サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「1のあらすじ」
仲良し三人組にセーラを加え、4人で遊園地へと訪れる。
セーラと修一の仲は順調に進んでいる。
#最後を少し変更しました


2「私、先輩のこと好きよ?」

〜遊園地内、カップルの会話〜

 

『さっきのお化け屋敷怖かったね、ダーリン♡』

 

『そうだな、でも心配すんなよハニー、お、れ、が!守ってやっからよ』

 

『きゃー!もうダーリン世界一かっこいい♡

ねえ、ダーリンにとって世界一可愛い女の子は〜?』

 

『それは聞くまでもないって!もちろんハ…

 

 

「修兄、300円のかき氷と100円のアイスどっちがいい?」

 

「安い方」

 

……。』

 

『…ちょっとあんた、なんで今通ったカップルガン見してんの?彼女の方凄い可愛いかったから?』

 

『は!?んなわけねーよ!ってかあれカップルじゃねーって絶対!男の方見るからに普通じゃん、あんなどこにでもいそうな男、女の方が見向きもしないって』

 

『…まあ確かに、女の子は凄い可愛いけど、男の方地味っていうか…フツー。カップルじゃないのかな?』

 

『そーそー!だから俺が今一番可愛いと思ってるのはハ…

 

 

「あ、いたいたしゅーちゃん見っけ!あー!アイス食べてるー!」

 

「おー。お前も食うか?」

 

「いるー!あーん♡」

 

「買え」

 

 

………。

 

『…あんた、今度はあの金髪に目がいったよね?しかも金髪が地味の方に飛び込んで行ったし…あっちが付き合ってるのかも…』

 

『い、いや、待て待ておかしいだろ。なんであんなどこにでもいそうな奴が超絶美人どもと一緒にいるんだよ…あんなのグラビア撮影覗いたときくらいしか見たことねぇぞ…?』

 

『…超絶、美人?』

 

『あ、い、いや、俺はお前だけだよハニー!世界で一番愛してるのはやっぱりハ…

 

 

「先輩、かき氷買ってきたけど、食べる?」

 

「食べる!よこせ!」

 

…………。り、理不尽だああああああああ!!』

 

『もうバカ!知らない!!』

 

『あ、ハニー!?ま、待ってくれー!』

 

 

ーーーーー

 

…なんか近くでイチャコラしてるカップルが超うるさいんだけど。

くそ、他所でやれよ羨ましい…。俺への当てつけかよこのやろう!

ていうか彼女いない奴の前でイチャつくってあれだよね、もういじめだよね。なんか俺お前に勝ってるからってアピールしきてる感やばいし。…はい、負けです負けです!戦う前に負けてますよ、年齢=彼女いない歴ですよ〜。…クソッたれ。悔しすぎてなんも言えんわ。羨ましい!

 

 

「しゅーちゃんどしたの?」

 

「いや…なんでも」

 

「ふーん?…ま、いいや!そんなことよりおっつぎはおっばけやしきだよ!ここのお化け屋敷も1.2を争うアトラクションなんだってさ!」

 

落ち込む俺なんて見ていない理子はアイスを舐めながらぱぱーんと目の前のアトラクションを宣伝。病院をモチーフにしたものらしいのだが…1.2を争うってことはだ。つまりそれほどまでに…その…

 

 

…怖いのか…。

 

……。

 

「修一」

 

「どした?」

 

「また私と待っててもいいよ?」

 

「誰も怖いとか言ってないだろうが!お前さ、ほんと俺のこと甘く見過ぎな、お母さんかっ!」

 

セーラが俺の裾を引っ張りながら下から俺の顔を見てそんな馬鹿にした台詞を吐きやがる。…この野郎、本気で思ってそうなところがまたムカつく!

 

しかしその怒りが俺の魂に火を灯した。

 

「おうおう!んな馬鹿にするなら見とけよお前ら!!先に俺が1人で行って感想聞かせてやる!余裕すぎて眠たくなったぞ〜ははーんとか言ってやるから期待しとけよ!」

 

そうだよ!こいつらに目にもの見せてやる!お前らがどれだけ俺のこと舐めてたか知らしめてやるわ!あっはっはっは!!

 

 

「あ〜でもでもここ人数制限2人だってー、1人じゃ迷っちゃうからってさ」

 

ガクッ

 

注意事項の書かれた紙を見ながらそう言う理子。勢いが思いっきり折られた気がした。なんだよ…やる気あったのに!

 

「先輩、わざわざ他の人と組む必要もないし二組に別れましょう?」

 

「それもそだな。理子、どーする?」

 

「じゃ、ぐっぱーで!」

 

理子の提案で俺たちは輪になった。さて、一人で行くならその途中で怖がっても誰も見ていないからいいんだけど、もしこいつらと行ったらどうなる?

 

理子:怖がるフリはするだろうが基本楽しんでそうだし本気で怖がるわけなし

桃:冷静沈着。怖がる姿が想像できない

セーラ:無表情。まず怖がらない

 

女子陣、強え…

 

「はーい、ぐぅ〜っとぱぁ〜っでわっかれましょ!」

 

 

内心へこみながらも手を出した。

 

結果は一発で別れ

 

俺はグー

セーラはパー

 

俺の相手はーー

 

 

「あら、よろしく先輩」

 

 

桃だった。

 

 

「おー桃か!よっし俺の男気見てろよ!」

 

「くす、なにそれ?」

 

桃か…よっし気合い入れないとな。こいつの前で余裕の表情してクリアして好感度上げるぞ!

 

「じゃー理子とセーラは後から行くから先に行っていいよしゅーちゃん!くふふ、逃げ戻ってきたら2人で慰めてあげる〜♬」

 

「修一、かもん」

 

「いらんしノーかもんだアホども」

 

2人とも俺が逃げ出す前提かよそうかよ…やる気出てきたわ!

 

ーーーーー

 

〜お化け屋敷内〜

 

 

「ま、これくらいの暗さなら大丈夫そうだなうん。そーだよ、こんな真っ暗なんて寝てる時感じてるからね、毎日8時間くらいこの世界で暮らしてるからねうん、余裕すぎだっての」

 

「……思ったより暗いわね」

 

中はほぼ真っ暗だった。割れた蛍光灯が点滅していて地面には医療器具が散らばっていた。中の構造の写真をパンフで見たが、手術室や病室などがリアルに存在するらしい。

 

ふん、余裕だな…。

 

「先輩」

 

「ん、なんだい桃?怖いのか?」

 

「…痛いわ」

 

桃が俺の手の甲をつんと突いた。

 

自分の手を見ると、俺の手はいつの間にか桃の細い腕を強く握っていた。…まるで怯えるように…。

 

…し、しまった!?

 

「あ、いやこれは…あれだ!お前が怖くないかな〜って俺なりのフォローみたいな?」

 

「私、お化け屋敷で怖がるように見える?」

 

「見えません」

 

先ほども言ったがこの冷静沈着和風美人がこんなアトラクションで怖がったり驚いたりする姿が想像できない。…ほ、他に何か言い訳は…!!

 

「…その…あれだよ」

 

「先輩」

 

「あ、そう!桃の原稿にお化け屋敷があったからそれで…」

 

「先輩」

 

「……」

 

「素直に言いなさい。怖いのよね?」

 

「……怖いです」

 

俺は頭を下げずーんと落ち込んでしまう。…はあ、そうだよ。こういう脅かす系も大嫌いだ。なんでわざわざビックリしなきゃならんの。わけわかめ。

 

ああ、ばれちゃったよどうなんのこれ。

 

「最初から素直にそう言えばいいじゃない。どうして見栄を張るのよ?ほら、手握ってていいから」

 

桃は俺の方を向くと呆れたように手を握ってくれる。…くそ、情けねえ、男としてのプライドがないのか俺よ。

 

「だってさ、お化け屋敷って男が女を庇うのが主流だろ?それなのに俺が怖がってたりしたら評価下がるだろうが」

 

「評価?」

 

「女って、男と出会ってから点数つけてくんだろ?カッコよかったらプラス1とかカッコ悪かったらマイナス1とかさ、俺お前から嫌われたくないし」

 

「あら、私に嫌われたくないの?」

 

「あったりまえだろ。お前顔俺の好みドストライクなの。嫌われたくないに決まってんだろ」

 

「……そう」

 

俺は何を今更とドンと構え…ようとしたが、ここがお化け屋敷であることを思い出し体をくの字に曲げてしまう…くそ、ここじゃ何言ってもカッコよく見えねぇ…。

 

桃の方はよそ向いたまま帽子を深くかぶり直している。。はあ、こいつに落胆されるのって嫌だなあ…。

 

「気にしなくていいわ。あなたの評価、これくらいで落ちるほどじゃないから安心しなさい」

 

こちらに振り向いた桃がそんなことを言った。これ、もしかして…

 

 

もう下がらないほどに底辺だと、そういうことですかい?

 

…まじかよ…。今までで結構好感度上がったと思ってたんだがなあ…友達くらいには思ってくれてると思ってたんだけど、なあ…。

 

「何へこんでるのよ?」

 

「いや別に…なんでもねーよ」

 

言葉ではそう返すが正直泣きそうだ。…あれだよね、友達と思ってたのが自分だけなんて寂しいよね、もうね…なんか辛くなっちゃったよ私。

落胆して膝を抱えてしまう…そうか、そっかあ…

 

 

「…もう、面倒くさいわね」

 

はぁとため息をつくと、桃は俺の元へ屈んで手を差し出してきた。

 

そして

 

「……。」

 

「……?」

 

俺と目線を合わせたまま何も言わない桃の顔を覗く…。なんだ?どうした?

 

「先輩」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「私、先輩のこと好きよ?」

 

 

「……はい?……はいぃ!?」

 

俺は思わず立ち上がり桃の顔を見…ようとしたが周りが暗いのとつばの広い帽子のせいで顔が見えない。

 

 

 

 

 

 

え、今の言葉マジ!?え、これ、え、まじ!?まじなの!?やっと俺にも春が来たの!?しかも桃なの!?

 

何度も言うけど顔俺の好みドストライクで気が利いて高嶺の花で絶対手の届かない桃だよ!?ゆ、夢か…!?

 

「え、ま、マジでですか…?」

 

 

 

「ええ。

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 

「……」

 

 

桃はくすっと笑いながらそんなことを言いやがった。

 

これってつまり…

 

「…あーあ、どーせそんなこったろーと思ったよ…」

 

 

つまりあれだ。俺は告るとかそんなのの前ににフラれたわけか。牽制球って言うのか?

 

理子と同じくらい…それってつまりあれだろ?恋人未満の友達ってことだろ?理子にはフラれてるし…それ以上は期待できないってことだよな…。いや、まあ友達としては認めてくれてるんだし、よしとする、か…?でもなあ…。

 

「あら?…あーなるほど。そういうことね」

 

桃は桃でこてんと首を傾げたと思ったらすぐにうんうんと頷き始めるし…なんなんだよもー…。

 

 

「くすくす、ほら先輩?ちゃんとエスコートしてくれるかしら、男の子でしょ?」

 

「…うい、従いますよお嬢様」

 

そうして俺はなぜか楽しそうな桃の手を引いて歩くことになった。…女の子の手を引いて歩くというカップルっぽい体験を経験することとなったわけだが…。

 

…ああ、なんだかなあ。嬉しいような悲しいような。桃とこれ以上の関係を築けないと確定してしまったのはなんつーか悲しいなあ。まあ、元から脈なんて全く感じてないけど。

 

 

…あれ?でもいまこうしてみるとあれだな。結局桃とカップルみたいなことしてるし、これは役得じゃない?友達だからこそ出来ること、だよな?

桃の友達ってかなり少ないだろうし、そん中で多分男は俺1人…しかも手を繋いでくれるほどなんて結構立ち位置高くね!?

 

あれ、そう思うと急に嬉しくなってきたぞ!?

 

桃の小さい手がなんか暖かく感じてきたし、後ろで俺にてくてくとついて来ていると思うとなんか可愛く感じてきたし…おお、ここはやはり天国だ。一生ここにいたい…!

 

「あら先輩、楽しそうね」

 

「まーな!お前と手を繋げていると思うとなんか楽しくなってきてな」

 

「そう、そんな先輩に一言言いたいのだけど」

 

「ん?なんだいなんだい?今の俺ならなんでもやるよん?」

 

「横」

 

「横?横になにが 『…ぅぅぁぁ……』 おおあああああああああ!?!?」

 

上機嫌に桃が指差した方を見た瞬間、俺は絶叫してしまった。

壁から生えた手が苦しそうな声を上げながら俺の頭を撫でたのだ。

 

俺は驚いて思わず後ろの壁に頭を打つけてしまう。…そして

 

『…さみしいよぉ…』

 

「あああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

そこから女の手が俺の首を掴んできた…おおおおああ!?

 

先程までとは一転、俺は絶望に落ちた。

 

「に、にに、逃げるぞおおおおおお!!」

 

一目散に走り出…そうとしたが桃と手を繋いでいた為グイッと邪魔をする。…くっ!

 

「くそ、桃!許せ!」

 

「え?……ひゃっ、ちょっ…!?」

 

桃を引いて走るのは効率が悪いと思った俺は桃に一言だけ断ってから(答えは聞いていない)…

 

 

桃を抱きかかえ、走り出した。

 

 

『…ぅぅうおおおぉぉ…』

 

「あああああああああ!?」

 

「ちょ…おろ、降ろしなさっ…!…降ろして!」

 

聞こえてくる声をシャットダウンするように声を張り上げる。そしてそんな俺の胸を叩き始める桃…だがしかし

 

「降ろす間に襲われたらどーすんだ!?」

 

「アトラクションだってこと思い出しなさい…!そ、それにあんた!どさくさに紛れてどこ握ってーーっ!?」

 

「アトラクションだってバカにすんな!こういうとこには本当にいたりするんだぞ!?」

 

「このバカッ!…ちょ、ほんと、やめ…!」

 

「暴れんなっての!」

 

俺はただ走る。この悪夢から早く覚めてほしいということだけを考えて…!

 

「あああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

「……っ…!……っ!?」

 

なぜか体を小さく丸め始めた桃を抱え、ただ出口へと向かった。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「お疲れ様でし…たっ!?」

 

俺はダイナミック入店ならぬダイナミック脱出を決めた後、地面をズザザ…!と音を立て滑り止まった。

出口で待っていた係員が俺の行動を見て唖然としている。

 

…あー怖かった。こんなんもう、一生入らねえ。

 

「…先輩」

 

俺に抱っこされたままの桃が小さく俺を呼んだ。帽子のおかげで顔は見えない。

 

「おー桃、なんとか無事帰還だ。いやーよかったな何もなくて。あんとき走り出してなかったら俺たちの内どっちかはいなくーー」

 

「…いいから、早くその手をそこから離しなさい」

 

「…そこ?」

 

俺は手元を見る。

 

 

ふにっ

 

なぜか、柔らかかった。無性に柔らかかった。手よりも少しだけ大きいくらいの形、弾力。俺の手にあるのはマシュマロだろうか…そう錯覚してしまうほどに柔らかい。

 

ふにっ、ふにっ

 

状況を、少しずつ理解してきた…桃を抱きかかえた際、暗くて怖くて気づかなかったが…

 

 

俺が握ってたの、もしかして肩じゃなくて…むーー

 

 

「………いや、これはね、これは、あれよ、あれなんです桃さん…!」

 

「……いいから、とにかく降ろしなさい、早く」

 

「は、はい…」

 

桃はゆっくりと言葉を繋げる。血の気の引いた俺は両手をガタガタと震わせながらゆっくりと彼女を降ろし、二歩下がる…。

 

 

全身の血の気が引いた。

 

 

「せん、ぱい?」

 

「ひっ!?」

 

 

ドオッ!!

 

桃から黒いオーラが噴き出した…ような錯覚さえ覚えるほどの微笑み。まるでアニメで魔王が降臨した時のような圧とでも言おうか、誰も逆らえないような圧が桃から溢れ出ていた。

 

言い換えるなら、殺気だろうか…!

 

「…先輩、私に、何か、言うことは?」

 

一歩一歩。ゆっくりと近づいてくる桃に、俺は冷や汗をかきながらただ尻もちをつく。

 

周りのカップルや家族がそれを見て俺たちから距離を取る。…あ、一般人でももう分かるんですね、この殺気。

 

 

桃は、ただ笑っていたが…目は、笑っていなかった。

 

「ま、待て待て待て待て!?さ、さっきのはさ、ふ、不可抗力だろう!?逃げないと俺たちがやられてたわけだしさ、だからその右手の手袋をもう一度付けてくれ…くれませんね!本気でごめんなさい!」

 

俺が言葉を最後まで言うとこなどできはしなかった。さらに桃からドオッ!とオーラが噴き出したからだ。

 

俺はただ涙目で頭をさげることしか出来ないでいた。や、やばい…本気で今の桃はマジやばい…!!

 

 

「あんた、今から30分は痺れててもらうから、覚悟しなさい…!」

 

「い、嫌だあああああああ!!」

 

な、なんで!?どーしてこーなるのおおおおおおおお!?!?

 

本気の鬼ごっこが、始まったのだった。

 

ーーーーー

〜LINE〜

 

『しゅーちゃん、今どこにいるの?』

 

『in the お土産屋さんの近くのゴミ箱』

 

『え、なんで?』

 

『桃から逃げてました』

 

『わけ分かんないんだけど…。まーいーや!とにかく集まろうよ!近くにカフェあるでしょ?そこに10分後ね!』

 

『あいよー』

 




はい、夾竹桃編でしたー!なんか長くなったなあ…と一言。

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