運命とぐだぐだな日々   作:いんふぇるの。

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果てのない青が綺麗だったから。

どこまでも続く蒼を美しいと思ったから。

だから誓った。

本物の空と海を取り戻すことを。


遥か夢の先

――果てのない海と空。

 

どこまでも高く、どこまでも広い二つの蒼。

その澄み切った蒼は、人理修復という重圧に苛まれた心を癒すようだ。

 

たとえその広さが特異点による偽りの無限だったとしても、ここにある空と海の雄大さは決して嘘じゃない。

視界に広がる水平線に何もかもを受け止めてくれるような寛容さが感じられ、さすがは母なる海と言わざるを得ない。

 

例えここが偽りの海でも。

例えここが無限に続く地獄でも。

この蒼き美しさは、きっと本物なのだ。

 

だから、すこしだけ海に頼ろう。

この胸の内を苛む弱さを空へ渡そう。

明日は必ず歩くから、今だけは二つの蒼の雄大さに縋ろう。

 

心に溜まった鬱屈を、背負った重圧の重さを、この広い海と空へ解き放つ――!

 

 

 

 

 

 

 

――リア充爆発しろ!

 

「――リア充爆発しろ!」

 

 

 

 

 

重なった言葉に隣を振り向くと、そこには汚いおっさんがいた。

 

「汚いおっさんとはヒドイ!当たってますが!」

 

――で、何か用か、黒髭。

 

「用もなにも、そもそもここ拙者の船なんですが。マスターまじ寛ぎすぎで黒髭戦慄!」

 

確かにここは黒髭の船だった。

わざわざ沖に出て貰って悪いな。

 

「いえいえ、拙者もたまには海にでとかないと首裏にぶつぶつがでるので、海賊的に」

 

海賊、海に出ないと蕁麻疹でるのかすごいな。

 

「んんwwwただの不摂生のせいでござるwwwデュフフフフフwww」

 

野菜食え野菜。

 

「しかしマスターがリア充爆発しろとはいただけない、思わず共感しちゃったでござる。日ごろリア充のマスターに何かあったので?」

 

あぁ、聞いてくれるか?

ここ最近のカルデアの風紀についてどう思う?

 

「と、言うと?」

 

うむ、例えばランサー組なんだが。

我がカルデアの筆頭ランサーのクー・フーリン。

 

「あぁ、あの全身タイツの放送ギリギリのあの方。拙者もさすがに全身タイツはないわーと思ってた次第」

 

お前がそれを言うのか半裸。

ともかく頼りがいのある切り込み隊長の彼だが……

 

最近カルデアにきたスカサハとくんずほぐれつよろしくやってたんだ――!

 

「あのエロタイツボインと――!?」

 

つい先日の深夜、カルデアの訓練施設で激しい音が聞こえたから覗いてみたら、全身汗だくの二人が組み合っていたのを見たんだ。

 

あの二人は師弟らしいが、夜の訓練もばっちりってかちくしょー!

 

「あれ、その日、拙者確か血まみれで倒れてるクー・フーリン氏を見たような。あ、はい、なんでもないです」

 

それだけじゃない!

援護役の筆頭、アーチャーのエミヤだが……

 

アルトリア・オルタに服を押し付けられているところを見たんだ――!

なにそれどういう使用用途なのか先生気になります!

 

「あぁ、エミヤ氏、手洗いで洗濯してくれるから複雑な衣装の人から人気があるんだよね――あ、はい、なんでもないです」

 

どうだ黒髭!この風紀の乱れは!?

俺も混ぜてください!

 

「圧倒的逆恨みの上に欲望ダダ漏れで親近感。やだ、マスターと拙者の相性ばっちり……?」

 

それはノーサンキュー。

 

「ノータイムで断った!?ともかく、デュフフフフフwwwさすがは拙者のマスター、その叫び実に童貞臭くてよろしい!いっそ友情すら感じますぞwwwそういうことならば、存分に叫ぶがいい友よ!海は全てを受け入れてくれますからな!」

 

ありがとう、友よ。

こんな青少年の思春期の叫び、海じゃないとできないからな。

 

では遠慮なく――

 

 

 

 

 

「あ、先輩!ここにいらしたんですね。せっかくの海なのでお弁当を作ってきました!ぜひ食べてください!」

 

――悪いね黒髭。君はいい友人だった(■■■)よ。

 

「裏切ったなぁぁぁぁ!!!拙者の気持ちを裏切ったなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ。今回はシンプルにジャパニーズライスボールを作ってみました」

 

「美少女手ずから握っただと――!」

 

ははは、ありがとう、マシュ。

実においしそうだ。

 

「はい!ぜひご堪能ください」

 

「チラッ、あのーマスター、6個もあるし、拙者に一つくらい恵んでくれても……チラッチラッ」

 

いやぁ、目移りしちゃうな。

どれから食べようか。

 

「ガンスルー!?」

 

シンプルな海苔の巻かれた三角形の整ったおにぎり。

どれも同じのはずなのに、どれもがおいしそうに見えて迷ってしまう。

まぁ急ぐ理由もないし、ゆっくりと選ぼうじゃないか……

 

 

 

 

「まぁ!なんて卑しい眼差しで見るのかしら!しょうがないわね、しょうがないのよね!なんせサーヴァント界、略してサバ界一のアイドル、エリザベート・バートリーが作ったのだもの!存分に目で楽しみ鼻で楽しみ舌で味わうといいわ子犬!」

 

――黒髭、俺達、友達だよな。

 

「あ、拙者引きこもりニートなのでぼっちでござる」

 

裏切ったな!俺の気持ちを裏切ったな――!

 

 

 

 

――マシュ、説明。

 

「料理しているところをエリザベートさんに見つかりまして、自分も作ってみたいと……」

 

なるほど。

理由は単純。納得の理屈。

けれど襲い来るのは理不尽。

あのエリザベートが作った料理とか危険物以外のなにものでもない。

 

エリザベート・バートリー、少々奇抜な衣装の角と尻尾を持つドラゴン娘、略してドラ娘。

アイドルを自称する彼女は、確かに可愛らしさと美しさと兼ね備えた美少女だ。

だが、圧倒的にアイドル足りえない。

まず音痴。それも兵器級。

というか、声が宝具扱いってどういうことなの。

あと竜の血を引いてるらしい。特にそういう伝承はないのに。

こんな感じで理不尽の塊なのだ、エリザベートは。

 

そんな彼女だが、料理の腕もまた、理不尽の如く壊滅的らしい。

真っ赤に染まるフルコースを食べた日には口からエーテルの噴射が収まらない、と風のうわさで聞いた。

 

その彼女が作ったおにぎりもきっと超危険なはず――いや、おにぎりだよな。

米を握るだけなんだ。大丈夫、きっと大丈夫なはずだ――だよね、マシュ。

 

「――ごめんなさい」

 

目を逸らさないでお願い。

どうする、ここは6個も食べれないといって辞退するか……?

 

「頑張って作ったんだから!きっとおいしいわー!」

 

――笑顔で自慢する彼女の期待をどうして裏切れようか。

 

覚悟を決めろ。

彼女は俺のために作ってくれたのだ。

ここで食べずにどうして彼女のマスターと名乗れようか。

 

よし、意思は決まった。

おにぎりを食べよう。

とはいえ、こぶし大のおにぎりが6個とは少々量が多いと言わざるを得ない。

ここは食事を共にする者が必要だろう。

やはり複数人で一緒に食べることも、料理のスパイスとして大事なのだ。

 

だから、マシュ。

 

「はい?」

 

こう言ってくれ――

 

「はぁ……えっと、黒髭氏、頑張って握りました、ぜひ食べてください」

 

「喜んで!マシュ氏が握ったおにぎりとかもう辛抱たまりませんなぁ――――――はっ!?」

 

ようこそ黒髭。

ここが地獄の一丁目だ。

 

「おのれマスター!はかったなぁぁぁぁぁ!?」

 

騙し打ちは海賊の常套手段だよ船長。

 

「ぐうの音もでない!?」

 

 

 

 

 

テーブルに置かれたバスケット。

その中に無造作に置かれたおにぎりが6個。

その内当たりが3個、そして――地獄が3個。

残念なことに持ち運ぶうちに混ざり、マシュも作ったおにぎりの判別はできないそうだ。

 

――どれだ。

どれが正解でどれが即死選択肢なんだ――!

 

確率は二分の一。

二分の一で生き残れる。

だというのにこの手は空を泳ぐだけで一向におにぎりに伸びない。

汗が滲む。膝が震える。

どれだ。俺はどれを選べばいい――!

 

「はっ、びびってんじゃねぇよ小僧」

 

――黒髭?

 

「まずはこの黒髭様が一番槍をいただくぜ」

 

ニヤリと笑うその不敵さ。

普段からかけ離れた苛烈な瞳。

これこそがカリブ海にその人ありと言われた伝説の海賊の風格――!

 

「突撃奇襲は海賊の誉れよ!テメェは俺の背を見てからきやがれ!」

 

黒髭、お前――

 

 

――海賊の誉れ(ガッツ)使ったな?

 

「――テヘペロ☆」

 

 

一人だけ生き残るつもりか――!

 

「デュフフフwwwこれでどちらが握ったおにぎりを食べようとも生き残りかつ、どちらを食べても美少女の握った物を食べれるというわけですなぁwww」

 

卑怯だぞ黒髭ー!

 

「卑怯卑劣は海賊の十八番ですぞwwwそれでは、いただきます――――――――――――――ごはぁっっっ!?」

 

まさかのガッツ貫通――!?

 

黒髭の口から米と共に白いエクトプラズムのような何かが噴き出る。

倒れ伏した彼に先ほどまでの生気はなく、ビクンビクンと打ち上げられた魚のように痙攣するだけだ。

慌てて傍に寄り状態を確かめると、白目をむいてぶつぶつと何かを口ごもっている。

 

「ま、マスター……せ、拙者は……」

 

――なんだ、俺に何を伝えたいんだ黒髭!

 

「拙者は、拙者は――――――――――――!」

 

震える声で小さく漏れたその言葉。

まるで今際の際の遺言のような小さな言葉を逃すまいと耳を近づける。

 

 

 

 

「――――海賊王に拙者はなる!ガクリ」

 

お前敵役だろ。

 

 

 

 

というか違う番組始まっちゃうだろ。

グランドオーダーじゃなくてグランドライン始まっちゃうだろ。

 

心配した俺が馬鹿だったようだ。

こいつはこのまま放置しておこう。

さて、そうすると残った問題は……

 

倒れ動かなくなった黒髭をよそに、こうなった原因を横目で見る。

 

「あら、美味しすぎて倒れちゃったの?まぁ、あたしが作ったんだから当然よね!」

 

――ポジティブすぎるだろこのドラ娘。

 

腰に手をあてて胸をそらし、ふふんと鼻をならす姿に戦慄を隠し切れない。

 

「あの、エリザベートさん。美味しくて気絶することはないかと」

 

ナイスフォローマシュ。

今すぐ君に拍手を送りたい。

 

「あら、知らないのマシュ?人間、あまりにも美味しいものを食べたら、口から光を出したり爆発したり龍に乗ったりイメージ映像が流れたりするのよ?」

 

それ料理漫画だから。

むしろギャグ漫画だから。

誰だエリザベートに漫画知識を植え付けた馬鹿は――!

 

「マスターの部屋で読んだ書物に書いていたから間違いないわ!」

 

――俺だった。

 

まるで自ら死刑執行の署名をしてしまったような気分だ。過去へ還りたい。

 

「さぁ、マスター。1個減っちゃったけど、まだまだアイドルクッキングは残っているわ!涙を流して感謝にむせびながら召し上がれ!」

 

あぁ、涙は流れてるよ。

後悔と恐怖でな。

 

さて、残ったおにぎりは5個。

その内、はずれは2個。

確率は5分の2、先ほどよりは多少ましになった。

とはいえ、黒髭の惨状を見てしまった今となっては、恐怖感は先ほどよりも増し増しだ。

 

どれを選ぶべきか――

 

(先輩)

 

――マシュ?

 

まるで耳元で囁かれたようなかすかな気配。

声をかけられたわけではないのに、呼ばれたような気がしてマシュに振り向く。

 

――コクリと頷かれた。

 

その瞳は雄弁だった。

言葉を介さない意思疎通。

いつかマシュが言ったような瞳と瞳のコミュニケーション。

間違いない、今まさに俺とマシュの心は繋がっている――!

 

(一番右端のおにぎりは私が握った物です)

 

視線だけで分かり合う一体感。

誘導されるように一番右端に手を伸ばすとマシュは微かに微笑み頷いてくれる。

 

間違いない、これが安全牌――!

 

右端のおにぎりを掴み上げ口へと運ぶ。

 

――いただきます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

――どれくらいの時間、海を眺めているのだろう。

 

桟橋に腰を下ろし、足を海に浮かべ波の動きを感じる。

照りつける太陽を気にすることなく海を眺め続けている。

 

いや、眺めているのは海ではない。

正確には、その先。

 

俺が見ているのは――海の果てだ。

 

あの海の先には何があるのだろう?

あの空の向こうには何が待っているのだろう?

 

心に秘めるそんな想いのままに、海を眺め続けている。

疑問の答えを知ることなんてできないのに、見続けている。

 

知りたいという好奇心は確かにある。

けれど、無理だ、という諦めもある。

 

――海の先へ行くことなんて無理だ。俺には眺めることしかできないんだ。

 

なんて弱弱しい言い訳だろうか。

だけどその弱さを覆す意思すら今の俺にはない。

 

 

「――諦めるのか?」

 

――!

 

 

丸めた背中の後ろから声がかかった。

かけられたその言葉に身が竦む。

その言葉の重みに後ろを振り向くことすらできない。

 

――諦めるのか、だと?

 

そうだ、俺は諦めた。

無理なんだ。無謀なんだ。

 

海を渡るという行為が、どれだけ危険かわかっているんだ……!

 

「そうかい。だったらなんで――――――泣いてるんだ?」

 

――そう言われて、自分が泣いていることに気が付いた。

 

「悔しいんだろう?」

 

――そうだ、悔しい。

 

「諦めたくないんだろう?」

 

――諦めたくない。

 

「果ての果てを見たいんだろう!?」

 

――見たい!

 

けれど、それは夢なんだ。

想いだけで形のない夢なんだ!

 

夢を見ることはできる。

けれど、夢は夢でしか――

 

 

「人の夢は!終わらねェ!ドンッ!」

 

ドンって口で言わないでください。

 

 

あまりにも強い、その言葉。

引き寄せられるように後ろを向く。

そこには、豊かな髭を蓄えた男がいた。

薄汚れたどこにでもいるようなおっさんだ。

だけどその目は、海の向こうを睨むその目はなによりもなによりも輝いている。

 

「夢がある限り諦めなんかどこにもねぇ!欲しいもんは全部手に入れるまで足掻き続ける!それが――海賊ってもんよ」

 

ニヤリと笑うその不敵さ。

睨め付ける眼光の鋭さ。

これが、海賊。

これこそが、海賊――!

 

「怖けりゃ俺の背中だけ見てな。そうすりゃいつか、必ず辿り着く。お前の欲しかった海の向こうってやつによ――!」

 

あんたは、あんたはいったい――!

 

「エドワード・ティーチ。海賊王になる男だ。ついてきな、小僧。欲しいもんは全部向こうにある。果ての果て、空の彼方、海の向こうに」

 

キャプテン!

 

「おうよ!いくぜ、ひとつなぎの財宝(ワン○ース)を探しによ――!」

 

その単語はアウトだ――!

 

 

 

 

 

 

……

…………

……………

 

――別番組始まってんじゃねーか!?

 

「先輩!気が付いたんですね!」

 

目の前にマシュの顔。

どうやら倒れている状態で抱きかかえられているようだ。

俺はいったい……?

 

「白いエクトプラズムのような何かを口から出して倒れたんです」

 

――何それ怖い。

 

というか、そうなったということは俺が食べたのはマシュのおにぎりじゃなかったのか……?

 

「いえ、あれは確かに私が握ったおにぎりのはずです」

 

ならば何故――

 

「あら、良かったじゃないマシュ。貴女のおにぎりもあたし並に美味しくなったみたいで」

 

「エリザベートさん?」

 

「うんうん、アレンジしてあげた甲斐があったわ。貴女って塩でしか味付けしないんだもの。物足りないと思ってちょっと手を加えてあげたのよ?存分に感謝しなさい!」

 

「エリザベートさん!?」

 

正解なんてどこにもなかったんだね――――――ガクリ。

 

「先輩?目を開けてください先輩ーーーー!!」

 

 

 

 

 

――その空はどこまでも高く――

 

――その海はどこまでも広く――

 

――二つの蒼は魂を誘う――

 

「エンディングみたいになってますよ先輩――!」

 




クロスオーバータグ必要ですかね(震え)

黒髭氏、書いてみるとすっごい難しい
誰か黒髭氏の書き方教えてください

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