インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~ 作:S-MIST
2人の名前がタイトルですが、ハウンドさんの方が登場シーン多いです。
3年生になる前の春休み。
晶はカラードの社長室で、専用機持ちとなったクラスメイト達に、簡単なミッションを受けさせようと考えていた。
訓練は十分に行っているが、やはり現場の雰囲気は現場に出なければ分からない。無論、全員に同じミッションを受けさせる事など出来ないので、数人ずつで複数回に分けてとなる。
(初心者なんだから、小難しいミッションは駄目だよな。あっさりと、簡単に終わるくらいが丁度良いんだが………)
社長用の椅子に深く腰掛けた彼の前には、空間ウインドウが展開されていた。表示されているのは、“
どれもこれも、初心者が行うにはちょっと難易度が高い。
(こういう時に限って良いのが無いんだよなぁ)
なんとなく天井を見上げて考え続けていると、直属の部下の1人である
蒼い瞳に清楚とも言える顔立ち、背中を艶やかに流れるストレートブロンド。お嬢様とも言える雰囲気を持つが、ハウンドチームの中では一番の腹黒さんである。*1
「どうぞ」
「ありがとう」
デスクに置かれたコーヒーカップを、晶が手に取り一口飲む。
「おや? 豆変えた?」
「はい。新しいのを買ったので使ってみました。如何ですか?」
ネージュは晶にコーヒーを出す時、手引きのコーヒーミルで豆から挽いて淹れていた。*2
コーヒー好きというので、美味しいのを飲んで欲しくてだ。
「うん。美味いな」
短い返答の後、もう一口。
彼女は心のメモに、「今日の豆は好感触!!」と書き加えた。
勿論出す前に味見はしていたが、やはり本人の好みというのがある。
「良かったです。ところで、何をしていたのですか?」
ネージュは空間ウインドウのミッション一覧を見て尋ねた。
まさか、
「ん? ああ、そろそろクラスメイトに何かミッションを受けさせようと思ったんだけど、丁度良いのが無くてね」
「そうでしたか。では、私達の賞金首狩りに同行させてはどうでしょうか。狙う賞金首のランクを少し落とせば、丁度良い難易度になるでしょう」
「まぁ、それでも良いか。なら………そうだな。まずは
「分かりました。彼女達について、何か注意点はありますか?」
「多分大丈夫だと思うけど、前の事件の件があるから暴走に注意かな。現場の様子を見て感情的にならないとも限らない」
「なるほど。あり得る話ですね。でも私達と同じ賞金首狩りになりたいなら、その程度の感情は御してもらわないと」
「そこも含めて見てやってくれ」
「はい」
返答したネージュは、続けて仮定の話を尋ねた。
「もし適性があるようなら、希望を叶えてあげるおつもりですか?」
「可能な限り叶えてやりたいと思ってる。だけどいきなりは無理だ。だってそうだろう。お前達が猟犬足り得るのは、戦闘力以外にも、相手を追う嗅覚を持っているからだ。今の彼女達にはそれが無い。何処かで下積みをさせないと、とてもじゃないけど出来ないよ。だから多分警察関連に協力させて、相手を追う方法を学んで貰う事になるかな」
「先は長そうですね」
「先輩として、色々教えてあげたりするのかな?」
「まさか。私達は社長の猟犬であって教師ではありません。偶々縁があってちょっとした基本は教えましたが、それ以上を教える気はありませんよ」
「なるほど。なら極々基本的な事を体験させてやってくれ。どんな狩りに連れていくのかも任せる」
「はい。任されました」
この時点でネージュは、コアネットワークでエリザとユーリアに話を伝えていた。社長が困っていたので発案は勝手に行ったが、チームに初心者という異物を入れて動くなら、話を通しておくのが筋だからだ。
因みに2人の返答は―――。
(あの2人? いいわよ)
(どんな姿を見せてくれるのか楽しみね)
前者の素っ気ないのがチームリーダーのエリザで、後者の興味本位なのがユーリアだ。
「なら俺から2人にミッションがあるとだけ話しておくから、詳しく決まったら連絡してやってくれ」
「了解しました」
こうして
◇
2日後。
カラードの制服が貸し与えられ、壁際に備え付けられている折り畳み式簡易シートに座っている。
周囲を見渡せば、実戦仕様のガンヘッドやパワードスーツが固定されていた。ハウンドチームが使う無人機仕様の小道具だ。
そんな中で、2人は話し始めた。
「ねぇあかりん」
「なぁにかなりん」
「機体を与えられた時、今後ミッションに参加する事もあるって言ってたけど、こういう形は予想してなかったね」
ハウンドチームがメインターゲットとしているのは、世界中の警察が手を焼く高額賞金首だ。必然的に難易度は高い。事前の説明では2人の為にかなり難易度を落としたと言っていたが、ハウンドの簡単は初心者にとって無理難題と同じではないだろうか? 緊張からか、マイナス思考が何度も脳裏を過ってしまう。
「うん。確かにこれは予想してなかった。でもさ、ちょっと前向きに考えてみようよ」
「どんな風に?」
「晶くんが訓練でやってた鬼畜ミッションと比べれば、流石にアレ以上は無いでしょ」
指折りしながら
「え~と、一、事前情報を信用し過ぎるとロクな事がない。二、増援は一回じゃない。倒してちょっと安心して気持ちが切れたところにダメ押ししてくる。三、作戦領域にシレッと仕掛けられているトラップ。四、こっそり仕掛けられているスナイパー。終わったと思った瞬間に狙撃してくるとか最低。五、第三勢力が介入してきてごっちゃごちゃになる。六、………あとなにかあったっけ?」
「大事なこと忘れてるよ。ミッションそのものが呼び出し目的の騙して悪いが」
「それ、流石に今回は大丈夫だよね?」
「多分」
「だよねぇ」
晶の口癖は、「現場に絶対は無い」であった。
だから倒せる敵は速やかに倒し、確保できるものは速やかに確保し、トラブルの原因となり得るものを可能な限り速やかに潰していく。
そんな彼が主催する放課後の訓練に参加している彼女達は、極々自然に装備や事前情報の確認を始めていた。
まずは装備だ。眼前に空間ウインドウを展開し、自機の機体情報を表示させて自己診断プログラムをロード。
―――Status Window―――
機体名称 :打鉄-改-*4
使用コア :第二世代
パイロット:赤坂由香里
R ARM UNIT :マシンガン
L ARM UNIT :日本刀型超高振動ブレード
R BACK UNIT :レーダー
L BACK UNIT :スラッグガン
EXTENTION :緊急旋回用ブースター
備考
特記事項なし。
―――Status Window―――
赤坂由香里の機体は近距離戦を主眼において調整されており、外見こそノーマルな打鉄だが、素早く接近する為に内装系が強化されていた。
―――Status Window―――
機体名称 :未登録*5
使用コア :第二世代
パイロット:宮白加奈
R ARM UNIT :アサルトライフル
L ARM UNIT :レーザーライフル
R BACK UNIT :多連装ミサイル
L BACK UNIT :グレネードランチャー
EXTENTION :実体シールド
備考
特記事項なし。
―――Status Window―――
宮白加奈の機体は打鉄をベースとして、腕部がラファールに変更されたキメラ機体となっていた。これは打鉄の安定性とラファールの射撃反動制御が、射撃戦主体の武装構成にマッチしたためだ。
因みに2機の機体色は別々で統一されていない。一時期クラスで統一しようという話もあったのだが、元々いた専用機持ち*6が全員パーソナルカラーを持っていた為、「私達も欲しい」という意見が出て、更に「連帯感は卒業したら皆カラードの制服を着るんだし、そっちで良くないかな?」となったため、機体のカラーリングは個人個人の裁量に任されるようになっていた。
このため赤坂由香里は真紅を基調とした派手なものを選び、宮白加奈は蒼を基調とした落ち着いたものを選んでいた。
―――閑話休題。
自己診断プログラム終了後、互いの機体構成も確認しておく。一緒にいる事が多いので概ね把握しているが、コンビで動くなら互いの手札を確認しておいて悪い事は何も無い。
次いで行うのは、事前情報の確認だ。
空間ウインドウの表示内容を、事前に貰った情報に切り替える。
―――事前情報―――
情報提供者
ICPO
提供情報
賞金首がシンガポールで麻薬取引を行っているとの情報
を入手した。
賞金額はハウンドチームにしてみれば小物だが、大物に
繋がっている可能性がある。
このため、可能であれば確保をお願いしたい。
そちらがいつも狙っているような大物では無いため、何
かのついでで構わない。
備考1
ターゲットの顔写真及び添付情報。
備考2
ハウンドチームから初心者2人へ。
提供情報には目を通したわね?
ターゲットが運んできた
ではこちらで調べたから、現場に現れたところを確保し
なさい。
でもこれだけだと出来て当然だから、より良い結果には
ボーナスを設定しているわ。
何がボーナスかは、自分達で考えなさい。
じゃあね。
作戦領域
国 :シンガポール
場所:シンガポール港*7のコンテナ保管ブロック
開始時刻(現地時間)
23:00
戦力情報
賞金首の手勢が10人程度。
取引相手のマフィアAが10人程度。
武装は精々アサルトライフルに手榴弾程度。
―――事前情報―――
「………ボーナスってなんだろうね?」
あかりんの疑問に、かなりんが少し前の記憶を掘り起こして答えた。
「う~ん。あ、そう言えば前さ、ユーリアさんが次に繋がるものを探すと良いって言ってた」
「次に? もしかして、他の犯罪の証拠ってことかな? それならターゲット以外も引っ張れるよね」
「多分そういう事じゃないかな」
「ならこの場合だと、どんなものかな? ………あ、スマホとか? 連絡取る時に使ってるだろうし、着歴とか番号が分かれば、関係者は追いやすくなるんじゃないかな」
「そうだけど、もう少し決定的なのが欲しいよね。タブレットとかノートPCとか、その辺りがあればなお良いのかな」
「あ、なるほど」
こうして話し合っていると、2人のいるカーゴルームにユーリアが入ってきた。
腰まである燃えるような赤髪と勝気な瞳が印象的な女性で、
作戦領域が近いせいか既にISスーツ姿で、黒を基調としたハイレグタイプだ。胸元や背中の布地は大胆にカットされていて、かなり攻めたデザインだがスタイルの良い彼女には良く似合っていた。
「さて2人とも、準備は良い? まぁ、良くないって言っても放り出すんだけどね」
言い終えるなり、ユーリアは後部ハッチの開閉スイッチを押した。
外気が流入し、輸送機のエンジン音が直接聞こえてくる。
「一応私も一緒に行くけど、基本手は出さないから。まさかこの程度で、手こずったりはしないわよね?」
「も、勿論です」
「当然です!!」
初の狩りで緊張しているのだろう。
返答とは裏腹に、声には緊張感が感じられた。だが中止は無い。
賞金額としては大したものではないが、ターゲットは立派な犯罪者だ。逃す理由にはならない。
「結構。じゃあ、行ってらっしゃい。私は2人が降りてからゆっくり降りるから」
すると
今いるのは高度1万メートルという上空だ。一般的な感覚が残っているのなら、躊躇してもおかしくはないのだが………。
(意外と肝が据わってるのね)
そんな事を思いつつユーリアもISを展開*8し、輸送機から飛び降りた。だが今回は基本的に見ているだけなので、ゆっくりと降りていく。対して彼女らは、落下速度にブースターの加速力を加え一気に降下していた。
(動きに迷いが無いわね。もしかして社長。こういうシチュエーションの訓練もやってたのかしら?)
データリンクでセンサー情報を共有しているユーリアは、2人の動きを見て素直に感心していた。
ISのセンサー系なら、例え遥かな上空からだろうが、夜の闇の中だろうが、地形の把握など一瞬だ。2人は降下中にしっかりと作戦領域をスキャンし、港の様子を確認。巨大なコンテナが両脇に積み上げられた通路で、向かい合う一団があった。近くに他の人影は無い。数は共に10人。片方にターゲットが混じっている。コアネットワークで瞬時に意見交換が行われ、赤坂由香里がマフィアAの10人を、宮白加奈がターゲット及び手勢の10人を狙う事になった。
―――トリガー。
予め装填されていた非殺傷性弾頭が、犯罪者共に直上から降り注ぐ。
生身の人間に防げるはずも無い完璧な奇襲だ。完全制圧まで5秒と掛かっていない。当然の結果だ。だからハウンドの面々が見たいのは、この後の行動だった。ターゲット以外の賞金首に繋がる情報を得られたなら、及第点を与えても良いだろう。
だがユーリアを含め、ハウンドの面々は難しいと思っていた。
カーゴルームで話していた着眼点は悪くなかったが、彼女らは「誰がどうやって情報を抜き出すのか」というところまで考えが及んでいなかった。自分達で情報を抜き出せないなら、抜き出せる人間を確保しておかなければならない。これが出来るか出来ないかで、次のアクションを起こすまでの時間が決定的に違うのだ。
(まぁ、初心者にこれを求めるのは酷よね)
暴力で口を割らせるという方法もあるが、彼女達には無理だろう。
つまりターゲットを確保するだけで、今回は終わりということだ。これでは命令を受けて動くだけのパイロットと大差ない。――――――と思っていたら、宮白加奈から通信が入った。
『ユーリアさん。1つ確認なんですけど、良いですか?』
『なにかしら?』
『この人達のスマホって回収しても良いですか?』
『何の為に?』
『カラードに位置情報の履歴を抜き出せる人がいれば、MAP情報と重ねて、誰が、何時、何処に、どのくらいの時間いたかが分かります。行動範囲を絞り込めれば、繋がっている悪党も見つけ易くなると思うんです』
『なるほど。でも必要無いわ』
『え?』
『そこに気付いただけで十分よ。ターゲットを確保して輸送機に戻りなさい。後はこちらで引き継ぐわ』
初心者2人に伝えていなかっただけで、ミッション開始前にターゲットの情報は丸裸にされていた。まずチームで電子戦を担当する
そしてこの後の行動も、勿論チーム内で決めてある。
『
『了解』
本当なら偵察も制圧も
無人機はカラードで日常的に使われているので、使用状況の見学もこの範疇に含まれるだろう。
そんな考えの元、
―――無人機のStatus Window―――
機体名称:撃震
R ARM UNIT :87式突撃砲
L ARM UNIT :92式多目的追加装甲
R BACK UNIT:滞空用プロペラユニット
L BACK UNIT:滞空用プロペラユニット
EXTENTION :武装懸架用ハンガー*10
→右肩:テーザー銃
→左肩:スタングレネード
備考
92式多目的追加装甲の裏側に拘束用の手錠あり。
―――無人機のStatus Window―――
機体外見に特徴的なところは無い。灰色の塗装が施されたノーマルな
『
『『は、はい!!』』
2人の少しばかり緊張した返事を聞いて、
セレブ御用達の住宅街だけあり、一軒一軒が非常に大きい。物件によっては敷地面積が2万平方メートル(東京ドームの0.4個分)を超えるというのだから、一般市民的な感覚で言えば桁外れと言って良いだろう。
そうして高高度で合流した
4機が静穏性を保ったまま、邸宅を取り囲むように着地して茂みに身を隠す。次いで邸宅がスキャンされると、居間に反応があった。光学カメラと集音マイクによる映像と音声が、
なお
―――閑話休題。
映像情報からICPOが持つ犯罪者データベースが検索され、ヒット。中年男性の方は日本円にして1000万の賞金首だ。罪状は恐喝や詐欺に始まり、人身・麻薬・武器の密売に殺人と多岐に渡る。清々しいくらいのゲス野郎だ。女性の方も賞金首にはなっていないが、幾つかの罪状で国際指名手配されている。一緒に捕えれば、報酬増額の交渉が出来るだろう。
そんな事を思いながら、
すると居間から一番近い位置にいた
AIがターゲットから射線を外してワントリガー。たったそれだけで居間のガラスは木端微塵に砕け散り、お楽しみタイムに突入しようとしていた男女は、ソファから転げ落ちて無様な姿を晒していた。
無人機を指差して何かを言おうとしているが、突然の出来事に上手く言葉が出てこないらしい。口元をワナワナさせている。だが待ってやる義理は無いし、無人機のAIはAIらしい無機質さで行動を進めていた。
右肩の武装懸架用ハンガーからテーザー銃を取り出し、男女に一発ずつ撃ち込んで意識を刈り取り、動けなくなったところで手錠を嵌めて拘束していく。
次いで残っていた2機が居間から侵入し、屋内の探索を開始した。
電子的な情報なら専用輸送機に残っている
AIが今までの活動経験から怪しい場所を捜索していくと、出てくる出てくる。取引相手のリスト、帳簿、弱みetcetc。
(あら、結構出てくるわね)
この後
◇
ハウンドチームが帰還した翌日。カラード社長室。
「―――報告は以上となります」
今回のミッションの主目的である、
「そうか。今回はご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
エリザは一礼した後、別の話題を切り出した。
ちょっとした雑談だ。
「そういえば社長。最近、ISスーツメーカーからの営業攻勢が凄いそうですね」
「ああ。クラスメイトに使って貰おうって必死みたいでな」
晶のクラスメイト達の立ち位置は、誰がどう見ても親衛隊だ。採用されたとなれば、労力に見合うだけの宣伝効果が見込めるだろう。仮に全体ではなく個人的に使ってくれるだけでも、カラードの誰々が使っているISスーツという宣伝が出来る。
メーカーが営業攻勢に出ない理由は何処にも無かった。
「どんなのが来ているんですか?」
「こんなの」
エリザの眼前に複数の空間ウィンドウが展開され、幾つかの電子カタログが表示される。彼女が適当に画面をスクロールさせていくと、オーソドックスなワンピースタイプを始めとして、モノキニ、ワンショルダー、オフショルダー、クロスホルダーなど、実に様々なデザインが用意されていた。また学園指定のISスーツのような大人しいデザインとは違い、意図的に南半球や北半球がよく見えるようになっていたり、背部や下腹部のかなり深い部分までカットされている物まである。
ここで彼女は、ちょっとしたお遊びを思いついた。
「社長」
「ん?」
「ファーストミッションを無事終えた赤坂由香里と宮白加奈に、ISスーツをプレゼントしてあげたいのですが良いでしょうか」
「個人的に送るのは構わないけど、どんなのを送る気なんだ?」
エリザは空間ウインドウを2つ残して他を消去。残ったウインドウを晶の前に移動させた。
「右が赤坂由香里に。左が宮白加奈にです」
右は紅を基調としたフライバックタイプで、商品の説明文には肩や脚の付け根周辺の布面積を減らす事で、従来品以上の可動性の高さを実現したとあった。確かに肩甲骨から腕の付け根付近にかけて、布地がかなり少ない。もし何かに引っ掛かれば、容易く胸部装甲の側面が見えてしまうだろう。脚の付け根付近も、ISスーツのラインが鼠径部よりも上になっている。必然的に臀部を覆う布面積も少なくなり、クイッと直す仕草が多発するであろう事は容易に想像がついた。
左が蒼を基調としたモノキニタイプで、商品の説明文には防御性能と動き易さを両立した一品とあった。確かに正面から見た布面積は先の商品よりも多い。肩周辺や脚の付け根付近は大人しいものだ。が、モノキニタイプだけあって背中は大きく開かれており、臀部の割れ目が見えそうなギリギリのラインまでカットされている。また胸部装甲付近は、谷間が見えるように縦にカットされたラインがあった。
「随分攻めたデザインだな。恥ずかしがって着ないんじゃないか?」
「着る着ないは本人達の自由ですが、私は着ると思いますよ」
「随分自信ありそうだな」
「それはもう」
「なら………そうだな。面白そうだからちょっと賭けをしよう。俺は着ないに賭ける。お前は着るに賭ける。で、俺が勝ったらお前がこのISスーツを着た姿を見せてくれ」
「では私が勝ったら、社長の時間を半日下さい」
2人の関係性を考えればどちらが勝ってもご褒美と言える内容だが、ほんのお遊びなのだ。このくらいが丁度良いだろう。
「良いぞ。じゃあ期限は、彼女達が受け取ってから3日以内でどうだ?」
「いいですよ。楽しみにしていて下さいね。社長」
「決まりだ。じゃあ楽しみにしてるよ」
こうして2人は他愛の無い賭けをした。
そして商品が発注され、届いた翌日――――――。
◇
決着は速攻でついていた。
晶が社長室で仕事をしていると、エリザからコアネットワークで映像が送られてきたのだ。
両者共に女性的な曲線が強調され、とても魅力的な姿となっている。
(うっそぉ。2人の性格なら、すぐには着ないと思ったのに………)
驚いていると、エリザが嬉しそうに話し始めた。
(賭けは私の勝ちですね。社長)
(学園の様子を見る限り、着るにしたってもうちょっと時間が掛かると思ったんだが)
(社長はもう少し、ご自身が彼女達に与えている影響について理解を深めるべきですね)
(どういう意味だ?)
(私が一言、「社長が喜ぶ」って囁いたら喜んで着てくれましたよ)
(なるほど。じゃあ、何時がいい?)
(え?)
(半日下さいって言ってたろ。あ、でも俺もゆっくりしたいから、1日に延長していいか)
(私としては嬉しい限りですが、良いのですか?)
(勿論)
(では明後日、一緒にパラオ*13のブルー・コーナーはどうですか。スキューバダイビングの名所ですよ)
(いいね。行ってみようか)
因みに真面目な話をすると思いっきり密入国になるのだが、あの辺りは無人島が多い。発見される心配はまず無いだろう。バレなければ問題無いのである。
こうしてちょっとした賭けの結果、晶とエリザは南国の無人島でゆっくりとした1日を過ごしたのだった―――。
第159話に続く
・
・今までで1・2を争う程に難産なお話でした。初心者に何かを体験させるシチュってムズイです。
・あかりんとかなりんがファーストミッションを終えたので、今後は他の子達も徐々にミッションに入っていく予定です。
・因みにあかりんとかなりんは、学園では学園指定のISスーツを使用しているようです。でもミッションでは新しいのと使い分けているようです。