サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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2話のあらすじ
「とある理由から岡崎修一を英雄と慕う前田綾だったが彼の射撃の腕がサイカイであることや他にも様々な失態を犯していることを知る。英雄だと思っていた彼が真逆の存在であると知り、彼女の中で岡崎修一という男が崩れ果ててしまったのだった」

3話目になりました!

コラボ先は「寄生系超偵の活動録」です!

では、どうぞ!


超偵は彼女たちと出会い、サイカイを知る

『これから知ることが貴方の求めている答えとは違うものになる。ーーそれをどう判断するのかは貴方の自由だけど、貴方が本当のことを知りたいと思ったらまたここに戻って来ればいい』

 

「まぁ、どうせ行くところも無いですし……」

 

射撃場から抜け出した前田は、彼のリビングでセーラが言っていた言葉を思い出していた。セーラはきっと自分がこうなることを予期していたのだろう。今の自分に何か言うことがあるのかもしれない。そう判断し、13時を過ぎた頃、前田は岡崎の自室へと向かっていた。

 

「…入っていいよ」

 

インターフォンを押すと、すぐにガチャリと扉が開く。やっぱり来たかという顔をするセーラが部屋へと招き入れた。

 

前田は靴を脱ぐと先ほど座った位置へと移動する。「マカロニいる?」と嫌いなものを押し付けようとするセーラをやんわりと断りつつ、前田は本題に入る。

 

「貴方は、どこまで知っているんですか?」

 

「…貴方が知ったこと、()()()()()()()

 

もう話の内容はセーラに筒抜けだったようだ。前田の前、理子が元々座っていた位置へと座り、マカロニの入った皿のサランラップをはがしながら即答で返して来る。

 

「酷いことって……あれ以上のことをあの男はしでかしているのですか…!?」

 

「………。」

 

叫ぶような前田の言葉にもセーラは何も言わず口にマカロニを運びながら次の言葉を待つ。

前田は見たくなかった物を見てしまった、とでも言うように手で顔を覆うと呻き声をあげた。

 

「射撃場でのあのスコア、そして武偵の皆さんの話を聞いて思いました。……宿を借りている分際で家主の事を悪く言う無礼を承知で言わせてもらいますが……話を聞く限りじゃあの人はロクデナシのド畜生です。趣味に関してはとやかくいう気はありませんが、人に対して理由もなくただ暴力を振るう。そのような行為……武偵としては不適格……人間としても深夜に徘徊する不良以下のチンピラレベルと評するしかありません……」

 

「…うん、やっぱりそうなった」

 

セーラは苦々しい表情をしながら、一度頷くと机から離れソファの方へ移動する。手元に紙とペンを用意していた。

 

「そうなったって…そうなるしかないでしょう?むしろあの話を聞いて良い人だなんて言う人がいると思いますか?」

 

居たらどんなマゾですか、とゲッソリとした顔で見つめてくる前田にセーラは首を振った。

 

「…いない」

 

「ですよね。だったら、どうして貴方は彼と一緒に過ごしているのですか? あんな男と一緒にいたところで世間の冷たい目に晒されるだけではないですか! どんなメリットがあると……!」

 

「…修一といて面倒に思うことなんてーーいや、あるか」

 

だったら…!そう続けようとした前田だったが、セーラはそれより早くあるものをひょいと飛ばしてきた。

 

それは四つ折りに折られた紙だった。

 

「これは…?」

 

「…今のあなたに私から何を言ってもしょうがない。それより、貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()にあって来た方がいい」

 

「……? 本当に、知りたいこと…?」

 

「…………すぐわかる」

 

疑問を口にする前田だったが、セーラはもう話は終わったとばかりに前田から顔を逸らしテレビをつける。

もっと詳しく聞き出したい前田であったが、セーラの放つ無言の威圧感に呑まれて、困惑した様子で手元の紙へと視線を向けた。

 

「本当に知りたい事を知っている人……? どういうことだ……?」

 

取り敢えず見てみるか、と紙を開くとそこには、数人の名前が書かれていた。

 

鈴木 桃子

火野 ライカ

島 麒麟

 

ーーーーー

 

「調べた情報が正しければ、もう植物園から出てきている頃ですね。一服するとしたら人目に付きにくいこの辺りが最適なはず……」

 

特にすることが他になかった。その理由だけで行動する日が来るとは前田は思ってもみなかった。いつもなら何かしらトレーニングやら、武器のメンテナンスをしているのだが、わざわざ並行世界に来てまでやることではない。そもそも学生名簿に自分の名前がない時点で武偵校の殆どの設備は利用することは出来ないのだ。

 

「! ……彼女か」

 

必然、有り余った暇な時間を前田はメモの謎を解き明かすことに費やすことにした。

メモの中には知った名前もあれば、全く知らない名前もあり、調べ上げるのは中々に骨が折れた。

 

「お初にお目にかかります~! 鈴木桃子さんですよね? 噂通りお美しい!」

 

「……は?」

 

しかし時間をかけた甲斐あって、前田は彼女と接触することに成功していた。

懐に右腕を入れたままゆっくりと対象に接近する。

 

鈴木桃子。別名は夾竹桃、元イ・ウーのメンバーである。黒い長髪に黒のセーラー服、和風美人と言える容姿をした彼女は、一人女子寮の近くで煙管を蒸かしていた。

前田は相手に悟られないよう、笑みを浮かべながら彼女の持つ”戦力”の分析にかかった。

 

(あの手袋に覆われた左手……キナ臭いな。それにこの気分が酩酊してくるような花の匂い……毒使いか。それも超一流。衣服にワイヤーも仕込んでいやがるな。移動と殺傷用の兼用か)

 

本心を押し殺し、前田がニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべながら声をかけると、夾竹桃はチラリと前田を見て……すぐに目線を逸らした。全く興味ないといった様子だ。

 

「貴方、誰?」

 

「あ、あはは……御気分を害しちゃいましたか? いやぁお休み中、申し訳ありません。少し聞きたい事がありまして……」

 

「…悪いけど人と馴れ合う気はないの。取り繕ったような笑顔を浮かべて人をコソコソと見てくるような奴とは尚更ね。

教務課からの言付けとかじゃない限り私に話しかけないでもらえるかしら?」

 

左手の手袋に手をかけつつ、冷たい視線を向けてくる夾竹桃。

そんな彼女に前田は笑顔を掻き消すと、海の底を思わせる蒼い瞳を向けた。

 

「こちらに戦闘の意志はありません。岡崎 修一について、話を聞きたいだけです」

 

「……。……はぁ、聞くだけよ」

 

修一の名前を出すと、夾竹桃はため息をつき近くのベンチへと座った。

突き放されるかとも思ったが意外とあっさりと進んだことに前田は少し驚いていた。やはり何か弱みでも握られているのか?と勘ぐってしまう。

 

夾竹桃からは敵意や殺気というものが感じられない。

前田は懐の中で右手に握っていた拳銃から手を離すと彼女の隣へと座った。

 

「それで、何が聞きたいの?」

 

「はい、実は…」

 

前田は夾竹桃に、ことの説明をした。並行世界などのことも全て伝えた。信じてもらえないかと前田は心配したが、「せんぱ…岡崎はそれでどんな反応したかしら?」「え?ええと、超ハイテンションですげー!を連呼してましたね」と言うとなぜか納得してくれた。不思議だ。

 

「なるほど。それで()()()の私のところへ来たのね」

 

「はい、貴方の実力は見てわかります。かなりの強者だと。少なくとも岡崎修一に遅れを取るとはまず考えられない程の実力を感じ取れます。そんな貴方がどうしてあの男にいい様にされているんですか!? やはり何か弱みか、それとも弱点を握られてーー!」

 

「弱み…ね」

 

前田が隣に来てから隙が全くない。そんな彼女があの失態を見せられた岡崎の言いなりなど、あり得ない。そう前田は確信していた。

 

「弱みなんて握られてないわよ。…ただそうね、借りがあるからある程度のことは聞いてあげてるってところかしら」

 

「…借りですか?」

 

「そう。私があの人に一生を使っても返さないといけないほどの、大きな借りを。あの人には色々と助けてもらったから」

 

その時煙管を口から離した夾竹桃が少し笑いながらそんなことを口にした。それは、先ほど話した彼の悪の部分を全てを肯定し、尚、それでも彼を慕うという意味合いの詰まった彼女の言葉だった。

 

「…!あなたも、どうしてあんな男を!強襲科の最下位で、ランク戦のチーム対抗で一人逃げ出し、あなたや他の女子数人の弱み握ってて、女子武偵に暴行した最低男なんですよ!?」

 

「……客観的に聞いてみると本当ボロクソの評価よね。それ誰に聞いたの?」

 

「ここの武偵学生のほとんどがそう言っていました!そしたら――」

 

「はぁ、放っておくのも面倒だって伝えたはずなのだけど…」

 

前田は目を見開くと夾竹桃へと詰め寄る。叫びたい思いが止められなかった。わけがわからない、どうして。あんな男と一緒にいてもいいことなんてないはずだ。基本的に物事を合理的に考える前田には納得がいかなかった。

 

「………。そうね。貴方とはもう会うこともなさそうだし、教えてあげる」

 

しばらくその様子をただ見ていた夾竹桃はふぅと一度深く蒸すと、ゆっくりと口を開いた。

 

「私は、あの人に借りがあるって話を具体的に教えてあげる。借り…というより『恩』と言ったほうがいいのかしら」

 

「お、恩…ですか?」

 

繰り返す前田に夾竹桃は頷く。

 

「私の知り合いに児童保護施設に住んでいる子供達がいるの。その子たちが、暴力団組織に狙われたことがあってね」

 

「そ、それは何とも……災難でしたね」

 

「そうね。でも私より災難だったのは、岡崎よ。『私が関わったからという理由』だけで暴力団組織を敵に回したのだから。裏組織に関わってもろくなことにならないということは武偵なら分かりきっているでしょう?」

 

「…ええ。組織に個人の力で挑むなど自殺行為も同じで…って、え? 嘘…えっと、その話、本当…なんですか??」

 

前田の疑問に夾竹桃は深く頷く。…が、前田はそれを素直に受け止めることができなかった。なにせ、今の前田の中にいる岡崎 修一がそんなことをやるはずがないからだ。

 

最低男が…わざわざ一人のために、組織と戦った…??そんなの矛盾している…

 

 

(むしろそれは、最初に私が理想としたーーッ!)

 

 

前田は、胸がグッと締め付けられるような錯覚を覚えた。その様子を夾竹桃はただただじっと見ている。彼女は小さく「…同類ね」と呟く。

 

「岡崎には借りがある。あのバカ男がしたいと言ったなら、意を反することはしないって決めてるの。…これ、先輩に言ったら毒で一ヶ月は動けない体にしてあげるから覚悟しなさい」

 

「せ、せんぱい?」

 

「それは忘れなさい。…私はもう行くわ。コミケの原稿が残ってるし。あぁ、あともう一つ。貴方時間が空いたらぜひ私のホテルに来なさい。いい素材よ、貴方」

 

夾竹桃はそれだけ言い残すと去っていく。前田は胸に手を当てこの疑問を頭の中で繰り返した。

 

一体これは、どういうことなんだ…?生徒達が言っていたことと、今彼女が言ったことは…

 

 

 

正反対、真逆の言葉じゃないか。

 

 

 

今のままじゃわからない。そう判断した前田は、この疑問を解消するため再び紙を開く。そして次に書かれた名前の金髪の彼女を探すため再び移動を始めた。

 

「彼女が居るとするなら……強襲棟の近くか?」

 

彼女の中の岡崎修一が、粉々に砕けた彼が少し揺れ始めた。

 

 

ーーーー

 

「火野ライカさん、見つけましたよ」

 

「? えっと……誰だ?」

 

次に書かれていたのは書かれていたのは火野ライカ、編入学時に一度手合わせをした程度ではあるが、彼女のことは前田も知っていた。

もっとも”この世界の”火野ライカは前田の事を知らないが。

 

(この人に一体何を聞けというんだ…?)

 

夾竹桃に見せたような作り笑いは浮かべず、単刀直入に前田は切り出した。

 

「『初めまして』。2年の前田綾といいます。貴方に岡崎修一について聞きたいことがありまして…」

 

「うぉ、先輩だったんすか!ってーか岡崎先輩…?ま、まぁ手短に済ませてくれるならいいっすけど」

 

さて、何から聞けばいいのか…前田が考え始めたその時ーー

 

「お姉様!だ、誰ですのこのとっても綺麗なお方は!?」

 

火野の後ろから走って来た小さな金髪の女の子が前田を指差して驚いている。

前田は面識がないその子にキョトンと首をかしげた。

フリフリの改造制服から理子を連想させる謎の少女は前田の天然気味の仕草に『フォォォォウ!!』と奇声をあげている。

正直言って、少し不気味だった。

 

「麒麟、早かったな。今ちょっと先輩から質問されててさ…」

 

「せ、先輩!?こんな美人な先輩が東京武偵にいらっしゃったのですの!?」

 

美人だと無邪気に連呼する彼女に前田はギクリと肩を揺らした。

 

(クソ、不味い……所属していない事がバレたら面倒な事にな……いや待て、麒麟だと?)

 

「あの、もしかして貴方が島 麒麟さん、ですか??」

 

「そうですけど?会ったことがありましたかしら??」

 

「いえ、火野さんの後にお伺いする予定でしたから。あの、お二人に岡崎修一について聞きたいことがあってここに来まし…え゛ あ、あの…どうしてそんな苦虫を噛み潰したような表情を…?」

 

「あぁ、麒麟のこれは無視していいですから」

 

本題に入ろうとした矢先…彼の名前を出した瞬間、麒麟の可愛い顔が一瞬で般若へと変わる。一体何をしたらここまで嫌な顔をされるんだ岡崎修一と前田は心中で問い掛ける。

 

「あの男は、理子お姉さまをたぶらかす嫌な男ですの!成績も最下位ですし、麒麟のことバカにしますしの、貴方のようなお綺麗な方が気にかかるような方ではないですの!」

 

(……やはり岡崎修一は最悪な男だ…。それにしてもどうしてこの子はここまで岡崎を嫌っているんだ…? 下着でも盗られて金に換えられ……いや、違うか)

 

麒麟のあまりにも大げさな表現に前田は一つ思い当たる内容があった。

 

「もしかして、あなたですか?『岡崎修一に暴力を振るわれた女子武偵』というのは?」

 

「そ、それは…」

 

麒麟のその一度たじろぐ様子に前田は目を細めた。間違いない、この島麒麟が岡崎修一に暴行を加えられた被害者だと。

 

(こんな小さな子に暴力を加えるか。武偵というからもっと強襲科のような生徒かと思っていたが、神崎さんみたいな例もある。この娘は大して強くもないだろうに……!)

 

「教えてください!あの男は本当にそんなことをしたのですか!?」

 

前田は麒麟にぐいっと近づくと肩を持ち問いかける。前田の中の岡崎修一が右に左にと揺れる。理想と虚像。どちらが理想でどちらが虚像なのか、前田の中の岡崎修一は既にゲシュタルト崩壊を起こしている。

 

万が一、こんなか弱い少女さえ狙ったというのなら、今までの経緯など全て無視し『岡崎修一を全力で叩き潰す』そんな焦りにも似た感情が前田の中で渦巻き始めていた。

 

 

ーーーそこに、

 

 

 

「ああ、その話なら私ですよ私」

 

 

頬をかき、苦笑いでそう答えたのは彼女の横にいるーー

 

 

火野ライカだった。

 

 

「え?ひ、火野さんが…?」

 

「そーですそーです。実際にボコボコにされたというのは事実だけど、まぁ私もあの時は先輩をぶっ飛ばそうと本気で殴りかかったのでしょうがないかなって思ってますが」

 

「あの、つまり、岡崎さんが、火野さんに、勝ったの…ですか?」

 

信じられないという様な目の前田に、ライカは頷いた。前田はその返答にしばらく固まってしまった。

 

これも先ほどの、生徒たちが言っていた岡崎修一という形とは全く違う。最下位の岡崎修一が前田が一度負けた彼女に勝った…?そんなこと有り得るわけがない。

 

(オイオイオイ本当に、どうなっている?人によって岡崎修一の捉え方が全く違う…!どれが真実で、どれが偽の岡崎修一なんだ…!?)

 

「ほら麒麟、本音を言え。この人、本気で勘違いをしてるみたいだから」

 

「えぇ…?」

 

そんな前田を見てライカは麒麟の背中をちょんと押す。前田の前に立つ形になった彼女は手に持つ少し汚れた人形を一度見て、ギュッと握りしめた。

 

「…お姉様がそう言うなら、わかりましたですの。…その、岡崎先輩には、まぁ、その、本当に、本当にちょっとだけですけど()()、してますの」

 

「…感謝、ですか?」

 

「本当にちょっとだけですの。その、この子を助けてくれたこととか、お姉様を一番に考えてくれたこと、お姉様を救ってくれたことはまあお礼を言ってもいいかなって思ったんですの!それだけですの!!」

 

麒麟は自分で言ってて恥ずかしくなったのか少しづつ早口になり最後は吐き捨てるように言うとどこかへと走り去ってしまった。ポカンとして彼女を見送る前田に、ライカは思わず笑ってしまう。

 

「前田先輩、岡崎先輩とどういう仲なのかは知らないっすけど、もし敵になろうってなら覚悟しといた方がいいっすよ。岡崎先輩ほど()()()()()()、私は見たことがないんで。あれもあれで強敵っていうじゃないですかね。それじゃ、私も失礼します」

 

「…きょう、てき…??」

 

前田に一礼して去っていくライカ。前田はその言葉を頭の中で繰り返し、過去に己を叩きのめした岡崎修一の姿を思い出した。

 

(…力があるのか、ないのか。もうそれすらもわからない…)

 

張り裂けそうになる頭で必死に答えを探し……しばらくして気づいたことがある。

 

『ほら麒麟、本音を言え。この人、()()()()()()しているみたいだから』

 

(私が…勘違い…??)

 

彼女たちの会話は、前田の疑問をさらに増やす結果となった。

 

ーーーーー

 

恩、感謝、そして強敵。

 

紙に書かれた彼女たちの言葉はどれも彼に対して好意的な言葉だった。今までの、他の生徒や言っていたことがまったく当てはまらない…。もしかして二人いるんじゃないのか?などと訳がわからないことまで考えてしまう始末。前田はもう自分で結論付けるのは無理だと判断した。結果──

 

「…入って良いよ」

 

「お邪魔します」

 

前田は再び岡崎自室の前にいた。自分で結論を見つけられないなら、もう知っていそうな人を頼るしかない。ここまでの心境にさせた当の本人に答えを求めにやって来たのだ。

 

その当の本人、セーラは修一が机におき忘れていた携帯を手に取り操作し始める。

 

「…心境は?」

 

「もう、何が何だかサッパリわかりません。情報が錯綜しすぎて……今まで出会ったどんな人物より謎に満ちている男ですよ、岡崎修一は……」

 

早速聞いて来たセーラに前田は本音を口にする。

 

「一方で女子武偵にすら暴力を振るう最低な最下位男。でも一方では多くの人に感謝されるような私の思い描いた英雄。…一体どっちが本当の彼なのか……。

 

聞かせてください。貴方にこの紙をもらった時に聞きましたよね、貴方がどうして彼と一緒に暮らしているのか、その理由を…」

 

前田は再びここに来てから感じたことがあった。それは「どうして世界最強クラスの傭兵がこんな最低だと言われている男と同棲しているのか」ということだ。彼女は人とあまり馴れ合うことを好まないタイプであることは数時間一緒にいただけの前田にも感じることができた。そんな彼女がどうして岡崎修一と一緒にいるのか。前田には理解することができなかった。

 

そんな前田の気持ちを読み取ったのかどうかはわからないが、人のことを考えず思ったことを口にするセーラが、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「…()()って、言われたから」

 

 

 

 

 

「……。……家族……ですか?」

 

繰り替えした前田に、セーラはうんと頷く。

セーラの軽く頷く仕草が余計に本心なんだと、前田に感じさせた。

 

窓から入った風で、セーラの長い髪が広がる。片手それを抑えながらちょうど目線の高さほどになった日を見つめるセーラはゆっくりと言葉を繋げた。

 

「そう。…ただの言葉でも嬉しい、嬉しいの。

 

あの人がそう呼んでくれるなら、私はずっと修一の傍にいる」

 

銀髪の元最強傭兵は一度だけこちらを向くと、その無表情な顔を少しだけ緩ませた。

優しく微笑むその姿に、涙を流しそうになる前田は下唇を噛む事でそれを何とか堪える。

 

ーー『パパ!』

 

ーー”家族”……その言葉に前田の脳裏にとある少女の笑顔がよぎる。

 

ーー自分が他の何を犠牲にしても守り通したかった、しかし弱かった故に守り切れなかった少女。──もう手の届かない場所に逝ってしまった少女の姿と、似ても似つかない筈のセーラの姿が、何故か前田には重なって見えた。

 

 

「…それが例え、人形大好きな変な趣味の男でも、ですか?」

 

「ん」

 

「数人の女性の弱みを握ってて、酷いことをしていても?」

 

「ん」

 

「人前で簡単に土下座するような、そんなプライドの欠片もない男でもですか??」

 

「ん」

 

「…ッ! ランク戦のチーム対抗戦で、一人逃げ出すような軟弱な男でもですか!?」

 

「どんな修一でも構わない。私は彼の側にいる」

 

前田の攻撃的ともとれる言葉にもただ頷くセーラ。

 

彼女の名前は傭兵界の中では有名である。

 

強さが他の傭兵とはそれこそ桁違いな彼女にそこまで言わせるあの男…。それはつまり、彼女よりも強いから、なのだろうか?

 

前田はもう自分の答えに納得ができないでいた。

 

 

「…最後に、『あなたの聞きたいことを話してくれる』人を教える」

 

「最後の人?」

 

「…いるでしょ?あの()()()()()()()()()()()()。多分、そろそろーー」

 

 

 

その時丁度よくガチャリと玄関から音が聞こえた。

 

 

 

 

そして、前田の前に()()()()()が現れる。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

岡崎修一。

 

 

 

彼は友人が困っていたら助ける…が、友人以外を人間だとも思わない最悪な男?

 

それとも生徒たちの言っていることは全て嘘で、英雄のように人々を助けるような善人?

 

もしくはセーラや夾竹桃や火野ライカが言っていたことは全て嘘で、実は影で残酷なことを繰り返しているような男??

 

でなければやはり自分が最初から考えていた本当の英雄??

 

 

 

彼女の中で様々な岡崎修一が生まれ、そして消える。

 

 

そして…

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「やっほ、あーたん」

 

「…理子、さん」

 

 

 

 

理子はひらひらと前田へ手を振る。その左手には、拳銃が握られていた。

 

 

「さて、お話、しよっか?」

 

「……ええ。お願いします」

 

 

もうすぐ、日が暮れるーー。向かい合う両者の立つその場所に当の家主は存在しなかった。




最終話は26日投稿となります。

8月25日に「寄生系超偵の活動録」の方、別のコラボ話の最終話が投稿されますのでそちらもご覧ください!

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