サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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1話のあらすじ
「平賀の機械が誤作動し中から別世界の武偵、前田 綾が現れた。
前田は修一に面識があるようで修一の力を見せてほしいと頼む。
そして前田と修一は彼女の世界と別の世界であると確定させるため女子寮を訪れる。そこには修一の天敵が存在していたのだった…!」

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だから彼はサイカイと呼ばれるが、それを超偵は認めない。

「くふ、なぁんだ〜そんなことなら先に言ってよ〜」

 

「うん、言ふぉふ(おう)としたんで()けど()ぇ…!」

 

女子寮から出て数分のベンチにて、修一は二人の女子に囲まれた状態で座っていた。上手く話せないほどに顔をパンパンに膨らませた彼に同情したような目線を送る前田と、てへぺろとワザとらしく謝罪する理子。

 

般若のような形相をした理子が鉄拳制裁を行うというトラウマものの映像をリアルタイムで見せられた前田は顔を引き攣らせている。

 

「で…えっと、前田綾ちゃんだっけ。うちのしゅーちゃんが迷惑かけてごめんね」

 

「だ、大丈夫です! 迷惑なんてそんな……」

 

「ほら、しゅーちゃんもちゃんと謝まりなさい」

 

「…お母さんかよお前」

 

「グダグダ言うな。さっさと謝れ」

 

「本気にどうもすみませんでした!」

 

「………。」

 

前田の方を向いていた理子がくるっと修一へと顔を向けた瞬間、修一は慌ててズザザーッ!と前田に土下座する。こちらの理子は怒らせない方がいい。そう前田は思うのだった。

 

「も、もういいですから。それに、私にとってもいい経験になりますし。並行世界への移動なんて経験、とても貴重ですし」(……無事に帰れればいいんだが……)

 

「おい、これだよ理子。本当の優しさはこれなんだよ。お前も見習ったらーー」

 

「調子にのるな」

 

「ごめんなさい」

 

頭を地面につけるほどに下げる修一を無視し理子は前田の方へと顔を向ける。

 

「っとそんなことより前田さん、挨拶がまだだったよね!

私は峰 理子!よろしく…ってそっか。別世界に理子はいるんだっけ?ってことはもう知り合ってたりするの?」

 

「えっと……そうですね。あまり交流はありませんでしたが、クラスが同じなので何度か話したことがあります」

 

「ふ〜んなんか変な感じ〜。じゃー…()()()()って呼んでたりする??」

 

「え、よく分かりましたね。その通りです」

 

「まぁ並行世界って言っても私だからね。安直なネーミングしてるだろうなって!」

 

「安直って自覚あったのかよおまーーあぇぇぇえっ!?」

 

ゴシャァ!!と音を立て、余計なことを言いまくる修一に限界がきたのだろう、思い切り回し蹴りを放つ理子。壁にめり込むほどに叩き込まれる修一ににっこりと微笑む彼女。自然な動作で華麗に回るその姿はまさしく妖精であり、誰もが目を離せないほどに美しかった。…

 

 

 

やったことは思い切り悪魔だが。

 

 

 

前田が2人の上下関係がハッキリと理解できた瞬間だった。

 

「うん、理子もこれからあーたんって呼ぶからね!」

 

「…あ、はい…その、よろしくお願いします、その、峰さん…様?」

 

 

前田は、彼女の笑顔が本物かどうか見分けがつかずどう返すか迷いながらも手を繋ぐ。

 

それから数分が経ってーー

 

「あ、しまった。射撃場行くのはいいんだけど、セーラに昼ごろには帰るって言っちまってたんだった…。このまま射撃場行ったら確実に過ぎちまうどうしよ理子?」

 

(……タフだな。この頃から相当頑丈だったのか)

 

身体中についた壁の破片を払いながらしまったと頭をかく修一。何事もなかったかのように平然と理子の横に戻る彼に、前田は苦笑いを浮かべる。

 

「じゃー先にしゅーちゃんの家寄ってからにしたら?」

 

「そうすっか。あいつの約束守らなかったときの面倒さといったら…1日口聞いてくれなくなったときもあるし」

 

さらに、それを当たり前のように流す理子。修一が払い忘れた破片をそっと払らってあげる姿に「確かにこれはこれでお似合いなのかも…?」などと前田は変に納得してしまっていた。

 

「前田もそれでいいか?付き合わせる代わりに昼飯出してやるから。…昨日の残りだけど」

 

「あ、ありがとうございます。…ところであの、そのセーラさんって、もしかして銀髪で弓使える人だったりします?」

 

「ああ、知ってるのか?」

 

「ハッキリと面識があるわけではないのですが、岡崎君と昔出会った時に一緒にいたんですよ。彼女もこの頃にはもう仲間になっていたんですね」

 

「…ん?いや待て、おかしくね?俺がセーラと出会ったのってつい半年くらい前だぞ?昔って…その、やっぱおかしくね?」

 

「あー、それはですね。私が岡崎君と出会ったのは昔ですがそのときの岡崎君は()()()()()()()の岡崎君だからです」

 

「…ん??…んんん???」

 

前田が彼女を知っている理由を話すと、修一は首を一度こてんと首を傾げさらに傾げた。隣の理子も「こいつにそれだけで理解させるのは無理だから」と言うように合図を送ってくる。

 

「ええと、丁寧に話すと長くなりそうなので先に移動しませんか?」

 

「しゅーちゃん、行く途中で理子がゆっくり教えてあげるよ」

 

「…なんでお前はもう理解してんだよ…」

 

楽しそうに笑いながら修一の手をぎゅっと掴む理子。修一もまんざらじゃなさそうな顔をしている。その様子を微笑ましく見ていた前田だったのだがーー

 

 

(…なんだ、この変な感覚…??)

 

 

ふわっと。前田の中で何か()()()のようなものを感じていた。それは峰理子本人から感じていることなのだが、その正体がわからない。ただ、嫌な感情ではない。なにかこの世界と自分のいる世界の違いを無意識的に判別したような感覚でーー

 

「おーい、前田?何やってんだ行くぞー??」

 

「…あ、はい!今行きます!」

 

少し先でこちらを振り返る2人に気づき、彼女は思考をやめ2人を追った。

 

 

その答えを彼女が知るのは、まだ少し先の話である。

 

 

 

ーーーーー

 

 

「…おかえり修兄。早か………峰 理子。またなの?」

 

「そ。本当懲りないというか、どこまで女の引き出しがあんのかというかね」

 

(……! 間違いない、彼女だ! 随分小さいが、面影はある……!)

 

男子寮岡崎自室。ソファにちょこんと座りテレビを見ていたセーラが帰って来た修一に声をかけようとして前田を発見。一瞬でジト目に変わると理子の方へと視線を向ける。理子はお手上げと言わんばかりに両手を挙げていた。

 

そんな中、原因の前田はその日常的な風景にある意味ふさわしくないセーラの可憐な容姿に見とれてしまっていた。

 

(過去に同僚と対等に戦った超絶強い魔女が随分とちっちゃくなって……ううむ、可憐だ。一流の人形師が造ったようなビスクドールのような美しさだ。……というか、年頃の男の子癖にこんな美少女達に囲まれて何ともないのか?まさか遠山君と同じタイプ?)

 

「…人をじろじろ見ないで」

 

「あ、すみません」

 

セーラを思わず見続けてしまい、ジロリと睨まれてしまう前田。

 

こんな子が近くにいたら日常なんて送れないと思うのだが…と尊敬する彼を見ると、彼はあくびをしながら冷蔵庫を開け早速お昼ご飯を作り始めていた。…おいおい、紹介はないのか。というか一緒に住んでるのか?等の疑問が前田の中で浮かぶのだが、タイミングを失ってしまった。

 

「あ。おいセーラ、お前また昨日の残り食べなかったな。朝飯に買っとけっていったろ?」

 

「…マカロニ嫌い」

 

「一口でいいから食え。ああ、前田はその席使ってくれ」

 

「あ、はい」

 

「…マカロニ、嫌い…」

 

修一はリビングのテーブルへと移動するセーラに、小言を言いながら前田をセーラの横へと座らせる。理子はもうすでに前田の前に座っていた。

 

しばらくして修一が「夏野菜のパスタだ!」と片手間で作ったとは思えないほど手の込んだ料理が4人分運んできた。おぉ…と思わず声をもらす前田は、修一がチラチラとフォークとナイフをカチカチ合わせて歌う理子を見ていることに気づいた。あぁ、なるほどと納得する。

 

4人とも席に着き、いただきますと手を合わせ食べ始めた。

 

「そういや研究室で聞くの忘れてたわ。どうして俺のこと知ってるんだ?」

 

「ああ、それは私が()()()()()()に会っているからですよ」

 

「「……は?」」 「あーむ♡うむ、美味しー!」

 

普通のテンポで言った前田の言葉に修一とセーラが首をかしげた。理子は特に気にした様子もなく食べて頬に手を当て喜んでいる。

 

「正確にいうと『昔の私』が『未来の貴方』と会っているのですが。あとセーラさんも会ってますね」

 

「??」

 

「…私も?」

 

「そうです。そこで私たち戦ったんですよ。私は岡崎君とだけですが」

 

「え、俺と?」

 

「はい、それはそれはもう凄まじい戦いをーーそうそう、そうなんですよ!そして私は見たんです!岡崎君の勇姿を!」

 

前田はどんどん盛り上がってきたのだろう、ドン!机を叩きながら立ち上がると修一の方に顔をぐっと寄せた。

少し興奮した様子の前田に女の子にここまで近づかれることに慣れていなかった修一は、思わず椅子を引いてしまうが前田はそんなことも気にせず興奮したままの様子で話を続けた。

 

「岡崎君は凄いのですよ! 木刀1本でキリングフィールドへと赴き、跳梁跋扈する化物共をバッタバッタと薙ぎ倒し、私の暗殺技術を持ってしても殺すことが出来ず、最後には敵であるはずの私の命もーー」

 

「ちょ、待って待って!くふふ!誰それ!?しゅーちゃんが、木刀でバッタバッタとか…くふ、あはははははは!!ぜんっぜん想像できない!ないない絶対なーい!あっははははは!!」

 

前田が前のめりで話し話す内容に理子は脚をバタつかせながらお腹を押さえて笑っている。あ…あれ?どうして笑われてるんだろう?と前田は素で首をかしげていた。

 

前田の話を機嫌よく聞いていた修一は、爆笑しながらバシバシ叩いてくる理子の手を強く振り払う。

 

「うっせ黙ってろバカ理子。んで、んで?俺はそれからどんなふうにカッコよかったんだ??」

 

「えっと……はい、それでですね! 傭兵や裏社会で生きる人間を蔑んでいた私に岡崎君は挑んで来たんです!状況は絶望的で、武装の質も私の方が確実に上だったにも関わらずですよ!?私に戦いを挑む理由も、ただ冷徹に人を殺す私にブチギレたっていう本当もう意味がわからない理由でしたし!」

 

「…そこ、修一ならありえる」

 

「うむうむ、俺ってばやるじゃねーか」

 

「くふ、あは、もう、お腹痛い…!」

 

過去を思い出しながら話す彼女の言葉に、ちゅるりと最後の麺をすすったセーラが同意した。

 

「しかも過酷な戦場においても()()()()()()()()()()()()()家族の所に帰ると奮戦し──」

 

「「その話詳しく!」」

 

突如放たれた前田の爆弾発言に女子二人が思い切り身を乗り出した。片方はキラキラと、片方はジト目で前田を睨んでくる。勢いに負けた前田は思わず両手を小さく挙げてしまう。

 

「しゅーちゃん、一途に、一途に想い続けただって!!」

 

「う、うっさい。こっちに来るな!」

 

「…馬鹿馬鹿しい」

 

二文字を何度も連呼する理子とその様子を見て吐き捨てるようによそを向くセーラ。首根っこを掴まれブンブンと振り回される修一が先ほど食べた物を吐き出すまでそう時間はかからないだろう。

 

「ちょ、前田!もうその話はいいから次に行ってクレェ!!おれが、俺がしぬ…!!」

 

「は、はい。えっと、とにかく私にとって岡崎君は生き方を変える切っ掛けを与えてくれた人なんです! ヒーローなのです! 若い貴方と出会えたのは偶然ですが、あの強さの秘密を知れるいい機会です!だから貴方の力を見せて欲し…って…あの、聞いてますー……?」

 

前田が話をまとめたのだが、聞いていた当の本人は「ね、誰だと思う?しゅーちゃんの妻って誰だと思う?ねぇねぇ??」「うっさいつーかなんで妻になってんだ!?はーなー、れ、ろ!!」と二人もみくちゃになって言い争っている。

あぁ、ここに割って入るってことはそもそも無理だったかと落ち着いて座り直した。

 

「…前田綾。その未来の修一が過去に行った時、私も一緒にいたって?」

 

「え?あ、はい。お互いすごく信頼しているようでした。最高のパートナーって感じで。私の同僚──あー……メチャクチャ強い奴だったんですが……そいつをくい止める時もセーラさんは彼を優先していましたから」

 

「……未来でも…いっしょ…」

 

セーラは前田からその返事を聞くと、ボソボソとつぶやきながらまたその小さい口にご飯を運ぶ。何か気に障ったことを言ったのだろうかと心配になる前田だったが、セーラのアホ毛がゆらゆらと揺れているのが見えていた。

 

「ったく、しつこいんだよお前!俺ちょっとトイレ行ってくるから!前田も余計なこと言うなよ!」

 

「くふ、照れちゃってさ〜!」

 

ベタベタくっついてくる理子が面倒になったか、修一は逃げるようにリビングから出ていった。

笑いながら見送る理子の顔をなぜか見れなくなっている前田は見惚れてしまうようなセーラの方へと目線を移す。…これが毎日見れるってやっぱり羨ましい…などと嫉妬しているとーー

 

 

「で、綾。さっきの話で一つだけ忠告しときたいことがある」

 

 

修一がリビングから消えた瞬間、笑う顔が一変し睨みつけるように前田を見る理子。その一瞬の表情の変化に思わず前田も、え?と声をもらす。

 

「綾の話は理解したよ。信じられない話ではあるけど修一がやりそうなことだし怒りそうなことだしな。ま、信じたげる。…で、未来の修一が綾を助けるほどに強くなった理由を知りたいってのもわかる。

理子も修一の強い部分が羨ましいもん」

 

「はい。私もそう思って…彼の強さが私にもあればきっともっと強くなれると思うのです。だからまずは射撃場で力を見たいと…」

 

「ふーん、そっかそっか〜」

 

まるで男のような態度と口調に変わる理子。その言葉に前田は頷きながら自分の考えを話す。理子は前田の言葉にうんうんとわざとらしく大きく頷くとーー

 

「でも、『それ』を

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

少なくともそれで綾が望む答えが見つかるわけがないからね、残念でした」

 

完全に否定した。

 

「…? それは、どういう…?」

 

「さーてね。あーたんが()()()()()()()()()()()()()()()()()!…むむ、遅いなしゅーちゃん、さては!!」

 

わけがわからなかった彼女は理由を訪ねようとしたが、それよりも早く理子は修一のいる方へと駆けて行ってしまった。前田は理子の言葉の真意を探ろうと頭を働かせたが……理解することは出来なかった。

 

 

そんな前田に修一の皿にあるブロッコリーをひょいと盗んで食べながらセーラが口を開く。

 

 

「…前田 綾、私も峰理子と同意見。これから知ることが貴方の求めている答えとは違うものになる。ーーそれをどう判断するのかは貴方の自由だけど、貴方が本当のことを知りたいと思ったらまたここに戻って来ればいい」

 

「……??」

 

彼女たちは何をいってるんだ?とその時の前田は本当に理解できなかった。

 

 

…が、彼女たちがどうしてそんなことを言ったのか。理解するまでにそう時間はかからないだろう。

 

 

 

「しゅーちゃーん?恥ずかしがってないで早く出たら〜??」

 

「うるっさいんだよお前!早くそこからどっかいけぇぇ!!」

 

ちなみに、修一はトイレの扉を無意味にガチャガチャされ、出れないといういじめを受けていた。

 

それは、前田が気づいて理子をひき離すまでずっと続いたのだった。

 

彼女なりのストレス発散だったのかもしれない。

 

ーーーーー

 

射撃場。休日の今もタァン…タァンと音が聞こえる。

 

「…久々だな」

 

「ええ、何だか私もそう感じられます」

 

中に入ると、数人が射撃練習をしていたが一つだけ場所が開いていた。すぐに修一と前田、そして理子がその場所を陣取り、早速とばかりに銃を取り出す。ちなみにセーラはお留守番である。

 

「ーーそういや、お前ってどんくらい出来んの??」

 

「はい? わ、私ですか? まぁそれなりには……」

 

機械を起動させた修一はやってみろとでも言わんばかりに手に持つ拳銃を前田な渡す。彼は決して最初にやるのが恥ずかしかったからさりげなく回したわけではないのだ。決して。

 

そんなカラオケのノリの様な動作で回された銃を、前田は受け取る。

頼んだ側の前田はまぁ軽くやるか。と前に出たのだが……岡崎の視線にハッと肩を揺らした。

 

(あぁ、成る程。『俺の実力を見たくばまずは其方の実力を見せろ』……ということか。そうとなれば本気でやらなきゃな)

 

彼の力を見たいという自分の欲求を叶えるため、前田はバミリに立ち拳銃を構える。先ほどとは違い、的に全集中力を注ぐ。

 

 

そして…

 

「おお…おぉぉお!?…おぉぉおおお!!すげぇ!!!」

「うっうー!?うわー!あーたんすごーい!!」

 

引き金を引く学ラン女子武偵。その点数は修一と理子の反応で判る通りだ。ポイントが火を散らさんばかりにぐんぐん上がって行き、そのスコアに射撃場にいた生徒の目が次第と固定されていく。

 

終わった後のスコアに皆口をあんぐりと開けることしかできなかった。もちろん修一と理子も含まれる。数秒間を置いてようやく修一が言葉を発した。

 

「ぉぉおま、すっげぇな!射撃ちょー上手いじゃん!え、なにお前、そんな力あって俺に強さを見せろとか言ってたの?俺を苛めたかったの??」

 

「? このくらいは貴方にだって出来るでしょう?」

 

「oh!そんな無垢な目で俺を見ないで!」

 

なぜか沸き上がっている拍手は無視し、前田は首を傾げながら修一に拳銃を譲った。

 

「はぁ…余計なことしたなぁ…」と小さく呟く修一。先ほどのカラオケの例えならば歌が上手すぎる人の後に歌う人の心境だろうか。正直勘弁してほしい。

だが前田にさせておいて自分がしないわけにはいかないと判断し、バミリに立ち銃を構える。

 

(…私が見たいのはここ。彼がこの高校生時代にどれほどの実力があるか。彼がもしこの時代頃に()()()()()()()を手に入れているのなら、その片鱗がこれで見えてくるはず)

 

彼女は彼の力の正体が知りたかった。彼の強さを自分も欲しかった。だからこそ彼に力を見せて欲しいと頼んだのだ。彼の撃つ姿や指の動きなどを真似すればきっと自分にもできると彼に意識を集中させた。

 

…のだが、そんな前田が目線を逸らした。その先は、先ほどまで頼んでもいない拍手をしてきていた観客。その()()だ。

 

 

(……何だ? 全員こっちをみて笑っている…笑顔…というよりバカにしているような…??)

 

「ちっ」

 

前田の後ろにいる理子が舌打ちする。その意味を考える前に、彼の射撃が終わった。

しまった、と慌てて視線をスコアボードに向ける。

 

 

そしてーー

 

 

「…え?」

 

前田は口をぽかんと開けることしかできなかった。彼のスコアはーー

 

 

『0』

 

 

一度も的に当たっていない。そう結論付けるその結果を前田の脳が納得しようとしなかった。

 

「ま、こんなもん…だよな」

 

ワッ!と先ほどの前田に送られた拍手とは意味の違った喝采が起こる。罵倒や失笑、様々な声が射撃場内に広がる。修一はそんな中普通に前田と理子の元へ戻ってくる。

 

そんな中一際驚いていたのは、頼んだ当の本人、前田綾だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!『0点』!? 私をバカにしてるのですか!?ふざけないでください!そんなの絶対に信じられません!貴方は私以上の点数を取るはずなんです!それが当たり前でーー

あ、あれですか、先程の射撃成績程度では貴方の本当の実力は見せられないってことなんですか!? だったら!」

 

「…ふざけてなんかねぇし、本気だ。本当の実力ってのがなんなのか知らねぇけど、俺の銃の腕は()()()()()()なんだよ」

 

「そん、な…」

 

ふうと息をつき、拳銃を戻す修一に嘘を吐いている様子は見られない。周りから『サイカイ』や『クズ』などの暴言が飛び交う。前田は彼らの反応が英雄に対する反応でないことが今になってようやく理解できた。長年アンダーグラウンドな世界に身を置いていた彼女だからこそ、彼が真実を言っていることは理解できてしまった事実。

 

 

しかし、前田はその長年の自分の感覚ですら認めたくなかった。自分が間違っている、周りが間違っている。彼は自分にとって英雄であり、ヒーローであり、なにより最も目標とする人だったのだから。

 

「──っ! だったら!」

 

彼女は目つきを一瞬にして変えると、超能力を使い一瞬にして岡崎の懐に潜り込む。周囲が目を丸くする中、右足を軸にくるりと回転し修一の顔面に向け蹴りを放つ。

 

(岡崎修一は近接戦闘の達人だった! こんな隙だらけの不意打ちなら軽く避けてくれるーー!)

 

彼女の理想とする彼ならばこれくらい避けて反撃してくる。

 

 

そう判断したからだ。

 

 

ーーが

 

「ーーッァ!?」

 

「!?」

 

修一はそれに対応することも出来ず、そのまま呆気なく吹き飛ばされた。防御も取れず、懐に潜り込んだ前田に合わせることも出来ずただ、蹴り飛ばされた彼は間違いなく()()()()()だと前田の反応が判断する。

 

ーーその結果に一番驚いた表情をしているのは、前田本人であった。

 

「こ、こんなの嘘だ! あの岡崎修一がこんな……! ほ、本気を出せ! こんなものじゃないだろう!? 私とのあの戦いは、ただ運が良かっただけとでも言うのか!?」

 

「ちょ、ちょっとあーたん落ち着いてって!」

 

怒りすら覚えて倒れ伏せる修一の胸倉を掴みあげ揺さぶる前田を理子が慌てて止めに入る。

瞬間、我に返った前田は下唇を噛むと、気持ちが爆発しそうになるのをなんとか抑えて射撃場から逃げ出した。

 

 

前田の中の『岡崎修一』に、ビキリとヒビが入る。

 

 

 

『…しゅーちゃん、痛い?』

 

『あぁ、今回は、マジで痛いな。……ここ(心臓)が堪らなく痛ぇ…クソがっ!』

 

 

理子の蹴りでも言わなかった言葉を、修一は唇を噛み締めながら呟くのだった。

 

ーーーー

 

 

前田は、彼のことを自分で調べることにした。

 

 

まだ捨てきれなかった。自分が今まで尊敬し、望んでいるヒーロー像そのままだった彼があんなものではない、と。

 

 

彼女は彼に直接聞くのではなく、周りからの情報を集めることにした。他の人が彼の武勇伝を語ってくれるならそれを嘘くさくても鵜呑みにして自分を納得させようとすら思った。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

ーー()()()()()()

 

 

『岡崎ぃ?あぁ、あの強襲科の最下位だろ?射撃テストで0点取ったってやつ、マジウケるんですけどww』

 

『拳銃を逆に持って発砲して自分の足負傷したって話聞いたことあるよ〜?あんな最下位が拳銃とか持っちゃダメだよね〜?あぁ、あとねクラスで孤立しててぼっちだって噂だよ?』

 

『確かランク戦のチーム対抗で1人逃げ出したって聞いたよ?おかげでチームは負けちゃったって。謝りもなかったんだって!ほんとクズだよね?』

 

『数人の女の弱み握ってて、クソなことやってるって聞いたわ。確か一年の鈴木 桃子とか、神崎・H・アリアとか。変に馴れ馴れしく話しかけてるの見たってやつがいっぱいいたよ』

 

『お人形大好きキモ子ちゃんだからあいつww!家に女子の等身大人形持ってるって話だぜ。なんか岡崎いないはずの家に人影見たってよ!しかもそれを食堂に置きっぱにして晒しにあったってただのバカだよなwww!』

 

 

話を聞くたびに、真逆の、ヒーローとは程遠い『岡崎修一』が前田へと伝わる。武勇伝も何もない。ただただ彼のひどく、醜い歴史が浮かび上がっていく。

 

 

次第に前田の体温が下がり、顔が青くなっていく…。

 

 

そして最後の極め付けは、これだった。

 

 

「岡崎?ああ、確か『女子武偵に暴行した最低男』の名前だろ?」

 

「…暴行、ですか?」

 

「そうそう、一年の女子に馬乗りになって顔面を何度も殴ったらしいぜ。…確か小さな女の子だって聞いたな。泣いてる顔に何度も殴りつけた跡が残ってたって。病院に担ぎ込まれたけど顔は元に戻らないとかなんとか言ってたな」

 

「そん、な…」

 

 

ありえない…そう思いたかったが、事実彼を知る時間は過去と今の数時間。この程度で人を理解するなど不可能だ。

もしかしたら、今まで英雄だと思っていた彼は虚像で…本当の岡崎修一は…こんなやつなのかもしれない。と前田の中で黒い何かが渦巻く。

 

 

 

『ーーお前が本当に望んでる世界に必ず近づけるから!もっと肩の力抜けよ。人間らしく、自分に正直に生きてみろって!それだけで世界が変わって見えてくっから!』

 

 

 

「馬鹿な…馬鹿な……ッ! それじゃあ、あの戦いは、あの言葉は……何だったんだ……!」

 

 

前田が、過去を思い出し叫ぶ。そして、岡崎家のリビングで理子とセーラが言っていた意味を理解した。

 

 

 

 

 

彼女の中の岡崎修一が粉々に砕け散った。

 




2話目が終わりました!最終話までお付き合いください!


3話は20日投稿です。

19日に「寄生系超偵の活動録」の方で、別のコラボ話の3話が投稿されますのでそちらもお読みいただければ嬉しく思います!

ではでは〜

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