彼女の過去は、小さな牢獄での生活だった。
そんな彼女にもようやく信頼できる男が出来る。会おうと決めて外に出るが、その男は今家にはおらず高校で補修を受けているらしい…
ーーーーー
12:30 東京武偵高
というわけでやって来ちゃいました。東京武偵高で〜す!
あそこで待っててもよかったんだけど、セーラの無言の「帰れ」圧が凄すぎて逃げてきちゃいました!はい!怖かったです!
無駄にテンションを上げ校門をくぐり、強襲科を目指す。土曜にも関わらず自主練をしに来た生徒が横切る中を私は早足で歩いていた。
もちろん変装している。私が武偵殺しだとバレた以上、アリアやキンジと出会ってしまうのはマズイ。あいつと最初に武偵殺しとして会った時の黒髪の長髪のウィッグだけだが、まあ大丈夫だろう。
さってとそんなことより、どっこにいるかな?今は昼御飯の時間だから教室にでもいたりするかな〜?ぼっち飯してたりしたら爆笑しながら隣に座ってあげるからね!
………。
なんてワクワクしながら探して30分。「あいつ」のいそうな場所に行ってみても全然見つからず、私はとぼとぼと廊下を歩いていた。
この時点でかなりイライラしていた。なんか爆発する感じじゃなくて奥からじわじわくる感じの…よくわからない感覚が内心にある。
あのせこ童貞変態め。…なーんで私が会いたいって思った時に近くに出てこないのかなぁ…?あの遊園地から忙しくてあんまり会えなかったから結構楽しみにしてたのって理子だけだったりするわけ?
というか、この頃全然かまってくれなくなったしあのアホっ!
理子のことほったからしで夾竹桃とかセーラのことばーっかりかまってあげちゃってる感あるよね!ね!?
セーラの奴はなんだかんだ言ってこの頃ずーっと隣にいるし!依頼だからとか言ってあのバカ無茶苦茶セーラ可愛がってるし、すっごい仲良くなってるし!!しかも家にずっと泊めてるんだよ!?理子が泊まりたいって言っても一回も泊めさせてくれないくせに!!セーラもセーラでひっついてばっかり!金魚のフンかっての!
夾竹桃だって「桃ー♡」なんていつの間にか仲よさそうに呼んでたし、あいつもあいつで「先輩」なんて呼ばれてヘラヘラしてやがったしほんとは夾竹桃の方が年上なのにさ!というか男嫌いじゃなかったのかよっての、キャラ崩壊すんなバーカ!
クッソモテモテでいいですねーうっらやっましですねー!!朝爆弾持って起こしに行ってやろっかなーー!!
なんて、不満爆発させながら歩いていると。
「くっそ…あのピンクツインテの野郎…俺でストレス発散しやがって…退院したばっかってこと忘れてねぇよな…」
あ、いた。
不意を突くように曲がり角曲がってすぐに探していたバカを見つけた。服がボロボロで腕を押さえながら歩いている。多分補修の先生にストレス発散サンドバックにされたのだろう。
ただそれよりも驚いたのは、自分の感情だった。
…久しぶりに見て、さっきのイライラが全部吹き飛んだのだ。私自身もびっくりするくらいすっ…と。
まるで最初からイライラしていなかったかのように消えたのだ。むしろ見つかって心が踊ったくらいだ。
…あと久々の再会にちょっとだけきゅんと…うん、これはなってないな。これはなってないったらない。これ認めたら理子自分が気持ち悪くて泣きそうになるから。
内心大慌てで否定しつつ、彼の元へ向かうように構える。…なんだ構えるって、私内心パニクり過ぎだから落ち着け。
一度深呼吸していつもの理子に戻る。…あ、これ戻れてないな。いつもの理子に戻るってなんだ。
思った以上にマズイ状況ではあるが、もう待ちきれなくなった私は顔がニヤけていることも忘れあの疲れ切った男に突撃しようと走り出しーー
「あー!見つけたのだー!」
…っ!
後ろから声が聞こえ、私は思わず近くの陰に隠れてしまった。…あれは
「おお、平賀じゃん本当久しぶりだな。海外に行ってるって聞いてたけど戻ってきたのか」
「あや!昨日ようやく帰ってこれたのだ!でもあんまり面白くなかったのだ。もー『おえらいがた?』の話は聞き飽きたのだ…」
「なに言ってんのお前。面倒くてもパイプは作るだけ作っとけって。いつか金になる」
「相変わらずゲスいのだ…。あややはそんなこと考えながら仕事してなんてないのだっ」
「少なくとも三人は社長とかとパイプ作っときたいな。んで、俺にそのうち一番金持ってそうなやつを俺に紹介してくれ。純粋にお金欲しい」
「人の話を聞くのだっ!」
会ってすぐなんの話ししてるのこの2人…。
相手はちっこい整備科の
「ふっふっふ〜そんなこと言う人にははいいものあげないぞ〜?前に作ったやつをかなり改良して持って帰ってあげたのだぞ〜?」
「はん、そんな通販サイトの広告みたいなやつに俺が引っかかる訳が」
「…高性能になったのだぞ〜?」
「だからなんだってんだ。そんなんで釣られるほど簡単な男じゃないんだよ俺は。つーかもともとそんなに使えないガラクタばっ
「3割引なのだ」
「話を聞こう」
即答じゃん。釣られてるじゃん。簡単じゃん。
まだ定価も聞いてないのにあの様子じゃいくつか買っちゃうんだろうなぁ。
目が「¥」になるセコ男と楽しそうに笑う平賀を見ながら私は決意を固める。
次こそは、二人っきりでっ!
ーーーーー
16:00
…はぁ。
思わずため息が出てしまう。あれから昼ごはん、追加の補修、全ての時間2人きりになれる機会を伺っていたんだけど…
「おーいしゅー」
「あ、見つけたわよ!ちゃんと補修を受けなさい!あたしが補修する以上、勝手なことさせないわよ!」
「くそっ見つかった!いやだね!アリアの授業つまんねーもん!帰るっ!」
「子供かっ!!」
突然現れたバカチビ(どうやら補修の講師だったらしい)のせいで目の前から消えたり
「…しゅー」
「お、ちょうどいいところに。ちょっと助けてくれないか?」
「あ?なんでジャンヌが武偵高に?」
「私も明日からここに通うことになったからその入学手続きをしに来たのだ。…しかし、帰り道がわからなくなってしまってな」
「まじか」
銀髪の天然女を案内しないといけなくなったり
「……。ケチバカアホしゅ…」
prrrrr
「お、電話…ってリサから?もしもし?
あーそうなん?来るのいつよ??」
電話越しで多分女子(なんか聞いたことある名前だったような…?)と話ししだしたり
結局、学校にいる間一回も声をかけることはできなかったのだった。
私の鬱憤はもう正直やばい。
ぼっちだなんだと言ってたけど結構人といること多いじゃん!しかも女子ばっかり!!しかもしかもほとんど理子の知り合いだしっ!
これじゃ、私が声をかけに行けないじゃんっ!
バカっ!
ーーーーー
16時30分 商店街
「おい見ろよセーラ!お肉100グラム70円だって!凄くね!?」
「それ他の商品1000円以上買った場合って書いてある…ダメ」
「うおっ見落としてたぜ、お前天才だな」
「馬鹿馬鹿しい」
「…ん、いや待てよ、1000円で他のものって、別に決まった商品じゃないんだろ?つまり格安商品を買い占めればいいんじゃねーか?ほら、この『ペットボトルに付けれる取っ手』とか100円だってよ!」
「使わない、いらない、無駄使いしない」
「…えーでも100円だしお試しで」
夕方の商店街で、やけに目立つ銀髪と黒髪の2人がバカな会話をしていた。
…結局、こんなところまで付いてきちゃったな…。
なーんか、もー自分が嫌になってきたなあ。なにやってんだろ私。
もう2人きりでとか諦めて、偶然会った感じで話しかけに行こうかな…。
「ダメ。…行こ?」
「くっそ。お前あとで後悔するからな…!」
「…もししたらブロッコリー1つあげる」
「まじかっ!?言ったからな!嘘つくなよっ!」
「うん。…後悔しなかったら明日ごはんハンバーグ」
「よし乗った!」
セーラは彼の手を引いて歩き出す。私はその後を後ろからとぼとぼとついていきながらセーラの顔を見た。
ああ、ダメだ。あそこには入れない。
…セーラって彼と話してる時、あんな楽しそうに笑うんだ。私といるときはずっと無表情でいたのにさ。今じゃチョットだけ口元緩んでるの見えるし。
……なーんかモヤモヤするなぁ。
理子は2人きりになるだけでこんなに苦労してるのに、セーラは簡単に、というかほとんど2人きりなんでしょ…?
……なんだよ、ラブラブイチャイチャしちゃってさ。
「またあの人混みに入るの…?」
「あったりまえだろ、ティッシュ1人1つしか買えないんだよ、お前も使うだろうが」
「…レジ前まで並んだら呼んで?」
「毎回毎回メンドクセーな。…ちゃんと入り口で待ってろよ」
「うん。…あ、あそこのぬいぐるみ可愛い」
「おい」
人のごった返すスーパーを見て、セーラはツッコミを無視し向かいのおもちゃ屋さんに入って行った。…苦労してるね。
「あいつは本当に自分勝手に動きやがって…まったく」
…でもセーラのワガママも半笑いで許してスーパー入ってるし…。
無駄に優しいんだよね、変に許しちゃうっていうか…普通怒りそうなことも文句言うけど結局許しちゃうんだもん。
「ったくあいつは、ワガママなとこさえなけりゃモテそうなのによ。彼氏ぐらい簡単に出来るだろうに…いや、それは許さんけど」
1人でブツブツ言ってることもあるよね。あれは正直最初怖かったなあ。
ほら、いまみたいに1人でぶつぶつ話して…
…あ
今、2人っきりだ。
ちょっとだけ落ち込んでいた私は、そのことに気づくまでにやけに時間がかかった。
今日1日中待っていた、2人っきりになれる時…
だというのに
私は、さっきのセーラと彼の楽しそうな空間を見てから何故か気分が重かった。
なんか、2人のいない合間を縫って会うみたいで…なんか、やだな…。
スーパーの中で、ティシュの側にある『ペットボトルに使う取って』を真剣に見ている彼を遠くから見ながらため息をついた。
今日は、帰ろっ…かな。あの2人の邪魔しちゃ、悪いし…。
セーラもすぐにこっちに来るだろうし、そんなとこに私が突然出てきたらやっぱ…ね。
…それに、あの光景をまた見せられるのは…流石に辛い、かな。
「便利だけどこれ…どうやって外すんだ?思いっきり引張っていいんか…?」
また独り言で機械音痴なのにお試し展示をいじってる。あれそのままほっといたら壊しちゃいそうだけど…
今日は、いいや。どーせすぐセーラが来るんだろーし、理子じゃなくてもいいもんね。
帰ろ。…なんか、疲れちゃった。
「あーダメだっわっかんね。…こんなときに
…え?
思わず立ち止まり振り返る。
い、いま、なんて…?
「機械得意なんだからこんなときいないとさー。…いて欲しいときにいないんだからよ。ったく最近全く姿見せないでやんの、
…今、私のこと、言ってた?
私に、いてほしい、って…言って、た??
私がいない時に、私のこと、心配、してくれるの?
たったそれだけの
それだけで心が躍ってしまうのは気のせい、じゃないか。
男子とか恋愛とか得意とか思ってたのに本命だとちょろいな私。
ま、いいか。自分に素直になろっと!
今も頭を抱えて悩む機械音痴の大好きな人に
私は、やっと呼べることに興奮を抑えきれず、
息を思いっきり吸い込み、
走り出しながら大好きな彼の名前を呼んだ。
「しゅうーちゃーん!!お待ちのりこりんがきったよー!!」
私はもう待ちきれなくなって、彼に聞こえる距離より遠くからすでに名前を呼んでしまっている。
彼、岡崎修一の名を呼ぶことがこんなに嬉しいことなんて考えたことなかった。あともう一回くらい呼んでからしゅーちゃんに後ろから抱きついてあげよっと!
もーセーラとかしーらないっ!理子だってしゅーちゃんの友達だもん!仲良くしたってなんの問題もないもんねっ!
理子は、峰理子はここにいるよっ!しゅーちゃん!!
なんて
そんなこと、考えてたのに…
この日から、
彼にもう峰理子として会うことが出来なくなるなんて、この時の私は思っても見なかったのだ。
「
背後から
昔聞いたことのある最も聞きたくない『アイツ』の声が聞こえた。
「ーーッ!?」
頭の中で響く声に心拍数が跳ね上がる。
全身が震え、思わず地面に倒れ込みそうになった。
何度呼ばれても慣れることのないその声に
ゾクッと悪寒が走った。
首元からプチっと音が鳴り、
十字架のロザリオの地面に落ちる音が
やけに大きく聞こえた。
ーーーーー
Syuichi side
「いやーやっぱお前最強だわ。まっさかこんな安く買えるなんて」
俺は予算の1割引の値段で買えた焼きそばの具材に満足しつつとなりのセーラを褒める。こいつ、セールの一番空いてるとこすぐ当てやがって。
「…馬鹿馬鹿しい」
顔をそらしながら吐き棄てるセーラ。ただ、アホ毛が相変わらずわかりやすくピョコピョコと揺れているところを見るに、褒められて悪い気はしていないようだ。
そんな風に…
「お?理子じゃねーか。おーい!」
そんな風に素直じゃないセーラを褒めていると、商店街の先であの見慣れた金髪ギャルの後ろ姿を見た。
遊園地以来だから、二週間ぶり…くらいだろうか。
俺はちょっと嬉しくなって声をかける。
しかし、なぜか理子はこちらを振り向かない。
「ひっさし振りだなー。この頃見ないからなにしてんのかと思ってたけど元気そーじゃん。今日はどした?なんかの帰り?」
遊園地ぶりの峰理子がなぜか学校の制服姿で立っていた。こいつあのハイジャック事件から一回も学校来てないのになんで制服着てんだ?
「……。」
「…?」
それでも理子はこちらを向かない。
ただ顔を下げ突っ立っている。
なんか理子の反応がおかしい…?いつもならハイテンションで俺と話してくれるのに今はこっちに振り向きすらしない。
何かあったのか?
「修一」
「ん?」
そんな理子は俺の名前を呼んだ後、
「もう、理子と関わらないで」
そうたった一言、たった一言だけ俺に告げると、こちらを振り向かずに走り去ってしまった。
「……ん?なんなんだあいつ?機嫌悪いのか??」
走り去る理子に対し、俺はその言葉を重く受け止めることはせず、
まああいつのことだから欲しいフィギュアが買えなかったとかで機嫌が悪かったんだろうと軽く考えてしまった。
しかし、その言葉はとても重い言葉だったのだ。
このときの俺に戻れたとしたらきっと、殴り飛ばしてでも理子を追えと言っていただろう。彼女に近づく闇が、もう目の前まで迫っていた…。
今この瞬間、
過去最大最悪な事件の歯車が
音を立て回り始める…。
お知らせです!
過去投稿した全ての話の前書きにあらすじを追加しました!
これで話の途中からでも内容を理解することが可能です。
試しに前の話をご覧いただけると嬉しく思います!!
よって元々あった「あらすじ」の話を削除しています。話数で混乱した方がいたら申し訳ありません。
これで準備編は終了となります。
…あの吸血鬼、スーパーでなにしてんねん。