今回は特別外伝ということでクリスマス話を書き上げました!ヒロインではないあの子のお話しです!
それでは、どうぞ!!
…メリークリスマス
12月24日、土曜日、23時30分。クリスマスイブだ。
新宿の街は木々一つ一つに明かりが灯され、普段なら最終電車に乗ろうとするサラリーマンなどが歩く時間にも関わらず今は若い男女が手をつなぎ歩いている様子が窺がえる。
いつも以上にキラキラと光る街並み。賑わいを見せるそんな町の中を全速力で走る男がいた。
「…チッ!!くそッ!!冗談じゃねぇ…!!」
黒いニット帽をかぶり厚手のパーカーを着たその男は手に持つアタッシュケースを大事そうに抱え、まるで誰かに追われているようにカップルの中を一人走っていた。
チラチラと後ろを振り返るそのしぐさの先には誰もいない。それなのに男は額から流れ続ける汗を止めることなどできなかった。息を切らしているのは走っている疲労かそれとも…?
小一時間ほど走り抜けると明かりの少ない路地裏へと行きついた。人通りも少なく、先ほどまでの騒がしかった音も聞こえない。暗い夜道をうろつく野良猫の小さな鳴き声ですら聞こえてしまうほどであった。男はようやく安堵し、一度足を止める。
「はぁ…はぁ…、こ、ここまで来れば…大丈夫だろう…!!よし、これで任務は達成…」
アタッシュケースを見つめながら高笑いする男ーー
その瞬間だった。
「--ッ!?」
音もなかった。スンッと耳元で何か擦れたような錯覚が男を襲ったその時、宙に体が浮き飛ばされる。それはまるで目の前の景色が一瞬にして離れたような錯覚。平行移動したように体が壁に激突したのだ。
「ガハッ!?」
何もわからなかった。男の意識は一瞬にして途切れ…気絶したのだった。
ーーーーー
「…任務完了」
とあるビルの最上階にその女はいた。ターゲットの意識がなくなっているのを確認し、手に持つ『弓』を降ろす。独特の形をした帽子を深くかぶり直し、冷徹な目で1500m先の路地裏を見る。
彼女の名前はセーラ・フッド。元傭兵だ。
今はとある事件をきっかけにある『特殊な依頼』に専念しているためほかの依頼を全て断っているのだが、彼女自身が彼と契約する前にすでに契約を結んでいた相手はまだ5人ほど存在していたのだ。
あれから数か月が過ぎ、12月24日の今日。ようやく彼の依頼以外、すべての依頼を達成したのだった。
「…………。」
セーラは屋上から見えるきれいな街並みの光と、先ほど自分が気絶させた男を交互に見ていた。
傭兵の仕事が全て終わった今、彼女は今まで考え続けた答えを見つけなければならなかった。
利益の世界か、幸福な世界か。
自分が生きていいのはどちらであるのか。
彼女は中で何度もそう問う。元々いたのは間違いなく男と同じ真っ暗な世界だ。自分が生きていくためには何でもやらなければならない冷酷な世界。傭兵という『命令に従うだけのただのおもちゃ』になっていたあの頃なら間違いなくこちらにいると言えるだろう。
しかし、自分の今生きている場所は…?そしてこれから生きていく場所は…?
もう一度セーラは男の姿を見る。あの男もおそらく誰かに雇われた傭兵なのだろう。自分にとって何の利益もないはずのその荷物を言われるがまま守り、運ぶという仕事をした赤の他人。
自分も一歩間違えば、将来あの男のようになっていたかもしれないし、これからなるかもしれない。他の誰かの利益のために自分を犠牲にするようなそんな意味を見いだせない生活。
冷たい風と、遠くから聞こえてくる幸せそうな声が、セーラの胸を強く締め付けた。
ーーーーー
~武偵高校 男子寮 岡崎修一部屋前~
ポケットから当たり前のように出した鈴付きの鍵をなぞる。これを持っているなんてこと自体、今は慣れてしまっていたが、昔は当たり前なんかじゃなかった。依頼を達成するために、依頼内容を守るために自分にとっての幸せを全て捨てていたのだから…。
セーラは自分の感情が少し暗くなっていることに気づき顔をぶんぶんと振り回し、鍵を開けた。これからのことは明日中に決めることにした。とりあえず今日は疲れている。早く休もう。
そう思っていたセーラであったが、部屋の異変にすぐ気づく。…なぜか部屋が暗い。修兄が帰ってきているのは靴を見てわかっているが何をしているのか…?
一応注意を払いながらリビングへ向かうと、人の気配がする。ソファにもたれかかり顔を伏せた男が一人…
「くそう…今年も俺はクリスマス一人か…。彼女も出来ない童貞男にとってクリスマスなんざ外を歩きにくい最悪の日なんだよな…。くそ、リア充爆発しろ…。どーせ俺と同い年のカップルなんてこんな日にゃ一緒に風呂入ったり寝たりしてイチャコラしてんだろうな…うらやま…」
あ、そうか今日12月24日だもんな。
セーラは一気に脱力した。そうだった。こいつはそういう男だった。くだらないことですぐへこんだり、大げさに痛がったりするような普通の人間だった。今もぶつぶつと、まるで呪いの言葉のように文句をいい続けてる。
「…ただ、いま」
「おお、やっと帰って来たかギャル女2号。ったくお前は、いったい今何時だと思ってやがる」
「……。」
しかし、明かりをつけて声をかけると修一は先ほどまでの落ち込んだ顔とは打って変わって怒った表情をし、叱ってきた。私がいなかったことに対してのようだ。
「…ごめん、なさい」
「ったく。今日はクリスマスだからお前のためにいろいろと準備してたんだぞ?ケーキにプレゼントに料理にゲームたくさんよ?それなのに俺を一人にしてどっか遊びに行きやがってさ…。というか遊ぶのはいいけどちゃんと一言くらい言ってからにしろよな。
「え?」
思わずすっとんきょな声で返してしまった。
「…心配、したの?」
「は?当たり前だろ。お前は俺の家族みたいなもんだし」
「…か、ぞく…?」
仁王立ちでそう言い張る修一の言葉を、ただ繰り返すことしかできなかった。
家族、たったその二言の言葉にふわっと胸の奥が暖かくなったのだ。不思議なくらいにすっと、今まで考えていた悩みが消えていったのだ。
「そう。家族の俺に心配かけるような真似はもうするな。わかったな?」
「…うん」
本当の家族のような心配。修一はそれを元傭兵の自分に伝えてくれているのだ。
その時、私は気づいた。
今はこうやってこんな自分を『家族』だと言ってくれる人がいる。それだけで傭兵だった私の生活よりも何倍もうれしかった自分の正直な気持ちの中で答えが出たのだ。
「っと暗いムードはこの辺にしようぜ。今年のクリスマスは家族サービスデーってことで!!ほら!カレカノいない同士仲良くしようぜ!!」
私と肩を組んで机の前まで歩きだす修一の暖かさを感じながら私は何度も心の中で、繰り返し唱えていた。
この心のぽかぽかを忘れないように。
二度と手放すことのないように。
何度も何度も繰り返すーー。
今は確信して言える。
「…修兄」
「どした?」
「…メリークリスマス」
「おう!メリクリ!!」
私の住みやすい場所は…利益の世界?幸福な世界?…いや、そのどちらでもなくていい。
ただ家族の傍にいる。そうするだけでそこが自分の帰る場所であると。
カチリと音を立て、時計が00時00分を指した。今年のクリスマスは、私にとってかけがえのない日になるだろう。
ーーーーーー
『…ごめん修兄。忙しくてプレゼント買えなかった…。』
『お前プレゼント買いに言った訳じゃなかったの…。ちょっと期待してたのに』
『………ごめん、ね?』
『まあいいっての。別にほんとは期待してなかったし?俺全然ガッカリしてないし?結局クリスマスっぽいことなんもしてねーとかなんも思ってねーし?』
『…クリスマスっぽいこと…?……じゃあ、修兄』
『ん?』
『……一緒にお風呂、入ろ?』
『は?ふ、ふふふフロォ!?!?おま、おままままま!?それはまじで言ってんの!?』
『…うん、まあ、家族だし』
『いや待て待て、あれだろ!水着で~とかそんなんだろ!?』
『…水着?…まあ、修兄がそっちの方がいいって言うなら…』
『いや、必要ないです!』
『…?あと今日は一緒に、寝よ?』
『ブブグファ!?』
『修兄、キモイ…』
『んなこと言われても!お前「男と寝るなんて馬鹿馬鹿しいキモイ!」って前言ってたじゃん!いいの!?」
『…修兄は大丈夫。それに「好きな人の腕枕は気持ちよくて安眠できる」って雑誌にあった。やってみたい』
『…お前さっきからどうした?熱でもあんの?』
『…ないよ?クリスマスだから修兄のしたいことさせてあげようって。…嫌だった?』
『全然全く問題なーい!!そーだよな!俺たち家族だもんな!それくらいの付き合い合ってもいーもんな!!』
『…ん。じゃあお風呂沸かしてくる』
『あーい。
…うん、あいつに常識覚えさせるの、辞めよっかな。俺得だし…』
…さてさて、いかがでしたでしょうか。ようやく少しデレを出し始めたかなというセーラさんを書いてみました。まあ恋人というよりも家族の方を重視しちゃってますが…妹枠のような感覚でご覧くださいませ。この話で少しでもセーラを好きになったと思ってもらえればうれしい限りでございます!
さてさて本遍ですが1か月お待たせしております汗
来週中には上げようと思っていますのでどうかよろしくお願いします
感想を書いていただいた方、大変ありがとうございます。ちゃんと全て読ませていただいておりますが、返信が出来ずにいる方もいらっしゃいます…。次話を投稿した際にはすべての返信を終えている状態にするので、その時にまたご覧になっていただけるとうれしく思います。
ではでは、よいクリスマスを!!
ps.結局修一くん、理性を保たせ風呂には入らなかったようです。
さすが主人公くんですね