サイカイのやりかた【38話完結】   作:あまやけ

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「21話のあらすじ」
修一のミスで大事な筆を壊されてしまう。夾竹桃は新しいのを購入後するため修一と共に商店街を訪れる。そこで児童保護施設に住む子ども達と出会う。最初は邪険に扱うものの、次第に心を開いていく夾竹桃。しかし、その児童保護施設にある組織が手を出そうとしていた…。


22 激動

『ねえしゅーちゃん』

 

『どーした?』

 

『最近さー夾竹桃おかしくない?会ったとき変にそわそわしててさー、同人誌の手伝いしてって前に言われてたから来たのに『今日はいいわ、どうせしないし』とか言うし。どうしたんだろーって、なんていうかね雰囲気変わったなーって』

 

『ああ、それか』

 

『え、なになに!?しゅーちゃん理由知ってるの?』

 

『まあな。でも秘密だ』

 

『ええー、なんでー?教えてよー』

 

『まあなんだ、あいつにだって人に言いたくないことの一つや二つあるんだよ』

 

『…なんでそれをしゅーちゃんが知ってるのさー?』

 

『たまたまの産物だから気にすんな。もうこの話はいいだろ?そっとしておいてやれよ』

 

『えー?理子的には夾竹桃の変化を全部調べ上げて、それについて 一つ一つ真っ赤な顔になる夾竹桃に質問攻めしてあげよっかなーなんて思ってたんだけど』

 

『それはかなり面白そうだ』

 

『あ、やっぱしゅーちゃんは分かってくれるよね!じゃ、教えてー!』

 

『…面白そうではあるが、やっぱやだ』

 

『教えてくれたら、理子今日の夜ごはん買ってきてあげるよ?しかも作ったげる!』

 

『……そ、そんなことで教える俺じゃないし、俺結構口堅いし?』

 

『手、出してるよ?』

 

『うおっ!?し、しまった!俺の本能が…!』

 

『ね、しゅーちゃん!』

 

『……。ハンバーグ、食べたい』

 

『うっうー!オーダー受け取りましたぁ!腕によりを込めて作るからねしゅーちゃん!』

 

『…ごめん、夾竹桃。金には逆らえなかったよ』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

小林にもう来ないと伝えた次の日の朝。いつもならまだ寝ているであろう時間なのに外に出ていた。

目的は一つ、かずきの誕生日プレゼントを買うこと。

 

「…あのー、俺眠いんだけど?」

 

「いいから早く歩いて、時間がないんだから」

 

隣にいるのは眠そうにしている岡崎。場所はこの前のショッピングモールだ。今日の午後に行く約束したのだから、早く決めないと。

休みの日だからか子供連れの親が多くいる中を遅く歩く岡崎の袖を引っ張りながら進んでいく。

そして、目的の場所にたどり着いた。

 

「で、どれがいいと思う?」

 

「知るかよ。子供心を俺に聞くんじゃねえ」

 

そこは男の子向けのおもちゃ売り場だった。ヒーローの人形やらプラモデルなどが展示されている。

 

「しょうがないじゃない。私、プレゼントなんてもらったことないし、自分の誕生日なんて知らないもの」

 

「…そなの?」

 

「そうよ。そんなことよりほら、男の子の好むおもちゃを見つけるわよ」

 

寝不足でダルそうな岡崎を連れておもちゃを漁る。

 

こいつ、眠い時も面倒くさい男ね。連れてきたのに使い物にならないじゃない。……しょうがない。自分で探してみましょう。

 

「あ、これなんてどうかしら?」

 

私は近くにあった『モンスターズ』という名前のカードパックを岡崎に見せる。確かかずきはこのカードを集めてたはず…

 

「あー?それあれじゃん、レアを絞りすぎて1パックじゃ全く当たらないやつ。やめとけやめとけ、開けてカスばっかだったらプレゼントになんねーだろ」

 

「そうなの?男子ってカードパック好きじゃないのかしら?」

 

「まあ好きなやつは好きだけど、俺そういう運で金使うのは苦手なんだよ。カードルールも知らねえし、それに使うほど金持ってないし…うん」

 

岡崎はカードゲームことを批判しながら私の手からパックを取ると元に戻した。…確かに良いものが当たらなかったら可哀想よね。プレゼントにもならないし。

 

「じゃあ、あなたは何が良いと思うの?」

 

「あー……これとかでいいんじゃね?」

 

岡崎はぼーっと辺りを見渡すと、おもちゃには手を出さず、レジ横の商品券を私に渡してきた。

 

……はぁ

 

「あなたね、もうちょっとマジメに考えなさいよ」

 

「いやガチでマジメだから。プレゼントってのはな、自分が好きなものを渡せばいいんだっての」

 

それで、これね…。なんか納得してしまった。

 

「でもダメよ。現実的すぎるわ」

 

「今の時代子供でもスマホ持ってんだし、現実的すぎるぐらいが丁度いいんだって。ってことでこれ買ったら半分俺に・・」

 

「あげないし、買わないわ」

 

 

眠くても相変わらずな岡崎。結局お金なのねと思いつつ、

 

探すこと30分。ようやく一ついいものが見つかった。

 

「そんでリラックマのマグカップかよ…」

 

私が選んだのは可愛い熊のイラストが書かれたマグカップだった。茶色いカップに書かれた顔がとてもいい。私も欲しい。でも、岡崎は微妙な顔をしていた。

 

「不満そうな顔ね。ダメなの?」

 

「いや、ダメってわけじゃねーけど。かずきってそんなの趣味なのか?」

 

「わからない。でも実用性があって可愛いなら買わない人はいないわ」

 

これならカップとして使えるし、飾りとしても役に立つ。これをプレゼントにして喜ばない人はいない。

 

「それさ男の子のおもちゃじゃないけどいいのか?」

 

「そう思ったけど私たちじゃ逆に変なものを渡してしまうでしょ?」

 

「…それもそうだな」

 

両者納得したことでプレゼントはマグカップに決まった。喜んでくれるといいけど。

 

私はレジに並ぶ。岡崎はどこかへ行ってしまったが私物を買いにでも行ったのか。結局、あまり使えなかったわね。岡崎にこういうのをお願いするのは間違ってたかも。

 

「おーい夾竹桃、これ挟んでみろよ。プレゼントっぽくなるから」

 

レジの店員がプレゼント用に包装している時、岡崎が小さな紙を持ってきた。それはプレゼントカードと呼ばれる可愛い飾りのついたカードで、真ん中に大きな空欄がありそこに好きな言葉を書くことができるようだ。

 

「へえ、いいじゃない。なんて書くの?」

 

「ここにはシンプルに書くのが一番なんだよ。例えばだな…」

 

岡崎はレジの近くに置かれたボールペンを取り、紙にスラスラと文字を書き始めた。そして、ドヤ顔でこちらに渡してきた。

 

そこには英語でかっこよく書かれている文字

 

『Happy V()irthday』

 

 

中学生から英語をやり直すことをオススメするわ…。B()erthdayよ、VじゃなくてB。

 

「私が書くから貸して」

 

 

「えー?これでいいじゃん。結構綺麗に書けたぞ?」

 

 

「そういう問題じゃないのよ」

 

それからプレゼントが決まった私は、付き合ってくれたお礼に岡崎のお昼ご飯を奢り、それからしばらくショッピングモールを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

6時30分。

 

空も暗くなってきた。そろそろ移動しようと岡崎に提案すると、岡崎はジャンヌに謝るための作戦立てを理子に強制参加でさせると言い帰って行った。

 

私としては一緒にお祝いを言いに言ってほしかったけど、彼にとっても大事なことなのだからしょうがない。

 

そう思い、児童保護施設へと向かう

 

 

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サアア…と風が吹いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜだろう、地獄の針の山を歩くように足が(すく)んだ。

 

今からかずきの誕生日パーティ、楽しみにして行けるはずなのに。どうしてこうも不安になる。

 

そして

 

 

「………鈴木桃子」

 

「あなた、誰?」

 

 

先ほどからつけて来ていた彼女は一体何者だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

Kobayashi side《児童保護施設の保護者》

 

18時30分 児童保護施設にて

 

「ねーねー!これなんてどうかな!?ももこお姉さん好きかな??」

 

「いや、ももこねぇは青より紫だって!ほら、こんな感じにさー」

 

「えー!?なんか暗くない??ももこお姉ちゃん優しいから黄色が似合うってー!」

 

 

私は今日のパーティーのご飯を作りながら、後ろの部屋から聞こえる楽しそうな声に耳を傾けていた。

かずきのパーティは19時から。

あまり贅沢はできないが、彼らが楽しんでくれればそれでいいと思う。

 

「なー、お父さん!ももこねぇいつくんのー!?」

 

「午後って言ってたからもうそろそろじゃないかな?部屋の飾りつけは終わった?」

 

「おー!輪っかムッチャぶら下げた!」

 

隣の部屋から走ってやってきた楽しそうにしているかずき。本当に楽しそうな彼を見て微笑ましく思う。

 

そのとき、チャイムが鳴った。

 

「あ!来た!」

 

「かずき、開けておいで」

 

タタタタッと駆けていくかずきを笑顔で見送り、料理の仕上げに取り掛かる。どうせなら鈴木さんも喜ぶような綺麗な感じで仕上げたい。鈴木さんがこちらへ来たらなるべく見せないようにしてリビングにお連れしよう。

 

自然と私もウキウキしていることに気づき、少し恥ずかしくなってしまった。30過ぎのおっさんがこんなにはしゃぐと大人気ないか。などと思うものの、鼻歌くらいは許して欲しい。

 

 

 

 

「お、お父さん…」

 

 

そんな私の元に

 

 

「おや、鈴木さん。早かったでーー」

 

 

「どうもどうも小林さんお久しぶりですね。あの時はどうも」

 

 

幸せを壊す、悪魔が訪れてしまった。

 

ゾロゾロと10人ほどの黒スーツにサングラスをかけた部下と思われる者を引き連れ土足で施設に入ってきたのは、昔の知り合いである青林だった。勿論友人という訳ではない。彼らは…

 

 

 

鏡高組というヤクザの集団だった。

 

 

 

 

今も影で非合法なことを行っていると噂されている。そんな彼らがどうしてここに来るのか全く分からない。

 

隣の部屋で聞こえていた楽しそうな声が聞こえない。彼らもいきなり大人がゾロゾロと現れたことでどうしたらいいのか分からなくなっているようだ。じっと静かに黙ってこちらを見ている。

 

 

ただ彼らの来た理由が私たちにとっていい話ではないことだけは確かだ。

 

泣きながら走り寄ってくるかずきを抱き抱える。

 

「ど、どうしてあなたたちが。用件はなんですか…!?」

 

「いえいえ、ちょっとしたご相談がありましてね。いやあ知り合いが近くにいるなんて思いもしませんでしたよ」

 

ニコニコと笑いながらまるで友人のように話しかけてくる青林だが、

彼の放つ言葉一つ一つが私の心臓を駆り立てる。ここで話していては子供たちにも何かをするかもしれない。

 

 

「ば、場所を移しましょう。ここでは子供たちに悪影響です…!」

 

「ええ、問題ありませんよ」

 

震える手でかずきをみんなのいる部屋に戻す。そこに泣いている子がいることに気づいた私は、彼らを強く抱きしめた。

 

「大丈夫、安心しなさい。君たちは私の命より大切なものだ。傷つけさせはしないさ。だから、安心しなさい」

 

「おとーさん、だいじょーぶ…?」

 

ちよが私の胸で泣きながらも私の心配をしてくれている。他のみんなだってそうだ。泣きじゃくりながらも口々にお父さんと言ってくれる。

 

こんな状況の中で、『お父さん』と呼んでくれることに嬉しく感じてしまう。そしてより一層彼らを護りたいと強く思う。

 

「大丈夫、ちよの結婚式を見るまではお父さんは死ねないからね。すぐに戻ってくるから、鈴木さんが来たらパーティを始めてね」

 

未だに泣き続ける彼らを置いて、私は施設を青林の部下に囲まれながら歩いた。

 

 

後ろから聞こえる声に思わず涙が溢れながらも、心の中で強く決意していた。

 

 

必ず、この子達は助ける。なにがあっても……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……町にある廃ビルにおいて昨夜12時頃、男性の死体が発見されました。警察によると身元は小林 正敏さん34歳。喉元に刃物のようなものを刺され殺害されているところを近くを通りかかった女子高生により発見されました。死亡推定時刻は午後7時ごろとされており、犯人の目星はついておらず現在も調査中です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

shuithi side

 

 

 

「…嘘、だろ……?」

 

 

 

それは夾竹桃とおもちゃを探しに行った翌日の朝。俺はそれをニュースで知った。

 

俺は思わず朝飯のパンを落としてしまう。ニュースから流れている名前は確かにあの夾竹桃が通っていた児童保護施設で間違いない。

 

…これは本当の話なのか?あの時一緒にようかん食べて、一緒に子供と泥団子を作ったあの小林さんのこと…なのか?

 

「そ…そうだ夾竹桃!…あいつなら何か知って…って携帯どこだ?」

 

 

朝から携帯を触ってないことを思い出し、ベッドに向かう。そして携帯を開くと着信が20件入っていることに気づいた。尋常じゃない件数に驚きながらも俺は急いで電話をかけた。

 

着信履歴には『峰 理子』と書かれていた。

 

 

『早く電話に出ろバカ!』

 

理子はワンコールで出て、昨日のテンションとは真逆の焦った様子だった。

 

「わ、悪い…。それよりもしかして昨日のニュースのことか?」

 

 

『それもだけど、早く病院に来い!夾竹桃が…!!』

 

夾竹桃は…昨日パーティで、あの児童保護施設に…!

 

「まさか夾竹桃になんかあったのか!」

 

『昨日意識を失って倒れているところを見つかったんだ。今も…』

 

 

「すぐに行く!」

 

 

 

空は曇天の上に大粒の雨が降っていた……。

 

それはまるで、俺の心情を表すかのように、大きく音を立てながら……。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

Riko side

 

 

「…夾竹桃」

 

 

修一は電話を終えて30分もしない内に病室へと駆け込んできた。

 

雨で濡れている中を傘も差さずに走って来たのだろう。

 

全身が濡れてしまっている。

 

 

「修一…」

 

「……。」

 

 

病室には私と司法取引で昨日出てきたジャンヌがいる。

 

ジャンヌの考えは分からないが友人がこんな目にあってる中で修一に何も言う気はないようで、ただ夾竹桃を見ていた。

 

中央のベッドに夾竹桃が眠っている。容体は安静だがが、所々に傷が見られる。おそらく誰かと交戦したのだろう。

 

 

「……………。小林さんの事件と関係あるよな、理子」

 

 

「うん。夾竹桃が襲われた時間と小林が殺された事件はほぼ同じだし、間違いないと思う」

 

 

「んで、犯人は誰だ?」

 

修一は理子の方を向いて、そう言った。警察が未だ調べている事件なのに、修一は確信をもって聞いてくる。

 

ただ、私はそれに答えることが出来る。

今朝方全ての手を使って、ある程度までは調べ上げることに成功している。

 

「小林の過去を調べたら一発でわかったよ。鏡高組の連中だ」

 

「…この辺りを仕切っているヤクザだな。私も何度か聞いたことがある」

 

ある程度の情報を修一が来る前に教えておいたジャンヌが口を開く。

 

「鏡高組?」

 

「鏡高菊代って言う若い頭が仕切っているヤクザの集団だよ。今は菊代推進派と反発派で色々としているみたいで、結構ドンパチやってるみたいだよ。今回の事件はその反発派側の仕業だろうね」

 

 

「どうしてその反発派が小林という男を狙う?」

 

「簡単だよ。小林が昔借金を背負っていて、その借金を取り立てしていたのが鏡高組だったって話。ま、それだけならいくらでもいるんだけど、小林には児童保護施設があった。あんな大きくて外見的になにしても安全な場所に小林がいれば、奪おうと思わないほうがおかしい。…警察も権利書を見つけることは出来なかったんだってさ。だから多分もう権利書は鏡高組のとこに…」

 

そして、小林は断った。あの子達の家を、護るために。…そして

 

殺されてしまった。

 

ギュッと唇を噛む。くそっ!と吐き捨てたい気持ちが私の中に湧き出る。

 

「………。」

 

岡崎は濡れた髪を拭くこともなく、ただただ夾竹桃を見ていた。

 

病室内に雨音だけが響く。

 

私はその空間の中で冷静に考えた。

 

武偵として心情を抜きに考えるならば、ここはこのまま手を引くのが一番だ。相手は数人グループの反乱でも突発的に暴れだした人などでもない。

 

闇組織だ。修一1人が復讐しに乗り込んでもただ無駄に命を危険に晒すだけ。

 

それに修一は前に自分の行動で他人に与える影響を強く実感している。

まだその絶望が自分の行動にストップをかけていてもおかしくはない。

 

…それに、私個人としても、もうこれ以上

 

 

修一に危険なことをして欲しくないから。

 

 

 

だからーー

 

 

 

 

 

「ももこおねぇちゃあああん!!」

 

その時、ドアが強く開けられ子供達が入ってきた。先頭に立っていた小さな女の子が眠っている夾竹桃を見てベッドへと駆け出す。

 

この子達はきっと

 

小林の子供達だろう。

 

 

 

「おねぇちゃあああん!!うああああああん!!」

 

ベッドにしがみつき、何度も夾竹桃を呼ぶ女の子はついに大声で泣き始めてしまった。

 

大切な親を亡くし、短い間でも親しくしてくれた夾竹桃がこのような状態になってしまっては、しょうがないだろう……。

 

 

ズキリと胸が痛む。この子達は、今の私たち以上に、苦しいんだ。

 

 

「……にいちゃん、にいちゃんはさ、武偵、なんでしょ?」

 

「ああ」

 

修一の元へ1人の子が泣きじゃくりながらやって来る。そして、修一の足にしがみついた。

 

 

「にいちゃん、お父さんのカタキ、とってよ!!お父さんは悪いことなんて何もしてないんだよ!?殺される理由なんてなかったのに!俺たちの家を、取り返してよぉ!!」

 

 

男の子の泣き声に呼応するように他の子達もわんわんと泣き出してしまう。私は目を伏せてしまう。彼らのことを見ることができない。

 

 

そしてその後ろにいた最年長っぽい女の子が少し大きめのバックの中身を近くの机の上に出し始め、私たちは3人の前に持ってくる。

 

「み、みんなで宝物を集めてきました。あまり高いものとか、使えるものとか持ってなくて…これくらいしか集めきれませんでしたけど、武偵って、報酬があれば、依頼を引き受けてくれるんですよね!!

これでどうか、どうかお願いします!お父さんの仇をどうか、どうか……!!」

 

机の上にあるのはおもちゃや折り紙など千円ほどの物ばかりだった。ガラクタと呼べるほどにまで壊れていたり、古くなっているものばかりだった。

 

深々と頭を下げながら、何度も繰り返し言う女の子。

 

……でも

 

 

「……お前達無茶を言うな。相手はあの鏡高組、ヤクザだぞ。もし喧嘩を売ったことが組長にバレれば、武偵と言えども、もう平和な世界を自由に歩くことは許されないんだ」

 

 

ジャンヌが冷たく言い放つ。…いや、冷静に判断したんだ。

心情で動いた武偵は死ぬ。そう習っている。状況を冷静に判断し、的確な行動をすることこそ、武偵としてのあり方であると。もちろんジャンヌはそれを知らないだろう。だが、今彼らに言えることはこれがベストだ。変に期待を持たせるような言葉もダメ、励ますことなんて最もダメだ。

それにこの子達の依頼を軽く受けて仮に失敗したら、私たちを雇ったこの子達にも被害が及ぶ。

 

だから、ジャンヌの返しが一番いいやりかただ。

 

そう、私()、思った。

 

 

 

 

 

 

「……。………おお?」

 

「しゅーちゃん?」

 

修一は何かに気づいたように机の上にあるおもちゃの方へと移動する。

 

 

そして、中から一枚のカードを取り出した。

 

 

「かずきだっけか?・・これってもしかして『モンスターズ』のウルトラレアカードじゃね?」

 

 

「え?うん、そーだよ?…おにいちゃん知ってるの?」

 

それは、今流行りのカードゲームのカードだった。修一ってあのカードゲーム興味あったっけ?

 

 

「おお、お前すげーな、俺も集めてんだコレ。貰ってもいいか?」

 

「え?う、うん…」

 

修一は笑顔でそれをポケットに入れると、こちらを向いた。

 

「理子。鏡高組の屋敷、分かるか?」

 

 

これは………

 

 

「おい岡崎、まさかその紙切れ一つで鏡高組に喧嘩売るつもりか!?冗談はよせ、本当に消されるぞ!」

 

ジャンヌも気づいたようだ。

 

修一は

 

あのカード一つで依頼を受けるつもりらしい。

 

 

「ば、ばっか違げーって。別にこのカード欲しくてやるんじゃねえ。後で夾竹桃に金要求してやんだっての」

 

慌てて訂正を入れる修一。でも、否定はしていない。本気でケンカを売るつもりのようだ。

 

 

 

 

……あーあ。

 

止めるべきだよね。前みたいに辛くなるの嫌だし。後で泣きつかれても困るし。

 

でも、なんとなくだけど修一はこうするんじゃないかってちょっと思ってたんだよね。

 

子供達が仮にここに来なかったとしても……彼らのために動くだろうなって、思ってたんだよね。

 

だからいまさらそれが分かってもなんとも思わない。

 

もちろん危険だから止めて欲しいけど

 

夾竹桃を助けて欲しいとも思うし、それに

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……くふ♬

 

「あ、このお手玉可愛い〜!理子これにきーめた!」

 

無利益な依頼、それに比べて残念すぎる報酬。

なのに好きな彼の力になれるならと喜んで引き受けてしまう私も、バカの1人になってしまったんだろうし、理子らしくないなあと思う。

 

でもでも、やっぱり嬉しいものは嬉しいから。

 

「理子まで…!?本当にバカか!お前達はヤクザに手を出すことへの危険を理解していない!」

 

「理解はしてるが、後のことをどうこう考える気はない」

 

「しゅーちゃんはあの武偵殺しにさえ後先考えず正面から来たもんね!この、怖いもの知らずぅ!」

 

「金欲しかったし。かなり怖かったけど」

 

「……お前たちは本当に……」

 

私と修一の返しに呆れるジャンヌ。確かに私たちのやろうとしていることは馬鹿のすること。武偵としては0点だろう。サイカイと呼ばれてしまうだろう。

 

 

でも、私はそういう彼が好きだと思う。心の底から、そう思う。

 

「……わかった」

 

ジャンヌはこめかみを押さえながら首を振ると、

 

 

クレヨンと厚紙を手に取った。

 

 

「お前たちだけでは心配だ。私も付き合おう」

 

「うわーい!ジャンヌ大好きー!」

 

ジャンヌに飛び込む。ジャンヌが戦力に加わればかなり有利になる。

 

「それと岡崎」

 

「なんだ?」

 

「今回の作戦では、私たちの関係を一旦破棄しよう。お前もお前なりに色々と思うところがあるだろうが、これが終わればちゃんと話を聞いてやる。だから、今は武偵仲間として私を扱ってくれ」

 

ふふっと笑いながらジャンヌからそう切り出した。

相手から言われると思ってなかったであろう修一も驚いている。そして、笑った。

 

「おう、お前にはちゃんと伝えたいことがある。よろしくな、ジャンヌ」

 

「ああ!」

 

そして私たちは初めてチームを組むことになった。相手は強大すぎる組織。さて、どうやって戦う?

 

「それでどうするんだ?流石に正面から乗り込むのは戦力差がモロに出てしまうぞ」

 

「だよねー。流石に理子たちでも大人数には勝てないって」

 

問題はそこだった。鏡高組にケンカを売るにしても、全体に売る必要はない。反発派の奴らにだけ打撃を与えれればそれでいい。だがそれでも結局、敵の数は圧倒的に多い。

 

どうやって戦う?

 

「理子、敵のデータを全て教えろ。敵のリーダーと夾竹桃を倒した強敵の情報は多めに頼む。あとは…まあ任せろ。なんとかしてみせる」

 

修一は自信満々にニヤリと笑っている。

おお、こういう時の修一って結構使えるんだよね。修一は時々本気で頭がいいんじゃないかと思う時があるし。

 

 

そうして、私たちはとある場所へと向かう。

 

私たちの大切な友人とその友人の守りたかった物を壊したバカヤクザ達の元へと…。

 


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