サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「4話のあらすじ」
理子の依頼「倉庫の調査」をこなすため知り合いの装備科平賀文の元を訪れ装備を整えた。金なしの修一にはろくな装備を提供されなかったが、行かないわけにはいかない



5.EランクのサイカイVS武偵殺し

「でっか」

 

理子の言われた通りに進んだ先にあったのはかなり大きめの倉庫だった。

近くに漁船を多く置いてあるここは港の中でもかなり大きな部類にはいるらしい。そのため同じ大きさの倉庫がいくつも存在している。

倉庫と言っても一つが体育館ほどの大きさの倉庫だ。いったい何をそんなに入れるものがあるのか。高校生の俺には想像もつかない。「缶飲料製造」と書かれた倉庫が今回の目的地だったのだが…。

 

「さって、まずはどうすっかね…?」

 

こんな難易度の高そうな任務を受けたのは初めだ。まず最初にどうすればいいのか全く分からなかった。

 

正面から入って大丈夫なのか?いやでもな。もし本当に武偵殺しが使ってたら俺一瞬で死ぬじゃん。

 

…どうしたもんか。

 

とりあえず倉庫をぐるっと周り見てみることにした。どこかにスルッと入れそうな場所はないか調べるためだ。

 

そう見ていると1か所だけ、恐らく二階の部分に窓が設置されているのを発見した。下には箱が積まれていて、うまく動かしたり乗せたり出来れば登って入れそうだが…。

 

もし仮にここが本当のアジトの場合、ここと入り口を守っていればいいということになるわけだから、ここが安全という保証はない。

 

だがほかに行く場所がないのも確かだ。

 

「…いくか」

 

あの女の言葉を信じて、俺は金で自分を動かした。これで30万!と何度も言い聞かせとりあえず窓までの足場を作り、開きっぱなしだった窓にラッキーと思いつつ侵入した。

 

中は丁度日の光が入ってこない場所で少し薄暗い。

 

中はかなり暗く、目が慣れてくるまでしばらく時間がかかった。どうやら曲がり角の端っこの位置にいるらしい。

 

すぐ横に左に曲がる道があって、その先は一方通行になっている。

 

その先は、見えない…。

 

 

………行くしか、ないか。

 

小型銃を構えながら少しづつ、静かに、ゆっくりと進んで行く。

 

(こういうほんとに武偵みたいなことって、練習以外で初めてだからやけに緊張するな)

 

ドクン、ドクンと心臓の音がかなり大きく聞こえた。改めて考えると、ここは凶悪犯罪者のアジトかもしれないのだ。こんなに緊張するのも仕方がない。

 

才能があれば、こんな状況でも冷静でいられるのだろうか?

 

なんて皮肉を考えつつ、そのまままっすぐ進み続けていると…

 

カツーン、カツーンという音と、なにか機械が作動している音が左側にある部屋から聞こえた。 その部屋には明かりがついている。何か作業でもしているのだろうか?

 

「………ま、まさか、マジで武偵殺しのアジトとか言わねーよな…?」

 

心拍数がかなり上がっている。呼吸をしたがる口が閉じようとしない。

 

もしここで武偵殺しに出会った場合、俺の生存確率は0だ。間違いなく殺される。相手は優秀な武偵が何人も挑んで負けた相手だ、万に一つも勝ち目などない。

 

逃げ出したい、そう思ってしまう。

 

だが

 

(…こ、ここで逃げたら…昔の俺と変わらねぇ…。だったら、死ぬかも知れなくても…行くしか、ないだろ……あと金貰えるしっ)

 

昔に戻りたくない。その一心…と金を考えながら、

 

覚悟を決め、そっと扉を背に開いた部分から中を覗き見る。

 

 

そこには、製造機械が置かれていた。

 

一室すべてに機械が張り巡らされており、そこで機械が何か作業をしている。

 

 

 

人影は、ない。

 

俺の隠れる扉の対角線上にあるもう一つの扉からも出入りした形跡はない。本当にただ大きな機械のみが動いている。

 

…機械に乗っているあれは、缶詰、だろうか。コンベアから流れてくる空き缶の中にはなにかフルーツのようなものが入っており、その蓋を閉めているようだ。

 

(ここは缶詰を作る倉庫ってことか…たしかありゃあ液体窒素を缶の中に重鎮する作業、だったかな。たしかリサがそんなことをドヤ顔で言ってた気がする…。というか…

 

つまりあれか、ここは缶詰製造倉庫。ただそれだけの場所で、武偵殺しのアジトとかじゃない。そういうことだな。うん。)

 

なんだよ、脅かせやがって。と依頼主に少しイラっとしつつも緊張の解けた俺は小型銃をホルスターに戻し来た道を戻ろうと後ろを向いた。

 

 

 

 

 

こういう言葉がある。

 

 

 

 

 

ピクニックは家に着くまでがピクニックだと。それまではピクニックの最中なのだから先生の言うこと聞きなさい。

 

 

 

 

 

この言葉を今の俺の状況に変えて言うと…

 

 

 

 

依頼は、依頼主に完了の報告をするまでが依頼だ。それまでは任務中なのだから

 

 

 

 

気を抜いてはいけない。

 

 

 

 

『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

 

 

「…うそだろ」

 

前方で甲高い音を出しながらそんなことを叫ぶのは昨日のセグウェイ機一機だった。

 

「…気を抜いた瞬間にこれだよ、ちきしょう!」

 

そう思いながらもダッと空き缶製造室に飛び込んだ。その瞬間通路からダダダダダダッ!!!と爆音が聞こえる。

 

「くっそ、なにがデマ率高いだよ!!ものほんのアジトじゃねえか!!」

 

あの兵器がいる以上、ここには武偵殺しが関わっていることは明白になった。…最悪だ。

 

部屋をゴロゴロと転がり機械の影に隠れ拳銃を取り出した俺に対し、扉の前にまで迫ったセグウェイが部屋を見渡した。

 

そして、大音量の発砲音が耳に響く。俺の姿を見つからなかったセグウェイが部屋全体に発砲を開始したのだ。

 

マジでマズイ。前は考える暇があったから何とかなったが今は…!!

 

その時、マシンガンから放たれた一撃が缶詰製造機の電力版に当たり爆発した。

 

ドオッ!!!っと爆風をまき散らしながら荒れ狂う部屋を俺は何もすることができずただ風に押されゴロゴロと転がってしまう。

 

そしてその体が先ほどとは反対側のドアにぶち当たり、その先の階段をゴロゴロと転がっていく。

 

階段の曲がり角地点で強く体を打ち付け、ようやく止まることができた。

 

「痛っつ……」

 

痛む体を無理に動かし、先ほどの部屋を見ると、壊された機械が燃え上がり部屋全体を炎が包み込んでいた。

 

あ、あぶねぇ、あのまま仮にドアから出られないと死んでたぞ。でも生きていた。

素直にうれしいし、俺の任務はここが武偵殺しのアジトかどうか調べることだけだ。つまりもう俺の任務は終わっているのだ。

別に壊滅させろとは言われていない、来た道には戻れないが出口から逃げ切れれば勝ちだ。今いる階段はおそらく中央の広い空間へ出るものであったはず。つまり最初に見た正面の扉へとつながっているはずだ。暗くて見えにくいが、このまま階段を降りてまっすぐ進めば逃げ切れる。

 

 

「…うっし、もうこんなとことはおさらばだ。行くか」

 

 

 

逃げ道を知った俺は大きく深呼吸し、自分は助かるんだと言い聞かせた。

 

 

そうして、タンッと軽く足を蹴って階段を一歩降りたーー

 

 

 

瞬間だった。

 

 

 

パッと広い空間を照らす照明が一斉に光を放ちーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『侵入侵入者発者発見侵侵入発見入見!!侵死んで下さ死んで下さりやがれですりやがれです侵発見入入!!侵入!!!者発発侵入見見!!』』』『『『死んで下死んで下さ死ん見侵侵入発見で下さりや見侵侵入発見死んで下死んで下見侵侵入発見さりやがれですさりやがれですがれ見侵侵入発見ですりやがれですさり死んで下さりや死んで下さりやがれで見侵侵入発見すがれですやがれです!死んで見侵侵入発見下さ見侵侵入発見りやがれです!!』』』

 

 

 

「………ッッ!?」

 

 

そして、見たくない現実を見せつけられる。

 

俺は幻覚でも見ているのだろうか。

 

 

階段の下。倉庫の大広間とも呼べるであろうその場所に

 

 

本当の入り口から入ってすぐの大きな空間に

 

夢のような光景が、広がっていた。

 

ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ!!

 

その大広間をすべて埋め尽くすほどのセグウェイもどきがこちらに銃口を向けていた。

 

その数は50機を超えているのではないだろうか…。すべての機械、すべての弾が俺を狙っていた。

 

 

一機で逃げを選び、四機をギリギリで倒せたあの怪物兵器が、だ。

 

「…は、はは」

 

 

俺は思わず口元がゆがむ。この光景はトラウマになること間違いなしだ。四機でやっとなのにこれはもう

 

 

絶望

 

そう言って間違いない。後ろに戻ろうにも部屋は燃えている最中だ。他に道なんてものは残されていない。避難できる場所もない。

 

自分の死の危険に血の気が引く。本当に、武偵ってのはこういう現場をいくつも攻略していたのか。

…住む世界が違いすぎる。こんなの、無理だろ。

 

俺は力なく手をダランと下げ、現実を見たくなくて上を見上げた。

 

ちきしょう。俺の人生、ここで終わりか?たったの10数年で終わりなのか?まだ女子ともキャッキャウフフしてないんだぞ。恋愛とか彼女とかその先とかさあ。

 

だがそれは俺が弱かったからだ。俺の力が足りなかったからだ。俺の才能が無かったからだ。

 

やっぱ才能のない

 

やっぱ努力じゃ勝てない

 

やっぱ武偵は俺には向いてない

 

やっぱ武偵なんか俺には無理だった。

 

 

そう

 

 

無理だったんだ。

 

 

50機ほどのセグウェイがウィーン…と電子音を鳴らした。どうやら一斉放火がもうすぐらしい。自分の人生を悔やみつつ、俺は諦めて目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は嫌いな言葉が三つあるわ。無理、つかれた、めんどくさい。この三つは人間のもつ可能性を押しとどめるよくない言葉。私の前では二度と言わないこと!いいわね!!』

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

一瞬の静寂のあと…

 

 

 

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

50機ものセグウェイの一斉射撃が倉庫内の音を全てかき消した。後ろの壁に次々と穴が開いていく。

 

壁の前にある階段を支える柱が徐々に傾き、原型を徐々になくしていく。そして、ものの数秒で大音量を立てながら壊れていった。その時間を体感したものなら時間の感覚が狂ってしまうであろう。

 

 

 

 

 

シン…と

 

 

 

1分ほど経ってようやく発砲音が止まる。先ほどまで鼓膜が破れんばかりに鳴り響いていた音がようやくすっと鳴きやんだのだ。

 

少しずつ砂煙が晴れはじめ、先頭にいたセグウェイたちが俺の生死を確認するために階段付近に集まっていた。他のセグウェイも銃口をそちらに向けている。

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

「ったくあの、ピンクツインテ…無茶させやがって…ここから帰れたら1000円は奢ってもらうからな…!」

 

並んでいるセグウェイの一番左端、二階で今も燃えている部屋のすぐ近くにいたセグウェイもどきを思いっきり蹴飛ばしその近くにいたセグウェイをも巻き込まれ横転する。

 

ガッシャガシャン!!と音を立て巻き込み事故を起こしているセグウェイどもにいい気味だと吐き捨てる。

 

服はボロボロながらも、俺は五体満足で地面に立っていた。

 

一斉射撃のその一寸前に、階段の踊り場と下に下る階段の隙間に無理やり体を入れ込み下の一階の隅に逃げ込むことで、何とか一斉射撃を逃れることに成功した。

 

まあ実際、数十発はもらってるので完全に成功とはいえないが。

 

 

だが、生きている。俺はまだ、望む俺になるために頑張ることができる…!

 

 

 

俺はセグウェイどもに向けて大声で叫んだ。

 

 

「いいか武偵殺し!俺はもう諦めないからな!なんのとりえもねーし、なんの才能もないが!お前らにだけは勝ってやる!あと発砲はちゃんと狙って撃ちなさい!修理費と弾がもったいないだろうが!!」

 

どうしても言ってやりたかった。前々から思っていたんだ。

 

武偵殺しの奴は資源を大事にしない。とりあえず撃つかと数十発も発砲するんだ。それは俺の生活に対する侮辱と受け取っていいだろう。この野郎。

 

言いたいことを言い終えた俺はすぐに次の行動に移った。

 

俺にはもう一つ成功したことがある。

 

 

階段の下。

つまり上の部屋の真下に、地下へと続く階段を見つけたのだ。これならまだ逃げ切れるかもしれない!

 

50機のセグウェイがこちらに銃口を向ける前に俺はその地下への階段を全速力で駆け下りた。

 

 

 

どうやらまた、俺に逃げ出すって選択肢を与えてはくれないらしい。

 

ーーーーー

 

 

「………はぁ…はぁ…」

 

地下に入ると、少し赤みがかった光が照らす入り組んだ道があった。

 

俺は後ろからの追っ手を振り切るために右に左にと様々な場所を走り回った。

 

そして何に使うのかも分からない機械やらタンクやらが多くあり、どうやら枝分かれしたように道がつながっているらしい。しばらく走ったあと近くのタンクに身を隠し気配を消した。

 

(…さて、どうしようかね)

 

あれだけドヤ顔を吹いたはいいが、いかんせん、何も考えていない。

 

あのピンクツインテの言葉を間に受けてしまってバカな行動をしてしまった。そもそもあの一斉射撃されたときにこそこそと逃げておけばよかったのだ。それなら気づかれずに逃げることだって出来た…が。

 

たくよーほんとにあの女は俺に変な影響を与えてくれちゃってさ。

 

「しかしどうすんべこれ…」

 

相手は約50機。

しかもそれぞれが独立して動く兵器だ。対して俺は一人。

この地下の道も把握しているわけじゃないから、もう一度あの大広間に向かうのは難しいだろうし。正直絶望的状況だろう。

 

 

「でも、諦めないんだったよな。…ああ、俺って別に熱血主人公じゃないんだけど」

 

少しメタ発言もしつつ、そろそろ頑張ってみようと

 

 

周囲の状況を、整理し始めた。

 

 

《ここはある倉庫の地下、缶詰の製造をしている

もちろん倉庫としても利用しているようで温度調整はできるようだ

 敵は推定50機のセグウェイもどき、それぞれが銃を携帯し、自立して動く

 缶詰の製造には液体窒素使用

 地下は入り組んでいて複雑、さらに照明も点々とおいてあるだけなのでかなり暗い。完全把握は難しい

 道はかなり細道であり、セグウェイなら二機並ぶのがやっとだ

 50機は個別のグル―プを組んで移動しているようだ。

 セグウェイはある程度の大きさの物がある一定の距離にあると発砲する

 打撲数か所あり、あまり激しい運動は厳しい 

 

 所持品 小型拳銃 4発

     冷却弾  1発

     火炎弾  1発

     女子覗き眼鏡 一つ

     ボタン型監視カメラ 一つ

     防弾シュート 一つ

     絶対温か毛布 コンパクト 一つ

     跳ねるたびに大きくなるスーパーボール 一つ

     携帯

     ティッシュ

     飲み水 150ml 1つ》

 

「厳しいが、アレさえ見つけきれれば、いける…かも?」

 

ある程度の情報把握はできた。あとは

 

やるだけ、やってみるだけだ。

 

 

ーーーーー

 

今もなお次から次へと道を進んでいるセグウェイども。どうやら5機ずつほどで隊を分けてそれぞれで捜索を始めたようだ。

 

俺はコソコソと隠れながら進み、また近場のタンクに隠れる。目の前の通路は人1人通れるほどの小さな通路だ。

 

ここでならあれが使えるな。

 

思考を終え準備をしようとポケットを漁った時、

 

手元から眼鏡が落ちた。

 

「あ、これって確か…透けて見えるメガネ、だったか?」

 

それは平賀特性女子の制服を透けらせる眼鏡(丸メガネになぜか鼻がついている…外見おもちゃじゃん)だった。

 

こんなことになるんなら、これ理子あたりに試してからここに来ればよかったかななんて考えつつしまうのも面倒だったのでつけてみる。

 

 

「う、うぉ!?な、なんだなんだ!?」

 

なんと眼鏡をかけた瞬間、ブンと音を立てて緑色の世界に変わった。

 

女子透けメガネは暗視ゴーグルの機能もあったらしい。

 

一番高かっただけはあるし、平賀の天才的な技術なだけはある。先ほどの裸眼で見るよりよっぽどはっきり見ることができるようになった。

 

「さ、流石天才…やることがすげーぜ…」

 

あのお子ちゃま発明家を改めて尊敬しつつ俺は移動を軽やかに開始した。

 

まあ、なぜか鼻がついてて外見的にふざけまくってるが…生死のかかった戦いにプライドもくそもねーよ!

 

 

うん、ないと、思うよ?

 

 

ーーーーー

 

俺ははっきり見えたセグウェイどもの列から、ある一定の途切れを見つけた。

毎回約20秒ほどだが俺の前で列が途切れる。俺は小型銃に弾を二発装填し、手に飲み水の入ったペットボトルを取り出した。

 

「今だ」     

 

そして列が途切れた瞬間を狙って飲み水を通路に垂らして行く。一列にまっすぐになるように調節しながらかけた後、もう一度タンクの後ろに隠れ、

 

その線の先端に小型銃の銃口を浸す。

 

そして次のセグウェイのグループがその水を踏む瞬間ーー

 

引き金を引いた。

 

放たれた弾はピキッ!と音を立て一線に引いた水を()()()()()()()

 

ある程度の大きさで引いていた水がまるでスケートを滑るために設置された氷のように広がって行く。

 

 

 

そして

 

ギュルギュルギギギギ!!

 

いきなり摩擦のなくなったタイヤがスリップして先頭の2機が横に倒れ、勢いの止められなかった後ろの3機がその倒れたセグウェイに躓き同じように倒れていった。

 

 

「おお…すげぇな…冷却弾、っとそんなことより」

 

そして転がしたセグウェイもどきが俺を標的にしないうちに、俺はタンクの陰から出て銃口を最初に転んだ一機に構える。

 

「はっはっは!燃えろ燃えろ、火炎弾!!」

 

男のロマン、火炎弾を発砲した。

 

これにより凍っていた水が火の勢いを底上げし、5機のセグウェイをぶっ壊す予定ーー

 

 

 

だったのだが

 

 

 

カン!!っと音を立ててセグウェイ一機に当たり、その装備を壊した弾はそのまま貫いた後

 

ドスッ!!っと壁にめり込んでいった。

 

 

爆発せずに。

 

「…いやドスッじゃねーよ!燃えろよ火炎弾なんだろコラぁ!!かっこつけちまった俺の身にもならんかいボケ!!」

 

どうやら平賀の不良品を当ててしまったようだ。

俺はロマンが生まれなかったことに本気で泣きつつ。壊したセグウェイを持ってほかのセグウェイを殴り壊す。

 

「うっし、5機撃破っと」

 

全てを戦闘不能にしひと段落と汗を拭く。

 

…しかし5機すべて壊すころにはもうとっくに20秒など過ぎていた。

 

『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

 

「…ちくせう(ちくしょう)

 

新しく後ろから現れたセグウェイが俺を見つけて発砲を開始する。俺は一本の道をただ真っ直ぐ逃げた。

 

 

(この後のことは考えてねーよ!?ど、どーすっかな!?)

 

修一は意アドリブに弱いタイプである。

 

 

『障害物、障害物、回避不可、回避不可!駆除します!!』

 

しかしここで幸運があった。先ほど壊したセグウェイの残骸が邪魔ですんなり通ることができなかったようだ。

 

先頭のセグウェイが残骸に向けてマシンガンをぶっ放つ。元々自分たちの仲間だったとは全く考えていないようなその行為…いやまあ、機械だからそりゃそうなんだけどさ…。

 

「あれってさ、共食いっていうんじゃないかな…」

 

俺は思わずつぶやきつつ、とりまラッキーと速度を上げようとしたーーその時だった。

 

ドオオオオオオッッ!!

 

 

後ろから大爆発が起こった。突然体が浮いたと思えば、真っ直ぐな道をかなりの速度で飛ばされる。

 

突然のことで何もすることが出来なかった俺は、その爆風にフっ飛ばされ先の機材にぶつかった。

 

「ーーガッ!?」

 

肺の中のすべての空気が外に押し出されるような痛みがくる。しかしここで倒れてる訳には行かないと無意識のうちにその機材の後ろに身を潜めた。

 

「な、なにが起こったんだ??」

 

息を整えながら、女子覗き眼鏡をつかって先ほどの爆発現場を確認すると、爆発に巻き込まれたセグウェイたちが四方八方に飛び散っており、こちらから見て左側の壁が大きく穴をあけていた。あれ、これってもしかして

 

「…火炎弾、か?」

 

先ほどのセグウェイの発砲で擦れたことによる暴発だろう。ほう、改良したらいいものできるかもしれんぞ平賀よ。

 

「まあ不良品にしてはGJ(グッジョブ)ってとこだな」

 

これでおそらく+5機ほどの破壊に成功したようだ。

 

さて、うかうかしてらんないぞ………こんだけデカい爆発音のあとだ、きっとほかのセグウェイ達もこちらに来るだろう。

 

俺は身を潜めていた機材の名前を確認しつつ、その場を離れることにした。

 

 

 

 

「………これでもない、か」

 

セグウェイを暗視スコープで相手を先に確認しつつ、物陰に隠れながら、機材を確認していく。この工場には絶対にあるはずなんだけどな…。それにしても機材に隠れることで目を反らせるのもラッキーだ。熱感知機能とかついてたらおじゃんだったわ。

 

次の角をそっと覗くと…そこは50メートルほどのまっすぐな道だった。左右はただの壁で隠れれるような場所はない。

 

「まじかよ…」

 

俺はまた物陰に隠れ対策を考える。20機ほどの破壊はできたにしても、まだ30機はいる。今も後ろを通っているし。あの直線をダッシュしても必ず見つかってしまう。…だが戻ることも避けたい。今のところすべての道にある機材を確認していたが、目的の物は見つからなかった。つまりこの先にある可能性が高いわけだ。

 

「…んじゃま、カケてみるか。こいつに。運要素もあるけどな」

 

俺は手に持ったあるものを弾ませた。

 

 

「ーーーこれでよしっと。ほー、こんなおっきくなるもんなんだな」

 

俺はセグウェイが通り過ぎたあと、その直線の道に来ると跳ねるたびに大きくなるスーパーボールをバスケのドリブルのようにずっとポンポンしていた。そしてそれはあっという間に大きくなり先ほど俺の通った方の道を完全に塞いだ。ただ重さは変わらないようで今もなお天井と地面とを跳ねて飛んでいる。どのくらい大きくなるのかはカケだったがなんとかなったようだ。

 

「これ、俺んちでやってたらやばかったな」

 

そんな感想を漏らしていると

 

『障害物、障害物、回避不可、回避不可!駆除します!!』

 

スーパーボールの先にセグウェイがいるらしい。やっば早かったな。

 

俺はスーパーボールが破壊されるより速く50メートルを抜け出そうとした

 

 

 

 

 

『侵入者発見!!侵入者発見!!死んで下さりやがれです!!死んで下さりやがれです!』

 

「…ちっ」

 

その先の曲がり角のほうからもセグウェイのグループ(おそらく5機)がやって来た。

 

後ろはスーパーボールが道を塞いでいる。完全に囲まれてしまった。

 

「だったら!」

 

自力で倒す。先ほど20機倒すことができたのだから、このくらいの数ならいける!

 

妙な自信が俺の中にあった。先ほどまでは4機だけで尻込みしていたのにだ。これが自信ってやつだな懐かしい。中学時代の剣道の試合の時のような感覚だ。

 

久々の感覚に酔いながら、懐から小型銃と携帯を取り出し、携帯の明かりをつけた後上に投げた。こいつらの弱点はもう分かっている。ある一定の距離にある一定の大きさのものを追尾する。ならば俺よりもまず携帯のほうを狙撃するはずだ。

 

これでやつらの狙いは携帯に逸らせる。その間にまずは一機ーー

 

 

と、思っていた。

 

「………ごっ!?」

 

ドドドドッドドドドッ!!

 

勢いよくに放たれた弾は携帯の方には全く行かず、すべて俺の方に向けられ、俺はその全てを体に受けた。二発で気絶するような痛みだ。それの5倍はもう言葉にすることはできないほどの痛みだった。

俺は力なく地面に倒れ荒く息を吐き撃たれた部分を強く抑える。防弾制服のお陰でまた貫通はしなかったが、それでもマズイ。

 

その横にただ投げられただけの携帯が落ちてきた。

 

な、なぜ…?携帯をある程度大きさとして認知しなかった…?いやそれならさっきセグウェイの残骸だって無視したはず…。じゃあ、まさか、

 

その弱点を改良された。

 

そうとしか思えなかった。おそらく俺と初めて対立した昨日の間にでもやったんだろう。

 

まさか………こんなに早くできるとは思ってなかったが…

 

俺との戦いでわかったのか、それとも…?

 

パンっという音が聞こえ、考察を中断する。

その後、後ろからも何十機ものセグウェイが俺を取り囲んできた。

 

体を動かすことは難しく。今の手札で何かすることすらも難しい。

 

 

絶体絶命

 

 

それだけは意識が朦朧としていながらも感じることができた。

 

 

 

 

俺は油断したことを後悔しながら

 

 

意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまではまだ8,000字で上手く終わらせることが出来ていたんだなと感心してます。

#セグウェイの発砲についてご意見がございましたので、少々変更しております。

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