サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「8話のあらすじ」
嫌々ながらも手伝うことになり、平賀の元で新しい装備を整えた後理子のよくわからない命令を遂行する。
足が折れてるにも関わらずSランク武偵に組手を挑むサイカイはバカだと思う。

*ここからAAも入っていきます


9 武偵事件終結+

Kinji side

 

朝、アリアがなぜか帰って来なかったので、久しぶりの平穏な朝を過ごした。日常っていうのは無くなった瞬間に大切さがわかるものだ。

 

今俺はその意味に激しく同感している。だからこそ、いつもより早めに起きていつもよりゆっくりと食事をとり、いつもよりすこし早めに家を出た。

 

昨日家の時計と合わせ直しておいた時計で時刻を確認する。7:53、バスが来るのは7:58だから全然間に合う。5分前行動というやつだ。

 

「アリアがいないと朝もスムーズだな」

 

そう独り言を言いながら階段を下りてバス停へ向かう。

 

「いつものバスにも余裕で…」

 

ーーそう言った俺の先で、なぜか知り合いの乗ったバスが見えた。そのバスはそのままバス停を走り去っていく。

 

「武藤…!?ってことはあれは58分の…!!」

 

知り合いの顔がバスの中に見えた。ということはあれは俺が乗る予定だったバスで間違いない。

慌てて走ってみるものの、バスは道路をどんどん進んでいき、すぐに姿が見えなくなった。

 

ちくしょう、なんでだ??時間より5分も早く出発するなんて今までになかったぞ??

 

その後しばらく歩いていると、アリアから着信があった。

 

 

 

『事件よ!バスジャックが起きたわ!!』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほどね」

 

俺はキンジの様子をバス内から見ながら、理子が俺に指示した意味を理解していた。バスに乗らせないため、アリアをキンジに近づけさせなかったのは二人だと時計をいじったことに気づかれるからか。だったらそう教えてくれればいいものを…

 

 

そう思いながら小さくなるキンジを見ていると理子からの着信。

 

『しゅーちゃん、やっほー♪』

 

「そういや朝からそのテンションだったな。俺は痛みで寝不足だってのに」

 

『寝不足なら理子も寝不足だって~!2時間だよ2時間!!もう乙女の肌の大敵~!!』

 

「一日くらいどってことないだろ?」

 

『あ、しゅーちゃんそれ言ったらダメ~!!一回でもいいや~ってやっちゃったら後々戻せなくなるんだからねー、特にお腹!!ぽんぽこ!』

 

「そういうもんかね」

 

女のそういう部分はよくわからん。というかこいつはそんなこと言うために電話してきたわけ?

 

『ーーーそれで、お前はちゃんとバスにいるんだろうな?』

 

おお、きたな裏理子(性格というか話し方がまるで違うので命名)。こいつと話すときはちょぴっと緊張するんだよな。

 

「おう、ちゃーんと礼儀正しく座ってますよ」

 

周りには武偵のやつらがわんさかだ。まああまり騒がないほうがいいだろうな。

 

『あと一分後に携帯のアレを鳴らせ。それから事件スタートだ。あとは、できるな?』

 

「ま、なんとか。んじゃあバス内だし切るぞ」

 

『ほいほーい!頼んだぞ、しゅーちゃん♪』

 

ブツっと電話が切られる。俺も昨日準備して考えてはきたが、どうしたもんかね。やっぱりこのバス武偵しか乗ってないんだけど。

 

しかも見渡したら強襲科Aランクの不知火(しらぬい) (りょう)までいるじゃん。まじで大丈夫かな…。

 

 

 

まあ、だからと言ってやらないという選択肢はないんですけどね。

 

 

 

俺はサっとあるものを椅子の下の、空いた隙間に投げ入れる。

 

(…ま、やれるだけはやってやるさ。金ないしな)

 

一分が経ち、昨日送られてきた携帯を起動させた。

 

 

ピリリリリリリリリリリ!!ピリリリリリリリリ!!

 

 

「おおっと、しまった!マナーモードにしてなかったな。あっはっはは」

 

携帯が大音量でバス内で音を鳴らす。ちょっとセリフが棒読みになってしまったが周囲の目線がこちらに移ったのを確認。

 

そのまま俺は起動した画面を見つめ、ビックリした表情をする。…できてるかどうかはわからんが。

 

『この、バスには爆弾が仕掛けてあり、やがります』

 

バス内に十分に響く音量で流れた音声。

 

うっし。武偵殺し事件発生、だな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『速度を落とすと爆発しやがります乗客はおとなしくし やがれです』

 

バスが出発して15分がたった。おそらくもうアリアが動き出したりでもしてるんだろうなか、俺はここでのリーダー格である武藤 剛気(むとう ごうき)の命令に従って椅子の中やら上の物置部分を調べていた。

周りにはおそらく20人ほどの武偵。俺がおかしなことをしたらすぐにばれてしまうだろう。

 

だから、

 

「不知火。爆弾はあったか?」

 

武藤がAランク武偵不知火に呼びかけるが、不知火は首を横に振った。まあ、爆弾がどこにあるのかはわかってるからこのバス内の人間がいくら探しても見つからないことはわかっている。ここをうまく使わせてもらおう。

 

先に『バウンス』させといてよかったぜ

 

「おい、武藤…だっけか?爆弾かどうかはわからんが、変なのがあったぞ」

 

俺は武藤に呼びかけこちらに来てもらう。そして椅子の下に挟まったある緑色の物体を見せる。武藤がそれを見て顔を(しか)めた。

 

「こりゃあ…なんだ?ゴムみたいな」

 

椅子の下に挟まっていたのは緑色のゴム材質のなにかだった。それが今も少しづつ大きくなっている。

 

『あーあー、バス内に二つ目の爆弾を設置してま やがります?武偵の、みなさんが、最初の位置に座らないと、どんどん膨らんで、最悪爆発します、よー??』

 

武藤の持つ俺の携帯(仮)から新しいメッセージが送られる。ああこれ、昨日俺が撮ったやつだ。加工してるけど自分の声って聞くと恥ずかしいよな。

もう言ってもいいだろう。その緑色の膨らんでいるゴム状のものとは、つまり、『跳ねるたびに大きくなるスーパーボール』のことだ。実際には爆弾なんて入ってないし、ただバウンスして膨らんでるだけだし、そもそもそんな爆弾見た事ないでしょとも思う。

 

 

「な、なにぃ!?み、みんな座れ!!爆発するぞ!!」

「う、うわぁ!!爆発!?」

「座れ座れ!!」

「みんな、落ち着いて!!」

「やばいって!まじ膨らんでる!!」

「お、おいそこ俺の席だ!!」

 

一度パニックにすればそんなことを見るやつなんて、いないよな。あ、ちなみに最初に大慌てしたのは俺だ。ヘタレは任せろ、大得意だ。

 

皆が武偵殺し(俺)の命令を聞いて、それぞれの位置へ座ったり、元の位置で立ったりしている。おお、なんだこの優越感。なんか、いままで馬鹿にしてたやつらが俺の言うこと聞くってのも新鮮だな。…いかんいかん。これはあくまで武偵殺しの真似ごとだった。

 

「お、おいどうだ岡崎!爆弾膨らんでるのか!?」

 

「あ?い、いや。なんとか大丈夫そうだ」

 

男子生徒が一番爆弾(仮)に近い俺に確認するよう言う。スーパーボールは縦に大きくなるのを諦めどんどん横に大きくなっていっていた。まあ…大丈夫だろ。

 

「くっそ、武偵殺しめ!俺たちの動きまで封じてくんのかよ!!」

 

「…もう一つ、俺たちの動きを封じるものが、来たみたいだよ」

 

男子生徒が文句を言っているなか、不知火が窓の外をみながらそういう。そこには

 

「ちっ、機械兵器か!!」

 

 

俺も反対側だったが見てみると、黄色いスポーツカーにセグウェイもどきの時と同じ銃が取り付けられている。うーむ。理子やっぱあれ使うのか。アレ見るの結構トラウマなんだが…。

 

「中は爆弾、外は機械兵器か…。用意周到だな」

 

「だが、操作してるのは機械兵器のみでこっちの爆弾は俺たちが動かなきゃ大丈夫ってことは」

 

「先にやるべきは機械兵器、ってことか」

 

男子生徒たちがそれぞれでやるべきことを固めていく。すげえ俺と違ってすぐにやることを選んでいく。…そこが俺との違い、なのかな。

 

 

 

「ーーーッ!!伏せろ!!」

 

突然不知火が叫び顔を伏せた瞬間

 

機械兵器から銃弾がすべての窓に向かって撃ちこまれた。

 

窓が音を立てながら割れ、そのほとんどが座っている俺たちに降りかかる。お、おい理子さん…??俺もいるんだけど??

 

おそらくどこかからか操作しているであろう理子に心の中でツッコむ。もしかして俺のこと完全無視なわけかい?

…あー、ありえるぅ。あの理子だもんなぁ。あとまたガラス無駄にしやがったな理子のやつ。後で一言文句言ってやる。

 

「痛つ…防弾制服って言っても当たると痛いんだぞ…!!」

 

武藤が腕を押さえながら痛みに耐えていた。

一分ほどだっただろうかやけに長く感じた銃声がようやく終わった。何人かは当たってしまったようだが防弾制服のおかげでなんとかなったようだ。というか俺も当たったんだが…

 

俺たちはそれぞれでガラスを払ったりしながら

 

「俺たちの動きを完全に封じてきたな」

 

「ちっ」

 

外のスーパーカーは相変わらずバスと並走している。まだ撃てるということらしい。

 

「不知火、手を貸してくれ。あの外車を黙らせる」

 

「おい!無茶するな!!」

 

俺の隣でかっこよく座っている(ただ座っていると従ってるみたいで嫌なようだ)男子生徒三人が銃を持ち、不知火に援護を頼んでいる。あり?もしかしてあの機械兵器ぶっ倒そうとしてる?それされるとマズイ。

 

「俺たちは武偵だぞ!このまま引き下がれるか!」

 

一人の言葉に残り二人が頷く。さて、どうしたもんかね。

 

「犯人は僕たちの動きを監視している」

 

「わかっている。だがもうじきトンネルだ。そこに入る一瞬は監視カメラにも露出補正のタイムラグができるはずだ」

 

彼らが言っている露出補正とは、写り具合の明るさを自動で調節してくれるようなカメラについており、周りの明るさを測って、適正な露出になるように露出値を自動的に調整してくれることだとさ、調べた。だがそれには少なくても一秒はかかるらしい。その間、カメラを見ている理子からすると度の合っていない眼鏡をかけたようにぼやっとしたものになるだろう。つまりそこを狙うということだ。だが理子もその点に気づいていてもおかしくはない。もしかしたらもうあっちでその対策をしているかもしれないが、ここでこいつらが好きに動くとあとで仕事してないって怒られそうだな。

 

やるか

 

「不確定要素が多すぎる。危険だ!」

 

「そうだな。やめたほうがいい。もし相手に熱感知でもあったら逆に弾を撃ち込まれるぞ」

 

「あ?不知火はともかくEランクのお前がでしゃばってくんな!!」

 

「それはすんませんね」

 

「いや、岡崎くんの言う通りだ。やめておいた方が━━」

 

「もういい!!俺たちだけでやる。そっちのお前ら!席変われ!!」

 

正論を言ったはずが怒られてしまった。まあ、Eランクってのはそういうもんだ。不知火が同意してくれたのは素直にうれしかったけど、っといまはそんなこと言ってる暇ないよな。スポーツカー側の武偵と席を交代して準備をしだした三人を止めないと。

 

…しょうがない

 

「(おい不知火。あの三人を止めるぞ。やっぱり危険だ)」

 

俺は不知火に小声で声をかける。三人を守るために止めるとすれば俺のやることは正当化される。俺に話しかけられて驚いた表情を見せた不知火だがすぐに俺の方に頷いてくれた。

 

「(そうだね。でもどうしようか?あの三人をどうやって止めたら)」

 

「(ま、ここは手伝ってくれればいいから)」

 

「(え?…うん、わかった)」

 

 

不知火は俺の作戦もどきを聞き、すぐに頷いてくれて、三人の隣に座った。こいつ、いいやつだな。Eランクの言うことを素直に聞いてくれるなんて…ってそんなこと言ってる場合じゃなかった!そして俺も三人の隣に座り、俺と不知火で三人を挟んだ状態になる。

 

「やっぱり僕も手伝うよ」

 

「そうか、助かる!」

 

「…岡崎くんは合図をお願いね!」

 

「おう、りょーかい」

 

こうしてトンネルの入り口まで迫る。三人の目は武偵そのものだった。正直かっこいいとも思う。

 

「3」

 

一人の掛け声が聞こえる。俺と不知火もお互いを見て、構える。少しのミスも許されない。俺の中で緊張が走る。

 

 

「2」

 

視界が暗くなり、トンネルに入った…!もうすぐ…

 

「1!!」

 

三人が立ち上がり外に銃を構えた瞬間ーー

 

「いまだ!引け!!不知火!!!」

 

「ーー!!」

 

三人が引き金を引くより速く、俺と不知火は三人の前に通しておいた紐を前に引っ張った。

それによりグンと腹を引っ張られた三人は体勢を崩し、バスの中を転がる。

 

紐は『のびーる』の紐を伸ばしておいた。それを三人に気づかれないように不知火に渡しておいたのだ。

 

三人の弾は、撃たれなかったが

外からの銃弾が先ほどまで三人の男子武偵の頭のあった部分を通過し、バスの天井に突き刺さった。

理子はやはりそれも読んでいたようで、一発だけではあったが撃ったようだ。

あ、あぶねぇ…引っ張ってなかったら今頃この三人のうち一人の顔面に穴開いてかもしんねぇぞ!?

 

「って、てめぇ!!岡崎!!Eランクの癖になにしやがんだ!!」

 

と、弾が撃ち込まれたことに気づかない男三人は俺がただ邪魔をしたと思い、俺の胸倉をつかんで顔面を殴ってきた。…って

 

「やめろ!見るんだあの穴を!岡崎くんが助けてくれなかったら君たちの誰かの頭にあれが当たっていたんだぞ!!」

 

だがそこに不知火が助け舟を出してくれる。…助けるなら殴られる前にしてほしいものだが…

 

「…ち!」

 

俺の胸倉をつかんでいた男はそれを見た後俺を突き飛ばし、席に戻って行った。いってて…

 

「大丈夫かい?岡崎くん??」

 

「ああ、まあ。さんきゅな不知火」

 

「いやいいんだ。助けてくれてありがとう」

 

こいつ、自分が助かったんじゃないのに俺にお礼言うなんてどんだけいいキャラしてんだよ。

 

俺は大丈夫だと言ってまたスーパーボールの上の席に座る。さて、次はだれを止めればーー

 

 

と、そのとき

 

 

外から一発の銃声が聞こえた。

 

 

そしてそれは機械兵器のスーパーカーのタイヤをパンクさせ、後方で爆発させてしまった。

 

(し、しまった!誰かが撃ったのか??)

 

理子に怒られると焦ってみてみると、車内のだれも撃った様子はない。…ん?ってことは

 

俺は立っている男子に席を交代してもらい。後ろを見る

 

 

 

 

「……来るのが遅いぜHERO(ヒーロー)

 

 

 

 

見えたのはワゴン車の運転席から体を出し、銃を構えるピンクツインテにナルシストの天才だった。

 

はあ、ようやく俺の仕事も終わりだな。あの二人にはなにさせてもいいって話だったし。

 

俺が昨日言われたのは『アリアとキンジ以外に勝手な行動をさせないこと』それだけだ。つまり、もうお役御免ってことだな。

 

俺は安心して元の場所に戻る。さてと、あとは人質としてただ待ってればいい。

 

 

 

と、思ってたんだが

 

 

後ろの入り口が開いて、アリアが入ってくる。どうやら先ほど武藤に状況の説明を受けたらしい。流石Sランク来ただけで助かったような錯覚を受けるね。もう安心していい

 

 

あり?

 

 

俺は飛び乗って来たアリアを見つつ考えた。

このままキンジがあのワゴン車運転する、わけないよね。

来た以上頑張ろうとするはずだ。ってことは?

キンジもバスに来る=ワゴン車に誰もいない=運転できない=…………あ。

 

ワゴン車の方を見るとキンジがワゴン車のアクセルを固定しているところだった。ちょ、やっぱか!!

 

キンジのしていることを察知し、俺は慌てて席を立ち走る。

 

キンジは固定が完了したのかこちらに視線を向け、そして飛び乗って来た。

 

そして俺は

 

 

「くるまあああああああ!!!」

 

 

「な!?岡崎!?」「修一!?」

 

キンジが乗ると同時にワゴン車に飛び乗った。そして固定を必死にはがす。

 

「なにしてるのよ修一!!なんでそっちに、この先カーブなのよ!?」

 

「馬鹿かアリア!!この車ぶつけたらそれだけ何百万飛ぶと思ってんだ!!それに車一台いくらすると思ってんの!!そんなに簡単に捨てるなんてお母さん許しませんよ!!」

 

「あんたママじゃないでしょ!」

 

「おい岡崎、死んじまうぞ!!」

 

 

俺はキンジの言葉を無視し、がむしゃらに固定器具をぶっ壊していく。もう急カーブまで50mを切った。壁が近く感じる。もうすぐ、ぶつかる!!

 

 

 

そして

 

 

 

「………ッ!!!」

 

無理やりハンドルだけ解除して思いっきり右に回す。

 

 

ギャリッギャリ!!ギャリギャリッギャリッギャリ!!

 

 

ワゴン車は左を壁にこすりながら火花を散らす。俺は折れた右腕も全力で力を入れハンドルを何度も回す。

 

タイヤのすり減る音がひどく大きく聞こえた・・そして

 

 

そして、ようやくカーブに成功した。落ち着いた車が少し左にずれながらも持ち直す。どうやら爆発は免れたらしい。

 

そこから先は一直線だ。俺は一安心して息を吐く。

 

「…ふう。なんとかなっ━━」

 

「修一!!大丈夫なのー!?!?」

 

「ああー!なんとかなー!!」

 

少しバスと離れてしまったため、アリアに大声で答える。

 

「爆弾はあたしとキンジに任せて、あんたは避難しなさい!」

 

「はいよー」

 

さて、ワゴン車を片手で運転って難しいな。と思いつつ、俺はアリアに心の中で一言謝る。すまん、まだやることがあるんだ。

 

俺は携帯を離すとワゴン車のアクセルをグンと踏み、バスの入り口の横で並走させる。む、難しいな運転って。しかも左足でなんて…。

 

「キンジ―!聞こえるかー?」

 

「どうした岡崎!」

 

「天井に黒い何か装置がついてる!おそらくセンサーかなにかだ!ほかのみんなは座ってないとマズイ!キンジ、お前頼めないか??」

 

「天井…?この上か。わかった!」

 

キンジは俺の言うことを聞いてくれてバスをよじ登って行った。理子の最後の指令はキンジを狙撃しやすいポイントに連れていくこと。天井なら簡単だろ。

 

「さってと、もうこれで終わり。結果を見届けますかね」

 

そういって速度を落とし始めた俺の横を、新しいスポーツセグウェイが通って行った。

 

 

 

その後のことは簡単に言おう

 

あの後まんまとバスの上に行ってしまったキンジはその後に来た機械兵器の的にされ、撃たれてしまうその瞬間、アリアが庇ったことにより怪我はなかった。

 

アリアの方は額に傷跡が残ってしまうほどの怪我をしてしまったようだ。正直本当に殺したのかとビビったが、どうやら大怪我はしたが命に別状はないらしい。

 

さて、その爆弾がどうなったかというと

 

狙撃された。いや、意味わからん事を言っているのはわかる。実際後ろから見ていた俺もよくわかっていない。トンネルを抜けた先の橋の上にいるバスに、ヘリコプターでやって来た援軍がバスの下についていた爆弾を狙撃したらしい。…どんな神業だよ。

 

と、ここまでが今回のバスジャックのすべてだ。もちろん理子につながるような証拠も見つかっていない。まあ、俺もスーパーボールの先に小さな針をつけておいたから証拠もなくなったし。今回は理子の勝ちってことだろうな。

 

 

なんの勝負だったんだろう??

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後、バスも無事止められ、アリアを運ぶための救急車が到着したころ、雨が降り始め、辺りが薄暗くなる中俺は周りの群衆の中に紛れ込みつつ、その様子をうかがっていた。しまったな、傘持ってくるの忘れたぞ。

 

っと…ん?理子から電話?

 

 

『よー修一、お疲れー』

 

「おう。とりあえず作戦成功ってやつか?」

 

『アリアは生き残っちゃっただろうけどね。ま、キンジがHSSじゃなかったし生き残ってくれたほうがいいけどさ』

 

「あ?キンジが、なんだって?」

 

なんつったH…なに?

 

『くふ。なんでもないよ~。というかアリアを殺す予定だったことに怒らないんだね~。てっきり嘘ついたこと怒鳴るかなって思ってたんだけど?』

 

「ああ、それな。なんつーか、お前とアリアになんか因縁があるってことはわかってたし、理子もどうでもいい理由で殺そうなんて思わないだろ。だから俺が怒鳴るにも、ちゃんとした理由知ってからじゃないとおかしい」

 

『冷静だな』

 

「ま、犯罪に手を染めちまった以上これくらいはしょうがないさ。あとは…」

 

『あとは?』

 

「俺の尊敬するアニメキャラのセリフを使わせてもらうならあれだ『女の嘘を、許すのが男だ』ってやつ」

 

『くふ♪アニメって、修一そっち系なの?』

 

「んーどうだろうな。見るもんは見るが萌えとかはよくわからん」

 

『へー、じゃあ今度理子が教えてあげる。結構理子詳しいよ』

 

「あ、そーなの?んじゃよろしく」

 

なんか話がずれた気がするが…まあいい。

 

「んじゃ俺はもう帰るからな。仕事も終わったし」

 

『あ、それなんだけどさしゅーちゃん』

 

切ろうと思ったのに、なぜか引き留めた理子。…え?

 

『実は~理子が金さえ払えばなんでもするしゅーちゃんのこと話したらさ、知り合いがぜひ貸してくれって言ってきたんだよね~』

 

「は?」

 

ちょ、ちょっと待て。終わったんじゃないのか?てか金さえって…

 

「俺お前の言った通り動いたろ?もう十分じゃないのかよ?」

 

『んーそうなんだけどさー♪どこも人が多い方がいいみたいなんだよねー。きちんとお金は払うらしいからさ』

 

「…ったく。俺はなんでも屋じゃないし。お前ら悪の組織が欲しがるような才能も技術もないってのに」

 

『まあまあ。あ、じゃあその追加報酬に追加して、アニメ教えるとき理子が全額払ってあげるから』

 

「引き受けましょう」

 

即答だった。その日の食費が浮くんならどんなことでもやってやるさ。

 

『…チョロ』

 

「聞こえてるが否定はしない。で?その依頼主ってのはどこにーー」

 

 

「ここよ」

 

 

俺はタンカに乗せられるアリアを見ながら固まってしまう。後ろからいきなり女の手が俺の首を絞めたからだ。

 

「おわッ!?」

 

俺は思わずその人物から距離を取る。そしてその後ろの女を見た。

 

そこにはセーラー服を着た日本人形の様に切り揃えられた黒髪を持つ、クールな雰囲気の美少女がそこに立っていた。また、女子かよ。

 

「はじめまして岡崎修一。夾竹桃(きょうちくとう)よ。あなたをレンタルしたの」

 

レンタルって、俺DVDかなんかかよ。

首をコクンと傾けながら、俺の方に和風の傘をさしてくれる夾竹桃。いや、いやいや

 

「お前も理子と同じ悪の組織の一員なわけ」

 

「悪の組織?…そうなるのかしらね」

 

『おお、ラッキーだったねしゅうちゃん!夾竹桃の命令をきちんと聞くんだよー』

 

「…あいよ」

 

 

 

なんか急すぎて対応できないんだが、まあそれは今に始まったことじゃないし…いいけどさ

 

「んで?夾竹桃っつったっけ?俺はなにをー」

 

「ああ、それは歩きながらでいいかしら。ちょっと早く止めに行かないといけないのよね」

 

「おう。わかった」

 

「…やけに飲み込みが早いのね」

 

「あの金髪ギャルのせいでな。あいつは予定にないことをすぐに要求しやがるから慣れた」

 

「そう。私もそっちの方が楽だからいいけど。あの子と接触するわ。行くわよ」

 

「あーい」

 

こうして俺と夾竹桃はオレンジ色の髪をしたアリアにいまにも走り出そうとしている女子武偵に近づいていった。

 

ああ…どーなんの、俺。

 

 

【第3章 「VS HERO」 終】

 

 

 


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