インフィニット・ストラトス ~迷い込んだイレギュラー~   作:S-MIST

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今回、区切りの関係で少し短めなのです。
そして現地の状況はハードモードではなくて、エクストラハードモードでした。

追記
次回が後編というには相応しくない内容なので、サブタイを中編から後編に変更。


第130話 布仏本音のファーストミッション(後編)

 

 サウジアラビアに入った晶達一行を待ち構えていたのは、予想通り――――――否、予想を遥かに上回る混乱だった。

 しかも少数精鋭にとっては最も対応し辛い、複数ヶ所同時進行という形で。

 それでも事態を単純化して言うなら、起きている事は2つ。

 1つはEMP兵器による直接的な被害で、電子機器壊滅による混乱だ。何せスマホ、テレビ、パソコン、自動車など、凡そ現代文明を構成するほぼ全ての物が突如として使えなくなったのだ。混乱しない方がおかしいだろう。だがこれらは、地獄の幕開けに過ぎなかった。

 大多数の一般市民に命の危険を感じさせ、混乱の坩堝に叩き込んだ本当の問題は、海水淡水化プラントのダウンだった。最高気温が40℃を超えるような地域で、海水を飲料水に変える施設が停止したのだ。砂漠国家において、これが何を意味するか分からない人間はいないだろう。

 そして通信網はダウンしているはずなのに、何故かこの情報だけは、異様な速さで拡散していった。

 結果として限りある水資源(オアシスや売っている飲料水など)を巡って略奪と暴動が起き、国内の混乱は加速の一途を辿っていく。

 これに加えてもう1つが、近隣諸国からの侵攻だった。

 平時であればこの国は、中東の盟主国家として、簡単には干渉されないだけの政治力と軍事力を持ち合わせていた。しかし今この瞬間だけは違う。インフラは完全にダウンし、国家機能は麻痺状態。非常時に頼るべき軍も、通信機能の殆どを喪失しているため、情報収集で手一杯という有り様だ。

 つまりこの国の力の源泉とも言える世界最大の油田(ガワール油田)が、完全な無防備状態なのだ。発電衛星(アンサラー)の稼働により価値が下がっているとは言え、長年争いを繰り返してきた隣国イランにとって、敵国の国力を根こそぎ奪う絶好の機会であった。

 また同じく隣国のイラクも、歴史的経緯から(関係改善の兆しがあるとは言え)潜在的な敵性国家である。

 サウジアラビアがこれら2ヶ国で軍が動員されていると知った時、既に国境線は破られていた。通信網の壊滅により、情報戦で決定的な遅れをとってしまったのだ。

 しかも投入された戦力は、明らかに初手一撃必殺。サウジアラビアという国をこの世から消し、持てる富の全てを奪う。そんな意思の見えるものだった。

 何せイラクからは陸上型巨大兵器“Type-D No.5”が2機とISが3機。イランからは空中型巨大兵器“RAIJIN”が3機とISが5機。合計して巨大兵器が5機とISが8機。中規模程度の国家なら、総戦力を全て灰にしてもお釣りがくる。

 加えていずれの国も、後詰めとして通常戦力が集結中であった。このままなら、程なくして進軍を開始するだろう。

 

「――――――以上が、現状だ」

 

 新型輸送ヘリ(F21C STORK)内の簡易ルームで、晶はセシリア、簪、本音の3人に現状を伝えていた。

 悪いどころの話ではない。

 普通なら確実に、撤退という選択肢が選ばれる場面だ。

 だが、選べない。

 “世界最強の単体戦力(NEXT)”と“ブルーティアーズ・レイストーム(セカンドシフトマシン)”という単体戦略兵器の存在が、普通なら選べるはずの選択肢を奪い去っていた。

 これだけの戦力を擁していながら撤退を選んだとなれば、今後カラードの実行力に疑問符が付けられてしまう上に、現地にいながら一般市民を見捨てたという、最悪の形で潜在的な敵を作ってしまう事になる。

 晶は、徐々に何者かの手中に落ちていくという、嫌な感覚が拭えなかった。

 

(クソッ、せめて本拠地がもう少し近かったら、時間がもう少しあれば………)

 

 そんな思いが脳裏を過ぎる。

 だが無いもの強請りをしても仕方が無い。

 晶は思考を切り替え、状況に対応していく事にした。

 

「時間が無いから手短にいこう。まずクライアント(サウジアラビア)の意向は、許可無く国境を越えてきたものの殲滅。警告で帰ってくれるなら、それに越した事は無いがな。そして役割分担だが、イラン方面の巨大兵器3とIS5は俺が対処する。本音さんは首都(リヤド)上空で気象コントロール。簪はその護衛。そしてセシリアは――――――」

 

 刹那の間、晶は思う。

 彼女の身を案じた正しい選択は、本音さんの護衛として残す事だ。彼女の戦闘力を考えれば、イラク方面に向かわせる事は、死ねと命令しているに等しい。しかし向かわせなかった場合、彼女はセカンドシフトしているにも関わらず使われなかった、お飾りのお姫様などと揶揄されるだろう。

 実際の戦闘の事など知りもしない素人共が、したり顔で。

 

(なら名誉の為に死ねと命令するのか? あり得んだろう。死んだら終わりなんだぞ)

 

 よって彼の決断は彼女を護衛として残し、自身がイラン方面を片付けた後に、イラク方面も片付ける連戦へと傾いていた。

 だがセシリアは、そんな思いを見透かしたかのように口を挟んだ。

 

「私は、イラク方面ですわね」

「俺は自殺志願者を連れてきた覚えは無いぞ」

「酷いですわ。勝算があってこその言葉ですのに」

「訓練での巨大兵器撃破率、一桁だろう。そんなのを勝算とは言わん」

「私単体なら、でしょう」

「途中で合流した自動人形(タイフーン12機)を加えても、大して変わらないだろう。アレは高性能だが、巨大兵器とISを相手にして勝ちを狙える程じゃない」

「ええ。ですので、こういう手を考えていますの」

 

 全員の眼前に空間ウインドウが展開され、ブルーティアーズ・レイストームの性能を生かした、狙撃戦による時間稼ぎという案が提示される。そうして時間を稼いでいる間に、イラン方面を片付けたNEXTに救援に来てもらうという内容だ。

 一見するとまともに見えるが、冷静に戦力差を考えれば、時間稼ぎなど出来るはずもない。巨大兵器の物量に、ISという遊撃戦力が加わっているのだ。如何にセカンドシフトマシンとは言え、蹂躙されるのがオチだ。

 しかしこの案は、簪と本音を欺く為のカモフラージュに過ぎなかった。

 何故なら晶にだけ送られた本当の案には、本国の機密情報が含まれているからだ。故に全員に説明してしまえば、明確な機密漏洩行為の生き証人を作ってしまう事になる。だがコアネットワークなら、ログさえ消してしまえば証拠は残らない。

 意図を読んだ晶が、事実ではあるが正しくはない言葉で問い返した。

 

「超々遠距離狙撃による時間稼ぎか………やれるのか?」

「装備の使用許可が必要なので、本国の許可が下りれば、ですが」

「下りるのか?」

「今の状況なら交渉次第、というところでしょうか」

「時間は掛けられないぞ」

「5分で決まらなければ、簪さんと一緒に本音さんの護衛として残りますわ。私だって、無駄に死ぬ気はありませんもの」

「分かった。ならやってみてくれ」

 

 この時晶は、この交渉が纏まる確率は低いと思っていた。何故なら彼女が送ってきた本当の案というのは、アメリカとイギリスが共同で秘密裏に、衛星軌道上で建造していた対IS用高エネルギー収束砲術兵器(エクスカリバー)を本国より借り受ける、というものだったからだ。

 晶はアンサラーの稼働によりその存在を知っていたが、イギリスにとっては隠しておきたい手札だろう。故にそう思っていたのだが………。

 セシリアが、本国と通信回線を開いた。

 

『こんにちは。首相閣下』

『セカンドシフトパイロットからの緊急コール。子供のお遊びで使って良いものではないぞ』

『お遊びかどうかは、会話の内容で判断して下さいませ』

『ほう。では、どんな要件なのかな?』

『いえ、聖剣を貸して頂きたいと思いまして』

 

 まるで日用品を貸してもらうかのような、気軽な台詞。

 反応は政治家として、極普通のものだった。

 

『ふむ、それは何かの冗談かね? 緊急コールなので受けたが、私も暇ではないのだよ。第一、我が国に聖剣などと言うものは、御伽噺の中にしか存在しない』

『申し訳ありませんが、言葉遊びをしている時間はございませんの。衛星軌道に浮いているアレを一時、私に預けて下さい、というお願いですわ』

『………君の権限レベルでは、アレの情報は開示されていないはずだが?』

 

 セシリアは気品ある、だが何処か冷たい声で答えた。

 

『情報収集の大事さを教えてくれたのは、そちらではないですか。だから調べましたわ。色々と』

 

 自前の組織を持たないセシリアの情報源は、束博士だった。

 彼女はカラードに引き抜かれた後、総資産の半分(日本円換算で約3000億円)を報酬とする事で、イギリスの内情を洗って貰ったのだ。もし他人がこの事実を知ったら、払い過ぎと言うかもしれない。しかし彼女は世界最高の頭脳を動かすにあたり、文字通り金に糸目をつけなかった。

 その時、束は尋ねた。

 

「何故半分なんだい? 何か、理由でもあるのかな?」

「残りの半分は、もしもの時の為の保険ですわ」

「もしもの時?」

「今後私が進む道は、決して平坦な道ではないでしょう。場合によってはISより、一発の銃弾より、軍資金がモノを言う場合がありますから。その時の為の保険ですわ」

「なるほどね。………分かったよ。君の覚悟は受け取った。そのお金はカラードに回しておく。手足となる会社を大きくするのに使うといい」

 

 この時の決断は、後年オルコット家の資産を数十倍に増やす切っ掛けとなる。

 そして束は、報酬額に見合うだけの働きをした。

 イギリスの機密情報を丸裸にした上で、有名どころの政治家・軍人・企業人の汚職情報までセットで渡したのだ。

 

 閑話休題。

 

 こうして得た情報の中に、対IS用高エネルギー収束砲術兵器(エクスカリバー)があっただけのこと。

 相手の反応は沈黙。返すべき言葉を探しているようだった。

 この間に、彼女は言葉を続けた。

 

『まぁ、こちらとしては使えないなら使えないで構わないのです。無ければ全滅するという訳でもありませんし。ただ私の祖国は、数百万………いえ、数千万人単位の見殺しを是とする国だった、と認識するだけですわ』

『待て。お前は何を言っている?』

『あら、私の現在位置を把握していないのですか?』

『している。サウジアラビアだろう』

『はい。ではイランとイラクから巨大兵器が侵攻している事は?』

『………サウジのインフラが壊滅している、という報告は受けている。仲の悪かった隣国が、手を取り合う為に援助物資を送るという話もな』

『なるほど。聞いていないと。では3分後、もう一度連絡いたしますわ。その間に御自分で、事の真偽を確認して下さいませ』

 

 そう言ってセシリアは通信を切った。

 実際のところ、先進国の首相が現状を把握していないなど、有り得ないだろう。

 しかし彼女は、そこを責めるような真似はしなかった。

 何故なら政治家にとって事実とは、知っている事を認めた瞬間に、判断ミスを問われてしまう事があるからだ。

 今回の一件など、まさにその類だろう。

 事実を知っていながら動いていなかったとなれば、後で支持者からどんな突き上げを喰らうか分からない。

 最悪、政権の座を追われてしまう。

 だが部下が、或いは情報部が正しい情報を上げてこなかった、という形に出来るなら話は変わってくる。

 失敗は他人に押し付けて、自分は正しい情報に基づき、正しい判断を下した、という事に出来るのだ。

 故に一度通信を切って、時間を与えた。

 その結果は――――――。

 

『確認が取れた。君の言葉は正しかったようだ』

 

 3分と経たずに返ってきた返事である。

 しかしこれでは、事実を事実と認めさせただけ。

 秘密兵器の発射トリガーを預かるには、もう一押しが必要だった。

 

『祖国の首相が、事実を事実と認められる見識の持ち主で、安心致しましたわ』

『私も君のような、有益な情報をあげてくれる者がセカンドシフトパイロットで嬉しいよ。だが、それとトリガーを預けるという話は別次元のものだ。君がどうやって知ったのかは聞かないでおくが、アレは情報提供程度で預けられるものではない。諦めたまえ』

『そうですか。分かりましたわ。では下らないお話に付き合わせた代価として、1つ情報を差し上げます』

 

 これが、本命の一刺し。

 

『最近、気前の良い御友人が増えたようですね。ですが身辺調査は、しっかりされた方が宜しいかと』

『なに?』

『では、これで失礼致しますね。私は、私の手の届く範囲の人達を助けに行ってきます』

 

 セシリアは交渉を長引かせる気は無かった。というより、長引かせてはいけなかった。

 何故ならこの交渉は、始まりこそセシリア側からだが、最終的には相手側から頼まれた、という形に持っていくのがベストだったからだ。その状況に持っていく事が出来れば、国益の為に情報提供を行い、最終判断は最高権力者が行った、という万人が納得する形に出来る。

 故に未練があると思われてはいけない。それは付け入られる隙になる。だから種を蒔いたら、すぐに引く。

 後は、相手が何処まで読んでくれるかだが………。

 

『まぁ待ちたまえ。話は少しばかり変わるが、君はカラードに移ったとは言え、大事な国民の1人には変わりない。社長(薙原晶)奥方(束博士)は、良くしてくれているのかね?』

『はい。非才のこの身には過ぎたる程に。社長は今回のような、大事なミッションに選抜してくれる程に信頼してくれていますし、奥方様も気にしてくれて、幾つかの装備を下さいました』

 

 この言葉は権力基盤を強化したい政治家にとって、無視出来るものではなかった。何せ世界最強の単体戦力と世界最高の頭脳の懐に入り込んでいるのだ。パイプを作っておくに越した事はないだろう。

 

『そうか………。いや、忠告に感謝しよう。政治家たるもの、身辺は常に綺麗でなくてはいけないからな。あと以前から思っていたのだが、責任ある者には、それ相応の実行力があって然るべきだと思うのだよ』

 

 この時イギリスの首相は涼しい顔をしながら、トリガーを預けた場合のメリットとデメリットを考えていた。

 成功した場合に得られる名声と権力、失敗した場合に支払う代価、誰を味方として誰を敵にするのが最善か。

 そうして出した答えが――――――。

 

『首相権限を持って、時間限定で君にトリガーを預けよう』

 

 この判断に至った理由は、そう多く無かった。

 まずNEXT()が依頼を受けて動いている、という時点でサウジアラビアが、敵性戦力の侵攻を受けているのは間違いない。情報の確度で言えば、どんな情報機関の情報よりも信用できた。

 そして極々一般的な感性として、国家機能が麻痺したところに土足で踏み込むような連中に正義は無い。ここまで堂々とやった以上カバーストーリーは確実に用意しているだろうが、そんなものは大体の場合において、自分に有利な状況や既成事実を作っておかなければ機能しない。

 つまり今なら、まだ割り込む余地がある。

 問題は首相権限という強権で“エクスカリバー”を稼働させ、トリガーを一パイロットに預けるという責任問題を如何に回避するかだが、実のところ何も難しい事は無かった。

 何故なら今現在において、巨大兵器の単独撃破に成功しているのは薙原晶(NEXT)ただ1人。そして現地の状況を見るにセシリア・オルコットは、巨大兵器とISを同時に相手にしなければならないだろう。普通なら、勝てるはずが無いのだ。ここで彼女が並の存在なら、見捨てるという選択肢もあった。だが彼女は束博士が、新規ISコアをイギリスに提供してまで引き抜いた人材。ここで使い潰すのは余りにも惜しい。

 また罪無き一般市民を護る為に戦う、見目麗しき守護天使を政治が見捨てたというのは、余りにも外聞が悪い。政敵が責任問題を追及してきても、その辺りを前面に押し出せばどうとでも乗り切れるだろう。実際、ここでカラード側が勝利しなければ、サウジアラビアが蹂躙されるのは目に見えているのだ。

 尤も如何に理由を並べたところで、この男は――――――。

 

(正義を正義として執行できる政治家………悪くないフレーズだ。財布もそろそろ変えねばならんと思っていたし、運の悪い何人かには破滅してもらおうか)

 

 権力と名誉欲にまみれた俗人であった。

 だが政治家というのは結果が全て。本心がどうであろうと、そこに意味は無い。

 勝者こそが正義である。

 そしてセシリアも、祖国の首相がどんな人間かを知っていながら、穏やかに返した。

 

『御英断ですわ』

『君のような美しい女性にそんな事を言われてしまうと、色々勘違いしてしまいそうだな――――――これが“エクスカリバー”のパスコードだ。大事に使ってくれたまえ』

 

 俗人が手元のキーボードを操作すると、ブルーティアーズ・レイストームにパスコードが送信されてきた。

 勿論、保険は掛けられている。

 送られてきたのは、所謂ゲスト権限。

 マスター権限を使えば、即座に全機能を奪われてしまう程度のものだ。

 しかし保険を掛けていたのは、セシリアも同じだった。自身の命運を託す一手に、本国のヒモが付いているなど冗談ではない。想定しうる最悪の瞬間にコントロールを奪われたりしたら、本当に命に関わる。だから彼女は、この状況でのみ使える最強のカードを切っていた。

 

(まさか本当に交渉を成功させるとはね。いいよ。約束通りやってあげる)

 

 篠ノ之束による、電子掌握(ハッキング)である。

 これがセシリア本人の為、というのであれば彼女は動かなかっただろう。だがセシリア側の戦闘の勝敗は、そのままミッションの成否に直結してしまう。だからこそ、束はセシリアの提案――――――パスコードを入手した場合のみ、ブルーティアーズ・レイストームを踏み台としてハッキングを行い、“エクスカリバー”を掌握する、という誘いに乗ったのだ。

 そして如何に世界最高レベルの攻性防壁だろうと、(ゲスト権限とは言え)正規アカウントで接続された状態から内部アタックを仕掛けられれば、防御力は半減だ。攻性防壁は瞬く間に解体され、イギリス側に知られる事なく、横槍の可能性は排除されていた。

 

『ええ。大事に使わせて頂きますわ』

『正義の頭上にこそ勝利は輝く、という事をならず者達に教えてやると良い』

『はい。それでは失礼致します。首相閣下』

 

 こうして交渉を終えて通信を切ったセシリアは、晶に向き直った。

 

「これで、こちら側はどうにかなりますわ」

「だが厳しい事には変わりない。無理はするなよ」

「程々にしますので、ご心配なく」

「分かった。なら最後の心配は、簪と本音さんだ。これは予想でしかないが、俺が敵なら巨大兵器の侵攻を陽動に使って、2人を狙う。どちらも鹵獲を狙うに値する機体だからな。そして現状を考えれば、用心の為に俺かセシリアを2人の元に、残す事はできない」

 

 晶にしてみれば、狙って下さいと言っているようなものだった。

 もしかしたら、考え過ぎなのかもしれない。

 しかし状況を考えれば、明らかに手の平で踊らされている感じある。

 状況に対して常に後手。詰将棋と同じだ。一手でも間違えたら、即座に王手で終わり。別の手を打つには、時間も人も足りない。結果として先が見えていながら、状況に対応する為の手しか打てない。

 

(何が辛いって、サウジアラビアに配備されている巨大兵器が使えないって事だよな)

 

 巨大兵器自体は無傷で残っていても、陸上型巨大兵器は巨体故の鈍重さで、迎撃ラインに到達出来ていないのだ。

 情報戦での後れが初動の遅れに繋がり、完全に死兵と化してしまっている。

 また同国の空中型巨大兵器は建造中で、まだ稼働できる状態ではなかった。

 つまり分かり易く言えば、防衛ラインを抜かれているのだ。

 加えて機動力のあるISは、国内複数ヵ所で同時発生している暴動鎮圧に、駆り出されてしまっている。本来超兵器が行うような仕事では無いが、自動車等の足も死んでいる今、ISの機動力を使わない理由は無かった。

 

(そして俺達に、援軍を待つ時間は無い)

 

 恐らくそう遠くないうちに、国際社会からの援助・援軍が送られてくるだろう。

 しかしそれを待ってしまうと、確実に首都と世界最大の油田は直撃される。

 またカラードのシャルロットとラウラを投入するという選択肢もあったが、晶は彼女達をインフラ復旧用の支援部隊護衛に割り当てていた。

 狙いが分からない状態での逐次投入より、今後確実に必要になる部分の安全を優先させたのだ。

 つまりこの状況は、この場にいるメンバーで防がなければならないということ。

 よって晶は、皆に告げた。

 

「俺の方は、最速で撃破してくる。だから簪、本音さん。もし何かあったら、自分の身を第一に考えてくれ。すぐに駆け付けるから」

「ありがとう。でも大丈夫。防御戦闘は打鉄弐式の最も得意なところなんだから」

 

 強がりである事は分かっていた。

 だが晶は訂正しなかった。本人のやる気を削ぐ事も無いだろう。

 続いて、本音さんが答えた。

 

「私は上手く戦えないから、頑張って逃げるね。でも何も無ければ、雲を作って、風を呼んで、雨を降らせて、沢山の人を助ければ良いんだよね」

「ああ。それは、本音さんにしか出来ないことだ。そして今回のミッションの肝でもある。頼んだよ」

「うん!!」

 

 こうしてブリーフィングを終えた晶達一行は、激変した状況の中で、各々の持ち場に散って行ったのだった――――――。

 

 

 

 第131話に続く

 

 

 




(作者的に)ようやく状況設定完了!!
という訳で、次回は暴れます。
恐らく表側で、NEXTが本当の意味で暴れるのは今回が初となると思います。

―――アーマードコア・ネクスト。

―――たった26機で国家を解体してのけた化け物。

IS世界でついに、その“力”を振るう時が来ました。


あとセシリアさん。
次回限定で非常に強力な武装が使えますが、それでも厳しい状況なのです。使えるカードをフルに使って、どうなるか………というところでしょう。

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