運命とぐだぐだな日々   作:いんふぇるの。

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絶望の終わりを持つ二人を見た。

無念の終わりを持つ二人を見た。

その人生の凄絶さは、恨みと呪いを叫んでも。

それは当然だと言えるほどに、二人の終わりは痛みに満ちていた。

けれど、そうだとしても。

笑い、祈り、願い、輝く。

少年は、人の強さを二人に見た。


二人の偶像

特異点フランス。

 

この世界の空はかつて幻想に覆われた。

時代は15世紀、すでに人の時代が始まって久しく、幻想はただの物語でしかなかった。

だが、この特異点の黒幕は、聖杯の力で強大無比の幻想を呼び出し世界を恐怖のどん底に叩き落したのだ。

 

人の身では届かない脅威の存在、竜。

 

もはや物語の中で語られる程度の存在だったそれが、現実として世界を襲ったのだ。

この時代に生きる民の恐怖は計り知れないものであっただろう。

 

かくいう俺も、英霊という幻想を知っていたが、それでも竜を見たときは恐怖に震えたものだ。

多くの英霊達の力を借り、なんとか幻想を打ち倒し聖杯を回収することができたが、できれば竜にはもう関わりたくないものだ。

 

竜という埒外の存在は、今一度俺に戦うということを考えさせた。

特異点を修復する度に敵はより強く、より狡猾になってくる。

ならば俺たちは敵を超える強さを手に入れなければならない。

だから、鍛えよう。

俺も仲間も。

立ちふさがる困難に立ち向かうために。

なにより、人理焼却なんてふざけたことをしてくれた奴を殴るために。

だから、心も体も、仲間と共に鍛え、磨き続けよう――――

 

 

 

 

 

 

 

「歌いましょう!踊りましょう!さあ、一緒にヴィヴ・ラ・フランス♪」

 

「ヴィ、ヴィヴ・ラ・フランスっ」

 

顔の角度が甘いぞマリー!

笑顔が硬いぞジャンヌ!

殴り込む世界はそんなに甘くないぞ二人とも!

 

「芸能界にでも殴り込むつもりですか先輩!?」

 

 

 

 

国はフランス、都市オルレアンの郊外の森。

深緑に染まる暗い森の中に俺たちはいた。

一人は困惑の表情でこちらを見つめる、黒い甲冑に人間並みの大きさを誇る大楯を持つ少女、マシュ。

一人は輝く様な微笑みを携え、純真無垢を表す白に身を包む王妃、マリー・アントワネット。

そして、凛々しい眼差しに多少の恥じらいを秘め、穢れを知らない白い甲冑を纏う、ジャンヌ・ダルク。

 

人目のつかない森の中で俺たち四人は隠れるように木々に溶け込んでいた。

 

「いえ、全然隠れてませんよ先輩」

 

まぁ、二人は白で目立つからね。

 

「そうではなく……さっきから発声練習や踊りの練習をしていれば目立ちもするかと。というか、何故そのような練習を?」

 

良い質問だ、マシュ。

この世界、特異点フランスは今、酷く傷ついている。

 

「はい。なにせ竜が大量に発生するという異常事態に見舞われましたから」

 

あぁ、そしてその傷はなにも物理的なものだけではない。

なによりも傷ついているのは人の心だ。

この時代、架空の存在として認識していた竜が現実のモノとして現れたんだ。

その衝撃たるや、俺達の想像をはるかに超える物だろう。

 

「そう、ですね。超常を知る私達と比べて、普通の人達が受ける衝撃は絶大なものとなったでしょう……」

 

あぁ、だからこそ必要なんだ。

 

――心を癒すアイドルが!

 

「発想が飛躍しすぎてついていけません先輩!」

 

アイドル、それは人に笑顔をもたらすモノ!

アイドル、それは人に癒しを与えるモノ!

アイドル、その輝きは三千世界を光照らすモノ!

 

さぁ、レッツアイドル!

 

「意味がわかりません!マリーさん達も困惑していますよ!」

 

「まあ!なんて素敵な存在なの、アイドル!人に笑顔を民に幸せを。素敵、それってとても素敵よマスター!いつだって私は輝くの、愛と笑顔が大好きだから!レッツアイドル♪」

 

「全然困ってませんね!ジャンヌさん、貴女ならきっと――」

 

「例えそれが偽りであったとしても、ジャンヌと名乗った人物が起こした痛みです。それを癒し、慈しむのは私の役割です。そのために必要ならば、その、れ、れっつあいどるっ!」

 

「恥ずかしいのなら無理せずとも……」

 

どうだ、マシュ。

覚悟完了した二人はもはやアイドルと言っても過言ではないだろう?

 

「アイドルって覚悟完了でなれるものでしたっけ……」

 

とにかく、今日よりマリーとジャンヌの二人をアイドルとしてプロデュースしていく。

俺のことはマスターPと呼んでくれ。

 

「マスタープロデューサーですか……呼びませんよ?」

 

呼んで。

俺には彼女達を一流のアイドルにする使命があるんだ。

 

「はぁ、アイドルに……アイドルと言えば、もう一人いますよね。目指している方が……」

 

彼女は我がカルデアプロダクションの秘密兵器だから。

まずは地域密着型のアイドルで知名度を稼ぎ、それから全国に発信するときにデビューするから。

 

「それ、秘密にしたい兵器では……いえ、なんでもないです」

 

とにかく、アイドルデビューに向けてトレーニングあるのみだ。

マリー!ジャンヌ!ステップ1番から5番まで通しで!

 

「キラキラ、キラキラ。輝くの」

 

マリー!ステップが甘いわ!回転はスカートがふわりと浮く感じよ!

 

「えぇ、わかったわマスター!」

 

Pとお呼び!

ジャンヌ!閉じる目が逆!テヘペロの時にvサインを横にして目に当てたほうを閉じなさい!

 

「は、はい!マスター!」

 

Pとお呼び!

いいわ、貴女達!とっても素敵よ輝いてるわ!

 

「なんで女性口調なんですか先輩」

 

ノリで。

ところでマシュ、白がイメージカラーの二人の間に、黒が入ると絵が映えると思わないか?

 

「思いません」

 

こんなところに黒を基調としたドレスがあるんだが。

 

「着ません」

 

マシュ、君のために誂えたんだ。

 

「き、着ませんからね!」

 

残念だ。

なんにせよ、マリーとジャンヌのコンビもようやく形になってきたな。

アイドルソングも完成したしデビューも近いだろう。

 

「アイドルソングまで作ったんですか。行動力ありすぎですよ先輩」

 

――作曲はアマデウス。

 

「――世界一豪華なアイドルソングですね」

 

マリーのためならばと彼は喜んで作曲してくれたよ。

そうそう、グッズとしてサイリウムも作ったぞ。

 

「あの、その三色に光るライト、どこかで見覚えが――」

 

――製作担当はアルテラ。

 

「軍神の剣じゃないですかそれ――!」

 

彼女が手に取ったモノはなんであれ変質することを利用した一品だ。

そこらへんの石でも変質するから元手もゼロで採算性もかなりいいぞ。

 

「経費まで考えてるんですか先輩……でもよく協力してくれましたね、アルテラさん。アイドルなんてまさに文明から生まれたものなのに……」

 

確かに彼女も、アイドルは文明。破壊する。

なんて言ってたけど、俺の説得に応じてくれて納得してくれたよ。

 

「ちなみにどのような説得を?」

 

――アイドルは文明ではなく生き様だ、とな。

 

命は壊さず文明を破壊することを掲げる彼女は快く言ってくれたよ。

生き様は文明ではない。破壊しない、と。

 

「説得できたのはすごいですけど、その生き様はすごくないです」

 

………

……

 

森の中でトレーニングを続ける事数時間。

踊りも歌も高い完成度に達した。

輝く笑顔の二人に、見ているだけでこちらも自然と笑顔になる。

今まさに、二人の輝きは新たなるステージへと昇華したのだ。

 

だが、より高いレベルに達したからこそ物足りなさが露呈する。

二人に落ち度はない。

あるとすればそれは周囲にあるだろう。

いかに二人が完璧であろうと、二人を彩る環境が彼女たちに追いついていないのだ。

そして、その足りない部分を補うのは俺の仕事だろう。

アイドルを支えることこそ、Pの仕事なのだ。

 

「あの、先輩はプロデューサーじゃなくてマスターですからね?」

 

Pとして彼女たちに相応しい演出はすでに用意してある。

その演出をここで披露しよう――!

 

――照明!

 

呼び声と共に指をパチンと弾く。

すると、二人を祝福するように一筋の光が天から舞い降りた。

 

「わぁ、スポットライトですね。光に照らされてお二人が輝いてます。でも、ここは森なのにどこから光源が――」

 

キョロキョロと周囲を伺うマシュ。

不自然に降り注ぐ光の筋から、人工的な物だろうと考えたのか周囲を伺っている。

 

二人の後ろを注意深く覗いてみるといい。

裏方の頑張りが見えるはずだ。

 

「お二人の後ろ、ですか?えっと……」

 

 

 

 

 

神聖たる旗に集いて吼えよ(セイント・ウォーオーダー)――!」

 

「何やってるんですかジル元帥――!」

 

照明担当のジル・ド・レェだ。

 

「宝具を照明代わりに使わないでください!」

 

 

 

マシュの懇願により一旦トレーニングを休憩し、照明担当を呼び寄せる。

 

「完全にジル元帥をスタッフ扱いですね先輩!?元帥もこんなことに付き合わなくても……」

 

「いえ、マシュ殿。民を安堵させるのは軍人たる私の役目。そのために我が宝具が役立つならば、それは望外の喜びです」

 

「なんという滅私の精神。さすがは元帥閣下です――」

 

ジル、バイト代をまだ払っていなかったな。

約束通りジャンヌのサイン入りブロマイドだ。

 

「我が身命を賭して燃え尽きるまで光で照らして見せましょう!」

 

「完全にファンじゃないですか元帥――!」

 

 

………

……

 

 

照明の機能はしっかりと確認できた。

バイト代も払ったし、本番に備えて照明担当には休んでもらおう。

 

「輝くような笑顔でブロマイドを握りしめて帰っていきましたね、元帥」

 

アイドル効果は既に出ているようだな。

汚い方の元帥と取り合いの喧嘩にならないことを祈るばかりだ。

 

さて、照明を入れて本番さながらの環境も試したことだし。

ここらで一度、曲を流して最初から最後まで通しでやってみようか。

残念ながら音響は持ち運びできる小さなスピーカーだから質はそこまで良くないが、それでも練習としては十分だろう。

 

「ついに歌うんですね。その、実はわくわくしています」

 

なんだかんだと言ってもマシュも期待しているのだろう。

楽しむことはいいことだ。

 

「頑張りましょうねジャンヌ!」

 

「はい、お互いに全力で、マリー」

 

二人も気合十分のようだ。

ならばリハーサルということで、進行のナレーションを入れて本番のつもりでやってみようか。

ナレーションの進行に応じて歌いだしてくれ。

 

「胸がドキドキするわ、とっても素敵!」

 

「これまでの努力、ここに成果として表します!」

 

では、んんっ――

 

違う時代違う場所に生まれた二人。

けれど二人は使命を背負う。

 

互いに立場は違うけど。

背負ったモノは同じフランス。

 

「なんで歌謡曲風の入り方なんですか先輩……」

 

大きな使命を掲げて生きる。

だけどけっして挫けはしない

それが乙女の生き様だから。

 

それでは聞いてください。

二人のデビューシングル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――フランス☆レヴォリューション!

 

「そのタイトルはアウトです先輩!」

 

 

 

 

 

どうした、何か問題でもあったかマシュ。

 

「問題しかありませんよそのタイトル」

 

まぁ、言いたいことは分かる。

とはいえ、マリーがこの曲名がいいって言うからな。

 

「マリーさんが?」

 

最初はラヴ・レヴォリューション15~18世紀というタイトルだったんだが……

 

「それはそれでアウトだと思います。でもマリーさんはそのタイトルでは駄目だったのですか?」

 

「私とジャンヌが歌うんですもの。やっぱりフランスという言葉を入れたいわ」

 

「それならラヴ・フランスで良かったのでは……」

 

「それじゃあ愛が二つに別れてしまうもの。フランスは愛の国。フランスそのものが愛なの。ラブ・フランスだと愛が二つでしょう?やっぱり愛は向き合って一つに重なり合うべきだわ。だから、ね?」

 

「はぁ……えっと、よくわかりませんが、マリーさんが納得しているのなら……」

 

俺も諸々大丈夫か心配だったけど、まぁインパクトはあるしな。

 

「インパクトありすぎて、聞いてる側の気まずさがすごいのですが」

 

ぜひともサンソンに聞いてもらいたい。

 

「鬼ですか先輩!?」

 

何はともあれ、聞いてくれマシュ。

彼女達の愛の歌を――!

 

 

………

……

 

 

「あの、かれこれ10分以上同じ曲調が続いて、お二人もずっとステップ踏んでいるだけなんですが……」

 

アマデウス作曲だからな。

まだ第一幕序章にすぎない。

歌いだしは第二幕からだ。

 

「それもうポップスじゃなくてオペラですよ!?」

 

ちなみに演奏時間は3時間40分。

アマデウス作曲最長演奏時間を記録更新だな。

 

「気合い入れすぎですよアマデウスさん――!」




サーヴァントマスターシンデレラガールズフレンド(仮)
君はアイドルをプロデュースできるか
その答えはドリンクだけが知っている

温泉回で男ばかりだったので
アイドル回で女の子ばかりにしました
え?サヴァ界一のアイドルがいない?
彼女、まだデビュー前だから(震え

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