サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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2.『なこだき。』のあらすじ

修一は理子、夾竹桃、セーラの三人に協力してもらい。リサから嫌われる作戦を決行。

数で勝負したのだが…結果は惨敗。最後の作戦打ち合わせのためにリサを買い物に行かせたのだが…


リサは複数の男女に囲まれていたのだった。




3.『たといで 』

『ひみつのあんごう?』

 

『そ!お前ってかけいのせいで思ったことハッキリ言ったことないだろ?だから俺にだけ伝えれるように秘密の暗号をつくるんだっ!』

 

『…メイドは、いやだと思ってもそれを言っちゃダメだって、ママが言ってたよ?』

 

『ったくお前はそんなんだからいじめられるんだよ!真面目に考えすぎ!俺とお前だけ!特別にいーの!』

 

『う、うんごめんなさい…。それで、あんごうって?』

 

『ふふん、暗号で俺にだけ思ったことを伝わるようにするんだ!そしたらお前も少しは楽になるだろ!』

 

『…でも、どんなあんごうにするの??』

 

『それは、えっと、いまからかんがえるっ!!』

 

『えぇ〜?』

 

『ほら()()!早く来いよ!書くもの…ないか。じゃあ砂場で案を考えるぞ!!」

 

『あ、ま、まって!』

 

 

 

 

 

 

あの時のリサは、誰かがリサのためだけに何かしてくれるということがとても嬉しかったんです。

 

家系のことなんて話したことないのに、自分で調べてくれて、考えてくれて。

 

 

 

 

そんな貴方だから、リサは…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「…なに、やってんのお前…?」

 

時間を守るはずのメイドがすでに時間を過ぎても来ないので理子達はとりあえず帰らせ、探しにいった数分後、俺は目の前の光景に疑問しかなかった。

 

目の前には膝を抱えて半べそかくリサを見つけるのは簡単だったのだが状況がよくわからん。

 

場所は公園。アスレチックや滑り台など遊具が豊富で、ある程度の広さがあるこの場所は地震時の避難場所として設定されている。

 

 

そんな場所で泣くリサを取り囲む男女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というより…

 

 

「おねーちゃんが動かなくなった〜!」

 

「きゃはは!ねーねー、聞いてるのおねーちゃん!」

 

 

 

男子と女子、だな…?

 

 

 

「おいおい、なに子供に泣かされてんだお前…」

 

「あ、しゅ、修くん…!」

リサは数人の子供に周りを取り囲まれ泣いていた。俺を見つけたとたんパァ…!と顔を明るくして飛びついてくる始末…どうやら本気で子供に泣かされていたらしい。

 

…そういえば、こいつ昔から泣き虫だったっけ。

 

「リ、リサのメイド服が珍しかったようで…公園を通る時に…その…ご、ごめんなさい修くん…」

 

「ったく。…はぁ、もう」

 

泣きながら理由を話すリサの頭をぽんぽんと撫でる。なんというか、昔の関係に戻ったみたいで…

 

ちょっと嬉しくなった。

 

「おぉ〜!かれしのとうじょーだー!」

 

「…なんかじみ〜」

 

「彼氏じゃないっての。…あと地味じゃない、シンプル系男子だ!!」

 

「きゃ〜!彼氏が怒った〜!!」

 

「逃げろ逃げろ〜!!」

 

子供たちはキャキャと笑いながら公園を走り去っていく。マセガキだったが本当に害のない普通の子供だったんだが…こいつは本気で怖がって涙をポロポロとこぼしていた。

 

…ったく。

 

「おら、お前もいい加減泣きやめ」

 

ひくっ…ひくっ…と泣くリサ。

これしばらくこのままにしとかないと落ち着かないかと、しばらく頭を撫でながら待つことにした。

夕方の公園で二人体を寄せ合い片方が泣いていて、片方があやす。 

 

懐かしい光景だと思った。

 

 

『…ぐすっ、しゅうくん…』

 

 

思い返せば、こいつはよく泣いている子供だった。

 

髪の色や容姿が他の子供と違ったり、自分の意見をとある理由で言えなかったこいつはいじめの対象になりやすい存在だった。

…よく公園で一人ブランコに乗って泣いてたリサを覚えてる。確か初めてこいつとあったのもその時だったか。

 

そんな時は確か…

 

「おい、手を出せ、両手」

 

「ぐすっ…え?」

 

「はやく」

 

「は、はい。…?」

 

突然の命令に戸惑うリサ。それでも主(仮)の命令は守るらしく、両手を俺の前に出してくれた。

 

 

そして俺は唐突に歌い始める。

 

 

「…はい、せーの、あ〜る〜ぷ〜す〜いちばんじゃ〜く♫こ〜や〜ぎの〜♫」

 

「へ、へ、へ?」

 

自分の両手を二度合わせその後に思わず出したであろうリサの片手にハイタッチする。リズムに合わせ手を合わせるというゲーム。いきなりこんなことをしてどうしたんだと思う人もいるだろうが…

 

「ほら、遊ぶぞリサ。俺もこれから用なんてないし、暗くなるまで遊ぶぞ!ちなみにこれはリズム乗れなかった方の負けな!」

 

 

こいつは遊ぶと嫌なことを忘れられるらしい。昔からほかのことで遊べば機嫌を直すのだ。

 

 

だから今日の残りは俺に使うんじゃなく、こいつにとっても有意義な時間にしてやるんだ。

 

「…ぐすっ…修くん、リサと遊んでくれるんですか?」

 

「おう。昔いろんな遊びして負けてたからな。成長した俺のリベンジタイムだ!」

 

ドンと構える俺に、リサは涙を人差し指でふき取りながら笑った。

 

「…ふふ、わかりました。でも修くん、さっきの歌詞、間違ってますよ?」

 

「え?そなの?」

 

「はい、じゃあ次はリサからですね!…せ〜の、あ〜る〜ぷ〜す〜いちまんじゃーく♫お〜や〜り〜の♫」

 

「ちょ、待て速い速い!」

 

目の周りを少し赤くしながらも楽しそうに歌い始めるリサ。その様子の変わりように思わず俺も笑いながらリサと両手を合わせる。

 

夕暮れの公園、二人っきりの空間で俺たちは昔のように大声で歌いながら手を合わす。お互い年を重ねたにも関わらず失敗すると声を上げて叫んだ。

 

ある程度ゲームをし終えたら、俺たちは遊具で遊び始める。これも昔と変わらない。ジャングルジムにブランコ、砂場など公園にある遊具を全部使って遊んだ。

それも終わると次は追いかけっこにじゃんけん、昔やった遊びを全て行った。

 

 

そんな中…

 

 

(…そう、これだよこれ)

 

 

俺はリサと遊びながら、そのリサの本当に楽しそうな顔を見て、

 

 

 

自分の考えが間違っていないと再確認していた。

 

 

 

ーーーーー

 

「…ったく、遊んで足挫くとか子供かよ」

 

「すみません、楽しくってはしゃいじゃいました。でもリサより修くんの方が楽しそうでしたよ?」

 

日も暮れ、電灯が夜道を照らし始めるころ、俺たちはようやく帰っていた。最後の最後でリサが転んでしまい足をくじいたため背負う形になっている。

 

…背中の感触が柔らか過ぎてちょっと高校生には刺激が強すぎるのだが…素数を数えることでなんとか帰れていた。

 

「明日なんだろ、長崎に出発すんの。お前その足で行けるのか?」

 

「そこまで酷くはありませんので。今日一日冷やしておけば大丈夫ですよ」

 

「そっか」

 

心配は無用ということらしい。リサは明日、長崎へと帰省する。

本当は海外から直接長崎へと帰省してもよかったらしいのだが、俺の顔を見たいとわがまま言ってここまで来たらしい。

 

リサは今、とあるボランティア団体に所属していると本人から聞いている。世界各国の有力者が集まって活動をしている団体らしく、リサはその会計を担当しているとのことだ。…ただリサにその団体名を聞いても教えてもらえず、団体に入った後からなぜか「銃の弾や防弾などの戦闘系アイテム」の知識がかなり豊富になっている気がしているのだが…。…まあ気のせいだろう。

 

長崎にも数日しかいないようで、それからすぐまたどこかへと旅経つらしい。毎回どこへ行っているのか聞いても「秘密です」と言って教えてくれない。危ないことはしていないといいが…

 

(改めて考えてみると…こいつ何やってんだろうな)

 

今度聞いてみるか。どうせまたはぐらかされるだろうけど…

 

「…あの、修くん」

 

「ん?ああ悪い考え事をしていた。なんだ?」

 

そんなことを考えているとリサが声をかけてきた。

 

「楽しかったですね。公園で遊んだのなんて久しぶりでした♪」

 

「だろうな。俺も久しぶりだったし」

 

「昔はよくリサが泣いているときに修くんがやって来て『遊ぶから来い!』って手を引っ張ってくれてたの覚えてますよ」

 

「あー…そんなこともあったけか?」

 

「はい。修くんはリサのことを一番に考えてくれるリサの王子様だったんですから。そして、一番うれしかったのは…」

 

 

と楽しそうに話し始めたリサが、一拍置いて俺に質問してきた。

 

 

 

「ねぇ修くん、『()()()()()()()()』って…覚えてますか?」

 

 

 

「…は?なんだそれ?」

 

リサの質問に首を傾げる。秘密の暗号…?そんなの考えてたっけか?

 

思いだそうと首をひねっていた俺にリサがふふっと笑って返してくれた。

 

「昔、リサと修くんで作ったあんごうです。公園で考えていたので思い出しました。

…まぁ、暗号といっても子供が作ったものなので簡単に読めちゃいますけどね」

 

「ふ―ん、どんな暗号だったんだ?」

 

「…んー。そうですね…。それは修くんが思いだしてくれるまで秘密にしておきます」

 

「え?…なんで?」

 

「んー、そっちの方が嬉しいからですね♪」

 

「…さっぱりわからん」

 

リサの昔話はよくわからなかったがまあ本人が満足そうなのでいいとしておこう。

 

 

 

 

それよりも、今日中にけじめをつけないといけない話をそろそろしないといけない。このまま楽しかったで終わるままではいかないのだ。

 

 

 

「さて、リサ。そろそろあの話を始めようか」

 

「…そう、ですね」

 

リサも楽しかったまま終わりたかったのだろう。少し残念そうな声色で返してくる。

 

少し、罪悪感も生まれたが、こればっかりは譲れない。

 

リサは俺の背中から降りると俺の前に立ち…

 

「修くん」

 

「なんだ?」

 

 

「リサのご主人様になってください」

 

 

 

そう、改めて頭を下げてきた。

 

今まで、俺はこれをもう一度言われないためにいろんなことをした。普通の一般女子にとって一緒にいることすら嫌がるほどの酷い仕打ち。それなのに、そんな俺に対して頭を下げながらそうお願いするリサに俺は胸が締め付けられるようなそんな感覚を覚える。

 

しかし…

 

「断る」

 

「どうしても、ですか…?」

 

「…どうしてもだ」

 

リサは自分の胸の前で両手をギュッと握っている。辛そうにする彼女の顔を俺はまっすぐに見つめることができない。

 

「リサが、お嫌いですか…?」

 

「……きら……。……いや、嫌いじゃない。むしろお前には感謝してばっかだ」

 

「だったら…」

 

「…さんざん見たろ、俺は最低な男だったろうが」

 

「構いません。修くんですから」

 

「………。」

 

そう、彼女にとって俺はそういう存在らしい。俺自身こいつになにもしてやっていないはずであり、むしろ俺が世話になっているというのに、

 

それでもリサは俺のことを主人だとそういう。

 

答えは、正直分かっていた。朝から夕方まで俺の行動は全部受け止めていたのだから…。

 

(やっぱ…こいつはすげぇよ…俺なんかよりずっと…

 

 

 

でも、だからこそ…)

 

 

 

 

…そうして俺は諦め、決意した。リサに何かして嫌われるというのは難しい、ならば…

 

「俺にはお前の主人にならない絶対的な理由がある」

 

「…理由、ですか?」

 

 

俺は覚悟を決め、リサを正面に見て、答えた。

 

 

「俺は、この学校で、()()()()の最弱武偵だ。しかも武力が重視される強襲科の。お前が望む主人には絶対になれない」

 

 

 

今まで、こいつにだけは張っていた見栄を、捨てた。

 

それはリサと出会ってから今まで張っていた、長い厚い見栄の壁。

 

 

それを壊すことで、ようやくこいつの幻想を壊すことができる。

 

 

「ふふ、そんなはずないじゃないですか。修くんは強いです。だって修くん、剣道の大会で準優勝もしてますし、強い姿を何度も…」

 

「あれくらい武偵生徒にとっちゃ取るに足らない称号だったってことだ。あれくらい武偵高の生徒なら自慢にもならし、その結果もたまたまだし、その証拠に…」

 

 

俺は自分の心の奥底で止めようとする自我を無理やり抑え込み、生徒手帳に挟んでいたボロボロの紙を取り出した。

 

 

「俺のランクはE。サイカイだ。そんな奴がお前を護れるわけねぇだろ…」

 

「………」

 

「俺は、弱い。お前に見栄張って強い自分を見せようとしていただけで本当は雑魚なんだよ」

 

「……………そ、ん…」

 

リサは最初俺が冗談を言っていると思ったのか笑っていたが、生徒手帳から取り出したボロボロの紙を見せると驚いた表情に変わった。

 

それは昔、2年に進級した時にした試験の結果の紙。でかでかとEの文字が刻まれた俺の成績表だ。

 

「お前の家系のことは昔調べた。お前の家系が定めるご主人様ってのは『強くてお前を護れるやつ』だろ?こんなサイカイ、お前の家系が許さない」

 

「………………。」

 

そう、こいつの家系は普通とは違う。

 

『強い騎士に付き従い生きる』。昔、紛争時に彼女の先祖が生きるために定めた決まりだ。要はメイドのように一人の主人に一生を捧げ、その代わりに自分を護ってもらうという賢い生き方をした家系なんだ。

 

つまり、リサの家系にとって主人とは『絶対的な強者』でなければならない。だからこそ、その決まりを否定する俺の存在を主人と認める訳にはいかないのだ。

 

本当は、こんなダサい真似したくはなかった。

 

 

リサの前ではカッコいい自分を見せ続けようと昔決めていたのに。

 

 

 

 

 

「そう、ですね…」

 

成績表を見て、しばらく下を向いたままだったリサだった。が…

 

 

 

 

 

「修くんは、ご主人様として力不足です。

 

 

 

貴方を、ご主人様とは認められません」

 

 

顔を上げたリサは何かを決意したような、真剣な表情で俺を見てそう言った。

 

見下すでもなく罵るでもなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ彼女に俺はただ目を合わせることが出来ない。手元にあった生徒手帳がぐしゃりと音を立てた。

 

この時、泣き虫の彼女がそれを堪えようとしている顔を見てしまっていたら、俺の考えも少し曲がってしまったかもしれない。

 

見なくてよかった…。

 

 

 

 

 

「…………修くん。リサは修くんがとても優しいことを知っています。

 

 

 

でも、これは……ずるい」

 

 

 

 

「………」

 

 

ぽつりと、普段なら聞こえないくらいの声が今は、はっきりと聞き取れてしまった。

 

 

 

「それでも俺は…お前をメイドとは認めない…絶対に」

 

 

 

「そう、ですか…」

 

 

 

 

 

―――――

「じゃあ、修くん。リサはここで」

 

「…ああ、じゃあな、リサ…」

 

そう呟いたあと、リサは俺の家には向かわず、どこかへと去っていった。

 

きっとリサは俺に失望したのだ。昔から自分のご主人様候補だった奴がただの雑魚だったことを俺は自分の実力のなさで示してしまったのだから仕方ない。

 

 

ただ…

 

「…これで、よかったんだよな…」

 

「おかえり、しゅーちゃん」

 

男子寮の陰から理子が出てきた。

 

「…よ。桃とセーラはどうした?」

 

「夾竹桃は付き合いきれないって帰っちゃった。セーラは上にいるよ」

 

「そっか」

 

 

 

「しゅーちゃん、そろそろ言ってもいいんじゃない?リサはどうしてしゅーちゃんのメイドになっちゃダメなの?サイカイだからって、そんなの理由じゃないよね?」

 

「…こんなこと自分で言うのは自意識過剰と思われても仕方ないんだが…その、リサは多分俺に好意を持ってくれている。あんだけ親みたいに世話焼いてくれて、俺にだけいろいろしてくれてるし」

 

「…あ、それはしゅーちゃんでも気づいたんだ。だったら理子の気持ちもすぐに気づけこのバカ…」

 

「なんか言ったか?」

 

「んーん。なんでもないよ」

 

「そんな時思ったんだよ。リサはあれだけ俺のために努力してくれてるのに俺はその好意をただ受け取ってるだけで、あいつに何も返してないって。

あいつの唯一求める武力っていう才能もないし、実力もサイカイ。

リサは一人の主人を決めたら最後まで仕えるんだぜ?んな俺があいつの人生を奪っていいわけないわな。

 

そう気づいたのはあいつと知り合って7年も経った時だった。それまで俺はリサからの好意をただ当たり前のように受け取ってた。…気づくのが遅かったんだよ…

 

そんな自分勝手なやつがリサを独り占めしていいわけがない」

 

 

そう、これが俺の本心だ。自分がサイカイであるからこその決意だった。

 

 

 

そんな俺の顔をじっと見ていた理子は

 

 

 

 

『またか…』とつぶやいた。

 

「… しゅーちゃんはそれでいいの?」

 

「ああ、いいんだ。あいつはいい奴だからすぐに俺以外の主人候補が生まれるさ」

 

「しゅーちゃんは本当にそれでいいの?」

 

「……なんだよ?今日はやけに食いついてくるな」

 

「まぁね。…もういいや。言ったってしょうがないし。じゃ、しゅーちゃん、理子用事出来たから帰るわ」

 

「お、おう…おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 

 

 

その日、俺はなかなか寝付くことが出来ず、布団の中でしばらくいろいろと考えてしまった。

 

 

本当によかったのか、ダメだったのか。彼女はこれで本当に幸せになるのか、ならないのか。

 

 

(そんなこと…今更考えても仕方ないってのに…)

 

 

まあ、もうリサに会うこともないだろう。明日長崎に帰るんだし、それからまたボランティアで海外に行くんだろうし。

 

 

 

そう俺は捨て台詞のように吐き捨て、いつの間にか夢の中へと落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『『……………………………………ばか』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「おはよう…修兄」

 

「…おー…おはよう…」

「おはようございます、朝ごはんは出来てますよ♪」

 

「おぉ、じゃあ顔、あらってくる…」

 

「…私も、行く…」

 

 

 

 

朝、ゆっくりと起きた俺は、寝ぼけた足で洗面所でセーラと横に並んで顔を洗う。

 

パシャパシャと目覚めに良い冷たい水を顔に浴びせ洗濯機の上からタオルをとって拭く。そして赤と青の二つ並んだカップの内、青いカップに入った歯ブラシを取るとなくなりかけて強く押さないと出てこない歯磨き粉をつける。つけ終わった歯磨き粉をセーラに投げ渡しつつ、歯を磨く。

 

「セーラ、今日お前暇だろ?俺の課題手伝え」

 

「…めんどい」

 

「終わったらお前の好きな飯作ってやる」

 

「………いい。それよりゲーム一緒にやろう」

 

「お前ゲームに興味あったっけ?」

 

「…暇な時に修兄のやってた。車楽しい」

 

「おけ。じゃああとでコントローラーもう一個買いに行くか」

 

「…うん」

 

今日の予定が決まった。一日中家でゲーム三昧!しかもセーラと!!いやぁ楽しくなりそうだなぁ。

 

 

だなぁ…。

 

 

 

だなぁ?

 

 

 

「…あり?」

 

俺は最後の一磨きをし終えたときになってようやく違和感を抱いた。

 

 

 

 

 

…なんかさっき、一人多くなかった?

 

 

 

 

 

「…んん!?」

 

俺は口を素早く洗うとドタドタとリビングに戻る。おかしな声が聞こえたリビングへの扉を勢いよく開け入るとーー

 

 

 

「あ、修くん、ご飯は麦ごはんにしておきましたよ。冷める前に座って食べてくださいね!」

 

 

 

「…は…?り、リサ…!?」

 

そこには昨日、俺を主人とは認めないとそう言った金髪メイド、リサが俺の分の朝食を並べている姿があった。…てちょいちょいちょい!?

 

「はい、リサですよ〜?まだ寝ぼけてますか?」

 

「おまっ!?なんで…!今頃長崎発の飛行機に乗ってるはずじゃ」

 

「あぁ…えっと、寝坊しちゃいました」

 

「はぁ!?」

 

苦笑いしながらそういうリサ。…いやいや寝坊って、昔毎朝一回も遅れることなく俺を起こしていたのはどこのどいつだよ…!?

 

…いや、それは今はいい、そんなことより先に聞くべきことがある…!

 

「お、お前昨日、俺はご主人様には出来ないって…!なんで俺の世話してんだ!?」

 

「はい。確かに修くんはご主人様とは認められないと言いましたね」

 

「だ、だったらなんで…?!」

 

疑問しか浮かばない俺に、リサは俺の頬に手を添えて笑いながら言葉をつなげた。

 

 

 

「修くんは、リサを勘違いしてるんです。

 

リサも1人の人間で、一人の女の子、なんですよ?

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

修くんがご主人様として認められなくても、だからと言って簡単に放っておけるわけないです」

 

…俺は目が点になった。…なに?つまり俺の世話は昔からやっていたからそれをせずにというのは本人が許さないと?

 

「…い、いやでもダメだろそれ。それってつまり「二人の主に仕える」ってことだろ?将来できるかもしれない主人の前に俺の世話をしてるって認めちまったら…」

 

「え?…だから大丈夫、ですよね?」

 

「え?」

 

 

今も頬に手を添えているリサは俺の返しに首を傾げた。

 

 

「だから、修くんがご主人様になれば何も問題ない、ですよね?」

 

…おいおいこいつ…昨日の話を思いっきり無視しましたね。

 

「いや、だからそれが無理だって話を昨日したんだろうが!お前は俺こと弱いって…だからお前のご主人様にはなれないって!」

 

「はい、だからそれは、今の修くんはという話ですよね?」

 

「…は?」

 

「長い付き合いですし、修くんの考えてることは分かります。修くんはリサから修くんを嫌いになってもらおうとして昨日あんな変な修くんになってたんですよね?…そんな修くんが望んだリサの返答はこうです…

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

無理でも、将来はわかりません。修くんがリサの縛りを溶かせるほどに強くなってくれればいいんです。リサのために、強くなってください修くん!」

 

「…それってつまり、あれか?お前が俺が主人じゃないと嫌だから、俺がお前の家系の決まりに合わせろと?」

 

「はい。頑張ってください、修くん♪」

 

「……。」

 

 

今、理解した。

 

 

 

コイツ、昨日の話で俺が思っていたことを全部理解していたわけだ。

 

 

 

 

俺が本当に思っていたのは、メイドになってほしくないわけじゃなく、嫌われたいわけでもなく。

 

ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこそリサは、今俺に対して自分のために強くなれなんていう、そんな自分の都合満載の、わがままなお願いしてきたってわけだ。

 

「もちろんこれからもほかのご主人様候補を探しますよ。近い将来現れるととある教授から教えていただいていますし♪」

 

「あぁ…そう…」

 

 

もう、そこにいたのは絶対服従のスーパーメイドじゃなく…

 

自分のことを時に優先して、行動する。

 

普通の女の子リサ・アヴェ・デュ・アンクだった。

 

…少しだけ望んでいた変わり方とは違うんだが…

 

「という訳で、これからは()()()()()()()()()お世話しますね!よろしくお願いします、修くん!!」

 

「…ああ、よろしく」

 

 

まあ、いいか。

 

俺はこの解答が気に入ってしまっていた以上、しょうがない、か。

 

 

 

「あぁ、それと修くん」

 

「なんだ?」

 

「これ、あげます♫」

 

 

リサは俺が納得したのを見て満足したのか、添えていた手を離し、どこにでもある普通のA4用紙を四つ折りに折りた紙を俺に渡してきた。

 

「なんだこれ…?」

 

「開けてみてください♪」

 

俺は言われた通り四つ折りの紙を広げた。

 

 

 

 

そこには

 

 

 

 

 

 

 

そこには短く、平仮名で文字が書かれていた

 

 

 

 

 

「修くんは解き方を忘れているので読めないでしょう。でも…もし、その日が来たらリサが解き方を教えてあげます」

 

 

 

「……………うん。………なんだこりゃ、俺には読めないな。お前が解き方を教えてくれるその日まで待ってるわ」

 

「はい!待っててくださいね!」

 

俺は思わず笑いながらそう返すとリサも笑って返事をくれる。もう紙のことには触れない。彼女が俺に理解して欲しいと思うまで、俺はわからないを通すのだ。

 

 

「うっし、んじゃあ長馴染み特性の朝飯を食うとするかね!」

 

「はい!ちゃんとソースも用意していますよ!」

 

「ナイスだリサ!」

 

 

喜々としてソースを渡してくるリサと、それを受け取ってうまいと連呼する俺。

 

昔の時間が再び戻って来た気がした。

 

 

 

 

 

…ん?紙になんて書いてあったか?

 

 

 

教えねーよ。わかりっこないからな。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

PS…というか、最後に一つだけ。こいつが昔のリサに戻ったことで面倒になったことを言わせてくれ。

 

 

「ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?しゅーちゃん!なんでリサがまだいるのさ!」

 

「あ、理子さんおはようございます!昨日の夜は本当にありがとうご……」

 

「わ、わわわわわ!!ちょ、黙れ!言うな言うなアホ!!」

 

鍵を勝手に開けてまた入ってきたアホ理子にリサが律儀に挨拶しようとした…だけのはずだったが、慌ててリサの口を塞ぐ理子が面倒その1。

 

「あ、それともうしばらくここにいますね修くん。」

 

「あ?まあお前なら別にいいぞ」

 

「…ダメ。修兄は女子を泊めない」

 

「お前女子のくせ泊まってるだろが」

 

「…うるさい…女子はダメ」

 

「あ、修くんのお邪魔はしませんよ。武偵高校に相談したところ一室女子寮に空きがあるようで、一年契約で貸していただけることになりました。女子寮は近いですから」

 

「あ、そなの?」

 

「はい♫

 

あ、もちろんセーラさんもリサと女子寮に移動ですから」

 

「…!?」

 

天敵が出たとでも言わんばかりに警戒心MAXになるセーラ。リサから距離を置いてなぜか徒手格闘の構えをとる。面倒その2。

 

そして…

 

「先輩、お邪魔するわよ。…相変わらず騒がしいわね」

 

「あ、夾竹桃さん。お久しぶりです。今日はどのような御用で?」

 

「原稿作成だけど?」

 

「そうですか。…どうして修くんの家で作業をされるのですか?」

 

「…昨日筆を置きっぱなしにしておいたからよ。荷物を持ち運ぶの面倒でしょう?」

 

「いえいえ、効率的に他のみなさんが騒いでいるここよりも夾竹桃さんのホテルの方が静かでゆっくりと描けるのではないですか?」

 

「…あなた何が言いたいの?」

 

「…黒髪ぱっつんは…修くんの好みですし…」

 

なぜか夾竹桃には敵意をむき出しのリサさん。面倒その3。

 

 

 

おいこれ、さらに騒がしくなるんじゃねーのか…。

 

 

 

「ふん!理子と修一は付き合ってるんだからね!」

 

「はい、知っていますよ。リサは二番目で構いませんので」

 

「理子が構うのー!」

 

「…リサ、私は…ここでずっと…」

 

「ダメです。昨日から見ていましたがセーラさんちょっと無防備過ぎです。修くんも男の子なんですから、同じ屋根の下で暮らすのは認められません

 

…それと夾竹桃さん!せめて髪色を変えてほしいです!金髪とかいかがですか?」

 

 

「遠慮しておくわ。…というか、どうしてあなたは私の髪にこだわるのよ?」

 

「…修くんの…ドタイプですし…」

 

「知らないわよ」

 

「はぁ…ったく…うるせぇなぁ…」

 

五人もいると流石に狭く感じる部屋で朝っぱらからガヤガヤとし始める我が家。

 

元々メイドとして何も言わなかった分が今になって爆発してるんだろうななんて思いつつ。

 

俺はその光景を見ながら思わず笑ってしまう。

 

 

正直、俺はこういう騒がしいのは大好きだ。だからその中に長馴染みが入っていることがすごく嬉しかった。

 

なんか、いいよな。こういうの。

 

「もーしゅーちゃんから言ってやって!俺には理子だけだ!って!」

 

「…修兄、私はここにいたほうがいいってバカメイドに伝えて」

 

「先輩。あんたのとこのメイドちょっとウザいから止めてくれるかしら」

 

「はいはい。今行きますよ」

 

 

俺は持っていた四つ折りの紙を置いて、騒がしいとこへと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

開けた窓からサァ…と気持ちのいい風が部屋に入る。吹き込む風に机に置いた四つ折りの紙がめくられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのがすす

なこだき。

たといで

 

 

 

 




『ひみつのあんごうリサ』終了です!いやーなんで三話にしたかな!四話にしておけばよかったと後悔していた銀Pです。

今回は初めての企画として『タイトルで遊ぶ』をやってみました!こういう企画ってワクワクして面白いですね!

さて、実際の暗号の答えですが…実は個人メールや感想欄などで『次の話は四文字ですよね』という返信が…!!ちゃんと読んでくださっているのが伝わってとても嬉しかったです!…はい正解です!そう四文字でした!

文章力のない私ですので一応補足で解説しておきますと…(自分で書いていて悲しくなりますねこれ…)

リサにとって自分の気持ちを伝えるというのは、つまり主人になってくださいという意味合いも兼ねています。なので直接伝えることはできなったのわけです。

本文にも書いていますがこの暗号は簡単に解けます。なのでおそらく最後の修一くんは…

…はい!いかがだったでしょうか?最後が長くなって申し訳ありませんでしたが、楽しんでいただけたなら嬉しいです!

次は30日予定です。…守れるように頑張ります。

ではでは~

PS.
ヒントはタイトルの『縦読み』です。

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