夾竹桃は児童保護施設を護ろうと1人組織と対立するも、相手の傭兵に敗北してしまう。治療を受ける夾竹桃を見て、バカ三人は闇組織と対立する重大性も無視して立ち上がった。
ちなみに『このsideは固定されています(最後以外)』
〜とある廃ビル〜
雨の降る昼間にも関わらず、4階建ての廃ビルでは慌ただしい音が響いていた。
元々運動娯楽施設として使われていたらしいその場所は、各階ごとにサッカーやバスケなどのフィールドが設置されるほどに大きく、他の階には運動施設だけでなくゲームセンターが設備されている。スロットの台が並んでいる階もあった。
『ここでは皆様がやりたいこと、運動、娯楽全てが可能です!みんなで朝まで楽しもう!!』と書かれた看板が隅の方で埃を被った状態で見つかった。
しかしそこで今行われていたのは娯楽でもスポーツでもない。
闇武器の製造。決して表の世界には登場しない、闇取引によって流通していくその武器の数々が、ここで製造されていた。
製造しているのは銃や爆発物、倉庫には麻薬も見える。品物の数々がここで製造、または保管されているようだ。
その製造を行っている彼らは借金によって人生が狂ってしまった人達のようだ。人数はおよそ30人ほどで体が瘦せこけている。
彼らはただ言われるがままに機械を合わせ、言われるがままに黙々と作業を続けることを何十時間も何日も繰り返す。地獄と言い換えても間違いないだろう。彼らにとって生きることが、死ぬことよりも辛いのだ。
そんな彼らの今日の作業はいつもと全く違った。
撤収作業もしくは引っ越し作業に似たものと言えるだろうか。
3階から1階までの階段に並べられ上から渡される荷物を隣に渡していき、最後には外のトラックへと詰め込んでいく。もちろん中身については聞くことなどしない。彼らにとっては関係を持つこと自体が恐怖なのだ。これ以上の重みはごめんだとでも言うようにただ黙々と中身のわからない箱を次に渡す。
階段の数カ所にはそれを管理する男たちが立つことで休む暇さえない。
「皆さん、午後までには終わらせますよ」
最上階。元々バスケットをするために設置されたその場所も、今は巨大な作業机があるだけの場所になってしまっている。広い開けた空間には箱が何重にも所狭しと置かれ、一つ一つを借金まみれの彼らが運んでいる。
そんな中、9人の男と1人の女だけが何もせずにいた。黒のスーツを着てサングラスをかけた8人の男たちは1人の男をグルッと取りかこんでいる。
女はただ自分の横髪をクルクルと回しながら暇そうにしていた。
鏡高組の幹部である青林とその護衛部下、雇われた傭兵セーラ・フッドである。
青林はただ椅子に座りコーヒーを嗜みながら彼らを見ている。手元の一枚の紙をヒラヒラと揺らしながら作業が終わるのを待っていた。
「青林さん、このまま進めば17時に撤収準備が完了します。あの保護施設へはショッピングモールを経由しなければなりませんが…」
「外見はただの引っ越し業者ですし問題ないでしょう。何かあればセーラさんに頼みますよ。ああそうそう
「………」
セーラはただ無言で青林を睨みつけた。
「なんですかその目は。あなた、あの女を殺せなかったでしょう?
私は『なにか裏のあるあの女を近づけさせるな、もしくは殺せ』と依頼しましたよね?」
「…殺す必要はなかった」
「私の部下18人に重傷を負わせた彼女が殺す必要がない?それはおかしな話ですね」
「………。」
セーラは表情を変えることなく青林を見ている。その反応に青林は肩を竦めた。
「まあいいでしょう。次に邪魔が入ったら今度こそ息の根を止めてください。それでチャラです」
「…わかった」
青林の命令にセーラが逆らってはいないはずだが、セーラはただこくんと頷いた。恐らく彼女にとって逆らえない事情があるのだろうか…傭兵は自分の意思を持たず、ただ命令に従って行動するだけの存在をなのだというが…。それは人として扱われないということなのだろうか…。
そう思った
大きく伸びをし、首を数回鳴らした後、目の前にある数多くのディスプレイに映る映像を見ながらインカムを構える。映像に移る彼らに一矢報いるために俺たちは、動き出す。
「さって武偵殺し再来だな、お二人さん、よろしゅ」
青林の前に投げ込まれた丸い何かが、シュッと音を立てた。
ーーーーー
パパパパパパッ!!
「な、なんだ!?」
屋上に激しい破裂音が連続で鳴った。小さく爆弾が破裂するような音を聞き、青林は思わず椅子から転げ落ち、部下達は慌てて青林へと近づく。
「なんですか一体!?」
「た、ただの爆竹です!」
投げ込まれたのはかなり大量に合わせられた爆竹だった。
いまも大きな音を立て白い煙を吹きあらすが、それだけで青林たちには被害が及ぶことはない。
青林はその様子を見て落ち着きを取り戻し、部下も青林から離れる。…だが
「ば、爆弾が爆発したー!」
白い煙で視界が狭くなる中、一人の男の声が聞こえた。そしてそれがトリガーとなり…
「うああああああああ!!」「助けてええ!」「いやだあ!死にたくないいい!」「ど、どけよ!邪魔だ!」「早く階段降りろよおおおお!!」
借金のある彼らが一瞬にしてパニックになる。彼らにとって自分の命は一番大切なものだ。階段を我先にと走り出す。
「ま、待ちなさい!…くそっ!一体誰がこんなこと…」
「…あそこ」
セーラが右腕を水平に伸ばした瞬間、ブンッと音を立て吹き荒れていた白い煙が一瞬で晴れた。
視界が開けていく中、セーラは屋上への入り口付近を狙って矢を放つ。しかし、放たれたその矢はなぜか弾かれ空を舞った。しかしすでに借金持ちの彼らの姿はなく、
代わりに
「…あらら、見つかったった」
「やはりフードをしていて正解だったな」
入り口の側には黒いパーカーを着て、フードを被った理子と、同じく黒いフードを被り先ほどの矢を大剣で弾いたジャンヌが立っていた。
「ま、目的の人たちは逃げ切ったみたいだし別にいいよね」
「よし、退くぞ」
2人はお互いに頷くと、階段から下の階へと逃げていく。まるで最初からそうする予定だったかのように俊敏に駆けて行った。
「お、お前たち、あの2人をとっとと捕まえて、どうやってここを掴んだか吐かせなさい!相手はたった2人ですし、爆竹を使ったのを見てもどこか別の組というわけでもないでしょう。恐らく私達のことを恨むどっかのザコですし絶対に逃がさないで下さいよ!」
「はっ!」
青林の命令を受け、部下9人が追いかけていく。セーラも向かおうとしたが、青林が手で制した。
「あなたが動くほどでもないでしょう。あの2人程度なら部下全員でもやり過ぎぐらいですよ」
「…そう」
青林の顔はまだ余裕の笑みを浮かべていた。
この顔、腹立つなあ…
ーーーーー
パチスロのコーナーに2人の部下が入る。広い空間に並べられたパチンコ台は、いまはもう使われず埃かぶってしまっている。オレンジ色の薄暗い明かりだけがあるこの場所はかなり薄暗く、目が慣れなければ目の前にある物も見えないかもしれないほどだった。
赤い絨毯も少し茶色くなってしまっている部屋の中央には武器製造の作業台が設置されていた。先ほどのパニックで入り口近くに散乱してしまった段ボールを退かしながら中に入った2人は周りを見渡す。
「…いるな」
「ああ」
彼らはBG歴が長いのだろう。目が見えなくても中の気配を察知することなど容易らしい。1人いると分かると足音を立てないように少しずつ歩いていく。
その時キィ…と音が聞こえた。この部屋には扉が二つある。おそらく彼らが入ってきたのとは別の扉が開いたのだと2人は思う。
他の方向にも目を向けながらそちらを確認すると、彼らと同じ青林の部下が仲間1人立っている。仲間だったことに安堵しつつ彼らの様子に疑問を持つ。
「いや、フードの1人を追ってきたのだが…見てないか?」
「こっちには来てないが…ん?」
作業台の方へ集まり、情報交換をしたその時彼らは見た。
一つだけ離れておいてある台の陰に隠れているあの黒フードの先端を。
隠れての3人の隙を伺おうとでもしたのだろうが、プロの彼らには赤子も同然だ。
「……。」
彼らは手話で状況を共有するとゆっくりとその台へ近づく。
彼らはこう思っていた。1人を撒こうとこの場所へ逃げ込んできたが、先の入り口にも2人がいたことで逃げ道を失ってしまったのだと。
そして…
「捕まえたぞ」
見えているフードを掴み、引き寄せる。
彼らには、余裕があった。最初見た時2人の身長や見た目から実力者ではないと。恐らくは青林に騙された中の素人が反発しただけなのだろうと、そう思っていた。
それが彼らの油断だった。
引き寄せたのは黒いパーカーとそれを立てるための『木材』。目的の人間は存在しなかった。
そしてそのパーカーからコロンと何か丸い物が落ちる。
プシュッと音を立て赤黒い煙を吐き出し、3人を包み込んだ。
「ぐ、しまった…!トラップか……!!」
3人はやられたと自覚するよりも早く、吸い込むまいと口元を押さえ出口へ走った。
彼らの本能が
「ぐあっ!?」「うぐっ!?」
「…くふ、本当にこっちに来るんだね、おっばか〜!」
狭い入り口から出てくる一人一人の意識を飛ばすことなど、理子には簡単なことだ。あっという間に3人の人間が地面に倒れる。理子は未だ煙荒れる室内に戻るとパーカーを着直し、耳につけたインカムに手を当てた。
「5人片付けたよ〜♬次の場所に移動するからね、ダーリン♡」
理子はインカム越しに聞こえるツッコミに満足したのか、スキップしながは割り振られた敵を無力化するために進む。
初めて来た暗いビル内を、まるで行き慣れているかのように進んでいた。
ーーーーー
〜4階〜
『部下9名の内3名が…いえ、いま他の場所で2名がやられてしまいまったようです…』
電話越しの報告に驚く青林が見える。彼にとって思いもよらないことだったのだろう。余裕な顔が次第と青ざめていく。
「ど、どうなっているんです?相手はたった2人ですよ、どうして私たちが攻められているんですか!?」
『あ、相手の動きがかなり奇妙でして…。私たちが以上にこのビルの構造を理解しているようと言いますか…私たちが気づくより早く気づいてるような…まるで私達の動きやお互いの動きをそれぞれが理解しているように動くんです…私もいま1人を見つけて追ってきたのですが…う、ぐあっ!?』
通話が切られたようだ。これでもうビル内にいる部下は残り二人。本来なら一人でも事足りると思っていた青林はそんなバカな…と吐き捨てる。
「たった2人のザコに私の部下が負けている…!?ありえない、どうして…!?」
「指揮がいる」
セーラがポツリと呟いた。
「相手の方に指揮官がいる。戦場の把握、敵の立ち位置、状況判断、全て理解した上で2人に指令を送っているそいつを潰さない限り、勝ち目はない」
ーーーーー
「うっし、理子はその階の右奥で待機な。ジャンヌはその先を右だ」
『あーい!』
『わかった』
手元のインカムからそれぞれの返事を聞きながら、コーラを一口飲みポテチをかじる。
うん、美味いね。九州しょうゆだったらもっとよかったんだけど。
俺のいる場所はビルの側に配置した車の中だ。
中には一つのディスプレイと沢山のコード、あとは飲み物とメシがある。絶対に目の前の機械には触るなと理子に言われているから少しだけ距離を開けている。
間宮たちと戦った時に麒麟が乗っていたバスのようなものだ。
ディスプレイにはそのビルの中にもともとあった監視カメラの映像が全て映されている。選んだ場所の音声を聞くことも可能だ。(その選択ボタンだけは教えてもらった。理子に呆れられるほど説明を受けてだ…)
足の折れている俺が出来ることは、ディスプレイに映る映像によって敵の居場所を割り出し二人の補助をすることくらいだろう。あー疲れた…。もーやらないわこんな仕事。
まあ実際、あの2人ならあれくらいの部下たちくらいなら俺いらなかっただろうが…もし2人が超能力を使ったのを見られたまま逃すと後々面倒になりそうだからな。…なんて俺の必要性を考えてみるが後付け感がありすぎるか。
俺は残りの部下の立ち位置を把握しつつ屋上で慌てふためく青林の音声を聞く。
しっかしまさか、青林のやろうセーラを前に出すんじゃなくて後ろに下げるなんてな。
相手がザコと誤解して自分の保身を優先したってとこだろうが…青林が思った以上にチキンでよかった。
『ねーしゅーちゃん、作業中暇ー。理子とお話ししよう?』
インカム越しに理子の声が聞こえた。…こいつ、緊張感が欠片もないな。真面目にやれってのに。
「あ?やだ。真面目にやれって」
『て~…てんぷ!』
「プラスチック」
『クリップ!』
「ぷ…プリント!」
「トラップ!」
「おいプ攻めやめろってば、卑怯だ」
『…どうしてそのやり取りからしりとりが始まるんだ?』
し、しまった…!思わず楽しくなってしまった…。これじゃ理子のことを悪く言えないな…。
時々こんな感じで話の途中からしりとりが始まることがあったが、やっぱこれ他から見たら変なのか…。
ジャンヌの呆れた声がインカムから聞こえる。
「理子、いいから黙って作業しんさい。ジャンヌが怒っちょる」
『…けち』
「……。チョップ」
『…!ぷ、プール!』
「ループ!はっは!プ返しだざまあ!!」
『ああ〜!しゅーちゃんずるい!』
『お前らいい加減にしろ!終わってからやれ!』
ついにはジャンヌから怒られてしまった…。あいつ、絶対に許さん。
俺は画面に映る理子を睨みつけた後屋上のカメラを見ることにした。
……ん?
「おい、青林の様子が思ったより早くおかしくなったぞ」
画面に映る青林はセーラに命令を飛ばし、4階から走り去っていく。…うっし。
『修一、その状況で態度を激変させるような奴は大概自分のことだけを優先して考えるようなやつだ。おそらくは…』
裏理子が探偵科らしい結論をだす。俺もそれに頷いた。
「ああ、まあでもこれはラッキーってやつだ。このままいけば、俺たちの勝ちは確定だな」
『じゃ、任せていい?』
「あいよ。こういうのは俺の得意分野だ。ジャンヌも大丈夫だろ?」
俺は近くの松葉杖を手に持ち立ち上がりながらジャンヌに問いかける
『お前たち、スイッチの切りかわりが激しすぎてついていけないんだが…。しかし、任せておけ…行くぞっ!』
4階を映す映像の中にジャンヌの姿が現れる。4階への階段付近で待機させておいて正解だったようだ。
さって、後は後処理だけって感じか…面倒くさいなあ…。
ーーーーーー
~地下一階 倉庫~
「…くそ、どうして私がこんな目に…!一体どこの組の奴らがよこしたんだ…!」
青林がいるのはこのビルの地下、小さな正方形の空間の壁に沿うように段ボールが置かれている場所だった。
もちろんその中にあるのは麻薬などの商売道具だろう。彼は急いで一つの段ボールを持ち上げると外にあるトラックに運ぼうと動き出していた。彼の顔にもう余裕はない。青林はおそらく自分の部下の力を心底信じていたのだろう。それが一瞬で倒れていけばそうなるのも無理はない。
だが
「…セーラを前面に出して敵を引きつけさせとく間にあんたは商売道具を持って逃走なんて、流石ヤクザさんのやることは非道だな」
「だ、誰だ貴様…!?」
俺はその地下の入り口に移動していた。
「くそ、どうしてここにいる!?セーラのクソがしくじったか!」
「馬鹿言え。あんな最強チートキャラがしくじるわけないだろ。どっからでも矢が当たるとか勝ち目ないわ。
…ま、あいつがあいつの意思で戦えるならの話だけどさ」
「何が言いたい…!?」
何もわかっていない青林を見ながらコツンとインカムを叩く。
『ああ岡崎、やはり、お前の言った通り、だったぞ!』
「あいよ、さんくす」
戦闘中のはずのジャンヌから音声が聞こえた。言葉が区切れくぎれだったのは戦っている最中だったからだろうか。…しかしこれでこいつのバカが浮き彫りに出た。こいつは…
「
セーラは超遠距離型だ。相手に姿さえ、狙われていることさえ気づかせないほどの距離からの狙撃がメイン。そんな奴がジャンヌのような接近戦が得意な相手と
「ふん。それで結局あなたがここに来ては意味ないんです。全く使えない…」
こいつは本当に…
「『使えてない』の間違いだろ」
何度も言うが、セーラは姿を見せず多方向から狙撃可能なスぺシャルアタッカーになる傭兵。基本表舞台に立つことはないのだ。それを使えないなんて、本当にわけがわからない。
そんな彼女も傭兵として前面に出ろと言われたらその通りにしないといけないのか…例えそれで、自分が死ぬことになったとしても…上が行けと言うなら行かないといけないのか…。
「…クソが!何言ってるんですかあなた!傭兵なんて使い捨てる以外に使い方はないんですよ!世界で他人に取り入ることでしか生きていけない最下位どもは使い捨てて自分の利益にしてしまうのが一番なんです!」
「…ちっ、また最下位かよ…」
俺の言葉が火に油を注いでしまったようだ。青林はもう我も忘れて叫んでいる。本性を晒し、ただただ
本来ならどんな相手でも強敵と言わしめる才能を持つセーラでもそう言う青林に
俺は無性に腹が立った。
「ざっけんな。最下位ってのはな、俺みたいになんの才能もないやつのことを言うんだっての。セーラには才能があるんだ。最下位じゃねえっての」
俺は苛立ちを隠せなかった。どうしてもここだけは譲れなかった。
ただ俺の雰囲気が変化したことが青林に少し余裕を与えてしまったようだ。俺の折れた足、そして松葉杖を見て皮肉に笑う。
「ふん、その足を見るに私の部下を倒したのはどうやらあなたではない様子。ということはあの時の二人はセーラさんが抑えられているということ…くくく、あっははははははは!!」
怯えていた彼の顔が変わった。
「つまり、あなたさえ黙らせればいいというわけですね」
「そーゆーこったな。あいつらはそれぞれ作業してるから援護にもこれねーよ
まあでも…」
俺が後ろ頭をかきながら言葉を繋げようとしたが、それより早く青林は走り込んで俺の折れた足を蹴ろうと左足を後ろに下げる。
そして
「ーーふぐぬっ!?」
「…まあでも、サイカイの俺でもお前に負ける気しないけどな」
蹴りが俺の右足に入る前に青林の顔面を思いっきり殴り飛ばした。青林の体が宙を浮き壁際にある段ボールへと突っ込んでいった。そういや、人の顔面殴ったのって初めてだったかも。…手、痛いなあ。
『ほいほーいしゅーちゃん!残りの部下は全員黙らせといたぞい!…あともう一つの方もおっけーです!』
「ういーご苦労さん。俺も今終わったとこだ」
『怪我は?』
「ない」
理子の報告を聞く。理子には残りの残党狩りをしてもらっていたがやはり理子にとってはかなり簡単だったようだ。流石武偵殺しって感じだな。
俺はインカムから意識を離し、青林の方を見る。パラパラと舞う埃の中、鼻から血を流し動けないでいる青林がいた。…うわ、痛そう。…あ、俺がしたんだったか。
「さってと…権利書権利書っと…」
おそらく懐にあるであろう権利書を貰うため、青林に近づく。
「…どう、して…」
まだ意識のある青林がゆっくりと口を開く。
「どうして、どうして…武偵がセーラさんを、庇っている?あなた、セーラさんに会ったこともないでしょう?」
俺はその問いに思わず眉をピクッと動かせてしまう。目つきが鋭くなってしまっているのを実感していた。
青林の懐から「児童保護施設の権利証」が落ちているのを確認し、それを拾うと青林に背を向けた。そして
「…別に、そんな知らないやつのためにキレられるほど人間できちゃいねーよ。…ただ、
用も済み地下室から出る中で「俺も人間だな」なんて俺らしくないことを改めて思ってしまった。
ーーーーー
「セーラ止めろ!この距離では私が有利だ!」
「………!」
ジャンヌの言葉にセーラは耳を貸さず、矢を放つ。
しかしそれは簡単に大剣で矢を弾かれてしまった。目の前から放たれた矢を弾くことなどジャンヌほどの腕なら簡単だ。…が
弾いた瞬間の死角を狙ってセーラはジャンヌの懐付近へと潜り込む。
そのまま懐から出した小さなナイフで切り裂こうとするが、ジャンヌはそれをすこし顔を逸らすだけで避けるとセーラの手首を持ち拘束する。
『うっ…!』
『大人しく降参しろ、悪いようにはしない』
近距離において、ジャンヌに勝てる奴は中々いないだろう。彼女も接近戦の戦い方は熟知しているようだが、それでも勝つことはできなかった。
『お疲れ〜ジャンヌ〜』
そこに理子も集合する。理子も理子で作業を終わらせたらしい。意外と疲れたようで少しぐったりとしている。
俺はその様子を戻ってきたバスの映像から確認しつつ2人へ声をかける。
「理子、ジャンヌ。権利書も奪ったし帰るぞ」
『岡崎、セーラはどうする?』
『……。』
セーラはもう抗う気はないらしく、大人しくジャンヌに捕まっていた。…まあ青林の為に抵抗する意味もないだろうし当然か。普通なら警察官辺りに引っ張って行ってあとは任せるんだが…
《『世界で他人に取り入ることでしか生きていけない最下位どもは使い捨てて自分の利益にしてしまうのが一番なんです!』》
青林の言葉を思い出してしまった。
こいつは、才能がありながら環境の性で最下位と呼ばれてしまっている。
……。
「理子、インカムをセーラにつけてくれ」
『ほいほい』
理子がセーラの耳にインカムをつけてくれる。そして
「セーラ・フッドさんや、初めて会った奴が言うことじゃないかもしれないけどよ…」
『………。』
「 」
俺はセーラにある言葉を伝える。それは、俺が今までで感じたこと全てを込めた言葉。俺と似た気持ちを持っているはずの彼女へ伝えたかった言葉だ。
『………馬鹿馬鹿しい』
ことばではそう言いながらもセーラはそれをただ黙って聞いてくれた。否定するわけでもなく、ただ聞いてくれた。
『…お前はまったく…甘いやつだ』
インカムから聞いていたジャンヌが苦笑いを浮かべた。確かに甘いかもしれないが、どうしても言いたかったんだから仕方ないだろ。
「ジャンヌ、セーラはもうほっといて大丈夫だ。とっとと帰るぞ」
『わかった。理子、帰るぞ』
この後警察が駆けつけ、麻薬などの密売容疑で青林とその部下が逮捕された。その時、小林さん殺害容疑の詳細の書かれた書類も発見され、殺人容疑も付け加わったらしい。…ま、書類なんて理子が勝手に作ったやつだけど。そこから芋づる式に分かっていくだろうから大丈夫だろ。
ーーーーー
「しゅーちゃんしゅーちゃん!夾竹桃意識戻ったって!」
「まじか!」
雨の降る中、理子が持っていたキラキラ傘(なんかデコレーション凄すぎて引くレベルの傘)の中で、やることやった後の疲労感を三人同時に感じながら歩いていると理子の携帯へ病院から連絡が入った。よかった…。
「マジマジ、行こう!ジャンヌもね!」
「ああ」
俺たち三人は病院の方へ向かう。疲れてはいるが、早く夾竹桃と話したいという気持ちの方が上だ。三人でテキトーに話しながら歩いていると、あの夾竹桃と行ったショピングモールの前までついた。そうか、あのビルから病院へはここを通るのか。
「しゅーちゃん、雨の中外歩くのやだし、ショピングモールの中から行かない?」
「そーだな」
中もかなり賑わっているようだ。俺たちと同じ考え方の人達が多いのだろう。人の賑わいを見ながら進んでいくが、こういうとこでは俺みたいに松葉杖のやつは邪魔な扱いをされてしまうものだ。そう思い端っこを歩いていく。そうすると、自然と店の店頭に並べられる商品へと目が向かう。
そうしていると、前にかずきの誕生日プレゼントを買うために訪れたおもちゃ屋さんを見つけた。そこには俺たちが悩んで買ったクマのマグカップが置いてある。
《
『しょうがないじゃない。私、プレゼントなんてもらったことないし、自分の誕生日なんて知らないもの』
》
不意に、夾竹桃の言っていたことを思いだした。…あいつ、自分は貰ったことないのにプレゼント渡そうとしてたんだよな…。
………。
「…あー、俺寄りたいところあるから先に行っててちょ」
「え?しゅーちゃんお買い物?理子も付き合おっか?」
理子が普段ならとても嬉しいことを言ってくれるが…
「んにゃ、たいした用事でもねーし大丈夫だ、んじゃまた後でな」
ちょっと恥ずかしいので却下だ。俺が今からしようとしていることを言ったら、きっとわけがわからんなんて言われてしまうだろう。
でも、やってやりたいからな。
俺は理子とジャンヌと別れショピングモール内を走った。
確かあの店は、こっちだったかな…?
ーーーーー
Sera side
「………。」
金髪と銀髪と男がショピングモールへと入っていく。私はなぜかその様子を近くのビルの屋上から見ていた。雨に濡れた帽子が少し重く感じる。そんな中で
あの男の言った言葉が頭の中で反復する。
『お前が戦闘のプロだからって傭兵しかできないわけじゃねえだろ。どんな環境に生まれたって、どんな才能持ってたって
別に好きなことを下手でもやっていいんだ。それが意外と楽かったりするんだから。ま、好きなこと見つけきれなかったら俺んとこ来いよ。一緒に探してやっからさ』
「…馬鹿馬鹿しい」
何度もそう吐き捨てる。そんな綺麗事を言える環境で私は生きていない。ただ人に命じられ、感情を殺して実行する。私はただの道具、何も考えず、ただ弓を引くだけのはず…。だったのに…
「…あ」
男がショピングモール内を走り出す姿をなぜか追ってしまう。もちろん好意ではないのは自分がよくわかっているが…興味があるといえばいいのか。あんなことを言った男の行動がとても気になった。どこか目的の場所へ向かうか自体は心から興味ないのだが…
確かめるだけ、そう自分に言い聞かし、後を追った。
すこし文が足りないなと感じる部分があるので付け加える部分があると思われますがお許しを。
次の話はまだ少し訂正したいので今週中に投稿します。よろしくです!
セーラさんそれストー…