インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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第136話 進む束さん

 

 篠ノ之束。

 彼女が世に送り出した数々の発明品は、社会のあり方そのものを変える程の変化をもたらしていた。

 肉体的に脆弱な人間が、陸海空宙の全領域で活動可能になるマルチフォーム・スーツ(IS)

 無尽蔵かつ莫大なエネルギー供給を実現したアンサラー(発電衛星)

 大量生産可能なISの下位互換として開発され、建築、レスキュー、警察、軍事など、あらゆる分野で使われるようになったパワードスーツ。

 どれか一つだけでも、常人であれば生涯をかけた到達点と言って良いだろう。

 だが彼女にとっては違っていた。

 ISもアンサラーもパワードスーツも、全ては宇宙進出の為の足掛かりに過ぎない。

 むしろようやく、スタートラインに立てたのだ。

 そんな彼女が今注力しているのが、ここではない別の世界(AC世界)で生まれた存在、アームズ・フォート“イクリプス”の建造だった。

 勿論、オリジナル機をそのまま再現する訳ではない。

 束の宇宙活動拠点とする為に、ISやアンサラーで培った様々な技術が投入され、大幅に手が加えられていた(魔改造されていた)。オリジナル機にあった脆弱性は欠片も無い。アームズ・フォートの名に相応しい性能になった、と言い換えても良いだろう。

 また束にとって活動拠点とは、研究・開発拠点という意味でもある。このためアームズ・フォート級という有り余るペイロード(積載量)を利用して、研究設備と工房の備え付けが行われていた。なおこの改造により元々あった航空母艦としての機能が縮小されているが、それはイクリプス本体の武装と、搭載している護衛用メカの質を上げる事で対処されていた。

 そんなモノがカラード本社の地下深く、海底ドックに通じる地下工場で建造されている頃。

 束の自宅では――――――。

 

「もうちょっとだね、晶。このまま行けば、年内には宇宙(そら)に上げられる」

「ああ、そうだな」

 

 ソファに並んで座る2人は、テーブル上の立体映像を見ながら、そんな会話をしていた。

 映し出されているのは、建造中のイクリプスだ。

 大きさはオリジナルサイズと同等の直径約500メートル。

 所々フレームが剥き出しになっているが、ここではない別の世界の人間(AC世界の人間)が見たら、イクリプスと分かる程度には外装が仕上がっている。

 また高度に自動化されたこの工場には、人間の姿が無かった。

 H-1ユニットによって制御された作業マシン群が、この世界(IS世界)の常識では、考えられないスピードで作業を進めている。

 だが順調なこちらとは違い、時間を要する事もあった。

 束が立体映像を切り替え、幾つかの空間ウインドウが開く。

 表示されているのは、日本の“クレイドル”計画とフランスの“マザー・ウィル”計画の進捗状況だ。

 

「でも、もどかしいね。こっちはまだまだ時間が掛かりそう」

「それは仕方ないさ。如何に国家プロジェクトとは言っても、あっちにお前みたいな天才はいないし、既存技術で進めているんだから」

「それはそうなんだけどね」

 

 理性では理解している。

 しかし個人でアームズ・フォート級の巨体を作れる彼女からしてみれば、もっと早くして欲しいと思ってしまうのは、無理からぬことだろう。

 なので晶は、1つ提案をしてみた。

 

「ならパーツ輸送くらい手伝うか? アメリカから送られてくるISにシャトル用ブースターを装備させて、ピストン輸送で物資を運ばせれば、それなりにスピードアップが見込めないかな」

「送られてくる? ああ、リース契約(第135話)で来るやつね。良いんじゃないかな」

 

 ISにシャトル打ち上げ用ブースターのコントロールを行わせれば、シャトル分の重量を荷物として運べるようになる。

 重量バランスや空気抵抗の変化は、ISの重力制御や慣性制御、エネルギーシールドを円錐状に展開させてやれば、どうとでも対処できるだろう。

 

「分かった。それなら送られてくる4機全部投入だ。これで日本案とフランス案で使える機体が3機ずつになる」

「いいね。これならかなり計画を後押しできるかな。シャトルとの接合用パーツはこっちで作っておくね」

「頼む」

 

 こうして日本の“クレイドル”計画とフランスの“マザー・ウィル”計画に、強力なテコ入れが入る事になったのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日の放課後。IS学園生徒会長室。

 

「――――――という訳で日本案とフランス案に、ISを2機ずつ追加投入する事になった」

「アメリカから機体(IS)が来るって言うから予想はしてたけど、4機全部投入とは大胆な真似するわね」

 

 応接用ソファに座る晶の傍らに、部屋の主である楯無が腰掛けながら答えた。

 

「日本案とフランス案をもう少し早く進めたくてね」

「こちらとしては嬉しい話だけど、良いの? カラードが手掛けているのは宇宙開発だけじゃないでしょう」

 

 現在のカラードにおける量産型IS使用の内訳は、レスキュー部門で1機(ドイツ機)、戦闘部門で1機(フランス機)、宇宙開発部門で2機(イギリス機と日本機)となっている。

 言うまでもなく、どの部門もフル稼働状態だ。

 バランス良く配備するなら、レスキュー、戦闘、宇宙開発部門で2・2・4の方が良いだろう。

 だが晶は、そうしなかった。

 今は宇宙開発に集中して、ある程度形にするのが先と判断したのだ。

 尤も配備しないからといって、他の部門を軽視している訳ではない。

 人材は人財でもあるため、給料や装備といった面で惜しみなく資金を投入していた。

 

「良いんだ。先にある程度形にしてしまった方が、今後やり易くなる」

「分かったわ。でもこんな豪勢な使い方、他じゃ絶対出来ないわね」

「他の組織で同じ事をやろうとしたら、準備だけで何ヵ月かかるか分からないからな」

 

 シャトル代わりにするISの調整。打ち上げ用ブースターとISの接合用パーツの製作。凡人が行うなら、何度もテストしてようやく実用化が可能な事だ。だがISの生みの親にしてVOBの製作技術を持つ束なら、どうという事は無い。

 

「本当にね。パイロットはどうするの?」

「出来れば即戦力で欲しい。自衛隊とフランス軍から引き抜けるかな?」

「今の日本とフランスに、貴方からの要請を断れる訳がないじゃない。多分、すぐにOKが出るわよ。ああ、でもパイロット選考でちょっと時間掛かるかも」

「それは仕方ないさ。行く行かないは本人達の希望だし、背景の洗い直しもある。細かいところは任せていいかな?」

「任されたわ。ところで話は変わるのだけど、3年生の事でいいかしら」

「どうしたんだ?」

 

 晶と3年生の間に、それほど接点は無い。

 楯無や生徒会役員を除けば、数人話す相手がいる程度だ。

 

この前の模擬戦(第135話)で専用機持ちになった子達がいるでしょう。その子達を2年1組専用機持ちのミッションに、同行させて欲しいのよ」

「唐突だな。理由は?」

「今回専用機持ちになった子達は、元々只の一般生徒。確かに成績優秀者ではあるんだけど、専用機持ちとしてみると、少々実力が足りないわ」

「新しい機体に慣れれば、ある程度はどうにかなるんじゃないのか?」

「ある程度はね。でも来年は、貴方たちが卒業する。そうしたら嫌でも比べられるわ。後輩と比べて実力が足りない、なんて恥ずかしい思いはさせたくないの」

「だから同行させて、実力を伸ばして欲しいと?」

「伸ばして欲しい、なんて言う気はないわ。ただ現場に連れていってくれれば良い。そこで何を掴むかは、本人達次第よ」

 

 ここで晶は暫し考えた。

 あの模擬戦で専用機を与えられた子達なら、ある程度の腕がある事は証明されている。

 仮に同行させたとして、全く動けない訳ではないだろう。

 

「こっちは構わないが、学園側は大丈夫なのか?」

「貴方がOKなら、良いって言っているわ」

「分かった。なら極々簡単なミッションを用意しておく。それがクリア出来たら、徐々にミッションランクを上げていこう」

「ありがとう。それで良いわ。―――あ、でも1つ確認させてちょうだい。万一の時のバックアップはどうするの?」

 

 現場では何が起こるか分からない。まして専用機持ちに成りたてという足手纏いがいるなら尚更だ。

 それ故の確認だった。

 

「俺か、ハウンドチームか、カラード戦闘部門かはその時の状況次第だが、予備戦力を準備しておく」

「3年生に同行する専用機持ちの他に、という意味よね」

「そのつもりだ」

「なら安心ね」

 

 人によっては過保護過ぎると言うかもしれない。

 だが何かあってからでは遅いのだ。

 どれだけ用心しても、用心のし過ぎという事は無いだろう。

 そういう考えで、晶は準備を進める事にしたのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして数日が経ったとある日。IS学園アリーナ格納庫。

 晶は放課後の訓練が終わった後、専用機持ちを集めていた。

 

「話って、どうしたの?」

 

 皆が集まったところで、シャルロットが口を開いた。

 

「みんな時々、専用機持ちとしてミッションを受ける事があるだろう。そのミッションに、この前専用機持ちになった3年生を同行させたい、という話が出ている」

「あら、理由は何でしょうか?」

 

 次いで、セシリアが尋ねた。

 

「生徒としては、もっと経験を積みたい。学園としても、経験を積ませてやりたい。そして此処には、先にミッションを受けている専用機持ちがいる。なら先達を頼らせてもらおうって感じかな」

「分からなくもない話ですけど、私達だけで大丈夫なのですか。まさか、晶さんが出る訳ではないのでしょう?」

「そうだな。俺のミッションに同行させたりはしない。この中の誰かが受けたミッションに、3年生が同行するって形かな。だけど、初心者の子守りを押し付ける気は無いぞ。俺か、ハウンドチームか、カラード戦闘部門か、いずれかがバックアップに入るようにする」

「同行、という形ではないのですね?」

「そうだ。バックアップはあくまで何かあった時の保険。何も無ければ現場に姿は現さない」

 

 ここでラウラが発言した。

 

「手厚いことだ。だがまぁ、初めて現場に出る素人は何をしでかすか分からんからな。念には念を入れておく程度が丁度良い」

「意外だな。甘やかし過ぎ、くらいは言われると思ったが」

「ふん。私達だけだったら、それこそ管理責任を問われただろうさ」

 

 その通りだった。

 如何に専用機持ちとしては先輩でミッションも受け、正式パイロットに近い扱いとは言え、一応はまだ“候補生”なのだ。

 この手の安全管理を疎かにして万一何かあった場合、付け入れられる隙となってしまう。

 

「まぁ、という訳でバックアップはしっかりあるから、誰かやりたい奴はいるかな?」

 

 すると、一夏が手を挙げた。

 

「出来ればやりたいんだけど、いいかな?」

「ちょっと意外だけど、どうしたんだ?」

「いや、俺って前衛型だろ。これから必ず後衛型と組めるとは限らないし、多分将来、こういう事って沢山あると思うんだ。だったら手厚いバックアップがある内に経験しておいた方が良いかなって」

 

 確かにここにいるメンバーの現状を考えれば、一夏の言う事は一理ある。

 いや、ほぼ確実と言って良いだろう。

 また一夏自身の立場もある。

 たった2人しかいない男性ISパイロットの片割れなのだ。

 生徒である間はいいかもしれないが、卒業したら必ず、それ相応の能力を求められるようになる。

 なら今の内に経験させた方が、本人の為になるだろう。

 

「なるほど。分かった。一番初めは一夏に頼もう。今までのミッション(※1)とは勝手が違うと思うから、頑張れよ」

「ああ、頑張るよ」

 

 今の一夏の単独戦闘能力は、専用機持ちの中でも上位に位置している。伊達に最初期から、薙原晶(NEXT)に師事していた訳ではないのだ。味方との連携も、クラスメイトが相手なら専用機・量産機を問わず、それなりの精度で行えるようになっている。元がド素人だったという事を考えれば、恐るべき成長速度と言えるだろう。

 晶がそんな事を思っていると、鈴が尋ねてきた。

 

「ねぇ、そのミッションって私達は必ず1人なの?」

「初めは極々簡単なミッションのつもりだから、お前達の内1人と、3年生1人のツーマンセル(2人1組)を考えてる。バックアップもあるしな」

「じゃあ、そのミッションの様子って私達も見れるの? 今後の参考にできる事があるかもしれないし」

「それは考えてなかったな。ん~でも厳しいかな。簡単なミッションとは言え守秘義務はあるし………リアルタイムは厳しいと思う。ミッション終了後にクライアントがOKを出せば、記録の閲覧やそれを使っての状況検討は可能かな」

「そっか。分かったわ」

「他に、何か聞きたい事はあるかな?」

 

 晶が皆を見渡しながら言うと、箒が手を上げた。

 

「対IS戦闘ではなく、対人戦はあり得ますか? 自分達だけならまだしも、専用機持ちになったばかりの者に、撃てとは………」

 

 箒とて、生身の人間に武器を向けた経験がある訳ではない。

 だが単独なら、エネルギー兵器の威力調整でスタンさせたり、ビットの体当たりで突き飛ばすなど、取れる手段はある。しかし子守りをしながらとなると、どんな不測の事態が起きるか分かったものではない。

 

「対IS戦闘はあり得るだろう。だが通常装備の普通の人間が出てくるかどうかは、現時点では何とも言えん」

「もし出てきたら?」

拡張領域(パススロット)に、非殺傷系の武装を準備しておいてくれ」

 

 ゴム弾、催涙弾、スタンガン、スタングレネード、麻酔銃、トリモチランチャー、人を殺さず制圧する兵器は結構あるのだ。

 

「私達はそれで良いかもしれないが、一夏はどうすれば良い? 白式の拡張領域(パススロット)に、そんな物を搭載する余裕は無いぞ」

 

 確かに無い。だが対処出来ないというのは間違いだろう。人間は、道具を使う生き物なのだ。

 

「そうだなぁ………。一夏、明日までにお前の考えが聞きたい。どんな対処をする気なのか、どんな道具を使えばより安全に制圧できるのか、ちょっと考えてみるといい」

「分かった。っていうか、もう考えてあったりする」

「へぇ、準備が良いじゃないか。どんな事を考えてたんだ?」

「小難しい事を考えても仕方がないから、雪片に似せたスタンロッドを、倉持技研に頼んで作ってもらおうと思ってる。後はIS用のレッグホルダーみたいな外付け装備も作ってもらって、そこにスタングレネードでも突っ込んでおこうかなって」

 

 一夏が近接特化型なのは、既に広く知られている。拡張領域(パススロット)が雪片弐型に占有されているのも、半ば公然の事実だ。だが逆を言えば雪片弐型だけは、拡張領域(パススロット)に格納できるのだ。手に持っていれば、形を似せただけのスタンロッドとは思うまい。

 またサブウェポンとして、スタングレネードを選択したのも良い判断だ。

 射程距離はISの膂力で投げればそれなりに出るし、スタンガンのように細かく狙う必要も無い。射撃型でない一夏なら、これくらい大雑把な方が扱いやすいだろう。

 

「良いんじゃないかな。でも持っていく時はどうする? 最初から最後まで、IS展開状態って訳にもいかないだろう」

「あ、ああ~そうか。どうするかな。流石に手では持っていけないしな………」

「カラードで使ってたパワードスーツが余ってる(※2)から、無人機仕様にして貸してやる。荷物運びに使うといい」

「良いのか?」

「白式の拡張性の無さは、完全に性能とトレードオフだからな。その分は道具で補えばいいさ」

「分かった。ありがとう」

「いいってことさ。ああ、そうだ。後日、3年生をこの場に呼ぼうと思ってる。ミッション前に、相手の実力を把握しておいた方がいいだろう」

 

 全員が肯く。

 こうして2年1組の専用機持ちは、3年生の新たな専用機持ちと、顔合わせをする事になったのだった――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして2日後。放課後のIS学園アリーナ。

 一夏は模擬戦の最中、珍しく戸惑っていた。

 形式は2on2。3年生とコンビを組んでいる、という以外はいつもと変わりない。変わりないのだが………。

 

(ちょっと、遅いかな)

 

 目前に迫るグレネードを切り払いながら思う。

 武器の切り替え、位置取りや支援に入るタイミング、その他細かい所を上げればキリがないが、全体的に遅い。敵としても、味方としても。

 初めは、新しい機体(専用機)に慣れていないのかと思った。だが既に5戦目。3人合わせて15戦目だ。慣れてないにしても、もう少し動きが良くなってもいい頃だろう。

 

(う~ん。武装構成は割とオーソドックスな感じだったんだけどな)

 

 1人はマシンガンとブレードがメインウェポン、サブウェポンに連射能力の高いロケット砲という分かりやすい近接タイプ。

 1人はアサルトライフルのダブルトリガーがメインウェポン、サブウェポンにグレネードと垂直発射型の多連装ミサイルという中距離タイプ。

 1人はスナイパーライフルがメインウェポン、サブウェポンに弾道の異なる複数の長射程ミサイルを備える遠距離タイプ。

 今コンビを組んでいるのが遠距離タイプで、敵役の鈴とコンビを組んでいるのが中距離タイプだ。

 そして比べてはいけないと思いながらも、思ってしまう。

 

(クラスの皆に比べると、一呼………二呼吸くらい遅いかな)

 

 慣れている子なら、弾道の違う武器を使い分けて支援攻撃をしてくれる。例えば射線が通っているならスナイパーライフル。通っていないなら、垂直発射型ミサイル等を使い分けてくれる。

 なのに、この3年生は判断が遅い。

 お陰でチャンスを幾つも逃している。

 

(困ったな。皆と同じくらいの腕って考えてたけど………)

 

 だがすぐに考え直す。

 少なくとも、先日の模擬戦ではもっと動けていた。

 

(もしかして慣れる慣れない以前に、機体調整が上手くいってないのかな?)

 

 一夏自身、放課後の訓練で相当に機体をブン回してきた。

 だから分かる。機体調整が上手くいってない時の違和感ときたら相当なものなのだ。それでいつも通りの機動をしろ、という方が無理だろう。

 一夏はオープン回線で、アリーナ管制室に通信を入れた。

 

『晶、ちょっとタイム』

『どうしたんだ?』

前の模擬戦(第135話)に比べて、何か動きが悪い気がする。機体調整が上手くいってないと思うんだけど、どうかな?』

『機体に慣れていないだけと思って見てたけど、お前からみてもそんなにか?』

『そんなに、かな』

 

 晶は数瞬考え、模擬戦を中止する事にした。

 調整の済んでいない機体でこれ以上やるよりも、次のステージを見せた方が、恐らく本人達の為になるだろう。

 

『分かった。なら今日の模擬戦はここまでにして、全員ピットに戻ってくれ。その後、フルダイブ環境で専用機持ち用の模擬ミッションを行う。3年生は見学だ』

 

 こうして3年生との初顔合わせが進んでいく中、当人達はというと――――――。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ねぇ、コレってヤバくない?」

「うん。想像以上」

「ですね。まさか、ここまでやってるなんて」

 

 画面に映る映像を見ながら、3年生がヒソヒソと話をしている。

 フルダイブ環境下で行われる実戦さながらの訓練は、よく生徒達の間で噂になっていた。

 だがまさか、ここまで行われているとは思っていなかったのだ。

 護送、強襲、拠点防衛、事前情報の食い違い、騙して悪いが、都市部での高速機動格闘戦、狭い渓谷での夜間飛行、シチュエーションを上げていけばキリがない。どう考えても、学生にやらせるレベルのものではない。

 そして何より3年生を驚かせたのが………。

 

「さっきのって、人型モドキ(Type-D No.5)よね?」

「うん。で、今出てるのが六本脚(L.L.L)

 

 対巨大兵器戦を行っている事だった。

 実戦配備型に比べれば弱いという話だったが、専用機持ちに成ったばかりの3年生達にしてみれば、どこが弱いのか分からない。

 視界を覆いつくす弾幕の嵐。堅牢無比な物理装甲と圧倒的出力のみが可能とするエネルギーシールド。

 こんなものをどうやって攻略するというのだ。

 だが挑んでいる3人、一夏・箒・鈴は全く怯んでいなかった。

 機動力という唯一勝る武器を駆使し、ヒット&アウェイを繰り返して、徐々にダメージを与えていく。

 そうして暫くしたところで、一夏が仕掛けた。零落白夜が六本脚(L.L.L)のエネルギーシールドを切り裂く。すると箒が間髪を入れず、紅椿の最大火力である出力可変型ブラスターライフル“穿千(うがち)”を撃ち込み傷口を広げる。そして最後はとり着いた鈴が、近接防御用のレーザー砲台を片っ端から破壊していく。

 こうなれば、もう六本脚(L.L.L)に出来る事は無かった。

 巨体故の死角を徹底的に突かれ、被害が急速に拡大していく。

 

「「「うそぉ」」」

 

 3年生3人の言葉が重なる。

 簡単にやっているように見えた。しかし、実際は違う。

 濃密な対空砲火を掻い潜り今のを実行するとなれば、どれだけの勇気と技量が必要になるのだろうか?

 3年生の1人が、六本脚(L.L.L)の武装データを呼び出した。

 各脚部に装備され、計24門あるハイレーザーキャノン。全身に設置された近接防御用レーザー砲台。機体上部に装備されている多数の垂直発射型ミサイル(VLS)。圧倒的積載量のみが実現する物量と強大な火力。

 特にあのハイレーザーキャノンのスペックは、恐らく専用機であっても数発と耐えられないだろう。

 そんなものに狙われながら、狙いすましたかのように連携を決めて見せた。

 勿論、3機とも無傷という訳ではない。

 損傷はある。だが致命的な一撃だけは回避していた。

 

「凄い。これが、専用機持ち………」

 

 パイロットにとって強がりは挨拶代りのようなものだが、同じ事が出来るかと聞かれれば、首を横に振るしかなかった。

 そして3人とも、ここが分岐点であると理解していた。

 専用機持ちを名乗るなら、少なくともこの程度は出来ないとダメ、ということだろう。出来ないなら、いつまで経っても仮免扱いだ。

 

「ねぇ、機体調整どうする? 企業のメカニックが来るの待つ?」

「ううん。完全には出来ないかもしれないけど、ある程度の当たりは出しておきたいから、ちょっと自分で弄ろうかな」

「私もそうする。流石にアレを見せられて黙ってるなんて、ねぇ」

 

 この後3年生の3人は、よく放課後のアリーナに現れるようになった。そして初めは3人だけだったが、徐々に同学年のメカニックを巻き込んで、チームとなっていくのだった――――――。

 

 

 

 ※1:今までのミッション

  テレビ版の第2期6話のように、クローズアップはされていませんが、

  彼も専用機持ちとしてミッションを受けているのです。

 

 ※2:カラードで使ってたパワードスーツが余ってる

  ハウンドチームがパワードスーツを主武装としていたころ、

  パーツ取り用に使っていた予備機である。

 

 

 

 第137話に続く

 

 

 




 束さん、着々と歩みを進めているようです。
 そして新たな専用機持ちとなった3年生も、ファーストミッションに向けて色々と動き出したようです。
 初めは極々簡単なミッションの予定ですが………。(悪い笑み)

 でも次回は普通の学園生活を!!
 クロエちゃんを書きたいという欲求が!!

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