インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
この艦隊行動は第1艦隊と第2艦隊でアンサラー1号機と2号機を牽制している間に、第3艦隊で
これは幾つかの理由から、地球側にとって最もとって欲しくない行動の1つであった。
1つ目の理由は第1艦隊と第2艦隊の牽制により、アンサラーから移動の自由が奪われてしまうこと。仮にアンサラーを他への救援の為に動かせば、背後の地球が狙われてしまう。
2つ目の理由は第3艦隊に搭載されている降下船を、地球各地にばら撒くこと。第一次来襲時、地球側はたった4隻の降下船を排除するのに、50万人を超える死者を出した。そして第3艦隊には第一次来襲時に来た艦と同型艦が12隻あり、1艦あたり12隻の降下船を搭載している。つまり単純計算で144隻の降下船が地球全土にばら撒かれるのだ。地球側の被害は、途轍もないものになるだろう。
3つ目の理由は北米大陸に強行着陸された場合、地球の丸みが盾となりアンサラー1号機と2号機から、第3艦隊を直接照準できないこと。直接照準可能な位置に移動した場合、背後にある地球は第1艦隊と第2艦隊の艦砲射撃に晒されるだろう。
これに対し迎撃に動いた晶は、敵の意図を読み利用する事とした。アンサラー1号機と2号機を牽制する為に艦隊を分けたという事は、逆を言えば2個艦隊をアンサラー側に貼り付けにできるということだ。割ける戦力が無いという事情もあったが、敵戦力の2/3を貼り付けにできるというのは大きかった。お陰で、第3艦隊に迎撃戦力を集中できる。
そんな事を思いながら、晶は一緒に
4段構えの作戦で、フェイズ1が
(―――作戦説明は以上だ。何か質問は?)
(ではまず私から。フェイズ1の砲撃戦だが、どの程度の効果を見込める?)
一番初めに質問してきたのはラウラだった。
(敵が回避運動を取らない案山子なら、砲撃戦だけで方が付くだろう。だが敵も撃ってくるだろうし、回避運動もとるだろう事を考えると、どれだけ撃破出来るかは分からない)
(砲撃戦だけでは済まなさそうということだな)
(そういうことだ)
(じゃあ次は俺が。フェイズ2で使うって言ってた
次に質問してきたのは一夏だ。
(NEXTが持つ最終兵器の1つと思ってくれれば良い。いや、戦闘中に見て腰を抜かされても困るか。今、どんなものか言っておこう。着弾地点から任意の範囲を空間的に隔離して、内部で純粋水爆弾頭を炸裂させる兵器だ。最大効果範囲は直径約20キロ。中心点の最高到達温度は約4兆℃。それでいて効果範囲外には一切の影響を及ぼさない殲滅兵器。それが
どう考えても大量破壊兵器だろう。だから一夏は皆に聞かせるために、あえて次の質問をぶつけた。
(束博士は、どうしてそんなものを作っていたんだ?)
(
今の返答が他の人間から出た言葉だったなら、この場にいる他の面々から、一個人が大量破壊兵器のトリガーを持つ危険性を指摘されただろう。だが
2人の働きがなければ人類は第一次来襲を乗り越えられず、地球は終わっていたかもしれないのだ。
(なるほど)
一夏が肯くと、今度はシャルロットが尋ねた。
(
(可能か不可能かで言えば可能だが、恐らく1発目を撃った後は俺に火力が集中するはずだ。すんなりと2発目を撃たせてはくれないだろう)
(でも逆を言えば、撃たせる事ができれば艦隊に大ダメージを与えられるっていうことだね)
(ああ。状況次第で、いつでも狙っていく)
続いてセシリアが質問してきた。
(フェイズ1で使うシールド衛星ですが、どれくらいの防御力を見込めるのですか?)
(計算上、第一次来襲時の砲撃*1を10発程度なら防げる。だがこっちのシールド衛星は6機、相手は13隻と数で負けているんだ。向こうの連射性能次第では、あっという間に突破されるかもしれない。そしてもう1つ、アレには弱点がある)
(弱点、ですか?)
(ああ。シールド衛星と攻撃衛星は、アンサラー1号機と2号機からのエネルギー供給を前提としているんだ。だから1号機と2号機側の状況次第ではエネルギー供給量が落ちて、十分な性能を発揮できない可能性がある)
(分かりましたわ。相手の懐に如何に素早く飛び込んで攪乱できるかが、勝敗を分けそうですわね)
(そうだな)
こうして晶は一緒に
◇
時間は少しだけ遡り、アメリカが単独運用している宇宙軍事基地スター・オブ・アメリカ。
リアクターの出力不足でエネルギーシールドを常時展開できない同基地は、中国のクーデターで使用された対衛星兵器群の影響で、深刻な機能障害に陥っていた。
多数の衛星が破壊された事でケスラーシンドローム*2が起き、デブリがシールド稼働時間を越えて基地に衝突し続けた結果、構造的に脆弱な外部アンテナやカメラだけでなく、バイタルパートや格納庫という重要区画にまで被害が及んでいたのだ。
そこに束博士から、
『―――以上が現状だよ。そちらが今大変な状況なのは、こちらでもモニターしている。だけど地球を護る為に、戦力を出せるなら出して欲しい』
基地を代表して、司令が返答した。
『何を仰いますか。
基地の中から一斉に『Yes、Sir!!』という返事が聞こえてきた。
『お聞きになった通りです』
『頼もしいね。なら遠慮なく、頭数に数えさせてもらうよ』
『はい。アメリカ宇宙軍IS部隊の力、篤とご覧下さい』
こうして束博士との通信を終えた基地司令は、皆に告げた。
『基地機能の復旧は後回しで構わん。最優先でIS部隊の発進準備を整えろ。この大一番に遅れるなど許されんぞ!!』
再度『Yes、Sir!!』という返事が響き渡ると、外部隔壁が破れ真空となっている格納庫で、IS部隊の発進準備が行われ始めた。
パワードスーツを着用しているメカニックが、専用機を展開したISパイロットに通信を入れる。
『1番から3番ブースターは損傷が激しくて使えそうにありません。4番から6番ブースターはチェックOK。使えます』
『なら4番を私に回して。5番を02に、6番を03に。武装の方はどう?』
『チェック中ですが、恐らく使えるのは3割程度かと』
『基地の被害を考えれば、3割もと考えるべきでしょうね』
格納庫の隔壁に穴が開き、バイタルパートにまで被害が及んでいるのだ。使える武装が残っているだけでも僥倖だろう。
別のメカニックから通信が入った。
『積載に余裕ありますけど、アレは持って行きますか?』
『アレって?』
『アレですアレ』
指差された格納庫の片隅に視線を向けると、「KO-4H/JIFEI」と刻印された武器ケースがあった。確か
『………まぁ、あんなものでも無いよりはマシでしょう。積んでいくわ』
『了解です』
こうしてIS部隊の発進準備が進められていく一方で、基地司令は基地の破棄を決断していた。予測される第二次派遣艦隊の火力を考えれば、人員を残したところで役に立つとは考えられなかったからだ。このためIS部隊出撃後、非戦闘員はシャトルで地球へと退避する事になったのだった。
◇
そうして時は進み、
―――フェイズ1。
6機の攻撃衛星から放たれた光の奔流が矢のように奔り、
これに第3艦隊は即座に反応し、巧みな艦隊運動で回避。お返しとばかりに放たれた無数の閃光が、攻撃衛星へと迫る。だがこの攻撃は、6機のシールド衛星が持つ空間湾曲シールドによって、あらぬ方向へと捻じ曲げられていった。続いて行われた第2射も、結果は変わらない。一見すると互角の殴り合いだ。
しかし状況をモニターしている束は不利を悟っていた。同時刻にアンサラー1号機と2号機が敵艦隊と戦闘に入った事でエネルギー消費量が増えたため、攻撃衛星とシールド衛星へのエネルギー供給量が落ち始めたのだ。このままだと遠からず、エネルギー供給が追いつかなくなるだろう。
サイドモニターに視線を移せば、
束は瞬時に思考を巡らせた。
攻撃衛星へのエネルギー供給量を減らして、シールド衛星へのエネルギー供給量を確保するべきだろうか? 駄目だろう。フェイズ1で第3艦隊の数をある程度減らしておかないと、接近するIS部隊が濃密な対空砲火に晒される危険性が高い。ならばシールド衛星へのエネルギー供給量を減らして、攻撃衛星へのエネルギー供給量を確保するべきだろうか? 戦局のみを考えるならありだろう。だが敵の攻撃から計測されているエネルギー反応は、オリジナル・ヒュージキャノンのおよそ1万倍。
迷う束に、晶からコアネットワーク通信が入った。
(束。シールド衛星へのエネルギー供給を優先してくれ)
(でもそれだと!!)
(数を減らすのは
(良いんだね? IS部隊の危険度は跳ね上がるよ)
(構わない。やってくれ。――――――全員、やれるな?)
否と言う者は1人もいなかった。この場にいる面々は、質を量で圧殺する対巨大兵器、対アームズ・フォート戦の訓練を積んでいる者達ばかりなのだ。相手が巨大だからといって、必要以上に恐れたりはしない。そして初見で相手の事が分からないというのなら、戦いながら情報を集めれば良いだけの話なのだ。
(よし。なら、行くぞ!!)
―――フェイズ2。
晶は
そして起動すると砲身が展開され、専用エネルギーユニットによって生み出された莫大なエネルギーが、弾頭を励起状態へと移行させていく。
これに敵艦隊は即座に反応した。各部装甲板が展開されてレンズ状のものが露出。総計で2500に迫ろうというレーザーが放たれる。
だが晶は焦らなかった。
(一夏!!)
(任せろ!!)
射線上に割り込んだ一夏が、左腕の雪羅を起動。零落白夜*3のバリアシールドを展開して、晶へと届くはずだった全てのレーザーを消滅させる。
この結果は幾多の戦闘経験を持つ敵の統括AIをして、有り得ないものだった。
たった二メートル程度の一個体が、副砲とはいえ艦隊のレーザー攻撃を防いだのだ。
続いて行われた第二、第三射でも結果は変わらない。
そして一夏が稼いだ時間を、晶は無駄にしなかった。
爆発座標を敵円錐陣形の中央に、隔離する空間を直径20キロにセット。これで巻き込めるのは8隻。
―――トリガー。
瞬間、太陽が出現した。
純粋水爆弾頭が炸裂し、発生した超高熱が空間の檻という閉鎖空間で荒れ狂う。普通の兵器なら、直径20キロの檻があったところで、威力が増幅されたりはしない。しかし
中心点の最高到達温度は約4兆度。あらゆる物質の存在が許されない灼熱地獄で、巻き込まれた敵に出来る事など何も無い。大きさも、耐久力も、何もかもが関係無く、全てが等しく無へと帰っていく。
だがこれで決着ではなかった。人間が相手だったなら、あらゆる物質の存在を許さない超破壊力の前に心が折れ、終わっていただろう。しかし
すみやかに脅威度判定の更新と対応策が検討され、次の一手が打たれる。
第3艦隊の残存艦5隻は、
20メートル程度の“ドラゴン”型。後にレクイエム級と呼称されるタイプで、エネルギー反応は巨大兵器と同等レベル。それが15体。
50メートルを超える“樹”型。後にエンドオブシーン級と呼称されるタイプで、エネルギー反応は巨大兵器の十数倍。それが5体。
これに加え4メートル程度の“ハチ”型1000体が、IS部隊接近前に展開を終えていた。
(流石に一方的には殴らせてくれないか)
晶は敵のレーザー攻撃を掻い潜りながら呟き、次いで皆に指示を出した。
(俺がこのまま囮になる。皆は小型種を削ってくれ。深入りし過ぎて囲まれるなよ。あと箒、状況をみて一夏に補給*5を頼む)
零落白夜はシールドエネルギーを消費して相手のエネルギーを消滅させる諸刃の剣なのだ。そして戦闘データリンクで白式・雪羅のエネルギー残量を確認してみれば、既に危険域に入っている。可能ならすぐにでも補給させたい。だが一夏は今、敵の攻撃を掻い潜っている最中だ。無理に補給させれば撃墜されてしまう。
(分かった)
箒の返事を聞いた晶は第3艦隊からのレーザー攻撃を回避しながら、
→R ARM UNIT :
→L ARM UNIT :
→R BACK UNIT :
→L BACK UNIT :
→SHOULDER UNIT :
右腕に呼び出されたHLR01-CANOPUSは、かの名銃「カラサワ」をアーマードコアネクスト規格で作り直したというハイレーザーライフルだ。威力・弾速・精度・リロード性能の全てが高次元で纏まっている。
左腕に呼び出されたEB-R500は、レーザーブレードに盾としての機能が付加された複合兵装*6で、武器としても防具としても使える優れものだ。
右背部に呼び出された061ANRは、司令機用レーダーとして索敵距離と対ECM性能が極限まで高められている。
左背部と肩部に呼び出された多連装ミサイルのWHEELING01とMUSKINGUM02は、多数を相手取るのに役立つだろう。
そうして
―――フェイズ3。
攻撃の初手は単体戦略兵器、ブルーティアーズ・レイストーム*7を駆るセシリアだった。ハイパーセンサーにより拡大された知覚が、作戦領域にいる敵を残らず捉える。連動したFCSが“ハチ”型の小型種をロックオン。
(さぁ、いきますわよ!!)
放たれた無数のレーザーが“レイストーム”の名の如く、光の嵐となって“ハチ”型の小型種に襲いかかり、100を超える数が瞬く間に撃墜されていく。
だが敵も黙って撃たれる案山子ではなかった。
敵の統括AIは地球側戦力の脅威度判定を再更新して、セシリアを牽制するために、NEXTと白式・雪羅に向けていたレーザー攻撃の一部を振り分けたのだ。しかしセシリアの攻撃は止まらない。有機的な
これに対抗するため、敵の統括AIは次の一手を打った。
“ドラゴン”型3体をセシリアへと差し向け、爪による斬撃、牙による噛みつき、尻尾による打撃、といった近接格闘戦を執拗に仕掛ける事で、圧力をかけて遠距離攻撃を封じてきたのだ。
これに加え“ドラゴン”型の残り12体は口を大きく開けて、口腔内に巨大なプラズマスフィアを形成。急速に高まるエネルギー反応。
(全機散開!!)
第3艦隊のレーザー攻撃を避けながらも戦域全体を見ていた晶の命令に、全機が一斉に反応した。
直後、12本の極太プラズマブレスが戦域全体を薙ぎ払っていく。
並のパイロットなら萎縮してしまうであろう圧倒的な光景だが、対巨大兵器戦の訓練を十分に積んできた面々にとっては、行動を起こす絶好のチャンスであった。荒れ狂うプラズマの奔流がIS部隊の姿を覆い隠し、第3艦隊からの攻撃が数瞬途絶えたのだ。
まず箒が一夏に接触して、乗機である紅椿の単一仕様能力、絢爛舞踏で白式・雪羅のシールドエネルギーを最大まで回復させる。
ほぼ同時にラウラが
だがまだ、敵のシールドは破れない。20メートル級という巨体が持つシールドは、それだけ強力なのだ。しかしこの場にいるのは、晶の直弟子達だけではない。
束直属の人造人間である
ここでハウンドチームの面々は、猟犬の如く弱った獲物を見逃さなかった。更なる攻撃を叩き込み物理装甲をブチ抜き、動力炉にまでダメージを与えて爆散させる。
だが、喜ぶ者はいない。
(………硬いわね)
ハウンドチームの1人が呟いた言葉は、皆の思いと同じだった。あれだけの集中攻撃を加えて、やっと1体なのだ。同型があと14体もいて、十数倍のエネルギー反応を示す“樹”型が5体いる。“ハチ”型の小型種に至っては800体近くだ。
そして“ドラゴン”型を墜とされた統括AIは、地球側戦力の脅威度判定を再更新して、次なる一手を打った。
NEXT、白式・雪羅、ブルーティアーズ・レイストームを総計で1000に届こうかというレーザー攻撃で牽制しつつ、艦隊の前進に合わせて“ドラゴン”型と“樹”型を前面へと展開。IS部隊に全戦力を用いて圧力をかけ始めたのだった。
◇
場所は変わり、クレイドルから出発したIS部隊。総勢21名に及ぶ大部隊は、戦闘宙域まで後少しの所まで来ていた。
(リング01より各機へ。準備は良い?)
戦闘データリンクに表示されている各機のステータスはオールグリーンだ。否、などという返事があろうはずもない。全員からの返事を聞いた後、
(良いみたいね。そして皆戦闘データリンクで知っていると思うけど、改めて言うわよ。NEXT一行は敵艦隊を8隻沈めているけど、敵機動兵器との乱戦に持ち込まれて苦戦中よ。私達はそこに突っ込むわ。もう一回言うわよ。あのNEXT一行が苦戦しているところに駆け付けて、横合いから敵を思いっきり殴りつけるの。考え得る限り最高の登場シチュエーションよ。気張りなさい!!)
(Yes、ma'am!!)
高い士気を裏付けるかのような返答に、リング01は続けて言った。
(奴らを決して地球に入れる訳にはいかない。必ずここで止めるわよ!!)
(Yes、ma'am!!)
(まずは20メートル級の数を減らすわ。“ドラゴン”型1体に対して、7機でブースターアタック*8。その後は先行している部隊と一緒に残りを叩いていくわ)
(04から01へ。質問良いかしら)
(構わない)
(1体に対して7機は多くないかしら?)
(アップロードされた戦闘情報を見るに、20メートル級は攻撃力、防御力、機動力のいずれも巨大兵器を上回っているわ。攻撃力と防御力に至ってはアームズ・フォート級と思っても良いかもしれない。だから確実に、敵の戦力を削る事を優先します)
(了解)
(他に質問のある者はいるかしら? ――――――いないのなら、行くわよ!!)
(Yes、ma'am!!)
戦闘データリンクを通じて各機に目標が指示され、全機が軌道調整。突入コースへと乗ったのだった。
◇
(NEXTから全機へ。クレイドルからの増援が来るぞ。初手はブースターアタックだ。各機、“ドラゴン”型を可能な限りその場に釘付けにしろ)
戦闘データリンクのデータ共有で各機の視界にターゲットが表示され、カウントダウンが開始される。
一夏が、箒が、シャルロットが、ラウラが、簪が、鈴が、ラナが、ハウンドチームの3人が、カラード戦闘部門の4パイロットが、各々の力の限りを尽くして攻勢に出る。
だが統括AIはこれまで幾多の星々で戦ってきた戦闘経験から、攻勢の意図を正確に推測していた。
“樹”型が増援部隊突入方向に移動し、人類の感覚で言う枝の先端に相当する部分が発光する。その数、数百。
エネルギー反応を検知。晶が叫んだ。
(増援部隊散開しろ!! 狙われてるぞ!!!!)
直後、発光した数百という部分全てからレーザー攻撃が行われた。煌めく光の奔流が、増援部隊に襲いかかる。
並のパイロット達であれば、これで終わりだっただろう。実際増援部隊の2/3は、回避のため突入コースからの離脱を余儀なくされた。だが残り1/3の7名は、晶が行った教導で本物の対アームズ・フォート戦を経験している精鋭中の精鋭だ。数百のレーザー? アームズ・フォートの逃げ場の無い面制圧と同じくらいだろう。一撃で墜とされないのであれば、どうとでもなる!!
7名は盾を構えながらバレルロール。最小限の被弾で第1射を突破、続く第2射で盾を使い捨て、第3射をサイドブーストで避わし、第4射を
爆光が煌めき、宇宙にそびえ立つ5体の“樹”型の内の1体が揺らぐ。だが墜ちはしなかった。これから反撃――――――と敵の統括AIが考えたところで、一夏が動いた。
NEXTを除けば最速という白式・雪羅の化け物じみた加速力で艦隊のレーザー攻撃を振り切り、ダメージを負った“樹”型の左側から接近。根に相当する部分の触手が一夏を掴もうとするが、白式・雪羅の方が速い。右手に持つ雪片弐型をすれ違いざまに振り抜き、
そして晶がこれに合わせた。
ここで一気に攻勢に出たいのが地球側戦力の心情であったが、敵も甘くはなかった。
統括AIはNEXTと白式・雪羅の脅威度判定を更に引き上げ、2機に艦隊のレーザー攻撃だけでなく、それぞれに“樹”型を2体ずつを割り当て、更なる圧力をかけてきたのだ。常時500を超えるレーザー攻撃に晒された2人は、回避機動を余儀なくされる。足を止めれば撃墜必至の集中砲火だ。他を狙う暇など、あろうはずも無い。
またブルーティアーズ・レイストームにも第3艦隊から数百に及ぶレーザー攻撃が加えられ、更に再度“ドラゴン”型が3体差し向けられていた。物量を質で擦り潰す理不尽を、統括AIは脅威と判断したのだ。
ここでラウラは考えた。
敵の注意は明らかに、NEXT、白式・雪羅、ブルーティアーズ・レイストームに向いている。裏を返せば、他の面子はそれほど脅威とは思っていないということだ。
ならば横っ面をひっぱたいて、こちらに注意を向けさせるのが戦場の正しい作法だろう。
そして軍人らしい冷静な思考で、戦力を比較していく。
まずこちらで自由に動けるのは、
更に数瞬の思考を行ったラウラは、皆に言った。
(ラウラから各機へ。提案だ。“ドラゴン”型へは3対1で当たろう。人数が多いので即席チームになるところもあるが、この場にいる面子なら問題あるまい。そして残った1人は全力で“ハチ”型を削っていく。どうだ?
(誰が“ハチ”型を削っていく? 状況的に殲滅速度が求められるぞ)
質問してきたのは、束直属の人造人間であるラナ・ニールセンだった。
(私としては最も多い武装を持つシャルロットが適任だと思う)
(分かった。僕がやるね)
(決まりだ。では、始めるぞ!!)
押さえ込まれている晶に代わり、ラウラが副官として号令を下す。
こうして地球側戦力と
◇
一方その頃、地球にいる束は険しい表情をしていた。
(でも、どうすれば!!)
迷う束。スーパーマイクロウェーブで送信可能なエネルギーの残量を確認してみれば、後2回が限度だ。
時間は有限。迷っている時間すら惜しい。早く艦隊をどうにかしなければならない。だが良い手が思いつかない。戦闘データリンクで晶の動きを見てみれば、集中攻撃を受けて完全に押さえ込まれている。
(このままじゃ、晶が!!)
そう思った時、彼女は閃いた。
彼女は閃きのままにコンソールを操作しながら、晶に呼びかけた。
(晶!! “樹”型をこっちで狙う。射線上から退避して!!)
(分かった。全機散開。射線上から退避!!)
各機の視覚情報に攻撃衛星からの射線情報が表示され、一斉に退避していく。
直後、束はコンソールのエンターキーを押した。
スーパーマイクロウェーブによって攻撃衛星にエネルギーが充填され、更に次の瞬間には破滅の光となって、NEXTを牽制していた2体の“樹”型を呑み込んでいく。これで“樹”型は残り2体。
ここが分水嶺と直感した晶は、まずは味方の立て直しを図ることにした。
2体の“樹”型に囲まれている一夏の元に向かいながら、
(一夏!!)
叫び声に反応した一夏が、阿吽の呼吸で
次いで返す刀で、セシリアを取り囲んでいた“ドラゴン”型が切り捨てられる。
そしてセシリアが自由に動けるなら、“ハチ”型小型種の800などと言う数は恐れるに値しない。NEXTに次ぐ単体戦略兵器、“レイストーム”の名の如く、光の嵐が蹂躙していく。
(NEXTから各機へ。このまま一気に押し切るぞ!!)
こうして勢いに乗った地球側戦力は攻勢を強めていった。またこのタイミングで、アメリカ宇宙軍IS部隊が戦域に到着。
そして第1艦隊と第2艦隊はアンサラーとの戦闘で被害を出しながらも、地球の防衛網を迂回する形で、240隻の降下船と総計80体の大型種*9を射出していたのだった――――――。
第163話に続く
次回は地上戦!!
各国には頑張って欲しいところですが、衛星ネットワークが対衛星兵器群のお陰で使えなくなっているというデバフがかかっております。
さて、どれくらいの被害が出ることやら………。