サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「2話のあらすじ」
倉庫が騒がしいことに気づいてしまった修一が好奇心でその場所へ向かってしまったことで、ある事件に巻き込まれてしまう。つまりアホである。



(3)金髪ギャルの違和感

保健室に寄って軽く治療された俺は、クラスへと向かっていた。

 

実際のところそこまで重症ではなかったようで、これくらいで来るんじゃねーよ的な目線を受けてしまった。まあEランクの扱いなんてのはそんなもんだ、気にしていない。

 

そう判断し、俺は教室へと向かった。もうすでにHRが始まってしまっているだろうが行かない訳にもいかない。目立ちたくないな…などと考えながら歩き、目的の教室が見えた時だった。

 

「風穴開けるわよ!!」

 

なぜか教室から発砲音と女子の声が聞こえた。え、なにそれ怖い。入りたくないんですけど…。

 

などと思っても、このままというわけにもいかない。恐る恐る後ろから教室に入ると、なぜかそこには銃を天井にぶっ放した姿勢でキレるアリアと、それにビビっている皆様方クラスメイトがいた。

 

いや待って、全く状況が読み込めないんだけど??

 

今日はわからないことだらけだと失笑しつつその様子を少しでも理解しようと見渡す。

 

その直後にアリアは再び天井に向けて弾丸を放った。…あらら、あれ修理費いくらするんだろ、勿体ね。

 

天井に同情しながら、もう状況を理解するのは不可能と判断しアリアの元へ向かう。

 

「おいアリア。なんなんだこの状況?」

 

「あ、修一!あんたこのクラスだったのね!!じゃあ説明して!あたしとこいつの間に恋愛なんてバカげたことなんてないって!!」

 

アリアは俺を見つけると勢いよく俺の元へやって来て一人の男子生徒を指差した。

 

その相手も知った顔だった。

 

「お、チートナルシスト野郎じゃん。同じクラスだったのか」

 

「なんなんだよその呼び方は!?俺はナルシストじゃない!」

 

その男子生徒は先ほど俺が頑張って破壊した機械をいとも簡単にやっつけてくれちゃいましたあのナルシストだった。うんざりしたような顔で俺の言葉にかみついてる。

 

若干テンションというか印象に違和感を覚えたが、初めて見た印象は誤差があるだろうということで気にしないことにする。

 

それよりも、このよくわからなかった状況がようやく理解できた。

 

つまりあれか、二人が朝に出会ってることを知ったクラスメイトが二人デキてんじゃね的なノリでからかったら、ノリのわからんこのピンクツインテがキレたと。

 

んで、朝のを見ていた俺に証言してほしいってことね。朝からわからないことだらけだったからなんかすっきりしたわ。

 

 

 

なるほど…なるほど。

 

 

 

なるほど…ねぇ。

 

 

「なあアリアよ」

 

「なによ?」

 

「仮にさ、俺がいまこいつとアリアは朝からイチャイチャしてて気持ち悪かったですって言ったら、クラスメイトはどっち信じると思う?」

 

「な!?」

 

俺はうんうんと頷いた後、近くにいるアリアに耳寄せしてそう脅した。

 

アリアは俺の方を見て目を見開いて驚いている。

 

「あ、あんた!?あたしに何か恨みでもあるわけ!?なんでそんなこと言うのよ!?」

 

「いや別に恨みなんてないない。ただまあ…」

 

俺は一呼吸おいてアリアに向き直る。

 

「いくらくれんの?」

 

「は??」

 

「いや、だからな。俺がお前らが付き合ってないですーって言ったらおま…アリアはいくらくれんだよ?」

 

恨みなんてない。それは本当の話。正直な話をすれば、金が欲しかっただけでした。

 

「あ、あんた。それ言うだけで金取る気!?」

 

「あったり前だろうが!俺は金さえくれりゃどんなことでもする。逆に言うとどんなことも金くれなきゃしないんだよ!」

 

ドヤっとワザと仁王立ちしてアリアの前で立つ俺。

 

うん、自分でもわかるクズっぷりだ。だがな、これが大人の世界ってやつなんだよ。人は情だけで生きていけるとは限らないんだからな。

 

良い子は真似しないように、良いことないから。

 

「あんた、意外と最低ね…」

 

「…正直余裕ないのよ…。」

 

そうなの…。もう財布の中身だけしか残ってないんだよ。今なら自動販売機の下余裕で覗けるわ。

 

「はぁ、わかった。言い値を払うから頼んだわよ」

 

「あーい、合点承知の助」

 

そうして俺は臨時収入とともに大切ななにかを失いつつ、男子生徒とアリアの無罪を証明したのだった。

 

 

―――――

 

 

タァン タァン…

 

平常授業を終えた俺は、射撃場に来ていた。

 

強襲科に所属して一年。来ていたのは最初の三ヶ月くらいだっただろうか。

 

途中から嫌になっていかなくなったんだが、今日アリアに言われた「実力がある」という一言がどうしても頭から離れず、このモヤモヤした気持ちをどこかにぶつけたくて久しぶりにやってきたわけだが…

 

《岡崎 修一 スコア 0点》

 

 

「…はぁ…」

 

引き金を引いて弾が飛んでいくのはいいが、やはりマトの中央には当たらない、どころかそのマトの書かれた紙にすらカスリもしなかった。本当に銃の才能ないんだなと思い知る。

 

今日のあのセグウェイもどきとの対戦のとき、仮にだがキンジ(あのあと少し話してお互い知り合いもどきにはなった)のように銃を使うことができていれば俺もアリアにいい顔出来たんだよな…。

 

そんな夢物語を想像しながらまた引き金を引く。相変わらず当たることはない自分の実力に落胆する。

 

どうしたらいいのかもさっぱりだ。やっぱ、変に自分に自信持ってもしょうがないのかもしれん…

 

 

出直そう、そう考え帰宅準備を始めたときだった。

 

「あ、見つけたぞ〜♬おい〜す!!」

 

 

 

そこへテンション高めの金髪ギャルが現れた。

 

 

そいつは明らかに俺の方を向いてなにかを言っている。

 

気のせいか、もしくは俺の後ろの誰かを呼んでいるのかなどと考えたがそうではないようで、確実に俺に声をかけようとしている。

 

…誰だこいつ?俺はこんなカースト上位人(仮)に知り合いなんていない。

 

こういう無駄に目立ったやつ相手にするのは間違いなくーーー面倒くさくなる。罰ゲームで声をかけなきゃならなくなったとか、先生に嫌々ながら頼まれたとか、ろくなもんでもない。

 

『修一はどうする?

逃げる

▷ 逃げる

  逃げる

 

「ええ!?ちょ、待ってよ〜!!」

 

そのギャルの前からダッシュして逃げることに決めた。こういうやつに絡むと余計なことしかないあのピンクツインテ然りだ。

 

そう判断しダッと背を向け走り去る。自慢じゃないが、逃げ足は速いと自負している。

 

…本当に自慢じゃないな。

 

などと自分にツッコミを入れつつ、高速で逃げ出す。

 

ギャルも流石に俺が逃げ出すとは思っていなかったのだろう。一瞬ひるんでしまったようだが。すぐに追いかけてきた。

 

(追いかけてきたし…。そこまでして俺に声かけるってことはなにか用があるんだよな…?やっぱ先生の用事とかか??)

 

逃げながら、追いかけて来るギャルが話しかけて来る理由が気になり始めていた。サイカイの俺にわざわざ話しかけて来る奴なんてめったにいない。

 

………せっかく久々の会話ができそうなんだ。話だけでも聞いていいかもしれんな。

 

そう思った俺は射撃場の入り口辺りでギャルを待つ。

 

Eランクの目立つ(悪い意味で)俺に、今日は来客が多いもんだ…。

 

「な、なんで逃げるのぉ??理子から逃げるなんて、ぷんぷんがおーだぞ!」

 

俺の前で息を切らしながら両手で鬼の角を表現するのは身長150cmほどの長い金髪をツインテール(ツーサイドアップ?)に結った、ゆるい天然パーマが特徴の童顔の美少女だった。

 

こんな美人が俺に何の用だ?などと思いつつ、確かに話も聞かずに走り去ったことに関してはちっと悪いことしちまったと反省。

 

「ああ、悪かったな。いきなり声をかけられてビックリしたんだよ。で、なんか用か?」

 

「んふふ〜、あなたアリアとお友達なんだよね?アリアってどんな子なのかなーって聞きたくてさ♬」

 

なるほどな。アリア関連で俺に近づいてきたと。俺とアリアが知り合いだって知ってるということは…同じクラスってところか。

 

まあ納得だ。俺に対してなにか用があるほうがおかしい。

 

「と言ってもなぁ。俺がアリアと会ったのは昨日が初めてだから、俺もあんまし知らないぞ。知ってるとしたら短気なやつってくらいだ、あとうるさい」

 

「ふーん、そっか」

 

ギャルは俺の返答に軽く返すだけで終わり、なぜか俺の顔をニヤニヤと見ている。

 

俺が首を傾げる中、ギャルは「くふっ」と独特な笑い方をしながら俺の方へ一歩近づいてきた。…おい

 

「近い」

 

「え〜別にいーじゃーん?嬉しくなーい?」

 

「そりゃ嬉しいだろ。でも意味が分からん」

 

俺も男だ。女の子にこれだけ近づけられると嬉しいのは仕方のないことだ。

 

それと、わざと興味ないように振る舞うのも仕方のないことである。

 

「正直だね?」

 

「男だからな」

 

「うんうん!それくらい欲望に忠実なほうが理子も好きだよ!岡崎修一くん!」

 

「あ?なんで俺の名前知ってんだ?」

 

「だって理子、探偵科のAランクだよ?簡単に調べることできるもーん」

 

できるもーんってそれ個人情報じゃ…まぁ、武偵だし、しょうがないか。…しょうがないんだよな?

 

「でも、わざわざ俺を調べたのか?アリアのこと聞きに来るためだけに?」

 

ギャルはくるっと回ると(なぜ?)また俺の方に近づいて答えた。

 

「だって〜しゅーちゃんのことも、もっとよく知りたかったんだもん♡」

 

「ふーん」

 

Eランクの俺を、わざわざねぇ。…ん?なんか今違和感があったが?

 

ギャルは俺の手を握ってきた。いやなぜ?

 

「それにね!理子としゅーちゃんって同じクラスなんだよ?」

 

「え、そなの?」

 

「だからぁ、理子としゅーちゃん、もっと仲良くなれると思うんだよねぇ」

 

「うむ、悪くない」

 

見た目ギャルだがこの子は中々の美人だ。出るとこ出てて引っ込むところは引っ込んでる。こんな子と仲良くなるのに躊躇なんてしないもんだ。男ってのは。

 

「私、峰 理子!理子でいーよ!!よろしくねしゅーちゃん!」

 

「岡崎修一。その、しゅーちゃんってので別にいいよ」

 

いつの間にか俺にあだ名がついていた。女子からあだ名で呼ばれるのっていつ以来だろう…ああ、修って呼ばれるのはあったがあれはあだ名でいいのか?

 

「それにしてもしゅーちゃんって銃の使い方下手だよねぇ。理子後ろからちょっと見てたけど驚いちゃった」

 

ギャル…もとい理子はもう友達として接してくるようだ。俺のスコアを見て「くふふ」と馬鹿にしたように笑う。

 

ああ、あれ見られてたのね、恥ずかし。

 

「まあEランクだしな」

 

「普通の人Eランクでも、もうちょっと当たると思うよ」

 

「………。」

 

なんでかな。知ってたけど、人から言われたらやっぱ辛いや。

 

いつもほかの武偵にクスクス笑われているのでメンタルが鍛えられたと思っていたが、そんなことはなかったようだ。ズーンと落ち込んでしまう。

 

別に…好きで当ててないわけじゃないやい!

 

落ち込む俺の姿を見た理子が、流石に言いすぎたとばかりに背中を叩いてくれた。

 

「ご、ごめん言い過ぎた。じゃーあ、理子が銃の使い方、教えてあげてもいーよ??」

 

「あー、それは…いいや。遠慮しとく」

 

「どうして?」

 

「いくら教わってもわからなかったからな。コーチが変わったところで結果は見えてんだよ。わざわざサンキュな」

 

見た目と違って気を使える理子の頭をポンポンと撫でて俺はバックを持つ。先生にさんざん教えてもらってこれなんだ。今更理子一人に教えてもらったところで上達するとは思えないしな。

 

そんなことはさておき、俺にはやることがある。背負ったバックに入ったものを、そろそろ金に変えに行くとしよう。

 

「しゅーちゃん。それなに?」

 

理子が俺の撫でたところを触りながらもバックに興味を持った。俺はふふんと笑ってバックを開いた。

 

「これか?今日朝変な機械に襲われてな。戦利品だ」

 

「うわあ!すごーい!これ7.8機ぶんくらいあるんじゃない!?」

 

バックのなかに詰まった金属類を理子に見せてやる。中々のもんだろ!とドヤる俺を無視し、理子はへーっと感心しながらそれを漁っている。…無視しないでほしい。

 

「これって、もしかして今流行ってる武偵殺しの模倣犯のやつ?」

 

「ああ、そういやそんなことキンジが言ってたな。よくは知らないが…」

 

俺はニュースを見ても聞き流すくらいであまり知識として蓄えてはいない。確かに今巷で悪名が知れ渡り始めた武偵殺しという悪党の話はなんとなく知ってはいるが、深い内容までは知らない。…世間の話題にはついていけないのだ。

 

まあ、ついていけなくても話すこともないからいいのだが。

 

……はぁ。

 

「そっかぁ。これ、どうするの?」

 

「装備科のやつに知り合いがいるからそいつに買い取ってもらおうと思ってな。今日の晩飯は豪華になるぞ!」

 

この量なら軽く一万はいくだろう。豪華な肉が食える…!ああ、今すぐにでもスーパ-に直行してお肉をこの手にしたい…!!

 

「ってことで俺は行くわ。じゃあな」

 

そうやって俺は、すぐに理子から離れようとした。

 

理由としては単純、もうこれ以上仲良くなりたくなかったからだ。これ以上仲良くなってさみしい思いをしたくない。

 

理子はいいやつだが、俺に絡んでもメリットがない。

この学校は普通の高校とは違う。クラスメイトもいずれ敵対するかもしれないのだ。

 

つまりこの学校では交流を深める際、相手と自分の力量を計って同じくらいか実力が上のやつのみという暗黙のルールが存在するということだ。

 

だからこそ俺は誰とも話すことがない。そう、力量が同じやつなどいないからな!!

 

……。

 

理子は探偵科のAランク。

そんなやつが、俺と絡むのもアリアというSランクの情報が欲しかったからであり、もともと俺目的ではないことは明白。だったらこれ以上関わっても意味はない。

 

もう俺の持ってるアリアの情報は少なかったが全部話した。

 

他の呼び方の話なども会話の流れを壊さないようにしてくれただけだろうし、もうこれから話すことも話しかけられることもないだろう。

個人的には久々の友達同士みたいな話ができたからちょっと寂しいが。仕方ないさ。

 

そういうことで、俺は早々に去ろうと――

 

「じゃあ理子がその資材買い取ろっか?その装備科の人の定価の1.5倍で!!」

 

「さぁもっと仲良くなろうよ理子さん!!俺あなた大好きだわ!!」

 

ぐるんと身を翻し、理子の手を強く握る。

 

 

全く誰だ力量を測るとか言ったやつは。お互いに利益があるならいいじゃないかいいじゃないか。

 

俺の身の翻し方とそのテンションに若干引いてる理子に俺は1つ疑問に思う。

 

「でもよ、お前探偵科なんだろ?なんでこんな資材いるんだ?」

 

探偵科は主にパソコンなどの電子機器を用いて捜査したり、推理するような学科であると聞いたことがある。こんな資材を受け取ってもなににも使えないだろうに。

 

「んーと、探偵科の授業でさ、1から物を作る課題出されちゃって。その機材が欲しかったんだよね。見た限りじゃこれかなりいい素材使ってるみたいだしもらえるなら理子も助かるんだよね」

 

ふーん、探偵科ってそんなこともするんだな。面倒そうだが、

俺にとっては金さえもらえりゃなんでもいい。何に使おうが知ったこっちゃないしな。

 

「おっけ。んじゃあ交渉成立!」

 

「おーいえー♬」

 

そうして俺たちは話し合って金額を決定した。理子は嘘つくことはなく、ちゃんと定価の1.5倍の金額を設定してくれる。

 

うん、今度からこういうものは理子に売りつけよう。

 

1.5倍はやばいって。今日の飯、肉だけじゃなくてポン酢からおろしポン酢に変えても足りるくらいになりそうだな!!うっひょー!

 

舞い上がりそうなくらいテンションの上がる俺氏。思った以上の収穫に俺はもう有頂天になっていた。

 

「うん、おっけ!じゃあ口座に振り込んでおくね!」

 

「おう!頼むぜ!!」

 

話し合いも終わり、交渉終了。俺はもちろん理子も満足そうに微笑んでいる。

 

射撃場の入り口でニヤニヤ笑う二人。周りから見たら異様にしか見えない光景だが、関係ない。今の俺にはこれから手元に入るであろう数字を、見続けることしかできないのだ。

 

「そういえばしゅーちゃん、アリアにもお金要求してたよね」

 

「お、聞こえてたのか」

 

ニヤニヤしている俺に、理子が話しかけて来る。どうやら朝のことを言っているようだ。

あのときかなりの小声で話してたから誰も聞いてないと思っていたが、理子には聞こえてたらしい。

 

「まーね!理子耳いーし!ねえねえ、いくらもらったの?アリアって意外とお金持ちだから結構もらったでしょ?」

 

「300円」

 

「へ?」

 

この数十分で俺がお金好きというのはもうバレてしまったらしい。俺ももう隠す気もないため、指を3本立てて理子に見せつけた。しかし、俺の解答に理子は目をぱちくりしていた。

 

「もっかい言って?3000円?」

 

「は?だから300円だよ。明日の朝メシ代」

 

「それだけ、なの?アリアから貰えるのに?」

 

「流石の俺もあれだけで何千ももらえるかよ。つーか300円バカにすんなよ?パン3つ買えるからな」

 

パン3つだけで人間がどれだけ生きることができるか、こいつ分かってないな。

 

「………ぷ。あっははは!しゅーちゃん面白い!アリアに300円って!小学生じゃないんだから!!あっはは!!」

 

なぜか理子に爆笑されてしまった。まあ確かに…

 

「確かに少なかったかもしれんな。あと200円くらいせびっとけば昼飯に使えたのか……」

 

「あっはははは!!」

 

理子は腹抱えて大声で爆笑し始めてしまった。そんなに面白いか、これ?

 

それからしばらく笑い転げる理子に俺はただただ首を傾げていた。

 

―――

 

「でもでもしゅーちゃんやるねぇ!武偵殺しの機械ってかなり強力だって聞いたけどこんなに倒したんでしょー?」

 

話が変わり、朝の話になった。どこからその情報を得たのか、早いな。

 

「おう!俺は強いんだほめ讃えよ!!」

 

「しゅーちゃんすごーいすごーい♬」

 

はっはっはと仁王立ちする俺の周りをピョンピョンと回る理子。ノリがいいのは外見と同じみたいだな。さて…

 

「なんつってな。無理に決まってるだろ。キンジだよ、知ってるだろ?遠山キンジ。あいつが4機倒したんだ」

 

「あ、そうなんだー。あ、でもでもEランクのしゅーちゃんがどうして4機も倒せたの?」

 

どうやら俺が勝てたという事実に疑問があるようだ。まあ、それもそうだろう。一般武偵ならともかくサイカイFランクの俺が勝てるなんて思わないもんな。

 

しかし俺は勝ったのだ。ここは素直に自慢させてもらおう。

 

「そりゃたまたま俺と機械の距離が近かったのと偶然弱点に気付けたからだろうな…短期間で見つけたんだぜ」

 

「弱点?」

 

「まああれが弱点っていうのかはわからないけど、少なくとも反撃の一手にはなったかな」

 

「それでそれで!?」

 

俺は自分の口がツンと伸びているのを実感しつつ、ぐいぐい来る理子に話し始めることにした。まあ探偵科だから色々と知りたいのだろう。

 

俺は自分がAランクの人間に教えるという立場に酔っていたのだ。

 

「あの機械は多分ある程度の大きさの物体が、ある一定の距離内で動くと発砲するようになってた。それなら近くに物を投げるとその方に銃口を向けてくれるからな。だからEランクの俺でもなんとか倒せたってわけだ。…まあやっぱそれでも苦戦したけど」

 

「へーなるほどなるほど!」

 

理子は感心したように何度も頷くとわかった!と力強く頷く。

なにがわかったんだろうか?よくわからない…がまあいいや。俺も話していて気持ちよかったし。

 

「じゃあそろそろ理子、お金振り込みに行ってくるね!しゅーちゃんもう今日の晩御飯もやばいんでしょ?」

 

「おう。振り込みなかったら今日はもやし炒めになる」

 

「そっかそっか!じゃあねしゅーちゃん!今度依頼あったらもってくるから!よろしくぅ!」

 

「簡単なやつならな」

 

「うん、よろしくー♬じゃーあじゃばー!!」

 

なんかよくわからん言葉を言って理子は去っていった。俺も手を振って返しつつ、その後の数分、急に静かになった空間でふうと息をはく。

 

なんつーか、記憶に残りやすいやつだったな。それにこんな俺にも平気で話しかけてくれるやつはそういない。

 

俺がEランクというだけで俺に話しかける人は一人もいなかったのだ。陰口は聞こえていたがな。

理子ともうちっと早く会っていれば、俺も少しはマシな学園生活ってのを送れたのかね。

 

などと思いつつ、もう一度試しに射撃場でスコアを計ったあと、俺は今日の夕食を買いに行くことにした。

 

(今日は濃い一日だったな…。楽しかったけど、特に最後の会話)

 

その間も久々に友人のように話した彼女との会話を何度も頭の中で思い返していた。

楽しかった記憶は何度繰り返しても楽しいものだ。

 

 

その中で…

 

 

(…あり?待てよおかしいぞ…?)

 

そして、あることに気づく。先ほどの理子との間に交わした会話の中で疑問に思う点がいくつか出てきたのだ。

 

「あいつ………なんであんなこと、言えたんだ?」

 

俺はそこが気になって仕方なかった。

 

 

 

あいつもしかして、なんか隠してないか?

 

 

【第1章 「始まり」 終】




ヒントはなんで知ってる?です


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