サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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29話のあらすじ
キンジと付き合い始めた理子は修一に対してそっけない態度を取り始めた。
その中で修一は理子の様子がおかしいことに気づく。
何かまた抱え込んでいると感じた修一はその手助けをしようと決意するも、今の状態ではその内容を話してくれるとも思えない。
そして岡崎修一はまず彼女と元の関係に戻れるようにと行動を開始する。


30 必要、ないから…

俺は、話をすることを目標に行動を始めた。

 

あいつの抱えている問題を聞くにはまずこの状態をもとに戻すことが重要だ。…まあその理由も理解してはいるがだからと言ってほっとけない。

 

無視をされては話にもならないからな。

 

【休み時間】

 

「おーい、理子?」

 

「………」

 

休み時間が始まると同時に理子の席へ向かう。授業終わってすぐなら誰も理子に話しかけていない。チャンスだった。

 

「おーい、理子さん?」

 

「………。」

 

だが理子は目の前にいる俺に目も合わせず教科書を机にしまうとそのまま、教室を去ってしまう。俺のことなど最初からいなかったかのように無視して出て言ってしまったのだった。

 

「…結構、クルな…」

 

正直泣きそうだ。胸が締め付けられたように感じる。周りの目線が集中している。クスクスと笑われていることから、俺たちが不仲になったのはクラス中に伝わってしまっているらしいことがわかった…。

 

だけど、

 

 

キツイけどセーラに言っちまったんだ、頑張るって。これくらいで止められるか。

 

グッと拳を強く握り、気合を入れる。

 

ここからは、意地の張り合いだぞ!

 

 

【昼休み】

 

 

「理子さんや、お弁当食べませんかの?」

 

「………。」

 

 

【放課後】

 

「今から探偵科?俺も途中まで一緒にーー」

 

「……………。」

 

 

【次の日の朝】

 

「おっす、理子!一緒に行こうぜ!実は昨日お前のオススメしてたアニメを見てーー」

 

「…………………………。」

 

 

【昼休み】

 

「おい見ろよ理子!今日売店にコンソメポテトチップス販売されてたぞ!行こうぜ!!」

 

「…………………………………。」

 

【放課後】

 

「俺この前そこのクレープ食べたんだけど美味かったぞー?どうだ一緒にーー」

 

「……………………………………………。」

 

 

 

何度も、何度も

 

 

 

「な、なあ理子。俺さっきの問題わかんなかったんだけど…その、教えてくれないか?」

 

「…………………………………………………………。」

 

 

 

ただ無視され続けても

 

 

 

 

「理子さん理子さん、明日休みだしアキバにでも行かないか?」

 

「……………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 

 

なにかにつけて話しかける。

 

 

ただ一心に

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……なあ、理子」

 

「………。」

 

「……………ッ。」

 

 

ただ、話かけるたびに

 

 

 

どんどん、心の奥が締め付けられるように感じ始めていた。

 

 

 

 

ーーーーー

【放課後】

 

「ったく、なんで俺がこんなこと…めんどくせ」

 

理子に話しかけ始めてから5日経った日、俺は自分の部屋がある男子寮の階にいた。いや、帰ってきたわけではない。

 

一週間休み続けているキンジにプリントを届けに来たのだ。

 

とある日からいきなり休み始めたキンジ。先生に持って行く理由を聞いたが、どうやら依頼を受けてハウスキーパーをやっているらしい。

 

その間たまったプリントを隣に住んでる俺が渡すことになりここまでやって来たのだ。

 

まったく、俺そんな暇ないってのに。理子の会話ネタなくなってきたから今日はセーラと内容考える予定が……まあこれからあいつに頼むから予定とは言えないんだけど…。

 

俺はやれやれと思いながらもキンジの部屋のインターホンを押そうとして…

 

止まった。いや別にこれといった異常が起きたわけではないのだが、なんとなくただ部屋訪れて渡すのは面白みがないと感じた。

 

…うん、ベランダから行こう。

 

前に一度理子の依頼を完了させるためキンジの部屋へベランダから侵入したことがある。一回できたわけだしそっちから行ってみるのも面白いかと自分の部屋に入る。

 

「…おかえり修兄、早かったね」

 

「おう、まあすぐ出るんだけどな。ベランダから」

 

「…?」

 

ソファの端っこにちょこんと座り弓を磨いていたセーラの横を素早く通過しベランダに出る。

 

そして数日前に再び手に入れた『のびーる君 2号』の調子を確認、キンジのベランダへとゆっくり飛び移った。

 

しかし、そう何度も窓が開いているわけもなく、がっちりと鍵が掛かっている。さて、どうす………

 

『うん、うん、今日はこれでいいわね』

 

鍵の開け方を考えていた時だった、中からアニメ声が聞こえる。よく見れば端の方の鏡の前にアリアが立っていた。

 

フリフリの可愛らしいメイド姿で。

 

『ふふふーん。理子ったら週が変わるごとに新しい服用意するなんて…でも可愛い』

 

アリアは自分の着ている服がよほど気に入ったのかくるくる回り鏡にウインクっ。顎に手を添えてるところを見るにキメポーズなのだろうが。

 

いや、なにしてんの?マジで??

 

『…まったく、キンジもキンジよね。少しくらい褒めてくれたって……!?………』

 

あ、気づいた。

 

もう一度くるりと回ったアリアは体の正面をベランダ側に向ける。そこに立っていた俺と目が合った。…あっはは、アリアの野郎あうあうあうあうと口を開いたり閉じたしてる…口の動き早いなおい。

「口じゃなくて窓開けろやキンジ専用メイドツインテ」

 

「め、メイドじゃないし、キンジ専用でもないわよっ!!」

 

勢いよく否定しながら窓を開けてくれるアリア。助かる。

だがその手には銃が今にも撃たんとしている。怖っ。

 

「な、ななななんでっ!あんたがベランダにいるのよ!風穴開けられたいの!?」

 

「キンジ並みに逃げれる自信ないぞ俺…。落ち着け、誰にも言わないからお金くれたら」

 

「ほんっとに!ほんっとに誰にも言っちゃダメよ!キンジと理子には特に!!」

 

「おう、任せろ!…今日の夜飯代が浮いたぜ」

 

「…そうね、あんたいつもそんな感じだったわね。わかったわ。お金は払うから内緒にしときなさいよ」

 

「やったで。っとそんなことよりほれ、プリント。お前の分もあるぞ」

 

「それで来たのなら尚更…まあいいわ、ありがと」

 

まだ少し顔の紅いアリアだがプリントを受け取ってくれる。さて…渡すもんは渡したし帰るか。

 

「あ、修一」

 

「あ?」

 

2人分のプリントを確認しているアリアがこちらを見ずに声をかけてきた。

 

「あんた、この頃やけに理子に話しかけてるらしいじゃない。頻繁というかほぼ毎日」

 

「…まあな」

 

なんでお前がそれ知ってんだ、学校来てないくせと聞きたかったが。まあなんとなく理解できたため聞かないでおこう。問題はそこではなく…

プリント全てを確認し終え、それを机に置いた後アリアは俺の方を向いた。

 

 

「やめなさい。もうこれ以上理子と関わってもロクなことにならないわよ」

 

 

 

やはり、そんなことを言ってきた。やっぱ、止めに来たか。

 

 

「…はっ。なんだそれ」

 

俺はベランダの方に正面を向けたまま返す。少しだけ声が震えたのはなぜか。

 

 

「………。」

 

アリアの言葉に深い意味などないだろう。俺のためにそう言ってくれているのはわかった。…ただ

 

「悪いが、お前のその一言で食い下がれるほど理子との仲は簡単なもんじゃないんでな。友達からの助言としてもそれだけは聞き入れられねぇ」

 

ただ、それだけではいそうですかとは言えない。

 

それだけ、あいつには恩がある。

 

「っ!ならもう少し後にしなさい!せめて5日!その後ならいくらでもーーっ!」

 

「あー、やっぱタイムリミットあんのか」

 

アリアはミスを犯した。俺が理子の裏の顔を知らないと思っているアリアなら問題ないと判断するかもしれないが、ドンマイアリア。

 

俺に実行する日を教えちまったな。

 

「タイムリミット…??」

 

「あーいや、こっちの話。…まあとにかくだ。お前の助言は受け取っとくが理子に話しかけるのをやめる気はない」

 

「修一、本当にやめなさい。命に関わるわ」

 

「逆に言えばそれほどの問題を理子が抱えてるってことだろ。尚更ほっとけるか」

 

「あんたがほっとかないと、困る人間がいるって言ってるのよ」

 

「…意味ワカンねぇ」

 

そう吐き捨てるが…本心では、わかってる。

 

俺は…

 

「修一、あんたは強いわ。銃は最悪だけど武術にはある程度伸び代がある。…でも、まだまだ未熟。武術もセンスだけで戦ってるし、呼吸が読みやすい。今のまま私達と同じ敵を相手にしても死ぬだけよ」

 

アリアの言いたいことを要約…するまでもなく俺は俺自身で理解していた。

 

 

俺は

 

 

 

岡崎修一は……。

 

 

 

「………それでも、なにかできるかもしんねーじゃん。プリントはちゃんと渡したからなっ!」

 

「あ、ちょ、待ちなさい修一!!」

 

俺はアリアの言葉も聞かず自分のベランダへと飛んだ。

 

 

ただ、それでも俺はまだ、理子を助けれるなんて思っていたんだ。

 

 

 

ーーーーー

 

 

「おいお前、いい加減にしろよ」

 

 

アリアの言葉を無視して理子に声をかけ続け2日経った日の4時間目体育。この日は男子と女子に分かれてのバスケットボールだった。ただコートは体育館を真ん中で遮りコートにそれぞれ分担されただけ。理子と話そうと思えば話に行ける距離だった。

 

男子生徒は数が多くチームは四つに分かれている。よって二つのチームが試合をしている間、残り二チームは休憩することが出来ていた。今俺のチームは休憩側。今なら話しかけに行ける。今度こそと意気込み向かおうとしたその時に声をかけてきたのは三人の男子生徒。俺が女子の方へ行けないよう前を遮ってきた。

 

「あ?何が??」

 

「峰にストーカみたいに話しかけやがって、何度も無視されてんだから嫌われてるって分かれよ」

「お前なんか相手にされるわけないだろが」

「だろがー、だろがー!」

 

どうやら俺がクラスや他の場所で理子に声をかけていることに腹を立てたらしい。…いやいや

 

「お前らには関係ないじゃん」

 

「関係あるなしじゃねーんだよ。お前本気でキモい」

「最下位が少し話しかけられたからって勘違いすんなよ」

「すんなー、すんなー!」

 

…イラッ

 

「はー。あのさ、お前らがどう思おうが勝手だけど時間がないんだ。退いてくれよ」

 

「だから!お前みたいなクズが話しかけていい存在じゃねーんだって言ってんだろうが!!」

「だからお前は最下位なんだよ!」

「なんだよ!なんだよ!」

 

「…あーもう、うっせうっせ。退けっての!」

 

俺はいい加減ウザくなり前の1人を無理やり退かし女子の元へ向かう。

後ろから舌打ちが聞こえたが知ったことではない。元々俺に対して嫌な目線を指していたようなやつらだ。優先は理子に決まっている。

 

そして理子が座っている方へ近づいた。なぜか1人で座っている。

 

一瞬、理子がこっちを見ている気がしたが…それは流石に気のせいか。

 

「よ、理子。バスケ楽しんでるか?」

 

「…………。」

 

もちろんこの日も返事がない。…ただそれだけで諦めるわけにはいかない。

 

「…あー。その、あれだ。俺もさっきプレイしてたんだけどさ、シュート外しちまったよ。やっぱ俺って運動神経ないみたいでさー。あれかな?ジャンプ力が足りないんかな」

 

そんなことを言いながら軽く飛ぶ。少しでも理子の目をこちらに向けれるように無駄に何度も飛んだ。…しかし、理子は今まで通り俺の方に顔を向けず女子の試合を見ている。

 

…あーまた無理か。次の話はどうすっか。

 

そう、考えながら最後に1回飛んだーー

 

その瞬間

 

()()()()()()()()

 

「しまっ!?」

 

俺の足元には、バスケットボール。

 

落ちる地点にいつの間にか転がってきていたボール。俺はそれを思いっきり片足で踏んでしまう。バランスの取れなくなった体は受け身もうまく取れないまま左腕を下にして地面に落ちる。

 

「……いっっ!?」

 

ドンッ!大きな音を立て倒れこんでしまった。

左腕に全体重の負担がかけられる。反射的に腕を強く押さえる。折れてはいないようだがかなり痛い…。

 

男子の方を片目で見ると、先ほど絡んできた三人がこちらを見てニヤニヤと笑っていた。…クソ、やられた、理子の前で恥ずかしい姿見せちまったじゃねーか。

 

「………あ、あはは、すまんな理子、いつの間にかたまたまボールが転がっちまってたみたいだわ…」

 

から笑いして片手を隠す俺。見栄は張るが左手は抑えてないと痛いのは変わらなかった。…こんな俺を理子はどんな目で見てるのか、怖くて顔を上げられない。立つのさえためらってしまう。

 

くそっ。また俺は…。

 

その時、ビーッ!と試合終了を告げる音が鳴った。

これで俺も理子も試合に出なければならない。…理子も次の試合に参加するだろうし、もうこの時間の会話は終わりか。

 

「…っ。じゃあな理子。また後で来るから、そん時はまたよろしく…」

 

俺は理子に弱さを見せたくなかった。さらに失望して欲しくなかった。理子から逃げるように顔も見ずに男子の元へ戻ろうと体を浮かす。

 

 

 

まあこんな痛み、心の痛みよりマシだ。こんなクソ痛みなんか我慢しながらでもバスケしてやるーー!

 

 

そう、思った時ーー

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 

 

 

 

 

 

目の前に、

 

 

 

 

綺麗な手が差し出された。

 

 

俺はその手に数秒経ってようやく気付いた。

 

 

昔はよく見ていた手が、今は懐かしくさえ感じる。

 

 

 

その手は、俺がこの二週間、望み続けた彼女の手だった。

 

 

 

こちらに目線を合わせるまではしてくれないようで他所を向いているが、手だけは確かに俺の目の前にある。

 

ふわっと心が軽くなったように感じた。

 

無視し続けていた彼女が俺に手を差し出してくれるこの現状に、思わず痛みすら忘れてしまう。

 

 

「あ、その、サンクス。でも俺、その、大丈夫だから、お前はチームのとこにーー」

 

ただ、男としてのプライドがその手を握ろうとはしなかった。弱い自分を、見せたくなかった。

 

「怪我してるんでしょ、保健室連れてくから」

 

理子は俺とは目を合わせない。しかし隠した左腕をぐいっと手前に引っ張って様子を確認している…。…バレてたか。

 

「だ、大丈夫だってば。これくらい。気にしなくていいからー」

 

「いいから」

 

言葉を遮って右手を握り、保健室に連れて行こうと歩き出してしまう理子。俺はその後ろ姿を見ながらただ歩いた。

 

その時の俺の心境ときたら、流石にここでも恥ずかしいくらいに、

 

喜んでいた。

 

 

 

ーーーー

 

理子が連れてきたのは先日あのオオカミ事件のあった第7保健室。割れた窓にダンボールが貼られていたり色々と荒らされたままで立ち入り禁止となっているこの場所だが、治療道具はまだ残っていた。

 

「そこに座って」

 

「おう」

 

理子はすぐ近くの被害の少ないベットを指差しとっとと救急箱を取りに行ってしまう。俺は相変わらず愛想ないその態度を少し残念に思いつつも指示された場所に腰掛ける。

 

「ん」

 

理子は目の前に座ると持ってきた箱からガーゼを取り出し手を開いて俺の前に出してくる。左手を出せということらしい。俺は素直に従うことにして左手を出す。

 

「………。」

 

「あ、あのさ、サンキュな、わざわざこんなこと…」

 

「…………別に、巻くだけだし」

 

「そ、そうだよな…。えーっと、その、バスケ、お前いなくなって大丈夫なのか?活躍してたろ?三回決めてたし」

 

「………やる気ないし、疲れるし」

 

「そ、そうだよな…」

 

「…………。」

 

「……………あー……その……」

 

理子がガーゼを巻いてくれる時間、俺はひたすら会話を繋げようとしたが、そもそも話すことが苦手な俺は話を広げることが出来ないでいた。…いつもこいつと何話してたっけ…こんなレベル高いこといつもしてたのか…??

 

それから数分、ただガーゼの擦れる音だけが室内に聞こえる。何かを話そうとするが話題が思いつかない…。こんなんじゃセーラに社交的になれとか言えないな…。

 

 

 

 

「…で、理子に話したいことあるんならとっとと言って欲しいんだけど」

 

 

 

 

「へ?」

 

などとへこんでいると理子が、俺に話しかけてきた。それも俺が本当に聞きたかったことを聞けるような話題を。

 

「気付いて、たのか…?」

 

「あれだけ話しかけてくるんだもん、何かあるとは思ってたよ」

 

まあ、そりゃそうか。いつもは理子から話しかけてくるし、俺からあんだけ話しかけに行ったことなんてなかったかを

 

俺はワザとらしく二回咳払いすると、本題をズバッと聞くことにした。

 

 

 

「お前また何か抱えてるんじゃないのか」

 

 

 

「…………は?抱えてる?なんの話??」

 

理子は、目を合わせない。ただ、強い口調で言葉を返してくる。

 

「お前が無視し始めてから、なんとなくだが元気がない気がしてよ。そんな時って大体なんか悩みがあんだろって話よ」

 

それでも俺は自分の知りたいことを聞くために言いたいことを言う。

 

「……分かったの?」

 

「なにが?」

 

「…………。」

 

理子の疑問に疑問で返す。その時、密かに理子の頬が緩んだようにも感じたが、それは気のせいだったらしい。すぐにまた無表情でガーゼを巻き始める。

 

そしてまたお互い無言の時間が過ぎ…そして、ガーゼが最後の一周をし終わったその瞬間

 

 

 

「必要ない」

 

 

 

きっぱりと

 

 

否定の言葉を返してきた。

 

 

 

 

「修一に頼むことも、修一から何かしてもらうこともない。」

 

「でもよ、お前いつも俺の手を借りたいって…」

 

 

「修一しか、いなかったからだよ、あの時は。でも今は…キンジがいるの。あんたよりずっと強いキンジが…。

 

 

今の私に、修一は、必要ないの」

 

 

顔を伏せ、呟くように言う理子。俺はただじっと理子を見る。

 

 

理子に差し出している左手が明らかに震えていた。

 

 

「そう、か…。で、でもよ。キンジ一人の戦力に俺も加わればさ、1くらい戦力上がるんじゃねーか…?その、雑用、とかさ」

 

 

俺は、必死に自分の利用性を震える口で言う。ガーゼが巻き終わった左手もただ宙に浮いていた。

 

何も言わない理子に、俺は焦りを覚え始める。

 

「そ、それにあれだ。俺を捨てたら警察にお前のこと話すかもしれねーぞ?野放しにしとくより身近に置いといたほうがいいんじゃないの……か?」

 

「………。」

 

理子は、何も言わない。

 

「それにお前言ってたじゃんか。俺が意外と使えたって。じゃあ今回もなんか役に立つかもしれ…」

 

「修一」

 

 

俺の早口が理子のたった一言で動かなくなった。口が震え、次の言葉を聞きたくないと耳が痛んだ。

 

 

理子は俺の顔を見ず、ただ出口へと歩いていく。そして保健室から一歩踏みでた状態で

 

 

 

俺に、告げた。

 

 

 

「理子は

 

 

あんたが、()()。あんたみたいに弱いやつのことが大っ嫌い。サイカイなんか戦力になるわけないじゃん。調子に乗らないでよ。

 

 

 

 

もう、私に、修一は、必要ないんだって…!」

 

 

「……………そっか」

 

()()

 

 

その言葉を理解した瞬間。

 

 

 

 

 

 

すっと、

 

 

 

 

 

 

 

不思議なくらいにすっと

 

 

 

 

 

 

 

震えが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

まるで俺の中から何かが溶け出したように

 

 

 

 

焦りが、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「…じゃあお前、なにも悩みないんだな」

 

「…ん」

 

「そっか…。わかった」

 

「………じゃ、さよなら」

 

 

理子はただそう返事をすると、扉をゆっくりと閉め去って行った。

 

 

 

たった一人、保健室のベットに座る俺は………

 

 

 

「…修一のことが、嫌い、か…」

 

 

 

言葉をもう一度、呟いた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

「……………。」

 

夕暮れになり日が暮れる。辺りが完全に真っ暗になり、月明かりだけが保健室を照らしていた。

 

俺は、ただずっと自分の手を見つめていた。

 

 

「あ、見つけたぞ〜♬おい〜す!!」

 

 

あいつと初めて会ったのは二年の新学期早々。あのセグウェイもどきと初めて戦った日。俺は射撃場に来ていてあいつは俺に興味本位でやって来た。持ち前の明るさとコミュ力ですぐに打ち解けたっけ。

 

 

 

『お、はよー!!しゅーちゃーん!!』

 

 

次の日から悪夢の始まりだったんだよな。依頼を勝手に持ってきてさ。実はそれ自体理子自身が仕組んだことで死に際を彷徨ったんだよな…あれはほんとに死ぬかと思った。

 

「いやーFii Bucuros(すばらしいよ)修一。あの時の会話だけであたしにたどり着くなんて。本当にビックリした。

そう、その通り。

 

理子が武偵殺しだよ。」

 

依頼をこなしたら本性を現しやがったんだよな。まあ本性も結局、あんまし変わんなかったけど。それでもなんか、嬉しかったっけな。

 

 

 

 

それから、

 

『あっはっは!しゅーちゃんに恋愛とかありえなーい!!理子が捕まるくらいありえないよー!!』

 

「・・お前さ、ほんっと性格悪いよな」

 

『うわー、それ本人に言うー?』

 

「見てろよ!あっという間にお前が驚くような彼女つくってやるからな!!」

 

『おお!しゅーちゃん言い切ったね!ちなみに理子は無理だよ?金にセコい人ダメー』

 

「はなっから期待してねーよ金髪ギャル!じゃ、あしたな!」

 

『あいー!おやすみ、愛してるよ!しゅーちゃん』

 

「うるせーよ!男の純情もてあそぶな!!」

 

 

 

それから…

 

「あっはは!しゅーちゃん!だーまさーれたー!!くふ、ドキドキした!?ねえ、ドキドキした!?」

 

「うむ。初キスが理子になるのかって期待した」

 

「くふ。しゅーちゃん理子と初キスしたいのー!?ダメだよ〜理子セコイ人は無理だってば〜!」

 

「知ってたけど男だからしょうがないんだよ」

 

「なんでそこでドヤ顔するのか理子よくわかんない」

 

「男ってのはそういうもんだ。女の誘いは基本断れないんだよ」

 

「くふ、そっかそっかぁ!じゃあ続きは本当の彼女さんが出来たらしてもらおう!ま、出来るわけないけど〜!」

 

「ばっか。お前俺のこと甘く見過ぎよ?俺が本気を出せば女の一人や二人簡単にーーーいたたた!?」

 

 

 

 

 

たくさんのことが、あったっけ。あいつをあそこまで必死に助けようって

 

 

サイカイの俺が、意地でも参加したいって思うほどに必死に助けようってそう思えるほどに俺にとってあいつは…

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

でも今は…

 

 

 

「まったくお前は…こんなところでなにしているんだ?」

 

入り口から声が聞こえる。まるで寝ていたような感覚で顔を上げるとジャンヌが立っている。腕を組みこちらをじっと見ていた。

 

黄昏(たそがれ)てんだよ。空気読めっての」

 

「理子のことだな」

 

「………」

 

一瞬で、俺の一言で瞬間的に察したジャンヌ。おそらく俺と理子のこの頃の関係を知っていたのだろう。

 

ジャンヌの目つきが鋭くなった。

 

「『理子と夾竹桃を悲しませるようなことは絶対にするな。2人が困っていたら真っ先に助けてやれ』と約束したはずだが?」

 

「…ああ、そんなことも言ってたか…。でもよ俺に対して以外はニッコニコしてるしさ、理子なにも悩みないって言ってたぞ?助けることなんてはなからないんだって」

 

俺はまくしたてるように早口で返答する。ジャンヌに否定させないようにただ早口に。

 

「そうか」

 

「ああ。疲れて見えたのもバカ理子だからどうせ深夜アニメとか見て徹夜したとかキンジとイチャコラしてたんだろ。それで疲れてるってんなら助けること、ないよな」

 

「岡崎」

 

「なんだよ?」

 

「本当にそう思ってるのか?」

 

「……。」

 

 

その一言に、また口が止まった。落ち着いたジャンヌの口調が逆に胸を締め付ける。

 

本当にそう、思っているかだと…?

 

本当にあいつが悩みを持っていないと思っているのか…だと?

 

 

「…んなわけ、ねえだろ」

 

 

 

口からぽつりと漏れ出した言葉、自分の意思と反して、勝手に話し始める。

 

 

「あいつがそんなバカみたいな理由であんな顔するわけがねえ、なにかある。なにか絶対にあるんだよ。武偵殺し事件ぐらいにやばいやつをあいつは俺に隠してるんだ。

 

…でも、あいつは俺に()()()。足折れたときですら頼み込んできたあの理子がだぞ。どうしてそんなことしたんだと思う?」

 

俺の言葉をただジャンヌはじっと待つ。

 

俺は瞬きするのも忘れ、自分の問いに自分で考えていた。

 

 

 

 

いや、答えなんてわかってるんだ。

 

 

 

「修一、あんたは強いわ。銃は最悪だけど武術にはある程度伸び代がある。…でも、まだまだ未熟。武術もセンスだけで戦ってるし、呼吸が読みやすい。今のまま私達と同じ敵を相手にしても死ぬだけよ」

 

 

 

 

アリアに言われた。

 

 

 

 

「サイカイなんか戦力になるわけないじゃん。もう、必要ないんだよ」

 

 

 

理子に、言われた。

 

 

そう、俺は…

 

 

 

「んな答え、簡単すぎて屁が出るわな。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

俺が弱い(サイカイ)からアリアは止めた。俺が弱い(サイカイ)から理子が必要としなくなった。結局これなんだ。

俺は武偵高校のサイカイなんだってことこの頃すっかり忘れてたよ。俺は銃も使えない最弱武偵だったってこと。

 

なにが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ。自分が必要とされなくなったって焦ってただけだったんだ。でもま、結果はこの通り。俺が雑魚なことに変わりはなかったんだ。

どこのバカが自分の大事な作戦にこれ以上雑魚を参加させるってんだよな。逆に自分の作戦潰される可能性の方が高いっての。そんな奴が俺も混ぜろなんて言って、何度も話しかけてきたら…そりゃウザいよな。だって…

 

 

 

あいつにとって俺は、必要ないんだからよ」

 

 

皮肉。かわいそうな主人公。そう思われたい。俺は一番運の悪いやつで、一番悲しい人生送ってるんだぞとジャンヌに自慢のごとく話しかけている。別に考えてそう発言しているわけじゃない。口が勝手に動く。

 

 

俺はもう、何も考えていない。

 

何も()()()()()()

 

 

「お前は、本当にそう思っているのか?」

 

「元々それが普通なんだっての。ここは実力主義の学校で、俺はそのサイカイ。弱い者とつるむバカはどこにもいないんだ。…理子もようやくそれに気づいたんだな。ようやく頭よくなってお父さん嬉しいわ」

 

「お前はそれで平気なのか?」

 

「平気に決まってんだろ。一年のころから言われてんだぞ。もう慣れ過ぎてプロの資格取れるわ」

 

 

 

「…なら、お前はもう、理子の『味方』には、なってやらないのか?」

 

 

 

「………。」

 

 

ジャンヌの言葉も、今は何も感じない。たったさっき、数時間前の俺なら必死になって弁解、もしくは言い訳を言っていたかもしれない。

 

しかし、今の俺には

 

 

何も響かない。

 

 

 

 

ベットから立ち上がりジャンヌの横を通り過ぎる。

 

 

そして

 

 

 

 

 

「…大丈夫だよ、ジャンヌ。

 

 

俺がなにもしなくても理子ならなんとかやれるさ」

 

 

 

 

 

振り向き様にそう言った俺の顔は

 

 

 

笑っていたらしい。

 

 

 

「……………なんて顔をしてるんだ、まったく」

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

小夜鳴家個室にて~通話~

 

 

『じゃあ、確認するぞ。アリアは引き付け役としてあのペンダントのある地下室から先生をできる限り離す。その間に掘っておいた穴から俺が侵入。理子の指示通りに動いてペンダントを回収、一応時間までメイドと執事の仕事をしたら撤収。その後理子と合流して手渡し。…間違いないな?』

 

『ええ、小夜鳴先生は研究熱心だから引き付けは10分が限度ね。キンジ、できそう?』

 

『10分か…どうだ理子、できそうか?……理子?』

 

『え、あ、ああ、ごめんごめん。う~ん10分か~ちょっと微妙。15分くらいに伸ばせないかな~』

 

『…どうしたのよ理子?』

 

『え、何が?』

 

『あんた作戦実行日が近いってのにほかのこと気にしてるでしょ、声でわかるわ』

 

『………そんな訳ないでしょ。理子はロザリオが命より大事なんだよ?それを奪い返すんだから一番集中してますのです』

 

 

『……。それはそうとあんたの言う通り修一に一言言っておいたわよ。まああまり効果なかったみたいだけど』

 

『なんだ?やっぱり岡崎も参加するのか?』

 

『いや、それはない。修一だけは絶対に参加させないんだ…。アリアも修一のことは解決したから気にしなくていいからね』

 

『………そう、あんたがそれでいいならいいけど』

 

『そんなことより二人とも。この作戦にはあのブラドが絡んでくるんだ。失敗は許されないんだから、気を抜かないでやれよ。

 

 

 

 

絶対に成功させるんだ…

 

 

 

 

 

 

そしたら、あのバカに…………』

 

 

 

 

 

 

『『………。』』

 

 

~作戦実行まであと三日~

 

 

 

 

 

 




次回はとうとうあのラスボスと戦います。あの子たちが、ですがね。(予定)

では次回もよろしくお願いします。

PS、外伝2の2「私、先輩のこと好きよ?」にて最後が分かりづらいとの指摘があったので少しだけ変更しました。時間が空いたときにお読みいただけるととても嬉しいです。

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