった。何故なら先進国が宇宙から資源を手に入れるという事は、資源産出国の収入減少に直結するからだ。従って先進国以外の資源産出国は「
「………で、その結果がコレか」
「はい社長。資源産出国からワープ技術公開を待って欲しいとの要望がきています。そしてこの動きに対応して、先進国からは資源産出国の動きを諫めて欲しいとの要望がきています」
カラードの社長室で、晶は頭を抱えたくなった。
束の宇宙進出という夢を実現する為には、足踏みをしている暇はない。その考えからいけば、先進国側に立って宇宙開発を推し進めるべきだろう。しかし資源産出国を蔑ろにした場合、収入減少からの治安悪化、世界的な富の不均衡の拡大、地球内部での争い激化という、今後宇宙開発を進めていく上で不都合となる問題点が噴出しかねない。
晶は思わず、秘書に愚痴をこぼしてしまった。
「この手の問題って、本当なら国連案件だろうに」
「本来ならそうですが事が事だけに、国連に任せた場合いつまで経っても解決しない可能性の方が高いかと」
デスクに置いてあったコーヒーを一口飲む。そしてふかぁぁぁぁい溜め息。
「めんどうくせぇ」
「では放置なさいますか?」
「そういう訳にもいかんだろう。そうだな………」
晶は考えを整理し始めた。宇宙での資源採掘は既に月のマザーウィルで行われており、同じくマザーウィル内で精製された資源は地球でも流通している。だが資源産出国が今回のように、一致団結して意思表明をする事はなかった。何故か? 収入以外に考えられる主な理由は2つだ。1つは流通量の問題だ。月で採掘・精製された資源の総量は地球で採掘・精製される総量に対してまだ少ないため、資源産出国の財政を傾ける程の脅威ではなかったということ。無論将来的な脅威となる事は認識していただろうが、それも年単位の時間を要する話だったため、産出国として対応する時間はあると考えていたのだろう。1つは宇宙での資源採掘が、月という地球近郊に限定されていたためだ。極論してしまえば月は、“ちょっと遠い”だけの資源採掘場と変わりない。アステロイドマイニング*1が実用化されるまでは、まだまだ地球産資源の有利は揺らがないと考えていたのだろう。
だがワープ技術の発表により、資源の宝庫である
ではどうすれば両者の意見対立を納め、平和的に宇宙開発を進められるだろうか?
「………」
暫し考えるが、少なくとも短期的に解決できるような問題ではないとの結論に至る。
ではどうすれば、資源産出国の不安や不満を解消できるだろうか? 究極的に言ってしまえば、資源産出国がこれまで通りの収入を確保する手段があれば良い。だがそんな都合の良い手段はない。―――と考えたところで、晶はふと閃いた。
(待てよ。クレイドル2号機*2でアステロイドベルトから持ってきた資源を資源産出国に低価格で売る。資源産出国はそれを精製・加工して売る。これなら既存の社会構造を利用できるし、資源産出国もある程度の収入を確保できる。低価格でも量を売れば、クレイドル2号機の運用コストも回収できるだろう。細かいところは詰めていく必要があるけど、悪くはないんじゃないだろうか?)
胸の内で考えを纏め、次いで先進国への対応に思考を巡らせていく。
(こっちの方は難しくない………か。元々資源産出国の動きを諫めて欲しいという要望だったし、ワープ技術を公開すれば、宇宙にある豊富な資源を求めて自分達で乗り出していくだろう)
こうして考えを纏めた晶は面倒だとボヤきながらも、先進国と資源産出国の調停に乗り出したのだった。
◇
時は進み10月の中旬。
晶の働きかけにより先進国と資源産出国の意見対立が収まりを見せ始めた頃、ワープドライブ搭載船の使用を前提とした宇宙開発計画を立案する先進国の前に、予算という高いたかぁ~い壁が姿を見せ始めていた。
各国とも―――色々な建前はあれど―――考えは同じだ。単独でワープドライブ搭載船を作って、
この考えに行き着いた先進国は代替案として、現在進行中の計画に相乗りさせてもらう事を考えた。すなわち束博士がワープドライブ搭載を公言している、日本主導のクレイドル2号機建造・運用計画への相乗りだ。この計画はマザーウィル計画とも密接にリンクしているため、上手く協力国という立場に収まる事ができれば、ワープ技術と宇宙採掘技術の双方を習得する為の土台作りができる。
そして真っ先に動いたのは利益に聡い彼の大国、アメリカだった。
「―――という訳で、クレイドル2号機の建造・運用に協力させて頂きたいのです。どうか日本への口添えを、お願い出来ないでしょうか」
カラードの応接室で晶の前に座るのは、在日アメリカ大使のデイビッド・ジュアル。小太りな中年男性で、穏和そうな表情がとても誠実そうな雰囲気を醸し出している。だが政治に関わる者の表情ほど信用ならないものも無いだろう。奴らにとっては表情も言葉も仕草も雰囲気も、全てが相手を攻略する為の実弾なのだ。
晶はコーヒーを一口飲んで答えた。
「アレは日本主導の計画です。こちらに頼むより、日本に直接言った方が良いのでは?」
「御冗談を。あの計画が博士と貴方の強い影響下にあるのは周知の事実。日本政府に話すより、貴方から言って頂いた方が遥かに話が通りやすいでしょう」
「話が通り易いかどうかはさておき、クレイドル2号機で得た資源の大半は資源産出国が買い取る事になっています。アメリカにそれほど益のある話ではないと思いますが」
「余り惚けないで頂きたい。確かに戦略物資である資源の入手は国として重要事項で、可能なら単独で行った方が利益もあるでしょう。ですがワープ技術と宇宙採掘技術を独力で習得しようとした場合、時間と予算という貴重なリソースを大量に消費する事になります。そして
一度言葉を区切ったデイビッドは、コーヒーを一口飲み続けた。
「ですが束博士が技術支援をしているクレイドル計画なら、ワープ技術運用に関するハードルはほぼ無視できる。宇宙採掘技術もリンクしているマザーウィル計画での実績がある。我が国の希望はこの協力を通じて、ワープ技術と宇宙採掘技術の習得なのです。これは宇宙開発を促進するという、束博士のお考えにも合致するものではないでしょうか」
政治に関わる者としてはかなりストレートな言葉に、晶はアメリカ側の焦りと本気度を感じ取った。
「仮に協力が実現したとして、どの程度の事を考えていますか?」
「クレイドルの全翼部を構成するユニットの建造、
「予算的な裏付けはどの程度ですか?」
「NASAが進めていた有人火星探査計画を凍結し、その予算をクレイドル計画の支援へと割り当てます。規模としては約100億ドル(約1兆3千億円)でしょうか。後はアメリカ軍の予算も一部転用して支援に回す予定です。規模は折衝中ですが、恐らくこちらは200億ドル前後かと。更にもう1つ。これは協力関係が確実になってから動く話ですが、約1000億ドル(約13兆円)規模の国債を発行して、クレイドル計画の支援に当てる予定です」
ここまで具体的な話が出てくるという事は、恐らく大統領はこの話にGoサインを出している可能性が高い。だが他国の計画に、ここまでの支出をアメリカ国民が認めるだろうか? アメリカ大統領は世界最高の権力者の1人だが、民主的に選ばれた指導者である以上、出来る事と出来ない事があるのだ。
「アメリカ国民が認めるとは思えません。下手をすれば大統領の支持率低下に直結するのでは?」
「支援先が並大抵の計画であればそうでしょう。ですが束博士が技術支援をしているクレイドル計画なら話は別です。確実に
「それは何故でしょうか? これほどの資金を投入するとなると、少なくない抵抗があると思いますが」
「確かに我が国としても多大な支出であることは事実です。他国の計画にこれほどの資金を投入するなど、前例の無いことでしょう。ですが国民も馬鹿ではありません。
「なるほど。ただ、本当に宜しいのですか? クレイドル2号機の運用方法は既に決まっています。つまりこれほどの資金を投入しても、アメリカが直接的に資源を手に入れられる訳ではないということです」
「何処かの国が採掘した資源を独占する、というのであれば支出に対するリターンが無いとして、国民は納得しないでしょう。ですが貴方が示したクレイドル2号機の運用方法なら、資源が市場に平等に流れる上に、供給量全体が増える。つまり何処かの国が資源を戦略物資として使おうとしても、別の国から購入可能になるという安全保障上のメリットがあります」
デイビッドの言葉は嘘ではなかったが、理由の全てを語ったものではなかった。
アメリカがこれほど巨額の支出を決断した本当の理由は、クレイドル計画に加わる事で資源の供給側に回るためだ。資源を供給する側とされる側では、取り得る国家戦略がどれほど違うかを理解していたからだ。無論協力国という立場である以上、採掘した資源をどの国にどれだけ売るのか、というのを単独で決められる訳ではない。だが巨額の支出をして計画に関われば、一定の発言権は確保できるだろうという目論見があった。また資源を売るという事は収入があるということだ。薙原晶は世界経済への影響を考えて、資源を低価格で資源産出国に売る方針のようだが、問題はその量だ。何せクレイドルが設計図通りに完成したなら、全幅4000メートルの巨体になる事は既に知られている。如何に低価格とは言え、その巨体に満載した資源を売ればどれほどの収入になるだろうか? ましてワープ搭載船となるクレイドル2号機は、地球-アステロイドベルト間を文字通り瞬く間に移動できる。つまり資源の大量輸送と大量販売が可能になる。販売利益の分配率は調整する必要があるが、少なくない利益が見込めるだろう。
晶は言葉にされなかった裏の意図まで理解した上で返答した。
「………貴国がどの程度本気なのかは分かりました。日本には伝えておきましょう」
「ありがとうございます。貴方が動いてくれるのであれば、私も大統領に良い報告ができます」
「良かったですね。ああ、ですが最後に1つだけ」
「なんでしょうか?」
「人選は十分に考慮されると思いますが、計画内部に不協和音をばら撒くような人間がきたら、束も私も相応の対応策を取る、という事は覚えておいて下さい」
「肝に銘じておきましょう。人選には最大限の注意を払うとお約束します」
こうした根回しもあり一週間後、アメリカはクレイドル計画への参加を表明したのだった。
◇
アメリカの行動は、世界各国の判断に大きな影響を与えた。宇宙開発の世界最先端から遅れるなとばかりに、各国からクレイドル計画への支援・参加表明が相次いだのだ。だがそんな中で、計画を主導している日本が対応に苦慮する申し出があった。
国民感情を考えるなら、拒否の一択だろう。だが余りに厳しい対応をして遺恨となれば、将来的な国益を損ないかねないという可能性を考えたのだ。
そこで日本政府は、クレイドル計画の実質的な中心人物である束博士―――の代理人である晶に相談してみる事にした。なお建前的な事を言うなら、クレイドル計画は日本主導の計画なので、態々相談する必要などない。だが同計画が各国から多くの支援を受けられるのは、束博士とカラードが全面的に支援しているからなのだ。意向を最大限尊重するのは、日本として当然の配慮だった。
「―――という訳で申し出を断るべきとの意見がある一方で、将来的な国益や対
カラードの応接室で晶と話しているのは、日本政府の命を受けた役人だった。七三分けに黒縁メガネという、ザ役人といった雰囲気の人物だ。
「対
「中国側はアメリカと同等規模の支援金を準備するとまで言っていますが、お考えは変わりませんか?」
「ええ。大体、あの国は第二次来襲において1100万人以上の犠牲者を出していたはず。それほど巨額の支出ができるなら、国内の復興が先でしょう」
なお第二次来襲において、アメリカの犠牲者数は約910万人である。巨大な復興事業があるのは同じであったが、両国では経済的な地力がまるで違う。
「なるほど。あと参考までにお伺いしたいのですが、日本と中国はどんな分野でなら協力できるとお考えですか?」
晶はコーヒーを一口飲み、少しばかり考えてから答えた。
「………さて、そこは政治の役割だと思うので私からは何とも。ただ今は大人しくしていますが、あの国の第二次来襲までの行動を見ていると、色々と目につく事があります。無人島を埋め立て拡大して基地を作り、軍を急速に拡大し、他国を借金漬けにして権利を奪い取る。地域の安定を乱すこの辺りの行動が改善されると、付き合い易い良い国になるんじゃないかと思いますけどね」
「ご尤もな意見です。今後は我が国も、外交的に色々と主張していく事になるでしょう」
この言葉の裏には、日本が最近自覚した諸外国に対する外交上の優位性があった。誰もが認める世界最強の武力が国内に拠点を構えているという事実が、諸外国を強力に牽制していたのだ。無論厳密に考えれば、カラードが日本防衛に無条件で力を貸すと考えるのは早計だ。カラードにはカラードの都合があるのだ。だがカラードの基本方針が宇宙開発にあり、宇宙開発を安定的に進めるために、足元の安定を望んでいるのは周知の事実である。つまり日本に手を出そうとした場合、状況次第では世界最強の武力集団が出張ってくる可能性がある、ということだった。
そして外交の世界においてカラードが出張ってくる可能性というのは、
晶はそんな裏の意図に思考を巡らせた後、役人に返答した。
「ええ。頑張って下さい」
「ありがとうございます。時に社長、もう1つお伺いしたい事があるのですが、宜しいでしょうか」
「私で答えられる事なら」
「いえ、先日カラードの副社長には、イギリスのセシリア・オルコットが就任されると発表がありましたが、3年1組の日本のパイロット達はどの辺りのポストになるのかと思いまして」
伝え聞く日頃の付き合いを考えれば平社員のような扱いは無いだろうが、「我が国の人間はどの程度重んじられているのか?」というのは、日本政府として非常に気になるところだった。
なおセシリア・オルコットが束博士のお気に入りであり、格別の配慮を貰っているというのは、既に多くの人間にとって共通認識である。また正式な発表があった訳ではないが、セシリアが副社長になったため、仲の良い欧州の2人(シャルロットとラウラ)もカラード上層部に入るだろう、と多くの人間が予測していた。
「申し訳ありませんが、人事なのでお話しする事はできません。ただ、相応のポジションで活躍して貰おうとは思っています」
断りはしたが、内部的にはほぼ決まっていた。
織斑一夏と篠ノ之箒(+凰鈴音)は正義感が強いので、チームを組ませて
更識簪については少々悩み中で、姉の楯無と共に更識を支えて貰うか、本人が技術系に強いので、宇宙開発事業に関わって貰うかのどちらかを考えていた。よく相談する必要があるだろう。
そして親衛隊となる他の子達には、一般的なISパイロットでは決して望めない装備と権限が与えられる予定になっていた。
「それは残念です。人を育てるのが上手い貴方の人事を見て、色々と参考にさせて貰おうと思ったのですが」
「煽てても何も出ませんよ」
「本心です。人事はどこでも頭の痛い問題ですから」
冗談交じりに答えた役人は出されていたコーヒーに口をつけ、これまでの会話を振り返ってみた。今のところ、大きな失点は無いだろう。だが油断は出来なかった。目の前の人物はその言動1つで世界に影響を与えられるのだ。下手な事を言って国益を損ないました、等と言う事になれば目も当てられない。
役人がそんな事を思っていると、晶が口を開いた。
「確かにそうですね。適材適所というのは、中々難しいといつも思います」
そしてコーヒーを一口飲んだ後に続けた。
「ところで話は変わるのですが、日本政府としてはクレイドル2号機の建造を、何時頃から開始しようと思っているのですか?」
「各国からの支援もありますので、今年度中には開始できるかと。ただこちらからも確認したいのですが、博士がクレイドル2号機に取り付ける予定のワープドライブは、どのような形になるのでしょうか? 完全な外付けタイプでしょうか? それとも中央ブロックの設計変更が必要となりますでしょうか?」
「中央ブロックの設計変更が必要になりますので、設計図の開示をお願いできますか」
「分かりました。近日中にお持ち致します」
設計図開示の判断は、本来なら即答できるような話ではない。だがワープドライブ取り付けに設計変更が必要になるであろう事は、日本政府としても予想の範疇であった。このため設計図の開示については、予め政治判断が下されていたのだった。
そして日本がクレイドル2号機の建造を、早期に開始するつもりである事を確認した晶は、計画を安全に進める為に束と予め相談しておいた話を切り出した。
「ところで役人さんは、今国連で議論されているパワードスーツ関連の技術*3についてはご存じですか?」
「パワードスーツ関連と言いますと、もしかしてエネルギーシールド搭載についてですか? 技術的な事は分かりませんが、弾丸程度なら物理装甲に頼らず防御可能になる技術と伺っています」
「ええ。その認識で間違いありません。そしてクレイドルにはパワードスーツの遠隔操縦システムも搭載されると思いますが、有人で操作しなければならないような場面も出てくると思います。そのような時にパイロットの安全性をより高めるために、束はパワードスーツにエネルギーシールドを搭載する技術を提供しても良いと言っています」
「本当ですか!?」
「ええ。つきましては国連側の説得をお願いしたい」
「博士からの技術提供となれば、恐らく反対する国は無いでしょう」
「とは思うのですが国連で議論している以上、それを無視しては後々厄介事の種になりかねないので」
「確かにそうですね。分かりました。そちらの方はお任せ下さい」
「では、お願いしますね」
こうしてクレイドル2号機の建造計画は進み始めたのだった。
◇
時は進み場所は変わり、10月下旬のIS学園寮。
ラウラ・ボーデヴィッヒは自室のベッドで横になりながら、今更ながらに悩んでいた。
(むぅ………どれが良いのかさっぱり分からん)
タブレットに表示されているページをスクロールさせて内容を見ていくが、今一つピンとこない。
そうして暫し悩んでいると、ルームメイトのシャルロットが買い物から帰ってきた。
「ただいまぁ~」
「お帰り。早かったな」
「うん。欲しい物がすぐに見つかったからね。―――あれ? 何見てるの?」
「いや、な………」
言葉を濁したラウラだが1人で悩んでいても仕方がないと考え直し、同じ男を愛する親友に相談してみる事にした。
「実は下着を買おうと思っているのだが、
「晶ってストライクゾーン広いから、ラウラがそんな姿を見せるだけで、物凄い喜んでくれると思うよ」
「多分そうだとは思うんだが、どうせなら似合ってると言われたいじゃないか。でもどんなのが良いか分からなくてな」
今のラウラはIS学園入学当初の姿、起伏の少ないストーンなまな板体形ではない。3年生も終盤に差し掛かった今では、人並な身長と平均以上の双丘、キュッとしたくびれ、脚部へと続く魅惑的な曲線という極上の美女になっていた。
そんな女性が男に見せる下着に悩む。世の男が知れば血の涙を流して羨ましがるだろう。
「う~ん。なら、こんなのはどうかな」
シャルロットが横からタブレットを操作し、ページを切り替える。表示されたのは白を基調として上品な刺繍の施されたブラとショーツで、ラウラがいつも身につけている飾り気の無いものとは全く違うタイプだった。
「………その、私に似合うだろうか?」
「ラウラで似合わないんだったら、誰も似合う人なんていないって」
大丈夫と太鼓判を押すシャルロットだが、ラウラは何処か心配そうだった。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、う~ん」
即断即決が多いラウラにしては歯切れが悪い。だがシャルロットはこれを良い傾向だと思った。美しく見せたい相手の為に悩むのは、女性として極々真っ当な悩みだからだ。軍人として育てられた彼女にも、ようやくその普通の感性が備わってきた、という事なのだろう。
そしてシャルロットは自分と同じように愛されているラウラを応援したくて、愛する男の性癖を盛大に暴露した。
「そうだ。晶ってガーターベルトとかも大好きだから、それも付けちゃおう」
「そ、そうなのか?」
「うん。ついでに言えばこんなのも――――――」
シャルロットは今まで自分が身につけて喜んでくれたようなデザインをタブレットに表示させた。それを見たラウラの顔が徐々に赤くなっていく。
「ちょっ、流石にこれは………」
「すっごい、喜んでくれたよ」
「ほ、本当か?」
「うん。その夜はね、本当に寝かせてくれなかったんだよ。何回ももうダメって言ってるのに晶ってばハッスルしちゃって」
ラウラはシャルロットが、タブレットに表示されている下着を身につけている姿を想像してみた。同性から見ても色気のある姿だ。そして性欲魔人であるあの男がその姿を見たなら………まぁ、シャルロットの言う通りになるだろう事は想像に難くなかった。
なおラウラが極上の美女になっている事は前述の通りだが、シャルロットは方向性の違う極上の美女になっていた。例えるならラウラは氷のような、或いは鋭利な美女だが、シャルロットは温かみや包容力のある美女だ。
―――閑話休題。
続けられたガールズトークの内容は、とても人様には聞かせられないようなものだった。何せ2人が愛している男は性欲魔人でコスプレ着衣プレイ大好きだが全裸も好きという困ったさんなのだ。肌を重ねた場所も生徒会長室に更衣室に放課後の教室にIS格納庫に保健室、休みの日は学園の外だったりカラードの中でだったりと色々だ。
そうして盛り上がった2人の話題は、この場にはいない欧州3人娘最後の1人、セシリア・オルコットへと移っていった。
「そういえばセシリアの下着はアレだな。もっと肌が透けていたな」
ラウラは体育の授業で着替えた時に見かけた姿や、3人一緒に抱かれた時に彼女が身につけていた下着を思い出しながら言った。
「本人は貴族の嗜みなんて言っているけど、本心はいつ晶に見られても良いようにしているんだと思うよ」
シャルロットとラウラが極上の美女に成長している事は前述の通りだが、セシリアもまた名門貴族当主に相応しい気品と美しさを兼ね備えた極上の美女に成長していた。そんな女性が愛する男の為にセクシーな下着を身につけている――――――世の男が知れば血の涙を流して羨ましがるだろう。
「なら私も、これからはちょっと気をつけるとするかな」
「絶対、凄く喜んでくれると思うよ」
こうしてラウラが着用する下着は、飾り気の無いものからデザイン性のある物へと変わっていったのだった―――。
◇
一方その頃。
カラード本社では来年の大量採用に向けて、本社の増築が急ピッチで行われていた。
本社を多層リングで覆うようなデザイン*4で、一番内側になる第一リングの建物は親衛隊になる3年1組の社員寮、IS格納庫*5、オフィス、
そして社員寮の工事が一段落したと聞いた3年1組の生徒達は、自分達が入居する事になる部屋を見に来ていたのだった。
「すっごぉい。こんな部屋、本当に良いの?」
割り当てられる予定の部屋を見た
「ああ。気に入ってくれたなら嬉しいよ」
「これで気に入らないなんて有り得ないよ。でも良かったの? こんな凄い部屋だったら、随分と高くついたんじゃないの?」
「ここは俺の会社だし、皆には気持ち良く働いてもらいたいからな。このくらいは安いもんさ」
晶がクラスメイト達の為に用意した寮は、世間一般の人間がイメージする寮とはかけ離れていた。各個人の為に用意された部屋は億ションクラスの広さがあり、内装は一人一人の希望を聞いてオーダーメイドされている。更に掃除や洗濯といった家事からも可能な限り解放されるように、お手伝いテックボットが備え付けられていた。そして当然の事であるが、カラード本社内の寮であるので、セキュリティレベルは極めて高い。
まぁぶっちゃけると晶としては、親衛隊であり、かつ自分の手で女にした彼女達をそれなりのところに住まわせてあげたい、という自己満足もあったりする。
そしてクラスメイト達も、晶の思いを受け入れていた。ここは薙原晶の後宮なのだ。
「ありがとう。頑張って働くから、ちゃんと面倒見てね」
「勿論だ」
ハッキリとした返答に嬉しそうな表情を浮かべた相川は、改めて部屋の中を見て回り始めた。
そうして暫しの時間が経った頃、一緒にカラードを訪れ自分達の部屋を見に行っていた、
「晶くん。あんな良い部屋、ありがとう」
「うん。良い部屋だった」
戻って来た2人はそれが当たり前であるかのように、晶に左右から抱きつく。別に盛っている訳ではない。ハウンドのお姉さま方から教えてもらった、単なるスキンシップだ。そして普通の男が美女2人に抱きつかれたら鼻の下を伸ばすかもしれないが、クラスメイト、更識家、義妹達、ハウンドチームetcetcでハーレムを作り上げた男は違っていた。
「喜んでくれて嬉しいよ」
晶はサラッと答えながら、2人の腰に手を回して優しく抱き寄せる。するとその様子を見ていた相川が、晶の背後から抱きつき、柔らかい双丘を押し付けながら言った。
「2人ばっかりズルイと思うんだけど」
「あら、2人っきりの時間があったんだから、その間に押し倒せば良かったじゃない」
相川の可愛い嫉妬に、
「そうそう、
「あかりんもかなりんも、本当に性格変わったよね。それとも元々こういう性格だったのかな?」
「色々あったからね」
そうして3人が子猫のように晶に甘えていると、他の部屋を見に行っていたクラスメイト達が戻ってきたようだった。足音が近づいてくる。
この時あかりんの脳裏に、ふとピンク色な考えが過ぎった。せっかく
そう思い晶から離れると、かなりんと相川も離れた。2人とも同じように考えたのかもしれない。
そうして皆が戻って来たところで、晶は専用施設となるIS格納庫、
第170話に続く
晶くん。ついにクラスの女の子ほぼ全員(箒と鈴以外)をパクッとしちゃいました。
これで関係を持ったのは正妻の束さんを筆頭に、更識姉妹&更識家使用人全員、欧州三人娘、セッシーのメイド2人、シャルの側近になる予定の子1人、クラスの皆、義妹達、ハウンドチームの面々etcetcと大変な人数になりましたが、強化人間な晶くんは体力お化けなので、ちゃんと皆を愛しているようです。
なお健全な青少年諸君には全く関係無い事かもしれませんが、ラウラさんは今回の下着の一件から、何故か下着の見せ方(相手は晶限定)に興味を持ち始め、結果として“チラリズム”という、対男性用の究極技法を身に着けていくのでした。ちゃんちゃん。