ランク考査が始まり、修一は修一なりに試験を終わらせていく中、とある騒動に巻き込まれてしまう。修一は自分の醜態を晒すことでなんとかその場を収めることに成功した。護られる形になった島麒麟の中に複雑な感情が生まれ始めたのだった…。
16時35分 食堂にて
『・・・。』
『麒麟、食べないのか?』
『・・ライカお姉様、一つお聞きしたいのですが』
『なんだよ?』
『あのお方は・・才能の無いEランクで、頭が悪くて、弾を的に1発も当てられなくて、私達の敵で、ライカお姉様を殴るようなクズ・・ですわよ、ね?』
『みんなから聞いた話ならな。今はそれに、ぬいぐるみ趣味で年下に趣味を押し付ける変態ってのも付け加わってる』
『・・・。じ、実際その通りでしたの!理子お姉様も金にセコくてめんどくさい男だって言っておられましたし!男性は嫌いでしたけど、あの方は一番嫌ーー』
『本当にそう思っているのか?』
『・・・っ。で、でも!あれは理子お姉様やライカお姉様の前でかっこつけたかったからーー』
『麒麟、これ以上自分に嘘をつくな。あたしが負けたことなんて気にしなくていいから自分の気持ちに素直になりな』
『・・・うう、なんなんですのあの男は!クズならクズらしく、あの時無視すればよかったんですの!!弱いのですから端っこでジッとしてればよかったのに!』
『だけど行動した。自分が更に辛くなるのに、飛び込もうとしたあたしを止めてだ。・・そこまで麒麟がわかっているんなら、後は麒麟自身で考えて行動してみろ。なんならあたしも手伝うからさ』
『・・そう、ですわね。そう・・ですわよね』
『あ、ちなみにあたし、別に岡崎先輩恋愛感情で見てないからな。若干そんな感じで見てるのわかってたぞ』
『え?そーなんですの!?麒麟はてっきり・・・』
『バッカ、あの理子先輩見ただろ?あれ相手に勝てる気しないって』
『あ、やっぱりライカお姉様もお気づきになりました?理子お姉様のあの目、完全に恋する乙女ですわよね・・!!あの男の前ではあざとい仕草が少ないですし、時折見せるのもパワーアップしてるように見えましたの!!・・くそ、やはりあの男だけは許せませんの!!』
『あれ?お、おい麒麟?』
『くああ!思い出したらイライラしてきたんですの!!あの男っ!次あったらキツく言ってやりますの!!』
『あ、あはは・・先輩、ごめんなさい』
『さて、この話はここまでにいたしましょ!あら、お姉様お飲み物が切れているご様子!麒麟ひとっ走り行ってきますの!コーラでよろしかったですよね?』
『え?それならあたしも一緒に・・』
『別にこれぐらい1人で平気ですのよ。行ってまいりますわ!』
『あ、そう。・・ってそのぬいぐるみ持っていくのか?あたしいるから置いてていいぞ?』
『こ、これは!その、あの・・えっと、ジョナサンも一緒に行きたいと言ってるんですの!しょうがない子、ですの!!』
『・・そうか。よし、コーラ頼むな麒麟』
『はいですの!!』
(・・麒麟、岡崎先輩探しに行ったな。わざわざ外に買いに行くなんて。・・あれ?でも確かこの時間、先輩は・・)
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14時20分 射撃検査
289番 岡崎修一 0点 Eランク
「・・やっぱり?」
「まったくお前は、リボルバー、オートマ、マシンガン、ダメ元でスナイパーまでも渡したのにどうして1発も当てきれない・・」
「あ、ある意味才能っすよね〜逆のSランク!・・みたいな」
「ふざけるな!」
「痛っ!」
試験官蘭豹の拳が頭を揺さぶった。い、痛い・・このやろ、教育委員会に訴えてやるっ!
などと考えつつ持っていた銃を置いた。結果は変わらずの0。的の書かれた紙にすら当たらなかった。今回はいけると思ったんだけどな・・・。
試験始めに小型銃で撃つも0点、流石にこれでは試験にならないと近くにあったマシンガンを貸してもらい再度試験するも、0点。なんで当てきれんのや!とスナイパーライフルで殴られ、そのスナイパーで試してみるも0点で試験は終わった。
・・ほんと、ある意味才能あるよね、俺。
結局0点で付けられた成績表をもらい、射撃場から出る。
周りは相変わらず俺のことで持ちきりのようだ。こちらを見てくすくすと笑う声が聞こえる。今更気にすることもないが、いい加減俺の話題も尽きないものか。・・あ、今日増やしたんだった。
「元気なさそうね、最下位の変態さん?」
「・・・お前、授業はどしたの?」
俺は射撃場から出るとすぐに、声をかけられた。そこには悪友の夾竹桃が近くのベンチに座っている。
「気にしなくていいわ。高校の出題範囲なんて復習するほどじゃないもの」
「おーおー天才は授業すらでなくていいのか、羨ましいねーこのやろ」
「・・もしかして、また言われてるの?」
こいつは変態だとか言いながら、俺の言葉の当たりが強いことにすぐに感づいて心配してくれてる。いいお嫁さんになりそうだよなあ。
実際俺のテストを見に来てくれたんだろうし、そのためにこうやってわざわざ授業抜け出して来てくれてるわけだし。
ああ!夾竹桃最高ですわ!
それに、周りの話に流されず俺のことを理解してくれているし。
そう、俺は夾竹桃があいつらと違うことを知っている。だからこそ、本音を言うことができるんだ。
「・・聞いてくれるか?」
「理子の愚痴はもう嫌よ。岡崎の話なら聞いてあげるわ」
「えー、ちょっとだけ、理子の話も聞いてくれよ〜ケチ」
「あなたにだけは言われたくない言葉よね、それ。・・それで、どうしたの?」
なんだかんだ言いながら、結局全部聞いてくれる辺り、やっぱ夾竹桃だよな。
「実はよ〜、今日朝理子が来やがってさ〜!俺のニノキンを邪魔するわけよ!」
「・・・そっちからなの?」
ーーーーーーーーーー
「ーーなるほど。それで、岡崎は一番マシな行動をしたってことね」
「ああ、あそこで火野ライカが暴れるより、あいつらの怒りを俺に向けた方が後が楽だって。・・なあ、俺間違ったか?」
話し始めて20分。長い話をずっと聞いてくれた夾竹桃は、ゆっくりと煙管を戻す。話の内容を頭の中でまとめてくれているんだろう。
「・・私なら、島麒麟と火野ライカを連れて食堂から離れるわね。そっちの方が後々楽よ?それは岡崎も気づいていたんじゃない?」
「・・まあ、それはそうなんだけど」
「じゃあどうしてそうしなかったの?」
やはり夾竹桃は頭が良い、改めてそう思った。確かにあの場面でわざわざあの不良達に犯人を提示してやる必要はない。夾竹桃の言うように逃げてしまえば良かったのだ。
だけど
「あのぬいぐるみ、大事にしてたみたいだからさ。ほっとけなかったんだ」
夾竹桃の手伝いをした時も傍にそのぬいぐるみが置いてあるのを見たし、理子達と祭りに行った時も持っていた。あんなに重いのに持ってたってことはよっぽど大事なものなのだろう。
だがこれはーー
「それが岡崎の甘いところよね」
「・・・」
そう、甘えだ。そんなことで自分を犠牲にしてるなんてただの馬鹿だろう。それは俺も考えていた。考えてはいるが口には出せない。人にもあまり話すことじゃない。
だけど夾竹桃は聞いてくれる。
夾竹桃は俺の奥へと踏み込んでくる。
踏み込んできてくれる。
「一番いい方法なんていいながら他人の感情を優先するなんて、それ本当に一番いい方法??島麒麟は友人と呼べるほどの仲でもないし嫌われてたのでしょ?なら無視してしまう方があなたにとっての一番いい方法って言えるんじゃないかしら?」
その言葉に、俺は反論することができなかった。
夾竹桃は、俺自身が内心で密かに思ってしまっていたことを言葉に出してくれている。まるで思っていたことを反復するように、真実を伝えてくれる。俺もそう感じた。そう思った。
でも
「でもやっぱり俺は、そっちの方がいい。なんでなのかとかよく分かんないけど・・俺は、今回選んだ選択は間違っていないって思う」
それが本心だ。周りは間違ってると言うかもしれないが、俺は自分のしたことが間違ってるとは思わない。
そう返すと、夾竹桃は微笑んだ。
「そう。なら私もそれでいいと思うわよ」
「そう?」
「あなたが本当にしたいって思ったのならそれが正解。しなかったら後で後悔するのだから、マイナスに働いたとしてもそれでいいのよ」
「・・だよな!」
そして、夾竹桃は、自分の意見を真っ直ぐ伝えてくれる。
だからこそ俺は、夾竹桃に相談するんだ。変に気を使わない、言葉を濁さない夾竹桃だからこそできることだと、俺は思う。
そして最後は俺の味方もしてくれるんだ。
それが凄く嬉しくて、心地よくて、俺は何度も夾竹桃の元へ行ってしまう。
「それで?私は岡崎の『
感情。俺の、気持ち。
「・・やっぱすっげー辛かった。本当のことじゃないのに馬鹿にされて笑われて。俺は何も悪いことしてないはずなのに、胸が痛くなったんだ」
もちろん先ほどの間違っていないという気持ちも嘘じゃない。やって良かったと思ってはいるんだ。だが、だからと言って『言われ続けることも全く平気』なんてことはない。
「実技試験だって、射撃だって。別に好きで負けたわけじゃないし的を撃たなかったわけじゃない。俺は俺なりに努力してこれたと思ってる。体も鍛えたし、銃に慣れようと思って何度も試した。なのにどうしてくすくす笑われるんだろ、貶されるんだろうな」
「そうね、どうしてかしら?」
「・・いや、わかってる。人を貶す、いじめることに、理由なんてないんだ。あいつらも分かってないんだよ。それをすることで何が楽しいのか、どうしてしてしまうのか。なんも分かってないんだ」
そう、俺は分かっていた。あいつらに悪意もなにもないってこと、本気で俺のことを嫌ってるやつなんて一握りだってことに。あとはノリと周囲に合わせてる奴らが大概なんだ。話を合わせて気持ち悪いとか嫌いだとか言うだけ。だからこそ、こちらのことなんて考えないし、キレてもしょうがない。
「・・そこまで分かってるんなら、私から言えるのは一つだけ。
『周りを気にするなんて時間の無駄よ。そんな時間があるなら自分の好きなことに真剣に取り組みなさい』。いい?」
もしかしたら夾竹桃は、最初から俺の考えてることを全て分かっていたのかもしれない。この言葉を言いにわざわざ来てくれた・・のかもしれない。考えすぎかもしれないが
そう思うと無性に嬉しくなった。
「・・ああ、そうだな!そうする!」
こいつ、本当いい奴だ。奥さんにする人は本気で羨ましい。変わってくれ頼むから。
ーーーー
「ところで、ぬいぐるみだけで動いたわけじゃないでしょ?それだけで岡崎が動くとは思えないわ」
「ま、そりゃ、俺も男だしな、知り合いの女が見てたらカッコつけたくはなるさ」
カッコつけたかったというのも一つある。ダメな姿を見せてしまった理子や火野に少しでも見直して欲しくて頑張った。まあそれで何か変わるとも思わないが、そこは男子らしさと言えるだろう。
俺、カッコいい。自分でそう思いたかったんだ。
みんなそだろ?あり?俺だけ?
「それでしたのが土下座ね・・」
「それな」
言わないでほしい。俺もそこは考えたんだから!
あれ、やっぱあそこは間違ったかもな・・あぐらかいて謝るみたいな土下座もどきの方が女子受けよかったかな。
出来ればカッコいいって思われたいし。ああでも確かに考えてみると不良の言いなりになって土下座って普通に引かれるな・・。もしかしたら理子とか火野とか気持ち悪いって思ってた・・かも。・・ええ、それやだなあ。
そう思ってどんより落ち込む。・・あいつらに引かれるって辛っ。特に理子。ってことは夾竹桃もカッコ悪いって思ったかなあ。うわあそれキツイいい。
「でも、岡崎カッコよかった思うわよ?
ベンチから離れ、こちらを振り向きながら、そう言ってくれた。
俺は嬉しくなって思わず立ち上がる。
「ま、マジ!?惚れた!?」
「ええ。惚れた惚れた」
「やったい!!んじゃあなんも問題なしだ!!」
「あら?私が褒めるだけでいいの?」
「何言ってんだ。男ってのはな、タイプの女に褒められたらそれだけで嫌なことは忘れちまう生き物なんだよ!」
「・・・っ」
空を見てよっしゃー!!と拳を突き上げる。もうね、あれだね。夾竹桃みたいなザ、タイプドストライク美少女にカッコよかったなんて言われたらもう、どーでもいいよね笑われるとかなんとか。だって夾竹桃にカッコよかったって言われるためなんだよ!?やるに決まってるだろ!!
夾竹桃は俺の態度に思わず目をぱちくりさせ、左の髪を弄る。
「あれって、冗談じゃなかったのね・・。あなた、本気で私が好みのタイプなの?」
「あ?前々から言ってたじゃねーか。俺はお前がタイプドストライク。無茶苦茶好みだって」
「・・・そう。・・見る目、ないわね」
夾竹桃は顔を逸らしている。頬が少し紅いように見えるが・・もしかして、こういうこと言われ慣れてないのか?
・・・くふ♬
俺は初めて見る夾竹桃の姿に思わずニヤニヤしてしまう。そして、虐めたいと、素直に思ってしまった。もちろん、理由なんてないよ?
「なあなあ聞いてよ夾竹桃ちゃん!夾竹桃はね〜、顔は良いわ、性格は良いわ、頭は良いわ、顔は良いわ、話すと楽しいは、愚痴も聞いてくれるは、顔は可愛いわ!俺の中で彼女にしたら嬉しくなる人NO1なんですのよ??それにーーー」
「ありがと、でもそれ以上言うと毒、盛るわよ?」
「本当にすみませんでした」
調子に乗りすぎたらしい。夾竹桃はいままで見たことのないドス黒い笑顔で右手の手袋を外していた。外す仕草を見せたわけではない。もう外しているんだ。・・これは、本気だっ・・!
俺は笑顔の夾竹桃をどうどうと落ち着かせ手袋をまたはめてくれるまで20分かかった。・・この笑顔トラウマになりそう。怖くて夜出てくるかも・・な。
ーーーーーーーーーーーーーーー
15時20分 CQC(ナイフ術)審査
289番 岡崎 修一 48点 Dランク
俺はナイフを試験管に返し、成績表をもらう。
あちゃーあと2点でCだったのになと残念に思いつつ、まあいいやと気楽に考えた。
『でも、岡崎カッコよかったと思うわよ?』
「・・ぬふふ」
もうね、あれだよ。このセリフはヤバイ。夾竹桃やばい、まじで女神だわ。可愛いすぎる。これだけで飯が足りますなあ!
思い出しニヤニヤしてしまう。ああ今日はいい日だな!
などと思っていると、携帯が震えた。確認する前に通話ボタンを押した。
俺にかけてくるやつなんて3人くらいだ。内1人は別の学校、1人はさっき会ったばっか、答えなんて決まってる。
『やっほー!』
「おーそっちは大丈夫か?」
『まあなんとかね。りんりんもライちゃんも何か考え込んでるみたいだったけど、今はご飯食べに行ったよ』
無駄にテンションの高い声。理子だ。
「お前は行かないのか?」
『理子はしゅーちゃんとお話があるからって抜けてきたの』
「・・怖ええ」
俺何言われんだ?俺なんか理子怒らせるようなこと、したっけ?
「わ、わかった。さっきの食堂でいいか?」
『んー、あそこうるさいから理子嫌い。適当にパン買ってさ、空いてる教室で食べようよ』
うるさいのが嫌い?あの金髪ギャルのセリフとは思えないな。
「わかった。じゃあ購買に集合・・・」
『ランク考査受験生の方にお知らせいたします。模擬戦検査のチームが発表されましたのでご確認ください。その後指定された教室に集合してください。繰り返しますーー』
理子との待ち合わせ場所を確定しようとした時、校内アナウンスが流れる。あらら・・
「すまん理子。模擬戦の作戦会議があるみたいだ。無理そう」
『えー!?理子もう購買にいるんだよ!?』
「んなこと言われてもな。終わったらまたLINEするからよ」
『パフェ奢ってよね!』
「断固として奢らん」
これ以上余計なことを言われないようにそれだけ言って切った。パフェなんて買えるかっ。1日の食費の半分だぞ半分。
さて、行くかね。
チーム戦か、やだなあ
ーーーーーーーーーーーーーーー
「うえっ、最後の1人岡崎かよ。うっわー」
「・・っ。・・・。」
「・・・ちっ」
「まあその、よろしくな」
俺がBチームと書かれた教室の中に入ると、すでにメンバーは全員揃っていたようだ。俺が入ってきてかなり落胆している。しょうがないか。
俺の方を睨む2人の男子とおどおどしている女子にあいさつしつつ、空いている席に座る。
「じゃ、まず自己紹介からしますかね!ね!九済さんから!!」
「・・・わかった」
丸坊主の男が隣の男子に声をかける。赤髪で大柄な男子は立ち上がり黒板の前に立った。なぜか俺の方を睨んでいる。・・。
「強襲科Cランクの
「・・ほいほい」
九済は俺の方をじっと見ながらそんなことをいう。丸坊主が笑をこらえているのを横目に見つつ、返答する。まあそうだよな。足手まといにならないようにがんばろ。ついでにお前は俺の中でクズと呼ばせてもらう。いいよな?
「
次に丸坊主の自己紹介。あ、実技試験の対戦相手だったのか。全然気づかなかった。モブね。
モブはなぜか紅一点の女子生徒の方に顔を向けて俺強いですよアピールをしているが、女子の方は恥ずかしそうに下を向いてばっかでそもそも聞いてるのかどうかすら怪しい。どんまいモブ。まだ頑張れるぞ。
そんな彼女が次の自己紹介する番だ。
「え、ええええと、な、中空知、み、美咲ですっ、、!つつつ通信科の、Bランク、です、よろしくお願いしゅます!」
オドオドとしながらかなりの早口で自己紹介をした中空知さん。俺たちがなにか反応する前に席へと戻っていた。・・えっと、これで通信科Bなの?聞き取りやすいのか??
「おい、早く前に出ろザコ」
「あ、おお悪い」
思わず中空知のほうをずっと見てしまって自分の番を忘れていた。・・クズさんほんとごめんね。
「えっと、岡崎修一強襲科のEランク。んー、足引っ張らないように頑張ります。よろしく」
ぺこりと頭を下げ、自分の席についた。拍手一つもない。まあ分かってはいたが。
「じゃー!ランクの一番高い美咲さんがリーダーってことで!」
「ええっ!?む、むむむ無理です無理です!!私にリーダーなんて!!」
モブの言葉にオーバーリアクションで返す中空知。まあそりゃそうだよな。中空知自分をアピールするような奴じゃないだろうし。
「えー!そんなこと言わずにさ、美咲さんなら絶対出来るって!!」
・・いるよな、こういう「俺は分かってるぜアピール」とでもいうのか、無駄に相手を褒めるようなこと言いながら相手の嫌がることをするやつ。基本それってやられた側はかなりウザいんだよね。
「・・やる気のない奴に任せても負けるだけだ。俺がやる」
モブが必死に説得する中、九済が立ち上がった。ま、俺も妥当だと思うな。
中空知が「どうぞどうぞ!!」と譲ったことでリーダーは九済で決定した。前に立ち、俺たちメンバーの顔を確認する。
「これから作戦会議を始める。相手の情報と場所の構造を元にお前らの配置と役割を割り振る」
さて、そろそろ模擬戦の概要を説明しよう。
模擬戦検査とは、一年でやる『
人数は四対四、チームのリーダーの指揮判断能力や、個人の能力、さらにはチームワークが問われる試験だ。
・・・あり?全部俺不向きじゃない??
「今回は実技試験会場01。三回建ての廃屋ステージだ。Aチームは屋上、俺たちは一階の部屋に本拠地を置きスタートする。相手は強襲科2、探偵科1、諜報科1、目立った名前はいない」
「うっへー、諜報科かよ〜!あいつら変な罠仕掛けてくるから嫌なんだけどー!!」
「文句を言うな門武。ランダムで組まれるんだからしょうがない。だからこそ俺たちはピンチなんだ」
「強襲科3に通信科1だもんな」
九済の意見には同意だ。俺たちのバランスは正直微妙と言える。簡単に言うならフォアード3人とサポート1人って感じだし、距離を詰めないとマズイ。
「強襲科でも1人はザコだからな。人数に入れるかどうかはわからないが」
「・・そりゃすんませんね」
クズめ。・・完全に俺を戦力外にしてんな。ま、それで当たりなんだけどさ。ここまであからさまだとちょっとうぜえ。・・まあでもリーダーだし、一応発言を控えますかね。
「それを元に作戦を考える。時間が無いからとっとと決めるぞ。まずーー、」
ーーーーーーーーーーーーーーー
16時20分 模擬開始
廃屋ステージは文字通り廃屋だった。
場所は先ほど実技試験を受けた第一体育館の隣。だからなのか、外装は廃屋のような面影はなく体育館のような綺麗な感じなのだが、中は全く違う。アスファルトのネズミ色した壁。室内には横倒しになっているロッカーや割れたガラスなどが散らばっている。
どうやら学校を意識しているようで、机や下駄箱なども確認できた。まるでヤンキー映画で見る学校のようだと思った。
俺たちの本拠地は下駄箱すぐ横の部屋だ。中にはある程度の通信機器と罠を作るための材料、非殺傷のゴム弾などが用意されていた。
俺はある程度の材料を持ち、本拠地から少し離れた場所の物陰に隠れていた。もうすでに試験は始まっている。
『いいか?二階に入ったらそれぞれの場所で行動しろ。本拠地には絶対に行かせるな!』
ただこの廃屋。試験のために作られた為、一階と二階の構造がかなり違う。一階はまるで学校のような、教室が多くある構造だが、二階は『山』という字のように三つの道に分かれている。今回の作戦は俺たちはそこを一人一人が守って戦うということになっている。
『敵はまだ3階で作業をしているようです。今のうちに二階まで侵入してください』
『『『了解!』』』
九済が先頭で走り出す。階段をそっと登り、二階の状況を見渡した。
中空知は直前までオドオドとしていたのだが、通信になってからぐるっと態度が急変。とても聞き取りやすい、まるでアナウンサーのような話し方に変わった。・・変な奴だな。
そんなことを考えながら二階を確認する。
・・・っ。それぞれの道への幅が思った以上に大きい。これじゃ1人でもやられたらフォローなんてできないぞ・・!そうなれば中空知しかいない本拠地への通路がフリーになっちまう・・!しかもその負け1人って確実に俺や・・!!
仮に俺じゃなかったとしても、これなら逆に軽い爆発トラップと足止めトラップをを全てのの通路に仕掛けて引っかかってる間に1人に3人で挑んだほうがいいんじゃ・・
「おいザコ何突っ立ってんだよ!!早く持ち場につけ!!」
考え事していた俺に飛んでくる罵声。そうだ、今はこいつがリーダー。意見を言うもんじゃ無いか。
「へーへ、仰せの通りに〜」
俺は自分の担当する『山』の左部分へと周り物陰に隠れた。
廃屋のように見せるためか、隠れた場所の外壁に穴が開いており、その部分から外を見ることができる。外観を守るために正方形に開けられているが、ただ開いているだけのようで窓はない・・と思う。落ちたら死にそうだが、見なければ問題はない。放課後のオレンジの光が俺の手元を明るくしてくれているからここは丁度いいんだ。
どうやらまだ敵は来ていないようなので、懐から持ってきていた材料を取り出す。これである程度の罠を作って足止めする予定だ。まずは針金で輪っかを二つ作って・・
作業を始めようとした時、オレンジの光が更に強くなった。どうやら雲に隠れていた部分が現れたらしい。
「うお、まっぶし」
どこかで聞いたことのあったセリフを言いながら外を見る。二階から見る夕焼けはなかなか綺麗だった。
「・・あ?」
のだが
その見える風景の中に『意味のわからない現象』が写って見えた。
その現象は、必ずと言っていいほどに起きることはない現象で、どうしてそうなっているのか訳がわからない現象。
俺は作業をすることも忘れその現象をただ見ていた。
・・そして
『岡崎さん!門武さんと九済さんの情報を分析した結果、敵は岡崎さんの方へ2人、向かったようです!いまお二人がそちらに向かっていますのでできる限り持ちこたえ・・・岡崎さん?・・あ、あれ!?』
『おい岡崎!返事しろおい!?・・ちっ、やられたかっ』
『そんなはずは・・ちょっと待ってください。・・・え、ええ!?か、カメラの映像を巻き戻して見ましたが、
岡崎さん
空いた穴から外に飛び出して行きました!!』
『なっ!?・・まさかあいつ、
逃げやがった!?』
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??? side 食堂と第一体育館の隙間より
16時25分
『おい見たかよTwitter、いま武偵高中、岡崎のことばっかだぞ』
『「Eランク岡崎、1発KOされ泣きながら会場を去る!!」「岡崎は変態!?乙女向けのぬいぐるみを100個所持??」っギャハハ!どんどん話が大きくなってやがる、ざまあみろだぜ』
『・・俺たちに楯突くからそーなんだ』
『あ、須藤さん、足大丈夫っすか?』
『ああ・・実際あのぬいぐるみはそんなに重くなかったからな。持ち主から金巻き上げるために大げさなアクションしただけだ』
『さっすが須藤さん!考え方が違うっすね!』
『おめえらもなんかされたら万札掻っさらうまで脅せ。後は少しずつ巻き上げていくんだよ。
・・ちっ、タバコ切れちまった。おい買いに行くぞ』
『了解っす!!・・・ってあれ?須藤さん』
『ああ?どうした?』
『いえ、あの、見間違いだったらいいんですけど、あの「金髪のインターンが持ってるぬいぐるみ」って、あのぬいぐるみじゃないっすかね?』
『・・ああ!本当だ!確かにあの時須藤さんの足に落ちたやつだ!』
『・・・。なるほど、そういうことか。おかしいと思ってたんだ、あのクズがあんな場所にわざわざ趣味バラすような物を置いとくなんてありえねえ』
『どういうことすか?』
『・・あいつはあのガキを庇いやがったってことだ。
てめえら、行くぞ
金の巻き上げ方を教えてやる
』