サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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前回のあらすじ
とある依頼で平和な日常を過ごす傭兵、セーラ・フッド。
ある日、雇い主の思いつきによりとあるファミレスでアルバイトをすることに。

…しかしそこには、彼女と雇い主の関係を快く思わない者がいた。


2.『元』傭兵は、ただサイカイのために

『おいセーラ、お前あの岡崎と同棲してんだろ?』

 

『…お前には関係ない』

 

『あぁそうだな、俺には関係ない話だ。悪い悪い、どーでもいい話だったわ。…それにしてもお前の彼氏、ほんと何も出来ねぇよな。正直、使えなさ過ぎていらないレベル。邪魔すぎ』

 

『……。』

 

『メンバーもあいつと一緒にやりたくないって愚痴言ってくるんだよな。一人二人なら何とかなだめられるけど全員となると話は変わるし、ここのバイトリーダーだからそんなに不満だらけのやつを消すくらいわけないんだよな』

 

『…何が言いたー』

 

『あ?わかんねぇの?彼氏辞めさせたくなきゃ、俺の言うこと聞けって言ってんの。彼氏と仕事したいんだろ?仕事中四六時中見てんじゃんか』

 

『…み、見てな…!』

 

『んなこたどーでもいいんだよ!とにかく、お前は俺の言うことを最優先で聞けよ。そしたらあいつのミスを俺たちがカバーしてやっから』

 

『…そんなの、私1人でーー』

 

『バァカ。いくらお前がなんでも出来るからって同時に何個もこなせるわけねぇだろ。会計しながら注文とれんのか?』

 

『……』

 

『彼氏のためだ。言うこと聞けよな?』

 

『…っ』

 

ーーーーー

 

 

ーーガシャン!!

 

「…あだっーーっ!?」

 

バイトを始めて数日。2つの異変に気付いた。

 

バイトのメンツは連休と重なっていることもありAさん、Bさん、俺、セーラの4人で回しているのだが…

 

異変その1。何故かAさんとBさんは俺のことを嫌っているらしい。

 

特にこれと言って何かを言われたわけでは無いが、わざと肩をぶつけてきたり無駄に仕事増やされたりと態度が冷たくなっている。その態度自体は学校で何度も味わっている分耐性はあるものの、意味はわからない。今もせっかく俺が洗い終わった食器を「おっと」の一言と共に、汚れた食器を入れている場所へと戻されてしまった。わざとじゃないように平謝りしてくるが、勘弁してほしい…。

 

(…学校での噂を誰かから聞いたか先輩方?)

 

そのあからさまな行動の意味を探ろうと一瞬思ったものの、無駄だと悟った。なにせ、

 

(オーダーミス4回、水こぼしたの2回、割った皿数12枚。嫌われる理由なんて数えるだけ無駄だもんなぁ)

 

仕事の効率を下げているのは、むしろ俺なのかもしれない。

 

「おい岡崎ぃ!客が呼んでるだろうがさっさと動け!!」

 

「は、はい!すみません!!」

 

そう思うと、彼らに怒る気は失せていた。むしろ、彼らにこれ以上迷惑をかけないようしっかりしないととさえ思うわけで。…はぁ、頑張ろう。

 

「…修一」

 

「お、セーラ。悪いんだけど俺呼ばれたからさ、この片付けやっといてーー」

 

「おいおい待てよセーラ、お前は先にレジな」

 

「…っ」

 

「え?あ」

 

戻ってきたセーラが声をかけてきた。ついでに手伝ってもらおうとしたのだが、上でタバコを吸っていたAがバタバタとやってきたと思えば、セーラを怒鳴りつける。…?

 

セーラは俺の洗っていた食器へと伸ばしていた手を引っ込めると、俺の方をチラと見てレジへと向かっていった。

 

「おい、岡崎」

 

「はい?」

 

「セーラを使うなよ。あれ、俺が使うんだからな」

 

「は、はぁ」

 

セーラを怒鳴った後すぐに戻るかと思っていたが、Aは俺の方へ来るとドヤ顔でそう言った。…?えっと、何が言いたいんだろう?

 

「…修一、レジ終わったから手伝…っ」

 

「おおセーラお疲れさん。でもレジ終わったらその客が使ってたテーブル拭くまでが仕事なんだぜ?こいつと話す前にやることあるだろ?」

 

「…っ、わかってる…」

 

「あ、おいセーラ…?」

 

再び怒鳴られたセーラはAの指示通り青いおしぼりを取るとテーブルへと向かって言った。悔しそうに歯噛みしながら立ち去るセーラ。…

 

異変その2、セーラが話しかけてこなくなった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

〜正午 店内が混み合う中で〜

 

『六番テーブルのお客さんそろそろ食べ終わるからデザートの準備、そして8番さんのパスタ後1分で出来上がるよ、岡崎持ってって!』

 

『あ、でも今自分レジ入ってて…!』

 

『…私がいーー』

 

『セーラ、お前は俺の方手伝え。早く来い』

 

『……っ。…了解』

 

 

ーーーーー

〜バイト終わり近くの裏にて〜

 

『お〜いセーラ、バイト終わったらよ〜スーパーに買い物行きたいんだけどいいかな?』

 

『…あ、……っ。……修一、今、Aのまかないパフェ作ってるから、また後で…』

 

『え?あ、おう、ごめん』

 

『……っ』

 

ーーーーー

〜とある休憩中〜

 

『おいセーラ』

 

『……。』

 

『俺のシャツのボタン外れたんだけどよ、お前、つけて来いよ』

 

『…どうして私が…』

 

『あ?文句あんの?』

 

『…わかった』

 

ーーーーー

〜8番テーブル ガラの悪い男たちの席にて〜

 

『おいA、この前ナンパした子見てくれよ。マジ可愛いだろ?』

 

『あぁ?俺の女に比べたら屁でもねぇや』

 

『はぁ?なに調子乗ってんだお前?』

 

『まぁまぁ黙ってろよ。見せてやっからさ、おいセーラ!』

 

『……なに?……っ、肩、やめ…っ』

 

『どーよ俺の女、セーラよ。なんだなんだセーラ。首に手回したくらいで恥ずかしがってんなよ』

 

『うぇぇぇ!?な、嘘だろおま!?どこでそんな子見つけてーーやっばっ!?』

 

『は、凄いだろ。俺の女なんだぜ、なぁ、セーラ?』

 

『……。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

それから約一週間が経った。

 

バイト中、俺はセーラとあまり会話ができていなかった。Aがやけに上機嫌になっているため前のような地味な嫌がらせが減っている分にはいいのだが、なんというか、セーラがやけにAに固執しているような気がしていた。

 

元傭兵はその場所で一番偉い人の言うことをきくように訓練されているのかもしれない。それなら仕方ないよな、仕方ない。今の俺には、そう思うしかなかった。

 

「…修兄、お疲れ」

 

「ん、おお、お疲れさん」

 

仕事を終えたセーラが遅れて控え室に入ってくる。何故かキョロキョロと辺りを見渡しているのが気になるが、呼び方を変えるためだろうか?

 

「どした?」

 

「なにしてるの?」

 

「あぁ、ハンディーの使い方がまだ全然でよ。今日も何回もミスっちまったし、どーしたら出来るようにになっかな〜って」

 

俺はまだ、お客さんからの注文を厨房へ送る機械をうまく使えていなかった。ハンバーグを押したつもりがカレーが出て来た時もあった。本当に機械は苦手だ。

 

「俺はもうすこし練習してから帰るからよ、先に帰っててくれ。ほれ、鍵」

 

だから、練習することにした。もうこれ以上セーラに迷惑はかけたくない。だったら、頑張らないとな。

 

 

と、鍵を受け取ったセーラが、こちらを見ていた。

 

「……。」

 

「セーラ、どした?」

 

「…修兄、私も練習、手伝う」

 

「え、いいのか?」

 

まさかの、セーラからの提案だった。今日も一番動き回っていたのはセーラだ。一番疲れているはずなのだし…

 

最近、セーラは俺にあまり近づこうとしていなかった。家ではそんなことなかったが、バイト先ではあまり話しかけにすら来なくなっていた。周りの目が恥ずかしいのかと思っていたが…

 

「教えてくれるのはマジで助かるんだけどよ、いいのか?」

 

「…ん」

 

心なしか、嬉しそうな表情をするセーラ。まぁ、本人が嫌じゃないならいいかと、俺は甘えることにした。

 

「…和風ハンバーグとライスください」

 

「はい、えっと…和風は…ここで、んで、えっと」

 

「…ここ。あとハンバーグとライスならBセットにした方が安い」

 

「お、なるほどな…!」

 

アホ毛をふらふらと揺らしながら、教えてくれるセーラ。

 

その指導のおかげで、俺はハンディーをうまく使えるようになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「手伝うなって言ったよな?あぁ!?監視カメラでバッチリ見てたんだぞこのアホ女!」

 

「…修一が、頑張ってたから。私はその手伝いをしただけ」

 

次の日、セーラは再びAに呼び出された。

 

そこは店の裏、誰も来ない場所だ。

 

どうやら、昨日サイカイを世話したことに腹を立てているらしい。

 

「ダメだ。あの男の手助けなんてすんじゃねーよ、自分の立場わかってんのか?」

 

「…お前の指示には、ちゃんと従ってきた。…そこまで言われる筋合いはない」

 

セーラの態度に、Aは青筋を立る。沸点を超えた。どこまでも、彼女の中にあの雑魚がいる。そう思うだけで吐き気がした。

 

 

Aの中で、理性が飛んだ。

 

 

「お前、ここにいる限り俺に絶対服従なんだってこと忘れちまったみてぇだな。いいぜ、お前がそんな態度とるんだったら、奥の手を使わせてもらう」

 

「…奥の手…?」

 

Aは、セーラより一回りもでかい体を利用して彼女を壁際に寄せはじめる。じりじりと詰められ、逃げ場を失ったセーラ。その小さな両手を強引に掴もうとAは手を伸ばした。

 

しかし元傭兵のセーラはその手を簡単に振り払う。何をする気か瞬間で理解したセーラはAを睨みつける。

 

「…っ!」

 

「おっと、抵抗するのはやめといたほうがいいぜ?これ以上抵抗するなら、岡崎のポケットの中に入った『店の10000円』を店長に突き出すことになるんだからよ…!」

 

「…なっ」

 

ヘラヘラと笑いながらAは自身の制服についたポケットを叩く。

 

「まぁでも俺も鬼じゃねーよ。お前がここで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……下衆…!」

 

「なんとでも言えよ。俺はいい女とヤれりゃ、なんて言われようが知ったこっちゃねぇんだ。ほら、始めるぞ」

 

「……っ!」

 

セーラは、迫る手を

 

 

払わなかった。

 

 

 

ニヤリといやらしく笑うAはその両手を片手で拘束し上に挙げる。

 

吊り下げられたような形になるセーラ。そんな彼女の全身を下唇を舐めながらAは見る。

 

「そうだそうそう。お前みたいな上玉はな、俺みたいなカースト上位の男に黙って抱かときゃいいんだよ」

 

醜く笑うA。その手が、彼女の着ているカッターシャツのボタンに触れた。ビクッと震えるセーラ。

 

そんな彼女を無視し、Aは1つ、また1つとボタンを外して行く。

 

しかし、彼女は抵抗しなかった。出来なかった。

 

 

 

ただ…

 

 

(…しゅう、いち…っ)

 

ただ、彼女は、彼の名を心の中で叫ぶことしか、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『A、大変だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

『…あぁ?今いいとこなんだよ、なんだ?』

『またあの岡崎の野郎だよ!しかも今日は度を超えてやがる!レジぶっ壊しやがった!!』

 

『は、はぁ…!?』

 

『……!』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

「なにしてやがんだオメェ!!」

 

レジの場所へやって来たAは、俺の首根っこを掴んだ。目の前にはボロボロに砕け、お札を周囲に撒き散らし、火花を吹く壊れた、見る影もないレジがプスプスと煙を上げている。臭いな。

 

「いや〜あのお金がガシャンってなるとこあるじゃないっすか〜。あれが戻んなくなったんでとりあえず近くにあった消火器でドンと」

 

「はぁ!?意味わかんねぇ!?しかもこれ、1発じゃねーな!?なんでこんなボロボロにしてんだ!?」

 

「いや〜壊れたテレビとかって、一回は無理でも二、三回叩くと治ったりするじゃないすか〜?だからこれも治るかなって、無理でしたわ」

 

「バカじゃねーの!?これもう修理に出しても治るか…っ!弁償してもらうならな!」

 

ドン!と突き飛ばされ壁に背中を打ち付ける。頭に血が上っているAは俺を突き飛ばした後、裏口から外へ出て行ってしまう。BもAについて行ってしまった。

 

残ったのは、何事かとやって来た客と、そして

 

「…修一っ」

 

「………。」

 

珍しく泣きそうな目をして走り寄ってくるセーラだった。カッターシャツのボタンを留めず、片手で抑えたまま、彼女は俺の姿を見るや、俺の腹へ思い切り抱きついてくる。

 

俺はその頭に手を乗せた。何も言わず、ただぽんぽんと叩いてやると、さらに強く抱きついてきた。

 

 

 

 

それから数分後、大慌てでやって来た店長がこの惨状に顔を青ざめながら事情を聞いてくるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

〜pm7:00 修一家〜

 

「いや〜最後にデカイのやっちゃったわ、ハッハッハ。レジの修理費でバイトで稼いだ金全部吹っ飛んじまったし、バイトクビになるし、踏んだり蹴ったりだわ〜ハッハッハ!」

 

「……ねぇ」

 

「お、なんだよセーラこっちジッと見て。なんだ、お前もしかして()()()()()()()()()()怒ってんの?俺を無理矢理入れたお前にそれを怒る権利ないからな」

 

「……ねぇ、修兄」

 

「でも無くなったもんはもうしょうがないな!よし、むしろもう肉食べに行くか!なにがむしろかもうわかんねぇけど!」

 

「…また、助けてくれたの?」

 

「……。」

 

もう外は暗いにも関わらず、電気は付いていなかった。それより早く、彼女は俺に問いかけてくる。

 

セーラは俺から目を離そうとしない。ただじっとこちらを見ていた。

 

……。

 

「…修にー」

 

「は?俺はレジが壊れてテンパってただけだ。それがなんでお前を助けたことになるんだよ、アホなの?」

「……そう言うって、思った」

 

真剣な目をした彼女。その目を俺は、見れなかった。

 

彼女の言いたいことは、正直わかっていた、いくら機械音痴の俺でも、消火器で叩けば治るなんて本気で思ってるわけないと、こいつなら、分かっているだろう。…でも、言いたくなかったのだ。どうしても。

 

 

 

そうして、お互い何も話さないまま、無言の時間が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何を、返せばいい?」

 

「は?」

 

しばらくして、セーラは胸の前で両手をぐっと握りしめそう言った。意味がわからず俺は聞き返す。

 

 

「……私は、修兄に助けてもらってばっかり…。助けようとしても、また助けられての繰り返しで、私は、修兄に何をあげればいいの?

 

私に出来ることなら、なんでもする。なんでもいいよ、修兄が望むこと、なんでもする。私の全部、あげるから…だから、修兄に返させて…」

 

自身の胸に手を当て必死に訴えてくるセーラ。

俺はその姿に体が動かなかった。ここまで真剣に彼女が訴えてきたのは初めてだ。茶化しちゃいけない。

 

今まで通りにあいまいに返しちゃいけない。彼女が望むなら、

 

男として筋を通すべきだと、思った。

 

「……わかった。こっちに来い」

 

「…!…ん」

 

セーラは俺が手招きするとピクリと震えた。…しかし、なんでも言うこと聞くという自分の言葉を守るつもりなのか、すぐに言われた通り、座る俺ほ方へぐいっと体を近づけた。

 

彼女の頬に手を添えるとセーラはその手を両手で包み込み俺の顔をジッと見つめて来た。

 

頬が少し赤く染まり、目が潤んでいる。

 

まるでフランス人形のように整った顔が今、目の前にあった。

 

「…しゅう、いち…」

 

「……。」

 

二人しかいない、俺の部屋。静かな空間で、やけに時計の音が大きく聞こえた。

 

その顔が、少しずつ近づいてくる。

 

緊張しているのか、少し息が荒い。

 

潤んでいた瞳がゆっくりと閉じる。お互いが自然と両手を握り合う。

 

ギシリと椅子が音を立て、お互いの鼻がかすれた。

 

 

 

そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺしっと。

 

 

 

 

 

俺はセーラのおでこにデコピンをするのだった。

 

 

「……い、痛っ…?え、え…!?」

 

「マセんな。俺はお前になんかしてもらうほど借りなんて貸した覚えないっての。ほれ、そこ座れ」

 

珍しく慌てるセーラ。俺はそんな彼女を横の椅子に座らせる。

 

「あのな、借りとかなんとか言ってるけどよ。俺はそんなことのためにお前をここに置いてるわけじゃねーの。俺は、お前に『平和な世界を知ってもらおう』ってここに置いてんだ。だから貸し借りとか、そんな縛りいちいち巻きつけんじゃねーよ。

 

 

お前は、お前が好きなように暮らしていけばいいんだよ」

 

「……なんか、修兄らしいね」

 

「そうか?…そうかもな」

 

少し赤くなだだおでこを抑え、笑う彼女につられ俺も笑う。セーラもそれで納得してくれたようだ。

 

正直、内心バクバクだった。いや、しょうがないよね!セーラにあんだけ顔近づけられたらキスしかけてもしょうがないよね!?ね、俺頑張ったよね!うん、偉い、俺ってば偉いわ!!

 

「修兄」

 

「こ、今度はなんだよ?」

 

冷静な顔を装いながらも、内心大慌てパニック状態の俺に対し、再び、彼女は俺に声をかけてくる。またなにを言いだすかと恐ろしかったものの、先ほどの攻防を制した俺ならいけるはずだ!大丈夫だと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は修兄が好き、大好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う、うぇ!?」

 

 

ーー大丈夫だと、思っていた心の壁が粉々に砕かれた。

 

それは、告白だった。いつも無表情の顔を優しい微笑みに変え、目を見て伝えてくる告白。

なんて返すべきなのか。俺はすぐに答えなどでなかった。彼女はあくまで俺の依頼を嫌々聞いてくれていた傭兵でしかなかった。確かに一緒に暮らしていて楽しかったし、楽だし、ここまで気を許せる人相手は他にいないかもしれない。ただ…でも…

 

どう返せばいいのかわからず、黙ってしまう俺に、セーラは首を振った。

 

「返事、いらない。貴方が誰を好きでも関係ない、私があなたを好きなことに変わりはないから。

 

私が好きになるのは修兄以外いないから、そんなのどっちでもいい。

 

…でも、返事はいらないから、好き、だから…

 

 

修兄の側に、修兄の近くに、ずっと居させてほしい」

 

 

 

それは、彼女のせめてもの願いだった。

 

 

 

「ったくお前は、男選びのセンスがない奴だな」

 

「…そう?私は、あると思うけど」

 

「っ!やめ、おま、そんなこと言うんじゃねぇよ!俺は金にがめついぞ〜!?それにセコイし、負けず嫌いだし、サイカイなんだぞ?」

 

「私は、修兄のマイナスな部分も好き、全部…好き」

 

「〜〜〜っ!!」

 

俺の方が、耐えられなかった。顔が真っ赤になっている自覚がある。もうどこでもいいから走り回ってどこかを殴り続けたい衝動に駆られる。ああああもうどうにでもなれだ!

 

「ああああもう好きにしろ!俺といたいならずっといればいいし、護りたいなら勝手に護れ!それで気がすむなら好きにしろ!!」

 

「ん」

 

もう売りことばに買いことばだった。言われたものをそのまま返した。

 

落ち着くために俺は冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を取り出しグイッと飲み干す。ああ、今日は変な日だ…!

 

 

「…修兄」

 

「な、なんだよ…?」

 

 

そんな俺に、セーラは楽しそうに笑って、手を差し出した。

 

 

 

「これからも、よろしく」

 

「…あぁもう、こっちこそだ!」

 

 

 

俺はその手を強く握る。

 

 

元敵同士、そして同じ家に住む同居人から、そして信頼できる仲間へ。

 

()傭兵

 

 

セーラ・フッド

 

 

彼女は、本当の彼女が望む、

 

 

『幸せ』の答えにたどり着いたのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

「あ、ところで」

 

「?」

 

「ふっふっふぅ!なんだかんだあって店長にマジギレされたが、約束通り貰ったものがーー」

 

「やだ、着ない」

 

「えぇぇぇええええええええええええ!?おま、なんでもするってさっき言ってたじゃん!なんで着ないのぉぉぉおおおお!?」

 

「……うざい」

 

「くすん、じゃあ俺は……なんのためにあんなに頑張って……」

 

「……。」

 

「くすん、くすん」

 

「……はぁ、わかった。少しだけならきーー」

 

「よっし!お前ならそういうと思ってたぜセーラ!さぁさぁ3着もらってきたからさぁ着よう!いますぐ着よう!」

 

「……はぁ、やっぱり、間違えた、かな?」

 

 




お久しぶりです。銀pです。
これにてセーラ編は終わります、いかがでしたでしょうか?
うん、セーラ可愛い。

さて、これにて「サイカイのやりかた」特別編も最終話となりました!皆さま長い間お付き合いいただきありがとうございました!

新作も書いてありますので、お時間がありましたらそちらも読んでいただけると嬉しいです!

では、またどこかでお会いできる日を楽しみにしております!
ではでは〜!



ps.…書いていて、「恋心を知ったセーラのその後の話」なんて書いてみたいなとも思い始めてしまう銀pなのでした。きっと、修一が手玉に取られるんだろうなぁ

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