1「…遊園地」
ガタン ガタン
一定のリズムで鳴る音。俺はその音が鳴るたびに心臓が跳ねるような錯覚を覚える。よく晴れた空がどんどんと近づいていく中、俺は身動きが取れないでいる。
「セーラ」
「?」
そんな俺の隣に座るセーラは、まるでベンチで隣同士で座っている時のようにスムーズにかつ普通にこっちを見てくる。まるでこれから訪れる恐怖を全く感じていないように…。
もちろん俺も感じていないが。
「お前はさどうして人間が地面に足つけて生きるような体の作りになってるのか、知ってる?」
「…いきなりなに?」
ガタン …ガタン
体が斜めになる感覚。どうしてここだけゆっくり進むのだろう。どうして登るときはゆっくりで下るときはあんな速いの。…いや、別にいいけど。怖くないし。
「それはよ、空を飛ぶ必要はないって人間の本能が判断したからなんだ。ほら、飛行機が離陸する時とか嫌な気持ちになるじゃん?あれは本能が嫌がっている証拠なんだよ。ライト兄弟とかタケコプター欲しいとかいうやつの方が実際ごく少数で、空を飛びたいとか思うやつは頭おかし…」
「修一」
「…なに?」
「怖いの?」
「怖くねーよ!」
俺は思わず叫んでしまう。思わずセーラを睨みつけてしまった。馬鹿言っちゃいかんよ。
「何言ってんのお前。俺が怖いわけねーじゃん。お前は知らないだろうけど俺飛行機から落ちたことあるからね、パラシュートなしでひとっ飛びしたからね!あん時に比べたらこんなもん怖いとかありえないっつの。ていうかさ、考えてみろってもし人間が空飛べたら自動車とか作られなかったからね。人は地面に立っているからこそ新たな文明を築いてきたわけだよ」
ガタン…ガ、タ……
「つまり、俺はジェット
「…あ、落ちる」
コースターなんてまっったく怖くねえええええええあああああ!?」
「おー」
そう、俺たちが今乗っているのはジェットコースター、つまり、俺たちがいるのは遊園地だった。
話を30分前に戻そう。
ーーーーー
「やっと来た、やーっと来た!二週間このために頑張ってきたんだぞおおお!」
あの事件から二週間ちょっとが経ち、セーラと約束を果たしに俺たちは遊園地へとやって来た。
朝からすでに騒がしい空間、目の前に広がる夢の国への入り口に思わずテンションが上がる。
聞こえてくるラッパの音や楽しそうな声が更に俺のワクワクを高めていった。
これが、二週間桃の原稿手伝いや俺でもできる依頼(主に子猫探し)しまくった成果である。…本当に来たんだなあ…。
「…修一、テンション高い、うざい」
そんな俺の隣でいつもながらに落ち着いた様子のセーラ。今日はいつもの帽子を被らず舞い上がる俺の横で冷めたジト眼でこっちを見てくる。面倒くさいといった感じの態度だ。…だけど
「んなこと言ってお前昨日寝れてねーだろ、クマできてるよん?」
「……。違う、これは化粧しただけ」
セーラは目を擦りながら否定するが…化粧道具、俺の家無いぞ。
そして
「キターー!!ゆーえんちっ!ゆーうえーんちー!」
「朝から元気ね…」
いつも騒がしいやつは、テンションが上がる場所ならもう初っ端からハイテンションだった。
峰 理子だ。
さらにその横には理子のテンションに若干引いている和風美人の女子、鈴木桃が立っている。
遊園地で遊ぶメンツは俺、理子、桃、セーラの4人なわけだ。俺が遊ぶときにこいつら呼ばないなんて選択肢ないわ。
「いやー、まさかしゅーちゃんから誘って来てくれるなんてね〜!」
「おう、楽しそうだからな」
白いシャツの上に黒いブレザー、赤いチェックのスカートでおしゃれした理子。目立つ金髪とブレザーの黒がいい感じに似合っている。正に理子らしい服装だった。
「ん、どしたのしゅーちゃん?」
「ああいや、お前やっぱおしゃれだなって思ってな」
理子は学校の制服ですら自分好みにおしゃれする奴だ。やはり私服もそうとうレベルが高い。理子レベルの美人がこんなおしゃれしたら、もう隣に並べる奴ってキンジくらいじゃないか?あいつならイケメンだし身長高いしお似合いのカップルだろう。うん、やっぱ理子は高嶺の花か…。
「くふ、見惚れちゃった?」
「おう、可愛すぎて直視出来んわ、似合ってる」
「ふゅえっ!?」
そんな理子に率直な感想を言い、頭をぼんぽんと撫でる。なんか変な声が聞こえたが…撫でたのがダメだったんだろうか?
「…そ、そっか。修一もかっこいいよ?」
「おー、俺はおしゃれさんだからねー」
俺なんかに褒められてどうして良いかわからなくなったのだろう、理子は俯いてそんなお世辞を返してきた。
俺の服装、家にあった黒のポロシャツにジーパンなんだけど…実際どこもおしゃれじゃないんだけど。ま、お世辞でも理子にかっこいいとか言ってもらえただけで嬉しいか。役得役得っと。
「夾竹桃、あれなに?」
「ちょっと待って、『Speed Dream』…ジェットコースターね。最初乗るものとしては悪くなさそうよ」
黙ってしまった理子の後ろでは、桃とセーラがパンフレットを片手に楽しそうに話していた。桃とセーラは前に殺しあった仲のはすだが…昨日の敵は今日の友というのか、普通に仲良く話している。
桃を誘う際にセーラも来ることを伝えたのだが、全く問題ないと即答された。こいつらのいた裏の世界ではそれが当たり前だったらしい。…まあ今回はそっちの方が良いから…いいか。
そんな桃は白いワンピースと白く長いつばが特徴的な帽子、キャペリンを被って完全に清楚系お姉さんだった。…いや、身長的にお姉さんというか妹かな?…いやでも性格は姉属性だしなあ。
清楚な姿が熱い温度を癒してくれるような錯覚さえ覚える。風でなびく髪が女性としての魅力全開だった。…いややばいっすよ後輩。あんたみたいな和風美人が髪の黒と正反対の白なんて着たら…似合いすぎて見れないわ!
「先輩、何見てるの?」
「ん、ああ、いや、なんでも。…で、最初はどれに乗るんだ?」
「…あれ、『Speed Dream』」
「あ!これここのイチオシのやつじゃん!朝だから空いてるだろうし行こうよしゅーちゃん!」
「ジェットコースターか…大得意だ」
理子の指さす先にはキャー!と悲鳴を立て、物凄い勢いで走る鉄の塊…なんで人はあんなもんに乗りたくなるのか。…しかしここで乗らないなんて、男としてどうだろう。かなりダサいよな、うん。
「…先輩、無理しなくていいのよ?」
「してないっての」
ーーーーー
30分後、俺は死んでいた。
「…気持ち悪っ…」
「…重い…」
俺はセーラの肩を借りて口元を押さえた。こみ上げる吐き気をなんとか堪える。…くそっジェットコースターめ、何回転しやがる。本気で死ぬかと思ったわ。
「あ、あれっ!?しゅーちゃんがもう死んでる!?」
「…お前らとは身体の作りが違うの。こんなもんに乗って平気なわけねーだろ。一般市民舐めんな」
「これ、一般市民のアトラクションよね…」
出口に出ると理子と桃が待っていた。それぞれがそれぞれの反応している。しっかし…この2人が出口の両端に立ってたらそれだけで映えてしまうのはどうしてか…ああ、顔か。
「少し休憩しましょう。あそこのベンチとかどう?」
俺の様子を見て桃がそう提案してくれる。おお、やっぱ気がきくよね桃さん、本当お嫁さんに欲しいわ…なんつってな。流石の俺も遊園地でこいつらに迷惑かける気は無い。
「いいって、俺のことは気にせず遊んで来いよ。ほら、あそこなんかthe 女の子向けって感じだし。三人で行った方が楽しいと思うぞ」
そう言って俺が指さしたのは見た目からして女子向けのアトラクションだった。外装はピンクで塗装されており、おそらくファンタジー世界を体験できるとかそんなんだろう。男向けではないことは明らかだし…正直、あそこに並ぶ気はない。
「えー!?理子、しゅーちゃんと行きたいのに〜!」
「無茶言うな。並んでんの女子ばっかじゃねーか。俺はその間に休んでるから気にすんな」
やんやんと泣く理子に俺はフンと反抗する。全く、俺をあんな場所に連れてっていじめようったってそうはいくかよ。
「理子、行きましょう。先輩も1人の方が気を使わなくていいだろうし」
桃さん…!俺は思わず涙ぐんでしまいそうだよ、あんた人と関わるの嫌いなくせに人の気遣う天才じゃないですかい。
「…うー!じゃあ、次は理子に付き合ってよねしゅーちゃん!」
「あいよ」
まだ不満そうな理子だったが、アトラクションへと向かっていった。…さて、俺も休むとしましょう。
ーーーーー
「美味いな…甘いけど」
理子たちを見送ってしばらくベンチで休み、近くで売っていたチュロスを一口。正直甘いのは苦手だが、少し車酔いのような状態の今だと美味しく感じるのはなんでだろう。なんならもう一本買ってもいいくらいだ。
周りから聞こえる楽しそうな声。中には仲良さそうに歩くカップルがいっぱい。なんだろう、二人以上が当たり前の空間に一人でベンチに座る俺。
…………。
先ほどまで気持ちよかった風が少し寒く感じた。
そんな俺の元に
「…修兄」
声をかける奴がいた。
「あれ?なんで戻って来てんのお前」
「修兄、1人で寂しいかなって」
そこには俺の依頼をなぜか受けてくれていて、一応一般人のセーラ・フッドが立っていた。いつものようにジトッとした目で不愛想な顔をしている。
…おい、寂しいってなんだ。
「お前な、俺を子供かなんかと勘違いしてない?」
「…違うの?」
「違うわ!…っておい!」
セーラは俺をバカにしたまま、俺の持って居たチュロスの半分を食べやがった。
「初めて食べた、美味しい」
「おい、人のもんとってんじゃねえ」
「この前修兄、私のブロッコリー食べた」
「すんません」
即謝った。いや、あれは仕方なかったんだ。なんかマヨネーズ見てたら食べたくなったんだよ。
「…もう気にしてないから別にいい」
そう言うとセーラは俺の横に座りただ空をぼーっと見始めた。…そういやコイツ、俺のためにわざわざアトラクションを楽しまずにこっちに来たんだっけ。意外とやさしいやつなのか。
「…修兄、目線、ウザい」
などと考えていると睨まれてしまった。全くコイツは…さっきの言葉撤回だな、うん。
…あれ?
「そういやお前、いつもその制服だよな」
俺はセーラを見ていてある部分が気になった。
そう、セーラの服装だ。いつもと同じどこかの学校のものと思われる制服。確かに改めて考えるとこれ以外の服をこいつが着ているの見たことないかも。
「…それが?」
「いや、別に」
もちろんその制服も似合っているし、こいつ自身まだ幼さがあるが十分可愛い顔つきをしている。不愛想じゃなけりゃもっと言えただろうが…まあとにかく、理子や桃のおしゃれな服を見て、こいつももしかしたら…なんて思っちまったわけで。
「なあ」
「?」
「お前もさ、理子や桃みたいにおしゃれしたかったりする?」
今のセーラがファッションに興味を持ってたりしてもなんらおかしくないだろう。俺の方としてもそちらの方がいい。普通の女子として生活するならそういう趣味ができてくれたほうがいいだろう。
「…馬鹿馬鹿しい。興味ない」
だが、ぷいっとそっぽ向いてしまうセーラ。あれ、勘違いだったか?
と一瞬は思ったが
いつもは隠れているアホ毛がピョコピョコと動いている。…わっかりやすっ。
「ちょっと付き合え」
「…?…え、ちょ…」
俺は見栄っ張りの腕をつかんである場所へと向かう。
確か入り口近くにあったよな。
ーーーーー
「なに、この服?」
セーラの最初の言葉は疑問だった。あ、あれ?もっと喜ぶと思ったんだが…
「俺のおしゃれ目線的にイチオシTシャツやな」
セーラに渡したのはこの遊園地のマスコットキャラであるアヒルの顔が真ん中に描かれた白いTシャツだった。ここ限定のオリジナル商品らしい。
俺たちは入り口近くにあるお土産屋さんに来ていた。目的はもちろんこれ。ここにならTシャツくらいあると踏んでいたからな。…うん、悪くないじゃん。
「…ダサい」
「あ、あれ?」
しかし、セーラにはあまり受けなかったようだ。…あれ、女子ならこういうの好きかと思ったんだが…やはり男子と女子だと違うのか?それとも俺が普通の感覚とは違うのか…それだったら普通にへこむわ。
「結構かわいいと思ったんだけどなあ…まあ、セーラが嫌なら別の選べよ。買ってやるから」
やっぱ俺には美的センスってのがないらしい。おしゃれわからん。理子が来てからここ来ればよかったわ。…というか最初からセーラに選ばせればよかったんじゃね?…確かに。
「………。馬鹿馬鹿しい…」
そう言うとセーラはそのTシャツをじっと見つめた。そして、俺とシャツを交互に見始める。…⁇気に入らないなら戻せばいいものを…何してんだこいつ?
と俺が思っているとセーラはため息をついて
「でも、暑いからこれに着替える」
「あ?別にお前の好きなシャツにしていいんだぞ?」
「これでいい」
それだけ言うと俺にシャツを渡してきた。…あれ?こいつダサいとかいいながら実は気に入ってんじゃねーの?…まあアホ毛動いてるし、いいか。
俺はレジで会計をすませると、それをセーラに渡した。
しばらくして、下は制服の黒スカート、上はキャラTシャツのセーラが俺の前に立つ。いや、やっぱ十分可愛いぞこいつ。年相応というか、遊園地でハッチャケてる感がよく出てる。いい感じじゃん。
その顔はほのかに紅いようにも見えるが。…これは俺の見間違いかもしれない。
「…可愛い?」
「おう、似合ってるぞ」
「ならいい」
いつもは帽子に隠れているアホ毛が相変わらず楽しそうにゆらゆらと揺れている。どうやらお気に召したらしいな。よかったよかった。
なんだかんだ言いながらも楽しそうなセーラの顔に、俺は来て良かったと満足していた。
「たく、素直じゃないやつってのは面倒だな」
「修兄に言われたくない。寂しがりやのくせに」
「違うってのに」
昨日の2時間と今日の1時間で書き上げたので誤字や書き直すべきら場所などたくさんあると思います。とりあえず修正完了です!
あと1話完結とか無理でした。次はあの2人のパートですのでお楽しみに!ではでは〜