サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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こんかいはこんかいはこんかいは、なんとなんと!!

初の「寄生系超偵の活動録」さんとのコラボ企画となっています!!

もし読まれていない方がいらっしゃったとしてもわかるような形にしてありますので、この機会にぜひ知ってもらってお読みいただければと思います!!

https://syosetu.org/novel/108845/


では、どうぞ!!


特別コラボ編 寄生系超偵の活動録
突然現る超偵と死を察したサイカイ


「は?『全自動卵かけごはん製造機』??」

 

「なのだっ!」

 

とある休日の早朝。修一は平賀の研究施設にいた。

 

普段ならセーラの叩き起こしを拒みながら惰眠を貪っている時間なのだが現在、修一は休みにも関わらず武偵高の制服姿で平賀の研究室にいる。

 

朝から突然のモーニングお呼出しコールを五分以上も鳴らし続けた平賀に鉄槌を喰らわせてやろうと走ってやって来たのだ。

頭グリグリの刑三分間はしてやると般若顔でここへ走り込んで来てやったのだが…。

 

 

目の前の自己主張の激しい、アニメで見たことがあるようなカプセル式の機械にその感情が吸い込まれていった。なんだこれ?と言うまで時間はかからなかった。

 

 

平賀の研究室はAランクの研究室ということもあり、9畳ほどの大きさがある。

 

もうここで一人暮らしできるんじゃね、家賃浮くじゃん住んでいい?と修一が部屋に初めて入った瞬間に言ってしまったほどの大きな部屋の中、そのカプセル状の機械が堂々と真ん中を占拠していた。

 

真ん中のカプセルは小さい子なら膝を抱えて入れるほどに大きく、その横には、小さい手のひらサイズのカプセルが取り付けられている。

 

「で、これなによ?」

 

「だから、全自動卵かけご飯製造機なのだ!」

 

「いやわからんて」

 

ドンとない胸を張って言い放つ平賀に修一は頭を書きながら返答。

 

身近に感じる単語が聞こえたが、これとの関連が全くわからなかった。…わかりたくもなかった。

 

「てかなに?これ使って卵かけご飯作んの?普通に卵割って入れた方が早くね?」

 

「ぬふふ、そんなこと言ってられるのも今の内なのだ!これは中でただ座ってるだけで卵かけご飯が出てくるのだぞ!?

…ぬ、実際に見た方が早いのだ!卵とご飯持ってくるから待ってるのだ!!」

 

返答を聞いても首をさらに傾げる修一に、平賀は言葉を言い終えるより早く、奥のキッチンへと向かって行った。

 

まぁどうせ来ちまったわけだし、ついでに見て帰るのもありか。と修一は諦めて彼女が戻ってくるまでその巨大なキッチンアイテムの方へと近づいた。

 

「そもそもこれ誰が作れって頼んだんだ?まさか趣味で作ったわけじゃあるまいし」

 

ふむん…?と顎に手を添えて機会を見渡す。なんだかんだ言いながら、彼女の作品はかなり興味がある修一である。

 

(平賀の言っていたことをそのままに捉えるなら、この真ん中のカプセルに人が座ってたら自動で卵かけご飯が出てくるってことか?いやこの大きさ、お前くらいしか入らんでしょうよ?)

 

目の前のカプセルには平賀ほどの小さな子供しか入らない。じゃあ平賀専用なのだろうか?などと考えつつ、

 

よくわからないその機械を少しでも理解してやろうと色々な場所をいじり始めた。

 

 

 

 

そう、いじり始めてしまった。いたずらに、目についたボタンなどを連打している。

 

 

 

 

 

ーーー大抵、機械音痴ほど余計なことをするのだ。

 

 

 

ボキッ

 

 

 

「…あ」

 

 

――広い部屋に、不吉な音が響いた。

 

彼は学ぶことを知らなかった。以前から何度も何度も繰り返して来たことをまた再びやってしまった。もちろん取り返しはつかない。

 

「あ〜…」

 

手に持つ金属が途端に軽くなってしまっている。最初は何かについているようにある程度の重さがあったその金属は今、修一の思う通りに動かせる。

 

 

…その端は、完全にポッキリ折れていた。

 

 

「ただいま〜なのだ!ーーあっ!?」

 

「あ、いや、こ、これは…」

 

呆然と握りしめた金属を見ていた彼の後ろから、卵やご飯や醤油をその小さな体に抱えた平賀が戻って来た。ーー瞬間、機械付近に立つ修一に体を震わせる。

 

壊され慣れによる俊敏な行動。彼女の中では壊れた部分を見るより先に彼がそこにいる=壊れたであり、その通りであった。

 

「ま、また壊したのだ!?なんで毎回少し目を離しただけで壊すのだーー!?」

 

「い、いや、その、お、落ち着けって平賀。だ、大丈夫だって!壊れてない!ほらほら、貸してみ!」

 

涙目になって両手に抱えた卵を今にも投げようとしている平賀を慌てて止めつつ、罪のない食材たちを確保する修一。

 

自分の罪を少しでも軽くするために、修一はその食材全てを機械の小さなカプセルの方へ全部ぶち込み、『起動』と書かれたボタンを連打した。

 

「ほぅら!部品一個なくなったくらいじゃお前の作品はバグを起こしたりなんてしないっての、自分を信じなさいよ!」

 

瞬間、プシュー!!と激しい音を立てながら動き始める自称『卵かけご飯製造機』。

 

ガタガタガタガタッ!!と重量オーバーした洗濯機のごとく激しく揺れ動いている。

 

「…動き方が明らかに変なのだ」

 

「え?いや、大丈夫だよ平賀さん。最悪、俺がお前の卵かけご飯製造機になれば…」

 

「心の底からいらないのだ」

 

プシュー!ガコッ!ガコッ!!ガシャンガシャン!!!

 

もうプライドも何もない修一の後ろで、先ほどより激しく動き始めるとカプセル機械。それはまるで生き物が跳ねるように暴れまくっている。

 

そのあまりの動きの異常さに修一だけでなく製作者である平賀本人も焦りの色を出し始めた。

 

「ちょ、岡崎くん!これヤバイのだ!動き方がいつもより激しすぎるのだ!」

 

「え、まじ!?ええ、とめ、止めなきゃ…!」

 

「お、岡崎くん何する気なのだ!?」

 

「起動押しちまってこうなったんなら止めるが一番だろうが!えっと停止は…これか!?こ、これか?…これだ!!…違うかぁ!」

 

「ちょ、そんないい加減に押したらーー!」

 

「あんれまっ!?なんかカプセル光り始めたんですけど!?」

 

「ええぇ!?どうしたらそうなるのだ!?」

 

「俺が知るかよ!?」

 

慌てて様々なボタンを連打し始める修一だったがそれに伴ってカプセルの中がキュィィィィン!と音を立て輝き始めた。その光はカプセル内にとどまることはなく部屋全体を光り輝かせるほどにまで拡大している。

 

「え、こ、これ、爆は、爆発するんじゃねーのこれぇ!?」

 

「爆発ーっ!?い、嫌なのだ!こんなことで死にたくないのだぁ!こんなギャグ要素満載の男と心中なんて嫌なのだー!!」

 

「お、俺だってお前みたいなお子様と心中なんて嫌じゃボケェ!?」

 

お互いに罵り合いながらもどうすることもできず、光を増していく機械を前に互いに抱きつきその様子を見守ることしか出来なかった。

 

 

ーーーーそして

 

 

 

 

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」」

 

 

 

 

 

部屋一面を、光が包み込んだ。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

カチ…カチと9畳ほどの部屋に時計の音だけが響く。

 

 

 

 

 

 

 

「い、生きて、た…?」

 

「生きてる…のだ」

 

 

 

 

 

 

 

爆発は、しなかった。

 

目の前の卵かけご飯製造機からは煙がモクモクと立ち込め何も見えない状況になってはいるが、二人に怪我はない。

 

「…もー!岡崎くん!いい加減岡崎くんは自分が機械音痴だってことを理解して欲しいのだ!ここに来た時は絶対に機械から三メートルは離れて欲しいのだ!!」

 

「悪かったって。ま、無事でよかったじゃないかHAHAHA」

 

事が大ごとにならなかった事に安堵しつつ、次第に落ち着きを取り戻す二人。

もうすでに修一の中からは朝起こされた怒りが、平賀からは壊された怒りが完全に消えてしまっていた。

 

「もう…疲れたのだ。お花を摘みに行ってくるのだ」

 

「お花?ああトイレか。ビックリしすぎて漏らしたか?」

 

「岡崎くんはいつか女子に殴られてしまえばいいのだ」

 

ジト目で罵倒しながら、トイレへと向かっていく平賀に手を振りつつ、修一は未だ異臭のする機械へと近づいていった。

 

「さってと、とりあえず食材だけは取り出すか。…にしてもくっさいなこれ」

 

未だ煙でよく見えない中を手で掻き分けながら進んでいく。

 

どんなことに使われても食材は絶対に無駄にしない。修一にとって幼い頃からの逆らえない教えである。

 

(救助を求める声を聞いて駆けつけるのが武偵…それは食材に対しても同じさ…カッコイイな俺)

 

またトンチンカンなことを考え得意げな表情をしつつ、修一は機械の前にたどり着いた。

 

 

 

ーーー先ほどのことでもわかると思うが、彼はトラブル体質である。

 

 

 

 

どうでもいいことをしようとすると必ずトラブルへと発展するような男だ。

 

 

 

だからこそ、彼のトラブルが()()()()()()()()()()なんてわけがない。必ず次のトラブルが待ち構えていた。

 

 

 

 

「…へ?」

 

 

 

 

 

機械の中を見た瞬間すっとんきょな声をあげる。目も点になり、思わず瞬きを何度も繰り返した。

 

いま目の前に広がるこの意味のわからない光景に脳の処理が追いついていない。

 

 

 

爆発寸前で何とか踏みとどまった『全自動卵かけご飯製造機』。

 

 

煙を払ってようやく見えて来たカプセルの中…

 

 

その中に…

 

 

 

「えっと…卵かけごはん…さん??」

「お、岡崎…修一!?」

 

 

「「…はい??」」

 

 

 

膝を抱えてちょこんと座る、白金色(プラチナブロンド)の髪をした美少女が修一の名前を叫んだのだった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

『卵かけご飯を作ろうとしたら女の子ができました』

 

 

 

そんな文に違和感を覚えないのは自分だけであると修一は確信があった。誤作動を起こした機械の中から男子の学ランを着た身長150cmほどの女子生徒が生まれたのだからおかしなことを言っている自覚はあった。

 

(おいおい、卵と醤油とごはんでなんかすげー可愛い子出来上がったんだけど。人間ってこう作るのか知らなかったぁ。ーーってないないないない!)

 

あまりの異常な空間に思わず自分で自分にツッコミを入れてしまう修一は、ただその出来上がった(?)女子生徒のアクアブルーの瞳をジッと見つめていた。

 

「な、なんでお前がここにいーあうッッッ!?」

 

「うっわ、痛そ〜…」

 

彼女は目元にかかる金に近い白色をした髪も払うこともせず、勢いよく起き上がろうと…して小さなカプセルの天井にゴンッ!と頭をぶつけてしまった。突然の衝撃に頭を抑え悶える彼女。思わず同情してしまった。

 

「あーその、大丈夫か?」

 

「っ…はい…大丈夫です」

 

 

痛みのおかげで少し落ち着いた彼女を小さなカプセルから出しつつ、とりあえず話を聞くことにした。

 

 

戻って来た平賀が「またなのだ…また訳がわからない事件を持ってきたのだこのアホ男」と嘆いたのは言うまでもない。

 

 

ーーーーー

 

「えっと、名前は前田 綾さんなのだ。東京武偵高校のSSR所属…で間違ってないのだ?」

 

「はい、2-Aです」

 

卵かけご飯製造機から女の子が生まれて30分が経った。戻って来た平賀にある程度の事情を説明(女の子生まれた等)し、3人が座れるスペースへと移動した。

 

彼女の名前は前田 綾。登校している最中に突然光に包まれ気づけばここにいたらしい。

 

「2-Aって俺と同じクラスじゃねーか。いや、お前みたいなやつ見たことないって」

 

()のクラス…?」

 

修一の言葉に怪訝な表情をする前田。彼女はクラス内全員の顔と名前を覚えている。もちろん岡崎修一というクラスメイトの記憶はない。

 

そもそも

 

(やはり岡崎修一で間違いない。しかし()()()とは全然違う…)

 

彼女は岡崎修一を一度見たことがあった。それもかなり昔に()()姿()()()()()()()()()()()()を。

 

だからこそ、岡崎修一が高校生であるということは彼女にとってあり得ないのだ。

 

「どうした?」

 

「いえ、私が見た時は確かに20代後半くらいかと…」

 

「え?…おい平賀、俺ってそんな老けて見えるの?」

 

「少なくとも金銭感覚は頑固ジジイなのだ」

 

「………ガッデム」

 

「いえ、今の見た目ではなくてですね…」

 

平賀の罵倒に膝をつき悔しがる修一にいやいやと前田はツッコミを入れる。そ、そんなことねーよ!!と異論を唱始める修一だったが「無視していいのだ」と平賀は話を進めることにした。

 

「それで、これはどうなってるのだ?」

 

「そうですね…。お互いに嘘を言うメリットもないですし、岡崎さんも私が2-Aにいるという記憶はないんですね?」

 

「あぁ、というかお前は昔に俺と会っているみたいだがその記憶もないぞ?」

 

「そうですか…」

 

首をかしげる修一の横で前田は顎に手を当て考える。

 

その中である一つの仮説が前田の中に浮かび上がった。

 

「お二人に質問です。

 

遠山キンジ、神崎・H・アリア、天々座理世(てでざりぜ)、峰 理子、保登心愛(ほとここあ)、ジャンヌ、宇治松千夜(うじまつちや)

 

今挙げた武偵の中で知っている名前はありましたか?」

 

前田は少しずつ、この違和感に気付き始めていた。

 

「えっと…?キンジにアリア、理子にジャンヌは知ってる。あとの難しそうな名前の人たちは知らんな。ああいや、俺が友達少ないから知らないだけかもだけど」

 

「そんな悲しい報告はいらないのだ。でも、データベースを漁ってもその3人の記録はないのだ」

 

「そうですか…」

 

前田はその返しに確信を持って二人に告げた。

 

「そうですね、彼女たちがいない以上、

 

少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようです。

 

…共通の知り合いもいるようなので全員というわけではないようですが」

 

「えっと?別の場所じゃないけど同じ場所で…?同じクラスだけど同じクラスじゃなくて、んん??」

 

「岡崎くんが武偵高校の2-Aであることは明らかなのだ。その岡崎くんが知らないということは前田さんが嘘をついている可能性の方が大きいのだ、学生名簿にも貴方の登録はないのだし」

 

「ですがここで私が嘘をつくメリットもないでしょう?学生名簿のことはわかりませんが、私はあなた達が作った『全自動卵かけご飯製造機』…でしたか?その誤作動でここに来た訳ですし。私に何か計画があったとしても、このトラブルを予定しての行動は不可能かと」

 

「…まぁ、『機械から人が出てくる』なんて不思議すぎるトラブル、この男しかできない芸当なのだし、それを何かに使うのは不可能なのだ。前田さん疑って悪かったのだ」

 

「いえ、このようなイレギュラーですし無理もありません。そもそも根底からおかしな話ですから。機械を触っただけで爆発寸前までいく人なんて…」

 

「…あり?お前らなんで俺を睨んでんの?」

 

状況を理解できず頭を抱えている間に女子二人の目線が変わっていた。

 

 

「んーでも訳がわからないのだ。前田さんのことも岡崎くんのことも事実だとするなら二人の矛盾はどーなるのだ??」

 

小さい頭をぐわんぐわんと揺らしながら目を回し始める平賀。

 

前田はただ黙って考え込んでいる。

 

 

少しの時間、静寂になった。

 

 

 

 

 

 

 

「はは、もしかしてお前『別の世界』から来てたりしてな!」

 

 

 

 

 

 

「「………………。」」

 

「ってそんなアニメみたいなことあるわけないか!別の世界ってなんだよって話だよな!俺も理子のせいで厨二くさいことを言ってしま………あれ?…ない、よな??…え、あるの??」

 

冗談だと笑い飛ばそうとした修一だったが、思いの外二人が黙りこくって考え始めるのを見て詰まってしまう。

 

前田の考えていた過程もそれとほぼ同じ考えだった。

 

「確かにありえないとは思いますが、今のこの状態ではその考えが一番納得ができます。

 

『私がいて岡崎君がいない世界』があり、

 

『岡崎君がいて、私がいない世界』が存在する。

 

そしてその機械で世界を移動したと考えるのが妥当かと」

 

「んなバカな」

 

「超能力者も実在するし、あっても不思議じゃないとは思うのだ」

 

「…まじか」

 

まさかの事実に引きつってしまう修一。他の二人が納得している中々納得できない自分がおかしいのかと錯覚してしまう。

 

そんな中、前田はさらに今の現状を理解し始めていた。

 

(別世界…。それが本当だったとして…もし()()()も一緒ではないのだと仮定したら…もしかしたら()()()()()()()()は…)

 

「ちなみに岡崎君。MDPという言葉を知っていますか?」

 

「…なんだそれ?俺が知ってるのはATMだけだ」

 

「そんな欲丸出しの解答は求めてません…。では、セーラ・フッドという傭兵は?」

 

「セーラ?セーラなら今家で洗濯物してるんじゃね?…あ、洗剤買ってこいって言われてるんだったわ…」

 

「なるほど」

 

前田が出会った修一はMDPという単語を口にしていた。つまり、それを知らないこの修一は間違いなくあの時の記憶はない。過去に出会ったことがないということはつまり…

 

(冗談を言っている風ではないですし…やはりあの時の岡崎修一は今より()()()…)

 

「前田さんはある程度この事態を把握したようなのだ??」

 

「まぁ、概ねですが」

 

「……??」

 

皆がそれぞれこの出来事にある程度理解し始める(約一名は若干ではあるが)中、よし!と平賀が気合を入れて口を開いた。

 

「とりあえず前田さんを元の世界に戻してあげれるように頑張ってみるのだ!その間二人は時間を潰してて欲しいのだ!」

 

「お、さっすが平賀!頼りになるな」

 

「ふふん、今更褒めたって何も出ないのだぞ?」

 

「割引くらいしてくれたっていいじゃねーか…」

 

「本気で狙ってたんですか…」

 

項垂れる修一にジト目でつっこむ前田。また項垂れる修一を無視して前田は平賀に向き直った。

どうやら修一の扱い方に少し慣れてきたらしい。

 

「平賀さん。私にも手伝えることはありますか?」

 

「んー特にないのだ。まぁ勝手に連れてきたのはこっちだから全部任せて欲しいのだ。岡崎くんあとよろ!」

 

「おう。よし、んじゃあ前田…でいいか?」

 

「はい大丈夫です」

 

「んじゃ前田。平賀が大丈夫だって言ってんだ、適当にどっかで時間潰して待ってよーぜ」

 

「わかりました。…あ、では一つお願いしたいことがあるんですけど」

 

「なんだ?」

 

(岡崎修一が()()()()()()()を手に入れた秘密があるのなら、この武偵高校時代に必ず何かあったはず…)

 

昔…前田が修一と出会った時、前田は修一と死闘を繰り広げた。その頃の前田は今以上に冷酷で、今以上の力を持っていたのだが、

 

それを修一は退けることに成功している。実際に前田は負けてしまっているのだ。

 

その強さを手に入れた理由、そしてその過程を

 

前田はどうしても知りたかったのだ。

 

 

「あの、私に貴方の力を見せていただけませんか?」

 

 

「…はい?」

 

 

 

ーーーーー

 

「で、この男子禁制のこんなとこに来て何しようっての?ここで俺はどういう強さを見せればいいんでせう?」

 

「いえ、まずはここが違う世界だと確定させたいと思いまして。私の部屋に行こうかと」

 

「…ふむ?」

 

平賀の部屋を出た二人は女子寮に来ていた。

『607』の部屋までエレベータで登り、ドアの前に立つ。休日の朝のこの時間はまだ女子生徒が出歩いていないのが幸いした。

男子禁制のこの場所に足を踏み入れるのは勇気がいるし、見つかった時の言い訳は見つからない。隣を悠々と歩く前田に対し、ビクビクしながら立つ修一だった。

 

「でも鍵はどーすんだ?」

 

「持ってますよ?もし仮定が正しければ『別の世界の607号室の鍵』ですが」

 

「それってつまり仮説が正しくなかったら他の誰かの部屋ってことだろ?捕まったら言い訳できない供述だよなぁ…」

 

 

『学年サイカイ女子寮に侵入!?鍵は()()()から手に入れた!?』

 

 

この現場を誰かに見られ捕まった後の新聞タイトルを想像し、ぶるりと肩を震わせる修一。

 

そんなこと気にも留めない前田は自分のポケットから鍵を取り出すと鍵穴へと差し込んだ。

 

「あ、開きました。では入りましょうか」

 

「んなあっさり…!?てか、中に誰かいたらどうすんだ!?」

 

「そうですね。岡崎君、ノリでなんとかしてください」

 

「お前意外とめんどくさがりだろ!」

 

もう真面目に返す気も無くなったのか前田はテキトーに返すとドアノブを回し入って行った。俺の周りはこんなやつばっかか!と泣きながら前田について行った。

 

「誰もいませんようにいませんように…!女子寮に不法侵入したとか捕まったら今以上に立場悪くなるというか三倍刑で俺捕まって出てこれなくなるんじゃねぇかというか俺の人生終わるんじゃないかとか考えてるわけでというか俺そもそもここに来る必要なくねとか思ったり外で待ってればよかったんじゃねとか考えたりーー」

 

 

「うるさいですよ岡崎君。…それに無人ですよここ」

 

「へ?」

 

ドンドン進んでいく前田の後ろ肩を掴み謝りながら進むと、そこには誰もいなかった。…というより何も存在しなかった。最初から設置されている机や冷蔵庫などはあるがその他には何もない。まるで、誰も住んでいない様な状態だった。

 

「ここがお前の部屋?殺風景にもほどがあるな」

 

「いえ、本来ならウールのカーペットやウォールナット材のテーブルがあるはずなのですが…」

 

「え?前田ってどっかのお姫様なの?」

 

「いえ、ルームメイトの方がお嬢様なんです」

 

いい生活さんのなぁ。と自分と比較して悲しくなってしまう修一。

そんな修一を無視し、前田の目線は備え付けの冷蔵庫に向かっていた。前田はゆっくり近づくと慎重に開いた。

 

「…入ってない…」

 

「おい冷蔵庫なんか見てどうした?」

 

「いえ、やはりカウンターがないということはここはやはり私のいた世界ではないということですね」

 

「カウンター?」 

 

「…気にしないでください」

 

前田は昔のことを思い出していた。それは、東京武偵高に来てすぐのことだ。

 

 

《前田は冷凍庫にギチギチに詰まってたプロテインは見なかったことにした。冷凍食品でもあるのかと思ったらとんだカウンターであった》

 

(あれは本当に驚きましたし…それがないのは安心ですね)

 

昔見たトラウマを思い出し、そっと冷蔵庫を閉めた。

 

「なぁ、もうここでやることは終わったんじゃねーの?人に見つからないうちに早く女子寮出ようぜ?」

 

「そうですね。あ、その前に…隣の壁、ドンしますか?」

 

「お前俺になんか恨みでもあんのかっ!捕まるわ!!」

 

笑いながら殴る構えをする前田を必死に止めに入る修一。もし隣部屋に女生徒があれば彼は死ぬのだ。

 

前田のからかいを何とか止めつつ、二人は空き部屋を出て行ったのだった。

 

 

 

 

「あ、そういえば火薬庫もないんですね。普通の部屋だ…」

 

「か、火薬庫!?」

 

帰り際の前田の言葉に、こいつの生活はどうなっているんだ!?と心配になる修一であった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「とりあえず、私が存在しない世界だということは裏が取れました。岡崎君の仮定通り、ここは『違う世界』だと認識するのが妥当な様です」

 

「順応性早いのね…」

 

「慣れてますから」

 

607号室を出た二人は鍵を掛け直すと、エレベーターに乗った。

「ですが、こちらの世界でやることなんて私にはありませんし。岡崎君のいう通り平賀さんの修復を待つのが懸命な様です。なので岡崎君、早速お願いを聞いていただきたいのですが」

 

「あぁ、俺の強さを見たいだったか?マニアックなやつだな。なんの足しにもならんだろうに…」

 

「いえいえ、謙遜なさらないでください。まずは射撃場にでも行きましょうか」

 

「…まぁ、いいけどよ…」

 

前田のよくわからない好奇心にとりあえず頷きつつ、修一はただボーッと『5…4』と下がっていく光を追っていた。

 

 

チン…という音と共にエレベータが3()()で止まる。その階でボタンを押した人がいるのだろう。

 

「ああ、誰か乗るみたいだな。んじゃあちょっと詰めるわ」

 

「はい」

 

修一は前田に許可をもらうと、距離を詰めた。何人乗るかわからなかった修一は前田と肩がくっつくほどに近づく。

 

 

そして…

 

 

「うぇえ!?しゅーちゃん!?」

 

「おお、理子か。おっす」

 

「…あ、みねさん」

 

 

開いたその扉の先には、まだ9時と言う早すぎる時間なのにも関わらずメイクやファッションを完璧にした金髪ギャルが驚いた表情で立っていた。

 

「手間が省けたな。ちょうどお前呼びに行こうと思ってたんだよ。実は面倒なことに…」

 

「あわ、あわわわわわ…!!」

 

「…理子??」

 

今朝のトラブルを説明しようとした修一だったのだが、

 

理子の様子がおかしい。

 

この世の出来事ではないような異常事態を目の前で目撃してしまった人の様に、ただアワアワと口元に手を当て固まることしかできないでいた。

 

なんだ?どうした?と疑問に思っていた修一だったが…

 

「…え、しゅ、しゅーちゃんが…朝早くに女子と女子寮に…っえ!?…えぇぇ!?!?」

 

「…………あー」

 

「………?」

 

 

一瞬で悟った。

 

 

 

女子寮で

 

 

朝方に

 

 

理子の見知らぬ女子と彼氏が二人でエレベーターに乗る姿を目撃。

 

 

…ハハ、終わったわこれ。

 

 

驚く理由がよくわからず首をかしげる前田を他所に、修一はこれから起こるであろう惨劇を想像し、思わず『閉』ボタンを連打したのだった。




はい、ということでなんと、アリア小説間でのコラボでした!

初めての企画なので皆様に楽しんでいただけるか心配ではありますが、頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いいたします!


さらにですね、実は今回コラボしていただいた『寄生系超偵の活動録』の方でも


この話とはまた違ったコラボ話が《今日》投稿されています!


私じゃなく、野牛先輩さんが書いた修一をぜひご覧くださいませ!!
今回コラボしていただいた、寄生系超偵の活動録なんですけど、まぁ面白いこと面白いこと!オリキャラの、今回こちらに出た前田綾と、さらに「ご注文はうさぎですか?」のキャラたちまで出てアリアの世界を引っ掻き回します。読み進めるのも簡単で、内容もよく練られている作品です!ぜひご覧ください!

URLです♪
https://novel.syosetu.org/108845/





2話は、8月15日投稿となっています!

8月14日に『寄生系超偵の活動録』の方でコラボ話が先に投稿されますのでそちらもぜひお読みください!!

ではでは〜

ps.野牛先輩さーん!前田 綾お借りしまーす笑!!

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