サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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37話のあらすじ

将来の夢ができました。

※『』は別の言語として使用しています。修一には理解できません。


最終話 サイカイのやりかた

〜東アフリカ サハラ砂漠周辺地域 とある交戦地区にて〜

 

日差しの強く照りつける街…いや、街と呼ぶには少し風通しが良すぎる。もともと教会だったと思われる物は大きな穴が壁に開いた状態で天井についていた十字架は半分が無くなっている。周囲の壁やオブジェクトも同じようにボロボロに破壊されていた。

 

ここは紛争地域。各勢力が地位と名誉を守る、もしくは奪うために自分ではない誰かを戦わせる『戦争』が行われている場所だ。

 

戦争は片方の勢力が押しているようだ。激戦区では銃や戦車から発砲を続けざまに行いながらじりじりともう片方の勢力に迫っている。負けている勢力の主力部隊はすでに撤退の準備を始めている。

 

そんな中…

 

『撤退の時間稼ぎ…捨て駒になれってこと…か』

 

その中に、押されている側の勢力に雇われた1人の少女がいた。

 

小さな体に大きな銃を抱くように抱え、見た目14、15ほどの少女は

 

傭兵という雇われ勢力である。

 

もちろん加担している勢力に知り合いや恩などはない。ただ金をやると、生かしてやると言われたから命をかけて戦うと決めただけのこと。

 

そんな彼女がこれからしなければならないことは、時間稼ぎだ。雇われたのは少女一人、つまり少女一人で敵の部隊を足止めしろということ、

 

つまり死ねと言われているようなものだ。

 

しかし少女は銃を構える。構えなければならなかった。ここで逃げ出してしまえば自分の傭兵としての価値はなくなりこれから生きていくことが出来なくなるということが分かっているからだ。だからといってここを生きて抜け出せるとも思っていない。

 

前方にあるは10人の武装した敵と戦車二台。そしてこちらの勢力は少女のみ…。

 

少女は死を覚悟した。覚悟しながら物陰から敵陣へ走り込もうと…

 

 

 

「あの〜すんませ〜ん」

 

『…ッ!?だ、誰だお前!?』

 

走りだそうとした少女が真正面から地面に転んだ。突然真後ろからのんきな声をかけられたからだ。

 

慌てて振り返りながらその方向へ銃を構えると…

 

深くフードをかぶった男が立っていた。この場には適さない黒のコートを纏った服装、武装はただ一つの木刀のみ。どう考えてもここにいること自体がおかしい男は少女の前でかがむ。

 

 

 

「え?who…なに?今の英語早くて聞き取れなかったんだけど。…えっと、もっとゆっくりもっかい言ってくれるか?…あ、えっと…ぷりーずスピークすろーりー?」

 

『お前…援軍、なの?それにしては武装が…』

 

「え、今度はなに?あー、えっともしかして敵と勘違いしてる?違うからね、ノーエネミー…オーケー?」

 

ぶつぶつと何か言い始める男に少女は自分の言葉が通じていないこと、そして敵意はないことを理解した。慌てふためく姿が今の緊迫した状況に適さないのだが今はそんなことも言ってられない。今も敵はじりじりと距離を詰めているのだから。

 

『避難するなら早く。もうじきここは殺戮のショーになるんだから。お前も死にたくはないでしょ?』

 

「あ〜何言ってるかまったくわからんのだけど、この戦いのこと言ってるなら大丈夫。もうすぐ終わるからよ」

 

男は耳に指を入れのんきに空を見ながらそんなことを言った。もちろん少女にはなにを言っているのか理解できないでいたが、それでもその男の場違いな雰囲気に疑問を隠せない。もしこちら側の援軍なら同じく捨て石になった者であるはずなのに…まさかこの状況を本当に理解していないのか…?

 

『お前、何を言ってーー』

 

 

 

少女が疑問を口にしようとした――その瞬間だった。

 

 

 

 

男の後方からキラリと何かが光ると…

 

 

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!

 

 

 

突如、『雨』が敵の頭上に降り注いだ。

 

 

 

突然男の後方からアーチ状に放たれた『雨』が敵の方向へと向かって飛ぶ。前方に銃を向けていた敵はその雨に気づくのが遅れてしまい…

 

 

抵抗する間もないまま敵の武装が粉々に打ち壊された。兵の持つ銃、戦車に取り付けられた武装すべてを粉々にしてしまったのだ。雨は決して人を刺すことはなくただ武装のみを全て破壊する。

 

 

もちろんそれはただの雨などではなく、()

 

 

無数の矢が一瞬にして敵の元へと降り注ぐと、敵の武装を一つ残らず破壊したのだった。

 

敵の部隊はその一瞬の攻撃に一度歩みを止める。ガラガラと音を立て圧力をかけていたキャタピラの音が止まり、そして

 

 

 

部隊は撤退を開始した。突然の異様な攻撃にこれ以上攻めるのは不利だと判断したのだろう。

 

『……。』

 

何もかもが一瞬だった。たった一秒、まばたきした瞬間に目の前の景色が、逆転した。死を覚悟した戦場とは思えない現状に少女はただただ茫然としていた。

 

今までの絶望的な現状がまるでコインをひっくり返したように簡単に逆転したのだ。少女の中でどうして、なぜという疑問生まれる。そして、

 

それを行なったであろうのんきな男の方へと視界を向けた。この男が少女の前に現れてからこの意味の分からない現状が始まったのだから。

 

『こ、これを…お前がやったの?』

 

「あー、イエス、イエス?」

 

 

 

「…修兄、そこはノーだから」

 

『!?』

 

 

よそを向き目と目を合わせずに頷く男に続けざまに言おうとしたその時、

 

男の後ろから突然女性が現れた。

 

『だ、誰だっ!?』

 

『その男の…同僚』

 

女性は少女の理解できる言語で返しながら男の隣に並んだ。男よりも高身長で銀髪の髪の髪を揺らし、また戦場には場違いな服装のその女性。

 

その美貌にも驚いたが、驚いた理由はもう一つある。少女には、まだ幼い子供ながらも幾多の戦場を駆けた経験があり、周囲への警戒はしているつもりだった。…のにも関わらずこの2人の接近には全く気づくことが出来なかったのだ。

 

二人ともなかなかの手練れであると少女は手に持つ銃を強く握る。

 

「え、そうなの?…い、いや俺もわかってたからね!」

 

「…そ」

 

「あ、今お前信じなかったろ!ホントだからな!本当にわかってたから!」

 

「…はいはい」

 

そんな少女を無視して知らない言語で会話を始める二人。

 

『さ、さっきのはやっぱりあなたたちが…』

 

『…そ。あなたと話がしたかったから、いい?』

 

『う、うん…』

 

銀髪の女性の言葉に少女は少しだけ構えを解く。この二人はいったい何者なのか、何をしにやって来たのか。

 

「…修兄、あれ見せて」

 

「お、忘れてた。えっと…あった」

 

男は懐からパスポートほどの小さなケースを取り出し名刺を少女に差し出した。そこには男の写真と少女の知る言語で…

 

【MDP所属 岡崎 修一 25歳】

 

と記載されていた。男の写真の目が半開きになっているのが少女の目に入るがそれより気になったのが。

 

『え、MDP…!?お、お前たち…ま、まさかあの「傭兵狩り」!?』

 

「…傭兵狩り…だってさ」

 

「いまのは俺もわかった。まーた俺たちのあの変なあだ名かよ。誰が広めてるんだか」

 

少女は知っていた。傭兵狩り…傭兵の間で話に上がり始めた名前だ。

 

ちまたで有名な傭兵からなりたての傭兵まで数々の傭兵が姿を消していると。噂では殺されているのではという話もあるらしい。それを知っていた少女は新たに出てきた敵に銃を向け――

 

『あうっ!?』

 

『…敵じゃないと言ってる。修兄に銃を向けないで』

 

ようとした瞬間セーラによって銃が弾かれた。そのあまりの速さに少女はただ座り込んでしまう。セーラはその少女に弓を構える。

 

『どんなうわさが広まってるのか知らないけど、私たちはあなたの敵じゃない』

 

「おいセーラやめろ。危害を加えるな」

 

「……。」

 

弓を収めるセーラ、その横で男は少女にかがんで話して始める。

 

「俺たちはお前に危害を加える気はない。…って伝えてくれませんかセーラさん」

 

「…はぁ。…『私たちは貴方に危害は加えるつもりはないって何度言えばいいの?……。…ああ、けどこの男は女たらしだから近づかないほうがいい。貴方の年齢も対象だから』」

 

『…っ!?』

 

「おい、なんか俺凄い怖がられてない?変なこと言ってないよなセーラ?」

 

「…言ってない、ウザい」

 

「なんで!?」

 

また言い争いを始めた二人。セーラはとりあえずといった感じで男をなだめると少女を見た。

 

『私たちは貴方に聞きたいことがあって日本からやって来た。わざわざ来てあげたのだから、ちゃんと答えて』

 

『質問…??』

 

 

 

首を傾げる少女に男と女は頷くと手を差し出してきた。

 

 

 

『「傭兵の仕事、好き??」』

 

 

 

その手が本当に少女を救いに来た手であったと少女自身が理解するのはまだ先の話である。

 

 

ーーーーー

 

 

 

「おう、予定通り1人保護に成功したぞ。」

 

『はいはいお疲れさま。あの子の加担していた組織との交渉も完了よ。これで貴方たちの任務は完了、すぐに帰るの?』

 

「おう、早く帰ってこいってうるさいからな。実はもう俺たち空港にいるんだよな」

 

『そうだったのね。じゃあ、あなたが帰って二日後に私も日本に帰るからお茶にしましょう』

 

「お、じゃあ久々にみんな集まれるわけか。そりゃ楽しみだ」

 

『ええ。それじゃ』

 

 

夾竹桃との会話を終えた俺は空港の受付へと歩く。

 

俺はあの子を見つけて保護するまで一か月間この国にいた。久々に帰れるのはワクワクするものだ。

 

「すみませんMDPに所属している岡崎ですけど」

 

「あ、はい。確認しました。岡崎様、今から出発されますか?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

俺はMDPの手帳を広げ、時間を確認する。どうやらすぐに飛び立てるらしい。

 

 

さて、そろそろ説明をしよう。

 

 

8年経った今、俺は傭兵を保護する会社『MDP』に就職している。

 

高校を卒業した後、俺の夢を応援してくれると言った理子の言葉は本気だったようで俺が一年遅れて卒業したときにはすでに会社として起業していた。どうやら夾竹桃とセーラも協力していたようで思った以上に巨大な企業に発展していたのだ。

 

なぜか有名な国の首相の名前とかゼロがあまりにも多い金額を動かしているなどに少し混乱した時期もあったが、今はなんとか現状を理解している。…多分。

 

簡単に言うと、傭兵を保護したり殺傷などのない安全な任務進める仕事って感じか。

 

俺たち職員が傭兵とコンタクトを取って彼らが本当に傭兵という仕事を好きでやっているのかを聞き出す。

 

もし自分の意思ではなく傭兵をやっているのであれば、傭兵という仕事から切り離された平和な世界を教えて、その人にとって本当にやりたい仕事を見つけてもらうというといった感じだ。

 

傭兵専用のハローワークなんて呼ばれていたりもするけど、まあやってることはあながち間違ってはいないよな。

 

他にも傭兵職しかしたことないという人にはこちらの仕事を手伝ってもらったり、契約とかいろいろあるのだが、ここはまたいつか話すとしよう。要は俺の夢を現実にするための会社である。

 

俺はその夢を少しでも実現に近づけるために日夜活動をしているのであった。

 

以上。

 

 

「おーい、セーラ帰るぞ。

 

 

…ってまたか…」

 

 

受付を終わらせて「めんどくさい」と言って近くのベンチで待っていたセーラの元へ戻ると…俺はがっくりと肩を落とした。

 

 

 

前方でセーラがチャラ男にナンパされていた。

 

 

 

人数は2人。俺が目を離して5分ちょっとの変化である。…いやいやこんな非現実的なことあるのかよ…。

 

セーラは無視しているようだが…あ、これダメだ、セーラ我慢が限界近そう…危うく殺しかねない…。

 

「まったくあいつは…何年経っても世話のかかるやつ」

 

俺は慌てて間に割って入るとナンパ二人組を追い返した。言葉はわからなかったがなんとか俺が連れであることを理解してくれたようだ。暴言を吐かれた気がするが、まあいいだろう。

 

「来るの遅い」

 

「悪かったって。でもこれでも早めに帰って来たんだぞ?」

 

「…。…ほんと、死ねばいいのにあんなの」

 

「その本気の殺意だすのやめてね。子供泣くからね」

 

セーラの機嫌が最悪な状態になっている。本当に余計なことをしてくれたものだ。

 

「まぁ、まぁお前美人になったもんな、うん。最初あった時は俺より身長低かったくせ今は高いし、顔は元から美人だし、ナンパされても仕方ないよな」

 

「…うるさい」

 

「お?もしかして照れたか?」

 

「うるさい黙れッ!」

 

外見は変わってもセーラはセーラだった。変に大人びているくせに妙に子供っぽいのは変わらない。

 

「いや〜なんだかんだ言って結局俺なんもしてなかったなぁ…やっぱお前だけでよかったんじゃないの?」

 

「…そんなことない。修兄がいないとつまらない」

 

「おい、俺はお前の暇つぶしのために一か月使ったってことになるが…?」

 

「…他に何ができるの??」

 

「………もういい。帰ろうぜ日本に」

 

「あ、ふてくされた。…ごめんって、修兄?」

 

「子ども扱いしてんじゃねー!!」

 

ニヤニヤとしながら謝るセーラに俺はもう知らんと無視する。

 

俺とセーラの関係も高校時代と変わらない。良い意味で変わったというなら親友のような関係になったというところか。なぜかこいつは日本以外で活動するとき必ずと言っていいほど俺を誘ってくる。書類整理に飽き飽きしていた俺もよくそれに付き合っていることが多いのだが、それをわかった上でやっているのなら本当にいいやつである。

 

「うっし、そろそろ帰るぞセーラ。俺も早くあいつに会いたいし」

 

「…うん」

 

 

さて、久々の帰国だ。早く帰ってやらないとな。

 

『俺たち』の家に。

 

ーーーーー

 

日本に着いたときにはもうすでに22時を過ぎていた。俺はセーラと別れて自分の家へとたどり着く。

 

無くさないように保管しておいた()()を左手薬指につけ直し、鍵を開けた。

 

「ただいま〜」

 

「むぐっ!?ふぉ、ふぉかえり〜!」

 

「…リスみたいだな」

 

「んぐっ!?……ふぉ、ほっぺをつんつんしないでっ!」

 

家に着きリビングに入ると、理子がお菓子を食べている。

 

もぐもぐしている理子が可愛かったのでふくらんだ頬を突いやった。

 

こいつのお菓子好きは前から全く変わっていない。…これだけバクバク食ってるくせよく太らないよな。

 

 

「おかえり修一。お腹すいた??」

 

「もう腹ペコ。あっちでほとんど食わなかったから」

 

「だからドライでも日本食持ってけって言ったのに…修一、絶対あっちのごはん苦手な方だと思ったもん」

 

「次はそうする。…んで、今日の飯は?」

 

「理子特製ハンバーグ!久々の帰りだから腕によりかけたよ!」

 

「おお、そりゃ楽しみだ」

 

俺に抱き着いてくる理子の頭をなでながら軽く会話をした後、理子は食事の準備に取り掛かった。

 

まあ、その…ここまでで薄々感づいていると思うが。

 

 

 

 

俺たちの夢の一つは…叶っているのだ。

 

 

 

 

 

――――

 

「んで、結局俺の言葉は通じなくてさ。やっぱ俺行く意味あったんかな?やったことって、セーラの買い物の荷物持ったり、飯奢ってもらったり、何度も来るナンパ男から護ったり、寝るときになぜか呼ばれたりしただけなんだけど。なんであいつ毎回毎回頑なに俺を行かせたいかったのかね?」

 

「…修一、明日のごはんはししゃも三匹だけね」

 

「whyなぜ!?」

 

理子の久々の手料理を食べながら今回の話をしていたのだが理子はニコニコ笑いながら死刑宣告をしてきた。…もしかしてこいつ、セーラに嫉妬してんのか?…ったく今更そんなことで何か変わるわけないってのによ。

 

「毎回思うんだけどさーセーラとちょっと仲良くしすぎじゃない?なんかお互い通じ合ってるみたいな感じだしさー」

 

「そ、そうか?」

 

嫉妬してくれる理子に癒されつつご飯を食べる。こんな普通のことに至福だと本気で思える。この日常が一歩間違えば失っていたかもしれないということを思うと本当にあの時動いてよかったと感じる、

 

「まあ最後はちゃんと理子の元に帰ってきてくれるし何も心配してないんだけどね」

 

「お、お前良いこというじゃねーか。よし、お菓子をあげよう」

 

「やったぁ♪」

 

 

結局、理子には頭上がらないななんて思いつつ

 

 

俺はその至福をゆっくりと味わった。

 

 

―――

 

「あのさ、修一。話変わるけど…好きな名前とかある?」

 

「は、名前?」

 

ご飯を食べ終わり、洗い物を終えた理子とソファに座りテレビを見ていると唐突に理子が話を振って来た。俺はその意味を分からず聞き返す。

 

「そ、人の名前。入れたい漢字とかでもいいんだけど…」

 

「理子」

 

「………う、それは嬉しいけど困る。理子以外でなにかない?」

 

「じゃあ、セーラ?」

 

「却下。というか修一なに?理子にガチギレされたいの?」

 

「ちょ、なんで拳構えてんの!?待て待て!」

 

本気で拳を構え立ち上がる理子をなだめ座らせる。…どうして自分で質問して自分でキレてるんだこいつ…。

 

「だからっ!もっと日本人っぽい名前で好きな名前!」

 

「桃?」

 

「だーーーかーーーらーーー!!!」

 

もう本気で意味が分からなくなった。冗談抜きでキレ始める理子に俺も慌てて両手を挙げた。この家は夫より妻のほうが強いのだ。

 

「…悪い、本気で意味がわからん。教えてくれよ」

 

「いや、だからね…その…

 

 

 

 

新しい家族の名前、どんな名前にしようかって話ししてるのっ!」

 

 

 

 

俺はその言葉を自分の中で繰り返した。

 

 

え?…

 

 

 

 

新しい

 

 

 

家族?

 

 

新しい…??

 

 

「…は?…え、……それってその…つまり…」

 

 

俺は思わず立ち上がり理子に一歩近づく。

 

 

理子は優しく自分のおなかをさすりながら俺の言葉に返した。

 

 

 

 

「女の子…だってさ」

 

 

 

 

 

 

 

そう、言った。

 

 

 

俺たちに、新しい家族ができた、瞬間だった。

 

 

 

 

 

俺はゆっくりと息をしながら理子の前にかがむ。

 

 

 

 

 

あふれだす気持ちが涙となって零れ落ちていくのを感じながら理子を頭から抱きしめた。

 

 

 

「ありがとう……理子…!!」

 

 

「うん…!こちらこそ、ありがとね…修一……!!」

 

 

 

それから長い時間俺にとっての幸せの形を強く、強く抱きしめ続けたのだった。

 

 

 

 

俺は抱きしめながら考えた。

 

 

 

 

 

俺は元々、サイカイと呼ばれていた男だ。…いやまあ昔も今もこれと言って変わってはいないのだが。

 

 

人生のサイカイ。そう呼ばれたときもある。武偵としての才能がなかった俺は将来もサイカイであるだろうなんて言われていた時期もある。もちろん正論だろうし、言い返す言葉もない。まあ…昔の俺は…

 

人生ってのは理不尽なもんだ。

 

 

ある人には世界一になれるほどの才能を与え、ある人にはいくら努力しても全く成果を出させない。

 

 

何が「天才は1%の閃きと99%の努力からできている」だよ。その1%がなけりゃいくら努力しても水の泡だろうが。昔見た漫画で悪役が言ってた「努力が必ずしも自分に成果を出すとは限らない」ってののほうが心に響くね。

 

 

…なんて、思ってた時期もあったっけ。

 

 

でも、理子と出会って、夾竹桃やセーラなどとであって、俺は考え方を変えることが出来た。

 

 

今はこうも思う。

 

 

世界が理不尽だからって、いくら自分に才能がないからと言って、俺の人生そのものが最悪ってことはない。

 

努力しても水の泡なんてことはない。誰か一人でもその努力を見てくれていたのならそれだけで価値はあるものだと思うようになったのだ。

 

なにせ

 

「あなた!絶対に生まれてきた子供の前で金金言わないでよね!セコイ女の子なんてモテないんだから!」

 

「うっせ!俺は子供にまでセコセコさせる気ないっての!お前も変にギャルっぽい服とか変に浮く服装とかばっか着させるなよ!似合うだろうけど!」

 

「へへん、その点は抜かりないもん。服だけはちゃんと揃えてるもんね!どう?」

 

「おお、可愛い!あ、おい理子!明日子供用品買いに行こうぜ!ベビーカーとか買いに行こう!」

 

「あ、いいね!あとおもちゃとか」

 

 

才能なしの俺でもこうやって幸せな人生を送っているのだから、理不尽って理由だけで幸せになれないってことにはならないだろ。

 

俺たちは、これからもこうやって一緒に歩いていくだろう。

 

家を変えても、仕事を変えたとしても、家族が増えたとしても俺たちは一緒にいる。何があってもこの幸せこを守り抜く、どんな敵が現れたとしてもこの幸せのためなら頑張れる。

 

だって今未来の話するのがたまらなく楽しいのだから。

 

 

「あ、理子ちょいちょい」

 

「ん?---ッ!!」

 

 

 

 

サイカイなりのやりかたでこの幸せを護っていくと誓いながら、俺は理子をもう一度抱きしめた。

 

 

 

 

 

『サイカイのやりかた』 完




ついに…ついについに『サイカイのやりかた』完結しました!!!やった!やった!!

さて皆様にはオリキャラ修一君の人生を見ていただきました。修一の成長を少しでも感じ取ってもらえたならばうれしく思います。

さて、話は少し変わりますが、私が小説を書く前に決めていたこととして『必ず最後まで書きあげる』というものがありました。どんなに時間が掛かっても、低評価をつけられたとしても、ちゃんと最後まで書きあげることだけはやめないという信念の元でやってきました。

それが叶って私はもう大満足です。いやーもう感無量ってやつです。満足、満ぞ…

…えー実はですね。番外編としてまだ書きたいのが二、三話ありまして…セーラの章とかあのピンク(金髪?)髪メイドの話などです。あ~また案がポンポンと…

なので一応物語としては完結になりますが


たびたび投稿する予定です。


良ければお付き合いいただけると嬉しいです。

今までご愛読ありがとうございました!お付き合いいただいた皆様、評価していただいた皆様、感想を書いてくださった皆様!

大変励みになりました!この小説が少しでも皆様の楽しみになっていただけたならいいなと思います。

ではでは~

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